論文内容の要旨
レアアース元素(Rare Earth Elements, 希土類元素)は、磁性材料や光学材料、触媒、さ らには水素吸蔵合金などの多様な用途に使われる希少元素の一種である。資源量は豊富に 存在するが、中国から供給されるレアアースが圧倒的なシェアを誇るため、供給不安が度々 指摘された元素種としても知られている。一方近年では、レアアースの代替材料開発やリ サイクル、省資源化などが重視される反面、新たなレアアース含有鉱石からの生産が期待 されている。その一つに、リン酸塩鉱物の1種であるアパタイト型鉱石(Aptite Ore)があ る。アパタイト鉱石には、比較的高品位でレアアースを含むものがあるが、リン酸カルシ ウムを主成分とする鉱物組成であるため、湿式分離回収法である浸出処理や抽出工程で不 明な点が多く、工業生産が十分に行われていない鉱石であった。そこで本研究では、アパ タイト鉱石からのレアアース回収を目的に、湿式分離プロセスを利用したレアアース回収 の技術的可能性を調査し、条件の最適化とプロセス構築を目指して研究開発を行った。本 論文は緒論に加え、本論3章並びに総括によって構成されている。
第1章は緒論であり、レアアースの特性や用途のほか、代表的なレアアース鉱物の特徴 と生産プロセスなどを概説し、アパタイト型鉱石からのレアアース回収の必要性を論じた。
また本研究で注目した湿式分離プロセスの技術的有意性などを示し、本論文の意義と構成 を論じている。
氏 名 ( 本 籍 ) Battsengel Ariuntuya(モンゴル)
専攻分野の名称 博士(工学)
学 位 記 番 号 工博甲第247号 学位授与の日付 平成30年9月28日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 研 究 科 ・ 専 攻 工学資源学研究科・資源学専攻
学 位 論 文 題 目 ( 英 文 ) 湿式分離プロセスを用いたアパタイト鉱石からのレアアース 回収
(Recovery of Rare Earth Elements from Apatite Ores by Hydrometallurgical Process)
論 文 審 査 委 員 (主査)教授 柴山 敦 (副査)教授 菅原 勝康 (副査)教授 村上 賢治
(副査)教授 石山 大三
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第2章では、アパタイト鉱石に対するレアアースの浸出特性と浸出率に与える各種影響 を調べた。まず、基礎調査として硫酸、塩酸、硝酸の 3 種類の酸性溶液を用い、レアアー スとカルシウムに焦点を当て浸出挙動の比較を行った。その結果、硫酸水溶液を用いた場 合に、レアアースと石膏を主とする浸出残渣との分離性が明瞭に示され、レアアースを効 果的に溶解できることがわかった。この結果を踏まえ、硫酸濃度、浸出時間、鉱石粒径な どを調査したところ、硫酸濃度1 mol/L、温度20℃、浸出時間1時間、粒径150μm以上、
固液濃度20g/Lにおいて、鉱石中の全レアアースを85%以上浸出できることを明らかにした。
また、ランタンからイットリウムまでのレアアースについて、浸出挙動の速度論的な解釈 を目的に硫酸塩生成定数(Log K)を算出し、各元素の浸出特性についても論考を重ねた。
また、本章では、ヘマタイト(赤鉄鉱)など鉄酸化鉱物を含むアパタイト鉱石を対象に、
磁選による前処理を行うことで、レアアースの浸出が可能か応用面についても論述を加え ている。
第3章は、レアアース浸出液に対し溶媒抽出を行い、レアアースを濃縮回収するための 抽出条件の解明と、多段抽出工程について検討を行った。まず、複数種の抽出剤を対象に レアアースの抽出能力を評価した。その結果、di-(2-ethylhexyl) phosphoric acid (D2EHPA)の 抽出能力が最も高いことを確認した。さらにレアアース抽出の最適化を図るため、抽出剤
D2EHPA 濃度、水相と油相の混合比、抽出時間や希釈剤の影響、逆抽出条件などを調べた
結果、効果的な抽出条件が明らかとなった。また、これらの結果をもとに重レアアース(重 希土類元素)と軽レアアース(軽希土類元素)の抽出モデルおよび抽出メカニズムを考察 し、両者を分離回収するための多段分離工程を提案した。これらの抽出操作によって硫酸 浸出液から見れば、重レアアースの 95%、軽レアアースの 90%が抽出できることを確認し た。
第4章では、逆抽出後の重レアアースおよび軽レアアース溶液に対し、シュウ酸添加と pH調整によるレアアース沈殿回収の可能性を調査した。その結果、硫酸によって溶液をpH1 前後に調整し、シュウ酸を添加することで重レアアースおよび軽レアアースの 95%以上を 沈殿回収できることを確認した。さらに、シュウ酸塩沈殿物を900℃で1時間焼成すること により、重レアアースおよび軽レアアースの品位がそれぞれ77.4%、65.2%のレアアース酸 化物を回収することができた。また最終的なレアアース回収率は、アパタイト鉱石から見
て75%以上に達することを明らかにした。
第5章は結論であり、本研究で得られた内容を総括するとともに、湿式分離プロセスの 有効性を示しつつ、アパタイト鉱石からレアアースを回収するための期待と展望を論述し た。
以上、本研究では、アパタイト鉱石からのレアアース回収を目的に、硫酸浸出と溶媒抽 出、シュウ酸塩沈殿等を利用した湿式分離プロセスの可能性を調査し、レアアース回収に おける技術的な特徴と有用性を明らかにした。また、条件の最適化や反応モデルの提案に
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よって、レアアースの分離・抽出機構についても論考を展開している。これら研究成果は、
レアアースを含む鉱物資源の生産技術にとって重要な知見であり、工学的意義は極めて大 きい。よって本論文は、博士(工学)の学位論文として十分価値あるものと認められる。
論文審査結果の要旨
本学位審査委員会は、平成30年7月5日(木)午後4時10分から午後5時10分まで、
理工学研究科4号館113教室にて論文公聴会を開催した。柴山 敦 審査委員会主査、菅原勝 康 審査委員、村上賢治 審査委員、石山大三 審査委員による出席のもと、論文内容と関連 する項目について、詳細な質疑応答並びに口頭による学力確認を行った。
特に、博士論文で述べられたアパタイト鉱石からの浸出および抽出メカニズムを中心に、
(1)浸出速度に関する検討は行っているのか。粒径や浸出時間による影響を考慮すべ きだが、浸出速度との関係はどのように考えているのか。
(2)今回提案されたレアアース回収プロセスを他の鉱物に応用することは可能か。今 回の条件が適用できるのか。
(3)レアアースを含む粘土鉱物への適用性はどうか。
(4)軽希土類元素より重希土類元素の回収・生産が期待されているが、重希土類元素を確 実に回収するためにも鉱物種に対する影響・効果を明確に示すべきだ。
(5)鉱石を浸出した後の溶液(浸出後液)にはレアアース以外の不純物元素も多く含 まれているが、溶媒抽出で影響はないのか。
などの質問が行われたが、申請者からは学術的考察にもとづいた明確な回答が示された。
よって公聴会の後に開催した学位審査委員会は、Battsengel Ariuntuya 氏が最終試験に合格 し、博士(工学)として十分な資格があるものと判定した。
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