妊娠中に発症し特発性肺線維症を併発 し た 急性間歌性 ポルフィリ ン 症の一例
松崎 利 也1) 小 倉 浩二1) 木 下 宏 実1) 長 谷 部 宏1) 猪野博保1) 近藤 治 男2) 三宅
̲ 3 )
福 川 久 継4 )
増田健二郎5 )
1)小松島赤十字病院 産婦人科
2
)小松島赤十字病院脳神経外科3
)小松島赤十字病院 呼吸器科 4)小松島赤十字病院精神神経科5
)小松島赤十字病院 内科要 旨
急性問敵性ポルフィリン症
(A I P )
は腹部症状、神経症状、精神症状などの多彩な症状が急性に発症する常染色体 優性迫伝の稀な疾患である。また特発性肺線維症 (IPF )
の妊娠中の発症と妊娠終了後の軽快も稀である。妊娠中にA I P
とIPF
を発症した一例を報告する。症例は3 0
歳経産婦。挙児希望で来院し、多護胞卵巣症候群の診断でクロミフェ ン療法にて妊娠した。妊娠7
週から妊娠悪阻、妊娠1 2
週から切迫流産で入院治療を行い、経過は良好であった。妊娠1 4
週からめまい、性格変化、 失見当識、軽い意識障害、眼球運動障害を次々と発症し、妊娠1 6
週に両側性びまん性の重篤 な肺炎を発症した。呼吸困難、ショック状態のため挿管し、I CU
管理となった。母体保護のため妊娠17
週に腔式帝切 で妊娠を中絶した。多彩な症状から診断に苦慮したが、尿中ポルフィ リン体を測定しA I P
と診断し、肺病変はIPF
の 合併と診断した。呼吸管理とステロイド等により肺炎は改善し、意識障害も改善傾向を認め入院後9
カ月目に退院した。A I P
は悪阻やてんかんと初期診断されることも多いが、腹部症状、 意識障害を来す疾患として認識すべき疾患である。 また、妊娠中にIPF
を発症した場合は救命のために治療的妊娠中絶を検討する必要があると思われる。キーワード:急性間敵性ポルフィ リン症、特発性肺線維症、妊娠、 意識障害
はじめに
急 性 問 敵 性ポ ル フ ィ リ ン 症
( a c u t einterm i t t e n t porphyria
:以下AIP)
は常染色体優性遺伝の稀な先 天的代謝異常症であり、発症誘因が加わると、腹部症 状、神経症状、 精神症状などの多 彩な症状が急J
性に発 症する。妊娠は誘発因子のひとつで二あるが、妊娠中に 急性発症した場 合 の 診 断は困難であるといわれる。 我々は妊娠中にAIP
を発症し、さらに特発性肺線維 症(id i o p a t h i cpulmonary f i b r o s i s
以下I PF )を
併発した症例を経験したので報告する。症 例
症例
3 0
歳G1P1
身長160cm
体 重81kg
家族歴. 母方の叔母が妊娠中に危篤になり、 重症の 妊娠中毒症と説明を受けた。姉が妊娠全期間を通して、悪心、¥1匝吐が続いた。父が糖尿病。
VOL . 2 NO . 1 MARC H 1 9 9 7
既往歴
1 0
歳頃から結婚前頃まで年間数回の意識障 害(性格の変化、 失見当識〉 のため精神科、脳外科を 受診し、てんかん (欠和1 1
発作)として治療を受けてい た。月経歴: 初経
1 3
歳。初経以来月経周期は長く不順で、ときに数カ月から
1
年の無月経もあった。妊娠分娩歴 : 前回妊娠は、結婚後
1
年で自然に妊娠 した。妊娠全期間を通して悪心、幅吐があり出産まで に体重 が12kg
減少した( 7 7 → 65kg )
。ときに原 因 不 明の腹痛も訴えていた。平 成2
年1 0
月5
日( T + 1 )
に2 8 2 6 g
男児をアプガースコア 8
点(1分後)で正常
に分娩した。産後2
年 間で体重が20kg
増加した。
現病歴 : 平 成7
年1
月1 7
日、 不妊と月経 不I J
聞、 4カ
月間の無月経を主訴として来 院した。初診時は既往歴、
家族歴の申告はなかった。諸検査から多嚢胞卵巣症候 群と診断しクロミフェン療 法により妊娠した。
3
月2 8
日(妊娠
7
週5日)から悪心、¥1匝吐があり妊娠悪阻と
妊娠中に発症し特発性IJii l
線維症を併発した6 3
急性問欧性ポルフィリ ン症の一例5 / 2 8
肺 炎 発 症 前5 / 3 0
ひまん性肺炎7 1 2 4
肺 線 維 症1 0 / 1 2
代償性 肺 気 腫Fig . 1
悪心堰吐 めまい
d額欝額額韓協
眼球運動異常
H
艮娠 性 格 変 化頻脈 意識障害 呼吸筋麻簿
筋萎縮 感覚障害 肺炎,肺線維症
平 成7年 Z 輸液療法 人工呼吸 ステロイド
抗生部
l
鍾協弘 d込
.I!il1i!!!邑
d
翠弘8
溜 弘一陽弘
d
露 協優整』
E
二斗 亡二三』陸 式 帝 切 マ
7 / 14 8/3 8/22
Copro 1089 1667 786
(47~151μg/g ・ Cr.) 尿│中ポルフlイリンペPBG
l│576.3i90(
〈F42m
司/由y)3 4 5 6 7 8 9 10 1 1
F i g.2
臨床経過1 2
6 4
妊娠中に発症し特発性肺線維症を併発した 急 性問敵性 ポルフィリン症 の一例I
くoma tushimaR e d Cross Ho sp i t a l l v I e d i c a l Jaurnal
T ab l e . l
検 査 所見1 9 9 5 . 1 . 1 7 .
(初診時)
LH 1 2 . 1 IU / L FS I ‑ I 7 . 9 IU / 1 PRL 4 . 8 ng / ml T S I ‑ I 2 . 5 μIU / ml f r e e T3 3 . 5 pg / ml freeT 4 2 . 2 n g / d l 1 9 9 5 . 5 . 2 2 .
(眼球運動異常発症時)
頭部 CT:
左 基底核の陳旧性脳 梗 塞 1 9 9 5 .5 . 2 9 .
(意 識 隊害発 症
時)RBC 4 3 5 I ‑ I b12 . 3 WBC 1 6 3 9 0 P l t 2 2 . 8 Na 1 2 7 K 4 . 5 C191
BUN 3 Cre O . 2 GOT 3 7 GP T 8 3 L D I ‑ I 4 1 4 IU / L T ‑ Bi l 1 . 3 T ‑C h o 2 5 8
TSH
三0 . 1 F r e e T 3 4 . 3 Free T 4 2 . 1
尿比重1. 0 1 4 U P 3 0 mg / d l US 2 0 0 mg / d l ケトン体
(: t ) 1 9 9 5 . 5 . 3 1 .
(肺線維症,肺炎発症時)
WBC 2 1 4 8 0 CRP 3 D . 3 L D H 5 1 3 IU / L
I 略疾 : 結
i骸菌培養
(‑) グラム │ 場性球菌 ( +)グラ ム陰性球 菌
(+)真菌 (+) LE テス ト
(一)R A
(ー)抗 D NA
抗体 (‑)抗核抗 体 (ー)抗 E NA
抗体 (‑) 1 9 9 5 . 6 . 5 . (妊娠中絶時)
LD I ‑ I 1 0 8 8 IU / L
クラミジア抗体 ( ー) ム ンプス抗体価 < 4 倍 麻疹抗体価
<4 倍 風疹抗 体 価
<4 倍 単純ヘルペス抗体制 i l 6 4 倍 水痘 ・ 帯状へルペス抗体価 < 4 倍
サイト メガ ロ抗 体 価 2 5 6 倍 サイ ト メガ ロ !gG 2 5 6 0 倍 , ! g M 1 0 倍 EB VCA I gG < 1 0
倍,l gA < 1 0 倍 EBE BNA20 倍
尿中ポル フィ リン体
Co p ro ( 4 7‑1 5 1 μ g / g . Cr . ) P B G (< 2 . 4 2 mg / d ay )
T ab l e . 2
鑑別診断診断
H7 . 7 . 1 4 . 1 0 8 9
除外した根拠
H7 . 8 . 3 1 6 6 7
5 . 7 6
H 7 . 8 . 2 2 . 7 8 6
3 . 9 0
臨床経過
入院中の経過を
Fi g . 2
に示した。妊娠1脳幹梗塞 MRI で脳幹に病 巣を認めず 4
週から、 悪心、11匝吐、めまい、眼球運動異 常 (外転不全)、眼振、性格変化、 頻脈、 意識障害(傾眠)、呼吸筋麻癖、筋萎 縮 (四 肢)、感覚障害 (下肢)を順次発症し、 妊 娠16
週 に 肺炎、 肺線 維 症を 発症 したウェルニ
ッケ脳症( 脳幹脳炎)
経
口摂 取 でき体重も増加し ていた 血
中ビタミン B
l2 正常ウィルス性髄膜脳炎
脳 血管障害 てんかん うっ血性心不全
e
修原病 1 市の肺病変先行型
発 熱 等の全身症状がな
い
髄液検 査に異 常がない MR A で異 常な し
脳 波に焦 点 が ない
中J心静脈 圧 正 常
典 型的な症状が現れない(F i g . 1 ) 。
肺炎、肺線維症のため低酸素症となり
す べ て の 所 見 を説明 で きない
I C U
で呼吸循環管理を行い救命した。意 識障害、肺線維症などには改善傾向がなく、 母体に対する治療を優先するため、また妊 娠が病状を悪化させている可能性も考え、 病状が安定した6
月1 0
日(妊娠1 7
週6
日)確 定診断 診 断 の 根 拠
急性問欧性
ポルフィ リン症
多彩な症状 が合致する (ff市以外) 既 往 歴 も 説
明可 能尿仁│コポルフィリン体高値
特発性肺線 維 症 肺 の 線 維化 萎 縮 LD I ‑ I高 値
診断、
4
月1 0
日から輸液療法を施行した。4
月2 9
日02
週O日)から切迫流産も加わり、入院のうえ薬物療法、輸液療法を施行した。病状は改善傾向にあったが、
5
月15
日0 4
週2
日)からめまい、 性格変化、 軽い意識 障害、眼球運動障害、頻脈を次々と発症した。既往歴 の申告があり脳外科、精神科と共診した。 5
月3 0
日0 6
週
3
日)に突然、両側性びまん性の重篤な肺炎を発症 した。VOL . 2 N O . 1 MARC I ‑ I 1 9 9 7
に腔式帝王切開術により妊娠を中絶した。重篤な肺病 変と多彩な症状に加え、てんかんとしての既往歴もあ ることから、脳幹梗塞など多くの疾患との鑑別を要し、 診断が困難であった。症状からAIPを疑い尿中ポル
フィリン体を測定したところ、コプロポルフィリン、
ポルフォビリ ノゲンが緩解期にも高値であり
AIPと
診断した( Table . 1
、Tab l e . 2 ) 0 A I P
では腹部症 状、精神症状、神経症状など多彩な症状が発症するが、木例では腹痛
、 U~吐、
意識障害、幻覚 、
運動麻痔、脳妊娠 中に発症 し特発性 J l i ¥ i
線維症を併発し た 6 5
急 性問 欽性 ポルフィリン症 の一例
神経麻癖、 頻脈、 暗赤色尿などがみられた
( Tabl e . 3
)。しかしながら、本例において最も重篤であった のは肺病変であり、これがAIPの症状ではないため 診断に苦慮した。胸部X
線写真の経過で、5
月2 8
日に は肺は正常であるが、わずか2
日 後 (5
月3 0
日)、呼 吸困難を訴えたときにはびまん性両側性の肺陰影が見 られており、肺病変は急激に発症したと考えられる。その後、肺は線維化を起こし萎縮している(
7
月2 4
日)。 両側肺野に広範囲に炎症があり、 線維化による肺の萎 縮が著しいことから、細菌性の肺炎や誤燕による肺炎 とは考えにくい。血液検査と症状から間質性性肺炎を おこすウィルス感染も否定的であり、 特定の原因が認 められなかった。呼吸不全の症状と血中 LDH上昇か ら特発性肺線維症(IPF )
と診断した。なお肺生検は 施行しなかったので組織診断はしていない。腹 部 症 状
T a b l e . 3
症 状 初 発腹 痛 幅 吐 便 秘 下 痢 精神症状
意識 障害 痘聖堂 てんかん発作
幻 覚 妄 想 ヒステリー 性 格 変化 (攻撃的性格) 神経 症状
その後、人工呼吸と抗生剤 (スルペラゾン ダラシ ン
S )
、ステロイド等により治療を続け、肺線維症、肺炎は徐々に改善し、 X線写真上も代償性肺気腫
0 0
月
1 2
日)となり酸素投与を中止した。意識障害も改善 傾向を認めた。神経学的後遺症はリハビリで徐々に改 善し、平成7
年1 2
月2 2
日、入院後9
カ月目に退院した。しかしながら、 現時点でも (平成
8
年1 1
月)、記銘力 は卜分には回復していない。考 察
本例は
1 0
歳頃から意識障害、性格変化があり、近医 でてんかんと診断されていたが、これらの症状はA I P
の発作であったと考えられる。本例のように精 神科疾患として扱われているものの中にAIP
が見逃全経 過 中
されていたケースもあると言われ、 注意 が必要である。
A IPは1 0
万人に1.5
人と稀であり、腹 部症状、神経症状、 精神症状など多彩な 症状が急性に発症する稀な疾患である。 症状の揃し、方によっては、 全く異なる疾脱 力 運 動 麻 療 四 肢 知 覚 障 害 異常 知 覚 (筋 痛 な ど) 脳 神 経 麻 簿 ( 眼 球 運 動 異 常 など) 勝l抗直腸障害
球 麻
i
il!l 筋萎 縮 呼吸筋麻輝患に見えることがある。鑑別疾患も多く、 妊娠中に急性発症すると診断が困難と言 われる。本例の場合、精神症状に対して てんかんと診断されていたこと、 腹部症 状が妊娠悪阻と鑑別不可能であったこ
と、脳
CT
で原因不明の陳旧性脳梗塞を 認めたこと、さ らにまれな肺線維症を同 時期に発症したことなどから症状が一層自律神経異常,内分泌異常など 不 眠 不安感 胸 部 絞担感 腰 背 部 痛 頻 脈 高血圧 著明な発汗
l暗褐色尿 肝 機能異 常
電解質異常 多尿 糖代謝異常 白血球増多 甲状腺機能異常
A IP
の症状を示した.太字 :本 症例に認 め ら れた症 状 下 線:既 往 歴に認められた症 状
T a b l e . 4 AIP
合 併妊娠 の 症 例報告 1.3
年前に腹痛で診断.発症せず,4 0
週帝切.(母親は出産l年後に腹痛,下半身麻姉死亡)
2 . 3
年前に腹痛で診断.26
週に発症.C
腹痛, 11匝吐, 頭痛,妄i E j l
,幻覚,窓識障害)(林,
1 9 8 3 )
グルコース大量輸液,クロルプロマジンで徐々に改善.3
8
週尚切 落合,小橋,1 9 8 5 ) 3 . 6
年前に診断.30
週に下)j支浮!匝3 6
週, 高血圧 (妊娠中議症).39
週,蛋白尿,B UN
上昇.3 9
週経l
出分娩 (田中,1 9 8 6 )
4 . 3
年前に診断6
週頃から上腹部痛,本人希望で妊娠中絶(母親は弟を出産後,虫垂炎の診断で
2
巨l
手術を受けた後死 亡 大口,19 9 2 ) 5 . 1 1
年前に診断.17
迎腹痛,下IJ支痛が発症.グルコース大量輸液で軽快2 7
週,妊娠中毒症(高血圧,品J j !
脈),呼吸促迫, 全身浮)j,重同!i7J<腫,3 1
週, 帝‑I;JJ
産祷2
5
日目に死亡C l l i l i
水腫,DI C)
徳山,1 9 9 3 ) 6 .キャ
リアー妊娠中発症せず,経腿 分 娩 絵本,1 9 9 4 )
複雑で、 診断が非常に困難 であっ た。AIPは腹痛が 初発症状のことが多いが、
原因不明の精神症状、神経 症状からも
AIPを鑑別診
断にいれることが重要であ る。AIPの発症誘因
は、解 熱鎮痛薬、睡眠薬など薬剤 の一部、かぜ薬の一種、ア ルコールの長期または多量 摂取、妊娠、分娩、 月経周 期 (月経前)、ストレス、手術侵襲、上気道感染(か
6 6
妊 娠 中に発 症し特 発 性 肺 線 維 症を併 発した急性 間 敵 性 ポルフィリン症 の一例
Komat u s h ima R e d Cross H o s p i t a l Me d i c a l J a urn a l
ぜなど〉、尿路感染症など多岐にわたる
。矢野ら )の l
圏内の臨床統計によると、AIP145{ 9 1 J
中17
例で、妊娠、月経、分娩が誘因であり、これらの産婦人科的因子が 発症誘因の第
3
位である。
また、AIPキャリアが妊
娠すると半数近くが急性発症するといわれ、産婦人科 領域でも注意を要する疾患である。本例も妊娠が誘因 であると考えられるが、肺線維症、肺炎の合併も増 悪させた因子であると恩われる。
AIP
が重症化すると呼吸筋麻庫などで死亡する危 険がある。矢野ら
IIの集計でも、AIP 1 4 5
例の予後は 軽快9 0
例、死亡43
例 (死亡率29 . 5 %)
、不変1
例、 不 明12
例と報告している。また、妊娠合併 AIP
の予後 として、Huber
ら勺ま妊娠したAIP 1 6 6
f9iJのうち妊娠 中の急性発症68
例(40.9%)
、そのうち死亡2 1
例(中 絶後6 / 2 6
流産後3/13
試験開腹後3/3
帝切後 113
経腫分娩後1 / 7
妊娠中7 1 2 6 )
、死亡率30 . 8 %
と報告した。妊娠を中絶しでも継続しでも予後はほぼ 同じで、AIP
を発症してからでは妊娠中絶は必ずし も治療的手段とはならない。重篤な状態では処置によ る侵襲で逆に病状を悪化させる危険をも伴うので、慎 重に対応する必要があろう。その後の報告3)では、ポ ルフィリン症50
f9I J
(そのうちA IP
は39
例)、1 2 9
回の 妊娠中、急性発症は2 4
例( 4 8 . 0 %)
、死亡はl例であっ た。
この報告でも妊娠中の急J
性発症は48.0%と高率で あるが、管理がよくなったため、死亡例は減少してい ると述べている。しかし最近の圏内のAIP
合併妊娠 の症例報告4‑ 1
0)( T a b l e . 4)
をみても、やはり死亡例 があり決して楽観できる疾患ではない。これらの報告 は我々の症例と異なり、 6例とも妊娠前に診断されて いた症例である。1
例は発症前に妊娠中絶を選択して いる。
残り5
例が妊娠を継続し、そのうち3
例( 6 0 %)
が発症し、発症したもののうち1
例(33%)が妊娠終
了後(帝切後)に死亡している。妊娠中毒症が2
例に みられるが、AIP
の循環器症状に高血圧があり、妊 娠中毒症発症に関連がある可能性も否定できない。治療としては主にグルコース輸液、ステロイド、 呼 股筋麻庫に人工呼吸、腹部症状にクロルプロマジン、
高血圧と頻脈にはレセルピン、その他人工透析、へミ ン投与療法などがおこなわれる
。後遺症にリハビリ
テーションも必要である。対症的に治療し、急性期が
過ぎるのを待つのが基本的な考え方で、あるが、後遺症 を残すこともありω
、治療と予後に関して卜分にイン フォームド・
コンセン卜を行い、対応する必要がある。
VOL.2 NO . 1 MARCH 1 9 9 7
AIPは常染色体優性遺伝であり、肝におけるポル
フォビリノーゲンデアミナーゼ
(PBG‑D) の活性低 下という酵素障害があり、最近その遺伝子異常も明ら かになった12)。キャリアの診断も尿検査、血液検査に よりある程度可能であるゆ 。
家系調査を行いキャリア を明かにし、疾患の説明と生活指導を行うことが発症 予防、早期治療につながると考えられるω 。本例は家
族歴から叔母、姉がキャリアの可能性があり、また、母親も易刺激性、ヒステリー性格でキャリアの特徴に
一致する。よって母方からの遺伝が強く疑われるが、
家族が家系調査を希望せず、 実施できなかった。
妊娠中にびまん性間質性肺炎または特発性肺線維症
CIPF)
を発症することはきわめてまれであり15.ω 、 妊娠がこれらの疾患におよぼす影響も明らかで、はな い。妊娠中に発症するIPFは、妊娠に伴う何らかの
自己免疫機序、いわゆる腰原病、感染症の関与も推定 されている。本例は治療を優先するため妊娠を中絶し たところ、IPF
が安定した。また、妊娠中に間質性 肺炎を発症し急激な経過で死亡した症例16ー ! 7 )
、治療的 中絶が有効であった症例山
9)の報告もある。
これらの ことから妊娠がIPF
を誘発、増悪させる場合がある と考えられる。妊娠中の IPFは、迅速に対応しない
と生命に関わることもあり、場合によっては治療的中 絶が必要であろう。おわ りに
妊娠中に急性問駄性ポルフィリン症
(AIP)
と特 発性肺線維症C I PF )を併発
した症例を報告した。本 症例はこれらの2
疾患が合併した非常に稀な症例であ り、症状も多彩で診断に苦慮した。妊娠はAIP
の発 症の誘因の一つであるうえ、妊娠に合併すると悪阻や てんかんと初期診断されることも多く、産婦人科領域 においても認識すべき疾患である。家族歴、既往歴、症状(腹部症状、神経症状、精神症状)から
A IP
を 疑うことが重要であり、尿中ポルフィリン体にて確定 診断し、慎重に対応する必要がある。また、妊娠中の IPFは経過が速く重篤な場合があり、治療的中絶を
含めた対応が必要である。
文
献1)矢野雄三、近藤雅雄、白鷹増男、他
:
ポルフィリ妊娠中に発症し特発性肺線維症を併発した 67
急性問歌性ポルフィリン症の一例ン症、本邦臨床統計集(下巻)。 日本│臨床
5 1 : 3 4 7 ‑ 3 6 2 、1 9 9 3
2) Huber FB Porphyria and pregnancy . Schweiz Med Wochenschr 9 6 : 8 1 8 ‑ 8 2 4
,1 9 6 6 3 ) Brodi e MJ . Moor e M R 、 ThompsonGG e t
a l Pregnancy and t h e a c u t e porph y r i a s . Br J O b s t e t Gynaeco l 8 4 : 7 2 6
一7 3 1
,1 9 7 7 4
)林孝平、中村紀子、出j
古敬、他:帝王切開術で女児を出産した急性問敵性ポルフィリン症の
1
例。神経内科
1 8 : 3 8 3 ‑ 3 8 5
、1 9 8 3
5
)落合陽治、斎藤清子、坂野成宏、他:精神障害と 尿崩症を合併した急性間敵性ポルフィリン症の帝 切麻酔。麻酔3 4 : 5 0 0 ‑ 5 0 7 . . . 1 9 8 5
6
)小橋勇二、玉田隆、赤堀周一郎、他:妊娠中に発 症した急性間軟性ポルフィリン症の1
例。産婦中 四会誌 :2 6 7 ‑ 2 6 8 、 1 9 8 5
7)田中哲二、安田博、春山康久、他:急性問歓性ポ ルフィリン症合併妊娠の l例一母体および新生児 の尿中ポルフィリン動態に関する検討一。産科と 婦人科
5 3 : 1 5 5 9 ‑ 1 5 6 5
、1 9 8 6
8
)大口昭英、佐竹紳一郎、小I I [
鳥康夫、他:急性間歌 性ポルフィ リン症合併妊娠の1
症例。産科と婦人 科5 9: 1 5 6 5 ‑ 1 5 7 0 、1 9 9 2
9
)徳山真弓、圧司潔、大塚博光、他:重篤な経過を たどった急性問敵性ポルフィリ ン 症 仏I P )
合併 妊娠のl
例。日産婦関東連会報3 0 : 1 4 7 ‑ 1 4 8
、1 9 9 3
1 0 )
松本純、網中雅仁、小林宏基、他:強い遺伝性を 有するAIP
の l家 系 手術または出産によるポ ルフィリン代謝の推移。 日衛誌4 9 : 4 2 2
、1 9 9 4 1 1 )
木村千代美、川井尚臣、西田善彦、他:ミオク、、ロ ビン尿と無動性無言、つづいて失外套症候群をき68 妊娠中に発症し特発性肺線維症を併発した
急性問飲性ポルフィリン
症の一例たした急性問敵性ポルフィ リン症。神経内科
2 8 : 2 9 2 ‑ 2 9 8 、1 9 8 8
1 2 )
近藤雅雄、布村健一、工藤吉郎、他:急性間欠性 ポルフィ リン症のポルフィ リン代謝異常と早期診 断。ポルフィ リン3 : 205‑2 1 0
、1 9 9 4
1 3 )
工藤吉郎、中村磐男、坂口武洋、他:強い遺伝性 を有する急性間欠性ポルフィリン症の1
家系。医 学のあゆみ1 4 8 : 2 6 7 ‑ 2 6 8 、1 9 8 9
1 4 )
酒井敏夫 :強い遺伝性を有する急性間欠性ポル フィ リン症(A IP )
の1
家系ーとくに発症者な らびにキャリアの経過について一。 聖マリアン ナ医科大学雑誌2 1 : 7 4 ‑ 8 3
、1 9 9 3
1 5 )
大谷寧子、佐藤元美、谷藤正人、他:妊娠中に発 症したびまん性間質性肺炎の1
例。岩手病医会誌2 4 : 1 0 0 、 1 9 8 4
1 6 )
前回盛、植田規文、松尾武文、他:妊娠8
カ月 で、間質性肺炎、D I C
、を合併した急性妊娠脂肪 肝のー剖検例。神戸常盤短期大学紀要6 : 2 5 1 2 5 5 、 1 9 8 4
1 7 )
後藤正人、福本正子、川口英祐、他:びまん性間 質性肺炎と特発性心筋炎を合併した妊娠の1
例。日産婦東京会誌