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人の口中分泌物のポリオウイルス中和能について

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Academic year: 2021

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106 金沢大学十全医学雑誌 第71巻 第1号 106−109 (1965)

人の口中分泌物のポリオウイルス中和能について

金沢大学医学部小児科学教室(主任 佐川一郎教授)

    柴  田  昌  治

      (昭和39年11月10日受付)

(本論文の要旨は昭和39年11月14日の第117回の日本小児科学会北陸地方会で発表した.)

 人の唾液中に蛋白が存在し,血清中の7グロブリン に相当する分屑が証明されたとの報告がみられる1)2)

3).一方入の唾液にはShigella, L. acidophilus,

Bac. anthracisなどの細菌に対する抗菌作用がある のと報告がある4)5)が,抗ウイルス作用,ことに抗ポ

リオ作用について報告がみられない.

 著者は入の口中分泌物についてポリオウイルス中和 能を検索したのでその成績を報告する.

     一実験方法および実験材料  a)口中分泌物および血清の採取

 18歳から28歳までの73例の健康成人から採血すると ともに,午前中食間空腹時にできるだけ多量の水道水 で2回以上含轍させ,その後自然に流出するロ中分泌 物の最初の一部を捨てたのち5〜6m1採取した.

 b)口中分泌物の処理

 口中分泌物はできるだけ速やかに採取後順次上清を 取りつつ3回遠心(4,000r.p。m.,30分間)して一20。C に保存した.

 c)中和実験方法

 口中分泌物と血清は56つC,30分問非働化して実験 に用いた.

 細胞培養法にはFL細胞を使用した.

 中和実験にはポリオウイルス1型Brunhilde株,

皿型YSK株,および皿型Leon株のおのおの100

TCD50を用いた.

 口中分泌物は原液より2倍希釈をおこないその中和 能の価を測定した.

 中和実験方法は弱毒生ポリオウイルスワクチン研究 協議会の方法によりおこなったがロ中分泌物について はさらに原液を倍量用いた培養試験管をもうけ,この 試験管に細胞変性作用が認められた時その中和能の価 を便宜上1/2倍未満とした.

 口中分泌物のFL細胞に対する変性作用がないこと

を確かめるため口中分泌物の対照試験管をおいて,同 一例から採取した血清と口中分泌物についての実験は 同時に1回で終了させるよう努めた.

        実 験 成 績

 口中分泌物のポリオウイルス中和能陽性数は表1に 示すごとくである.

   表1 口中分泌物のポリオ中和能陽性例       (57例中)

3型とも陽性一4例 2つの型に陽性一4例    工十五型一1例    :K十皿型一3例    工十皿隅一〇例 1つの型のみ陽性一15例,

     1型一7例      ∬型一4例      皿型一4例

23例

 またこれを各型別にそれぞれの中和能の価で分けて みると表2のごとくである.

    表2 口中分泌物の中和能陽性数

暁町和能の祠 陽性数 (率)

ポリオ  エ

11

≧1

1/2

≧1

1/2

≧1

1/2

1;}19/69(28%)

潔・2/56(21%)

1}・3/64(2・%)

 さらにこれを各型別に血清中和抗体価で分けて比較 すると表3のごとくである.各型とも血清中和抗体価  Antipoliomyelitic Activity in Human Oral Secretion. M〔asaham Shibata, Department of Pediatrics(Director:ProL I・Sagawa), School of Medicine, Kanazawa University.

(2)

口中分泌物のポリオウイルス中和能 1◎7

表3 血清中和抗体価と口中分泌物の    中和能陽性率

に比例しないようである。

型i血清抗体刷 中和能陽性率

ポリオ  1

≦16

32〜64

≧128

≦16 32〜64

≧128

≦16

32〜64

≧128

≦;16 32〜64

≧128

0/15 8/31 11/21 0/12 4/29 8/14 0/26 3/20 10/17

0/53  ( 0%)

15/80  (19%)

29/62  (56%)

が16倍以下では口中分泌物に中和能は認められず,血 清抗体価の高い群は低い群に比べて中和能陽性率は高 い傾向がうかがわれる。

 口中分泌物の中和能の価と血清中和抗体価を各型別 に個々の例について比較すると図1〜3のごとくであ る.ロ中分泌物の中和能の価はたかだか32倍であり,

全例とも血清中和抗体価より低く,血清中和抗体価が 16倍以下では全例とも中和能は認められなかった.ま た口中分泌物の中和能の価は必ずしも血清中和抗体価

 弱毒生ポリオウイルスワクチン(以下生ワクチンと 略す)を投与すると,血清中和抗体価が4倍以上の例 では4倍未満の例より咽頭部からのポリオ ウイルス分 離率が比較的低かったとの報告6),また生ワクチン服 用者の頬部粘膜,歯銀,舌の前部などからはポリオウ イルスは検出できなかったとの報告7)があり,一方入 の唾液中には蛋白が54±19mg/dlと血清蛋白量と比 較して少量であるが存在し1),しかも濾紙電気泳動法 によりγグロブリン分屑が64例中全例に証明され,総 蛋白量の平均79.2%であるとの報告3)がある.また 唾液中には血清アルブミンやグロブリンが分泌される

と報告している8).

 これらの報告から咽頭分泌物ないしは口中分泌物に はポリオウイルス中和能の存在が示唆される.

 著者はポリオウイルスェ,皿,皿の各型につき,口 中分泌物にそれぞれ69例中19例,56例中12例,64例中 13例に中和熱を認めたが,この中和能は血清中和抗体 と同様ポリオ特異の抗体であるか否かについては充分 に検討されなければならない.

 Sabinら10)は入乳中の抗ポリオウイルス物質につ いて,1)60。C加熱で抵抗性があり,1000Cで破壊 され,2)前もって加温せずとも中和は速やかにおき る,3)γグロブリン分屑中に含まれる,4)血清中に

図1 血清中和抗体価と口中分泌物の中和能の価との関係 32

16

8     4     9飼     −

 口中分泌物の中和能の価→4

ポリオ1型

●●

●●

       ●o   ㊦●

       ●●●●●

●●   0●●●●  ●●0●● ●●●●● ㊤θD9◎

    ●     ●●■●●  o

       o●

●    ●●

●●  ●●

6の嚇09      0    ●

く4 4 16 64 256 1024 4096

一一一一→血清中和抗体価

(3)

108

図2 血清中和抗体価と口中分泌物の中和能の価との関係

口中分泌物の中和能の価

32

16

8

4

2

1

ポリオ   II型

●●

■   ●●●   ●         ●●   ●●

      れ

● 謬。9・● 織・・・… ●…

      ●●●●●

く4 4 16

血清中和抗体価

64 256 1024 4096

図3 血清中和抗体価ど口中分泌物の中和能の価との関係 32

16

RU     4     9卍    −晶

 ロ中分泌物の中和能の価  ⊥21一2   く

ポリオ

 III型

●●

       ●●■       ●●●   ●●

●●●● ●●開● ●●●●● ●●●●● ●●●● 6鱒●  ●●   ●   ●●.D ●●●●● o●●●●

       ●●●

     ●

く4    4   16

}→血清中和抗体価

64 256 1024 4096

中和抗体がない例では入乳中にも中和物質は証明され ないなどのことから,人乳中の抗ポリオウイルス物質 を抗体であるとしている.

 著者のおこなった口中分泌物についての中和実験に 際しては,1)560C30分間非働化して用いたこと,2)

血清中和抗体価が16倍以下の例では全例とも中和能が 認められなかったことなどからこの中和能は血清中和

抗体と同様ポリオウイルスに対する特異的な抗体であ る可能性が強い.

 ついで著者の得た73例の血清と口中分泌物について の中和実験の成績を検討すると,

 1)口中分泌物の中和能陽性数は57例中いずれか1 つの型について陽性のものは15例,2つ以上の型につ いては8例であり,この中和能は型特異的である傾向

(4)

口中分泌物のポリオウイルス中和能 109

がうかがわれる.

 2)口中分泌物の中和能の価は3型合せて1/2倍が 26例,1倍以上が18例でしかも最高32倍までであり,

血清中和抗体価と比較してかなり低値を示している.

このことは唾液中のYグロブリン量が血清中のそれと 比較して非常に低いことと関係するとも考えられる.

 3)血清中和抗体価が16倍以下では各型とも口中分 泌物の中和能は全例に認められず,32〜64倍では1型 31例中8例,三型29例中4例,皿型20例中3例,3 型合せて80例中15例に認あられ,さらに血清抗体価が 128倍以上では1型21例中11例,皿型14例中8例,皿塑 17例中10例,3型合せて62例中29例に中和能が認めら れ,血清中和抗体価の高い群が口中分泌物の中和能陽 性率は高い傾向があり,血清中和抗体の一部が口中分 泌物の申へ移行するのではなかろうかと考えられる.

 いずれにせよこの口中分泌物の中和能はなんらかの 機構で存在するのであるが,ポリオウイルスの感染を 阻止するのに一役を演じているものと考えられ,生ワ

クチン投与の効果におよぼす影響についても今後の検 討を必要とする.

 73例の健康成人から採取した口中.分泌物につき,FL 細胞を用いてポリオウイルス各氏に対する中和能を測 定し,血清中和抗体価と比較した.

 1)口中分泌物のポリオウイルス中和能は1型69例

中19例,]1型56例中12例,皿型64例中13例に認められ

た.

2)口中分泌物の中和能の価はたかだか32倍で,各 例とも血清中和抗体価より低かった.

 3)各型とも血清中和抗体価が16唐以下の例では口 中分泌物中に中和能は認められず,32倍以上の例では 口中分泌物の中和能は142例中44例に認められた.

終りに佐川教授の御指導と御校閲に感謝します・また本学波多 野教授の御指導に感謝します.

1)貝塚俗:

2)大矢政男3 3)手柴伸之=

4)飯塚脩:

5)矢谷 澄:

京都府立医大誌,49,133(1951).

歯科,月報,31,217(1958).

医学研究,29,428(1959).

歯科医学,23,330(1960).

歯科医学,23,1460(1960).

6)Bauer, H., Barr, R. N., K竃einman, H・,

Kinba11, A. C., Cooney, M. K:.,おearman,

」.E.&皿athery, W. E.3Live Poliovirus Vaccines,⇒.3571960.   7)Sabin, A. B.:

Amer. J. Med.§ci.,230,1(1955)・     8)

Be8t, C. H.&Tay夏er, N.ぢ.2The Physio・

Iogical Basis of Medical Science,7th Ed., p.58,

1961,   9)Sabin, A. B.&Fie豆dstee1, A.

H.: Pediatrics,29,105(1962),

       Abstract

 Specimens ofρ:ral secretion collected frGm healthyεdults wele titrated for their a1】tipolio.

myelitic activity of all three types by means of neutralizing test, FL cell being employed,

and the results were compared with the a血tibody titers of the sera from the respective

subjects.       、

 1) Antipoliomyelitic activity in the oral secretion against type I virus was recognized in 190ut of 69 cases examined, and that of type II and type III was found in工20ut of 56

{泊5es abd 13 but of 64 respec‡量vely.

 2) The titer of antipoliomyelitic activity量n the secretidn was at best 1/32, and always lower than the antibody titer of the correspoding serum.

 3) No antipoliomyelitic actlvity was recognized in the secretion from any of the subjects whose sera had antibody titeτs of 1/160r less, while in those cases in which the serum titer was 1/320r higher, the antipoliomyelitlc activity was established in 440ut of 142

cases.

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