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高等看護学院における化学授業個別化の試行 竹 友 一 成*

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(1)

33

高等看護学院における化学授業個別化の試行

竹  友  一  成*

(昭和55年10月31日受理)

A Trial of Individualization of Chemistry Instmction at Nurses Training Schoo1

Kazushige TAKETOMO

(Received for Publication,October31,1980)

1.はじめに

 前報1)において,理想的な看護・診療システムを提案し,このシステムと医療の諸法規を 対比せしめ,医療および看護教育のあり方を論述した。そして,看護教育で最も重視され

る看護学へのアプローチを看護の本質から試み,看護学を「受動的な礼,弱さに基づく奉 仕の理想に支えられた看護を目標とする人間総合科学」として捉え,この看護学と化学と の関連を考察し,看護教育における化学教授の基本理念を思索した。また他方,これらの ことを踏えて,高等看護学院(以下,高看)の化学の学習プログラムを作成し,教育工学 的手法による学力の格差解消を主目標とする実験授業を試み,事後テストの実施時点にお いては学力格差が一応解消されているとしてよい事後テストの成績を得たことを報告した。

しかし,この格差解消は表面的な単なる得点上のものにすぎないようで,評価テストの成 績は,この格差解消の肯定に否定的であった。

 そこで,昭和53年度において,成績下位学生の自発的学習の誘発と認知レベルの向上と を狙った個別学習教材を開発し,化学授業(一斉)を補完せしめるような形態でその実験 学習を実施した。

 今回は,主として,この実験学習から得られた知見について報告する。

2.教授学習

教授学習内容は前報1)の場合と同一である。ただし,個別化のためのプログラムの修正お よび個別学習教材の開発をあらたに行った。教授学習法は教育工学的手法によった。

高看化学授業の全体像を図1に示す。

一斉授業24時間の前後に,事前・事後テストを置き,個別学習は希望者のみによる自主・

*長崎大学教育学部化学教室

Chemical Laboratory,Faculty of Education,Nagasaki Univ.(Bunkyo,Nagasaki,Japan)

(2)

アンケート

事前

テスト

個別学習 8フレーム

一斉授業

(チェックを含む)

事後

テスト

評価

テスト

 26問

(1時間)

67チェック

(24時問)

 26問

(1時間)

 26問

(1時間)

図1 高等看護学院化学授業の全体像

自発的学習とした。学習プログラムには,その67か所に学習状況をチェックするポイン トを設けた。個別教材は8フレームを準備した。

 2.1 一斉授業の個別化

 我国の高等教育機関における授業は,一般に,教授者による講演(講義)の形式をとる ことが多い。講演形式の授業は教授者の独善的授業となる危惧が大である。これを避ける べく,今回は,教授者・学生間のコミュニケーションおよび学生の主体的学習を特に重視 した。このため,前報1)の昭51年度実施のプログラムをさらに修正し,一斉授業の可及的個 別化をはかった。修正プログラムの一部を図2に示す。

知っているアルコール KR情報

の構造式をノートに書 およびアルコール    a

ェック

きなさい のIUPAC命名法

構造式を何 個書いたか。

a

自分の書いた構造式の IUPAC名を書きなさい。

式を書けなかった人は

C−C−C−OHの命名   I  C

T

KR情報

図2 一斉授業の可及的個別化

(3)

35 高等看護学院における化学授業個別化の試行

 図2は,アルコールについての学習を フローチャートに示したものである。こ れから判断できるように,一斉授業は,

学生が少なくともペンとノート,教科書 や参考書などを用いて,主体的学習活動 に取りくむことができるよう計画した。

 2.2 個別学習

 これは学生の自発的意志による学習と した。実験対象の高看が全寮制をとって いたことから,寮内に個別学習教材を持

N

絵画1

込んでおき,学習項目に関する一斉授業が終った後の任意の時期に学習するように指示し た。同時に希望者のみということを強調した。

 個別学習教材としては8フレームを開発準備した。本稿末尾にその一部を資料1として 示す。フレームは主として情報,チェック,解答と説明をもって構成した。この個別学習 は,上記の如く,学生の自主・自発性を尊重し,かつ教授者不在の場で学習が行われると ころから,学習意欲の持続をはかってフレームの静的親和力2)を特に重視した。したがっ て,正答の提示など,必要と思われる部には,紙扉による目隠しを行った。また適宜,絵 画の挿入も試みた(絵画1)。

 2.3 事前・事後・評価テストおよび授業チェック

 事前・事後・評価の各テストは同一で,26問をもって構成した。テスト問題は,前報1〉の テスト問題に修正を加えたもので,本稿ではその掲載を割愛する。テストはいずれも5肢 選択法の問題で,選択肢は,正答,半正答,誤答,わからない,完全誤答の5種である。

 授業チェックを67か所に設けた。いずれも多肢選択法によるチェックである。チェック 選択肢は5個とは限らず,テストの場合のような完全な選択肢の構造化はできなかったが,

できるだけその構造化をはかった。

 なお,テスト項目26のうち9項目が,個別学習教材の学習項目と直接関連がある。

3.学習データの採取および集約

 学習データとして,各テストおよび授業チェックをマークカードで採取した。データの 処理はコンピュータ(TOSBAC−40C)にて,別稿3)のソースプログラムにより行った。そ して,個人別解答一覧表,問題別正答率表,S−P表,事前・事後テスト個人別正答率一覧 表,累積度数表,相関表として集約した。

 ただし,配点比は,正答(*),半正答(+),誤答(一),わからない(=),完全誤答

(×)をそれぞれ10,0,0,0,0とした。つまり,今回の場合,データは得点として ではなく,正答率として表わしている。

 事前・事後テストは項目反応の正確を期すため,自信反応・不安反応4)による2種の解答

を2枚のマークカードに求めた。評価テストは普通の選択肢法により行った(以下,普通

(4)

反応)。したがって,事前・事後テスト正答率については,原則として自信反応正答率と不 安反応正答率との平均値で表わした。授業チェックは普通の選択肢法によったが,正答選 択肢を判別できないときは,選択肢「わからない」を選ぶよう指示した。

4.実験校

 小都市のA高看および中都市のB高看にて実験授業を試みた。A高看において図1で示 される授業(個別学習を含む)を実施した。他方,個別学習の効果を測定するため,対照 校をB高看とし,この対照校で図1の個別学習を除いた部分の実験授業を行った。

 A高看は学生数48名,全員女性である。化学の授業は,毎週1回(3時間),これを10週 の計30時間(学習プログラムによる一斉授業24時間)行った。B高看の学生数は37名,う ち1名は男性である。化学の授業は,週1回(2時問),これを15週の計30時間(学習プロ グラムによる一斉授業24時間)行った。両高看とも出席率は極めて良好,毎回100%もしく はそれに近い。

 両高看学生の化学レディネスその他の諸状況を表1に示す。

      表1から,両高看学生  表1 A・B高看学生の化学レディネス           の構成に大きな差異は認

調査項 目 人数(%) 人数(%) A高看  B高看

        化学1履習 28名(58) 21名(57)

化学レディネス化学II履習 19(40) 16(43)

         その他  1(2)

      好   10(21)  5(14)

化学に対する好・嫌   嫌   26 (54) 19 (51)

         その他  12 (25) 13 (35)

         上位          中位 高校化学の成績

         下位          その他

6(13) 1(3)

22(46) 16(43)

15(31) 18(49)

5(10) 2(5)

        都 市*  29 (60) 26 (70)

出身高校の地域都市近郊  7(15) 3(8)

        田舎・離島 12』(25)  8 (22)

められない。しかし,詳 細な点では特徴がみられ る。たとえば,両高看と も,出身高校地域として は都市が多くなっている が,同じ都市でも,A高 看の学生は小都市地域の 高校出身者が多く(22名,

46%),中都市地域の高校 出身者が少ない(7名,

15%)。これに対し,B高 看の学生は,中都市地域 の高校出身者が多く(24 名,64%),小都市地域の 高校出身者が少ない(2

名,5%)。

*A高看学生は小都市地域の高校出身者(22名,46%)が多い B高看学生は中都市地域の高校出身者(24名,64%〉が多い

5.結果およぴ考察

 個別学習の効果をA高看とB高看の学習データを比較することから検討した。他方,A

高看内の個別学習者群(以下,グループ1)と非個別学習者群(以下,グループII)につ

(5)

37 高等看護学院における化学授業個別化の試行

いても同様の検討を試みた。

 また,グループ1の学生について,個別学習教材に対するアンケート調査を別途行ない,

教材に対する学生のイメージを調べ,これを数量化した。

 5.1 A高看とB高看の学習データ比較

 A高看48名中事前テスト受験者は47名で,この1名を除けば,グループ1は19名,グルー プIIは28名であった。グループ1の19名は個別学習教材8フレームのすべてを学習消化し ていた。ただし,教材への攻撃回数は不明である。

 B高看は個別学習の対照校のため学生には個別学習教材を与えていない。

  (1)事前・事後テスト平均正答率

 事前テスト正答率(冗)および事後テスト正答率(y)で両高看の学習を比較すれば表 2のようであった。

表2 A高看およびB高看の事前・事後テスト平均正答率

     事前テスト 事後テスト     吸収率**  教授学習分析直線 高看 人数 平均正答率 平均正答率 伸び*

      (%)  (%)     (%)  y二砿+わ  7

A  47 B  37

23.4 23.2

44.5 41.5

21.1 27.5 y二〇.74π+272 0.66 18.3 22.O y;0.98x+16.1 0.92

*伸び(単純差異)=事後テスト正答率一事前テスト正答率

一吸収率(有効度指数)一事後テ 鷺藷籍暴正答率×1・・

 事前テスト正答率のみからすれば,両高看の学生に学力格差を認め得ない。表1に示さ れるレディネス等からしても,この事前テスト正答率は妥当なところと考えられる。しか

し,A高看に対しB高看は,中都市地域の高校出身者が多く,総合学力(学習の転化など)

において僅かながら優位にあると思われる。事実,授業における筆者の感触からしても,

B高看の学生をもって微に上位とすることが当を得ているようであった。これは,後述の 授業チェック通過率によく表われている(A高看55.2%,B高看59.6%)。また,別途試み たアンケート調査からの推定学力の比較も,A高看をLOとすれば,B高看はLO5で,微に 優位であった。

 しかるに,事後テスト正答率は,A高看44.5%,B高看41.5%で,A高看の方が3.0%高 率であった。単純直載的にはこれを個別学習の効果とみることができる。

  (2>吸収率

 吸収率(有効度指数)はA高看27.5%,B高看22.0%で,両高看に5.5%の差が認められ た。すでに述べたように,個別学習教材はテスト項目26のうち9項目と直接関連があるに すぎないが,またA高看の47名中19名のみが個別学習に取りくんだにすぎないが,吸収率 において5。5%の差が認砂られた。

  (3)教授学習分析直線

 筆者5)は,先に事前テスト正答率κ,事後テスト正答率yにおいて,回帰直線(教授学習

(6)

分析直線)が,望ましい(無理のない)教授学習でα=0.632,δ=36.8となることを理 論的に提案した。そして,これを高校数学の一斉授業の分析に適用せしめ,大よそ満足す べき良好な結果を得た9》加えて,例外的ケースはあるが,学習意識の強い被験生徒群ほど

α値が小さく6値が大きくなる成績を得た9)また,個別学習にあっては,相関係数7が一 斉授業の7より小さくなる傾向のあることを認めている色L7L8)

 表1の教授学習分析直線は,A高看y=0.7躯+27.2,B高看y=0.98π+16.1で,α値 に関してA高看<B高看,δ値に関してA高看>B高看,また7値に関してA高看<B高 看となっている。これらからして,A高看に個別学習の効果が表われているとして良いよ

うである。

 両高看の召値は,理論的に求めたα二〇.632よりともに大きい。またδ値は理論的に求め た6=36.8よりともに小さい。特に,B高看において顕著である。このα,δの値からす る分析を重視すれば,望ましい教授学習とはいい難い。むしろ,かなり無理を伴った教授 学習といえよう。しかし,斯る学習データの得られた原因の一つは,ロング・ランの授業 にあるということができ,週1回の授業,事前テストから事後テストまでの期間幅の長さ 等に大きな問題があるのであって,今回の実験授業に上記の理論値をそのまま適用し授業 評価を試みることは妥当なこととはいい難い。むしろ,事後テスト時点において,上記の 理論値を指標値として,これに学習データがどれだけ接近したかをもって授業評価の一つ

とすべきであろう。

 今回の実験授業の場合,事後テストの時点で,学習内容に対する短期記憶はいうにおよ ばず,長期記憶の喪失がかなりあったことは確かである。記憶の保持は,学習の程度,自 我関与の程度の他,偶発学習や意図学習……等々によって著しい影響を受ける。今回の場 合,一斉授業の可及的個別化をはかったことにより,被験学生の学習の程度,自我関与の 程度は,かなり,高いものと考えられる。また個別学習教材の提示は学生をしてテスト,特 に評価テストを意識*した意図学習にも取りくませたものと思われる。こうしたことが,ロ ング・ランの授業にかかわらず,A高看で吸収率27.5%(理論値36.8%),教授学習分析直 線y=0.74x+27.2(理論式y=0.632κ+36.8)という比較的良好な成績を得ることのでき た要因と推定される。

  (4)授業チェックおよび評価テスト

 授業チェック通過率(正答率)はA高看55.2%,B高看59.6%であった。これらの値は 前報1)の高看化学授業のそれと大よそ類似する。授業チェックは,学習内容のやさしさから いって,望ましい(無理のない)教授学習9)としては最少限68.39%以上,平均的な教授学習9)

としてならば最少限60.04%以上を目標とすべき,と考えられる。今回の実験授業では,通 過率が60.04%に大よそ近づいており,高看という高等教育機関における一斉授業としては 一応のレベルに達している,として良いのではなかろうか。なお,授業チェックの後で直 ちに「正しさの認識」「間違いの認識」を充分ならしめるよう充分なフィードバックが行わ れていることを念のため付記しておく。

 評価テストは,その実施を予告したうえでA高看の場合,事後テスト実施後7週間(夏

*被験学生には事後テストのあることを知らせていない

(7)

39 高等看護学院における化学授業個別化の試行

休暇介在のため)を経過した時点において,またB高看の場合,事後テスト実施後2週間 を経過した時点において,それぞれこれを行った。

 すでに述べたように,評価テストは5肢選択法(選択肢「わからない」を除けば4肢)

による一般的なテスト形式をとっている。この点,自信・不安反応による事前・事後テス トと異なる。授業チェックは多肢選択法による普通のデータ採取であり,したがって評価 テストと同一のテスト方法とみてよい。授業チェツク通過率(X)および評価テスト正答 率(Y)の成績を表3に示す。

表3 A高看およびB高看の授業チェック・評価テスト成績

ト率m ス答s テ正︵ 価均 評平%

率囲 工過s チ通ー 鵯%

 看  高

教授学習分析直線 Y=召X十わ   γ

A55.2(10.7)68.4(14。3)Y二〇.64X十33、00.47 B  59.6(9.5) 67.3(13.9) Y=0。58X十33。7  0・39

*S D:標準偏差

 A高看のグループ1は,全員,授業チェックを終わった後に,つまり復習の形態で個別 学習に取組んでおる。A高看の学生はB高看と対象的に中都市地域の高校出身者が少ない。

これからして,表3の授業チェック通過率における両高看の差異を理解できる。それにも かかわらず,A高看の評価テスト正答率が微にB高看のそれを上まわる成績を示した原因 はA高看の個別学習に他ならない。

 前報1)における高看化学の実験授業例の特徴の一つは,学力格差の認められる両高看にお いて,授業チェックや事後テストではその格差が殆んど認められなくなるが,評価テスト では,事前テスト時と同率の格差が存する,というところにあった。これに対し,今回の 実験授業例の特徴の一つは,授業チェック通過率に差が認められる場合でも,個別学習教 材を用意することにより,評価テスト時に,その差を効果的に解消し得ることである,と してよいのではなかろうふ。もっとも,今回の場合,前回1)と異なり評価テスト項目に応用 的項目がなかったわけで,これを考慮する必要があるかも知れない。

  (5) 自信・不安反応正答率

 事前・事後テストの平均正答率については既に記した。本項では個別学習の効果をさら に深く検討するため,事前・事後テストの自信・不安反応平均正答率を取りあげる。表4 にこれを示す。

表4 事前・事後テストの自信・不安反応平均正答率

  事前テスト平均正答率  事後テスト平均正答率      教授学習分析直線 高看 自信反応〆 不安反応ガ  自信反応y 不安反応y

  %(SD) %(SD)  %(SD) %(SD)   』y =ωr 十6  (7)    ヅ =砿ど 十み   (7)

A15.3(14.3)31.3(15.0)36,2(17.4)52.8(16.7)ヅ=0,93x 十22.1(0.76)』y =0.56κ 十35.1(0.50)

B16.0(14.5)30.3(15.3)32.6(17.8)50.4(15.8)』y =1.065ピ十15.5(0。87)y ;0.79κ 十22.4(0.85)

(8)

 両高看とも,事前テストにおいては不安反応正答率が自信反応正答率の約2倍,事後テ ストにおいては前者が後者の約1.5倍であった。事前テストでは未学習の項目が多く,認知 しベルの低さにもとづく不安感の減弱から自信をもっての解答が非常に困難(つまり,自 信解答として選択肢「わからない」を選択する)と考えられる。これに対し,事後テスト ではテスト項目はすべて学習ずみであり,自信をもっての解答が比較的可能となる。しか し,未だ認知レベルは充分高いとはいえず,つまり認知の不確さのために上記のような成 績(約1.5倍)が得られるものと推定される。

 表4から,x /x はA高看<B高看となる。しかるに,y /ジはA高看0.686,B高看 0.647,A高看の方が微に高い。これは,いうまでもなく,個別学習教材に取りくむことに

よる事後テスト時のテスト項目に対する認知の不確さの減少を示すもの,換言すれば個別 学習をA高看に加えたことによる多数回攻撃の効果と思料される。

 なお,表4の〆=0.56ズ+35.1が理論的に求めたy=0.632x+36.8と類似することに 注目しておきたい。

5.2 A高看の個別学習者群と非個別学習者群の比較  (1)事前・事後テスト平均正答率および吸収率 これを表5に示す。

表5 個別学習者群および非個別学習者群の事前・事後テスト平均正答率       事前テスト 事後テスト    吸収率  教授学習分析直線・

グループ 人数平均正答率 平均正答率 伸び

        (%)  (%)    (%)  y=砿+わ  7  I I

 I Qゾ8 12 27.0

20.9

51.7     24.7   33.8    y=0.83x十29.2   0.73

39.6    18.7  23.6   ッ=0.54冗十28.3  0.55

*y:事後テスト正答率,π:事前テスト正答率

 グループ1(個別学習者群)の事前テスト平均正答率がグループII(非個別学習者群)

より高いことからすれば,学力の高い学生が個別学習に取りくむ傾向があるとしてよいよ うである。しかし,事前テスト正答率に関してはグループ1とグループIIとの間に有意差 を認め得なかった。事後テスト正答率はグループ1において著しく高い。しかも,事後テ スト正答率に関して,グループ1とグループIIとの間に有意差を認め得た(5%)。吸収率

もグループ1の方が高く,個別学習の効果によるものと解される。

 個別学習教材8フレームとテスト項目26のうち直接関連のある項目は9である。した がって,事後テストにおけるグループ1のグループIIに対する正答上の優位性は単純に考

えれば30.7%である。しかるに,グループ1が個別学習に取りくまなかったとした場合に

グループIIと同率の学習効果を示すと仮定し,グループ1の吸収率を検討すれば,上記の

優位性(30.7%)を上まわる個別学習の効果43.2%をみることができる。このように,個

別学習の効果は単純な計算値以上の効果として表われている。これを,グループ1とグルー

プIIの学習意識の違いや総合学力の違いと見倣すことも可能であるが,個別学習に基づく

(9)

高等看護学院における化学授業個別化の試行 41 学習の転化など間接的効果を重視すべきではないかと考えられる。

 なお,グループ1の教授学習分析直線はグループIIのそれと比較して,δ値で好ましく,

α値で好ましくなかった。この結果は,グループ1の成績上位者の吸収率が下位者のそれ を上まわることに起因して生じたものと推定される。

  (2)個別学習項目と直接関連のある事前・事後テスト項目の平均正答率  これをグループ1とグループIIの別で表6に示す。

表6 個別学習項目と直接関連のある事前・事後テスト項目の平均正答率       事前テスト 事後テスト    吸収率  教授学習分析直線 グループ 人数 平均正答率 平均正答率 伸び

        (%)  (%)   (%)  y=砿+わ  7

IT二  1 QJQO 10乙

27.2 20.6

53.5     26.3   36.1   二y=0.62x十36.6   0.57 38.3     17.7   22.4    y=二〇.45冗十29.5   0.49

 表6にみられる如く,前項(1)の成績と類似するが,グループ1とグループIIとの差 は拡大する傾向にあった。事前テスト正答率に関しては,グループ1とグループIIとの間 に有意差を認め得なかったが,事後テスト正答率に関しては,両者間に有意差(5%)を 認め得た。

 グループ1の吸収率および教授学習分析直線は,学習が1回行われたとする場合の理論 値(36.8%),理論式(y=0.63肋+36.8)とよく一致する。このことは,高看のような高 等教育機関においても,一斉授業の他,一斉授業の項目と直接関連を有する個別学習教材 を開発・準備する必要のあることを示唆するものであろう。特に,事前テスト平均正答率 が平均的な教授学習9)の事前テスト平均正答率36.8%を下まわるような場合,特にこのこと を指摘し得るようである。

 以上,個別学習の効果はこれを充分認め得たが,成績下位者については,期待したほど の効果はなかったように思われる。ロング・ランの一斉授業にその原因を見出すことがで きそうである。しかし,筆者2)が既に論述しているように,個別学習の狙いを「学習能力を 最大限に発揮して学習に取りくむ」ことにおくならば,グループ1の学生は次の①〜④の 理由から学習能力の最大限発揮とはいかないまでも,学習能力を充分に発揮して個別学習

に取りくんだものと推定される。①自主・自発的な個別学習,②個別学習のアンケート調 査成績(次項5.3),③個別学習教材の完全学習消化,④無理のない個別学習*……これ らを上記の理由としてあげることができる。したがって,今回の個別学習については,一 応,これをもって「良し」とすべきであるように思われる。

5.3 個別学習教材に対するアンケート調査

*個別学習はその学習項目の一斉授業後に行われている。授業チェック平均通過率は55.2%である。無理

のない学習を行うために必要な学習内容の認知レベルは約50%91である。したがって,55.2%の授業

チェック平均通過率をもってする個別学習に無理があったとは考えられない。

(10)

 アンケートはグループ1の学生について行った。調査用紙を本稿末尾に資料2として示 す。以下,調査結果を簡単に記す。

 教材に対するイメージは,社会的価値4.2,個性的価値3.9,活動性3.2,潜勢力3.3であっ た。ただし,最高値を5.0,普通値を3.0,最低値を1.0とする。社会的価値が特に高く,こ れは,個別学習者が斯る学習法を良い学習法と感じていることを示すものであろう。個性 的価値が高く表われていることから,教材にすぐれた特徴のあることも容認されている。

活動性,潜勢力は普通(3.0)より僅かに高くなるにとどまった。

 なお,教材が学習に有効とする者95%(のべ人数),フレーム数適当とする者63%,難易 度をちょうど良しとする者60%,飽きの有無では80%の者が飽きなかったと回答している。

4.要

 高看化学授業の個別化をはかるため,授業時における学生の主体的学習活動を重視した 学習プログラム(24時間分)を作成した他,個別学習教材8フレームを開発した。これら

を用いた化学の一斉授業(A・B高看)および個別学習(A高看)を実施し,授業分析を 試みた。得られた成績は一応満足すべきものであった。

5.おわりに

 先に筆者5L9)は望ましい(無理のない)教授学習としての事後テスト平均得点は68.39点で あることを報告した。高看化学の授業を担当するようになって,既に10数年を経過するが,

看護学を踏えた高看化学の授業において,事後テスト平均得点を68.39点以上とすること は,かなり困難な教授作業のように思われる。昭和51年度からは,成績下位学生の学力向 上を主目標に教育工学的手法による授業を試みてきた。特に,今回(昭和53年度)の授業 では,学生の主体的学習活動を重視して,一斉授業の個別化をさらにはかった学習プログ ラムを作成し,加えて個別学習教材(8フレーム)7セットを準備して教授学習に対する 学生への有効な刺激とした。この結果として,事後テストといわないまでも評価テストに おいて,平均得点が68.39点以上になることを期待した。個別学習教材は,総合学力におい て微に下位と推定されるA高看に準備し希望者による個別学習を計画した。19名が一斉授 業終了時点までに自主・自発的な個別学習を行った。

 事前テスト平均正答率(自信・不安反応平均)がA高看23.4%,B高看23.2%であり,

学習内容は学生にとって,かなり高度の難しさがあるものと考えられる。自信・不安反応 のうち正答率の高く表われる不安反応でみても,A高看3L3%,B高看30.3%で,筆者9)が 先に提案した平均的な教授学習の事前テスト平均得点36,79(点)を下まわっている。これ

を,平均的な教授学習としての事後テスト平均得点60.04(点)以上,評価テスト平均得点

74.74(点)以上へ,如何にして向上せしめるかが大きな課題となる。この課題解決と個別

学習効果の検討が今回の高看化学授業の目的であった。目的のレベルまで学力を向上せし

めることはできなかったが,事後テスト(不安反応)で平均正答率A高看52.8%,B高看

50.4%,評価テスト(普通反応)で平均正答率68.4%,B高看67.3%のデータを得ること

ができた。また,個別学習の効果も認めることができた。学習内容のレベルを保持した状

態で,かつ学習範囲をせばめることなく,今一歩,学力の向上を期した教授学習法の探索を,

(11)

43 高等看護学院における化学授業個別化の試行

今後ともひきつづき試みたいものと思う。

 かく筆にあたり,個別学習教材の作成およびデータのコンピュータ処理にご協力をいただいた九州教 具・システム課の山田憲一郎課長,黒木中学校の桝本高直教諭にそれぞれ深謝の意を表します。

 本稿の要旨は日本科学教育学会第4回年会(於広島市,1980年)において講演発表した。

文 献

1)竹友一成,長崎大学教育学部教育科学研究報告(第2分冊),第25号,p。65(1978)

2)竹友一成,同上報告(第2分冊),第26号,p.17(1979)

3)山田憲一郎,竹友一成,長崎大学教育学部教科教育研究報告,第4号,p.305(1981)

4)竹友一成,日本科学教育学会第一回年会講演論文集,p.29(1977)

5)竹友一成,長崎大学教育学部教育科学研究報告,第24号,p.251(1977)

6)山田憲一郎,竹友一成,同上報告(第2分冊)第26号,p.215(1979)

7)竹友一成,長崎大学教育学部教科教育学研究報告,第3号,p.55(1980〉

8)久保為久麿他,科学教育研究(昭51・文部省科学研究費特定研究〉,p.115,特定研究科学教育総括班(1977)

9)竹友一成,長崎大学教育学部教育科学研究報告(第2分冊),第26号,p.33(1979〉

10)竹友一成,山田憲一郎,日本科学教育学会第3回年会論文集,p.165(1979)

(12)

資科1 高看化学個別学習教材(その1〉

      フレーム1.電子対と不対電子

動物にオスとメスがいるように電子には,右廻りの電子と左廻りの電子がある。

㊥(1)電子が 個だけ・ポツンと存在するような場合を不対配

    (2)電子2個が対をつくって存在する場合を電子対。

圏8繍膿嘉繋暑麸藁乳左廻,の電子,で対をつ,る,,

     つまりスピンが違う状態の電子で対をつくると安定。

      .稗..幹.

         (男の子)    (女の子)    (男の子)    (男の子)

      スピン逆平行       スピン平行          (スピシが違う状態)       (スピンが同じ状態)

    酸素原子の最外殼電子は電子対2個,不対電子2個です。

      二2.」.! ←一電子対圭._1      く三}OくD←一不対電子く、.、〉

      r。一、「

    (3)原子は,4つの電子対(つまり8つの電子)を最外殼にもっと安定化する。一→オ      クテット・セオリー(図a〉

        :@:  ・@二  ・⑫・

       図(a)   (b)   (c)

     7つの電子があれば図bのように,6つであれば図cのようになる。

        ☆窒素原子の最外殼における電子対はいくつか。

チェック(00)

         1〕0個          2〕1個          3〕2個          4〕3個          5〕わからない

鷺・・ Ill塵藤liIi

         図(a),(b),(c)をじっと見詰めて下さい。

(13)

高等看護学院における化学授業個別化の試行 45

       Nの最外殼電子は5個ありますね。

       電子数 8つ→7つ→6つ→5つ        図  (a)→(b)→(c)→(κ)

さあ! x図はどうなる。一寸考えて,それから……ズ図のトビラをあけてみよう。次いで右 トビラを1あけてみよう。

刃 図

チェック(01) 練習問題

Nの最外殼電子図

電子対について最も正しい記述はどれか。

1〕スピンが同じ状態の電子2個で対をつくり,非常に安定化している。

2〕同種の原子2個が対をつくって安定な分子をつくっている場合の原子の対を特に電子対と  いう。

3〕スピンが違う状態の電子2個で対をっくり,安定化している。

4〕電子の状態や原子の種類とは関係なく,電子が8個集って安定化している。

5〕わからない。

解答と説明の項目におけるi は,その部が紙扉で目隠しされていることを示す。

資料1 高看化学個別学習教材(その2)

 ・     フレームII.孤立電子対(非共有電子対)

       高校のとき,共有電子対について学習した。それは        共有結合にたずさわっている電子対のことでしたね。

       し    

      .   .     ・はNからの電子        『      H   N   H

      <3     X X  xはHからの電子

       マ

       アンモニアにおけるNとHとの結合は共有結合。

       ワ1  だから上図の畏は共有電乱

       それでは,孤立電子対とは,どんな電子対だろう。

      静かに仲よく〃

       孤立        孤立電子対

       電子対?

 (1)最外殼電子のうちで,共有結合に使われてい

       ノ  ヤ   ない電子対のことを,特に孤立電子対という。       oα  (2)孤立電子対は,「共有結合に使われていない」       (

       1

  ということから,非共有電子対ともいう。

 (3)アンモニア分子には,窒素原子に

(14)

 由来する孤立電子対炉1個  あります。(右図)

(4)孤立電子対といっても電子であ  るから,そこは負の電荷になって  いる。だから正の電荷を持った試  薬(例H+)が来るとジッとしてい  ない。

〃∠吏

く 中

7﹂

肴.一.NIH やゐ一 ぐ H 静

一.ン

撃一  H 9ー

>σ

そっと

しとこうネ/

チェック(02)

答と明 解説

02

☆水の分子には何個の孤立電子対があるか。

1〕0個 2〕1個 3〕2個 4〕3個

5〕わからない。

i正解は,3〕です。

i酸素原子の最外殼電子は,・O ・となっておる。

      1 ;一;、

i水素原子の最外殼電子は,H・となっておる。

i・ O ・ 十 2Hx 一一一一→H ×O xH

 響● o、      r● ●覧

       静かに仲よく〃

       孤立電子対

iのように,H 20ができる。

チェック(03) 練習問題

孤立電子対について正しい記述はどれか。

1〕結合にたずさわっていない電子対で,一応安定化しているが,まだ反応に関係することは

あち。

2〕結合にたずさわっていない電子対で,もう反応に関係するようなことはない。

3〕結合にたずさわっている電子対であるが,まだ反応に関係することはある。

4〕結合にたずさわっている電子対で安定化し,もう反応に関係することはない。

5〕わからない。

(15)
(16)

@ 記号で答えるのが楽しかった。

(ト)その他( )

5.上記3.で,⑭,㈱を選んだ人は,下のあてはまるものにO印をつけて下さい。(いくつ選んでもよい)

曾)くどくどして,能率が上がらない。

(ロ〉このやり方になれていないので興味がない。

の 自分の考えを出すところが少ないようだ。

⇔ マンガ的説明では,本当に理解できたかどうか

(ホ)フレーム学習の枚数が少なくて,効果がない。

@ その他(      )

という不安がある。

6.勉強に必要な性格として,次のようなものが考えられますが,それぞれの性格について,あなたの性 格はどうですか。あてはまるところにO印をつけて下さい。(全項目答えて下さい)

       や 非     や あ常     あ るに      る

      余      ほ       り       と 普     な     なん 通      い     いど 好奇心(興味,関心)

注意の集中力 正 確  さ 孤独に耐える

7.このフレーム学習の内容について,O印で答えて下さい。

C7〉やさしかった。

α)ちょうど良かった。

(ウ)むずかしかった。

8.このフレーム学習をやる前に,フレーム学習の各項目(例,電子対と不対電子)の内容についての知 識がありましたか。あてはまるものすべてに○印をつけて下さい。

(1〉フレーム1(電子対と不対電子)  (5)フレームV(水素結合)

(2〉フレームII(孤立電子対)     (6)フレームVI(電子の配置)

(3)フレームIII(配位結合)      (7)フレームVII(電子のエネノレギー準位)

(4)フレームIV(電気陰1生度)     (8)フレームWll(方位量子数)

9.説明のわかりやすかったフレームを書いて下さい。

10.説明のわかりにくかったフレームを書いて下さい。

11.フレームの数は,どうでしたか。O印をつけて下さい。

 (ア)多かった   )ちょうどよかった  (ウ〉少なかった

12.あなたは,このフレーム学習を終える途中飽きがきましたか。O印をつけて下さい。

 σう飽きた   (イ)飽きなかった

(17)

49 高等看護学院における化学授業個別化の試行

⇔うと答えた人は,

  フレーム(

どのフレームから飽きましたか。

13 このフレーム学習によって,このフレームで取りあつかった化学の基礎について,理解できましたか。

 ○印で答えて下さい。

 (ア)完全に,理解できたと思う。

  )だいたい,理解できたと思う。

 (ウ)ほとんど,理解できなかった。

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