【学位論文審査の要旨】
本学位申請論文に関して、公聴会および 4 回の審査会を開催し、論文内容に関する 慎重な審査を行った。審査結果について以下のように報告する。
高感度・迅速なマイクロ生化学分析を実現するためには、反応時間の短縮だけで なく、反応効率の向上が重要であることから、反応場の三次元構造化と生体分子輸送 の促進化が重要である。本研究ではプレートリーダ用ウェルに適用可能なマイクロピ ラー構造を有するフィルム積層型反応場を提案し、マイクロピラー構造とフィルムの 積層化により比表面積の拡大を図り、さらに同反応場に回転機構を設け、ウェル内に 循環流を発生させることでフィルム間への生体分子輸送の促進化を試みた。
本論文はマイクロピラー構造を有するフィルム積層型反応場によるマイクロ生化学 分析の高感度化・迅速化を目指して、対流・拡散・表面相互作用を含む反応場の生体 分子輸送に及ぼす物理パラメータの影響度を明確にし、三次元構造反応場の有効性の 実証と設計指針の構築を行うことを目的とし、以下の研究成果を上げている。
1. 対流・拡散・表面相互作用を含む反応場の生体分子輸送に及ぼす物理パラメー タの影響度を実験とシミュレーションの両面から分析・評価した。生体分子輸送にお ける拡散・表面相互作用に着目して、反応場の微細構造寸法による検出感度および生 体分子輸送への影響を検証した。生体分子の吸着量の増加と輸送時間の短縮には、反 応場の高比表面積化に加え、物理パラメータである生体分子の拡散距離と反応場の表 面電位を考慮した構造間距離の重要性を示した。また、輸送時間の経過とともに対流・
拡散・表面相互作用の支配性が変化し、構造間の生体分子輸送では拡散がより支配的 になることを明らかにした。
2. 構造寸法が数・m から数十・m のマイクロピラー構造を有するフィルム積層型 反応場を開発し、同反応場の生化学分析に対する有効性を検証した。フィルム積層型 反応場を用いることで、従来の酵素免疫測定に比べ 2 倍の蛍光強度および 95%のイン キュベーション時間の短縮が達成されることを示した。
3. フィルム積層型反応場の検出感度・反応時間に及ぼす影響因子を酵素免疫測定 と生体分子輸送シミュレーションの両面から明らかにした。特に、ウェル内の循環流 量・生体分子の拡散距離と対流距離の比を示す反応効率・フィルム積層型反応場の比 表面積を、反応場の設計パラメータと生体分子輸送の物理パラメータを用いて数式モ デル化することで、フィルム積層型反応場の検出感度・反応時間と設計パラメータの 因果関係を明確にした。
以上の研究成果は、マイクロ生化学分析技術の向上に大きく貢献されるものであり、
学術的に高く評価でき、工業的にも寄与するところが大である。よって、本論文は博
士(工学)の学位を授与するに十分な価値があるものと認められる。
(最終試験および試験の結果)
本学の学位規則に従い、最終試験を行った。公開の席上で論文発表を行い、多数の 学内外の専門家による質疑応答を行った。また、論文審査委員により本論文及び関連 分野に関する試問を行った。これらの結果を総合的に審査した結果、専門科目につい ても十分な学力があるものと認め、合格と判定した。