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聞 き 手 の 受 益

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(1)

行為要求表現について : Vテモラッテイイカを中心

著者 熊井 浩子

雑誌名 静岡大学国際交流センター紀要

6

ページ 1‑19

発行年 2012‑03‑27

出版者 静岡大学国際交流センター

URL http://doi.org/10.14945/00006611

(2)

静岡大学 国際交流セ ンター紀要 6号

行為要求表現 について Vテモラッテイイカを中心に―

 旨】

Vテモ ラッテイイカは、近年若者やサー ビス業での会話 を中心に広 く用い られ るようになっ た一方で、押 し付 けがま しい不快 な言い方である とい う批判 も多い。本稿 では行為要求表 現 について考察す るとともに、 この表現が不適切 になる場面 とこれ らが用い られ る心理的 要因 を考察 した。その結果、Vテモ ラッテイイカは話 し手 に とつて成立が望 ま しい事態 で、

聞 き手 に通常以上 の負担 が生ず る指示や、その行為要求 を行 うことの妥 当性・正 当性 があ り、かつ聞 き手 の負担 がそれ ほ ど高 くない依頼 に用 い られ た場合 にはそ うでない場合 に比 べて適格性 が高 くなることがわかった。そこには、 自己の行為要求が妥当性・正当性 のあ るものであることを示 し、聞 き手がイエス と言 つて くれ ることを期待 してい ることを伝 え る一方で、テモ ラウを用 いて、話 し手 に とつてその事態 の成立が好 ましい こと、 また、聞 き手 に通常要求 され る以上 の負担 を強い ることを示 し、同時 にイエス/ノー の判 断 を聞き 手 に委ね ることで、聞 き手 に対す る配慮 を示 そ うとす る心理 が働 いてい ることが明 らかに なった。

キー ワー ド】Vテモ ラッテイイカ 行為要求 受益 選択権 妥 当性

1.はじめに

近年若者やサー ビス業 での会話 を中心 に1・2のよ うなVテモ ラッテ (モ)イイカや その 敬語形のバ リエーシ ョンが広 く用い られ るよ うになった。vテ (モ)イイカは話 し手が聞き 手 の許可 を求 める言語形式であ り、それ にテモ ラウとい う補助形式が前接 してい るため、

行動の主体 は聞 き手 とな り、聞 き手がある行動 をす ることの許可 を求 める表現 となるが、

親 しみ と配慮 の両方 を込 めた使 いやすい表現 である と感 じる人がい る一方 で、相手 に有無 を言わせ ない、一方的で押 し付 けがましい不快 な言い方 であるとい う批判 も多い。

1,お名前教 えて もらつていいですか。

2.こ こに座 つていただいていいですか。

本稿 では、その主な批判 を概観す るとともに、 この言語形式 を依頼や指示 とい う行為要 求表現の中に位置づ け、 この表現が どの よ うな場面で不適切 な表現 と受 け取 られ るのか、

またそれが どの よ うな心理的要因で用い られ るのか を考察す る。

なお、本稿 ではVテモ ラッテイイカや その謙譲語 。丁寧語 を用 いた許可求 めのバ リエー シ ョンをVテモ ラッテイイカで表 し、Vテモ ラッテモイイカやVテイタダイテイイカな ど もそれ に含 めて表す こととす る。

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静岡大学国際交流セ ンター紀要 6号

2.Vテモラウ

Vテモ ラッテイイカを考 える上で、まずVテモ ラウについて考察す る必要がある。Xガ Y二 etc,Vテモ ラウの典型的な用法 は3のよ うに、Vで表 され る行為・事態 がXに とって 好 ま しい もの、感謝すべ きものであることを表す 「利益・恩恵」の用法である。

また、xが Yに対 して依頼 な ど、何 らかの働 きかけを行 った ことを表す4のよ うな用法 もある。この よ うな相手 に対す る働 きかけが認め られ るVテモ ラウを益岡 (2001)は使役 的用法 と呼び、使役文が 自らの意向を一方的に押 し付 ける とい う強制 の意味合いが強いの に対 し、Vテモ ラウは依頼 して事態の実現 を図るノ点で異なるとしている。さらに、仁 田(1983) はこの よ うなVテモ ラウを、話 し手が聞き手 に自らの要求 に沿 つた実現 を訴 えかけ、働 き かける発話 0伝達 のモダ リィティ と位置づ けてい る。

3.先生 にほめてもらつた。

4.先生 に頼 んで教 えてもらった。

しか し、Vテモ ラウの働 きかけが依頼 に とどま らず、何 らかの強制力 を持 ち うる点 は堀 口

(1987)、 (1985)な どで指摘 されている。例 えば堀 口は、5のよ うに 「仕手」が承知 し ていない事態 を表すテモ ラウ文が言い切 りの形 になった とき、話者 の一方的な意向 を表す ソフ トな命令文 にな ると指摘 している。

5.君には北海道へ行 つて もらう。

ただ し、言い切 りの形 になった ときとい う指摘 は正確 ではな く、6・ 7・8のよ うに意志や 希望 その他 の表現 とともに用い ることも可能 である。

6.君には北海道へ行 つて もらお う。(例文 は堀 口)

7.君には北海道、行 つて もらいたい。

8.君には北海道へ行 って もらうことになった よ。

さらにシ リワン (2008)は、テモ ラウは、話 し手 が 自分が聞 き手 よ り高い立場 にあるこ とを聞 き手 に意識 させ よ うとす る、話 し手 の立場や権力 を顕在化 させ る形式 でもある とす る。それ故、話 し手 の決定権 を明示 し、かつ、聞き手 に とってその行為 を達成す る意外 に 選択肢 はない ことを示す ことによって命令 と同 じ言語行為 を表わす形式 とな る と述べてい

る。

ただ し、 この 「高い立場」 とい うのは、必ず しも身分・地位が高い とい うことではな く、

ある状況 において何 らかの意味で強制力 を発動できる立場・状況 にい ることである と考 え られ る。例 えば9は、部長 に対す る社員 の発言である。社会的地位 は部長 が上であ り、通 常はその社会的立場 に応 じた発話 を選択す ることが多いであろ うが、強い決意 を表す場合 にはこのよ うな表現 も可能 である。

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静 岡大学国際交流セ ンター紀要 6号

9.部長、次回は必ず参加 して もらいます よ。

さらにこの よ うな使役・命令的用法のほかにも10・ 11のよ うに、Vで表 され る事態 が話 し手 に とって好 まし くない状況 を表す場合 もあ り、テモ ラウの意味 。機能 はかな り複雑 で ある。

10。 そんなことを言つてもらつては困る。

11.そんなにやめたきゃ、やめてもらお うじゃないの。

このような多様な用法の うち、Vテモラッテイイカの形で用い られ るのは、どのような用 法であろうか。 この点 も併せて考察する必要がある。

3.Vテモラッテイイカ

山田 (2004)は 、12.aのようなvテモラッテイイカは、12.bの ようにある行為 をす る許 可を話 し手が求める表現の応用であるとし、これをD類 (許可の問いかけ系)依頼表現 と 呼んでいる。山田によれば、この場合のテモラウは使役 を丁寧に言つたもので、「聞き手を 座 らせてもいいか」 と聞いているのと同じであるが、依頼 を表すモダ リティ形式 としては

固定化 されてお らず、文法化の度合いが低い と考察する。

12.a.ち よっと座つてもらつていいですか?[依] b。 ちょつと座つてもいいですか?[許可要求]

また、これ らの依頼文は意味的にはテモラウの意味が残っていて、13.abcの ように話 し手 にとって恩恵 とならない事態の生起 を求める場合には使 えない と述べている。

13.a.*勝手にそこへ行つてもらっていいですか。(*、 例文、下線 は山田)

b.*不審な点がございました らお気軽 にお尋ねいただいてもいいですか。(同)

c.*男性の方は、お三階の トイ レをお使いいただいてもいいですか。(同)

即 ち、山田によれ ば、Vテモ ラッテイイカのテモ ラウは丁寧な使役 を表すだけでな く、テ モラウ本来 の受益の意味 も帯びていることになる。しか し、確 かに13.aについては冗談で ない限 り不適切 だ と感 じる人が多い と思われ るが、13.bcについては、不快感 を持つ人 はい ても、若者 を中心 に広 く使われ るよ うになってい るのは前述 の通 りである。また14のよう に、話 し手 がその行為 によって恩恵 を受 ける場合で も、Vテモ ラッテイイカが不適切 な場合 もある。山田ではこの不適格性 を説 明す ることがで きない。

14.?先生、推薦状書いてもらっていいですか?

一方砂川 (2006)は 、Vテモ ラッテイイカは、話 し手が希望す る行為 を行 う意向があ るか

(5)

静 岡大学 国際交流セ ンター紀要 6号

どうか聞 き手 に尋ね る表現、即 ち聞 き手 に承諾 を求 める問いかけの表現 であるとす る。

15。 あした遅番、代 わって も らつていいですか。(例文は砂川)

16.ここにお名前 とご住所 を書いて もらつていいですか。(同)

そ して、15が問題 のないその本来 の用法であるのに対 し、役場 に住民票 を取 りに行 った 人 に対す る窓 口係の発話 である16は不 自然 な表現である とし、その原 因は、聞き手 に行為 を求 めるべ き場面で、イエスか ノーかの答 えを求める問いかけの表現が用い られてい るた めである と考察 してい る。 この点 は砂川 (2005)では、依頼 の表現が用 い られ る場面 で許 可 を求める表現 が使われてい ることによる と説明 されてい る。そもそも依頼 とい う行為 は

「相手 に諾否 について選択 の余地があ り、その どち らを選択す るか尋ねたい とき」 とい う 条件 を満 たしてい る必要があ り、そのイエス、 ノー を選択す る権 限がない ときにこの表現

を使 うと、「ノー と言わせ ない雰囲気」を感 じさせ る押 し付 けがま しい表現 となるとい うこ とである。

これ に対 し、使 う側 の意識 について砂川 (2005)で は、Vテモ ラウによつて恩恵 を被 るこ とを表 し、 あ りがたい と思 う気持 ちを伝 えること及 び、許可 を求 める表現 を使 うこ とで相 手 にお伺い を立てて、依頼 の押 し付 けがましさを軽減 しよ うとす ることを意図 した表現で あ り、敬語抜 きで丁寧 さを表そ うとす る気持 ちか ら発せ られた言葉 であるとす る。 また、

砂川 (2006)では、相手 に答 えを委ね る気持 ちを伝 えることで指示や依頼の押 し付 けがま しさを軽減す る、丁寧 に働 きかける表現 であ り、同時 にoそこにはイエスか ノーか を聞い てい るだけだか ら、仮 にノー と言われて も傷つかない とい う危険回避 の 自己防衛的姿勢 も 潜 んでい ると分析 されている。

即 ち、使 う人 に とつて このVテモ ラッテイイカ とい う表現 は、Vテクダサイマスカ、Vテ

イ タダケマセ ンカの よ うな敬語 を用 いて相手 を遠 ざけることは避 け、一方 でVテクダサイ Vテモ ラエマスカのよ うな依頼 の押 し付 けがましさを軽減できるとい う意味で、親 しみ

を込 めなが ら丁寧 さを表すのにぴつた りの表現 であるとい うことである。

以上の よ うな砂川 の考察 において、イエスか ノーかの選択の余地がない場合のVテモ ラッ テイイカが不快 な印象 を与 える可能性 については説 明 されてい る。それではイエスか ノー かの選択 の余地 がある場合 は どうであろ うか。例 えば17は、先生 に忘年会 に来て くれ るよ うに頼む表現 としては不適切 だ と感 じる人が多いであろ う。 このよ うな状況 では、通常イ エスか ノーかの決定権 は聞き手 である先生 にあるので、 この不適切 さは砂川 (2005)の 択 の余地 がない状況 であるか らとい う理 由では説明できない。

17.?先生、来週忘年会す るんです け ど、先生 も来て もらっていいですか?

また、砂川 は聞き手がイエスか ノーか を決定できる状況で、18のよ うな依頼 の表現 は問 題 ない とす るが、では、そのよ うにVテモ ラッテイイカが適切 である とされ る場面 で、こ の よ うな表現 は19か21のよ うないわゆる依頼表現 とどのような違いがあるのだろ うか。

この点 も考察す る必要がある。

(6)

静 岡大学 国際交流セ ンター紀 要 6号

18。 あした遅番、代わつて もらつていいですか。(許可求 め) 19。 あした遅番、代わつてもらえませ んか。(依)

20.あ した遅番、代わっても らえないで しょうか。(依)

21.あ した遅番、代わって も らえると助 かるんだけ ど。(依)

ところで、砂川 (2005・2006)や山田 (2004)が依頼 としてい る言語表現 の中には18の ような依頼 だけでな く、16の よ うに行為 を指示す る場合 も含 まれてい る。しか し、18と 16 とでは、受益性や相手 が拒否 できる余地 の大小等 に大 きな差 があ り、 これ をま とめて依頼 と呼ぶのには問題 が残 る。そ こで、次節で依頼や指示 も含 め、相手 に何 らかの行為 をす る ように働 きかける機能 をもつ行為要求 について概観 した上 で、改 めてVテモ ラッテイイカ との関係 について考察す ることにす る。

4.行為要求

高梨 (2011)は行為要求 を 「聞 き手が行為 を実現す ること (または実現 しない こと)を

求めた り容認 した りす る機能」 と規定 し、姫野 (1997)の4分類 を修正 して、行為者 0受 益者 に加 え、話 し手の強制力や聞 き手 の決定権 の強弱 によつて、その下位分類 を行 つてい る。これ を図で表 したものが22であ り、23か27はその例 として挙 げ られ てい るものの 一部である。この うち、行為者 が聞 き手 である場合 の行為要求 (22で は太線 で囲 まれ た部 分にあたる)については姫野 の分類 とほぼ同 じであるが、決定権 を聞き手・話 し手の どち らにあるかの二者択一ではな く、よ りどち らが強いか とい う程度 の問題 として捉 えるこ と、

及び許可や勧誘 を、典型的な行為要求ではないがそれ に連続す るもの として位置付 けてい るとい う点 でこれ と異なる とす る。

22.行為要求の分類 (高2011)

命令的指示 依 頼

恩恵的指示 勧 め 許 可

勧 誘

話 し手の強制力     聞き手の決定権    

(7)

静岡大学 国際交流セ ンター紀要 6号

23. [客がタクシーの運転手 に]

次の信号 を右 に曲がつて くだ さい。(命令的指示)(例文 は高梨)

[歯科 医が患者 に]

今 日の治療 は終わ りです。今か ら2時間 ぐらいは飲食 を控 えて くだ さい。

(恩恵的指示)(同)

[通行人 が他 の通行人 に]

すみません、ち ょつ と道 を開けて くだ さい。(依)(同)

[家の主人が客 に]

どうぞ夕食 を召 し上がっていつて くだ さい。 〈勧 め)(同) [「座 ってもいいか」 と尋ねた客 に対 して]

どうぞ こち らにお座 りくだ さい。(許)(同)

24.

25。

ここで確認 したいのは、 ここで議論 されてい る依頼か命令的指示か等 の分類 は言語表現 その ものの問題 でな く、話 し手や 聞き手の関係や社会的地位、負担の軽重、発話の状況等 によつて決定 され る話 し手や聞 き手 の強制力・決定権の違 いによつてその言語表現 が帯び る機能 であるとい うことである。例 えば28は言語表現 としては通常依頼表現 とされ るVテ

モ ラエマスカ を使 つてい るが、上 司に強い権 限がある状況 であれ ば指示や場合 によっては 命令 としての機能 をもつ ことになる。反対 に29のよ うなvテは指示でよ く用い られ る言語 形式であるが、話 し手 にその よ うな権 限がない場合 にはカジュアル な依頼 として機能す る

ことにな る。

28。 あした遅番、代わって もらえますか ?

29,あした遅番、代わつて。

この高梨 (2011)の分類 によつて、依頼 と命令的指示 との違 いが明確 になる。依頼 も命 令的指示 も話 し手がその事態 の実現 を求 めて働 きかけてい る点では一致 してい るが、依頼 が話 し手 の強制力 が弱 く、聞き手の決定権 が強いのに対 し、命令的指示 は依頼 に比べれ ば 話 し手 の強制力 が強 く、聞き手の決定権が弱い とい う違いがある。砂川 にも話 し手や 聞き 手 の強制力や決定権 の強弱の違 い について同様 の指摘があるが、その観点か ら依頼 と命令 的指示 とい う細分類 をしていないのは前述 の とお りである。

30。 お名前教 えてもらつていいですか。

高梨 によれ ば、 このよ うな命令的指示及び依頼 の受益者 は話 し手であ りtその点 で受益 者が聞 き手 である勧 め及び恩恵的指示 と異 なってい るとい うことである。確 かに依頼 の場 合の受益者 は話 し手、勧 めの場合 の受益者 は聞 き手であるが、命令的指示の受益者 は話 し 手、恩恵的指示の受益者 は聞 き手である と言 つていいであろ うか。

例 えば高梨 の命令的指示 に当たる30は、話 し手の職務遂行上 の当然の権利 としての指示 であ り、聞 き手が指示 に従 って名前 を教 えた場合、スムーズに業務 が進 む とい う意味では

26.

27.

(8)

静岡大学 国際交流セ ンター紀要 6号

話 し手 に とって実現が好 ましい事態 ではあるが、あ くまで実現が当然 の事態 であ り、受益 者 とい う言い方 は適 当ではない よ うに思われ る。

一方28については、聞 き手 と話 し手 の関係や発話 がな された状況 によって異なる。例 え ば話 し手 と聞 き手 がお互いに遅番 を代わ り合 ってい るよ うな同僚 であれ ば、依頼 とな り、

通常受益者 は話 し手である。また、話 し手が上司で聞 き手 が部下の場合 でも、31のよ うに 上司の個人的な事情で部下 に遅番 を代 わつて もらうのであれ ば、 このよ うな上下関係 を反 映 して同僚 同士 に比べれ ば話 し手の強制力がやや強 ま り、聞 き手の決定権が弱 まる と言 え るが、話 し手が受益者 であることには変わ りはない。 さらに、話 し手が上 司で聞 き手 が部 下の場合で も、上 司が この よ うな遅番 の調整 を当然 の業務 とし、部下がそれ に従 うことが 要求 されてい る職場 であれ ば、それ はあ くまでも職務上 の手続 きであつて、話 し手 がそれ で恩恵 を被 つてい るわ けではないか ら、 この場合 には話 し手 を受益者 とす ることは不適 当 であろ う。

31.申 し訳ないけ ど、急用 がで きたんで、あ した遅番、代わつてもらえますか。

即 ち、高梨 の指摘 と異 な り、同 じ命令的指示の中にも話 し手の受益性 が高い場合 とそ う ではない場合 があることになる。例 えば32では聞 き手 がなん らかのサー ビス を受 けた代金

として話 し手が支払い を求 めてい る場面であれ ば、職務遂行上 当然 の手続 きであって、話 し手 は聞 き手の負担 によ り特別 な利益 を受 けてい るわ けではない。一方、なん らかの理 由 で聞き手 に貸 しのある話 し手が33を用いた場合 には、その一時的な力関係か ら強制力 を持 っ ている と言 える。 しか し、それ は職務上 の権利 ではな く、話 し手 はその行為か ら利益 を得 ることができるいわば受益者 であ り、受益性が高い ことにな る。

32.で10万円いただきます。

33。 今 日は君 のお ご りね。

受益性 の有無 をはか る指標 としては、その行為が実現 した場合 に 「〜のおかげで/の 意で〜 もらえた」の よ うに言 える場合 には受益性がある と言 える。例 えば32は「お客 さん のおかげで10万円もらえた」 とい う意味 にはな らない し、34・35も 「お客 さんの好意 で振 り込 んで もらえた」「お客様 のおかげで待 つて もらった」とい う意味 にはな らないか ら、こ れ らに話 し手の受益性 は認め られ ない ことになる。

34.代金 は今週 中にお振 り込み くだ さい。

35。 少 々お待 ち くだ さい。

逆 に、36・37の ようにお客 さんが業務担 当者 に行為 を要求す る場合で も、確 かに右 に曲 がつた り、 ツアーの説明 を受 けた りす ることは話 し手 の望む事態 ではあるが、 これ も聞き 手の特別 な配慮や好意 によるものではな く、お客 さんに とって当然 のサー ビスである。つ ま り、 この場合 も話 し手 にとって都合のいい事態ではあるにして も、聞き手 の負担 の も と

(9)

静 岡大学国際交流セ ンター紀 要 6号

に話 し手が特別 な恩恵 を被 つてい るわ けではない。

36. [客がタクシーの運転手に]

次の信号を右 に曲がって ください。(命令的指示)(例文は高梨。再掲)

すみません、 このツアーについて説明していただきたいんですが・・・。

37.

さらに、高梨 が恩恵的指示 として挙 げてい る38も、その事態 は聞き手 に とつて都合のい い事態 ではあるが、話 し手の負担 のもとに聞 き手が特別 な恩恵 を被 ってい るわけではない。

38.[歯科 医が患者 に]

今 日の治療 は終わ りです。今 か ら2時間 ぐらいは飲食 を控 えて くだ さい。

恩恵的指示)(例文は高梨。再掲)

一方、39になると、聞 き手 の受益性 は増す。

39.夜は冷 えますか ら、 このひ ざかけをお使 い くだ さい。

とす る と、通常の指示 に関しては、話 し手 あるいは聞き手 に とつて実現が好 ましい事態 ではあって も、特別 な受益性のない ものもあることになる。つ ま り、話 し手や 聞 き手 に とつ て実現 が好 ましい事態 の中には特別 に受益性 がない ものか ら、高い ものまで幅がある とい うことである。 これ は業務上の指示 に限 らず、親や教師が子 どもや生徒 にす る指示 な ど、

社会的・状況 的 に何 らかの権限を持 った者 が、ある種の強制力 を持 つて行 う指示全般 にあ てはまる。

この よ うに、話 し手の受益か聞 き手 の受益 か とい う二者択一ではな く、話 し手が実現 を 求 めてはい るが、その実現が聞き手の特別 な好意や負担 を要求 しない、当然 の行為 である と考 え られ る場合、即 ち受益性 が低い場合か らその実現が話 し手 にとつて恩恵的な事態 だ と捉 え られてい る場合、即 ち受益性が高い場合 まで幅があると考 えるのが適 当であろ う。

同様 に実現 が聞き手 に とつて望 ましい事態ではあるが、その実現 が話 し手の特別 な好意や 負担 を要求 しない、当然 の行為 である と考 え られ る場合、即 ち受益性が低い場合か らその 実現 が聞き手 に とつて恩恵的な事態 だ と捉 え られてい る場合、即 ち受益性が高い場合 もあ

りえる。

また、高梨 は命令的指示 とい う用語 を用いてい るが、指示 は職務上や社会生活上 のルー ルや慣習 において、話 し手が聞 き手 に対 してその行為要求 を行 う権 限が認め られてい る場 合 である。命令 も同 じよ うに話 し手がその行為要求 を行 う権限が認め られてい る場合 もあ るが、そ うでない場合 もある。また、命令 は指示 に比べて話 し手 の強制力 が強 く、聞 き手 の決定権が弱い と言 えるが、 これ は権 限の強 さのみな らず、その場 の状況や話 し手 と聞 き 手 の力 関係及 び言語表現・ 口調 な ど、言語的・非言語的要因か ら、聞 き手 に選択 の余地 が ない ことを明瞭 に示す行為要求 である と言 える。 このよ うに、命令 と指示 は連続的ではあ るが性質の違 うものなので、本稿 ではこれ を命令 と指示 とに区別す ることにす る。

(10)

静 岡大学国際交流セ ンター紀要 6号

一方 山田 (2004)は、依頼 と許容 の本質的な違いは話 し手 の受益性 の有無 であるとし、

話 し手の促す行為遂行 によつて話 し手が恩恵 を受 ける場合 は広義 の依頼、それ以外 を広義 の許容 である とす る。 この広義 の依頼 には命令 に準ず るものか ら懇願 の よ うなものまでが 含 まれ る。同様 に許容 も、話 し手 の権限が強 く求め られ る許 可か ら業務的な申し入れ まで が連続的 に分布す るとす る。また、41に対 して、40の よ うな話 し手 に受益性 のない行為要 求 について も触れてい る。 これ を図で表 したものが42である。

40.暑かった ら、窓 をお開け くだ さい。

41.暑いか ら、窓 を開けて くだ さい。

42.山 (2004):依頼・許容 と話 し手受益

あ り な し

S>H

対 等

S<H

この よ うに、山田が受益性 の強弱 とい う観点か ら行為要求 を考察 してい る点 は評価 で き る。ただ し、 山田が準命令 と依頼、懇願 の違い を聞 き手 に対す る話 し手 の待遇認識 に起 因 す るもの と捉 えてい る点 には問題 が残 る。筆者 はこれ らの違 いは高梨 の指摘 の通 り、話 し 手の決定権 の違 いであると考 える。 もちろんこの決定権 も話 し手 と聞 き手の関係 に大 きな 影響 を受 け うるが、その場の状況や行為要求の内容 によって も変わって くる。部下がナイ フを片手 に社長 に命令 した り、年上の人が年下の人 に懇願 した りす ることもあ りえるわ け である。

また、 この図では準命令 と業務がかな り性質の違 ったものの よ うに位置付 け られてい る が、 これ も聞 き手、即 ちお客 さん等が話 し手、即 ち業務担 当者 の上位者 にあたる とい う待 遇認識 によって行為要求の種類 が変わって くる と捉 え られてい ることか ら生 じる問題 であ ると思われ る。 この場合 も、確かに業務担 当者 に とってお客 さんは上位 に待遇すべ き対象 ではあるが、職務遂行上 当然 の行為要求であれ ば、話 し手の決定権 は強 くなる。とす ると、

む しろ 「業務」 は 「準命令」 の中の、話 し手の受益性 がない もの として位置付 けるこ とが 適当であろ う。聞 き手 である業務担 当者が職務上 当然応ず るべ きお客 さんの行為要求 につ いても、話 し手の受益性 がない場合 もある。

以上 の ことか ら高梨 をベースに話 し手や聞 き手の受益性 の有無 を加 え、 さらに話 し手の 決定権 の弱い懇願や許容 を加 えて修正 したものが43である。山田の業務的 申し入れは話 し 手や聞 き手 の受益性 のない指示 に含 まれ る。聞 き手 に とつて受益性 のある指示 は話 し手の

(11)

静 岡大学国際交流セ ンター紀要 6号

権 限が弱 くなるにつれて、勧 めか ら許可 に変わ り、許可す る権限がない場合 には許容へ と 移行す る点 は高梨や 山田の指摘 と同様 である。

5口 行為要求 とVテモラッテイイカ

5日 命令 0指

次 にこの よ うな行為要求 とVテモ ラッテイイカ との関係 を考察す る。砂川 らの指摘では、

Vテモ ラッテイイカは相手 にイエスか ノーかの判断 を委ね る表現であ り、職務遂行上の必要 性 か ら当然相手 に要求できる行為で、相手 に決定権 がない場合 には使いに くい とい うこと であった。命令 については、聞 き手 に決定権のない ことを全面 に押 し立て る行為であるか ら、例 えば警察が犯人 に命令す る場合 には45のよ うに、この形式 を用いることはできない。

44.止めろ。

45。 ?止めてもらっていいですか ?

一方、指示 では、例 えば役場 に住民票 を取 りに行 つた人 に対す る窓 口係 の46のよ うな指 示 については、判断 に差が見 られ る。そのよ うな表現 を失礼 だ と感 じる理 由について砂川 は選択 の余地がない ことを挙 げてい る。そして、む しろ47のよ うなス トレー トな指示 の方 が適切 だ と感 じる人が多い とす る。しか し、例 えば48のよ うな場合 にはVテモ ラッテイイ カの適格度がア ップす ると思われ る。

46.△ここにお名前 とご住所 を書いてもらっていいですか。(例文 は砂川。再掲) 47。 ここにお名前 とご住所 を書いて くだ さい。

48.2枚目に複写ができていなかったので、 も う一度 ここにお名前 とご住所 を書いて も らつていいですか。

49。 *男性 の方 は、お三階の トイ レをお使 いいただいて もいいですか。(*、 例文、下 線 は山田。再掲)

43.決定権・ 受益生か ら見た行為要求

話 し手の強制 力 聞 き手の決定権

話 し手の受益

聞 き 手

 

聞 き 手 の 受 益

T

聞 き手+話し手

υ

       

ψ

命令 指示 依 頼 懇願 勧 め 許可 許 容 勧 誘

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静岡大学 国際交流セ ンター紀要 6号

50。 男性 の方 は この トイ レをお使いいただいて もいいです か。

46・48いずれ も、そのサー ビス を受 けるためにはその紙 に名前 と住所 を書かないわ けに はいかないので、聞 き手 に選択 の余地 がない ことに変わ りはないが、例 えば筆圧 が弱す ぎ て複写がで きなかった とい うよ うな聞き手 に原 因がある場合 で も、聞 き手 にも う一度名前 と住所 を書 くとい う負担 が生ず る。

49についても、わ ざわ ざ三階の トイ レを使 うことを指示す る49はす ぐそ この トイ レを使 うよ う指示す る50に比べれ ば適格性 は高 くなる。通常以上 の何 らかの余分 な作業や負担が 発生す る場合であれ ば、Vテモ ラッテイイカは適格性 を増す ことがわかる。48の場合、も う一度書いて も らうのが業務担 当者 の側 の責任 でもある場合 には、聞 き手 に選択 の余地が ない ことには変わ りはないが、 さらに相手の負担感 が大 き く、話 し手 にも受益性 が生ず る ため、依頼 に近接す ることになる。その場合 でもこの表現 は可能 であろ う。 さらに話 し手 側 の過失が重大である場合 には、指示ではな くて依頼 とな り、 よ り丁寧な言語表現 が選択

され る可能性が高 くな る。

逆 にお客 さんが業務担 当者 にサー ビスの一環 として当然 の行為 を要求す る場合 は どうで あろ うか。例 えばタクシーの乗客が運転手 さんに行 き先 を伝 える場合、51のよ うなス トレー トな指示が 自然 で、52のよ うな言い方 は通常不 自然であると受 け取 られ る。一方初 めは別 の行 き先 を指定 していたにもかかわ らず、途 中で行 き先 を変更す る53のよ うな場合 には適 切 さが増す。

51.駅まで行 って くだ さい。

52.?駅まで行 って も らつていいですか。

53.やつぱ り、駅 まで行 ってもらつていいいですか。

先程 も紹介 したパ ンフ レッ トを持 ったお客 さんが旅行会社の窓 口で説明を求める37の うな場面では、54の よ うに言 った としてもそれ ほ ど違和感 を持つ人 は少 ないのではないだ ろ うか。

54.すみませ ん、 このツアー について説 明 して もらつていいですか。

55。 すみませ ん、 このツアー についても う少 し詳 し く説明 してもらつていいです か。

51・52については、通常運転手 さんに選択 の余地 はないが、53については途 中の行 き先 変更が難 しい場合 もあ りえる。54について も、説明を受 けること自体 は客 としての当然の 権利 であるが、その時、その相手 にその説明 をしてもら うことが必ず しも適切 でない場合 もあ り得 る。その よ うな配慮が働いた時、この表現 は可能 になる。さらに、55のよ うに通 常以上 の込 み入 つた説 明 を求 める場合であればなお さらである。

高梨 の56のよ うな状況 でも、通常であれ ば57は不 自然 となるが、車線や行 き先 の関係 で実現 が可能 か どうかはっき りしない場合 には可能 となる。

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56.次の信号 を右 に曲がつて くだ さい。(例文 は高梨。再掲)

57.次の信号 を右 に曲がって もらっていいです か。

即 ち、業務担 当者 として相手 に要求できる当然 の行為や客 として受けることができる当 然のサー ビスで、相手 に選択権がない場合 にはVテモ ラッテイイカは使いに くいが、何 ら かの事情 で通常の手続 きやサー ビス以上 の負担 を聞 き手 に強いる場合やそのタイ ミングで その間 き手 にある行為 を要求す ることが適 当か どうか とい う配慮が働いた場合 にはVテ

ラッテイイカの適格性 が増す ことになる。 これ は、社会的・状況的に当然要求できる指示 であつて も、余分 な作業が生 じた り、相手 に段取 りの変更が必要 になった りといつた負担 が生ず る場合 には、話 し手がそれ を相手の負担 によって 自分が恩恵 を受 ける と捉 えるため である と考 え られ る。

山田は依頼文 には意味的にはテモ ラウの意味が残 つていて、話 し手 にとって恩恵 とな ら ない事態 の生起 を求 める場合 には使 えない と述べてい ることは先 にも触れたが、指示であつ て も聞 き手 に本来以上 の負担 がかか る場合 には、そ うでない場合 に比べてそれ を話 し手 に とつて恩恵 となる事態であるかの よ うに述べ ることが可能 になることになる。逆 に言 えば、

恩恵的事態 でない場合 のテモ ラウは使役 の意味 を帯び、聞き手 に とってその行為 を達成す る以外 に選択肢 はない ことを含意 して しま う。それ故、その よ うな場面でVテモ ラッテイ イカ を用 い る と、選択権 がないのに選択 を求 める とい う不 自然 な表現 となるわ けである。

逆 に聞 き手 に とって好 ましい事態、あるいは聞 き手 の受益 になる事態である58や 60の よ うな指示 も、Vテモ ラッテイイカ を使 うと不 自然 な、場合 によつては聞き手の利益 をあた か も自分 の利益 のよ うに述べ る偽善的な印象 ともなる。

58.[歯科 医が患者 に]

今 日の治療 は終わ りです。今か ら2時間 ぐらいは飲食 を控 えて くだ さい。

(恩恵的指示〉(例文 は高梨。再掲)

59.?今日の治療 は終わ りです。今か ら2時間 ぐらいは飲食 を控 えてもらっていいで すか。

60。 夜 は冷 えますか ら、 このひ ざかけをお使 い くだ さい。

61.?夜は冷 えますか ら、 このひ ざかけを使 って もらっていいですか。

5.2  依頼

一方依頼 は、命令 。指示 に比べて話 し手の決定権 は弱 くな る。 とす ると砂川 の言 う相手 にイエスか ノーかの判断 を委ね る表現であるVテモ ラッテイイカは問題 な く使 えることに なる。例 えば62はイ ンタァネ ッ トのある掲示板 のタイ トルである。この場合、話 し手 の悩 み相談 を聞 くか どうかの決定権 は聞き手 にあ り、話 し手の強制力 は低い。 これ は砂川の考 察 と合致す る。

62.ち よつ と聞いて もらっていいですか?(悩み相談用掲示板 のタイ トル)

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それでは63・64065はどうであろ うか。 この例 も決定権が聞き手にあ り、話 し手の強制 力が低い とい う点では62と同様である。しかし、62に 比べ るとこれ らのほ うが不適切 さを 感 じさせ る。通常 62に 比べて 63か ら65の ほ うが聞き手の決定権が強いはずであるか ら、

この不適格 さを砂川の選択の余地の程度で説明す ることはできない。

63,?先生、アルバイ トを紹介 して も らつていいですか。

64.?先生、200円貸 しても らっていいです か。

65.?先生、 レポー トを書 くのに必要 なんで、いい本 を貸 してもららてぃいです か。

66.?先生、 アルバイ トを紹介 していただいていいです か。

67.?先生、200円貸 していただいていいですか。

68.?先生、レポー トを書 くのに必要なんで、いい本 を貸 していただいていいですか。

62は、悩み等 を相談で きるサイ トのタイ トル である。それ故、話 し手が聞 き手 に話 を聞 いて も らうよ うに依頼す ることはご く妥 当な、それ故 に必然性 のある行為である。一方63・

64,65のよ うに聞 き手 にアルバイ トを紹介 してもらった り、お金 を貸 して も らった りとい うよ うな依頼 は、通常前者 に比べて妥 当性 が低い。その よ うな場面でVテモ ラッテイイカ を用い る と自分 の依頼 を当然の ことと捉 えているよ うな失礼 な表現 となる。66・ 67・ 68の よ うに、テモ ラウの換わ りにテイ タダクを用いても、その失ネLさ は変わ らない。

しか し、69のよ うに前 に先生が話題 にしていたアルバイ トについて話す場合や、バスで お金 を払お うとした ときに、財布 を忘れ た ことに気づいた70のよ うな場面、さらには先生 が何冊か候補 の本 を持 つている と言 つた71の よ うな状況 であれ ば、Vテモ ラッテイイカは それ ぞれ適格性 を増す。

69.先生、い ろいろ考 えてみたんですが、 この前おっ しゃってたアルバイ ト、紹介 し て もらっていいですか。

70。 あつ、財布 がない !すみませ ん、先生、財布 を忘れたみたいなんで、200円貸 して もらつていいですか。

71.―今、 レポー トを書いて るんですが、資料がなかなか見つか らないんです。

一 そ う、私 の ところに何冊かあつたな。

一 じゃあ、いい本 を貸 して もらつていいですか。

この ことか ら、vテモ ラッテイイカがよ り自然 になるのは、何 らかの意味で話 し手がその 行為要求 を妥 当なもの、必然性 のあるもの と捉 えてい ることが要求 され ることがわか る。

この妥 当性 は、行為の内容 だけでな く、その場 の状況や話 し手 と聞 き手の関係 にも影響 を 受 ける。その よ うな条件 を満 たせ ばVテモ ラッテイイカは可能 となるが、もちろんその場 合で も、Vテモ ラエナイカのよ うな依頼表現の方が よ り適切 だ と感 じる人 も多いであろ う。

一方、行為 の内容や その場の状況、話 し手 と聞 き手 の関係 な どか ら、その依頼 の妥 当性が 低い と考 え られ る依頼でVテモ ラッテイイカを用い る と、押 し付 けがましい失礼 な表現 と なる。それ故、い きな りこの形が用い られ るとい うよ りは、行為要求の前提 となるよ うな

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静 岡大学国際交流セ ンター紀 要 6号

や りとりの後 で用 い られ る場合 も多い。

この依頼 の妥 当性 0正当性 は話 し手の強制力や聞き手 の決定権 に影響 を与 える面 はある が、妥 当性 が低 くて も両者の力関係 によつて話 し手 の強制力 が高 くなる場合 もあるし、妥 当性 が高 くて も、上下関係 によっては聞き手 の決定権 が高 くなる場合 もあるので、深い関 係 はあるものの、別 の要素であることがわか る。69070071についても、聞 き手である先 生 は通常断 る権利 があるわ けである。

いずれ にして も、Vテモ ラッテイイカが失礼 になるのは、選択 の余地がない場合 だけでな く、依頼 の妥 当性 が低い と受 け取 られ る場面であることが明 らかになった。妥当性 が低い 場合 には、よ り丁寧度の高い言語形式 を用い ることが要求 され ることになる。例 えば「10oo 円貸す」 とい う行為 を相手 に要求す る場合 であれ ば、72よ りも73か75のよ うな、よ り 丁寧度が高い表現 が適切 であることになる。

山田の指摘 の よ うに依頼文 に意味的 にはテモ ラウの意味が残 つているのであれ ば、指示 よ りも受益性 の高い依頼のほ うが この形式 を使 えそ うにも思われ るが、話 し手 に とつて恩 恵 となる事態 であるか どうか以上 に、 このよ うな行為要求 の妥 当性・正 当性 とい う制約の 方が大 きい ことがわかる。

また、行為要求の妥 当性 が高 けれ ば、イエス といわれ る可能性 もそ うでない場合 よ りは 高 くなる と予測 され る。即 ち、相手がイエス と言 つて くれ るのでは とい う前提・期待 が話 し手 にある場合 にこの表現 が用い られやすいのではないか と思われ る。

72.?すみませ んが、100o円貸 してもらっていいですか。(許可求め)

73.すみませ んが、1000円貸 してもらえませ んか。(依) 74。 すみませ んが、100o円貸 してもらえないで しょうか。(依) 75。 すみませ んが、100o円貸 してもらえると助か るんですが。(依)

5.3  その他の行為要求

勧 め、許可、許容 は、基本 的 には話 し手ではな く、聞 き手 に とつて受益 になる行為であ る点 で、命令・指示や依頼 と異なる。76077はそれぞれ勧 め、許可の例 であるが、78の うに どち らもVテモ ラッテイイカは使 いに くい。

76.[立ってい る客 に対 して]ど うぞ こち らにお座 りくだ さい。(勧)

(例文は高梨、再掲)

77.[「 座 ってもいいか」 と尋ねた客 に対 して]ど うぞ こち らにお座 りくだ さい。

(許)(同)

78.?ど うぞ、 こち らに座 つて もらっていいですか。

79。 どうぞ、お疲れで しょうか ら、 こち らに座 つて もらっていいですか。

80.寒いので中で待 つてて もらつていいですか。

許可 については、Vテモ ラッテイイカが、許可 を求める表現 であることか ら、許可 を与 え る表現 として用い ることはできない し、許容 についても、 もともと働 きかけをせず に相手

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の してい ることをそのままにしてお くことを表す ことか ら、78のよ うに許容 としてVテ

ラッテイイカ を用い ることはできない。 当然、79080も許可や許容 とは解釈 で きない。

勧誘 については「いつしょに」とともに81のよ うに用い ることは可能 ではあるが、勧誘 が聞 き手 と話 し手両方 が受益者 であるのに対 し、テモ ラウが話 し手 の受益性 を表す ため、

依頼 として解釈 されやすい と思われ る。

81。 いつし ょに行 つてもらつていいですか。

5.4 Vテ モラ ッテイイカの心理

以上 の考察か ら、Vテモ ラッテイイカが適格 となる行為要求は、話 し手 に とつて都合 のい い事態 の実現 を望む指示 の うち、何 らかの事情 で通常の手続 きやサー ビス以上 の負担 を聞 き手 に強い る場合や そのタイ ミングである行為 を要求す ることが適 当か どうかな どの配慮 が働 いた場合 と、依頼 の うち、相手 の負担 がそれ程大 き くな く、何 らかの意味で話 し手が その行為要求 を妥当なもの、必然性のあるもの と捉 えてい ることが要求 され ることがわかつ た。 この両者 は依頼 の場合 はもちろん、社会的・状況的 に当然要求できる指示であつて も、

それ が話 し手 に とつて何 らかの意味で受益性 が生ず る事態 であると話 し手 が捉 えてい るこ とを表す。

一方、聞 き手 に とつて都合 のいい事態 の実現 を要求す る指示や、話 し手 に とつて都合の いい事態 であっても、業務担 当者 として相手 に要求で きる当然の行為や客 として受 けるこ とができる当然 のサー ビスその もので、相手 に特別 な負担がない場合や、相手の大 きな負 担 によつて話 し手が利益 を受 ける依頼、妥 当性 。必然性 が低い依頼 には使 いに くい。

つ ま り、Vテモ ラッテイイカは、聞 き手 に決定権があるか否かにかかわ らず、聞 き手 が行 為要求 に社会通念上、あるいはその状況 において、何 らかの意味で妥 当性 。正 当性がある と判 断 され ると話 し手が考 える、話 し手 に とって実現 が好 ま しい行為で、そ こにそれ ほ ど 大 き くはないが通常以上の負担が聞 き手 に生ず る場合 の行為要求 に用い ることができるこ とになる。その場合、テモ ラウとい う受益 を表す形式 を用い ることでその負担 によつて話 し手が恩恵 を受 けることを示す とともに、許可求め とい う形式 を用いて聞 き手 に決定権 を 委ね ることによつて、聞 き手 に配慮 した言い方 となるのである。別 の言い方 をすれ ば、行 為要求 に正当性 があ り、相手 にそれ ほ ど大 きな負担 を強いないか らこそ、依頼ではな く、

許可求 めの この形式が適格 となるわけである。

また、 あ くまで形 の上では許可 を求 めてい ることか ら、相手 にイエス/ノーの判断 を下 す権 限があるわ けで、仮 にそ うい う権 限のある相手 にノー と言われて も、依頼 を断 られ た 場合 に比べれ ば傷つ く度合いは低い とい う面 もある。そ こには、ただ単 に自己の要求 の正 当性 を押 し立て るのではな く、正当性 を示 しつつ、遠慮 がちに相手 の意向 を確認 しよ うと い う話 し手 の心理 が働 いてい ると言 える。

以上の考察 をま とめたのが82であ り、83はそれ ぞれ の例文である。

参照

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