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認知文法における副詞の意味構造

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(1)

認知文法における副詞の意味構造

古 賀 恵 介

0.序

英語に限ったことではないが、副詞という品詞は何とも特徴づけの難しい品 詞である。副詞というカテゴリーの構成メンバーをなす語の意味的・統語的性 質が極めて多岐にわたっており、一見すると雑多な要素の寄せ集めにしか思わ れないからである。(そのため、“品詞分類のごみ箱”などと揶揄されることも あるくらいである。)全体に共通する特性を敢えて言うとすれば、「名詞以外の 構成素を修飾する (“adverbs function as modifiers of constituents other

than nouns”)」(Schachter and Shopen

(2007))というくらいであろうか。

しかし、この「名詞以外の構成素を修飾する」という、それ自体としてはネガ ティブな定義は、認知文法の立場からすればズバリ真実を突いていることにな る。なぜなら、名詞とそれ以外の構成素の違いを説明できる概念的区別を理論 的に提示できれば、この定義は副詞全体をポジティブにカバーする定義に転化 するからである。

では、認知文法では名詞とそれ以外の構成素の区別をどのように理論的に説 明しているのであろうか?認知文法では、すべての語が表す概念はモノ概念か または関係概念であり、前者は名詞により、後者はそれ以外の品詞によって表 されると仮定している。それゆえ、「副詞は関係概念を修飾する語である」と

福岡大学人文学部准教授

(2)

定義することができるのである。品詞論の全体像からこの点をはっきりさせる ために、認知文法での英語の主要品詞分類の大雑把な全体像を示すと、以下の ようになる。

(1)名詞:モノ概念を表す

(2)モノ概念をトラジェクターとする(つまり修飾する)関係概念を表す

a.

形容詞:静的に捉えられた関係概念を表す

b.

動詞:動的(走査的)に捉えられた関係概念を表す

(3)副詞:関係概念をトラジェクターとする関係概念を表す

(4)前置詞:ランドマークが直接顕在化する関係概念

この内容の詳細は次節で説明することになるので、ここではとりあえず、認知 文法の枠組を用いれば副詞という品詞の全体像をその概念構造から捉えること ができる、という点を理解していただければよいと思う。

しかし、その一方で、副詞という、雑多なメンバーを含むカテゴリーの内部 分類については、認知文法ではこれまで実質的に何も語られて来なかったと言っ てよい。認知文法でこれまでに行なわれてきた研究では、名詞・動詞・前置詞 の意味構造や

grounding

のあり方についての分析が中心的な話題を占めてき たためか、名詞の可算・不可算、動詞の他動性やアスペクト、前置詞の意味の 多義性とプロトタイプ構造、時制や法助動詞の意味といった問題については詳 細にわたっての考察が数多く積み重ねられてきている。ところが、副詞に目を 転じてみると、(3)のような基本的な定義が述べられるのみで、更なる下位分 類やその詳細な意味構造の分析は全く見られないと言っていい状態である。

(Langacker(1987; 1990; 1991; 2000; 2008)、Taylor(2002)、Radden and

Dirven(2007)

、テイラー

&

瀬戸(2008))それも、伝統文法家

Curme(1935)

の直観的分類に始まり、Greenbaum(1969)や

Quirk et al(1985)に代表さ

れる (特定の理論に依拠しないという意味での) 非理論的研究や、Keyser

(1968)に始まる生成文法を理論的枠組とする諸研究により、副詞カテゴリー

(3)

の下位分類の階層的内部構造のあり方がかなり明らかになってきているにも拘 らず、なのである。

そこで、本稿では、副詞の内部分類とその各下位類の概念構造の特徴を整理 しながら、副詞の全体像を認知文法の枠組を用いて描き出してみたいと思う。

以下、第

1

節では、認知文法における統語構造論の大まかな説明と、副詞の基 本的な定義について考察する。そして、第2節、第3節、第4節では、それぞ れ、副詞の大分類である客体描写副詞・文副詞・接続副詞について詳述する。

特に、第3節では、文副詞が文の意味の主観性領域を修飾する副詞であるため、

その意味構造の特徴が、筆者の提唱する三層構造仮説の考え方に非常によく符 合するという点に重点を置いて論述を進めたいと思う。

1.認知文法の統語構造論と副詞

認知文法の統語構造論については、Langacker(1987)以来、認知言語学の 世界の中では半ば常識となりつつあるが、議論の便宜上、必要最低限の内容に 絞って、ここで敷衍しておきたいと思う。(詳細は

Langacker(1987, 1991, 2008) , Taylor(2002) , Radden and Dirven(2007)やその他の関連文献を参

照のこと。

認知文法では、すべての言語表現は何らかの概念(concept)に対応すると 考えるのであるが、 その概念内容の中に、 概念的際立ち (conceptual sali-

ence)が与えられる部分とその背景をなす部分があると仮定している。前者を

プロファイル(profile)、後者をベース(base)と呼ぶ。例えば、名詞は、典 型的には、物体(e.g. 本、机、椅子)を表す言葉であるが、物体とは、物理

なお、副詞(単独副詞:adverbs)という単一語の形ではなく、句・節の形で現れる副 詞的要素・副詞類(adverbials)に関しても本稿での議論が基本的に成り立つので、本来 なら併せて総合的に取り上げるべきであるが、スペースの関係上、特に必要なもの以外は 議論を割愛する。

(4)

的空間の中で何らかの形でカタマリをなしている存在のことである。すなわち、

典型的な名詞は、物理空間の中のカタマリをプロファイルし、それを包む物理 空間やその諸特性(材質・機能など)に関する知識がそのベースをなしている、

というふうに考えることができる。もちろん、非典型的な名詞になると、それ 自体としてはカタマリをなしているわけではない諸要素を、人間の側の主観的 な解釈(construal)によって強引にまとめ上げ、一つのカタマリになぞらえ てプロファイルするような場合もある。例えば、「星座」などは、それ自体と しては互いに何の関連も無い星々を、人間の側で便宜的に結びつけて捉えて、

カタマリ(或いはマトマリ)としてプロファイルしたものである。また、名詞 の意味のベースをなすのは物理空間だけではない。時間をベースにしたカタマ リとしては、「日」「月」「年」のような期間が考えられるし、「会議」「授業」

のように、時間・空間の両方にある程度の拡がりを持ち、その中で人間の活動 が展開されるイベントのようなものもある。Langackerは、名詞が表し得る このような多様な概念を総称して

thing

と呼んでいる。ここでは、慣例に従っ て、Langacker

thing

という概念を「モノ」と呼ぶことにする。従来から よく言われている「名詞はモノを表す」という定義は、ここで述べたようなプ ロファイルとベースの幅広い認知的多様性を含めるならば、正しい定義である と言える。

認知文法理論では、名詞・代名詞以外の品詞は、関係(relation)概念をプ ロファイルするものとされている。形容詞であれば、モノと他の何らかの概念 の間に成り立つ関係を表すものとされており、例えば、the red carというフ レーズにおける

red

は、車というモノと、《色彩》という認知領域(cognitive

domain)における赤の領域との間の結びつきをプロファイルしていることに

なる。更に、関係概念においては、その関係の担い手のうちの一つが主、その 他が従属的な位置づけを与えられる。 主になる 担い手をトラジェクター

(trajector)、従属的な担い手をランドマーク(landmark)と呼ぶ。

the red

(5)

car

では、車とその色が

red

という語により関係付けられているわけだが、こ の形容詞は車の色を叙述することを目的として使われているのだから、車がこ の関係の主たる担い手である。それゆえ、この場合、車がトラジェクターであ ると言える。

形容詞には、名詞を直接修飾する限定用法と、述語として機能する叙述用法 がある。

(5)a. the red car(限定用法)

b. The car is red.

(叙述用法)

この違いは、形容詞が名詞と組み合わされて複合表現の中で用いられた際に、

トラジェクターである名詞が全体のプロファイルを担うのか、それとも形容詞 の方が全体のプロファイルを担うのか、の違いである。限定用法においては、

形容詞・名詞ともにそれぞれ独自のプロファイルを持つが、統語構造の中で結 びついて複合表現を形成した場合には、そのどちらかのプロファイルが全体の プロファイルとなる。この、全体のプロファイルを決める要素のことをプロファ イル決定素(profile determinant)と呼ぶ。例えば、(5a)は全体としては、

《赤い》という属性ではなく、車という物体のことを表す表現となっているの で、(5a)全体のプロファイル決定素は

car

である。(冠詞の問題はここでは省 略する。)それに対して、(5b)は全体として「車が赤い」という属性関係を述 べた表現になっているので、この叙述全体のプロファイル決定素は

red

である。

(be動詞の取り扱いの問題も省略する。)このように、複合表現を構成する各 語は、それ独自のプロファイルを持っているとともに、複合表現の中で全体の プロファイルを担ったり、逆にベースの一部に格下げされて背景化したりして、

全体の意味構造に対して独自の部分的貢献を行なうようになっているのである。

ここで、《修飾》という構造が認知文法的に説明されているという点にも注 意すべきである。the red carにおいて、red

car

を修飾するのは、redとい う関係概念が

car

をトラジェクターにとり、しかも、red自身は非プロファイ

(6)

ル化されているからである。このように、認知文法では、複合構造

AB

にお いて、関係概念

A

B

をトラジェクターとし、それ自身はプロファイル決定 素にならない場合、「A

B

を修飾する」というのである。では、以上のよう な概念装置を踏まえた場合、副詞の意味構造はどのように説明されるであろう か?

序でも述べたように、認知文法では、副詞は、《関係概念をトラジェクター にとる関係概念》であり、かつ複合構造においてはプロファイル決定素になら ないものを表す品詞であると考えている。そのため、副詞が動詞・形容詞など 関係概念を表す要素を修飾するという機能を持つのは、認知文法の立場からす れば当然のことである。

(6)a. The car moved slowly.(動詞を修飾)

b. The problem is extremely difficult.

(形容詞を修飾)

c. He ran remarkably fast.

(副詞を修飾)

d. Fortunately, her illness was not serious.

(文を修飾)

ただ、副詞のトラジェクターとなる関係概念は、(6)にあるような動詞・形容 詞・副詞・文や、前置詞句・従属節などの複合表現も含まれるなど、極めて多 岐にわたっている。その結果、副詞は他の品詞に見られないような意味的・統 語的性質の多様性を持つことになっているのである。

それでも、これまでの研究から、このように多様な副詞も、文の意味の階層 構造に対応する形である程度わかりやすく分類できることがわかってきている。

(ここで、「文の意味の階層構造」とは、文が表す意味を、命題内容とそれに対 する話し手の態度(モダリティー等)に分けて捉える考え方である。)例えば、

副詞の中に、単純副詞(simple adverb)、文副詞(sentence adverb)、接続副 詞(conjunctive adverb)という分類を直観的に提唱したのは

Curme(1935)

であったが、Greenbaum(1969)は、その分類を大まかに継承しつつも、文 の中で独立の構成素となり得る副詞を副詞類(adverbial)と呼び、それを以

(7)

下のように分類して、それぞれの統語的特徴の詳細な分析を行なった。

(7)a. 付加詞(adjunct):carefully, completely, intentionally, etc.

b.

離接詞(disjunct):fortunately, surprisingly, probably, etc.

c.

合接詞(conjunct):therefore, thus, furthermore, however, etc.

この分類の背後にある言語直観は、付加詞は、命題内容の中身に情報を付加す る要素であるのに対して、離接詞は、命題内容の外に立って、その真偽や評価 に関する話し手のコメントを付加する要素であり、合接詞もまた命題内容の外 から、先行文脈との連携のあり方を示す要素である、というものである。これ 以降の副詞の研究は、この直観と分類を大枠として継承しつつ、それぞれの類 を更に下位分類したり、種々の理論的な立場から詳細な意味的・統語的分析を 行なってい くものであっ た。(Jackendoff(1972)

, Travis

(1988)

, Ernst

(1998)

, Shaer(1998) , Cinque(1999);ほかに、統語論の樹状統語構造を前

提としながら、意味階層の分析に重点を置いた澤田(1993)の日英語の意味論 的研究など)

ここで、付加詞と離接詞・合接詞の質的相違を認知文法でどう捉えるか、と いう問題を取り上げておかねばならない。これは簡単に言えば、「命題内容の 内と外」という直観をどのように理論的に説明するかということである。

既存の認知文法の考える英語の統語構造モデルでは、動詞の項や修飾部が完 全に具現化され、いわば命題内容を表す要素がすべて実現された段階(fully

instantiated process) で、 時制辞または法助動詞によりグラウンディング

(厳密に言うと節グラウンディング(clausal grounding))という操作がなさ れ、 定形節の構成が完成する。 グラウンディングというのは、 グラウンド

(Ground)と呼ばれる、話し手・聞き手・発話環境を含んだ発話場面認識と、

文で描写される事態の認識を結びつける認知操作であり、これにより、特定の

Greenbaum(1969)では、very beautiful

very

のように、形容詞や他の副詞を直接 に修飾し、生起する位置が一つに限定されている副詞は、副詞類からは外されている。

(8)

事態描写(=命題内容)に発話場面との間の時間的・認識的位置づけが主観的 になされる。このようにして、いわば一人前の定形節(finite clause)として の性格が付与されることになるわけである。これは、言語直観としては、前に 述べた、文の意味を命題内容とそれに対する話し手の態度に分けて把握する考 え方と同じものであると言ってよい。但し、認知文法では、事態描写は客観的・

対象的(objective)な要素であるのに対して、グラウンドは主観的(subjec-

tive)な要素である、と考えられており、両者はその認知的な性格が大きく異

なっているものとされている。(グラウンディングに関する

Langacker

の最新 の考え方については

Langacker(2008: Ch. 9)を参照のこと。

以上のような理論的枠組を前提にすれば、「命題内容の内と外」というのは、

それぞれ事態描写の中とグラウンディングの中ということになり、Curme

(1935)や

Greenbaum(1969)が提唱した大分類は、認知文法の中では以下

のような形で捉えることができるものと思われる。

(8)a. 客体描写副詞(客体描写内容を修飾)

b.

文副詞(グラウンディングを修飾)

c.

接続副詞(グラウンディングを修飾)

d.

その他(焦点副詞、否定副詞)

「客観的」という用語は誤解を招きやすいし、また「対象的」という語も、その意味す るところが今一つはっきりしにくいということがあって、筆者自身は、「客体的」という 言い方を好んで用いるようにしている。以後の論述でも「客体的」という用語を用いるこ とにする。

焦点副詞(focus adverb)は、Greenbaum(1969)では付加詞の一種に分類されてい るが、名詞句を修飾する(ように見える)使い方があるという点や、焦点化(focusing)

という、通常のグラウンディングとは別に主観性領域に関わる特殊な機能を持っていると いう点で、他の副詞とは大きく性質を異にしている。

(i) a. We talked with only the manager.

b. Even the chairman didn't agree with us.

例えば、上の only や even は名詞句を修飾しているように見える。修飾しているのが「名 詞」ではなく「名詞句」であるという点で形容詞とは異なっているが、その一方で、トラ ジェクターに関係概念をとっているのではない(ように見える)という点で、通常の副詞 とも異なっているのである。この種の特殊な副詞については、「焦点化」の意味構造自体

(9)

客体描写副詞は、文の事態描写の一部である動詞・形容詞・副詞句などを修飾 し、ランドマークにおいてその程度・様態などの情報を表す。文副詞は、グラ ウンディング(話し手の事態認識・発話態度)を修飾し、ランドマークにおい て事態に対する感想や事態の真偽に対する確信の度合いなどを表す。接続副詞 も同じくグラウンディングを修飾し、先行文脈の内容をランドマークとして、

その間の種々の関係を表す。

ここで、グラウンディングの一部として「事態認識」や「発話態度」という のを持ち出してきたが、これは、筆者が提唱する三層構造仮説(古賀(2004;

2005)

)の概念であり、Langackerの枠組にはないものである。そこで、これ

についても一言説明を加えておきたい。

筆者は、グラウンディングに限らず、語から文に至る言語表現の様々な単位 において、明示的・暗示的に現れてくる意味の主観性表現(話し手の主観的な 認識の顕れ)を理論的に統一した形で捉えるために、古賀(2004)において、

「言語は、語から文に至るまでのすべての表現単位において、客体描写・認識 態度・伝達態度の3つの意味階層を持ち、そのうちのいずれかにプロファイル を持つ」との仮説(意味の三層構造仮説)を提示した。

の分析も含めて、別途考察の必要があるので、本稿では取り上げない。

また、否定副詞も、否定概念自体の詳しい検討が必要なので、ここでは割愛する。

(10)

そして、古賀(2005)では、この仮説に基づいて、文全体の意味の三層構造の あり方を、事態描写・事態認識(中核事態確定・時制認識・事実性判断)・発 話態度に分け、ごくごく簡単ながら、文副詞の振舞いや非叙述形式の文(挨拶 言葉や一語文)の意味構造の分析などを行なった。

更に、古賀(2006)では、挿入節が、主文の主観性領域を客体化して表す働き 一般的な意味の三層構造 文の意味の三層構造

客体描写 事態描写

認識態度 事態認識

伝達態度 発話態度

古賀(2005; 2006)では、「事態認識」という用語はまだ用いておらず、(文レベルの)

「認識態度」と呼んでいたのだが、ここでは話が混乱しないように「事態認識」という用 語で統一した。

S H

⹺⼂ᘒᐲ

⴫⃻ᘒᐲ

⊒⹤႐㕙 ቴ૕ឬ౮

ኻ⽎႐㕙 ኻ⽎

࿑㧝

(11)

を持っていること、そして、それらが、大きく分けて、事実性判断のあり方を 客体化して表すものと発話態度のあり方を客体化して表すものの2種類になる ことを明らかにした。また、挿入節のうち、主語指向型は、事態認識の拠って 立つ立場と発話態度の拠って立つ立場が異なっているという極めて特殊な表現 法であり、描出話法(自由間接話法)と実質的に同じ表現構造を持ったもので あるということも示した。以上のこと(特に最後に述べた主語指向型挿入節の 意味構造の捉え方)は、文の意味の主観性領域をモダリティやグラウンドといっ た単一的領域としてではなく、事態認識と発話態度という明確に区分された二 つの階層として捉えるべき有力な証拠であると、筆者は考えている。このこと の意義は、特に第3節の文副詞の分析において明らかになると思われる。

では、以上のことを踏まえた上で、次節以降で具体的な副詞の意味構造分析 を行なってみよう。

2.客体描写副詞

客体描写副詞は、更にその具体的内容面から、程度・様態・場所・時間・頻 度に下位分類することができ、そのトラジェクターおよびランドマークのあり 方から統語的な振る舞いに差異が見られる。例えば、基本的に、程度・様態の 副詞は動詞(句)・形容詞・副詞(相当句)を直接修飾するので、無標の語順 ではその修飾先の語句の周囲に現れる。特に、-lyで終わる副詞は出現位置に 関する柔軟性が高く、動詞句の前にも現れることができる。

(9)a. He runs fast.

これは、副詞の中に、修飾先との位置関係に関して慣用的制約のあるものがあるからで あろう。基本的に以下の3種類が考えられる。

(i)

a.

先行型:

very beautiful *beautiful very b.

後続型:

He runs fast. *He fast runs.

c.

両用型:

He slowly runs. He runs slowly.

-ly

型副詞は、特に他の制約がなければ、修飾先との位置関係は先行・後続両用になって いる。

(12)

b. *He fast runs.

(10)a. He has opened the door slowly.

b. He has slowly opened the door.

しかし、以下のように、動詞との間が助動詞によって隔てられると容認性が落 ちてしまう。

(11)a. *He slowly has opened the door.

d. *He must slowly have opened the door.

それだけ動詞との間の概念的結びつきが密接だということである。更に、動詞 の項(必須要素)となっているものは、動詞の前ではなく後に現れることが要 求される。(Jackendoff(1972: 68))

(12)a. John worded the word carefully.

b. *John carefully worded the word.

(cf.*John worded the word.)

(13)a. Steve dresses elegantly.

b. *Steve elegantly dresses.

(cf.*Steve dresses.)

項と動詞の結びつきは通常の随意的修飾部の場合よりも更に強力なので、動詞 より後の位置が要求されるのである。(このことは、動詞に対する様態副詞の 修飾位置は後続が基本であるということを意味している。

そ れ に 対 し て 、 時 間 ・ 場 所 の 副 詞 の う ち 、 事 態 が 展 開 す る 舞 台 設 定

(setting)になっているものは、事態そのものとの概念的結びつきが程度・

様態副詞よりも希薄であり、また、事態描写の導入部として機能しやすいので、

前置して主題化することが比較的容易である。

事態概念における舞台設定(setting)と参与者(participants)の概念的区別に関して は Langacker(1991)等を参照のこと。

様態副詞でも、-ly 型のものの一部は前置が容認されることがある。

(i) a. Slowly he pulled on the ribbon shirt, the buckskin vest, the colorful

(13)

(14)a. He will come here tomorrow.

b. Tomorrow, he will come here.

(15)a. He is working hard over there.

b. Over there, he is working hard.

但し、時間に関わる副詞でも、頻度の副詞の場合は、事態そのものとの結びつ きよりも、時制との概念的関係の方が緊密であるためか、グラウンディング表 現(時制辞・法助動詞)に隣接する位置が好まれる。(もちろん、文頭・文末 やそれ以外の位置にも現れ得るが。

(16)a. He always drinks here on weekends.

b. He would often drink here on weekends.

このような統語的振る舞いは、副詞とその修飾先の間の概念的近接性を統語 的に反映したものであり、文法現象の各所に顔を出す図像性(iconicity)の原 理の一つの顕れと考えることができる。これは、簡単に言えば、意味的に近い ものは形式上も近くに、 遠いものは遠くに配置する、 ということである。

(Taylor(2002: 46-48))そもそも、英語の標準的文構造においては、主語・

目的語・補語・補文や一部の副詞・前置詞句は動詞の意味の中の必須要素を成 し、一般に項(argument)と呼ばれている。これらは、文の(客体描写的)

意味のいわば中核部分を構成する要素である。それ以外の、必須ではない補足 的な情報を表す要素は付加部(adjunct)あるいは修飾部(modifier)と呼ば

beaded armband and the war bonnet.

b. Quietly, he signed again.

これは、主題化というよりは焦点化(focusing)の一種であろうと思われるが、どういう 要因で様態副詞の一部のものにのみ焦点化が許されるのかは、まだよくわからない。ただ、

この種の前置を許す副詞として Jackendoff(1972)が挙げているもの(iia)を見ると、行 為の外観を描写する性格が強いものであるということがわかる。

(ii)a. quickly, slowly, reluctantly, sadly, quietly, indolently

b. completely, easily, purposefully, totally, altogether, handily, badly, mortally, tremendously

それに対して、前置できないものとして挙げられている副詞(iib)は、程度や内的・機能的 特徴を表すものである。以上の事柄も含めて、この点に関しては更なる考察が必要である。

(14)

れ、文構造の中では周辺的な働きをなすものとして扱われる。 そして、英語 の標準的語順においては、主語と中核述語(動詞・形容詞・述語名詞)の後に、

主語以外の項がある場合はそれが来て、続いて修飾部が配列されるという形を 取る。グラウンディング表現は、述語動詞の時制形かまたは法助動詞として主 語に後続する位置に現れる。それゆえ、副詞が修飾先との概念的近接性をでき るだけ形式上に反映しようとすれば、上に述べたような統語的位置を取ること になるのである。

これは、次節以降で検討する文副詞・接続副詞についても成り立つ事柄であ る。10

3.文副詞

文副詞は、文を修飾する要素であるから、単純に考えれば、文をトラジェク ターとする副詞というふうに言いたくなるところである。しかし、種々の文副 詞の統語上・意味上の特性を見てみると、事はそう単純ではないことがわかっ てくる。前節で述べたように文の意味が多層構造をなしており、文副詞は、主 にその主観性領域(事態認識・発話態度)に結びついているからである。それ ゆえ、主観性領域のどの部分にどのような形で文副詞の意味構造が関わってい るのか、という点を具体的に取り上げて検討していく必要がある。

認知文法では、項のことは

complement、付加部・修飾部のことは modifier

と呼んで いる。前者の

complement

は生成統語論の用語(補部:complement)との混同が起きや すいので、ここではその使用を避け、項という意味論由来の一般的な呼び名を用いている。

また、項と修飾部の違いは、これを生成統語論でのように樹状構造的に定義しようとする と、絶対的な違いとならざるを得ないが、認知文法では、あくまで、プロファイル決定素 に対する概念的依存度(conceptual dependency)の程度の違いとして考えるので、両者 の境界線はあくまで相対的なものであると考えている。詳細は

Taylor

(2002)や

Langacker

(2008)などを参照のこと。

10但し、(14b)(15b)のように文頭位置に前置されるケースに関しては、主題化・焦点化 などの伝達態度を表す機能が関わっているので、本稿の中だけでは十分に議論することが できない。従って、この点は、主題化・焦点化という文法機能を包括的に論じる中で、別 途考察に付したいと思っている。

(15)

通常、文副詞の代表的なものは、以下の例のように、文の表す内容に対する 話し手のコメントや態度を表すとされる。

(17)a. Unfortunately, the fire spread much faster than anyone had

imagined.

b. Probably, he is the only one among us who can pass the test.

c. Frankly, you should have asked her to marry you.

(17a)のタイプは、文の表す事態に対する話し手の評価を表すので評価副詞

(evaluative adverb)、(17b)のタイプは文の表す事態の真偽に関する確信の度 合いを表すので法性副詞(modal adverb)、(17c)のタイプは発話態度のあり 方を示す働きをするので態度副詞(attitudinal adverb)と呼ぶことにしたい。

これらの副詞は、いずれも事態認識や発話態度と関係しているため、(18a)の ような挿入的に用いられる場合を除けば、グラウンディング表現に隣接する位 置か、または、文頭・文末の、文の中核部分からは区切り出された位置(つま り事態描写の外側)に置かれることが好まれる。

(18)a. The fire spread much faster, unfortunately, than anyone had

imagined.

b. He is probably the only one among us who can pass the test.

c. You should have asked her to marry you, frankly.

(18b)のようにグラウンディング表現に隣接する位置に現れ得るという事実が、

これらの副詞が単純に“文全体”を修飾しているわけではないということを示 している。修飾先は、あくまで文の主観性領域、つまりグラウンディング表現 なのである。

では、個々のタイプの文副詞を個別に見てみよう。まず、評価副詞はその意 味的特徴から更に大きく二つに分けることができる。行為者指向的なものと、

非行為者指向的なものである。

(16)

(19)行為者指向的評価副詞:

carefully, cleverly, cunningly, foolishly, prudently, reasonably, shrewdly, wisely, etc.

(20)非行為者指向的評価副詞:

amazingly, annoyingly, fortunately, happily, incredibly, ironically, luckily, naturally, oddly, regrettably, surprisingly, unbelievably, understandably, correctly, justly, rightly, etc.

非行為者的評価副詞が当該事態そのものに対する評価のみを表す副詞であるの に対して、行為者指向的な評価副詞は、当該動作そのものとそれを行なう人物 に対する評価を表すものである。それゆえ、当然のことながら後者は意図的な 動作を表す文にしか用いられない。

(21)a. Regrettably, it rained very hard yesterday.

b. *Cleverly, it rained very hard yesterday.

また、あらためて言うまでもないが、評価副詞の大半は、様態副詞としての用 法も持っている。(と言うよりも、様態副詞が評価を表す用法に転用されてい ると言った方がいいであろう。)それゆえ、行為者志向的評価副詞が(22a)

のように中位置をとった場合には、様態副詞としての用法と区別がつきにくく なることもある。

(22)a. He has cleverly opened the box. (= b or c)

b. He cleverly has opened the box. (= d)

c. He has opened the box cleverly.(

「賢いやり方で」:様態副詞)

d. Cleverly, he opened the box.(「賢いことに」

:評価副詞)

それでも、(2b)のように、助動詞によって動詞から隔てられれば、評価副詞 としての解釈のみが容認されることになる。

評価副詞は、その意味だけを見ていると、一見、主観性領域ではなく事態描 写のみを修飾しているように思われる。だが、実はそうではない。評価副詞は、

(17)

事態描写の事実性認定(事態描写を現実スペースの中に位置づけるという認知 操作11:事態認識の一部)と、それを聞き手に向かって主張するという発話態 度に結びついており、それを介して間接的に事態描写につながっているのであ る。そのことは、事態描写が事実であることが前提されないような環境(仮定 文)や、主張という発話態度がない文(疑問文・命令文)では容認されないと いう事実からわかる。

(23)a. *If John were sane, he would {*fortunately/*surprisingly/

*luckily} accept the offer.

(Bellert(1977: 345)

b. {*Cleverly/*Wisely/*Carefully}, did John examine all the

cases?

(岡田(1985: 106)

c. *Has John surprisingly arrived?

(Bellert(1977: 343)

d. *Annoyingly, do it at once, John.

e. *Foolishly, let's do it at once.

(d)(e)

- , Greenbaum

(1969: 112) 筆者は、古賀(2005)で、事態描写は事態認識に、また事態認識は発話態度に、

それぞれ概念的に包摂されるという考え方をとったが、このアイデアに従えば、

評価副詞は、直接には主観性領域(事実性認定とその主張)を修飾しながら、

その中に含まれる事態描写と、おそらくは活性領域(active zone)という形 で繋がっているということになるであろう。

評価副詞が事実と認定された事態描写に対する評価を表すのに対して、法性 副詞(modal adverb)は、事態描写の真偽に対する確信やそれを主張する強

11現実スペースとは、メンタルスペース(Fauconnier(1985))の一種で、話し手が現実 であると考えている(或いは、表現の便宜上そのように装っている)認識空間のことであ る。認知文法は、当初の頃から、メンタルスペース理論を組み込んだ形で理論構築がなさ れてきている。(Langacker(1991; 2008)

(18)

さを緩和したり補強したりする。

(24)a. Probably, John won't accept the offer.

b. Possibly, Bill may have failed the test.

c. Clearly, his answer is wrong.

ただ、注意しておかなければならないのは、法性副詞の場合、事態描写は必ず しも現実スペースの中に位置づけられていなくてもよく、(30a-b)のように想 定や推測などであってもよい。更には、反実仮想スペース(counterfactual

space)の中に位置づけられていてもよいのである。これは、評価副詞と好対

照をなすところであろう。(cf.(23))

(25)a. If John were sane, he would {probably/certainly/evidently}

accept the offer.

(Bellert(1977: 345)

b. *Has John {probably/certainly/evidently} come?

(Bellert(1977: 343) 但し、《主張》という発話態度を欠く文、例えば疑問文では、評価副詞と同様 に容認されない。12 つまり、評価副詞も法性副詞も、《主張》という発話態度と 分かち難く繋がっているということである。

法性副詞のランドマークは、当該事態があり得るかどうかに関する話し手の 確信の度合を表す尺度である。この尺度は話し手自身のものでなければならず、

それ以外の人物の尺度を基準にすることはできない。

(26)a. *Possibly/*Clearly/*Allegedly/*Really for him, the train was

late, too.

b. He was late in getting to the station, but fortunately for him,

12但し、possibly

perhaps

は確信の度合が低いためか、この限りではない。

(i)

a. Does he possibly know where she could have gone?

b. Is Mary at home, perhaps?

(b)

, Quirk et al.

(1985:620) それゆえ、これらは、その意味構造の中で、発話態度とは繋がっていないと考えるべきか もしれない。

(19)

the train was late, too.

((a)(b)

- ,

岡田(1985: 102) これは、評価副詞と好対照をなす点である。評価副詞の場合、(26b)にあるよ うに、必ずしも「話し手にとっての」評価である必要はなく、話し手以外の人 物の目から見た評価を表すこともできるからである。

これまで見てきた評価副詞と法性副詞は、主観性領域の中でもどちらかと言 えば、事態認識に密接な繋がりを持つものであったが、次に挙げる態度副詞は、

話し手の発話のあり方、つまり文の発話態度(主張、発問、命令など)との繋 がりが強い副詞である。

(27)a. candidly, frankly, honestly, truly, truthfully, seriously,

strictly

b. briefly, broadly, generally, roughly, simply, specifically c. confidentially, personally

(a)(c)

- ,

岡田(1985: 120)

(28)a. Frankly, I am tired.

b. Frankly, is he tired?

また、(28b)にあるように、《発問》という発話態度と矛盾しないのであれば、

態度副詞は疑問文にも用いることもできる。この点は、評価副詞と法性副詞が 主張という発話態度と結びついていて、疑問文での使用が容認されないのと対 照をなしている。

ただ、少し注意しておくべきことがある。(28b)のような疑問文のケースで は、話し手の発問の仕方だけではなく、それに対する聞き手の応答の仕方を修 飾する場合があるからである。つまり、「率直に訊きたいのだが」という意味 のほかに、「率直に答えて欲しいのだが」という意味になる可能性もあるとい うことである。(Quirk et al.(1985: 615)

, Huddleston and Pullum(2002:

773))これは、発問という発話態度には、その延長として聞き手による応答が

想定されており、英語の態度副詞はそれとの結びつきを表し得ることが文法化

(20)

しているためであると考えられる。

態度副詞には、上に挙げた

-ly

型副詞とはかなり性格を異にした

please

含まれると筆者は考えている。13

(29)a. Please open that window.

b. Open that window, please.

(30)a. Would you please sign here?

b. Would you sign here, please?

(31)a. May I please have your phone number?

b. May I have your phone number, please?

(32)a. I'd like you to please send a copy of the document.

b. I'd like you to send a copy of the document, please.

please

は、主張ではなく要求という発話態度を修飾し、それに丁寧さを付け

加える態度副詞である。それゆえ、トラジェクターは発話態度(要求)、ラン ドマークは聞き手に対しする丁寧にあろうとする話し手の気持ち、ということ になる。従って、要求という発話態度をストレートに表す命令文のみならず、

要求の発話態度を二次的に表すことが慣用化している構文でも用いられる。

Bellert

(1977) は、 文副詞の下位分類の一つとして、 領域副詞(domain

13

please

は以 下のような副詞 と共に独立の下 位類として分 類されることも ある。

(Greenbaum(1969)

, Quirk et. al(1985) ,

岡田(1985)

(i)

a. cordially, graciously, humbly, kindly b. Please/Kindly open the door.

c. May we cordially invite you to our party?

d. Will you graciously consent to our request?

Quirk et. al(1985)は

(ia)の類の副詞を丁寧さの副詞(adverbs of courtesy)と呼んで おり、確かに、pleaseと同様な環境で用いられる。だが、(ii)のような違いもある。

(ii)a. Ask him please/*kindly what he wants. (岡田(1985: 61)

b. Open the door, please/*kindly.

(岡田(1985: 62) 筆者は、(ia)の副詞は、様態副詞として動詞を修飾しながらも、同時に《要求》という発 話態度にも結びついているという中間的な性格のものだと考えているが、詳細については 更なる考察が必要である。

(21)

adverb)というものを挙げている。これは、当該事態が成立する概念的範囲

を限定する働きを持つ副詞である。

(33)a. logically,

mathematically, morally, aesthetically, geographically, ethnically, linguistically, etc.

b. Linguistically, this example is interesting.

c. Logically, John is right.

d. Mathematically, there is no answer to your question.

(a)(d)

- ,

岡田(1985: 18) これらの副詞が事態描写の内容と密接な関連を持っていることは直観的にも明 らかである。実際、以下のように客体描写副詞として用いることもできる。

(34)a. This example may be linguistically interesting.

b. John may be logically right.

ところが、その一方で、speakingを修飾する形で独立分詞構文としても用い ることができるのである。

(35)a. Linguistically speaking, this example is interesting.

b. Logically speaking, John is right.

c. Mathematically speaking, there is no answer to your question.

d. Frankly speaking, the accident is his fault.

そして、dにあるように、通常の態度副詞の多くも同様の構文をとることがで きる。この構文の

speaking

の意味上の主語は、言うまでもなく話し手であり、

この構文自体が、文の発話態度を修飾する表現になっていることは言うまでも ないであろう。それゆえ、少なくとも文頭に現れた形の領域副詞は、態度副詞 の一特殊形態であると考えることができる。

このように領域副詞は、客体描写副詞と態度副詞という二つのカテゴリーに 跨って用いられているようであるが、 これは何ら異常なことではない。

cleverly

のような評価副詞も

briefly

のような態度副詞も様態副詞(客体描写

(22)

副詞の一種)としての用法を持っており、元々はそちらの方から文副詞として の用法が派生したものだと考えられるからである。また、(27)で挙げた岡田

(1985) の分類をよく注意して見ればわかるように、(27b)にある

broadly, generally, roughly, simply, specifically

などは、実は領域限定の働きをして いると見ることもできる。ただ、いわゆる領域副詞の方が限定の範囲がより明 確になっているという点が違うだけである。それゆえ、領域副詞は、態度副詞 の一種と見なして構わないと思われる。

以上見てきたように、文副詞は、形式上は単純に文全体を修飾しているよう に見えるが、意味的な結びつきの点から言えば、その“修飾先”は種類によっ て異なっており、それに応じて統語的な性質も異なってくる。それゆえ、その 修飾関係を意味・統語の両面から把握するには、認知文法の概念構造的な捉え 方、特に、文の意味構造を大きく事態描写・事態認識・発話態度の三層に分け、

その中のどの部分と結び付いているかを具体的に見ていくことが重要なのであ る。

4.接続副詞

接続副詞(複合句の場合も含めて)も意味的に極めて多様なメンバーを含ん でいる。例えば、岡田(1985: 123)は、複合句になっているものも含めて以 下のような分類を提示している。

(36)a. 列 挙 :first(ly)

, second(ly) ; for one thing ... for another

(thing)

; for a start, to begin with, to start with; in the first place, next, then, finally, last

(ly)

; to conclude

b.

追加:also, furthermore, moreover, in addition, above all; what

is more

c.

等価的追加:equally, likewise, similarly; in the same way

(23)

d.

話題転換:incidentally; by the way

e.

要約:(all)

in all, in conclusion, to sum up f.

換言:namely; in other words; that is(to say)

g.

例示:for example, for instance

h.

結 論 導 出 :

accordingly, consequently, hence, so, therefore, thus, as a result

i.

条件提示:else, otherwise, then, if so, if not; in that case

j.

代替:alternatively, instead

k.

対比:then; on the contrary, in contrast,(on the one hand ...)

on the other

(hand)

, by comparison

l.

譲歩:however, nevertheless, still, though, yet; all the same, in

spite of that

m.

時間的推移:meantime, meanwhile; in the meantime

接続副詞の特殊性は、先行文脈の内容がランドマークになっているというこ とである。14 そして、その先行内容とトラジェクターである主文の(グラウン ディングを経た)内容との関係を表しているのである。

(37)a. I don't feel like doing this; besides, I am very tired.

b. My monitor is small. Also, it is rather out of date.

(a)(b)

- ,

綿貫

&

ピーターセン(2006: 229) その意味では、接続詞と意味構造が類似している。ただ、違いは、接続詞のラ ンドマークは節であるため、具現化されるのが普通であるのに対して、接続副 詞では、あくまで先行文脈の内容であるため、文法的従属要素として具現化さ れることはない、ということである。従って、接続副詞には、節と節を文法的

14但し、first(ly)

, second(ly)のようなものに関しては、先行文脈の内容というより、

当該文を含めた文脈全体の中での序列関係をランドマークとする、というふうに言うべき かもしれない。

(24)

に連結する機能はない。15 それでも、先行文の内容と主文の関係を明示すると いうのが主要機能であるため、出現位置は文頭が基本である。ただ、以下の例 のように、文頭ではなく文中・文末に挿入されたり、グラウンディング表現に 隣接したりすることができるものもある。

(38)a. Dr. Jenkins notes, however, that most of the school boards in

the state do not do so.

b. He is poor. He seems satisfied with his life, though.

c. Convenience is therefore the key to the housing market today.

但し、上に挙げた接続副詞のうち、yetについては注意が必要である。とい うのも、yetは等位接続詞としての用法も持っているからである。このことは 次の例を見てみるとよくわかる。

(39)a. He was angry, yet he listened to me patiently.

b. She is beautiful yet weak.

15一口に接続詞と言っても、等位接続詞と従位接続詞ではその意味構造は異なっている。

従位接続詞は主節をトラジェクター、従属節をランドマークとする関係概念を表している のだが、等位接続詞の場合は、まずもって、節どうしを連結するとは限らない。名詞・動 詞・形容詞・副詞・複合表現など様々なレベルの等位連結を行なうことができる。また、

and

のように要素どうしを単純並列的に連結するものの場合、そのどちらか一方をトラジェ クターで、もう一方をランドマークというふうにはっきり認定するのは難しいかもしれな い。両者の間に概念的際立ちの差異が感じられない場合が多いからである。

しかしその一方で、等位接続詞であっても結びつけられる二つの文を概念的に全く“等 位”に結びつけているかと言うと、そうでもないものもある。例えば、一般的に、but 連結された等位文では後続節の方に際立ちがより強く感じられるし、命令文に続く

and

or

でも後続節との結びつきがより強いように思われる。

(i)

a. Hurry up, and you can catch the next train.

b. Hurry up, or you will miss the next train.

それゆえ、このような場合は、後続節をトラジェクターと考えた方がよいかもしれない。

また、次の例のように、先行内容が独立文になっている場合は、butは文法的に完全に後 続文に属しているわけであるから、概念構造上も、後続文をトラジェクターとしていると 考えるべきであろう。

(ii)Gone with the Wind

is a great movie. But it is a little long.

(綿貫

&

ピーターセン(2006: 227) な お 、 等 位 構 造 の 意 味 的 ・ 構 造 的 側 面 に 関 す る

Langacker

の 見 解 に つ い て は 、

Langacker(2008: 406-412)を参照のこと。

(25)

yet

は節と節のみならず、他の構成素も等位構造で結び付けることができるの である。従って、以下の例のように動詞句どうしも等位で繋ぐことができる。

(40)a. He's seventy-three, yet has gone to the football match.

b. *He's seventy-three, besides has gone to the football match.

c. He's seventy-three, and besides has gone to the football match.

((a)(c)

- , Greenbaum

(1969: 26) 対して、besidesの例でわかるように、接続副詞は動詞句どうしを等位連結す ることはできない。ところが、yetは接続副詞としての用法もあるので、以下 のように、等位接続詞と併用することもできるのである。

(41)a. It is evident that we cannot completely 'kill the eddy-currents

and yet keep the ferro-magnetism.

(Greenbaum(1969: 25)

b. And they know that a huge part of foreclosures is due to job

loss, but yet they still keep addressing the subprime and adjustable-rate victims

(http://edition.cnn.com/2009/US/04/15/tax.day/index.html)

また、Althoughを用いた従属節と呼応する使い方もできる。16

(42)a. Although they did not like the music, yet they applauded

vigorously.

b. *Although they did not like the music, yet applauded vigor- ously.

((a)(c)

- , Greenbaum

(1969: 33)

16このような、副詞的従位接続詞との呼応的な使い方ができる副詞は他にも数多くある。

(i)

a. If you knew this all along, then you could have told me.

b. While I'm out, you can meantime do the dishes.

c. Seeing that you have no chance of winning, he consequently pretended he wasn't trying.

d. Because Jennifer foresaw this well in advance, she therefore had the necessary time to take preventive action.

(a)(d)

- , Quirk et al.(1985: 643)

詳細は、Quirk

et al.(1985: 643-645)を参照のこと。

(26)

(42b)が容認されないことからもわかるように、この

yet

は接続副詞である。

このように

yet

は接続副詞と等位接続詞の両方の用法を持っている。その違 いは、ランドマークが文法的に具現化されるかどうかということである。具現 されれば等位接続詞、されなければ接続副詞になる。これは、一部の前置詞

(e.g. around)に副詞としての用法があるのと基本的に同じ構造である。

(43)a. The dog ran around the house.

b. The dog ran around.

認知文法で両者の構造の近縁性を捉えることには、何の理論的困難もない。

5.結論

本稿では、未だ認知文法では詳細な分析がなされたことがない副詞の意味構 造の全体像を提示しながら、筆者の提唱する三層構造仮説による文の意味の階 層構造的把握が極めて有効であることを示した。とりわけ、グラウンディング の内部構造を事態認識と発話態度に二分し、文副詞の意味がその中のどの部分 に結びついているかを細かく捉えていくことにより、個々の副詞の意味的・統 語的振舞いをうまく説明していくことができるという点は重要である。これま での副詞の研究の中でも、生成統語論の中で提出されてきた成果を見れば、副 詞の意味とその統語的振舞いが階層的に対応していることは紛れもない事実で ある。例えば、Ernst(1998)が副詞の意味と統語的性質に対応させる形で設 定した階層的概念範疇を見れば、このことは一目瞭然であろう。

(44)

SPEECH ACT > FACT > PROPOSITION > EVENT > SPECI- FIED EVENT

とすれば、認知文法においてもそれをうまく捉える事ができなければならない のである。

ただ、本稿はあくまで、認知文法の枠組で副詞を説明するとどうなるかにつ いての大雑把な全体像であるから、個々の副詞の特殊な意味構造や振る舞い方

(27)

については、取り上げていない問題も多い。例えば、slowlyなどの一部の様 態副詞が文頭に配置できるという事実(註7を参照)や、Jackendoff(1972:

89)が挙げている、副詞の配列順序に関する制約の問題がある。

(45)a. Frankly, John happily was climbing the walls of the garden.

b. *Happily, John frankly was climbing the walls of the garden.

(46)a. Happily, John evidently was climbing the walls of the garden.

b. *Evidently, John happily was climbing the walls of the garden.

(47)a. Evidently, John cleverly was climbing the walls of the

garden.

b. *Cleverly, John evidently was climbing the walls of the garden.

これを論ずるには、文の意味の階層構造の問題と共に、文頭の位置におかれ、

主題化(或いは焦点化)されることの意味合いの考察が必要になってくるので、

本稿では割愛した。また、焦点副詞と否定副詞の問題も、そもそも「焦点」

「否定」という文法概念自体の究明が不可欠であるので、別に考察の場を設け る必要がある。これらは、今後の課題としておきたい。

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