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保険金等の支払い問題と契約者保護を めぐる一考察

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保険金等の支払い問題と契約者保護を めぐる一考察

宮 地 朋 果

■アブストラクト

保険金等の支払い問題は,件数の多寡や性質の相違等はあるものの,損害 保険業,生命保険業を問わず,また,保険会社や共済など団体を問わずして 発生した構造的問題であることが指摘される。本稿は不払い等の問題が特に 顕著であった医療保険に焦点を当て,その商品開発および販売体制における 問題点を検討する。そのうえで,契約者保護に必要な視点として,消費者の 意識改革の重要性を論じる。

■キーワード

医療保険,消費者教育,自己責任

1.はじめに

2007年10月の調査結果によると,生保38社の不払いは合計で約120万件,

金額にして約910億円にも上ることが明らかになった。また,2006年10月に は,損保21社の不払い(5,760件,約16億円)が報告された。2008年1月に は,全労済(1 万7,261件,15億6,270万 円),全 国 共 済 連(1,748件,3 億 9,764万円),日本生協連(233件,1,437万円)の共済金の不払いが公表され た。既に明らかになっている

JA

共済連(約5万8,000件,34億9,000万円)

とあわせて,大手4共済の不払いの総額は約54億6,000万円に上った。これ

*平成19年10月27日の日本保険学会大会(桃山学院大学)報告による。

/平成20年2月1日原稿受領。

(2)

ら保険金等の支払い問題の背景には,さまざまな要因が指摘される。まず約 款に代表されるような商品内容のわかりにくさ,複雑さである。これは単に 消費者にとってわかりにくいのみならず,営業職員や代理店などの販売実務 担当者や保険会社の内勤職員にも共通する問題であった。また,オペレーシ ョナルリスクなどシステムの問題や社内体制,過大な販売ノルマ設定にみら れる消費者軽視の姿勢,経営倫理の欠如やコンプライアンスの問題など多く が挙げられる。

本稿では,生損保ともに保険金等の不払いが発生した医療保険の販売体制 に焦点を当て,背景にある保険商品の特性に起因する問題や商品多様化の功 罪における 罪 の影響について考察する。ただし,保険各社の個別的問題 を対象とするのではなく,保険業界全体や,共済,かんぽ生命にまで共通す る構造的問題は何かという視点で検討する。そのうえで,消費者の責任をど こまで問えるのか,また,消費者の自己責任を求めるために必要とされる社 会的基盤や契約者保護のあり方について考察する。

2.医療保険をめぐる現況と商品多様化の功罪

2.1 公的保障の縮小と私的保障の拡大

近年,医療の負担と給付をめぐる方向性として,①公的な医療保障の縮小 と②私的保障の拡大(保障内容の拡充)がみられる(図1参照)。少子高齢 化の進展や昨今の経済状況により,公的医療保険制度の再構築がなされてお り,ナショナルミニマムをめぐる議論も活発化している。また,現役世代の 保険料負担能力が低下するに伴い,今後ますます自己責任・自助努力が求め られるようになると予測される。

実際に,健康保険被保険者の自己負担割合は,医療保険財政の悪化などを 要因として,1997年に 1割 から 2割 へ,2003年には 2割 から 3割 へと引上げられている。70歳以上の療養病床の食費と居住費の全額 が自己負担となり,現役並みの所得を持つ70歳以上の患者負担も,2006年に 2割 から 3割 に引き上げられた。高額療養費の自己負担限度額の見

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直し もなされ,医療費抑制の政策がすすむことにより,今後も患者負担は 増加の見通しである。また,差額ベッド代 および高度先進医療の技術料な ど,保険外負担の増加も顕著である。昨今の公的医療保険制度における主な 改正内容(表1参照)をみると,わが国の医療保障分野における公私の役割 分担の方向性は,生活保障の最も基礎的な部分のみを公的部門が担い,それ 以外の保障は国民の自助努力や私的部門の活用に委ねていくというものであ ることが自明だろう。

これらの動向を背景として,民間医療保険に対する需要が拡大しており,

図1 生活保障の三層構造

(出典)水島一也(1979) 現代保険経済 ,千倉書房,p.167等をもとに作成。

1) 70歳未満で一般的な所得がある場合,高額医療費の自己負担限度額は,(1 ヵ月にかかった医療費−24万1,000円)×1%+7万2,300円であったが,2006 年10月より,(1ヵ月にかかった医療費−26万7,000円)×1%+8万100円に改 正された。

2) 厚生労働省保険局医療課によると,2002年度における1日あたりの差額ベッ ド代は,1,000円以下11.2%,1,001〜2,000円16.8%,2,001〜3,000円15.9%,

3,001〜4,000円11.1%,4,001〜5,000円11.6%,5,001〜10,000円22.3%,

10000円超11.1%となっている。差額ベッド代の基準として,①1病室4床以 下,②病室の面積が1人あたり6.4㎡以上,③病床のプライバシーを確保する ための設備が整っていること,④個人用の私物収納設備や照明,小机,椅子の 設備があることが挙げられる。

(4)

民間による医療保障分野への参入や商品開発が進むとみられる。また,生命 保険業において,近年,死亡保障から生存保障への重点移動が著しい。生命 保険文化センターの 平成18年度生命保険に関する全国実態調査 によると,

新たな加入意向のある保障内容に関して,世帯主については医療保障が58.3

%,遺族保障が53.4%,配偶者については医療保障が62.4%,遺族保障41.2

%となっている。これらは,人びとのニーズが,従来の生保会社の主力商品 である死亡保障商品から,医療保障商品へと転換していることを示すデータ の一例と言えるだろう。

しかし,民間保険の有する限界により,私的保障の拡大だけではカバーす ることができないようなリスクも存在する。そのため,医療保障の負担と給 付に関して, 公的保障の縮小 および 私的保障の拡大 という方向で国 民的合意が達成されたとしても,セーフティネットとしての公的医療保険制 度が持つ重要性は残る。

表1 近年の公的医療保険制度の改正内容

改正年次 主な改正内容

1997年

○健保自己負担割合2割へ引き上げ

○政管健保の保険料率引き上げ(月収の8.2%→月収の8.5%)

○外来薬剤の一部負担制度創設

2000年

○自己負担限度(高額療養費)の改正

○育児休業中の事業主の保険料負担免除制度創設

○介護保険制度の創設(医療と介護の分離)

○一般保険料率と介護保険料率の分離

2003年

○健保自己負担割合3割へ引き上げ

○自己負担限度額(高額療養費)の改正

○健保総報酬制の導入及び保険料率の変更

(月収の8.5%→年収の8.2%:政管健保の場合)

○外来薬剤の一部負担制度の廃止

2006年

○高額療養費の自己負担限度額の引き上げ

○出産育児一時金の引き上げ(1児につき30万円→35万円)

○70歳以上の患者負担の見直し

(5)

2.2 医療保険市場の動向

商品が市場にはじめて出てから,消えゆく過程を段階的に説明するものに,

商品ライフサイクル(Product Life Cycle)がある。①導入期(新しい商 品が市場にはじめて投入される),②成長期(市場に認知され,急激に需要 量や参入業者が増加する),③成熟期(需要量は安定的であるが,参入業者 がさらに増えるために激しい価格競争がおこる),④衰退期(需要量が減少 し,代替商品にとって代わられる)で分類される4段階説が一般的である 。

医療単品やがん保険の販売は,2000年12月までは,外資系生保会社と一部 の中小生保に限り許されていた(表2参照)。また,国内大手生保会社は,

死亡・生存保障などの主契約に付随して提供される 特約 としてのみ,医 療保障商品の販売が可能であった。そのため,医療単品・がん保険の販売の 歴史は,少なくとも,国内大手生保と損保にとっては始まったばかりともい える。

したがって,わが国における医療保険の商品ライフサイクルを考えるにあ たっては,大手生保と損保,中小生保と外資系を分ける必要があるだろう。

国内大手生保や損保,損保系生保会社に関して,医療保険の現在の商品ライ フサイクルは, 導入期 から 成長期 への過渡期にあるとみられる。一 方,2000年12月以前から,医療単品・がん保険市場に参入済みの外資系生保 会社や中小生保に関しては,既に, 成長期 から 成熟期 への段階にあ ると考えることもできるだろう。表2におけるような医療保障分野への段階 的な参入解禁により,医療保険市場は急速な拡大をみせ,生保,損保,共済,

かんぽ生命などによる競合の激化や,新商品の発売が相次いでいる。今後数 年から10年のうちに,医療保険は,商品ライフサイクル上のピークを迎える とされる。

3) 成長期 と 成熟期 の間に, 競争期 を加える5段階説もある。

(6)

多くの競合団体がそれぞれの経営戦略に基づき,さまざまな商品開発を行 っているが,本稿では,保険料と保障(補償)範囲という2つの指標により,

現在のわが国の医療保障市場を分類する(表3参照)。

大局的にみると,国内大手生保の商品は,表3における②の 保険料は高 いが,保障範囲の広さや,保障内容の充実をめざす グループに分類できる と思われる。入院や手術に対する給付範囲や1入院限度日数等の拡大,保障 内容の充実により,消費者に安心感を提供することを図っている。国内大手 生保の強みとして,歴史の古さやブランド価値,営業職員の販売網などが,

従来,挙げられてきた。しかし,医療保険商品販売においては,これらの強 みが十分に活かされずに,むしろ過去の成功体験という足かせに転じてくる 可能性もある。

一方,外資系保険会社の商品の多くは,③の シンプルでわかりやすい保 障(補償)内容にしぼり,保険料の安さをアピールする グループに分類で きる。このグループにおいては,無配当であること,解約返戻金や死亡保険 金をなくすことなど,保険料を割安にする工夫が顕著にみられる。また,給 付内容の絞り込みなどもみられる。家計の圧迫などにより,合理的な保険購 買行動が進んでいることが,③に属する商品の優勢を後押ししている点も指

表2 生損保による医療保障分野(医療単品・がん保険)への参入可否

2000年12月まで 2001年1月以降 2001年7月以降

×

×

×

×

×

× 国内大手

中小・外資系 損保系生保

損保 生保系損保 生保

会社

損保 会社

出典:宮地朋果(2006), 医療保険をめぐる商品開発の動向 (堀田一吉編 著 民間医療保険の戦略と課題 勁草書房),p.103。

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摘できよう。外資系保険会社の強みとしては,インターネットの活用などチ ャネルの多様性,迅速な商品開発,買いやすい価格設定,成長力(過去の負 債がないことによる)などがあるだろう。

①のグループは消費者にとって魅力が乏しいため,民間保険市場には存在 し難いと思われる。④のグループは,消費者にとってはきわめて望ましいが,

保険会社に過度の経営努力を要するという点で,やはり存在し難いだろう。

基本的には,わが国における医療保険の市場動向は, 保険料は高いが,

保障(補償)範囲の広さや,保障(補償)内容の充実をめざす グループと シンプルでわかりやすい保障(補償)内容にしぼり,保険料の安さをアピ ールする グループに2極化していくと考えられる。また各団体は,それぞ れの経営戦略に基づいたポジショニングにより商品開発を進めている。たと えば,共済は,国内大手生保会社と比して内容は限定されるが,割安な共済 掛金であることに強みを持つ。この点では,外資系保険会社に近い位置づけ といえるが,リスク分類においては民間保険と異なる枠組みを有する。かん ぽ生命は2007年10月に民営化されたが, 国民に,簡易に利用できる生命保 険を,確実な経営により,なるべく安い保険料で提供し,もって国民生活の 安定を図り,その福祉を増進すること を目的として創設された簡易保険の 流れを受け,①保険金額・年金額に上限が設けられている,②医師による健 康状態の診査がない,③職業による加入制限がない,といった特色をもつ。

表3で挙げた保険料や保障(補償)の範囲,内容の充実度のほかにも,女 性,高齢者,若年者などのターゲット設定や,保険期間の長短,給付金(保

表3 保険料と保障(補償)範囲による分類

・保障(補償)範囲が狭い

・シンプルな内容

・保障(補償)範囲が広い

・充実した内容

保険料が高い

保険料が安い

出典:宮地朋果(2006), 医療保険をめぐる商品開発の動向 (堀田一吉 編著 民間医療保険の戦略と課題 勁草書房),p.109。

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険金)の支払い方法,販売チャネルなどのさまざまな基準により,医療保険 市場の分類を行うことが可能である。消費者は,多様な医療保険市場のなか から,自己責任に基づき,自らのリスクや考え方にあった商品やその組み合 わせを選択する必要がある。

近年の不払い問題を背景として,シンプルでわかりやすい保障(補償)内 容を求める動きとともに,商品内容の標準化や簡素化,危険選択の簡略化を 進める向きもある。しかし,これが消費者にとって真に望ましいかは再考の 余地があろう。保険会社間だけでなく,共済やかんぽ生命等との比較におい ても,差異や優位性を見出すことが難しくなるという新たな課題が生じるの である。つまり,保険供給者の同質化が進むなか,消費者は何を基準として 商品選択を行うのかということである。このような場合に選択の基準となる のは,支払いの迅速さ・正確さ,価格,格付機関の評価等であろうか。それ とも,環境問題など社会への貢献度や,相互会社組織や組合形態にあるとさ れる連帯意識等であろうか。いずれにせよ,商品選択にともなう困難さは,

消費者にとって常に不可避なものと言える。

2.3 昨今の医療保険商品開発の特徴

昨今,医療保険をめぐる商品開発が進んでいるが,それらにはいくつかの 傾向がある。以下に近年,開発された医療保険の特徴を挙げる。

⑴ 保障(補償)対象範囲の拡大

昨今,高度先進医療や移植医療,難病を対象とする新たな保険商品の開発 や,ガン,急性心筋梗塞,脳卒中の3大疾病が再発しても給付金の受け取り が可能な特約の販売,乳房再建手術への対応など,保障(補償)対象範囲の 拡大が進んでいる。また,差額ベッド代などアメニティ面の充実のための給 付や,ベビーシッターや清掃代行業者を雇う費用を提供する商品もある。そ の他には,入院前後の通院を給付の対象とする保険商品や,移植手術に対し て給付金を出す特約も出ている。入院に伴うセカンドオピニオンを受けるた めの手配や紹介など,給付金以外のサービスも近年増えてきている。

(9)

⑵ ターゲットの拡大

ターゲットが拡大していることも,近年の特徴のひとつである。たとえば,

従来は保険への加入が困難であった 50歳以上の健康に不安がある層 を対 象にする商品や,医師による診査や告知書の提出を求めない無選択型の保険 商品がある。身体状況に不安を抱えている層にまでターゲットが広がってお り,加入できる年齢幅の拡大もみられる。ただし,無選択型の商品について は,医的選択 のある他の商品と比較して保険料が割高になっていることや,

たとえ保険に加入できたとしても,加入時にかかっている病気や,過去にか かった病気と関連のある症状や病気に対しては給付金や保険金が支払われな い場合が多いことに留意する必要がある。

⑶ 入院給付金の通算支払限度日数の拡大

入院給付金の通算支払限度日数の拡大も進んでいる。たとえば,多くの生 保会社では入院特約の通算支払限度日数を700日から1,095日へと拡大した。

一方で,医療技術の進歩による入院期間の短期化に対応して,日帰り入院

(0泊1日)や1泊2日の入院にも,給付金が支払われるようになっている。

厚生労働省の 患者調査 によると,退院患者の平均在院日数 は,近年,

1990年(総数44.9日)を境に短期化する傾向にあり,2005年においては,総

4) 日本では現在,医的選択は大きく 医師扱い , 面接士扱い , 告知書扱 い の3種類に分類されており,被保険者の年齢や保険金額,保険種類,身体 的状況によって,選択方法が決定される。保険契約者と被保険者は,保険契約 の締結に際して,危険の測定上,重要な事実を保険者に正しく告知することと,

重要な事項について不実を告げないことを義務付けられている。約100年ぶり に保険法の抜本的な改正がなされることにより,これら契約者の 告知義務 の緩和がなされ,保険会社の質問に答えることで足るようになる。

5) 厚生労働省 平成17年患者調査 によると,傷病分類別にみた退院患者の平 均在院日数は,以下のとおりである。

(結核71.9日,ウィルス肝炎23.7日,糖尿病34.4日,血管性及び詳細不明の認 知症330.5日,高血圧性疾患41.4日,心疾患27.8日,脳血管疾患101.7日,肝疾 患30.0日,喘 息14.8日,妊 娠,分 娩 お よ び 産 じ ょ く7.6日,悪 性 新 生 物(胃 34.6日,大腸30.7日,肝および肝内胆管26.9日,気管,気管支および肺34.1 日)

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数37.5日(病院39.2日,一般診療所21.6日)である。ただし一般的には,高 齢になるにしたがって入院日数が増加する。また,ライフスタイルの変化な どを背景として,入院の長期化や,治療費の高額化をもたらす生活習慣病が 蔓延している。悪性新生物のように,再発の恐れのある疾病も存在する。こ れらのことを考慮すれば,高齢化の進む近年において,保障(補償)の長期 化は望ましいと考えられる。

⑷ 医療保障(補償)の終身化

最近の大きな傾向の1つとして,医療保障(補償)の終身化が挙げられる。

国内の大手生保および大手損保はすべて,終身医療保険を販売している。保 険期間が有期である定期型の保険の場合は,保険期間の長期化にともない保 険事故の発生率における個人差は小さくなるものの,給付を受ける人と受け ない人が存在する。しかし終身型の保険の場合は,ほとんどの人がいずれは 何らかの形で給付を受け,給付が複数回に及ぶ可能性もある。その意味では,

保険会社の引受リスクは,有期の保障(補償)から終身の保障(補償)にな ることにより大きくなると考えられ,リスク管理の重要性も高まることが指 摘される。一般に,死亡保障商品に比べて,医療保険は細かな商品改訂が生 じやすいとされるため,開発にかかる経費も考慮する必要がある。

⑸ 女性特化型医療保険の増加

女性の社会進出とともに,婚姻率の低下や晩婚化が進んでいる。また,平 成16年における離婚率(人口千対)は2.15であり,全世界的には高い数字で はないが,上昇率が大きくなっている。単身世帯も増加し,個人ベースで生 活保障を考える割合が増えてきているが,これらの動向を要因として,女性 特化型医療保険の開発が増加している。また,女性特有の疾病に関するリス クに加えて,特約により収入をめぐるリスクに対応する商品もある。このよ うな商品発売の背景には,女性による分譲マンション購入の増加や,昨今に おける20〜30歳代女性の独身率の上昇があると思われる。

⑹ 競合他社の多さ

生保,損保,共済,かんぽ生命など競合する団体の多さも,医療保険の特

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徴の1つである。損保事業は近年,主力の自動車保険において苦戦しており,

生保事業は伝統的な死亡保障が少子高齢化により頭打ち状態となっている。

これら両者にとって,医療保険は魅力のある市場である。競合が進むなか,

損保会社と共済など,業界の枠組みを超えた提携や生損一体型商品もみられ る。

⑺ 支払いの多様化と保険料を割安にする工夫

1992年10月に導入されたリビング・ニーズ特約 など,支払時期の多様化 や給付内容の工夫がみられる。一定期間中に入院給付金などの請求がない場 合,無事故給付金( 健康祝金 など各社により名称は異なる)が支払われ る商品もある。また,支払方法も一時金,年金払,実損てん補型などさまざ まである。一方,保険料に関しては,解約返戻金をなくす,あるいは,低く するなどの工夫により割安になっている商品もある。また,死亡保険金をな くすことにより,保険料が割安になっているものもある。インターネット割 引などを導入する保険会社も増えている。

2.4 商品多様化の功罪と求められる視点

2001年7月以降,第三分野への生損の相互参入が加速しており,医療保険 市場には,生保会社が提供する商品,損保会社が提供する商品,共済,かん ぽ生命が提供する商品など,競合が多くみられる。単なる価格競争やイメー ジ戦略に陥るのではなく,消費者の効用を高めるような競争のあり方が現在,

求められており,商品開発はその核になるものと考えられる。また,多くの 競合他社間の競争は,価格の低下や商品の工夫につながることが予想される。

しかし,商品の多様化は,消費者のさまざまなニーズに対応できるという利 点をもたらすと同時に,数多くある商品の中から,自らのニーズに最適なも のを自己責任にもとづき選択するという困難さを消費者に与える。この商品

6) 被保険者が余命6ヵ月以内であると医師による診断がなされた場合,生前に 死亡保険金の全額または一部を請求できる特約である。ほとんどの保険会社が 取り扱っており,特約の保険料は不要である。

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多様化における 罪 の影響が最も顕著になったものが,保険金等の不払い 問題であるだろう。

保険商品は,①無形のサービスであり,購入時点では効用を実感しにくい こと,②一般消費者には複雑でわかりにくいこと,③買い替えがしにくいこ となどの理由により特殊であるとされるが,これらの特徴が,消費者が商品 を選択する際に困難さをもたらすことになる。またこれらに加えて,④保険 業は製造業などと比して,その国固有の環境ならびに経済・社会制度,医療 制度,文化,宗教などの影響をより受けるものであるため,保険制度や保険 商品の海外への直接的な移植や単純な比較分析が容易ではないという性質を 持つ。しかし,それ以外の点では,メーカーが販売するような製品(たとえ ば車や宝飾品など)と保険商品には,それほど大きな違いがないという見方 もできる。

複雑でわかりにくいとされる保険商品の中から,一般的な消費者が自分に 適する商品を選択するには,商品比較のための情報の質・量の確保や,選択 の際の適正な指標が必要であるが,営業職員等から消費者への情報提供には,

規制による制約があるため,第三者的な立場からの情報提供サービスや保険 教育の必要性も高まるだろう。

現在のところ,保険商品の比較に関する情報で一般消費者が入手可能なも のはそれほど多くないと思われる。各社がそれぞれの経営戦略において多様 な商品を提供するなか,表面的な保険料の比較だけではなく,商品としてど のような相違があるのかを理解した上で,自らのニーズに最適な保障(補 償)を選択することは,専門家にとってすら困難と言える。したがって,複 数の商品を第三者的な立場から検討し,顧客それぞれのニーズにそった商品 選択のアドバイスを提供するようなサービスの拡充が求められるだろう。日 本においては従来,このような金融商品・サービスに関する情報に金銭的価 値を見出すことは多くなかったと思われる。しかし,金融商品の複雑化・多 様化が進むなか,商品説明や消費者ニーズの喚起などに対する需要が増すだ ろう。商品提供者には,消費者にとって真によい商品とは何かを追求する姿

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勢が求められるだろうし,消費者には保険でまかなうべきリスクとは何かを 考え,付保内容を選択する必要があるといえる。

保険商品のわかりにくさを遠因として,現在,保険商品を選択する際には,

保険商品それ自体の中身よりも,会社のイメージや,新聞,テレビ,ラジオ などの広告,代理店や営業職員の勧めやその人となりなどのほうが大きな決 定要因になっていると考えられる。このような現状も,消費者にとって真に 役立つ商品づくりではなく,消費者に買ってもらいやすい商品づくりが先行 する要因になっていると思われる。テレビや新聞・雑誌などにおける宣伝広 告が連日,盛んになされているが, 自分に適した保険商品がよくわからな い という声も聞かれるので,消費者の立場にたった,わかりやすさの追求 が広告においても必要だろう。また,現在の広告費が将来の収益性に与える 影響についても懸念される。

現時点では高い収益性を持つ医療保険であるが,将来的なリスクの大きさ は不透明である。また,現在の売れ筋商品が将来も続くとは限らず,死亡保 険や自動車保険と同様に,いずれは市場の伸びが鈍化することも予測されて いるため,新たな商品開発や市場開発,販売チャネルの開拓・工夫も重要と なるだろう。

3.消費者をとりまく状況

3.1 消費者の意識

少子高齢化の進展やそれにともなう公的保障の縮小等を背景として,自己 責任や自助努力がますます求められてはいるが,消費者の意識に急激な変化 はみられない。また,自らが購入した保険商品や契約内容の詳細について把 握していない場合も少なくない。従来の生保営業に代表される,営業職員に よる

GNP

(義理・人情・プレゼント)などが功を奏してきたのも,このよう な消費者の当事者意識の欠如や,他人任せで消極的な姿勢があったことが一 因であろう。これはまた,保険金等の請求もれなどを引き起こし,結果とし て, 請求主義 の下での保険金等の不払いにつながった。また,消費者の

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このような姿勢が,いかなるリスクについても保障(補償)がなされるとい う思い込みや,契約内容の過信,過度の安心感を生じさせる危険性も指摘で きる。

生命保険文化センターの 平成18年度生命保険に関する全国実態調査 に よると,生命保険(個人年金保険を含む)加入世帯における世帯年間払込保 険料対年収比率は全生保(民間生保会社,郵便局,JA)で9.2%である。調 査年度による変化は見られるものの,世帯が生保に支払う年間保険料は,年 収の9〜10%の数値を推移しており,これに損保への支払いも加えれば,家 計における保険への支払いは決して小さなものではないと思われる。それに もかかわらず,保険の購入に対して,依然として 受け身 の姿勢を持つ消 費者が多い。保険に関する知識・情報の不足のために,営業職員や代理店な どから勧められたままに加入する消費者も少なくない。このような場合,広 告にも見受けられるが, 必要な保障(補償)額はいくらか ではなく,

いくら払えるか という発想から保険に加入することがある。保険販売に 対する消費者,保険会社双方の姿勢が,本来のニーズとはあわない商品の購 買や保障(補償)内容の過不足を生じさせ,最終的に保険会社への不信感に つながる可能性も考えられる。

日本経済新聞2007年8月25日朝刊の記事 金融機関ここに注文 によると,

医療保険の加入者のうち,保険会社や郵便局などの営業職員を通して契約し た人は, 不満 の割合が26%であり,代理店や窓口,通信販売など他のチ ャネルに比べて約10ポイント以上高かった(2007年7月下旬実施,有効回答 1,045人)。不満内容としては, 保障内容が物足りない , 保険料がもっと 割安な商品がある , どういう場合に保険金が支払われるのか理解しきれな い などである(複数回答)。この結果から,営業職員のチャネルが他と比 べて問題が多いとの見方もできるが ,商品選択時におけるチャネルごとの

7) 従来から,新契約至上主義や過大なノルマ設定によるターンオーバー(大量 採用・大量脱落)と,それらによる既契約者へのアフターサービスの欠如が営 業職員チャネルにおける問題の1つであったが,近年,生保各社において営業

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消費者の自主性,積極性の相違が,結果として表れているとも考えられる。

全国消費生活相談員協会主催の 生命保険会社・損害保険会社の医療保険 110番 (平成17年5月7〜8日実施)によると,全相談受付件数440件のう ち, 生命保険・損害保険・共済,簡易保険等 についての件数は370件(生 保260件,損保54件,共済19件,簡易保険20件,以下略)であり,医療保険 と医療特約についての相談は,370件のうち265件(71.6%)であった。また,

相談内容分類で最も多いのは, 契約・解約 で,370件中228件,以下 接客 対応 96件, 販売方法 70件であった。生命保険協会の生命保険相談所の 相談所レポート にも,相談の受付状況などがまとめられているが,この ような取り組みやその結果報告などを通して,消費者の保険に対する興味・

関心が高まることを期待したい。

3.2 消費者の 自己責任 に対する考え方

金融商品の選択における 自己責任 を,消費者がどのように考えている かについては,金融広報中央委員会の 家計の金融資産に関する世論調査 が参考となる。表4は平成18年度の結果であるが,他の金融商品と比して,

自分で責任を持つのは当然である とする回答が最も少なかったのが保険

(掛け捨て型を除く)である。それとは対照的に, 自分で責任を持つのは当 然である とする割合が最も多かったのが株式である。

職員の評価方法の見直しが進んでいる。たとえば明治安田生命では,2009年10 月から給与制度を見直し,固定給の割合を高める。

(16)

表5〜7は,保険(掛け捨て型を除く),株式,預金(外貨預金は除く)

に関する 自己責任 の考え方をそれぞれ時系列的にみたものである。表5 の保険(掛け捨て型を除く)と表6の株式は, 自分で責任を持つのは当然 である , どちらとも言えない , 自分で責任を持てと言われても困る と する割合が,ほぼ逆の動きをみせている。つまり,保険の選択に関して 自 己責任 を求められるのは困るが,株式に関しては 自己責任 を当然と考 える割合が多い。表7の預金(外貨預金は除く)については,この調査が取 り上げるすべての金融商品のなかで, どちらとも言えない とする回答が 最も少なく,預金をめぐる 自己責任 については,考えを固めている割合 が多いと思われる。預金に関して 自分で責任を持てと言われても困る と する回答が多い一方で, 自分で責任を持つのは当然である とする割合が,

平成12〜18年を通して保険よりも高いことが注目される。

表4 金融商品の選択に関する 自己責任 の考え方

自分で責任を持つの

は当然である どちらとも言えない 自分で責任を持てと いわれても困る

預金(外貨預金は除く) 28.9 24.0 44.0

外貨預金 43.8 41.5 10.3

株式 57.3 30.6 8.3

公社債投信(MMF,中国

ファンド等) 39.9 42.9 12.7

保険(掛け捨て型を除く) 20.4 34.2 41.5

金融自由化の過程で開発さ れた新しいタイプの金融商

37.8 47.1 10.5

出典:金融広報中央委員会 家計の金融資産に関する世論調査平成18年調査結 果 より作成。

(17)

表5 保険(掛け捨て型を除く)の選択に関する 自己責任 の考え方

出典:金融広報中央委員会 家計の金融資産に関する世論調査平成12〜18年調査 結果 より作成。

表6 株式の選択に関する 自己責任 の考え方

出典:金融広報中央委員会 家計の金融資産に関する世論調査平成12〜18 年調査結果 より作成。

(18)

これらの調査結果を概観すると,年度による若干の高低が数値にみられる。

その理由は,サンプル抽出の偏差や,不払い問題の発生など世論の盛り上が りによる影響の存在が関係するからと考えられる。ただし,保険に関する 自己責任 に関しては,総じて否定的な考えを持つ消費者が多いことが,

調査結果により予測される。これは,当事者意識に欠ける消費者が少なくな い実態とも相関するものだろう。

4.保険に関する教育・情報提供

複雑でわかりにくいとされる保険商品のなかから,消費者が自らに適する と思われる商品を選択するには,ある程度の保険知識と商品比較のための情 報が不可欠である。また,保険申込以後に問題が生じた際の救済制度や機関 の整備も重要である。欧米における保険教育・情報提供に関する取り組みの 概観や,制度の比較検討は,今後の日本の方針を考える上での示唆となろう。

表7 預金(外貨預金は除く)の選択に関する 自己責任 の考え方

出典:金融広報中央委員会 家計の金融資産に関する世論調査平成 12〜18年調査結果 より作成。

(19)

損害保険事業総合研究所が2007年3月に発行した 欧米における消費者保護 に向けた保険教育・情報提供および相談・苦情対応 では,多くの事例が挙 げられている。たとえば,具体的な社名を載せた苦情件数のランキングなど も含むニュ ー ヨ ー ク 州 保 険 庁 の 医 療 保 険 事 業 者 消 費 者 ガ イ ド(New

York Consumer Guide to Health Insurers  

) である。消費者は保険商品

を選択する際,ガイドの情報を参考にすることができるが,監督当局による このような情報提供は,わが国においても消費者保護の観点から有効である と思われる。また,消費者と保険会社間に問題が生じた場合,第三者的な仲 介 機 能 を 果 た す 英 国 金 融 オ ン ブ ズ マ ン 局(The Financial Ombudsman

Service

)の活動や,一般消費者向けにホームページでわかりやすく保険制

 

度を説明する英国

FSA

の取り組み等も挙げられている。

欧米と比して,保険に関する教育・情報提供をめぐる日本の動きは,従来 それほど進んでいなかったが,不払い等の問題発生後,速度が高まったよう に思われる。たとえば,生命保険文化センターから 生命保険の契約にあた っての手引 が,日本損害保険協会から 損害保険の契約にあたっての手 引 がバイヤーズガイドとして発行されている。生保協会は,生保会社各社 の苦情受付情報のホームページ掲載や, 正しい告知を受けるための対応に 関するガイドライン , 保険金等の支払いを適切に行うための対応に関する ガイドライン などの発行をしている。また,金融庁からはじめて投資者保 護団体の認定を受けた 裁定審査会 などもある。同様に損保協会も,そん がいほけん相談室の機能強化や, 損保協会お客様の声レポート , 保険金 支払に関するガイドライン などの発行をしている。また従来,保険商品の わかりにくさを体現する象徴的な存在であった約款についても,一般消費者 にわかりやすい表現や体裁に直す動きがみられ,パンフレット等にも専門用 語の説明などが記載されるようになった。ただし,これらの取り組みも,旧 態依然とした消費者意識のままでは宝の持ち腐れになりかねない。米国のよ うに,金融商品に関する教育を小学校から開始するなど,消費者教育におけ る取り組みも,より重要になってくるだろう。

(20)

5.むすびにかえて

消費者による適切な商品選択の推進や契約者保護のためには,保険に関す る十分な教育および情報の提供が必要とされる。ただし,保険会社から消費 者への働きかけには制約があるため,第三者の立場からの利害調整や情報提 供サービス,保険教育の必要性が高まるものと思われる。したがって,保険 に関する情報量や知識,理解度が,消費者と保険会社間で乖離している現況 の改善や,消費者をめぐる社会的な基盤等の整備(たとえば問題が生じた際,

保険会社と比較して脆弱とされる一般消費者の交渉力を補強するような環境 整備など)において,監督官庁や保険研究者,マスコミ等が果たすべき役割 はますます重要になってくる。また,それらの改善なくして,保険金等の支 払い問題などについて,消費者に過度の自己責任・自助努力を求めることは 適切ではないと思われる。

しかし,たとえ消費者の多様性や消費者教育そのものの限界を考慮しても,

消費者一人ひとりの意識変革が何よりも必要とされる方向性は不可逆だろう。

また,消費者を一律に 弱い者,守るべき者 と過度に保護することに限界 が生じてくるのも事実である。これは,高齢者の医療や介護に求められる視 点と共通するものと思われる。情報優位者である保険会社の責任が求められ ることは言うまでもないが,消費者にも自らの契約について最低限の自己責 任を求めることが肝要であり,そのような観点から,商品比較や選択のため の情報提供や消費者教育のあり方を模索していく視点が望まれよう。

(筆者は慶應義塾大学非常勤講師)

参照

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