奈良教育大学学術リポジトリNEAR
授業展開と児童の理解のし方 −実験・観察につい て−
著者 松村 佳子, 谷口 広美
雑誌名 奈良教育大学教育工学センター研究報告
巻 6
ページ 45‑52
発行年 1983‑03‑16
その他のタイトル A Study on the Relationship between Teaching Method and Schoolchild's Understanding
URL http://hdl.handle.net/10105/4619
号l‑¥*‑l II.一二で
松 村 佳 子・谷 口 広 美
(物理教室)
A Study on the Relationship
between Teaching Method and Schoolchild's Understanding
Abstract
The questionnaire on teaching in the science classes of elementary schools was analyzed and schoolchild's understanding of the lecture was also investigated.
The present analysis shows that few teachers demonstrate experimental work to their schoolchildren in the field of physics. That is, most teachers make schoolchildren conduct an experiment using science kits on the market. The experiments help the schoolchildren to understand science rules and characteristics in the subjects throgh their own experience.
Since the schoolchildren in the high grade tends to lose their understanding ability for science, it is essential for science teachers to improve their curricurrum and teaching methods.
Key wards: Science kit, Science Teaching
I はじめに
小学校理科の授業では、実験観察を通して、自然に親しみ科学的な思考力を養うことが目的と される。特に低学年の児童は、手足を働かす活動を通して学んでいくことが多いと考えられる。
‑昨年度より我々は、製作活動を含んだ教材として「おもりで動くおもちゃ」をとりあげたlo)実 際に授業をしてみて、遊びをとり入れた系統的な授業展開をすれば、児童の理解のし方に良い結 果を与え、高学年で学習することがらへの理解の基礎が養われることを報告し/^‑。授業に用いた 教員は、我々の身のまわりにある廃品などの素材を利用したものが主であったが、非常に効果的 であったと考える。
そこで、現在小学校ではどのような器貝が使われているのであろうか、 (市販の教材セットかそ れ以外か)それらがどんな使われ方をしているか、 (児童実験か教師による演示実験か)また、授 業のどの段階で器具を使用しているかを知るためにアンケート調査を行った。また、教師の側か らみた児童の理解度についても調査した。この報告では、調査結果について述べ、機器を用いる 実験・観察の効果的な導入のし方について考える。
松村佳子・谷口広美
Ⅱ 調 査
小学校理科教材全体について、奈良県、大阪府、兵庫県、京都府下の小学校(計20校)の各学 年の先生方に、次のようなアンケートをお願いした。
1.昨年度担任された学年 2.1学年のクラス数 3.1クラスの児童数 4.使用教科書(出版社名)
5.理科の授業で実験・観察の際に使用する器具 ア、理科室の実験器貝(備品)
ィ、市販のセット教材
り、児童及び教師が家からもって来たり、借りて来たもの、特別に購入し たもの etc.
工、その他
6.5.のア、ィ、クについて、次の事項にお答え下さい。
㊤ 実験・観察の器呉(材料)を使用した単元
⑧ 実験・観察の内容
③ 器貝(材料名)
④ 実験観察を導入した段階(下記より適当なものを選び番号を記して下
さい。)⑤ 教師の演示実験と児童全員が実験観察にとり組んだものの別
⑥ その実験観察で、御自身の指導目的を満足されたかどうか 働 目的は−「分に達成された。
(い)半分くらい達成された。
(う)ほとんど達成されなかった。
7.実験観察に対する児童の反応や、授業の雰囲気について
L
記
<実験・観察を導入した段階>
ィ、単元に興味をもたせるため
ロ、前学年までに学習した内容の復習のため ハ、規則性を導きだすため
二、同単元ですでに学習した内容を確認するため ホ、児童自身にその法則性・特徴などを発見させるため へ、問題意識をもたせるため
ト、器具・用具のとり扱いの練習のため チ、疑問・問題の解決のため
リ、その他
_ 」
アンケートの回収率は、66.7%で、学年別にみると、表1のようになる。
表1学年別回収率 学 年 1年
回収率 60%
2年 3年 4年 5年 6年 70% 50% 50% 95% 75%
各学年1クラスの小規模校から7クラスの中・大規模校など様々であったが、教科書は1校を 除いて、啓林館発行のものが使用されていることがわかった。
Ⅲ 調査結果と考察
1.市販セット教材の使用割合
使用されている教科書の各学年毎の単元名と、それぞれに器具を使った延べ回数、及び月内にそ の中で市販セット教材が使われている回数を示す。但し、啓林館以外の出版社の教科書を使用し ている1校5クラス分を除いた、延べ75クラス、単元数64を集計したものである。
各学年の単元とセット教材の使用割合
1年 (1)はながいっぱい(2)はなのたねをまこう
(3)ことりやきんぎょ
(4)あめのひはれのひ
(5)おおきくなったあさがお
(6)はなやみのしるあそび
(7)いしころ
(8)きゆうこんをうえよう
(9)おちぼやきのみのあそび
(10)かげあそび
(11)こおりができた
(12)うどくおもちゃをつくろう
(13)じしゃくはふしぎ 2年 (1)めをだせひまわり
(2)ひなたとひかげ
(3)のびろひまわり
(4)虫さがし
(5)土であそぼう
(6)ひまわりのたねができた
(7)空気のほっけん
3(0)
11(8)
7(0)
4(0)
11(8)
12(3)
4(0)
6(1)
4(0)
8(3)
5(0)
8(3)
10(4)
7(3)
5(0)
7(3)
6(0)
5(0)
7(3)
13(4)
(8)まめ竃きゅうにあかりがついた 13(13)
(9)おもりでうごくおもちゃ 14(4)
松村佳子・谷口広美 2年 (10)しゃぼんだまをとばそう
(11)おとのあそび
3年 (1)はなやわかばのきせつ
(2)あたたかさしらべ
(3)空気でっぽう
(4)夏の草木や虫
(5)雲と天気
(6)風車
(7)光あつめ
(8)おち葉の季節
(9)じしゃく
(10)春らしさをさがす 4年 (1)じゃがいものめばえ
(2)流れる水のはたらき
(3)じゃがいもの育ち
(4)こん虫
(5)物のとけ方
(6)重さしらべ
(7)空気や水のかさと温度
(8)水と氷、水蒸気
(9)まめ電球の明るさ
(10)太陽・月の動き 5年 (1)たねの発芽
(2)草木が育つ土
(3)魚のふえ方
(4)草木と水
(5)食塩水のこさと重さ
(6)火と空気
(7)酸素と二酸化炭素
(8)星の動き
(9)光
(10)音
6年 (1)気温の変化と太陽
(2)草むらや林の植物
(3)はのお
(4)花から実へ
︶
︶ 3 1
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\ 一 ノ
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l l Q U O O 5 0 0 6 0
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7 9 9 2 4 9 9 1 9 2
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︵ 7 7 8 6 9 9 7 5 Q U 8
16(2)
11(1)
14(0)
11(0)
15(0)
15(0)
16(0)
13(6)
17(4)
12(0)
12(1)
5(0)
12(0)
7(0)
6年 (5)私たちの体
(6)地そう
(7)水溶液
(8)物のあたたまり方
(9)力とてこ
(10)電流がつくる磁石
12(0)
11(0)
13(0)
13(0)
13(1)
14(12)
各学年別の市販セット教材の使用割合は表2のようになり、1〜3学年(30%前後)が4〜6
4)
学年(10%前後)に比して多いことがわかる。この結果は、高松市内での調査結果と同じ傾 向である。また、セットではなくても全員に同一規格のものを渡したり、そろえさせたりいてい る例が全学年を通してみられるが、特に低学年に多い。
表2 学年別セット教材の使用割合
1年 2年 3年 4年 5年 6年 計
晋 孟 昔 音 譜 器一 昔
(32%) (34%) (34%) (17%) (9%) (12%) (2ユ%)
教科書の単元を、物理、化学、生物、地学の各分野に分けてみると、セット教材の使用割合は、
物理では35%、化学12%、生物17%、地学12%となり、物理的な内容の単元で多く使われている ことがわかる。特に、電気に関する単元では100%使用されており、電磁石の単元では86%とな り、他の単元を抜いて高い使用率を示している。物理的単元に関しては、セット教材が他の単元 のものより優れているためか、あるいは、教室内に備えてある器貝等を用いるより効果的である ためかはわからないが、上記のような結果になった。たしかにセット教材は便利ではあっても、
同一規格のものを使うと、すべて同じ使い方をするように作られているために、全児童が同一手 順でしかも同じ結果がでるような実験が行われる。一方、そのことにより、考え方も同一になり、
ある型にはまったこと以外はできないようになってしまうおそれがある。同じ現象をみても、ち がう側面から考えてみるとか、ある型をのり越えて何かをしたり、ある型をはみ出したことをや ってみるとかいうことも、理科学習では大切なことであると考えられる。そこで、セット教材を 使う際の指導法には「分な研究が必要になってくる。嶋酎台武、セット教材には長所・短所が
4)
あるのでそれらをわきまえた上での利用のし方として
彿目標を明確にして使う。この教材では何を教え、何をやらせ、何を考えさせるべきなのかをま ず厳しく吟味し、どの段階で何を目標にしてどのセットを利用するのかを分析しておく。セット があるから使わせるという安易な導入はよくない。
⑧市販セットは公費または準公費で一括購入しておいて、教師が学習目的に応じて部品だけを配 るとか、あるいは発展として学習終了後に渡して自由に実習させるとか、統一管理の下に計画的 に使用させることが望ましい。と述べている。また、教科書に従った型どおりの学習よりも、理 屈を一切ぬきにして、子どもの方からやり方を次々と考え出す選びの経験を通した学習が積極的 な発明工夫をも進めることができると述べている。
工夫を生み出す理科学習のためには、型にはまった機器ではもの足りないので、つくりながら
松村佳子・谷口広美
形を変え、大きさを変えて実験できるような消耗的な資材を十分揃えて、必要な工貝を備えてお
くことが大切であろう。井頭芳喜氏も、自分たちにも実験は簡単にできるのだという考えを抱か
6)せるには、できる限り身近な日用品を使用して実験装置を組み立てることが望ましい。また材料 はできる限り天然の材料を使用することが望ましい。特に児童に与える教材は単にその場限りの 目的を満足するだけでなく、広く他の教材にも通ずる経験としての働きもあることを考慮して与 えなくてはならない。天然の材料を加工する作業を通して、竹や木などのもっている諸性質も合 わせて知ることができる。と述べている。上記の意味からは昨年度我々が進めた「おもりで動く ぉもちゃ」の授業紋評価されてよいと考えている。
2.実験の形態と到達度
各学年毎に実験観察がどのような形で行われているかを集計してみた。それと同時に、児童が それぞれの単元で学習すべきことがらを理解するためのいろいろな目標が達成されたかどうかに ついて、教師の側からみた評価を調べた。結果を図1に示す。実験観察の形態は、教師の演示実
験(演)、児童自身が行う実験(児)、それらを組み合わせた混合形態(混)とに分け て、それぞれについて、(あ)目的は十分 達成された、(い)半分くらい達成された、
(う)ほとんど達成されなかった、の評価 をしてもらった。
各学年を通じて、児童が行う実験が多 く、演示実験のみで終るのは低学年では ほとんどなく、高学年でもわずかである。
到達度に関しては、(あ)が大半であるが、
学年が進むにつれて、その割合が減少し ている。(あ)と答えた中には、児童が楽 しそうに実験にとり組んでいたので、目 標が十分に達成されたと記しているもの もみられた。確かに小学校では理科を好 きになるためには、楽しく活動すること が大切であると思われる。楽しい理科に するためには、児童が十分に活動できる ように工夫することが必要である。その 意味では演示実験よりも児童実験の方が
望ましいと云えるであろう。児童実験と 一口に云っても、やり方次第では通り一
ペんのものになったり、全クラスの子ど もたちに強い印象として残り、一生の語 りぐさともなるようなものになったりも する。後者のような実験のための工夫と
5)
して、嶋田氏は教室一ばいになるくらい
学 年
評
形\価態 あ い う
1 演 児 混
2 l 演
児
混 °°°°°1°° °°°°°°°°
3 潰
児 °°°°°ヽ°°°
混
4 演
児 °.
混 °°°°°°°°
5
演 °°°°°°°▼
児 混
6
演 °°°°°°°
児 °°°°°1°°° 混
図1 実験の形態と到達度
のやじろべえや風車を使ったり、鉄筋校舎の屋上からビニールノヾイブを下げて地上で噴水をつく ってみたり、運動場の端から端まで届くような長い糸を使った糸でんわを作ったり、等々という ような大仕掛な実験機器を提案している。同氏はまた、「小学校では余計な理屈をひねって理科を きらいにさせないこと、できればみんな理科ずきにすることを第一の目標としたい」とも述べて いる。児童が単元に興味をもち、理科を好きになるような実験をするためには、実験機器を工夫 すると共に実験形態をどのようにするかということが大切な要素になってくる。
3.導入段階と到達度
学 年 段 評 階 価
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図2 導入段階と到達度
松村佳子・谷口広美
2.で述べた演示実験、児童実験、混合実験を合わせて、各単元のどの段階で導入したかをま とめてみた結果を図2に示す。各学年ともにアンケートに記した伸、困、桝の段階で導入してい ることがわかる。高学年になると、再、(⇒、再、(ト)の段階で導入される場合が増加してくる。
低学年では、どの段階で導入しても、効果は十分にあったと評価されている方が多いけれども、
(ホ)、け)の段階を除いては、中高学年になるにつれて、実験観察の目標達成度が下っていることがわ かる。また、高学年になると、(イ)で導入するよりも、(ホ)、(卜)、(チ)で導入する方がより効果があるよう に思える。学習する内容が高学年になるほど難しくなり、論理的な扱いもとり入られるためであ ろう。特に5学年では、再、(⇒、回での導入はあまり効果的ではなかったようである。また、6学 年では、目標が達成されなかったという評価が他の学年より多いのが目立つ。学習内容によるも
のなのか、理科嫌いの傾向の現れなのかはわからない。特に高学年では低学年とはちがった授業 展開や指導法上の工夫が必要になることが考えられる。
Ⅳ まとめと今後の課題
実験観察は、小学校理科の授業では欠かせないものであると考えられるが、アンケート調査か らそれらを導入せずに授業を行っているケースもあることがわかった。しかし、最近はビデオや テレビが普及しているため、それらを利用して実験観察に替えているのかもしれない。我々の調 査にはビデオについての項目が欠けていたために実態がつかめなかった。
実験機器は、セット教材がかなり使用されていることがわかった。児童の可能性を伸ばす授業 をするためには、その使用に関して、十分な教材研究と導入の工夫が必要になる。また、児童の 理科嫌いを少なくするために、実験の形態を工夫することが大切である。何よりも児童が楽しく 学習できるようにすることが第一一であろう。そのためには、教師が理科好きになり、身のまわり の現象に興味をもって、児童と一緒になって活動をし、遊びの中に創意工夫をこらして、常に児 童から何かを引き出していくような学習をさせることが望ましい。
実験観察を単元のどの段階で導入するのがより効果的であるかについては、この調査だけでは まだ不十分なので、今後実際の授業でいくつかのクラスに於て、同じ単元で同じ実験をちがった 段階で導入してもらい、その後児童にアンケートに答えてもらう形式等により、考察を深めてい
きたいと考えている。
この稿をまとめるために、多忙な中をアンケートに協力していただいた多くの小学校の先生方 に感謝申し上げます。
参考文献