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昭和大学附属烏山病院栄養科

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特  集 褥瘡に対するチームアプローチ

褥瘡と栄養

昭和大学附属烏山病院栄養科

鈴 木  文

は じ め に

 栄養が不良な状態は,免疫力の低下から感染や炎 症のリスクが高く,組織の代謝障害や循環障害を起 こしやすい状態である.また,低栄養では ADL が 低下し,臥床時間を延長させるとともに,組織の耐 久性を低下させ,褥瘡発生の素地が作られる.体重 が減少すると皮下脂肪が減少し,骨格と床面との緩 衝作用の役割が果たせなくなる.皮下の骨突出がみ られれば,皮膚の自重による圧迫が皮下組織の耐久 性を越えて,容易に潰瘍や壊死が形成され,難治性 の褥瘡が形成される(図 1).褥瘡の予防には,褥 瘡発生を待たずに,日ごろから栄養状態の評価を行 い,栄養改善に努めることが必要である.また,創 傷治癒の過程には多くの栄養が必要であり,低栄養 では創傷治癒が遅延する.褥瘡を有する患者では,

すでに基盤に慢性化した低栄養を有することが多 く,褥瘡の治療には,ほとんどの例で栄養改善に取 り組む必要がある.今回,褥瘡における栄養の基本 的な取り組みについて述べる.

低栄養とは

 低栄養は,大きく分けて,マラスムス(marasmus)

とクワシオルコール(kwashiorkor)に分けられる(表 1).マラスムスは,長期にエネルギーとたんぱく質の 摂取不足によりおこる飢餓状態である.クワシオル コールは,短期的にたんぱく質の摂取が不足する栄 養障害である.臨床の現場では,この両者を併せ持 つ病態を示すことが多い.エネルギーとたんぱく質 の摂取不足,吸収障害,栄養必要量の増加,喪失の 増加が組み合わさり,個々の病態を背景に低栄養 に陥る状態で,PEM(protein energy malnutrition)

とよばれる.PEM には,急性または慢性の炎症が

関与しているが,リンパ球機能が低下し,その回復 力が低下しているため悪循環を形成する.急性疾患 や外傷では,強い侵襲による炎症から異化亢進が強 く,栄養の取り込みや合成が阻害される.軽度〜中 等度の炎症が長期に持続する慢性疾患では,栄養障 害が長期化して低栄養の改善が困難な病態もみられ る.PEM では,蛋白の分解合成が抑制され組織の 修復は著しく阻害される.

褥瘡の創傷治癒にかかわる栄養素

 創傷治癒の過程は,炎症期,増殖期,成熟期に分 類される(表 2).それぞれの過程において,様々 な栄養素が関与している.各治癒過程に適切な栄養 が不足しないように,効果的に栄養を投与する.

 1)エネルギー

 エネルギーは,体の保持や活動のために不可欠で ある.摂取エネルギーが減少すると,代謝や活動性 が低下し,ADL が低下し長期臥床に陥る.また,

体重減少によりるい痩が進むと,皮下脂肪,皮下組 織が薄くなり骨突出部の皮下組織が圧迫され,褥瘡 発生,悪化の直接の要因を招くことになる.エネル ギー不足が続くことで,体たんぱくの異化亢進が進 み,皮膚組織の再生能力が悪化する.強い侵襲や感 染,発熱,褥瘡がみられる状態では,エネルギー消 費が亢進する.より多くのエネルギーを投与するこ とが必要となり,投与方法に工夫を要する.

 2)たんぱく質,必須アミノ酸

 たんぱく質は,筋肉や血液などを構成する栄養素 である.中でもコラーゲンは,体たんぱくの約 25%を占め,結合組織,骨,皮膚に多く存在する.

褥瘡の生じる皮下組織では重要な構成要素であり,

褥瘡治癒過程でその合成は重要である.創傷治癒過 程で必要な白血球機能の改善,線維芽細胞の増殖・

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機能維持,組織の新生などに,たんぱく代謝が必要 とされる.褥瘡創面からでる浸出液はたんぱくを多 量に含み,褥瘡という炎症による異化亢進ととも に,これらのたんぱく喪失の補給のためにもたんぱ く質の摂取が大切である.血中たんぱくが減少し膠 質浸透圧が低下して浮腫を起こすと,組織の脆弱性 や創傷治癒遅延の原因となる.

 高齢者や全身状態の悪化した患者は,エネルギー 摂取が炭水化物に偏る傾向にあり,主食は摂っても おかずは摂らないため,たんぱく食品の摂取が減少 するので注意が必要である.

 3)脂質,必須脂肪酸

 脂質は,膜の構成成分であり皮膚の統合性維持や 組織の維持などの働きを担っている.また脂質は,

質量あたりのエネルギーが高く,トリグリセライド の分解は侵襲時でも保たれているため,効率のよい エネルギー源としても重要である.低栄養時には,

中性脂肪,総コレステロールが低値を示す.必須脂 肪酸の欠乏は,皮膚の乾燥や落屑その他の皮膚病 変,免疫機能の低下をきたし,創傷治癒遅延を起こ す.長期静脈栄養では欠乏に陥りやすく,脂肪製剤 の投与を考慮する必要がある.

 4)ビタミン

 体の調子を整え,皮膚や粘膜の保護に重要な役割 を有している.代謝反応の補因子や補酵素などとし て働く.体内では合成できず,体外から摂取する必 要があるため,絶食が持続した場合は欠乏するので 補給が必要となる.特にビタミン C は,肉芽のコ

ラーゲンの合成に必要で,アミノ酸代謝や鉄の吸収 に関与している.ビタミン C は腸内細菌では合成 できないビタミンであり,欠乏すると創傷治癒が遅 延する.水溶性ビタミンの半減期は,数時間から 1 週間以内であり,侵襲時や低栄養状態では早期に欠 乏する危険がある.高齢者では日光に当たる時間が 減少するため,ビタミン D 活性化障害を起こし骨 折のリスクにつながる.

 5)ミネラル(電解質)

 骨や歯の構成成分であると同時に体の各機能を調 整している.鉄が不足し貧血になると,組織の酸素 分圧が低下し組織の代謝障害,脆弱化を助長する.

ミネラルの欠乏は,コラーゲンの生成を低下させ褥 瘡の治癒を妨げる.カルシウムの不足は,コラーゲ

図 1 褥瘡発生要因

表 1 マラスムスとクワシオルコールの比較

マラスムス クワシオルコール

原因 たんぱく質,エネルギーの欠乏 主にたんぱく質の欠乏

医学的原因 絶対的な栄養摂取量の不足 摂取量の不足+蛋白異化の亢進,肝疾患

体重減少 高度 軽度,ときに増加

筋肉減少 高度 軽〜中等度

脂肪減少 高度 軽〜中等度

浮腫 なし あり

腹水 なし あり

症状 神経過敏 無気力

血中アルブミン値 正常〜軽度低下(脱水補正後低下) 低下

総リンパ球数 正常〜低下 低下

[東口高志.JIN スペシャル:「治る力」を引き出す実践!臨床栄養.東口高志(編).東京:  医学書院; 

2010. p83.より引用]

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ンの架橋形成不全にもつながる.

 6)微量栄養素

 骨や歯の構成成分,消化液や腸液中にも含まれる 成分で体の各機能を調整している.経口摂取ができ ていれば欠乏することは稀である.亜鉛は褥瘡の治 癒過程で,線維芽細胞がコラーゲンを生成するとき に必要で,たんぱく質の合成や各種酵素の代謝に関 与している.亜鉛欠乏は,創傷治癒の遅延や味覚異 常,食欲低下につながり,口内炎,舌炎,皮膚症状 の原因となる.褥瘡の治癒過程で亜鉛は,たんぱく 質の合成や各種酵素の代謝に関与している.

 7)水分

 体内の水分量は,年齢,性別,体脂肪量により異 なり,一般に成人男性で約 60%,女性では約 50%

を占めている.水分不足は,皮膚や口腔粘膜,舌の 乾燥にもつながる.機能に問題がないときは,尿量 と同程度の水分補給を勧める.逆に過剰水分摂取に よる浮腫は,皮膚の耐久性の低下につながる.高齢 者では,体内水分量が減少し脱水を起こしやすいた め,こまめな水分摂取を勧める.患者の状況をよく 見きわめて投与量を決める必要がある.

栄養の評価

 栄養アセスメントを用いて,低栄養のリスクを抽 出し,低栄養の有無,程度の診断,治療の効果判定 を行う.

 1)主観的包括的評価(SGA:Subjective Global  Assessment)

 SGA は,体重,食事量の変化,消化器症状,機 能障害,疾患および代謝亢進について問診でスク リーニングを行う方法である(表 3).特に体重は,

栄養状態を評価する上で重要な項目である.体重を 経時的に捉えることで,体重減少率や浮腫の有無な どを評価できる.糖尿病壊疽や閉塞性動脈硬化症か ら下腿切断術を施行した場合は,体重の評価が難し く必要エネルギーの算定が困難となる.

 2)客観的栄養評価(ODA:Objective Data As- sessment)

 ODA は,身体計測(上腕三頭筋皮下脂肪厚,上 腕周囲径など),血清・尿化学検査,免疫パラメ―

ターなどに基づいて,栄養評価をする方法である.

身体計測は,その変動を把握するため継時的な計測

表 2 創傷治療にかかわる栄養素

治癒過程 欠乏症状 栄養素

炎症期 白血球機能低下 炭水化物

炎症期の遷延 たんぱく質

増殖期 線維芽細胞機能の低下 たんぱく質,亜鉛 コラーゲン合成機能低下 銅,ビタミン A・C

成熟期

コラーゲン架橋結合不全 カルシウム コラーゲン再構築不全 ビタミン A・C 上皮形成不全 亜鉛,ビタミン C

[美濃良夫.褥瘡と栄養(4)ビタミンとミネラル.臨床栄養.

102:406 より引用]

表 3 主観的包括的評価(SGA:Subjective Global Assessment)

1.身長,体重,体重変化

2.食物摂取量の変化(通常との比較),嚥下困難の有無

3.消化器症状(悪心,嘔吐,下痢,便秘,食欲不振などの持続の有無の確認)

4.日常生活動作(activities of daily living:ADL)

5.疾患・代謝亢進レベル

6.身体状況(身体計測;るい痩,肥満,浮腫,腹水,褥瘡の有無などの確認)

7.評価判定(スコア化;良好,中等度,栄養不良,高度栄養不良に分類)

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を行う必要がある.栄養改善を行うため,個人に あった必要エネルギーを算出する(表 4).

 3)必要エネルギー量の算定

 一般的に必要エネルギー量を決定するには,

Harris-benedict の式を用い基礎エネルギー消費量

(BEE:Basal Energy Expenditure) を 算 出 す る.

基礎エネルギー消費量に性別 ・身長・体重・年齢と 活動係数とストレス係数をかけて算出する(表 5).

 活動係数(Activity Factor:AF)は,日常の活 動状態によって設定された係数である.日常生活に おいては,軽労働〜重労働で 1.2 〜 1.8 を活動係数 とする.入院中の活動係数は,寝たきりでは 1.0 〜 1.2,歩行可能の場合は 1.3 を用いる.

 ストレス係数(SF: Stress Factor)は,侵襲度 や病態の重症度によって設定する.特に褥瘡の程度 でも違いがあるが,通常 1.2 〜 1.5 となる.

検査からみる栄養評価

 栄養状態を血液検査データから評価,改善の有無 をみることも必要になる.

 1)血清アルブミン(Albumin)

 栄養状態を判断する指標として用いられる.アル ブミンの値が低いほど褥瘡の発生リスクは高くなる ため,アルブミン 3.0 g/dl 以上を治療の目標にす る.血漿浸透圧の維持,尿酸や遊離脂肪酸,カルシ ウム,銅,亜鉛などを運搬する役割を持っている.

血中半減期が約 21 日と長いため,短期の栄養改善 の指標にはなりにくい.半減期から考えて,入院時 のアルブミン値は,入院前 1 〜 2 週間の食事摂取量 や栄養の偏りを示すことが多く有用である.また,

CRP が高く炎症がみられる状態ではアルブミンは 低値を示す.ネフローゼ症候群や肝不全では低値を 示す.高血糖,下痢,脱水症状の場合は,アルブミ

ンの値が高値になることがある.

 2)総コレステロール(T-Chol)

 半減期が短いため低栄養時には,アルブミンより 早く値が下がり,短期の栄養指標となる.

 3)尿素窒素(BUN)

 高齢者で尿素窒素の値が上昇した場合は,脱水か 腎機能低下,蛋白異化亢進を疑い原因の精査を行 う.他にも,腎機能障害,糖尿病性アシドーシス,

消化管出血,術後,慢性心不全,脳血管障害などで も尿素窒素が上昇する.

 4)血糖(グルコース)

 全身状態が悪化し炎症が強い場合には,糖尿病の 血糖コントロールは悪化し,糖尿病がなくても耐糖 能障害をきたす.高血糖状態が続くことで褥瘡の発 生リスクは高くなり,感染のリスクが高まるので,

コントロールは重要である.高カロリー輸液では,

急激な糖負荷に生体が反応できず,高血糖をきたす ことがあるので,血糖をチェックしながら徐々にグ ルコースの投与量を増加させていくことが必要であ る.同時に高カロリー輸液内のインスリン投与量の 調節を行う.

 5)CRP(C 反応性たんぱく)

 肝臓で合成される代表的炎症反応の指標である.

全身に影響する炎症や感染の程度がわかり,高値の 場合は異化亢進や侵襲があると判断できる.

 6)ヘモグロビン

 ヘモグロビンが低値の場合,細胞組織への酸素の 運搬能が低下する.褥瘡患者においては,皮膚,軟 部組織の脆弱化につながる.

 7)末梢総リンパ球数(TLC)

 末梢総リンパ球数は,免疫機能を示す.そのた め,PEM が生じると減少するが,感染や造血に影 響される.

表 4 客観的データ評価(ODA:Objective Data Assessment)

1.視診,触診(筋肉の喪失,下腿浮腫 ) 2.栄養摂取量(基礎代謝量,摂取エネルギー量)

3.身体測定(身長,体重,体重変化率,BMI,上腕三頭筋部皮下脂肪厚,上腕周囲径)

4.検査データ

生化学検査(アルブミン,ヘモグロビン,コレステロール,鉄,基礎疾患の主データ)

免疫学的指標(総リンパ球数,遅延型皮膚過敏反応)

特殊検査(インピーダンス法による脂肪量,除脂肪量)

(5)

 8)白血球(WBC)

 低栄養状態,薬物の副作用時に白血球数は低下 し,発熱,感染症,炎症が強いと上昇する.アルブ

ミン,CRP と合わせて低栄養状態を判断する.

 9)RTP(Rapid Turnover Protein)

 アルブミンと比較し半減期が短く代謝も早い.短

表 5 エネルギー必要量の算出 基礎エネルギー消費量(Basal Energy Expenditure:BEE)

 Harris-Benedict の式

  男性 BEE = 66.47+13.75

×

(Wt)+ 5.0

×

(Ht)− 6.75

×

(A)

  女性 BEE = 665.1+9.56

×

(Wt)+ 1.85

×

(Ht)− 4.68

×

(A)

 日本人のための簡易式

  男性 BEE = 14.1

×

(Wt)+ 620   女性 BEE = 10.8

×

(Wt)+ 620

(BEE:kcal/day,Wt:体重 kg,Ht:身長 cm,A:年齢 years)

エネルギー必要量(kcal/day)= BEE

×

活動係数

×

ストレス係数

活動係数

寝たきり(意識低下,安静) 1.0

寝たきり(覚醒状態) 1.1

ベッド上安静 1.2

トイレ歩行 1.3

一般職業従事者 1.5

ストレス係数

飢餓状態 0.6 〜 0.9

術後(合併症なし) 1.0

胃切除術後急性期 1.2

大手術後急性期(開腹術,多臓器不全など) 1.3

長管骨骨折 1.1 〜 1.3

1.1 〜 1.3

腹膜炎/敗血症 1.2 〜 1.4

重症感染症(多臓器不全) 1.5

熱傷:体表面積 10%ごとに 1.0 に 0.2 ずつアップ(最大 2.0) 1.2 〜 2.0

発熱(1℃ごと) 0.15 〜 0.2 加える

[田中芳明.NST 栄養管理パーフェクトガイド上.医歯薬出版; 2007. p45.]

褥瘡症例のストレス係数

褥瘡は治癒,栄養状態も改善 1.0

褥瘡の明らかな縮小,栄養状態も改善傾向 1.1

褥瘡に対する栄養管理の開始時 1.2

局所に明らかな感染,ドレッシング 1 日 2 回以上 1.3 感染の全身症状(発熱)あり,ドレッシング 1 日 2 回以上 1.4

前項に加えて肺炎などの消耗性疾患あり 1.5 以上

[東口高志.JIN スペシャル:「治る力」を引き出す実践!臨床栄養.東口高志(編).

東京: 医学書院; 2010. p132.より引用]

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期の栄養の指標に用いられる血漿蛋白である.RTP は,プレアルブミン(PA)別名トランスサイレチ ン(TTR),レチノール結合蛋白(RBP),トラン スフェリン(Tf)がある.プレアルブミンは,半 減期が 2 日で,炎症や重症感染症,肝機能障害,吸 収不良症候群で低値を示す.レチノール結合蛋白の 半減期は 0.5 日,ビタミン A 欠乏症や炎症,吸収不 良症候群,肝機能障害,外傷で低値を示す.トラン スフェリンの半減期は 7 日で,炎症や感染,ネフ ローゼ症候群,肝機能障害で低値を示す.評価する 上で,肝機能障害や感染症,炎症の影響を受けるた め CRP などの炎症マーカーと合わせて測定する.

栄養のアプローチ  1)病態別食事管理の工夫

 個々の患者の持っている慢性疾患の状態をふまえ た栄養管理が,褥瘡の治療にも大切である.

 糖尿病

 末梢神経障害や末梢循環障害,免疫機能の低下な どにより褥瘡発生のリスクが高くなる.

 肥満がある場合は,理想体重を目指したエネル ギーを設定する.血糖のコントロールを安定させる ために,炭水化物の配分に留意し必要エネルギーを 設定する.栄養管理のみでなく,血糖降下薬やイン スリンとあわせて治療を行う.

 慢性腎臓病

 慢性腎臓病は,窒素代謝物の排泄障害や高血圧,

水・電解質代謝異常,酸塩基平衡障害などのコント ロールを目的とした栄養管理が必要となる.慢性腎 不全では,腎臓の病期に応じた,たんぱく質制限を おこなうとともに,異化亢進を抑制する適切なエネ ルギー量を設定する.また,炎症や糖尿病,心血管 障害合併症に対しての治療も合わせて行う.

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)

 呼吸筋の代謝が亢進し,エネルギー消費量が通常 の 1.2 〜 1.4 倍に増加する.そのため,脂肪や筋肉 が減少し,体力の低下,食欲の低下につながりやす い.たんぱく質,エネルギー摂取量が落ちるため,

マラスムス型の栄養障害につながる.COPD では,

高炭酸ガス血症を予防するため,呼吸商の小さい脂 質によるエネルギー設定を行う.

 胃瘻や経鼻栄養においても.病態に応じた経管栄 養剤を選択する.また,褥瘡治癒促進に効果の期待

される亜鉛,銅やビタミン C 強化製品やグルタミ ンといった必須アミノ酸の利用もその病態治療に合 わせて行う.

 2)食べさせる工夫

 有効な栄養供給は経口摂取が最も有効である.栄 養の確保のために,まず食事を食べられることが重 要である.これは患者の精神面にも影響が大きく,

食べる喜びや味の刺激から,治療意欲や ADL 向上 がもたらす治療効果は絶大ともいえる.食べられて いなければ,その原因を追究して,食べられるよう 工夫することが第一歩となる.食事に向かう気持ち を引き出し,食事環境や姿勢が整っているかを確認 することも大切である.少食の食事摂取が食欲不振 と考えられてしまったり,味覚障害に気づかなかっ たり,入れ歯が合わないための咀嚼困難から摂取量 が落ちることがある.食事形態を考慮し,きざみ 食,ソフト食,ミキサー食などの噛まずとも消化が 良い形態に変更する工夫も求められる.また,抗ガ ン剤治療で,食事の臭いが受けつけなくなり嘔気,

嘔吐で食欲低下につながることもある.食事の提供 温度を下げ,臭いを抑える工夫も大切な見直しにつ ながる.少食な食習慣の患者においては,食事にと らわれずカステラやプリン,アイスクリームなどの 乳脂肪を含む食品もエネルギーアップの工夫にな る.経腸栄養剤を第一選択とせず,経口摂取での食 事や形態の工夫,個人の食習慣を丁寧に聞き取り,

状況に合わせた食事対応に取り組む必要がある.

 3)消化器症状改善の工夫  下痢

 下痢症状への対処は重要である.栄養の消化吸収 は,下痢の回数や量において栄養低下に陥りやすく なる.下痢は,成人で 1 日の糞便が 200 g を超える 場合と定義されている.特に下痢は,アルカリ性で あり細菌や消化酵素による化学的刺激により,褥瘡 好発部位である仙骨の皮膚の浸軟や感染という皮膚 トラブルにつながるため栄養面での改善が必要にな る.下痢には,浸透圧性下痢,滲出性下痢,分泌性 下痢,腸管運動異常による下痢などがある.特に高 浸透圧の経腸栄養剤が,腸管に流入することは下痢 につながる.経腸栄養剤の投与速度や投与開始時の 投与量の問題も見直す必要がある.投与方法を間欠 投与から持続投与に切り換える.また,液状栄養剤 を半固形化栄養剤に変更することも有効と考えられ

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る.乳糖不耐症がある場合は,経腸栄養剤の種類を 変更する.止痢剤や整腸薬などの服薬も併用する.

 便秘

 便秘には,腸管の通過が障害されおこる器質性便 秘と,腸管の運動機能が障害される機能性便秘に分 けられる.便秘は,3 日以上排便がない場合や便量 が 1 日 35 g 以下であることと定義されている.便 秘の改善には,糞便量を増やすため食物繊維を増量 させる工夫も必要になる.

 4)栄養投与経路の工夫

 極力経口摂取に重点を置く.しかし褥瘡症例の多 くは十分な経口摂取ができないために,すでに低栄 養に至っていることが多く,栄養補助が必要であ る.まず,不足栄養を末梢静脈栄養で補うことがで きないかを検討する.さらに介入が必要な場合,消 化管機能が使用可能な状態であれば,経鼻栄養 チューブを用いた経腸栄養を選択する(図 2).消 化管に問題がある場合,消化器症状が強い場合や腸 内感染を起こしている場合,高度の侵襲がみられ全 身状態が不良な場合などで消化管の使用ができない 場合は,中心静脈カテーテルを留置して,中心静脈 栄養を選択する.4 週間以上の長期におよぶ経腸栄

養が必要な症例や誤嚥性肺炎を繰り返す患者では,

胃瘻の造設も考慮する.しかし,胃瘻は侵襲を伴う 長期におよぶアクセスとなるため,十分慎重に検討 してから選択する.

 5)経腸栄養剤選択の工夫

 経腸栄養剤は,医薬品と食品から選択することが 可能である.種類では,成分栄養剤,消化態栄養 剤,半消化態栄養剤に分けられる(表 6).

 成分栄養剤:クローン病や短腸症候群といった消

表 6 経腸栄養剤の種類と特徴

種類 半消化態栄養剤 消化態栄養剤 成分栄養剤

窒素源 ペプチド トリペプチド

ジペプチド 結晶アミノ酸

糖質 デキストリン デキストリン デキストリン

脂質 比較的多い 少ない 少ない(1 〜 2%)

残渣 少ない 極めて少ない なし

味・香り 比較的良好 不良 不良

種類も豊富 (フレーバー) (フレーバー)

浸透圧 低い 高い 高い

流動性 良い 極めて良い 極めて良い

消化 多少必要 一部必要 不要

チューブサイズ 8Fr 以上 8Fr 以上 5Fr 以上

長期投与の留意点 微量元素欠乏 必須脂肪酸欠乏

微量元素欠乏

必須脂肪酸欠乏

適応 経口摂取が不可能,

あるいはそれだけでは十分 な栄養摂取が困難な場合

消化・吸収機能が低下して

いる場合 消化・吸収機能が著しく低下

している場合

短腸症 クローン病 図 2 栄養投与経路の選択

(8)

化吸収障害や膵機能不全が適応疾患となる.窒素源 の構成成分が合成アミノ酸であり,脂肪含有量が 1 〜 2%,低残渣である.消化吸収が大変に良いが,

長期にわたる成分栄養剤投与の場合には,必須脂肪 酸欠乏の危険性があるので注意が必要である.

 消化態栄養剤:窒素源は,アミノ酸やジペプチ ド,トリペプチドで構成されている.成分栄養ほど には,脂肪が制限されていないため腸管安静者には 適応とならない.

 半消化態栄養剤:窒素源は,主にたんぱく質であ り,脂肪を 20 〜 30%含んでいるため必須脂肪酸欠 乏は稀である.栄養剤の種類も多く,味も多岐にわ たる.病態別の栄養素を調整した経腸栄養剤を利用 することも可能である.

 6)栄養内容の見直し

 栄養摂取ができているか,栄養状態は改善してい るかを,病状や褥瘡の経過と合わせて再評価して,

状況に合わせて検討していくことが重要である.検 査データの低下や摂取量の低下,消化器症状,基礎 疾患のコントロール不良などがみられないか,再度栄 養の評価を行って新たな栄養介入の方法を検討する.

チ−ムで取り組む栄養管理

 褥瘡の治療において,褥瘡チームの介入が重要で ある.各疾患の治療と栄養管理を同時に進めなけ ればいけない.栄養状態の評価には,栄養サポー ト チ ー ム(NST:Nutrition Support Team) の 介 入が求められる.また,嚥下リハビリチームなど専 門性を生かした多職種が参加するチーム医療が有用 になる.

 最 後 に

 褥瘡予防管理ガイドラインが 2012 年 6 月に改定 された.栄養に関するエビデンスでは,『根拠は限 られているが,行ってもよい』との推奨度 C1 の記 載が多くを占めている.しかし,褥瘡の発生と治癒 遅延には栄養障害が根底にあり,褥瘡の予防と治療 において栄養の評価と改善は不可欠である.局所治 療,手術治療とあわせて,チーム医療で取りくみ,

個々の患者に合った適切な栄養管理に多面的にアプ ローチしていくことが重要である.

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