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国際理解教育と言語文化

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(1)

国際理解教育と言語文化

一一英語・スペイン語・ルーマニア語における 依頼表現への認知言語学的アプローチ一一

森 山 智 浩 ・ 小 山 政 史 ・ 幅 森 雅 史

1 . は じ め に

グローバル化が急速に進む昨今,国際コミュニケーション能力の重要性 が問われて久しL、。平成12年に大学審議会から出された答申「グローバル 化時代に求められる高等教育の在り方について」では,グローパル化によ る社会・経済・文化の流動化,専門知識の高度化,情報化が進展するとい う現状認識が語られ, 21世紀は「柔軟性と変化の世紀」としてまとめられ ている。これは「一層流動的で複雑化した不透明な時代J(平成10年,大 学審議会「答申J)においては多様な価値に対応し,人・物・情報の「交 流」によって生じ得る 「衝突」を回避することができる人材の育成が急務 であることも同時に意味するO このような新自由主義の潮流の中,平成14 年の

r T

英語が使える日本人」の育成のための戦略構想」とそれに続く平 成15年の

i T

英語が使える日本人」の育成のための行動計画

J

(いずれも文 部科学省)において高等教育での英語教育の目標が定められることとなっ たのであろうが,当然のことながら,外国語を学ぶ意義は何も英語学習だ けに見出されるものではない(1)。また,先の衆議院予算委員会 (2013年3

(1)  法務省入国管理局によると, 日本国内における外国人登録者の総数は, 2010  年末の213万4151人から東日本大震災 (2011311日)直後の20113月末ノ

103 

(2)

月8日)に続いて行われた中山成彬議員の質疑に対する下村博文文科相の 回答(2)に代表されるように,その前提として, I言語と文化に対する理解を 深め, 自身の文化を相対化すると共に文化的相違に対して肯定的・寛容的 である態度」の育成が不可欠あり,外国語教育で国際コミュニケーション 論を語るには各母語話者の認識をも見つめるような「言語文化」的視点が 必要であると考えられるの)。

、には209万2944人と急速に減少した。 6月末にはわずかに増加したが,その後,

再び減少し, 2011年末の統計では, 207万8.508人となった。しかしながら, 1991  年末では121万8891人であったことを鑑みれば,減少した2011年末においても 859617人の増加があることがわかる (cf.I法務省ホーム・ページ:在留外国 人統計 (1日登録外国人統計)J(アクセス:2013120日))。この2011年末 統計の内訳(国別)に目を向けると,中国:32.5% (67万5515人),韓国・朝 鮮 :26.2% (約54万4,569人),ブラジル:10.1% (約20万9,929人),フィリピン:

10.1% (約20万9929人),その後,ペル‑2.5%(約5万1962人),アメリカ合 衆国:2.4% (4万9.884人),その他:16.2% (33万6.718人)の順に続いて いる (cf.矢野恒太記念会(編)(2013: 60))

(2)  I我が国の子供たちは日本の歴史・文化・伝統を知らなL、。真の国際人は真の 日本人であるからこそ,諸外国の人たちともきちっと話すことができるO 外国 に行ってみたら自分の国のことを知らない。そのために反論できなLいじめ られるというよりは,多くの日本人が留学して, 自分がいかに日本を知らない かを痛切に感じ,改めて日本の勉強をし直す。日本の教育を変えてほしいとい う話をたくさん聞いているし,指摘もあると思う」という趣旨の回答 (cf.I 山なりあき オフィシャルブ、ログ 建て直そう日本~この国を守る覚悟を~J) (3)  このような理念に則り,筆者たちも2006年に国際言語文化学研究会を発足し,

当研究会メンバーで様々な学術成果を発表することで, その是非を世に問うて きた(たとえば, ~FD 改革下における語学教員への 7 人の新提案一認知言語学・

教育学・社会学・心理学・言語文化学の学際的観点から 』等)また, こう した言語文化を見つめる視点が如何に重要かはたとえば国際言語文化学会が 設立されようとしている動向 (201334日現在)からも伺い知れる (cf. www.kufs.ac担jnewsjdetail.html?id=3064bc6d4e3c4975c32ba451629ff3af&auth= 1 (アクセス日:201339日))。なお,認知言語学・比較言語学・意味論・

歴史意味論・形態論の観点から見つめた 言語文化」の意義・論理およびそれ を導入・活用する有用性のさらなる詳細については上野・森山 (20102011,  2012a,  2012b, 2013)参照。

‑104‑

(3)

以上の情勢の下,我が国の高等教育における外国語教育分野への導入と して今まさに注目すべき教育内容の一つが「国際理解教育 CEducationfor  In terna tional  U nderstanding) Jである(4)。たとえば, 日本国際理解教育 学会の設立趣旨に以下(1)が記載されているO

(1)  21世紀を目前に控え,東西対立の冷戦構造が緩んで世界は新しい 秩序をもとめて模索をはじめた。物,金,情報そして人聞が国境 を越えて活発に交流し合い,各国,国民の相互依存関係がますま す強まってきた。反面,民族,伝統,文化,言語等の違いによる 競争,対立,誤解,摩擦も日常化し,国民相互の理解交流の大切 さを示しているO さらに環境問題など地球規模の新しい課題が 我々の視野を全人類と来たるべき世紀に向けさせているO 人々の 心に平和の砦を築くという精神の下に,ユネスコが永年唱えてき た平和と異文化理解を軸とする国際教育の必要性が今日ほど高 まったときはなL、。国際教育は知識,技術,思考力,価値観,態 度形成にわたる教育実践であるO

一日本国際理解教育学会 ホーム・ページ「設立と趣旨」

(アクセス日:2013年8月30日)

(4)  この学習活動はグローパル・スタディーズ (GlobalStudies),ワールド・ス タディーズ (WorldStudies),地球市民教育(GlobalCitizenship Education),  持続可能な開発のための教育 (Educationfor Sustainable Development ; ESD)  等と呼ばれ, 1974年のユネスコ総会では従来の国際理解教育に代わって「国際 教育 CInternational Education) Jが新たに提唱された。論旨の都合上,本稿 では「国際理解教育」の名に統一して論を進める。なお,以上の理念に則り,

(2013年現在)筆者たちが教鞭をとる近畿大学法学部では, 2014年度より同学部 国際コースにて「国際教育演習ABJが設置されることになっている

‑105‑

(4)

国際理解教育について,寺島 (2009: 85)では,ユネスコ 「国際教育・勧 告j(cf.文部科学省ホーム・ページ「ユネスコ総会で採択された勧告一覧 /Recommendationsj) (5)を挙げ,

r

平和j,

r

環境j,

r

人権」などの「人権 的諸問題」に留意しながらも,そうした GlobalIssuesを中心テーマとす る国際理解教育を実践・展開するためには,言語の教授・研究に携わる教 員は特に政治にも敏感でなければならないことが述べられているO ここで,

上記(1)における「民族,伝統,文化,言語等の違いによる競争,対立,誤 解,摩擦の日常化」および 「知識,技術,思考力,価値観,態度形成にわ たる教育実践」に注目すると,その前提として,各母語話者の「モノの捉 え方」を明らかにして「文化的相違に対して肯定的・寛容的である態度」

を身につけさせるための教育研究基盤をさらに構築してし1く必要があるO

ましてや,それを言語文化の範曙内で具現化させようとするならば,様々 な言語文化に対して「等しく価値があるものとして見なすことj,そして

「言語を通して文化を見つめることj,これらの態度でもって学習者の思考 を揺さぶるような教育研究を推進することも我々語学教員にとっての喫緊 の課題であると考えられるO 必然的に,前者は異言語文化の比較・対照,

それも日本の外国語教育において今まで十分に光が当たっていたとは言い 難い言語文化をも取り入れた教育研究態度が要求される一方,後者につい ては母語話者の文化観をも見つめることができる言語研究アプローチが必 要とされなければならない。

以上の点について,次の (2)は非常に示唆に富んでおり,我々はその提言

(5) 第18回総会(1974年)で採択され,正式名称を Recornrnendationconcerning  Education for International Understanding, Co‑operationldPeace and Ed uca  tion relating to Human Rights and Fundamental Freedoms" (1国際理解,

国際協力及び国際平和のために教育並びに人権及び基本的自由についての教育 に関する勧告J)と言うこの略称として International Education" (1国際 教育J)という名称が使われている

‑106‑

(5)

を真撃に受け止めなければならな ~'o 自戒の念を込めて言っているO

(2)  そもそも「国際理解教育」とは,どの文化も・どの言語も等しく 価値があり,共に対等の立場で協力し共生していこうとする新し L 、人間, I地球市民」の育成を理念としてきたのではなかったか。

しかし英語教育は,ともすると,この理念とは全く逆行する人聞 を育てることに貢献する恐れがあるO そのことを英語教師は肝に 銘じておくべきなのであるO

‑寺島 (2009:78) 

そこで,以下では,ルーマニア国(以下,単に「ルーマニア」と記載) において実施された言語文化に関する現地学術調査(調査期間:2013年 (平成25年) 2月17日一同年3月16日〉の研究成果の一部を活用すること により,英語・スペイン語・ルーマニア語各々における依頼表現の概念を 比較・対照し,その基底に存在する各母語話者の言語文化認識に光を当て る紛。 その主たる目的は, 当該表現を一例に,我が国の高等教育における

(6)  本稿で英語のみならず, スペイン語・ルーマニア語各々の言語実例を採用し た理由は,英語はゲルマン語族に属するものの, Norman Conquest以降,万語もの語葉がラテン語から借用されており, ラテン語由来言語との比較・対 照がローマ・アルファベット言語圏における母語話者の認識を浮き彫りにしや すいと考えたことによるO 以下 [1Jがその歴史的事実の概略である

[1Jノルマン人の征服以前に英語に入ってきたフランス語はcastleIJ pride I誇りJtower I など数語にすぎなかったが, 13世紀初め から徐々に増加し, 1350‑1400年に頂点に達した。中英語期だけでじ っにl万語もの借入語が英語に入ってき,しかもそのうち7500語が今

日の語嚢に残っている。

一中尾 0989:59) (下線筆者) 個別に言えば,スペイン語はフランス語と同様,ラテン語から派生したイタリ ク語派に属する言語である。そこで,このフランス語語葉を介するようにして,

スペイン語と英語との聞に語の形とその意味との類似性が顕著に観察されるとノ

(6)

言 語 文化 教 育 の 範 曙 内 で 国 際 理 解 教 育 を 具 現 化 ・ 推 進 す る 前 提 と し て , 対 象言語に反映された文化認識を見つめる重要性を問うことにある(7)。なお,

、考えられる。他方,ルーマニア語はギリシア語・スラブ語・ハンガリ一語・ト ルコ語・フランス語などの借用語葉が多く,かっ,文化的にローマ・カトリッ クの影響をほとんど受けていない(他のラテン語由来言語と比べて)特異な言 語であることから, ローマ・アルファベット言語の中でも比較的英語と異なる 言語として(本稿の論考点の一つである)I超越的視点」の異同を参照するのに 大きな役割を果たすと考えられる。また,認知言語学の枠組みではそれぞれ異 なる体系を持つ言語どうしであっても, その差異自体は互いの概念的比較・対 照研究を行う上での障害とならなL、。それどころか, 自然言語の基底に広がっ ている社会文化には母語話者の認識世界が密接に関っていることから,認知言 語学の枠組みにおける研究は言語文化学的色彩をも帯びることになる。詳しく は森山智浩・高橋・入学・森山オアナ他 (2010:3 ‑44)参照。

なお,筆者たちの知る限り,認知言語学および言語文化的視座から,英語・

スペイン語・ルーマニア語各々における依頼表現の概念を比較・対照した先行 研究は存在していない。

(7)  ルーマニア国における今回の現地活動はルーマニア文部省,ユネスコ, Argedava  欧州学術文化協会, Casa Artelor Poligrafice Editoriale Rotarexim等,様々 な機関に支えられ, Muntenia地方(旧Valahia地方)を中心に,本稿の筆者 それぞれが個別に複数回の招待講演会も行った。その中でも,ユネスコが提唱 する国際理解教育・国際教育の理念を実践すべく,本稿と同様の趣旨に則って 当該現地調査活動が進められた。特に, Emil Oprescu Colina Oprescu (~、ずれも Professorat Colegiul National Liceal Zinca Golescu Petronela  Crefelean氏 (ProjectLeader at UNESCO), George Rotaru氏 (President at Casa Artelor Poligrafice Editoriale Rotarexim), Oana Moriyama氏(Inter‑ national Coordinator at Argedava European Cultural Association)には我々 の学術活動に深い理解と多大な協力を頂いた。

また, この期間中,同国在住/同国国籍所有の以下の方々をはじめ,多くの ルーマニア語母語話者の方々から温かい支援を頂いた。本論文中で用いられて いるルーマニア語実例の容認度の確認も含め, その多大な支援に対してこの場 を借りてお礼申し上げる。

[ 1 ] Nicolae Miric温(電気エンジニア・男性・53) Emanuela Miric (小売商・女性48歳),Oana Moriyama (心理学士・女性・29歳入 Bogdan Mirica (オペラ歌手・男性28歳) Valentina Miric益(バ レリーナ・女性・28歳), Daniela Moldovan (バレリーナ・女性・28 歳), Enache N iculina (機織手・女性・74歳)Viorica Miric益(無 職・女性・73歳), Gheorghe Chingaru (不動産・男性・52) Adriーノ

(7)

その主たるトピックとして「依頼」表現を採用した理由は, I言語を通し て世界の平和を CPaxMundi per Linguas) Jという想いを胸に,そこに

顕著に反映された或る「視点」を見つめることが,まさに我が国の外国語 学習者が異文化理解を実践するための新たな視点を身につける一機会とな

り得ると考えたことによるO

2 .  

依頼表現に見る経験のゲシュタル卜

2.1.  英語・スペイン語における言語文化認識

「依頼表現」と一言で表しても,その種類は多岐に渡るO たとえば,英

語でも Willyou kindly... 7,"I'd like to. . . 7,"1 wish you would. . . 7," 

1 wonder if / 1 was wondering if. • • 7"といった丁寧さに重点を置くも のばかりでなく,相手に面倒をかけることを前提とした 1s is  possible  [for youJ  to... 7,"Would it be possible  [for youJ  to... 7"等や話者/

書き手の申し訳なさを前提とした 1don't want to trouble you, but. . .," 

If it's not too much trouble, would you. . . 7"等,枚挙に遣がなL、。書 き言葉特有の依頼表現(たとえば I'm writing this e‑mail as 1 wish to  ask a favor of you."等)も含めれば,その鋳型のパタンはさらに広がる

ana Chingaru (家政婦・女性・49歳) Radu Chingaru (大学生

性・29歳), Alin Manea (エンジニア・男性・47歳), Mihaela Manea  (教授(地理学〉・女性・44歳), Evelin Manea (大学生・女性・25歳), Gabriela Manea (大学生・女性・22歳), Sorin Moise (ルーマニア 軍大佐・男性・43歳), Mirela Moise (金業秘書・女性・40歳), Mir‑ ceaMirica (工場長・男性・39歳), Raluca Mirica (家政婦・女性・

37歳), Adrian  Mirica (学生・男性・16歳), Andreea  Marinescu  (コンビュータ技師・女性・30歳), Andreea Dragoteanu (学生・女 性・20歳), Gabriela  Suciu (バレリーナ・女性・33歳), Miruna  Moldoveancu (バレリーナ・女性・27歳), 1 vascu Cosmin (写真家・

男性・31歳), Dumitru Elena Daniela (モデル・女性・25歳)

109 

(8)

ことになるO そのような枠組みの中で,我々日本人に最もよく知られ,か つ,英語初修段階で学ぶ最も典型的な依頼表現の一つが間投詞 please"

を用いた表現であろうO そこで,以下では,英語pleaseおよびその対応訳 として表されることが多いスペイン語表現に分析射程を定め,論を進めるO

以下 (la‑b)に示されるように,動調用法に端を発する pleaseの依 頼表現は,本来「祈願文Jに遡及する(8)

(1)  a.依頼・要求のPlease![?]はtPlease (it)  you (= May it please  you)の略でMilton,Paradise Lostに初出.

一寺津(編) (1999) (s.v. please, v.)  (下線筆者) b.  Meaning  to delight"  in English is from late 14c.  Inverted  use for  to be pleased"  is  from c.1500, first in Scottish,  and paralleling the evolution of synonymous like (v.). In‑ transitive sense  (e.g. do as you please) first recorded c.1500;  imperative use  (e.g. please do this) , first  recorded 1620s,  was probably a shortening of if it  please  (you) 

C l

ate 14c.).  Related: Pleased; pleasing; pleasingly. 

Verbs for  please"  supply the stereotype polite word (e.g.  Please come in," short for may it  please you to . ..) in many  languages  (French, Italian),But more widespread is the  use of the first singular of a verb for  ask, request'  " [Buck,  who cites German bitte, Polish proszc, etc.] Spanish favor  is short for hace elfavor "do the favor."  Danish has in this 

(8)  本稿において,寺津(編)(1999), Harper (ed.)  (2013)から引用した歴史 的事実についてはすべて OEDでも再確認している。便宜上,同様の形で論を 進める。

(9)

sense var saa god, literally  be so good." 

Harper(ed.)  (2013)  (s.v. please v.)  (アクセス日:2013年3月9日)(下線筆者)

上記の史的変遅からも明らかなように,元来 May [if]  it  please you" 

であったものがpleaseを残して省略され,品詞転換を起こしたと類推され る(9)。さらに,ここで用いられている mayは,次の (2)に示されるように,

「祈願」を表す意味用法として知られているO

(2) 

C f

ormal)  used to express wishes and hopes:  盟主she tin peace. 

Business has been triving in  the past yea r. Long m.の'itconhnue to do so. 

‑OALD (s.v.  may,αux., 6) (下線筆者〉

しかしながら,本来,法助動詞の意味用法は 「根源的モダリティ (root modality)jから「認識的モダリティ (epistemicmodality) jへと一方向 的に変化した (cf.Sweetser (1990))ことを鑑みると, こうした「祈願」

の意味用法もまた, mayが持つ根源的モダリティである 「許可 (PERMISSION)j  の意味用法から拡張したと考えるべきであるω。これは,下記 (3a‑d)  の表す事象が,

(9) 厳密には,フランス語における非人称構文 S'ilvous plait"から導入された

ω 

形態。Mayの原義概念はmight(力)(cf.寺津 (編)(1999) (s.v. may))簡潔に

言えば,対象者が或る行動・行為を行うための抽象的障害を (発話者/書き手 が)取り除く「力」の概念が「許可」の意味用法を,或る見当をつけるための 抽象的障害を (発話者/書き手が〉取り除く「力」の概念が「推量」 の意味用 法を生じさせたと考えられるO

(10)

(3)  a.  May you be very happy ! 

b.  May the new year bring you happine88 !  c.  May the Queen li ve long ! 

d.  May God ble88 you ! 

それぞれ,以下 (4a‑d)のような意味論的構造を持っていると捉えられ ることからも明らかであるO

(4) a.  X M A  Y (= PERMIT) THA T you be very happy !  b.  X M A  Y (= PERMIT) THAT the new year bring you happi‑

ne8S! 

c.  XMAY (ニPERMIT) THAT the Queen live long !  d.  X M A  Y (= PERMIT) THA T God bless you ! 

ここで iTHAT以下の事象を M AY (= PERMIT)している主体Xは何 か?Jが議論となろうが,結果から言えば,

x

はprayの表示動作対象の 到達点と見なされる「神」であると考えられるO この妥当性は,上出(3 

a‑d)がそれぞれ,次の (5a‑d)にパラフレイズ可能な言語事実が物 語っているO

(5)  a.  1 will pray to God that you may be very happy. 

b.  1 will  pray to  God that the new year may bring you  happine8S. 

c.  1 will pray to God that the Queen may live long.  d.  1 will pray to God that God may bles8 you. 

(11)

したがって,上出 (3a‑d)が表す事象は, それぞれ以下 (6a‑d)の ような意味論的構造を持っていると言えるO

(6)  a.  GOD M A  (= PERMIT) THA T you be very happy !  b.  GOD M A  Y (= PERMIT) THA T the new year bring you 

happiness! 

c. GOD M A  Y (= PERMIT) THAT the Queen li ve long !  d.  GOD M A  Y (= PERMIT) THAT God bless you ! 

その結果, pleaseの原義が次の (7a‑b)に示される TOBE FLATの概 念,すなわち 「平穏とは起伏がないことである」とする構造のメタファー (STRUCTURAL METAPHOR)を通した 「平 ら な → 平 穏 な → 心 を 落 ち 着 か せる;乱さなLリ概念に遡ることもここに併せ考えるならば, iそのこと があなたの心を乱しませんように(Iwill pray to God that it may please  you)Jという,祈願文本来の「超越的視点」の存在が浮かび上がることに なるO

(

竹 a.  1 ~cl303} 満足させる,喜ばせる.

~cl350} 満足する,楽しむ.

~cl350} [非人称構文で]…の気に入る.

4 0500‑20 Dunbar}したいと思う,好む.

4砂MEplese(n) OFplaisir (F plaire) 

L place tobe pleas‑ ing, 

i

原義)make smooth ι ‑IE *pl ak‑to  be flat (L  placare to calm, PLACATE' / Gkplax level):  cf. FLAKE(l)(2) 

く〉語義1の用法で to (a person / oneself)をとる自動詞 構文は, OF plaisir aや人を表す与格を伴う Lplaareの影

(12)

響であり, M Eにのみ見られる.この toをとらない他動 詞構文の目的語も本来は与格であった.受身形 bepleased 

も1380年ごろから用いられている.語義4の自動調用法は 他動調あるいは非人称構文からの発達で, 15 C にScotland の作家たちによって用いられ始めた.同じような転用は14 CにLIKE(2lにも認められる.慣用句ifyou please は1530年 に初出だが,それ以前のtif it please youの発達である:cf.  F s'il vous plait / L si vobis placet / G wenn es Ihnen gefallt. 

一寺津(1999)(編)(s.v. please, v.)  (下線筆者) b.  early 14c.,to be agreeable," from Old French plaisir to  please, give pleasure to, satisfy" (11c., Modern French plaire,  the form of which is perhaps due to analogy of faire), from  Latin placere to be acceptable, be liked, be approved," related  to placare to soothe, quiet" (source of Spanish placer, Italian  piacere), possibly from PIE *plak‑e‑ to be calm," via notion  of still water, etc., from root *plak‑(1)to beflat (see placenta) . 

‑Harper (ed.)  (2013)  (s.v.  please ν.)  (アクセス日:2013年3月9日)(下線筆者)

また,依頼と祈願の対象者が統一された実例が下記(紛であるω。

(

司 Cromwell: [Addressing ParliamentJ  1 do not believe that this  is an evil king.  But he is confused.  And he cannot  say no to his wife.  Therefore if it please God 1 shall 

ω 

映画映像を実際の言語文化教育に導入・活用する論理とその有用性について 詳しくは上野・森山 (2013)参照。

(13)

raise an army of men who are not confused. 

‑映画Cromwell(1970) (イタリック筆者)

そして,このような 「超越的視点」が基底に存在することによって生成さ れる「神」と「依頼」との意味論的共起関係が,多くの言語表現において

も観察されるO 以下 (9a‑h)がその実例であるO

(ωa. Lois: A week?  No no no no no please god kill me now no  no damn damn crap damn it to hell son of a bitch ass  ass bastard. 

‑TVドラマFamilyGuy (1999),  Episode: Peter, Peter, Caviar Eater (1999) (イタリック筆者) b.  River Tam:  [seeing visions of dead bodies on MirandaJ Run‑

tse duh shang‑dee, ching dai‑wuhtzo. . . make  them stop!  They're everywhere.  Every city,  every. . . every house, every room; they're all  inside me!  1 can hear them all  and they're  saying...  NOTHING!  GET UP!  Please,  get up!  Wuo‑shang mayer, maysheen byen  shr‑to. Please God, make me a stone. 

一映画Sereniη(2005)(イタリ ック筆者) c.  Mary: Please God, forgive me for not telling Slater that 1 went 

to the bathroom in the pool tonight. 

一映画Superstar(1999) (イタリック筆者) d.  Jessica: Please God, don't let me get killed.  Please God don't 

let me get killed. Please God don't let me get killed. 

(14)

Chugs, please ! 

一映画SororiりIRow (2009) (イタリック筆者) e.  Charlotte: Please God don't let me fa11 in love and want to  do disgusting things. ..  Dear God, 1 love the  way he throws. 

映画Mermαids(1990) (イタリック筆者) f.  Brantley: Please God, help me get out of this.  1 swear 1'11  go a11 over the world telling people not to screw  the boss's wife. 

映画TheSecret of My Succe$s (1987) (イタリック筆者) g.  Preacher: They fear you because you are young.  They fear 

you because you are the future.  How fearful  they must be that they shoot you children.  How  powerful you must be that they fear  you so  much.  You are powerful because you are the gen‑ eration that will be free.  The violence, the beat‑ ings, the torture, the killings; a11 this is the birth  pain of our free nation.  Please God, may 1 live  to see it. 

一映画Sarafina!(1992) (イタリック筆者) h.  [Harry and Frank are going to visit Albert who is termina11y 

i11  in hospi talJ 

Harry: Te11 you what, 1 couldn't end up in a place like this,  even if my life depended on it. In fact, if 1 die, please  God not in a hospital. 

‑TVドラマAlbert'sMemorial (2009) (イタリック筆者〉

(15)

同様に,スペイン語における依頼表現においても類似した言語文化認識が 存在するO 下記

ω

に目を向けてみよう。

10)  please [pli:zJ EXCLAMATION 

巴 E血盟主

CELSD (s.v.  p1ease, excl.) (イタリック筆者)

上記

ω

に見られるように,依頼表現に用いられる英語p1easeに相当するス ペイン語表現として porfavorが挙げられるO たとえば,スペインの bar に行けば, しばしば以下

1

1)のような発話を耳にするO

ω

Camarero, un cafe por faνoJ 

スペイン語依頼表現 porfavor"は前置詞porと名詞favorから成り立 ち,各々の表示事象は下記

ω ‑ ω

の英語および日本語のそれに相当するが,

その全体としての言語文化認識は,各々における文字通りの意味の総和以 上のものとなるO

12)  a.  por PREPOSICION 

回Qy

CELSD (s.v. por, prep.)  b. 8 [手段・方法]…で,…によって,

一山田他(編)(2004a)  (s.v. por, prep.)  13)  a.  e1 favor SUSTANTIVO 

favour 

‑CELSD (s.v.  favor, n.) 

(16)

b. 

0

思恵,親切な行為

一山田他(編)(2004a)  (s.v. favor, n.) 

なぜなら,ここで,前述の論考で明らかになった英語母語話者の 「モノの 捉え方」と並行する事実が確認されるからであるO 上記ω‑U3)から,スペ イン語の依頼表現、orfavor"は文字通りには次の

ω

を意味しているが,

ω 

恩恵によって

その背後には,本来的に,以下

ω

で表されるような「神(から)の恩恵」

が示唆されているO

U5)  por favor de Dios (神(から〉の,恩恵によって〉

この捉え方の妥当性は,下記紛の英語表現の概念と並行し,異言語間にま たがって同様の認識が存在している事実からも支持される。

U6)  by God's favor  神の思寵によって

市川(編)(1995) (s.v.(1) favor, favour, n.,【形容詞・名詞+】)

さらに,このような「超越的視点」が基底に存在することによって生成さ れる 「神」と「依頼Jとの意味論的共起関係は,次の仰にも観察されるO

仰 ,,‑,[一生]のお願いですから

por  CelJ  amor de DioS,por DioS, por 10 que mas quieras  一山田他(編)(2004b)  (s.v.いっしょう【一生】) (下線筆者)

(17)

ここに,英語の依頼表現pleaseと同様,スペイン語の依頼表現 porfavor" 

の基底にも本来的には「超越的視点」が存在していることが導き出される ことになるのであるO

以上,英語・スペイン語各々において please,"porfavor"を用いた 依頼表現の概念生成には本来「超越的視点」が関与している両母語話者の 無意識的意識を観察した。このような言語文化認識の存在は,たとえば

(ゲ、ルマン人に限定されては~,るものの)下記C18a‑b)に示される捉え 方とも並行する0。)2

08)  a.別の言葉で言ってみれば,まったく同じような霊魂不滅観を

ω 

本論では,英語・スペイン語各々の表現の背景に「超越的視点」が存在して いることを論じたが, これは両言語のみに同視点が存在することを述べたわけ ではなL、。一神教であれ多神教であれ, I神」などと呼ばれる人智の及ばない存 在を認めている文化を持つ言語には,多かれ少なかれ, こうした視点が内在さ れていると考えられる

たとえば, 日本は「八百万(やおよろず)の神」を持つ多神教文化を有して い る が , 以 下 []に見られるように, (無論,西欧の神とは異なるものの)

「超越的視点」が確認される。

Iおかげさまで」

感謝を示すときに使う, いわゆる あいさつ"の言葉です。特に

「誰の」おかげなのか,はっきりしていなくても使いますよね。漢字 で書くと, I陰(蔭)J I御」と「様」が付いて 御陰様」ですが,

どうして「陰」なのでしょう

陰」は光が当たってできる部分ですから,光と影は一体と考えら れていました。また,光が当たってできる陰は「守られている」部分 と考え,転じて,平安時代には「神仏の助け,加護」という意味にな りました。ですから,敬意をもって「御」を付けて「おかげ」という 言葉になったようです。「神様のお助け」という意味だったのですね。

その後,神仏だけでなく,人の行為や恩恵に対して感謝の気持ちを 表すようになりました。また,敬意の「さま」が付いて,江戸時代頃 からあいさつ言葉として「おかげさま」と使われるようになったよう です。

‑NHKアナウンス室(編)(2008: 66‑67) (下線筆者)

(18)

持っていた古代ゲルマン人と日本人が,現在のように異質の 文明を作るようになったのは,ゲルマン人は,死後は超絶的 な神と一人で会うことを信じ, 日本人は,死後の世界も現在 の世界の延長みたいなもので,先祖や親類や旧知に,またお 目にかかるということを信ずることからきたものといえよう。

渡部 (2012:107‑108) (下線筆者) b. これに対して,西欧の世俗化した母親たちは,死後に一人で

絶対神と対面する意識がもはや薄れてきて, 自分の子供のた めにさえ犠牲になることを嫌うO ・・・つまり, こういうことに なろうO …欧米のように超絶神の目を意識するところで世俗 化が起こると,自分さえよければよいというところから,過 少教育が生ずる傾向があると。

渡部 (2012:118) (中略・下線筆者)

2.2.  ルーマニア語における言語文化認識

以下 (la‑b)に示されるように,依頼表現に用いられる英語 please およびスペイン語 por favorに相当するルーマニア語表現のーっとして

“poftim" が宛がわれることが多~

' 0

その一例が次の (2)であるω)

(1)  a.  poftim inteげ.

世盟主主 (come  in); (cum?) beg your pardon?  Sorry?; 

(tine) here you are ! 

ω 

ルーマニア語では,スペイン語など他のロマンス語と同じく,名詞は性 (gender) を持ち,形容調,冠調は名詞の性・数・格に応じて変化する。また,ルーマニ ア語の品調は名調・形容調・冠詞・代名詞・数詞・動調・副詞・前置調・接続 詞・感嘆詞の10種類であり, このうち,はじめの6品調は語形変化を持つ。本 稿では,その言語的特性をでき得る限り反映させた形で英訳を付する。

(19)

‑TDRE (s. v.  poftim, int吋.)(下線筆者) b.  poftim inte・ヴ

C i

a!)  j toma!; j ten!;  j por fabor!  jaqui esta!;  jhe aq  ui !  j ;aqui 10 1a tienes. . .!;  j mira ! ;(cu mi~care violentd)  j ahi! vaj (respective) van...! 

‑DRS (s.v. poftim, interj.)  (下線筆者) (2)  PI

φ

im intrinbuc ne.

英語直訳:Please enter into the room. 

英語意訳:Please enter the room. 

その一方で,上記(2)の指示事象は "terog"でも表し得る。下記 (3a‑b)  がそれぞれ,その相対関係と実例であるO

(3)  a.  please [p1i: zJ 

vt. a incanta; a face pep 1ac 1a;  ‑‑‑‑‑yourself!  fcumvrei.  vi. a fi  dispus; a dori; (ザyou)‑‑‑‑‑vrog.

TDER (s.v. p1ease)U4l  b. Te rog intrinbucatne.

ONE FORM, ONE MEANING (cf. Bo1inger (1977))という捉え方に基づけ ば,同義語というものは存在しないのだから, poftimの概念を観察する上 でまずはこの問題を解決しておかなければならない。

上記(2)一(3)では,一見, poftimとterogに概念上(もしくは語用上)

ω 

本論2.2.C3a)に お け る 泊rogterogの丁寧表現(もしくは対象者が二 人称複数で捉えられる場合)

(20)

の違いが感じられないが,その守備範囲は異なる。以下 (4a‑b)を見て みようO

(4)  a. * Poftim da‑mi un creion.  b. Te rog dmiun creion‑

英語直訳:Pleαse gi ve me a pencil. 

上述(2)‑(3)と同じ「依頼」文であるにも拘わらず,その様相は一変するO

ここでは poftimを用いた場合が非文であるのに対し, te rogを用いた形 はその真逆の判定結果となっているO これは,次の (5a‑b)に示される ように, te rogの本来的な概念が英語で言う、rayto you"に相当する と考えられることによるO

(5)  a.  te pron. you; (reflexiv) yourself. 

TDRE (s.v. te, pron.) (下線筆者) b.  ruga vt. to ask; to beg; α(p

. o

βi)  to ivite. 

v.r笠E旦Z

‑TDRE (s.v. ruga, vt.,開)(下線筆者)

事実,今回の現地調査において,ルーマニア語インフォーマントからは

「本来『神』に対しての動作表示の役割を持つ rogがここで用いられるの

は,無意識的であれ,それほどの真心でもって聞き手にお願いしているこ とに起因している」という主旨の回答が得られているO つまり,上出(4)で te rog のみ容認可能な理由は I~話し手に対して(もしくは書き手に対し

て)J聞き手(もしくは読み手)から何らかの,恩恵が得られる」事象表示 で用いられる場合だからであり,その背景には「真心でもってお願いする」

(21)

認識が存在しているO ということは,一方のpoftimはその限りではない,

ということになるO このことは,下記 (6a‑b)についても同様であるO

(6)  a. *Poftim nu mlovi. b. Te rog nu ma lovi. 

英語直訳:Please don't hit me. 

さらに poftimの意味論的様相を複雑化させているのが以下(7)に示される ような事象表示の場合であるO この意味用法の様相は英語pleaseおよびス ペイン語porfavorとは大きく異なるO

(7)  poftim interj. 

please  (come in); (cum?) beg your pardon ?  Sorry?; 

(tine) here you are ! 

TDRE (s.v. poftim, int吋.) (下線筆者)

ルーマニアに訪れたことがある者であれば誰しもが経験することであろう が,そうした意での使用頻度は(それとは異なる意味用法ではあるものの) 英語pleaseおよびスペイン語porfavorの比ではない。極端に言えば,一 回の会話の中に一度は poftimが現れる錯覚さえも覚えることがあるO 英 語pleaseおよびスペイン語porfavorとは異なる,こうした意味用法は,

たとえば次の (8)のような文脈で用いられる場合に観察されるO

(8)  X: Hai smergemacasι  Y: POβim?  Mai zi odatι 

英語意訳 X:Let's go home. 

(22)

Y: SorηI?  Say it  again. 

上記(8)では便宜上, poftim表示事象の英訳として sorryを宛がったが,

いわゆる謝罪の意ではな L1090 また,実際の会話の場面の多くでは Mai zi odata."は発話されず, poftimのみでsayit  againの意も示唆されるO

ここで問題となるのが,まず,英語pleaseおよびスペイン語porfavor  とは異なる様相が生じる背景には如何なる言語文化認識が潜んでいるのか,

ということであるO つまり,

(9)  前出(2)と上記(8)とを結ぶ poftimの多義性が生じる認知メカニズ ム

についてであるO それに連動して,次に生じる問題が,

QO)  その意味変化のプロセスに,前述した「超越的視点」が関る余地 があるのかどうか,また,英語pleaseおよびスペイン語porfavor  に見られた同視点と並行しないのであれば,その要因として如何 なるフレーム (FRAME)が関っていると想定されるのか,

についてであるO 結論から言えば,前者については構造のメタファーを交 えた原始性の認識,および,共感覚認識の知見を導入しなければならない 一方,後者については社会・文化環境的要因からの推論に頼らざるを得な

~ i。以下では,これらの点について論ずるO

Q5)  英語表現sorryに相当する 謝罪」概念はルーマニア語ではscuzeで表示さ れる

124 

(23)

2.2.1.  Poftimにおける多義性のメカニズム

2.2.1.1.  力ニバリズム認識をトリガーとした意味変化のプロセス 以 下 (la‑b)に示されるように, poftimは動詞 poftiから生まれ,

かっ, poftiから名詞形 poft誌が生じている事実を鑑みると,その原義は (STRONG) APPETITE"の概念に遡及していると考えられる。

(1)  a.  Formuldepolitete care se folose~te:

a) pentru a da ceva cuiva; ia, na,tine; 

b) pentru a invita persoansvmsausa se a~eze undeva;  pentru a indemna la actiune; 

c) (adesea precedat de exclamala81) pentru a exprima  indignare, ciuda, repro~ , nemulいmire,necaz, revolta  etc.; asta‑i bunna, uite. ‑Din pofti. 

‑DEX (ed.)  (2013)  (s.v. poftim, int吋.) (イタリック筆者) b.  pofti‑a dori, a voi (ceva). 

V.sl. pochoti "desfrau, dezm的"(Miklosich, Slaw. Elem, 38;  Cihac, II 272); cf. bg. pofta "dorin悼 (sexual昆)", sb. pohot 

"dorin悼sexualapofta", rus. pochoti "dorinta  (sexual温)", 

alb. pohtis "a obtine".  Radicalul este atestat doarin slavele  de sud ~i ruspe langrom釦 話 回albanez Sensuldin  limbile slave este acela de  "dorin戸sexuala",pe cand in  rom組 益 出albanezexistasensuri care cuprind sfe m m largι 

Der: pof,pofticios, poftire, poftit, poがtor

‑DELR (s.v. pofti, ν~) (下線筆者)

(24)

この原義概念の段階ですでに英語pleaseやスペイン語porfavorとは大き く異なる意味変化のプロセス,すなわち「食欲」からのプロトタイプ拡張 (prototypical extension)が予想されるが,筆者たちの推論に違わず,今 回の現地調査中,ルーマニア語インフォーマントは,様々な依頼の場でも 次の (2)のような場面で用いられる poftimが典型的な意味用法の一つであ

るという趣旨の直観を挙げているO

(2)  [レストランで注文した料理を給仕が持ってきた場面]

"Poftiti, comanda dumneavoastrιPe~te cu salata."GSl  英語直訳:Please, your order.  Fish with salad. 

ここからf尋られることは,

(3)  まず,英語pleaseおよびスペイン語porfavorで見られた 「超越 的視点」が関与する余地がないこと(この点については2.2.2.にて 詳述), 

(4)  次に,上記(2)のように「対象者に強l'食欲を抱かせるものである

→それほどの料理として薦められる」からその有標的特性が漂白

化されて2.2.(2)のように(聞き手の欲に適うものとしての)I推薦」

概念のみが前景化 (FIGURE/ GROUND SEGREGATION)して一般 化しfここと,

が挙げられるm。ただ,ここで問題となるのが2.2.(8)で見られたpoftimの ここでのpoftitipoftimが語尾屈折を起こした丁寧表現。

フランス語由来の英語表現 Bonappetite."やスペイン語 iBuenapetito!" 

も馳走する相手(一緒に食事をする場合も含む)に「たくさん召し上がれJ

美味しくお召し上がり下さLリ,I食事を楽しんで」等の意を表すが,これに相ノ

(25)

意に至る多義性のメカニズムについてであるO原義概念である「強い食欲」

から「欲」へと一般化され,さらに上記(4)とは異なって「話し手」の欲に 視点が移動したと捉える考え方も存在するであろうが,それだけでは2.2. (9)で見られた poftimの意に至る多義性のメカニズムを明らかにする十分 条件には至らなL、。なぜなら,それでは「食欲」と「相手の発言をもう一 度求める心情」とを結ぶスキーマ (SCHEMA) に光が当たっていな~iから であるO

ここで浮上するのが,下記(5)の構造のメタファーであるO

(5)  A Well‑Functioning Mind 1s A Healthy Body  1deas Are Food 

Acquiring 1deas 1s Eating 

1nterest 1n 1deas 1s Appetite For Food  Good 1deas Are Healthful Foods  Helpful 1deas Are Nutritious Foods  Bad 1deas Are Harmful Foods 

Disturbing 1deas Are Disgusting Foods 

1nteresting, Pleasurable 1deas Are Appetizing Foods  Uninteresting 1deas Are Flavorless Foods 

、当するルーマニア語表現の一つが Pofbuna!"であり,本論2.2.2.1.(2)poftim 単独で用いられるケースとは異なる(ルーマニア語インフォーマントによると 本論2.2.2.1.(2)の場で用いられた poftimには,文字どおりには「食事を楽しん で」といったニュアンスは発生しないという趣旨の回答も得られている) た,英語 appetite,スペイン語 apetitoに相当するルーマニア語表現として apetitが存在するが,本論2.2.2.1.(引の場で *Apetitbuna!"とは表現されな い。そして,英語appetite,スペイン語apetitoを用いて, 2.2.(2)poftim よる表示事象を表すことはできず,さらに, 2.2.(8)poftimによる表示事象も 表すことができなし、。以上の点を鑑みても,ルーマニア語 poftimは英語・ス ペイン語とは異なる振る舞いを呈している

(26)

Testing The Nature Of 1deas 1s Smelling Or Tasting  Considering 1s Chewing 

Accepting 1s Swallowing 

Fully Comprehending 1s Digesting 

1deas That Are 1ncomprehensible Are 1ndigestible  Preparing 1deas To Be U nderstood 1s Food Preparation  Communicating 1s Feeding 

Substantial 1deas Are Meat 

Lakoffand Johnson 0999: 241) 

これは,いわゆる「分解モデルJ

C c

f.山梨 0995:46‑48))と呼ばれる理 解事象の概念化を表した認知活動の一つである

ω

。つまり, 2.2.(8)で見られ たような poftimの意の発生には,同メタファーを通して「食」行為から

「理解」行為への写像が関与している, と考えられるO しかしながら,上 記(5)では,根源領域としての食行為が目標領域としての理解事象に転化す る 「内部構造」については記載されているものの,根源領域としてなぜ

「食」行為が選択されるのか, という言語文化学的見地から見た「外部構 造」については依然として触れられていない。結果から言えば,ここには

「カニバリズム」認識が大きく関与している考えられるO

人類の歴史を振り返ると, トーテミズムに代表される宗教観に基づき,

「社会行為」としてのカニパリズムそのものはとり立てて奇異な行動習慣

ω 

山梨(1995:46‑48)では,理解事象を概念化する三種類のモデル(<視覚モデ l分解モデル〉把握モデル>)が扱われている。なお,視覚認識と把握行 為がなぜ理解事象に結びつくのかという認知メカニズムについて詳しくは上野・

森山 (2010)を,また, [stand 

underJに由来する understandがなぜ 解」の意を表し得るのかという認知メカニズムについて詳しくは森山智浩・中 桐・幅森・小山・森山オアナ (2013:30)を参照。

(27)

ではな~。族 内 食 人 と し て は 日 本 に 残 る 「 骨 噛 み 」ωの 慣 習 も 「 食 人 に よ っ て 死 者 の 魂 や 肉 体 を 分 割 し て 受 け 継 ぐ こ と が で き る 」 と 信 じ た 思 想 ・ 観 念 の 一 例 で あ る (cf.吉岡 (1989:284‑285))。 こ れ ら 「 経 験 の ゲ シ ュ タ ル ト

(experiential gestalt) Jに 基 づ け ば , 消 化 行 為 で は 捕 食 物 が 行 為 者 の 血 と な り 肉 と な る が 如 く , 理 解 事 象 で も 理 解 対 象 物 が 行 為 者 の 知 識 と し て 「 一

Q9)  新谷(1992:42‑43)には, I骨噛み」に関する以下 [1 Jの記述が見られる。

[1Jこの四十九餅の伝承にもかなりの地方差があるが,ほぼ共通している のは次のような点である

まず第一に,その名のとおり四十九個の小餅ということである。そ してそれに笠の餅とか親餅などといって,一枚の大きな餅が一緒に揖 かれるのがほとんどである。四十九個の小さな丸餅は死者のためのも ので,死後,四十九日間一日一個ずつあげるものとする伝承が古風を 伝えているように思われる。一方大きな餅の方は,近親者でヲ│っ張り 合ってちぎって食べるとか, 一升瓶の底で切って分けるとか,鍋蓋の 上にのせて包丁で切るとかいっており,しかもそのとき敷居をまたい でするという例などもあり,死者との食い別れのための所作であると みられる伝承が顕著である。… 一方,この笠の餅とか親餅とか呼ば れる大きい餅の場合,少し気になる奇妙な伝承もある。それは,この 餅が死者の身体に擬せられているということである死者の手の形だ とか足の形だとかいっていたり,人間の形に切って分けて食べるのだ とかいったり,大きい笠が胎盤で,小さい四十九の餅が人体の骨であ るとか,とにかく,この餅を人間の身体に擬してそれを食べるという ような伝承が,とくに西日本各地にわずかずつではあるが点在してい るのである

これらの伝承から,すぐに日本にも古くは食人の風習があったので はないかとか,葬送に際して骨を噛む風習があったというような推論 に結びつけるのは無謀かもしれなL。しかしこの興味深い伝承の背後 には何かがありそうである

一新谷 (1992:42‑43) (中略・下線筆者) さらに,次の[2 Jのように続けている。

[ 2 Jその何かをさぐるためには今ではもうほとんど失われてしまったよう な伝承にも注意をひろげる必要があろう。たとえばアウトローの の社会」の伝承である。日本のいわば 閣の社会」には今もって特殊 な骨かみの習俗が脈々と伝えられているということにも注意しておいノ

(28)

体 化Jされる認識が存在しているO こ れ は , ま さ し く 「 食 人 に よ っ て 対 象 者 の 魂 や 肉 体 を 分 割 し て 受 け 継 ぐ こ と が で き る

J

,すなわち「対象者の『内 容物』としての ideaを 捕 食 す る こ と で 受 け 継 ぐ こ と が で き る 」 と い う 思 想 ・ 観 念 と 並 行 す る も の で あ り , カ ニ バ リ ズ ム 認 識 と い う 外 部 構 造 な く し てACQUIRING1DEAS 1s EATINGメタファーの内部構造は成立し得なL訓。

換 言 す れ ば , 一 連 の 食 行 為 の ス ク リ プ ト が フ レ ー ム と し て 背 景 化 す る こ と に よ っ て メ タ フ ァ ー 化 を 引 き 起 こ し , 捕 食 物 (=観 念 的 移 動 物 (theme)))

の最終到達地が「一体化」と規定される認知メカニズ、ムが2.2.(到に見られ る poftimの派生義を生成していると考えられるO まさに,食行為による

「一 体 化

J

,iideaの継承」というカニノくリズム認識に基づく同化願望にこ そ, poftimを 用 い た 理 解 行 為 を 生 じ さ せ る 言 語 活 動 の 起 源 が 存 在 し て い る ことが垣間見えようO

てよいことと思われる。

一新谷(1992:43‑44) (下線筆者) そして,その

r r

閣の社会』に今もって脈々と伝えられている特殊な骨かみの 習俗」について,下記 [3 ]の事例が紹介されている。

[ 3 ]山折哲雄 fT死」の民俗についてJ

( r

民俗フォーラム」創刊号 昭和 六十年)には昭和六十年一月に暴力団山口組の竹中組長が暗殺された

とき,ある新聞にのった次のような記事が紹介されている。

犠牲者の骨あげがおこなわれたのは,神戸市市内の鴇越火葬場で あったが,そのとき直系の組員たちは竹中組長の遺骨を代わる代わる しゃぶって報復を誓った。実は, これには因縁めいた前日談があっ た。昭和五十一年十月,大日本正義国の吉田会長が大阪で射殺された さい,その部下の組員鳴海清が同じことをやっている。会長の骨を砕 き,その粉末を酒に入れ, 一息に飲んで報復を誓ったというのであ る。やがてかれは,その誓いのとおり,山口組の組長だった田岡一雄 を狙撃し,逃亡中に惨殺された。

新谷(1992:61) (下線筆者)

さらなる詳細について詳しくは幅森・森山 (2012)参照。

(29)

2.2.1.2.  共感覚認識をトリガーとした意味変化のプロセス

他方, 2.2.(8) (以下に(1)として再掲〉のやり取りでは本来「聴覚」理解 表現で求められなければならないところ, I食欲J,すなわち「味覚」に通 ずる欲を原義とする poftimで依頼されているO

(1)  X: Hai smergemacasa.  Y: POβim?  Mai zi odata.  英語意訳:X: Let's go home. 

Y: Sorry?  Say it again. 

このことから,上記(1)の表現には一種の共感覚認識白I)が働いているとも言 えるO 事実, 2.2.1.1. (5)の下位構造においても TestingThe Nature Of  1deas 1s  Smelling Or Tasting"が現れているO つまり, 目標領域である

「聴覚」を通した理解行為であったとしても, その根源領域は 「味覚」を 通して得られた日常経験によって部分的に構造化されていると考えられるO

ただ,ここで見つめておかなければならないことは,そうした共感覚転移 を引き起こす動機づけ,すなわち「トリガー」の存在についてであるO

ここで,以下 (2a‑b)の日本語例を見てみようO

ω 

「共感覚」は以下[1Jのように定義される

[ 1 Jもともとは,音が聞こえると色が見えるというように,ある刺激に対 して,その本来の感覚に他の感覚が伴って生じる現象を表わす心理学 用語であるが, 言語学の用語としては,ある領域の感覚を表わす形式 を用いて他の領域の感覚を表わすことをいう。比輸の一種で,意味変 Csemanticchange)の原因の一つである。

一『言語学大辞典JC6巻 術 語 編 )Cs.v.共感覚(きょうかんかく)) (下線筆者)

(30)

(2)  a.  ピアノの音を聞くO

b.お酒の味を聞くω。

上記 (2a‑b)に共通して用いられている日本語表現「聞く」は,本来は (2 a)のように「聴覚」領域の感覚表示に関る語であるが, (2 b)では

「味覚」領域の感覚が表されている。つまり, (2 b)の「聞く」は,聴覚 領域から味覚領域へと意味用法が転移している共感覚表現であるO

このような共感覚表現に基づく比喰の代表的な先行研究としては, Ullmann  (1957), Williams (1976), 安 井 (1978),国広(1989)などが挙げられる が,いずれも共感覚表現がどの感覚からどの感覚へと転移したかを論考す ることに主眼が置かれている一方,なぜそうした転移が引き起こされてい るかに関する詳細な理由についてはその主たる研究対象として採用されて いな Lω。そのため,ここで,本来「味覚」に関する表現である「味」が

「聴覚」に関する表現である「聞く」と共に用いられている理由は如何な

ω 

本稿 (2b)の「聞く」の意味用法は,辞書には以下 [lJ ‑ [2Jのよう に示されている。

[ 1 J fD (1利く」とも書く〉物事をためし調べる。

①  かぎ試みる,かぐ。

②  味わい試みる。

『広辞苑J(s.v.きーく【聞く・聴く】, fD) (下線筆者) [ 2 Jθ 音・声を耳に感じて知る。「ーも

c =

聞く人も〕なみだ,語るも

なみだ」

O 聞き入れる。「言うことを聞け」

~c道を〕たずねる

⑮  味やかおりのぐあいを判断する。「味を ・酒を 」

一『三省堂国語辞典J(第3版)(s.v.きく〔聞く))(下線筆者) 帥共感覚表現に関する学術研究としては,この他にも,小森(1993,2000, 

2003),武藤 (2000,2001, 2004),貞光 (2005),山口 (2003),谷口 (2003), 吉村 (2004)等がある。

ω 

Ullmann (1957)とWilliams(1976)では英語の共感覚的表現が,また安井 (1978)と国広(1989)では日本語の共感覚的表現が中心的に扱われている。こノ

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