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年金改革のルール化―逃げ水年金からの脱却を目指 して―

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著者 中嶋 邦夫

学位授与大学 東洋大学

取得学位 博士

学位の分野 経済学

報告番号 甲第176号

学位授与年月日 2007‑04‑05

URL http://id.nii.ac.jp/1060/00003967/

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja

(2)

第III部 分析2:逃げ水年金は解消されたのか

(3)
(4)

第6章2004年改正の定性的な分析と確率論的年金財政モデルの解説

本章では、以降の章で議論の対象となる2004年改正を定性的に分析し、第7章・第 8章の分析に用いる確率論的年金財政モデルを解説する。

12004年改正の解説と定性的な評価

 本節では、はじめに2004年改正を解説し、後半で、次章以降の定量的な分析に先立 って定性的に2004年改正を評価する。

1.12004年改正のポイント

 2004年改正では次の4点に代表される財政方式の大幅な改正(ルール化)が行われ

た1。

1.1.1保険料水準固定方式

 2000年改正までの保険料率は、第3章でみたように、前提条件の変化、給付水準の 変化、段階保険料方式という要因によって、財政再計算ごとに引き上げ計画が見直さ れてきた。また、この引き上げ計画は財政再計算の結果にすぎず、法的な拘束力を持 たなかった。

 一方、2004年改正の保険料引き上げ計画は法律に明記され、給付水準や前提条件の 変化が生じても見直されないこととなった。これが保険料水準固定方式と呼ばれるも のである。具体的には、これまで約5年ごととして計画されてきた引き上げを毎年の 引き上げに改め、引き上げ幅は0.354%(5年間で1.77%)、保険料率の上限は18.3%

とされた。

 従来は、財政再計算ごとの保険料計画の見直しや給付の見直しで財政バランスの調 整が図られてきた。しかし2004年改正で保険料率水準固定方式が導入されたため、今 後は次で述べるマクロ経済スライドによる給付調整で財政バランスの調整が図られ

ることとなった。これは、年金財政の運営が、給付を先に決めてからそれに見合う保 険料を決める給付建て方式から、保険料を先に決めてからそれに見合う保険料給付を 決める拠出建てに切り換えられたことを意味する2。

 政治的には、2004年改正を抜本的改革とする与党側と、従Xの2階建て制度の延長だとする野党側とで評価が  分かれている。本稿の分析対象である給付や負担の設計、財政予測の方式という観点からは、大幅な改革とい

 える、、

21985年改正から2000年改正にかけての制度は、給付建てを原則としながらも、将来の保険料水準が過大になら  ないように給付を見直してきた。この意味で、1985年改正から次第に拠出建ての性格をあわせ持ってきたとい  える。

(5)

1.1.2マクロ経済スライド

 上記の保険料水準固定方式の導入に伴い、財政調整の方法としてマクロ経済スライ ドが導入された。マクロ経済スライドでは、年金財政の均衡が見込めるまでの間(ス ライド調整期間)は、本来の年金改定率(スライド率)3からスライド調整率だけス ライドが抑制される。

図6−1マクロ経済スライドの概要 本来の改定率= 可処分所得上昇率(67歳まで)

        物価上昇率    (68歳以降)

スライド調整期間の改定率=本来の改定率一スライド調整率 スライド調整率=公的年金の全被保険者の減少率

       +平均余命の伸びを勘案した一定率

注1:公的年金の全被保険者の減少率は、4年前から1年前までの幾何 移均。

注2:平均余命の伸びを勘案した一定率は0.3%(固定)。

1.1.2.1給付水準への影響

 給付削減の仕組みを解説する前に、従来の「給付水準維持方式」について解説した い。給付水準維持方式とは、「モデル世帯の所得代替率を将来にわたって維持する前 提で、それに見合うよう保険料を段階的に引き上げていく」方式である。では、どの ようにして「モデル世帯の所得代替率を将来にわたって維持する」のか。その答えは、

「可処分所得スライド」と呼ばれる年金改定の仕組みにある(図6−2参照)。

図6−2給付水準維持方式(可処分所得スライド)の仕組み(モデル世帯の例)

i分子=モデル世帯が受け取る新規裁定年金の月額(夫の厚生年金(報酬比例部分)と夫婦の基礎年金の合針〕

i分母二現役世代の税・社会保険料控除後の平均的所得(ボーナス込み手取り年収の月額換算値)    i

 「可処分所得スライド」とは、新規に年金を受け取る際(新規裁定時)、個人の過 去の報酬(標準報酬)を可処分所得(手取り)ベースの賃金上昇率で再評価(増額)

3 スライド調整期間以外に適用される本来(従来べ一ス)のスライド率にも、細かい改正が行われた,,まず新規  裁定年金の可処分所得スライドが、毎年実施されることとなった(従来は制度改正ごと)。また、可処分所得  上昇率が、前年の物価上昇率に、4年前から1年前までの実質賃金上昇率の幾何平均を加えたものに変更され  た。これに伴い、可処分所得スライドが、支給開始の2年後(67歳)まで適用されることになった。また、可  処分所得上昇率と物価上昇率の大小関係によって、特例措置が発動されることになった。

(6)

することをいう。この結果、所得代替率の分子であるモデル世帯の新規裁定年金額は、

「1+可処分所得上昇率」で増額される。これに対し、所得代替率の分母は手取りべ 一スの平均賃金(可処分所得)であるから、文字通り「1+可処分所得上昇率」で増

える。このように、分子・分母とも同率で増えることになるため、結果として給付水 準(所得代替率)が維持されていくのである。これはモデル世帯以外(例えば単身世 帯)でも同様であり、給付水準(所得代替率)が維持される(図6−3)。

図6−3給付水準維持方式(可処分所得スライド)の仕組み(単身世帯の例)

<ある年の給付水準>

17.3万円

    二43」4%

40.1万円      =43.14%

      40.1万円×(Lf賃金上昇率(手取りべ=ズ)り

iモデル世帯の夫と同じ賃金の人が単身世帯の場合を仮定。年金額が妻の基礎年金分(65万円)だけ小さい。i

±

  <その翌年の給付水準>

   17.3万円×(1ナ手取り賃金ヌラ欄

 では、2004年改正に盛り込まれた「マクロ経済スライド」による給付削減はどうい う仕組みなのか。マクロ経済スライドでは、基本的に、過去の報酬の再評価率(スラ イド率)が、現在の「可処分所得上昇率(手取りベース)」から「可処分所得上昇率 一スライド調整率」に変更される4。これによって、所得代替率の分母である手取り べ一スの平均賃金が「1+可処分所得」で増えるのに対して、分子であるモデル世帯 の新規裁定年金額は「1+可処分所得一スライド調整率」でしか増えない。分子の増 加率が分母の増加率より小さいため、結果として所得代替率は前年より小さくなる。

すなわち、給付水準が削減されることになる(図6−4)。

図6−4マクロ経済スライドによる給付削減の仕組み(モデル世帯・単身世帯の例)

   =59.35%

40.1万円

【単身世帯の例】

〈ある年の給付水準>

173ノ∫1「1

   =43」4(※)

40.1ノ∫ F]

【モデル世帯の例】

<ある年の給付水準>

23.8万円

      =58.83%

   40.1万円×(1+賃金ヒ昇率(手取りべ一ス))

  くその翌年の給付水準>

  173万円×(1+手取り賃金スライド率一スライド調整率)

      =42.76%

<その翌年の給付水準>

23.8万円×(1+手取り賃金スライド率一スライド調整率)

      40.1万円×(1+賃金上昇率(手取りべ一ス))

i賃金上昇率(手取りべ一ス)=18%、スライド調整率=09%と仮定。i

 この場合、上図でもわかるとおり、モデル世帯、単身世帯ともに同じ率で年金額が 改定され、結果として所得代替率も同率で削減(モデル世帯は58.83%÷59.35%−1

,物価上昇率がマイナスの場合などには特例措置が有効になるが、ここでは割愛する。

(7)

=−O.88%、単身世帯は42.76%÷43.14%−1=−0.88%)されている。つまり、マ クロ経済スライドでは、所得代替率の絶対的な水準ではなく、モデル世帯の所得代替 率が従来と比べて何%削減されるかという相対的な水準が重要なポイントである。よ って、モデル世帯の所得代替率50%(従来59.35%)を確保するということは、どの 世帯類型や所得水準でも「従来制度が存続した場合と比べて約15%(50%÷59.35%

−1≒−15%)削減された給付水準(所得代替率)を確保する」ことと理解すべきで

ある。

1.1.2.2年金財政への影響

 マクロ経済スライドの基本的な発想は、①被保険者数の減少によって保険料収入が 減少することから、この減少の分だけ給付を削減することで年金財政のバランスを保 つ、②平均余命の伸びによって受給者数が増加し給付費総額が増加することから、こ の伸びの分だけ給付を抑制することで財政バランスを保つ、ことである。

 このことは概ね次のように説明できる。

まず、

  保険料収入=被保険者数×1人あたり標準報酬×保険料率 と計算される。保険料率を一定とすれば、

  保険料収入の増加率=被保険者数の増加率×1人あたり標準報酬の増加率5

である。また、

  年金給付費=受給者数×平均年金額

であり、

  年金給付費の増加率=受給者数の増加率×平均年金額の増加率 である。ここで

  1人あたり標準報酬の増加率≒1人あたり賃金上昇率

  平均年金額の増加率≒年金スライド率≒1人あたり賃金上昇率(新規裁定)

とすると、マクロ経済スライドが適用されない本来の制度では、

  保険料収入の増加率=被保険者数の増加率×1人あたり賃金上昇率   年金給付費の増加率=受給者数の増加率×1人あたり賃金上昇率

となり、被保険者数の増加率=受給者数の増加率であれば、両者は等しい。

しかし現実には、少子高齢化が進んでおり、

  被保険者数の増加率く受給者数の増加率 となっているため、年金財政は悪化傾向にある。

 マクロ経済スライドの適用期間(スライド調整期間)においては、

5 この一連の説明における増加率は、1を基準とする率(プラス1%であれば1.・01)として記述している。

(8)

  平均年金額の増加率=1人あたり賃金上昇率÷公的年金被保険者数の増加率       ÷平均余命の伸びを勘案した一定率

であるが、これをマクロ経済スライドの基本理念として

  平均年金額の増加率=1人あたり賃金上昇率×被保険者数の増加率       ÷受給者数の増加率

と解釈すれば6、

  保険料収入の増加率=被保険者数の増加率×1人あたり賃金上昇率   年金給付費の増加率=受給者数の増加率×1人あたり賃金上昇率       ×被保険者数の増加率÷受給者数の増加率        =被保険者数の増加率×1人あたり賃金上昇率

となり、

  保険料収入の増加率=年金給付費の増加率 という関係が成立する。

 ただし、マクロ経済スライドの適用には特例措置が設けられている。本来の改定率 がスライド調整率を下回り、「本来の改定率一スライド調整率」がマイナスになる場 合には、改定率がゼロになる。すなわち、マクロ経済スライドで給付を削減しても、

前年の名目額は下回らないという措置である。本来の改定率がもともとマイナスの場 合には、改定率を本来の改定率とし、スライド調整率を控除しない。すなわち、年金 額が前年の名目額を下回るのは、本来のスライド率である可処分所得上昇率や物価上 昇率がマイナスの場合のみということになる。

 また、財政検証によりモデル世帯の所得代替率が50%を下回ると予測された場合は、

マクロ経済スライドの停止を含めて、給付と負担のあり方を見直すこととなっている。

1.1.3財政再計算から財政検証への変更

 保険料水準固定方式とマクロ経済スライドの導入によって、従来の財政再計算や制 度改正で繰り返されてきた保険料計画の再策定と給付水準の政策的見直しが不要に なった。そこで、今後は従来行われてきた財政再計算を財政検証に衣替えすることに

なった。

6厳密には、公的年金全体の被保険者の増加率と厚生年金の被保険者の増加率とは一致せず、平均余命の伸びを  勘案した一定率と厚生年金の受給者数の増加率とは一致しない。この問題については次章のバランスシート分  析の中で触れる。

(9)

表6−1財政再計算と財政検証の違い

【財政再計算】 (改正前厚生年金保険法第81条4項)

 保険料は、保険給付に要する費用(基礎年金拠出金を含む。)の予想並びに予定 運用収入及び国庫負担の額に照らし、将来にわたって、財政の均衡を保つことがで きるものでなければならず、かつ、少なくとも5年ごとに、この基準に従って再計 算されるべきものとする。

【財政検証】 (改正後厚生年金保険法第2条4項)

 政府は、少なくとも5年ごとに、保険料及び国庫負担の額並びにこの法律による 保険給付に要する費用の額その他の厚生年金保険事業の財政に係る収支についてそ の現況及び財政均衡期間における見通し(以下「財政の現況及び見通し」という。)

を作成しなければならない。

 この財政検証によって作成された財政見通しによって、マクロ経済スライドを継続 するかどうかが判断される。2004年再計算の標準ケースでは2023年にマクロ経済スラ イドを終了できると予想されているが、2004年再計算で仮定した経済前提と今後の実 績とが乖離すれば7、マクロ経済スライドの終了年が変化することとなる。すなわち、

2004年改正によって、マクロ経済スライドの終了年の変化が財政均衡の調整要素とな

った。

1.1.4有限均衡方式

 1999年財政再計算と、2004年財政再計算および今後の財政検証では、財政見通しの 作成方法が異なる。1999年再計算では、年金制度は永続させるべき制度であるという 前提に基づいて財政見通しが計算された。具体的には、2100年以降は、2100年を定常 状態として、これが永久に継続するという前提に基づいている(永久均衡方式)。こ の方法は、年金財政の安定的な継続を目指している点で評価できるが、遠い将来を仮 定する必要があり、かつ永久継続を前提にするために計算結果が2100年以降の仮定の 影響を受けやすい。

 そこで2004年財政再計算以降は、財政見通しの対象期間(財政均衡期間)を概ね100 年間に限定し(有限均衡方式)、その期間内の年金財政が均衡するかどうかを検証す

ることとなった。財政均衡期間を概ね100年間としているのは、人間の生涯が長生き したとしても概ね100年間であるためである8。2004年財政再計算では、将来推計人口 の最終年である2100年が将来見通しの最終年となっている。言いかえれば、有限均衡 方式に基づく財政均衡は約100年間の財政均衡期間についてのみ考慮されたものであ

り、財政均衡期間以降の制度の継続は考慮されていない。財政均衡期間の最終年に制

これ以外にも、財政検証の対象期間が変わることの影響もある。詳細は後述する。

厚生労働省年金局数理課(2005)では「既に生まれている世代が年金の受給を終えるまで1と記述されている。

(10)

度を終了するか、財政均衡期間以降は賦課方式で運営する前提に立っているといる。

1.22004年改正の定性的な評価

 以下では、第7章・第8章で行う定量的な分析に先立ち、先に述べた2004年改正の ポイントを、これまでの制度改正、財政再計算の変遷を踏まえて定性的に評価する。

1.2.1保険料水準固定方式

 まず、保険料計画の法定化は、過去の制度改正でみられた国会審議による引き上げ 幅の抑制や1999年改正でみられた保険料率の据え置きなど、近視眼的な政治的介入を 排除する点で、効果があろう。また、将来の保険料率がどこまで引き上げられるかわ からないという現役世代の不安や不信が、法定化によって解消される可能性がある。

さらに、約5年おきの制度改正ごとではなく毎年引き上げることで、世代間の不公平 にも一定の改善をもたらす。

 しかし、これらの効果の一方で、保険料水準行程方式の問題も指摘できる。それは、

今後の経済状況が不確実な中で、今回決定した保険料率の引き上げ幅や上限の水準が 適切でない可能性である。例えば過去の改革で実施された有識者調査では、調査の実 施時点によって、適切だと考えられる保険料の上限が変わっている(第4章参照)。

年金財政の側からみても、厚生労働省案で20%とされていた保険料率の上限が、経済 界等の反対により、政府案では18.3%に抑えられたことで、給付水準の下限(モデル 世帯の所得代替率が50%)に到達する可能性が高まっている(第4章参照)。保険料 率の引き上げを法定することは有効だが、その水準まで法定するべきかには検討の余 地があろう。

1.2.2マクロ経済スライド

 マクロ経済スライドによる給付調整は、年金財政バランスの安定的継続に大変有効 である。被保険者の減少に応じて1人あたりの給付額を抑制することは、日本で深刻 な少子化にあわせた制度であり、ドイツでも同様の方式が取り入れられている。また、

長寿化による受給者総数の増加に伴って裁定者も含めた1人あたりの給付額を抑制 するのは、スウェーデンの除数方式よりも財政健全化に効果的である。

 しかし、このマクロ経済スライドが基礎年金の既裁定部分にまで適用されることに は問題があろう。既裁定部分にスライド調整が行われた場合、年金額の伸びは物価の 伸びを下回ることになり、実質的な購買力が低下する。基礎年金は老後生活の基礎的 な部分を賄う役割を担っており、その購買力が低下するのは問題ではないだろうか。

基礎年金のスライド方式や基礎年金の役割について、再検討する必要があると思われ

(11)

る。

 また、スライド調整後の年金額が前年の名目年金額を下回らないなどの特例措置は、

年金財政の健全化を遅らせることになる。これは、現時点や近い将来の受給者を保護 し、将来世代に負担をもとめることになる9。また、給付水準の下限を50%とするこ とについては、その可能性が少なくないにもかかわらず、約20年後の問題として、財 源確保などの問題を先送りしている。このような措置を設ける際は、その必要性だけ でなく特例措置によって生じるコストも試算した上で、導入の可否を検討する必要が

あろう。

 さらに、一旦マクロ経済スライドが終了した年以降に、再度マクロ経済スライドが 発動されるかどうか、現在のところ明らかではない。保険料の引き上げが上限に到達 し、マクロ経済スライドによる財政調整が終了すれば、年金財政の収入と支出の両面 が固定されることになり、財政バランスを調整するメカニズムがなくなってしまう。

法律上は、マクロ経済スライドの期間(調整期間の開始年と終了年)は、財政検証に 基づいて政令で決めることとなっており1°、マクロ経済スライドの復活も可能であろ

う。いずれにしても、マクロ経済スライド終了後の財政バランスの維持方法について、

問題を先送りせず検討する必要があろう。

 スライド調整率の基準にも再検討の余地があろう。調整率の大きな要素である被保 険者の減少率は、公的年金全体の被保険者がべ一スになっているが、厚生年金財政の 収支バランスを保つという目的から考えれば、厚生年金の被保険者をべ一スにした調 整率を用いるべきではないだろうか11。また、スライド調整率のうち、長寿化進展へ の対応部分は一定率になっている。しかし、長寿化の進展は、その年の受給者の失権 率に影響し、年金財政に短期的な影響を与える。よって、この部分についても、簡易 生命表を用いるなどして、被保険者数のように実績にあわせて調整すべきではないだ

9 臼杵・北村・中嶋(2003)では、今回の改正のたたき台となった厚生労働省(2002)をべ一スに、これらの特例措  置がなければマクロ経済スライドが早期に終了し、将来の給付水準がヒ昇することを明らかにしている。

10 厚生年金保険法第三十四条

  政府は、第二条の四第一項の規定により財政の現況及び見通しを作成するに当たり、厚生年金保険事業の財  政が、財政均衡期間の終了時に保険給付の支給に支障が生じないようにするために必要な積立金(厚生保険特  別会計の年金勘定に係る積立金並びに第八十五条σ)二及び第百六十一1条の三第…項に規定する責任準備金をい  う。)を保有しっっ当該財政均衡期間にわたつてその均衡を保つことができないと見込まれる場合には、保険  給付の額を調整するものとし、政令で、保険給付の額を調整する期間(以下「調整期間」という。)の開始年  度を定めるものとする。

 2財政の現況及び見通しにおいて、前項の調整を行う必要がなくなつたと認められるときは、政令で、調整期  間の終了年度を定めるものとする。

 本来は、公的年金の制度ごとに財政状態が異なるため、それぞれの制度に応じた給付調整を実施すべきである。!1

 しかし実際には、国家公務員共済、地方公務員共済、私学共済は、厚生年金の調整率および調整終了年にした  がって給付を調整することとなっている。これは、各共済制度の財政健全化よりも、共済にマクロ経済スライ  ドを導入しなかった場合の官民格差非難を回避するために導人されたと考えられる。ただし、第2節で見たよ  うに、厚生年金被保険者の予測に必要な厚年被保険者比率は予測が難しい。これに比べて、公的年金全体の被  保険者数は、皆年金制度であるため比較的予測しやすい。この観点から、公的年金全体の被保険者数を基準に  することには…定の意味があるといえる。

(12)

   12 ろうか。

1.2.3財政再計算から財政検証への変更

 約5年ごとの財政再計算と制度改正から財政検証への衣替えは、制度改正における 政治的リスクの排除の点で評価できる。従来は、制度改正ごとに保険料の引き上げや 再評価率の改定が国会審議を経て決定される仕組みであり、短期的な視点から、保険 料引き下げの抑制や賃金上昇率を上回る改定などが行われてきた。これが、ルールに 基づいて自動的に行われることになったことで、長期的な視点からの制度運営が期待 できるだろう。

1.2.4有限均衡方式

 有限均衡方式の導入は、従来の永久均衡方式が持つ問題を考えれば、ある程度、合 理的な選択と考えられる。しかし、1つの財政均衡期間のみの予測結果を示すのは問 題であろう。なぜなら、今回の財政見通しどおりに将来が進んだとしても、5年度の 財政検証ではマクロ経済スライドの終了年が変わってしまうのである13。その仕組み は次のとおりである。

 有限均衡方式で財政が均衡している状態は、言いかえれば「ある年に給付削減を終 了すれば、財政再計算の約100年目に積立金が支出の1年分になる」ということにな る。具体的に2004年財政再計算結果に置き換えれば、 「2023年に給付削減を終了すれ ば、95年目(2100年)に積立金が支出の1年分になる」ということである。では、これ を2009年の財政再計算に当てはめると、どうなるだろうか。2004年財政再計算どおり に2005〜2009年の年金財政が推移し、2009年財政再計算でも2004年と同じ人口や経済 の見通しだとすれば、2009年財政再計算における財政均衡は「2023年に給付削減を終 了すれば、95年目(2105年)に積立金が支出の1年分になる」ということになる。

 しかし、この均衡が成立する可能性は低い。なぜなら、2004年財政再計算の予測ど おりに年金財政や経済や人口が進むなら、2009年の財政再計算は2004年の財政再計算

12 日i i・北村・中嶋(2003)では、今回の改正のたたき台となった厚生労働省(2002)をベースに、毎年の65歳の平  均余命にあわせてスライド調整を実施する案について試算している。その結果、前述した物価上昇率を上回る  調整をしないなどの特別措置の廃止と65歳余命に連動した調整を組み合わせれば、マクロ経済スライドが早期  に終rしすることを明らかにしている。ただし、マクロ経済スライドの早期終了によって低下が抑制される場  合もあれば、マクロ経済スライドが早期に終了しても、その間に急激にスライド調整が進んで給付水準が大き  く低ドする場合もあった。

13 ォ来が今回の前提どおりに進んだ場合、5年後に行う将来見通しでは、マクロ経済スライドの終了年を今回と  同じに設定すれば、今回の将来見通しと重複する期間の結果は同じになる。したがって、2100年に積立金が支  出の1年分になるが、これは5年後の財政均衡期間の90年目に当たる。よって、2101年以降に大幅な変化が起こ  らない限り、5年後の財政均衡期間の最終年(2105年)には積立金の水準は支出の1年分を下回ることとなる。

 この場合、マクロ経済スライドの終了年を延長する必要が出てくる(中嶋(2003)では、この問題を厚生労働省  案に基づいて分析している)。

(13)

とまったく同じ結果になり、2100年に積立金が支出の1年分になってしまうからであ る(表6−2)。

表6−22004年財政再計算の結果と対象期間 年度 収入

㈹v

@兆円 支出

㈹v

@兆円 収支

@兆円

年度末

マ立金

@兆円

積立金

c高÷

x出計

財政再計算の

@対象期間

2004年 2009年 2005 28.3 3t9 一3.6 163.9 5.2

2010 37.6 37.5 0.0 156.0 4.2

2050 73.5 74.8 一1.3 335.0 4.5

 : 年一  一  一  一  壺  8年後ノニに

2100 115.1 121.5 一6.4 115.1 1.0

2105

注1:2004年財政再計算結果のうち、標準ケースを示した。

資料:厚生労働省年金局数理課(2005)

 これは、2009年の財政再計算で財政均衡が成立している状態と比べて、5年早く積 立金が支出の1年分を下回ることになる。そのため、積立金が支出の1年分を下回る のを5年間遅らせる必要が出てくるため、マクロ経済スライドの終了を2004年財政再 計算の結果よりも遅らせて、将来の給付水準を下げて、財政を健全化する必要が出て

くるのである。これは、2004年財政再計算で示された給付水準(所得代替率50.2%)

がさらに低下することを意味する。

 また、財政検証の繰り返しを考慮すれば、積立金が支出の1年分にまで減少するの は、実際には2100年ではなく、財政検証を繰り返すたびに先延ばしされることも明ら かである(図6−5)。

    図6−5財政検証の繰り返しと積立金との関係

【財政均衡期間のシフト】        【積立金の推移イメージ】

財政検証1 財政検証2

        、

Tね100年間  \         、         、

概ね100年間

︑︑︑︑︑

︑︑㌧ ︑︑︑︑︑\

積立度合

財政検証3

財政検証1→

1−………一一一一一……一……一一…一一一

 財政検証2

(14)

 有限均衡方式がこのような性質を持つことは、厚生労働省の説明不足もあって14、

国民や政治家はもちろん、専門家の間でも余り認識されていなかった。有限均衡方式 という考え方には問題がないが、その計算方式や計算結果が持つ意味について、厚生 労働省は誠実に説明すべきだったといる。

 また、厚生労働省は有限均衡方式の導入理由として米国が財政均衡期間を75年とす る同様の方式を採用していることをあげているが、米国の専門委員会で永久期間推計 の必要性が提言され、2003年の年次報告・書では実際に永久期間にわたる推計(永久均 衡方式に相当)も実施されている(Board of Trustees of the Federa101d−Age and Survivors Insurance and Disability Insurance Trust Funds (2003), pp.61−63) 。

今後の財政検証でも、有限均衡方式に加えて永久均衡方式での予測をあわせて公表す べきであろう15。

2確率論的年金財政モデル

2.1なぜ、確率論による分析か

 .ヒ述したように2004年改正によって年金財政は安定するとしても、今後の財政上の リスクをわきまえておくことには意味がある。特に保険料率の上限を18.3%に法定し、

かつ、モデル所得代替率50%以上の給付水準を確保するという目標の達成は容易では ない。保険料(収入)に上限、給付(支出)に下限という、上下二っの制約の両方を 満たす答えを見つけなくてはならないからである。場合によってはこれらが両立せず、

保険料抑制か給付維持か二者択一の選択を迫られることが考えられる。

 実際に両立が可能かどうかを検証するために、政府試算では人口や経済の平均的な 前提、および平均から外れたいくつかの前提条件に従った、標準シナリオ、悲観シナ リオ、楽観シナリオによる財政予測が示されてきた16。この手法はわかりやすい反面 で、問題もある。一例として、悲観シナリオがどのくらいの確率で起こるのかがわか

らない。現実の世界は不確実である。年金財政は、将来の人口や死亡率、経済状態、

M2003年に出された坂rl試案や厚生労働省案での説明は、次の内容に1はっていた。 「平成21年財政検証では、

P成16年財政計算時には、給付と負担の均衡を考えていなかった期間(2101〜2105年度)も含めて、給付と負  担が均衡する水準まで給付水準調整を図ることとなる。この期間の高齢化率の見通しが高い場合等は、給付と  負担が均衡する給付水準は、平成16年財政再計算で示した水準と比べて低ドする」 (厚生労働省(2003),試算

 糸吉果編 P.7) 。

15 﨎カ労働省年金局数理課(2005)では、永久均衡方式による試算も掲載されている。有限均衡方式では2023年に  所得代替率50.2%でマクロ経済スライドが終了するのに対して、永久均衡方式では2029年に所得代替率48.3%

 で終了する見通しとなっている。

16 﨎カ労働省(2002)(議論のたたき台)や同(2003)(厚生労働省案)では複数のシナリオでの予測が示されたが、

 閣議決定にかけられた改正法案については標準シナリオでの予測だけが示されていた。改正法成立後になって  初めて、厚生労働省年金局数理課(2005)で複数のシナリオでの予測が示された。

(15)

資産運用環境の影響を受けて変化する。そのため、どの程度の可能性で保険料率の上 限とモデル所得代替率の下限が両立できるのか、あるいは保険料率の上限を優先する ならモデル所得代替率はどのような範囲に落ち着くのか、など、リスクの内容を検討 する必要があるだろう。

 このようなリスク分析の手法の1つとして、金融のデリバティブ(派生商品)の価 格の評価やリスク管理に用いられるモンテカルロ・シミュレーションがある。この手 法はしばしば、サイコロの目の出る確からしさを検証する方法にたとえられる。もし も、サイコロが完全な正立方体でなければ、1〜6の目の出る確率は均等ではない。

どの目が何回出るかを確かめるには、そこで実際にサイコロを1000回、10000回振っ てみなければならない。そのサイコロの形状を分析して情報としてコンピュータにイ ンプットしっつ、どの目がどの程度の確率で出るかを確かめるのがモンテカルロ・シ

ミュレーションなのである。

 今回の分析では、出生率、死亡率、実質賃金上昇率、物価上昇率、資産のリターン の5っを確率変数として用いた。これはいわば、5個のサイコロを1万回振って、5 から30までのその合計の数が出る確率を、コンピュータを使って確かめる作業といる。

今回の分析では、合計の数にあたるのが、給付水準を示すモデル所得代替率や財政状 況を示す積立度合17である。

 特に2004年改正で導入されたマクロ経済スライドは、(1)給付額のスライド率を計 算する際に実質物価上昇率の3年平均を用いる、(2)既裁定年金のスライド率が新規裁 定年金のスライド率を上回った場合は既裁定年金のスライド率を新規裁定年金のス

ライド率と同率まで下げる、(3)デフレの場合を除いて名目年金額を維持する、(4)財 政状態が健全化すればマクロ経済スライドが終了する、などの金融証券取引でいうデ

リバティブ(派生証券)の性質を含んでいる。しかし、政府の財政再計算は決定論的 予測であり、このようなデリバティブの性質を十分に反映していない。一方、本稿の モンテカルロ・シミュレーションでは、これらの仕組みの効果を反映できる。このた め、政府の財政再計算結果とモンテカルロ・シミュレーションの平均は一致しないが、

デリバティブの性質を評価できる点では、モンテカルロ・シミュレーションの方が利 用価値が高いといえる。

2.2米国における確率論的分析

 こうしたモンテカルロ・シミュレーションによる年金財政の予測は、米国の公的年 金制度でも採り入れられつつある。すでに米国では、Lee and Tuljapurkar(1998)を はじめとして公的年金財政の予測に確率論的手法を導入する研究が進められてきた。

17 マ立度合=前年度末積立金残高÷当年度支出合計。積立金が支出の何年分あるかを示す値。

(16)

米国では、4年に1度、公的年金財政における将来予測の前提や方法、発表のあり方 について、専門家による技術委員会(Technical Panel)が社会保障庁(Social Security Administration)の諮問理事会(Advisory Board)に対する提言を行う。1999年に発

表された社会保障庁(Social Security Administration)の諮問理事会(Advisory Board)技術委員会の報告(Technical Panel on Assumptions and Methods(1999))で

は、財政状況の年次報告に確率論的予測を盛り込むことが提言され、Congressional Budget Office(2002)では確率論的手法を用いた推計結果が示された。これを受けて Social Security Administrationは、 Holmer(2003)やLee et a!(2003)の意見を参 考に、2003年報告(Board of Trustees of the Federal 01dmAge and Survivors lnsurance and Disability Insurance Trust Funds(2003))から補論(Appendices)に確率論的な

予測を盛り込んでいる18。2003年の技術委員会の議長を務めたロバート・クラーク教 授は、補論ではなく本文中に確率論的予測を盛り込むべきであると述べている(Clark

(2003)) o

 このように米国では、学術的研究に止まらず、政府機関の公式発表においても確率 論的な収支予測が徐々に採用されつつある19。

2.3モデルの概要

 前述のとおり、本稿で使用したモデルは年金財政予測モデルであり、その概要は図 6−6のとおりである。保険料収入は、出生率や名目賃金上昇率などを用いて被保険 者数や賃金を計算し、それに保険料率をかけて予測する。一方、支出である年金給付 は、死亡率などを用いて将来の受給者数を予測し、賃金上昇率や物価上昇率とマクロ 経済スライドのルールに基づいて計算した年金額と掛け合わせて給付額を予測する。

これに運用収入などを加えて収支と積立金残高を計算し、この手順を順次繰り返して 将来予測を得る。

18 {文中には、日本と同様に決定論的手法を用いて、人口や経済について高コスト、中コスト、低コストの3つ  前提にた・)て、2077年までの収人と支出、収支の赤字分を保険料率(Payroll tax rate)に換算した結果が示さ  れている。

19 c塔eカルロ・シミュレーションにも限界や短所がある。推定が必要なパラメータ(変数)が存在するため、

 その椎定結果によってシミュレーションの結果が変化する。特に、ボラティリティー(変数の変動幅)の推定  1直は結果に大きな影響を及ぼすため、今回のシミュレーションではその点に慎重を期した。

(17)

図6−6年金財政予測モデルの概要

嶽蟻ニ

ミ出達車㍉

li謙塁}一

llXS額}・見通・

将来の被保険者数 保険料収入の推計

 物価上昇車

、実質賃金上昇率

基礎年金受給者 基礎年金単価の推計

基礎年金拠出金 国庫負担額の推計

灘}・見通・

 モデル代替率 マクロスライド終了年

積み立て度合い等

支給開始年齢 の引き上げ等 の制度変更

将来の受給者数 年金支給額の推計

 この手順により、まず各変数を今回の法律に基づいた試算(厚生労働省(2004)。

以下、厚生労働省予測という)と同じに設定した決定論による財政予測を行い、厚生 労働省予測とほぼ一致することを確認する。その上で、図6−6で確率変数と記した 各変数に正規分布に従った乱数を用い、これらを入れ替えながら決定論による予測の 手順を繰り返すというモンテカルロ・シミュレーションを実行する。

2.4モデルの内容 2.4.1厚生年金財政

 まず、厚生年金財政の構造を示す。以下では、性別をg、年齢をkとする。時点 に おける保険料収入U(りは、厚生年金被保険者の1人あたり報酬額ル(t,g,k)、厚生年金 の被保険者数H,i(t,g,k)、保険料率6rf(りより、

      u(り一δ,(り・Σ,Σ鴛;〃(t,9,k)・H,,(t,9,κ)       (5)

である。本モデルでは、時点tにおける被保険者の年齢の下限を15歳、上限はk,(t)歳 とする。rv(t,g,k)は、1時点前の報酬額に、加齢による定期昇給を表す昇給指数1(g,k)

と名目賃金上昇率島(りを考慮して、

(18)

        〃ノ(t,9,k)=m(t−1,9,k−1)・(1+ξln(t))・1(9うk)/∫(9,k−1)       (6)

である。厚生年金の被保険者数1∫パτ,g,k)は、2号被保険者数Z12(t,g,k)から、共済被保 険者数Hm(t,g,k)を控除して推計する。 H2(t,g,k)は、人口0(t,g,k)、労働力率δL(t,g,k)、

労働力人口に占める2号被保険者率δ2(t,g,k)より、

       H2(t,9,k)=0(t,9,k)・δL(t,9,k)・δ2(t,9,k)       (7)

である,,

 次に、年金支出B(りを定義する。時点tにおける受給者の年齢の下限(支給開始年 齢)をk,(t,g)歳2°、上限を108歳21と設定した。受給者数を」(t,g,k)、1人あたり年金 単価をP(t,g,k)、老齢年金以外の(通算、障害、遺族)年金を考慮するための調整率

22 Bha(りとすると、年金支出B(りは、

      B(t)一δ。(t)・Σ、Σご,,.,,P(t,9,k)」(i,9,k)

       −ノ

である。ここで、支給開始時の年金額(新規裁定年金額)P(t,g也(t,g))は、

      1)( ・9,ky(t・9))=R(t,9・勾(t,9))・δP(ち9)

である。R(t,g,k)は新規裁定スライド率φ(りで再評価された累積報酬額で、

      R(t,9,k)=∫〜(t−1,9,k−1)(1+gz5(t))+m(t,9,k)

である。δp(t,g)は、法令で規定された給付乗率である。

(8)

(9)

(10)

支給開始後(k>ky( ・9))における年金額(既裁定年金額)P(t,g,k)は、既裁定スラ イド率V(t)より、

      P(t,9,k)=P(t−1,9,k−1)・(1+ψ(t))       (ll)

である。受給者数ノ(t,g,k)は、死亡率島(t,g,k)を使い、

       」(t,9,k)−J(匡一1,9,k−1)・(1 一 9。,(t,9,k))     G2)

とする。

 厚生年金会計が負担する基礎年金拠出金K(りは、基礎年金被保険者合計数Hκ(りに 対する、厚生年金の被保険者数H,,(t)と厚生年金の被保険者の配偶者(3号被保険者)

数仏(りの合計の比で決められ、基礎年金の支給総額Bκ(りより、

      K(t)=(Hε(t)+H,(t))/Hκ(i)・Bκ(t)       (13)

である23。また、厚生年金会計に投入される基礎年金の国庫負担額G(りは、国庫負担

率をδ巴(t)とすると、

zo 給開始年齢の引き上げを考慮するためのものである。法令で生まれ年や性ごとに定められている。

21 タ際の制度では死亡するまで受給できるが、高齢の受給者は少数(95歳以上の老齢年金σ)受給権者は老齢年金受  給権者 全体のα2%)なので、本モデルではこのように設定した。

22 {稿では老齢年金の収支をモデル化している。厚生年金の給付には老齢年金以外に通算老齢年金、遺族年金、

 障害年金も存在する。本モデルでは式(8)において老齢年金額に係数δβ(t)を乗じることで老齢年金以外の給付  額を考慮している。δβ(t)は厚生労働省年金局数理課(2000)の老齢年金、障害年金、遺族年金給付額の将来予  測をもとに設定している。

2:@特別国庫負担を捨象した。

(19)

      G(t) = (IS,:(t)・K(t)

である。これらの収支を反映して積立金の年度末残高A(t)は、

         A(t)=(1+ζ(t))・A(t−1)+U(t)+G(t)−B(t)−K(t)

である24。ζ(りは積立金の運用利回り(収益率)である。

(14)

(15)

2.4.2マクロ経済スライドによる給付削減

 マクロ経済スライドとは、将来の年金財政のバランスが健全化するまで年金額のス ライドを抑制する仕組みであり、マクロ経済スライドの適用が終了すれば、従来と同

じスライド方式(給付水準維持方式)に戻る。新規裁定年金のスライド率φ( )は、

      max(ζn(り+7(t),0),τ≧t・ndζ,(t)≧0    ξ(t),

φ(t)=ζ(t−1),

   0,

   ξn(t),

τ≧t・nd 4n(t)<O and 9,(t−1)<O ・・d 4n(り≧ζ(t−1)

τ≧tandζ.(t)<Oarldζ}(t−1)<Oandζ1(t)<9,(t−D   (16)

τ≧t・nd i(t)<0・・dζ(t−1)≧0 τ<t

と定義する。ここでτはマクロ経済スライドの終了年であり、マクロ経済スライドが 終了していない場合(τ>t)は名目賃金スライド率ξ.(りにマクロ経済スライド調整 率7(t) 2sが反映され、終了後(τ<t)は名目賃金スライド率に戻る。ただし、マクロ 経済スライドの適用にあたっては、(1)名目賃金上昇率が正の場合には新規裁定年金 のスライド率がゼロを下回らない、(2)名目賃金上昇率が負の場合にはスライド調整 率を控除しない、という特例措置が盛り込まれている。なお、名目賃金スライド率ζ。(り

は、

       ζn(t)=9,(t−1)+ξw(t)      (17)

である。9i (t)は物価上昇率である。ξ(t)は実質賃金上昇率g.(t)26の過去3年平均27で、

       ξ(t)一[9.(t−3)+9.(τ一2)・e,,(t−1)】/3     (18)

である。7(りはスライドを抑制するマクロ経済スライド調整率であり、

      7(t)一レ(t−3)+Z(t−2)・Z(t−1)]/3−0・003    (19)

である28。Zσ)は被保険者数の対前年増加率であり、0.003は受給者の平均余命の伸び に対応するもので法律に規定された定数である。

 既裁定年金のスライド率v(りは、新規裁定年金σ)スライド率を上回った場合は新規 裁定年金のスライド率と同率になるため、

24 咊?フキャッシュフローに対する運用収入を捨象した。

z5 﨑ロ険者数が過去3年平均で減少した場合、7(t)は負値となる。

26 ロ険料率が上昇する2017年までは、保険料率L昇に伴う手取り賃金ヒ昇率の減少分としてO. 2 Y,を控除した。

 現実には幾何平均だが、算術平均とした。27

 現実には幾何平均だが、算術平均とした。

(20)

       ψ(t)−mi・[φ(t),〆(り]     (・・)

である。yf*iりは新規裁定年金のスライド率と比較する前の既裁定年金のスライド率

であり、

      吻一霞旬 ⑳三il 裟ゴ;ll (21)

である。〆σ)は、φ(りと同様に、マクロ経済スライドの適用中かどうかや物価上昇率 が正か負かによって異なり、さらに物価上昇率が正の時には名目年金額を維持する措 置が盛り込まれている。

2.4.3マクロ経済スライドの終了(原則)

 マクロ経済スライドの終了年τは、原則として、その年にマクロ経済スライドを終 了して本来のスライド方式に戻したとしても、将来の年金財政が均衡すると予測され る年である。将来の年金財政の均衡は、従来は永久期間にっいて考慮されていたが、

2004年改正から将来約100年間29のみを考慮する有限均衡方式に変更された。有限均衡 方式では、財政均衡期間の最終年3°に1年分の支出に相当する積立金を保有している ことが財政均衡の条件となる。よって、この均衡条件を満たすようになるまで、マク ロ経済スライドを実施して給付を削減することになる31。

 t時点における有限均衡方式に基づく財政均衡条件、すなわちマクロ経済スライド を終了して従来方式に戻ったと仮定して作成するバランスシートの収入現価と支出

現価の差32は、

         t 95       t+96

     α(t)一(Σ(U(i)+G(i))/(1+/L・r(t))t t+A(t))一Σ(B(i)+κ(i))/(1+,Ur(t)) 「  (22)

        ,=r+l      t=「+1

と定式化でき33、原則に基づくマクロ経済スライドの終了年τ、は

「m アの期間は財政均衡期間と呼ばれる。改正法では「おおむね100年」と記載されており、2004年改正では2005年  から2100年までの95年間が考慮されている。

30 Q004年改1ピでは2100年までしか考慮されていないが、将来の財政再計算(厳密には財政検証と呼ばれる)では  財政均衡期間が順次シフトしていく。その結果、2100年までの前提条件が2004年改正時の前提と同じだったと  しても、マクロ経済スライドの終−「年は2004年改正の結果よりも将来に延びる(詳細は前節を参照)。2004年  改iEで将来が2100年までしか考慮されていないのは、将来推計人、口が2100年までしか公表されていないためだ  と思われるが、2100年以降の人口等を仮定すれば将来の財政均衡期間のシフトを考慮した推計が現時点で可能  である。そこで本稿では、北村・中嶋(2004a)の補論の方法に従い将来の財政均衡期間のシフトを考慮している。

3t 賰b年金拠出金に影響する基礎年金のマクロ経済スライドは、厚生年金のマクロ経済スライドと同時に終了す  ると仮定した。

32 熕ュ均衡期間の最終年に支出の1年分以上に相当する積立金を保有することは、財政均衡期間の収入現価と財  政均衡期間の1年後までの支出現価の差がゼロ以上になることと同じである。この点については小野正昭氏か  らアドバイスを得た。記して謝す。なお、財政均衡期間の最終年は、本稿では将来の財政均衡期間のシフトを  考慮してt+95と設定している。厚生労働省の試算では財政均衡期間のシフトを考慮していないため、tに関わら  ず2100に固定されている。

33 }クロ経済スライドの終了を判断するためのバランスシートを作成する際に必要な前提条件は、モンテカル

(21)

       ・。−mi・{t−2006,…,2050;α(t)≧0}     (23)

となる34。なお本稿では、2006≦τ.≦2050と仮定し、2050年までに終了しない場合は 2051年に強制的にマクロ経済スライドを終了させる35。

 なおここで、tは財政検証の開始年に相当する。式(22)は財政検証の開始年を一般 化したものであり、財政検証の開始年tに従って財政均衡期間の最終年t+95が変動

(ロールオーバー)する。本論文では式(22)で判定するモデルを「ロールオーバーあ り」と呼ぶ。

 一方で、厚生労働省が示した2004年改正に基づく有限均衡方式の財政予測は、いず れも財政均衡期間の最終年が2100年に固定されたものである。すなわち厚生労働省試 算に従った判定基準は、式(22)を特定化した、

       2o99       21oo

    α(t)一(Σ(U(i)+G( ))/(1+vUr(t))  +A(t))一Σ(B( )+K(i))/(1+vLtr(t)) t  (24)

       1=、t+l       t=r+1

となる。本論文では、式(24)で判定するモデルを「ロールオーバーなし」と呼ぶ。

2.4.4附則に基づくマクロ経済スライドの中止と、最低給付水準の保証に必要なコスト  原則に基づくマクロ経済スライド終了の一方で、改正法の附則には、給付水準が下 限を下回りそうな場合にはマクロ経済スライドの中止やその他の措置を講ずること が盛り込まれている。そこで本稿では、給付水準が下限を下回った場合にマクロ経済 スライドを中止する場合を考える。判断基準となる給付水準β(りは新規裁定者の所得 代替率であり、現役世代のモデル手取り賃金額を㌧(t)、新規裁定者のモデル年金額

を互(りとすると、

      (1+φ(t))

       鳥(t)

       (25)

      =β(t−1)・

      β(t)=

      (1+ζ、ω)

       pv。,(t)

である。給付水準の下限はβ(り=O.5と定められているため、

法律の附則を考慮した場合のマクロ経済スライドの終了年は、

       ・−mi・{・。,τ,,2051}      (26)

となる。ここで、

       τβ=min{t=2006,…,2050;β(t)≦0.5}       (27)

 最低給付水準の保証に必要なコストは、同一の前提条件(物価上昇率、実質賃金上 昇率、出生率、死亡率、運用利回り)のもとで、最低給付水準を保証する場合と最低 給付水準を保証しない場合とを比べた時の給付費用の差と定義する。最低給付水準を

 ロ・シミュレーションに関わらず、厚生労働省F測と同じ確定した前提(物価],昇率、実質賃金上昇率、出生  率、死亡率、運用利回り(収益率))を用いた。期中のキャッシュフローに対する運用収入は捨象した。

34一旦マクロ経済スライドを終了した後に財政状態が悪化して、マクロ経済スライドの再開が必要になる場合も  考えられるが、本稿のモデルでは考慮していない。今後の課題としたいu

35 。回実施したシミュレーションでは、ほとんどすべてで2050年までにマクロ経済スライドが終rした。

(22)

保証せずに財政健全化要件だけでマクロ経済スライドの終了を判断する場合の添え 字をα、最低給付水準を保証する場合の添え字をβとすると、

      D(t)=(ββ(i)−Gβ(t))一(B。(t)−G。(t))      (28)

となる36。ただしD(りは名目値であるため、物価上昇率などが変動する確率論的なシ ミュレーションでは評価基準として直接には利用できない。そこで、物価上昇率で実 質化して2005年価格に換算したD,(t)、および保険料率に換算したD,(t)を使って、シ

ミュレーション結果を分析した。

      D(t)

      D,(t)=

       nl.,。。6(1+ξ,(ノ))

       (29)

       D(t)

       ・δ、(t)

      D,(り=

       u(t)

2.4.5確率変数

 年金財政モデルにおいては、図6−6に示したような多くの計算前提を必要とする。

このうちマクロ経済スライドとの関係が深い物価上昇率4,、実質賃金上昇率ζ 1、合計 特殊出生率ζ戸死亡率ζ1,、および積立金の運用利回りg,について、本モデルでは次 の確率モデルに従う確率変数として扱った。

 物価上昇率ζ、実質賃金上昇率ζ、、合計特殊出生率ξ/が従う確率過程を、

      4ζ(t)=a、(θ(t)一ζ(t))dt+σ, dz,(t)

       dξw(t)・= aw(θ。.(t)一ξw(t))dt+σ.dzw(t)

       ∂ξノ(t)=・f(θ,(t)一ζ∫(t))dt+σf dZi(t)

と仮定する。死亡率ζ ,が従う確率過程は、

      dζ.(t,9,k)= am(9,k)(Om(t,9,k)一ζ。(t,9,k))dτ+o ni(9,k)dZm(t)

(30)

(31)

と仮定する。シミュレーションでは、連続時間モデルを、1年を1単位として離散化し て利用する。Gourieroux and Jasiak(2001)より、(30)、(31)は、

36 ナ低給付水準保証に伴う国庫負担の増加もコストと捉えられるが、本稿は分析対象を厚生年金財政に限定して  いるためこのように定式化した。

(23)

9,@)・(]−exp←al)w)・⑭e,@−1)・

C2。,

鼻ω一(仁exp(−a。))・ e、,(t)・輌)己@−1)・a・〔2。.

身ω・(1−exp←af))⑭・綱)身@−1)・af〔

1輌 浴E己ω

      1−exp(−af)

      2af

   ζm(t,9,k)=(1−exp(−an1(9,k)))・On,(t、9、k)+exp(一α〃,(9,k))・ζn,(t−1,9,k)

        +・.(g,k)〔1一耀酬㌦ω

 積立金の運用利回りζが従う確率過程は、

       ζ(t)=,Ur(t)+σ,εr(t)

と仮定する。

 ここで、

する確定的な関数(ベクトル)、

列)、

1一輌

U・8・(t)

     1/2

    〕

      εノ(り (32)

(33)

      al,a。 , af , a  ff.,,σf,σm,σ.は正の定数、θ(t), e.,(t),θノ(t),μ.(りは時間に依存

       am(g, k)は性別と年齢に依存する確i定的な関数(行    θ. (t, g, k)は時間、性別、年齢に依存する確定的な関数(行列)である。

Z(t)=[Zi(り, Zu(り, Z f(t), Zm(t), Zr(り]は共分散行列Σの標準ブラウン運動で、

昂ん,εf,Sm,Srは正規乱数である37。ζ孟,ζ戸ζ。は平均回帰性を取り入れており、

ap a。,af,a。1は回帰率、∂,0。,θr・entは回帰水準、 o,.σ..σf.σtttはボラティリティ(拡散 係数)を表し、ζ,ξw,ξ戸ξ.は条件付き正規分布に従う。積立金の運用利回りξ,は正規 分布に従い、μ.(りは期待値を、σ,はボラティリティを表す。

2.5利用したデータ

2.5.1厚生年金財政に関するデータ

 厚生年金の被保険者数ぴ仏g,ん)の計算に必要な人口θ(t,g,k)は、厚生労働省予測に 従い、国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口(平成14年1月推計)』の 中位推計を用いた。このデータは2100年までの推計なので、それ以降2150年までは筆 者らが推定した38。労働力率6L(t,g,k)は、2001年は総務省統計局『労働力調査報告』、

2005年以降は厚生労働省職業安定局『労働力人口の推移推計(2002年7.月)』による。

この推計は2025年までのものであるが、厚生労働省予測に従い、それ以降は一定とし た。だだし、このデータは年齢が5歳刻みで時点が2000年、2010年、2025年の3つしか

37 各正規乱数の分散は1である。なお、本稿のシミュレーションでは、各確率変数は独立と仮定しているc,

 2100年以降は将来推計人口を準用し、死亡率は2100年のものが継続し、出生率は合計特殊出生率が2100年の1.72  (中位推計の出生率)から、2150年に2.07に線形で戻ると仮定して生命表を推計したc,2150年に2,07に戻ると  いう仮定は、国立社会保障・人「]問題研究所の将来推計人口と同様である。

(24)

ないため、1歳ごと1年ごとのデータに補完している39。労働力人口に対する第2号被保 険者率δ2(t,g,k)は、社会保障審議会年金数理部会資料にある、2000年、2001年の厚生 年金と各共済の被保険者数を、労働力人口で除して求めている。2002年の被保険者数 は1999〜2001年の平均を用いて推計し、2003年以降の推計は、厚生労働省年金局数理 課(2000)pp.142−143と同様に、第2号被保険者率が次第に高まると仮定している。

 1人あたり報酬ge rv(t,g,k)の初期値は、賃金構造基本統計調査(賃金センサス)の「き まって支給する現金給与額(2000年、産業計・学歴計)」を、5歳刻みを1歳ごとに補 完している。累積報酬ec R(t,g,k)の初期値は、まず、1985〜2000年の賃金センサスの

「きまって支給する現金給与額(産業計・学歴計)」を法令で決まる再評価率で再評 価する4°。再評価後の報酬額(5歳刻み)を1歳ごとに補完し、20〜59歳まで各年齢で 累積を行う。この59歳の累積報酬額に、法令で既定される給付乗率δp仏g)を乗じて算 出される2000年の60歳の年金額が実績値と一致するように、上記で推計した累積報酬 額を定数倍する41。昇給指数1(g,k)は、賃金センサスの「きまって支給する現金給与額

(2000年、産業計・学歴計)」を1歳ごとに補完したものを、20歳を1として指数化す る。保険料率δu(t)は2004年より毎年0.354%増加し、2017年以降は18.3%で固定する。

受給者ノ(t,g,k)の初期値は、社会保険庁『事業年報(平成12年度)』に掲載の年齢別受 給者数を用いている。年金額P仏g,幻の初期値は、社会保険庁『事業年報(平成12年 度)』に掲載の年齢別平均年金額から基礎年金平均月額を控除したものを用いているe。

 本モデルに以上のデータと厚生労働省予測が用いた経済の標準シナリオ(表6−

3)を使って推計した結果と、厚生労働省予測とを比較したものが図6−7である。

このように本モデルは、標準シナリオに基づく決定論的な試算において、厚生労働省 予測にほぼ近い推計ができている。

:9 fータが5歳刻みであるため、労働力率を同様の方法を用いて1歳ごとに補完している。以下、2号被保険者率、

 3号被保縁者率も同様。

ao 撃X33年4月2日以降に生まれた者に適用する率を使用した。1984年以前の給与は1985年の給与を利用して再評価  した。

nt fータの中で累積報酬額の推計が最も難しいもの…っである。厚生労働省は年金試算の様々なデータを公表し  ているが、累積報酬額は公表していない。一定率による修正は、賃金センサスによる給与が厚生年金の対象と  .一致しないため、これを補正するためのものである。

42 吹it,g,k)は報酬比例部分の年金単価であり、基礎年金部分の支出は別途、基礎年金拠出金として考慮している。

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