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第7章 2004年改正のリスク

A、 但 低位推計高位推計

0970    1038

ボラティリティー σ*15  σ*20 1006    1008

 物価上昇率や実質賃金上昇率という経済要素が変化した場合をみると、期待値が変 化しても財政バランスはほぼ均衡を保っている。これは、物価上昇率や実質賃金上昇 率の変化に対しては、マクロ経済スライドという自動均衡装置が有効に作動すること を証明している。ただし、前節までと同様に給付水準の下限を確保することは考慮し ていないため、最低給付水準を保証する場合には財政バランスが崩れることになる。

 一方、死亡率や出生率という人口要素が変化した場合をみると、期待値の変化によ って財政バランスの均衡が崩れている。死亡率については死亡率が改善して長寿化が 進んだ場合、出生率にっいては出生率が低下して少子化が進んだ場合に、負債が資産 を上回る、財政バランスが悪化した状態になる。このように人口要素に対しては自動 均衡装置に有効に作動していない。その理由は、前章で述べたように、公的年金の被 保険者数合計や余命を勘案した一定率というマクロ経済スライドで考慮する要素が、

厚生年金の被保険者数や受給者数という年金財政の構成要素と一致していないため

だと考えられる。

6示唆

 本章では、2004年改正後の年金財政が、経済や人口の変化に対してどのような影響 を受けるのかを定量的に分析した。その結果、2004年改正で導入されたルールによっ て年金財政の持続可能性は確保されるものの、拠出建てに転換した制度の中で、モデ ル所得代替率を50%以上にするという給付水準の確保と持続可能性の確保とを両立

させていくのは、難しいことがわかった。具体的には、次のとおりである。

  (1)団塊世代が受給者になって年金財政が厳しくなる2015年の積立度合は、平均     で4.2倍、通常想定できる最も悲観的な場合でも3.1倍となる見通しであり、

    積立金が枯渇するような危機的状況ではない。

  (2)ただし、給付水準(モデル所得代替率)をみれば、平均で49.0%にまで低下     し、最低保証水準である50%を確保できない可能性が56.5%ある。悲観的な     場合には、モデル所得代替率が42.9%にまで低下する。

 経済や人口の変化や運用方針を、基準ケースから変更させた場合にみられる影響は、

次のとおりである。

  (1)経済要素の変化による積立度合の変化は小さく、持続可能性は確保される。

  (2)物価上昇率が上昇すると、給付水準が低下する。

  (3)実質賃金上昇率が上昇すると、給付水準が上昇する。

  (4)死亡率が改善して長寿化が進むと、給付水準は低下し、財政状態は悪化する。

  (5)出生率が低下して少子化が進むと、給付水準は低下する。

  (6)リスクを許容しない運用方針をとると、給付水準は低下するが財政状態は改     善する。

 特に問題なのは、次の点である。

  (1)経済要素の変化に対しては、持続可能性を確保できる。

  (2)少子高齢化が現在の予想より悪化すると、給付水準の低下が大きい。

  (3)運用方針の変更に対して、給付水準の上昇と財政状態の健全化がトレードオ     フの関係にあり、給付設計と運用方針の総合的な検討が必要6。

 また、バランスシートを使った分析によって次のことがわかった。

  (1)2004年改正後のバランスシートは、マクロ経済スライドの効果により均衡し     ている。

  (2)物価上昇率や実質賃金上昇率が変化した場合は、財政バランスの均衡は維持     される。

  (3)死亡率や出生率が変化した場合は、マクロ経済スライドの要素と年金財政の     要素とのずれにより、財政バランスの均衡が維持されない。

 以上のように、2004年改正後の制度でも持続可能性の確保と給付水準の確保の両立 は難しい状態にある。その理由の1つは、第4章で述べた政治的な決定過程で最終保 険料率が引き下げられたことにある。しかも、改正法が成立するまで標準シナリオに 基づいた試算しか示されず、国民に議論の余地はなかった。また、少子高齢化のさら なる進展や、低インフレ率から高インフレ率への転換など、考えられる環境変化よる 影響も明らかにされないままだった。また、バランスシートを使った分析でわかった

6 積立金運用の問題に特化した詳細な分析は、北村・中嶋・臼杵(2006)を参照されたい。

ように、死亡率や出生率が変化した場合には財政バランスを崩す理由は、マクロ経済 スライドの構成要素が必ずしも年金財政の構成要素と一致していないためであった。

 法律の附則には最低給付水準を保証する旨が記載されているが、半分以上の確率で 最低給付水準を割り込むことが見込まれる中で、その対処方法の議論が不足したのは、

将来世代に対してツケを先送りしたことになろう。次章では、この問題について定量 的に分析する。

参考文献

臼杵政治・北村智紀・中嶋邦夫(2003), 「厚生年金財政の予測とリスクの分析:保  険料固定モデルの議論を中心に」,『ニソセイ基礎研究所所報』,Vol.29,ニッセ  イ基礎研究所.

北村智紀・中嶋邦夫・臼杵政治(2006), 「マクロ経済スライド下における積立金運  用でのリスク」,『経済分析』,No.178, pp.23−52.

社会保障研究所(1999),『21世紀の年金を「構築」する(平成11年版年金白書)』,

 社会保険研究所.

厚生省年金局数理課(2000), 『厚生年金・国民年金平成11年財政再計算結果』.

厚生労働省年金局数理課(2005),『厚生年金・国民年金平成16年財政再計算結果』.

社会保障審議会年金数理部会(2006),『平成16年財政再計算に基づく公的年金の財  政検証』.

高山憲之(2004), 『信頼と安心の年金改革』,日本経済新聞社.

高山憲之・塩濱敬之(2004), 「年金改革:バランスシートアプローチ」, 『経済研

 究』,Vo1.55, No.1, pp.38−50.