者や受給者の制度に対するオーナーシップ1に注目し、それらの誤りを回避iし、公 的年金制度に対する加入者や受給の評価を改善させる方策として、加入者や受給 者がオーナーシップをより発揮できるようなガバナンスやモニタリングのあり方
を検討する。
2004年改正によりマクロ経済スライドという財政を自動的に均衡するルールが
導入されたが、第7章や第8章で述べたように、2004年改正後の制度で財政バラ
ンスと給付水準の確保を両立することは容易ではない。そのため追加的なルール 作りのため、政治過程を経る改革が少なくとも1度は必要になる。また、ルール 化がうまく作られたとしても、政府がそれを誠実に実行するかがきちんとモニタリングされなければ、国民の公的年金に対する不信は残ってしまうだろう。その 意味で、本章の分析は、今後のルール化された公的年金運営においても重要な示 唆を与えるものである。
以下、本章の構成は次のとおりである。第2節では、国民の年金不信の状況を 示し、これに関する先行研究をあげて、本章の位置づけを示す。第3節で公的年 金のガバナンスやモニタリングを整理した上で、第4節では、国民が年金制度の 責任は誰にあり何を問題だと考えているかを、筆者が参加した総合研究開発機構 主宰の「社会保障制度における個人のオーナーシップ強化に関する研究(1)」研 究会(以下、当研究会という)で実施したアンケートの結果を使って探索的に分 析する。最終節では、分析結果を踏まえて今後のガバナンスやモニタリングのあ
り方について考察する。
2年金不信の現状と先行研究における本章の位置づけ
近年、公的年金制度に対する不信や不満、不安が問題になっている。生命保険
1本章で取り扱うオーナーシップは制度に対するものであり、個人が受け取る年金に対するオーナーシッ プとは異なる。
文化センターの生活保障に関する調査では、老後の不安として「公的年金があて にならない」をあげた割合が79%と、複数回答の他の選択肢より群を抜いて多い
(図9−1)。同調査の「自分の老後の日常生活費は公的年金でかなりの部分を まかなえると思うか」という問いに対して「まったくそう思う」「まあそう思う」
と回答した割合は、近年低下を続けている(図9−2)。また、年金不信の象徴
としてしばしば取り上げられる国民年金保険料の納付率は、近年60%程度にとど まっている(図9−3)。図9−1老後生活に対する不安の内容
0 |0 20 30 40 50 60 70 80%
公的
蘂鷲嶽薩覇灘霧羅 i
自助
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子㌫禦が■羅 …
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・常生活・支障・咄る麗醗羅璽璽1螺翻 i
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資料:生命保険文化センター「生活保障に関する調査」(2004年度)
図9−2「自分の老後の日常生活費は公的年金でかなりの部分をまかなえる」と思うか
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
IDわからない}
J
口まったく そうは思わ ない 口あまり そうは思わ ない
■まあ そう思う 國まったく そう思う
1988 1989 1990 1991 1993 1996 1998 2001 2004 資料:生命保険文化センター「生活保障に関する調査」(2004年度)
図9−3国民年金の納付率の推移
96.4%
100%
80%
636%
60%
た}ll tiLl
40% ・1986年適用対象の拡大
・1995年20歳到達者へ手・帳送付開始
、。%「:;膿欝㌶2度発足
t
全額申請免除厳格化と半額免除導入
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1961 1966 1971 1976 1981 1986 1991 1996 2001 資料 Jp?1 t労働省年金財政ホームペーシ、社会保険庁「国民年金の納付状況」(各年)
国民年金への加入や保険料の納付行動に影響する要因については、多くの先行 研究がある。小椋・角田(2000)は、国民生活基礎調査のプールデータから、納付 の有無には収入と調査年と世帯人員数が、納付率には世帯の所得と貯蓄、世帯主 の職業、調査年が影響することを明らかにした。阿部(2001)は、加入行動は年齢 や職業、居住地などに影響を受け、納付行動は世帯人数や保険料率や性別、年齢
に影響を受けることを明らかにした。鈴木・周(2001)は、国民年金への未加入は、
流動性仮説に基づく失業・無業者ダミーや金融資産、逆選択仮説に基づく病気・
病気がちダミー、年齢、個人年金加入に影響を受けることを明らかにした。鈴木・
白石(2003)は、年齢効果、世代効果、年効果に分解する擬i似パネル分析によって、
個人年金加入率は新しい世代や高年齢ほど高い傾向が、国民年金未加入率は新し い世代や35−40歳以降で高くなる傾向を明らかにした。これらの分析は公的年金の 給付と負担のバランスに関する世代間不公平に着目し、相対的に不利である新し い世代(若年者)ほど、未納や未加入の傾向にあることを指摘している。
一方で、給付と負担のバランスといった制度の内容以外の要因が年金不信を引 き起こしているとも考えられる。Tsukahara(2001)および塚原(2004)は、自営業者 にアンケートを実施して仮に公的年金が任意加入制度だったら加入するか否かを 質問し、年齢が高いほど、予想寿命が長いほど加入意思が高くなる傾向を明らか にした、,中嶋・臼杵・北村(2005)は、国民年金の第1号被保険者(自営業者・ブ
リーター・学生)にアンケートを実施し、流動性制約があったり主観的余命が短 かったり時間選好率が高かったりするほど納付の頻度が低かったり未加入になる 傾向があること、流動性制約があったり主観的余命が短かったり時間選好率が高
かったりするほど任意加入制度だった場合に加入する意志が低いことを明らかに した。鈴木(2005)は勤め人を対象にしたアンケートで、年齢が若く、男性で、予 想寿命が短く、年金の知識が多く、保険料の応能負担を公正と考え、給付が負担 を上回ったり世代間で給付に差があることを公正と考えるほど、2004年改正を不 満と思う傾向を明らかにした。中嶋・臼杵・北村(2006)は加入者の情報不足に着
目し、年金制度についての説明を通知することで制度への納得度が高まることを、
30〜40代の会社員を対象としたアンケート実験によって示している。
本章では、後半で紹介した、制度内容の変更以外の方策によっても年金不信を 改善できるとの立場に立ち、加入者や受給者の制度に対するオーナーシップに注 目してガバナンスやモニタリングのあり方を検討する。その際、公的年金の全制 度の加入者および受給者に対するアンケートを分析し、国民の意識を踏まえた検
討とする。
3公的年金ガバナンスの整理
公的年金の関係者には、(1)現役世代である加入者2(被保険者)、(2)被用者で ある加入者と保険料を分担している企業(雇用主)、(3)引退世代である受給者、
(4)基礎年金の費用を分担し、マクロの経済政策を行っている政府があり、制度の 担当者として、(5)制度改正に国民の意見を反映させ、法律を決定する国会議員、
(6)制度の企画や執行に携わる各種政府組織がある(図9−4)。
図9−4公的年金制度の関係者
加入者
(被保険者)
企業
伽入者の雇用ゴ1)
酬灘
個力各関係者が持っている公的年金制度への関心は、次のように異なるだろう。加
2公的年金制度が将来の加入者・受給者となる未出生世代などの負担や給付も規定する点も、留意する必 要がある。
入者は主に、保険料の徴収が公正に行われていること、自らの納付実績が適正に 管理されていること、納付した保険料が適正に運用されていること、自らの年金 給付の可能性(年金財政の長期的な持続可能性)、将来の年金改革、に関心を持 っていると考えられる。企業は主に将来の負担水準に関心を持っていると考えら れる。受給者は主に将来の給付水準や年金給付の可能性(年金財政の短期的な持 続可能性)に関心を持っていると考えられる。政府は主に将来の国庫負担の水準 や年金財政の持続可能性、マクロ経済への影響に関心を持っていると考えられる。
国会議員は、有権者である受給者や加入者および企業の満足度に関心を持ってい ると考えられる。公的年金の制度運営者は、年金財政の持続可能性や制度の効率 性、制度への信頼などに関心を持っていると考えられる。なお、現在の日本にお
ける公的年金の制度運営者は、企画や数理予測を行う厚生労働大臣および厚生労 働省年金局、保険料徴収や給付、記録管理や情報提供サービスを行う社会保険庁、
積立金の資産運用を行う年金積立金管理運用独立行政法人に分かれている(図9
−5)。
図9−5公的年金制度運営者の内部構造
加入記録管理
・サービス
社会保腐丁
鋼
(厚生労働大拒^・厚生 労働省年全尉
不責・1たく㌔フ)管理・漸ヨ
(年金積立金管理轡刊
練寸斤一f}Xb #.人)
加入者や受給者に状況を明らかにしながら制度運営を統制・監視するために、
図9−6のような仕組みが作られている。公的年金制度の企画を担当する厚生労
働大臣は国会から監視されている。厚生労働省年金局も提出した法案が審議されるという意味で国会から統制を受け、また制度改IE案の策定にあたっては社会保 障審議会から答申や意見書3の提出を受けている。社会保障審議会の中で制度改正 の方針などの審議を担当する年金部会は、学識者、経済団体の職員、労働組合の
:{2004年改IE に携わった社会保障審議会(年金部会)は、答申の形式をとらず、意見書を提出した。