展示のたのしみ : 掛軸三昧
著者 井溪 明
雑誌名 阡陵 : 関西大学博物館彙報
巻 42
ページ 10‑11
発行年 2001‑03‑31
URL http://hdl.handle.net/10112/00024069
展 示 の た の し み
一掛軸三昧一
掛軸は、 学芸員にとって、と りわけ人文系の 学芸員にとって一番扱う確率の高い資料群とい える。少なくとも日本東洋の美術歴史系の博物 館美術館では必須の資料である。ところがその 扱いとなると、決して十分とは言い難いのが実 状であろう。尤もその大きな原因に普段の生活 の中で掛軸を扱うことが格段に少くなっている ことが挙げられる。住宅事情もあろうが今の日 本家屋の多くに床の間が備えられることが無
く、またあったとしてもかける軸もなく、百歩 譲って軸はあっても、年中同じものが懸かって いて、取り替えることすらほとんどないのが現 状であろう。そんな中で暮らしていて、掛軸に 馴染みなさい、という方が酷なのである。しか しこの種の館に就識したなら、否が応でも接し なければならないのが、この資料である。では どのようにすればよいのか。無論こうすればば っちり、などという秘術があるわけではないが、
筆者のつたない経験から掛軸に馴染むことの例 をお知らせしてみよう。
何でもそうであるが、その資料の取扱に親し むことがまず第一である。軸の構造は至って単 純で、上部には壁などから吊すための紐とそれ を固定する金具と八双と呼ばれる木部、中心部 は絵や誉などの所謂「本紙」という部分とその 回りの、洋画なら額縁にあたる色柄とりどりの 表具、最下部には全体の童しと、巻いたときの 芯となる軸木、簡単にいえばこの三部から成り 立っている。これを壁面にかけるときも高さを 調節するための「自在」と高いところに掛ける ときには「矢筈
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という道具などを用いれば、誰でも節単に掛けることが可能である。巻き上 げるときも、何十回か練習すれば、俗に言う算 盤玉的な両端のどちらかへのゆがみも「コッ」
が判るようになり少なくなる。細かいことであ るが、掛軸は特別な理由のない限り、真っ直ぐ に掛けるのが当たり前である。微妙にゆがんで いる軸は、何か不安な気分にさせるものである。 また巻緒の端が掛緒の中程で止まっていたり、
立っていたりすることも見苦しさを与えるもの
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井 漢 明
1 見映えの悪い例 (1) 掛緒と巻緒の位匿
2 見映えの悪い例 (2)
3 適切な例(ウラ側)
である。さらに悪い表具で両縁が 丸く反ってきたりする事がある が、これも見苦しいし、場合によ っては温湿度管理の不行き届きさ え疑われる。そんな際は縁を簡単 な道具で軽く押さえるなどの工夫 はあって良い。
これで展示するための基本的な 部分はマスターすることが可能と なる。しかし、それで展示が出来 たとは未だいえない。ここからが いわば本題である展示の楽しみな のである。
まず、軸をどれくらいの腐さに、
さらに大きなケースに何本も吊る 場合は、どんな順番でどのような
甜さで、どのような間隔で、あるいは内容を加 味しながら展示してゆくか。簡単なようでそう ではない。時代順・内容順あるいは違う意図で もって一連の掛釉をどのように展示するかは、
まさに学芸員の展示意図やセンスなどにも大い に負うところである。
まず尚さについて考えてみよう。ケースの構 造にも因るが、軸が十分に吊れるだけの内寸が ある場合は、目線を中心として考えてみる。展 覧会の来館者層を念頭に置ぎながら、どの層の 人々が多いか、あるいはターゲットとしている か、それによって目線の庇さが違ってくるのは 当然である。またどう見て欲しいか、例えばそ こに掛軸が掛けられているような、つまりは床 の間感覚で見て欲しい場合は、やや軸の中心は 高めに見上げるように掛けられる。他方、純粋 に内容本位での見方を望むなら、一番見やすい
6 本紙へのストレスを与えない巻緒の処理
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4 悪い例 5 良い例(下からきっちり拳く)
軸の巻き方
高さを模索することとなる。また資料の内容か ら考えて、どのような高さや位置関係で見られ ることを作者は欲したか、あるいはそれを所蔵 してきた人々は考えたか、そのためにどのよう な表具にしたか、などなど。以外と考えてみる ための観点は多くあることが判る。
これこそが学芸員の醍醜味なのである。いか に資料が最大限生かされるような展示を考える か。それは単に独りよがりとなるのではなく、
なるほどこの資料はそういうものであるのか、
ということを見る側に自然に感じさせるような 展示が出来れば楽しいことである。一本の掛軸 を試すつがめつ、何度もケースの内外を行った り来たりすることの労を惜しんではならない。
むしろそこから今まで気がつかなかったものを 発見できる楽しみと喜びを感じてゆくことこそ 展示の面白さであるといえる。
7 ストレスを与える巻緒の処理
(掛緒の下をくぐらせる時に押さえること)
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