• 検索結果がありません。

2

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "2"

Copied!
118
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

修士論文

ガンマ線バースト偏光検出器の

モンテカルロシミュレーターによる

応答の把握

金沢大学大学院 自然科学研究科 数物科学専攻

III

コース

宇宙物理学研究室 博士前期課程

指導教官 村上 敏夫

江村 尚美

学籍番号

0713011005

2009

3

23

(2)
(3)

i

概要

ガンマ線バースト(Gamma-Ray Burst : GRB) とは非常に短い時間変動を伴うガ ンマ線が、宇宙の遠方から数10 msecから数100 secの短時間に突発的に飛来する 天体現象である。GRBの総エネルギーは1052ergにもなり、超新星爆発で放出さ れる電磁波のエネルギー1048ergと比較してもとても大きいことが分かる。それゆ えGRBはビッグバンに次ぐ宇宙最大の爆発現象であると考えられている。 GRBの放射機構は未だに解明されていないが、有力な理論モデルとして相対論 的火の玉モデルがある。相対論的火の玉モデルによると、衝撃波によって電子の加 速と強磁場の形成が行われ、高速の電子は強磁場に巻きつきシンクロトロン放射を 行うことでエネルギーを放出する、という理論である。しかし、この理論の裏付け となる観測的な証拠は未だに報告されておらず、GRBの偏光が観測されれば、強 磁場の存在が証明されGRBの放射機構の解明することが出来るのである。 我々金沢大学宇宙物理研究室では、予てから人工衛星搭載用のガンマ線バース ト偏光検出器を開発してきた。そして、2007年に小型ソーラー電力セイル実証

機Ikaros (Interplanetary Kite craft Accelerated by Radiation Of the Sun) に

我々のガンマ線バースト偏光検出器(GAmma-ray burst Polarimeter : GAP)が

理学観測機器とし搭載されることが決定した。現在は2010 年5月の打ち上げに 向けてプリフライトモデル (Pre-flight Model : PM) の性能評価とフライトモデ ル (Flight Model : FM) の開発を行っている。 検出器の開発では実際の検出器による性能評価を行う一方で、シミュレーション による性能評価を行ってきた。シミュレーションでは実際に実験を行い検証するこ とが難しい条件での検出器の応答や、外乱による影響を無視した理想的な応答を得 ることで、性能を評価することが出来るため、有効な検証の仕方である。 7章では宇宙空間で想定されるバックグラウンドについてシミュレーションを用 いた議論を行い、想定されるバックグラウンドカウントの見積りを行った。バック グラウンドとしてはX線背景放射、銀河や太陽からの宇宙線、衛星本体からの散乱 光子などを想定した。 8章ではいままで議論されていなかった放射化によるバックグラウンドについて 実験と解析を行った。衛星の打ち上げ後、検出器や衛星本体に宇宙線が入射し核反 応を起こした場合に安定物質が放射性同位体に変化しX線を放射すると考えられ る。このような状況を想定して、200 MeVの陽子を宇宙空間の陽子のフラックス の10年分にあたる∼ 109 proton/cm2/sを照射した。 これらの実験とシミュレーションにより得られた検出器のバックグラウンドに 対する応答の結果から、偏光観測にどれだけの影響を及ぼすかを議論する。また、 バックグラウンドのカウントを元にシミュレーションを用いて我々の検出器の偏光 に対する感度やGRBの検出可能性について議論を行った。衛星の活動期間である およそ一年間に、GRBが40%偏光しているならば2件、75%偏光しているなら ば5件のGRBについて偏光度を決めることが出来る性能を持っていると結論付 けた。

(4)
(5)

iii

目次

概要 i 第1章 はじめに 1 第2章 GRB 3 2.1 GRBとは . . . 3 2.2 GRB理論 . . . 7 2.3 GRBの偏光 . . . 9 2.3.1 過去の偏光観測 . . . 9 2.3.2 GRBの偏光理論 . . . 11 第3章 小型ソーラー電力セイル実証機 Ikaros 13 第4章 基礎的な物理過程について 15 4.1 偏光とは . . . 15 4.2 X線、ガンマ線と物質との相互作用 . . . 16 4.2.1 光電吸収 . . . 16 4.2.2 コンプトン散乱 . . . 16 4.2.3 電子対生成. . . 19 4.2.4 X線の減衰 . . . 19 4.3 荷電粒子と物質の相互作用 . . . 20 4.3.1 陽子の飛程. . . 20 4.3.2 陽子による核反応 . . . 20 4.4 放射線線源 . . . 22 4.4.1 ベータ崩壊とそれに伴うガンマ線 . . . 22 4.4.2 内部転換 . . . 22 4.4.3 消滅放射線. . . 23 4.4.4 特性X線 . . . 23 4.4.5 動く電荷からの放射 . . . 23 4.4.6 制動放射 . . . 25 4.4.7 シンクロトロン放射 . . . 26

(6)

4.5 核崩壊の種類 . . . 29 4.5.1 β−崩壊 . . . 29 4.5.2 β+崩壊 . . . 29 4.5.3 電子捕獲 . . . 29 第5章 ガンマ線検出器 31 5.1 半導体検出器 . . . 33 5.2 ゲルマニウムガンマ線検出器 . . . 33 5.3 シンチレーション検出器 . . . 34 5.3.1 シンチレータ . . . 34 5.3.2 光電子増倍管 . . . 34 5.4 GAPの偏光検出方法 . . . 35 5.5 偏光検出器の性能とは . . . 36 5.5.1 モジュレーションファクタ (M) . . . 36 5.5.2 検出効率 (η) . . . 37 5.5.3 最小検出可能編光度 (MDP) . . . 37 第6章 シミュレータ 39 6.1 EGS5 . . . 39 6.1.1 EGS5の概要 . . . 39 6.1.2 構造モデル (ジオメトリ) . . . 39 6.1.2.1 立体の定義 . . . 40 6.1.2.2 リージョンの定義 . . . 40 6.1.2.3 物質の定義 . . . 41 6.2 GEANT4 MEGAlib . . . 41 6.2.1 MEGAlibの概要 . . . 41 6.2.2 ジオメトリー . . . 42 6.2.2.1 Bodyの定義 . . . 42 6.2.2.2 リージョンの定義 . . . 43 6.2.2.3 物質の定義 . . . 43 6.3 二つのシミュレータの比較1 . . . 43 6.3.1 ジオメトリーとシミュレーションの条件 . . . 43 6.3.2 結果と考察. . . 44 6.4 二つのシミュレータの比較2 . . . 48 6.4.1 ジオメトリー . . . 48 6.4.1.1 EGS5でのジオメトリー . . . 48 6.4.1.2 MEGAlibでのジオメトリー . . . 49 6.4.2 入射ガンマ線の条件 . . . 49 6.4.3 コインシデンスのロジック . . . 49 6.4.3.1 GAPでのコインシデンスロジック . . . 49

(7)

v 6.4.3.2 EGS5でのコインシデンスロジック . . . 49 6.4.3.3 MEGAlibでのコインシデンスロジック . . . 49 6.4.4 結果 . . . 50 第7章 宇宙空間でのGAPのバックグラウンド 53 7.1 GAP検出器が直接的に受けるバックグラウンド . . . 53 7.1.1 X線背景放射 . . . 53 7.1.2 宇宙線 . . . 56 7.1.2.1 銀河に由来する宇宙線 . . . 56 7.1.2.2 太陽に由来する宇宙線 . . . 57 7.1.2.3 宇宙線によるバックグラウンドのカウントレート . . . 59 7.2 GAP検出器が間接的に受けるバックグラウンド . . . 59 7.2.1 衛星本体からの散乱成分 . . . 59 7.2.1.1 GRBからの光子の散乱成分 . . . 59 7.2.1.2 CXBからの散乱成分 . . . 62 7.2.2 放射化した物質からの成分 . . . 63 第8章 プロトン照射実験 65 8.1 物質の放射化とは . . . 65 8.2 プロトン照射実験によるCsIシンチレータの放射化 . . . 69 8.2.1 実験目的 . . . 69 8.2.2 実験の条件とセットアップ . . . 69 8.2.3 較正線源とGe検出器のバックグランドの測定 . . . 69 8.2.4 放射化したCsIのスペクトル . . . 72 8.2.5 シミュレーションによるゲルマニウム検出器の応答の再現 . . . 72 8.2.6 放射性同位体の生成 . . . 75 8.2.6.1 一般的な放射平衡の過程 . . . 75 8.2.6.2 12354 Xeの放射平衡について . . . 75 8.2.6.3 その他の放射性核種について . . . 79 8.2.7 放射化によるバックグラウンドカウントレート. . . 80 第9章 シミュレーションと実験の比較 83 9.1 GAPのジオメトリ . . . 83 9.2 高エネルギー加速器研究機構でのガンマ線照射実験 . . . 83 9.2.1 実験のセットアップ . . . 84 9.2.2 偏光度の測定 . . . 84 9.2.3 実験の条件. . . 85 9.2.4 シミュレーションの条件 . . . 86 9.2.5 実験結果、シミュレーション結果とその比較 . . . 88 第10章 偏光観測の可能性 91

(8)

10.1 GAPの性能 . . . 91 10.2 偏光観測におけるバックグラウンド . . . 92 10.3 GRBの偏光検出可能性 . . . 93 10.4 期待されるヒットパターン . . . 95 10.5 ななめから入射した場合の偏光度 . . . 96 第11章 まとめ 101 付録A 相対論的ビーミング 103 A.1 速度のローレンツ変換 . . . 103 A.2 相対論的ビーミング . . . 105 謝辞 107

(9)

1

1

はじめに

ガンマ線バースト (Gamma-Ray Burst : GRB)とは非常に短い時間変動を伴うガンマ線 が、宇宙の遠方から数 10 msec から数 100 sec の短時間に突発的に飛来する天体現象であ る。GRBの総エネルギーは1052ergにもなり、超新星爆発で放出される電磁波のエネルギー 1048ergと比較してもとても大きいことが分かる。それゆえGRBはビッグバンに次ぐ宇宙最 大の爆発現象であると考えられている。 GRBは数100 secという短い現象のため、1967年のGRBの発見から長い間その起源は謎 に包まれていた。しかし、30年後の1997年にはGRBに続いて起こるX線や可視光の放射 が発見され、可視光の大型望遠鏡での分光観測によりGRBの発生した場所が数十億光年も遠 方である事が分かった。この発見によりGRBが初期の宇宙で起きていることと、エネルギー が非常に大きいことから初期の宇宙の環境を知る手がかりとなると考えられ現在研究が活発に 行われている。 GRBの放射機構は未だに解明されていないが、有力な理論モデルとして相対論的火の玉モ デルがある。大質量星が崩壊しブラックホールを形成するときに莫大なエネルギーを開放す る。相対論的な速度で放出された物質 (shell) 同士がぶつかり衝撃波を形成する。衝撃波に よって電子の加速と強磁場の形成が行われ、高速の電子は強磁場に巻きつきシンクロトロン放 射を行うことでエネルギーを放出する、というシナリオが相対論的火の玉モデルである。しか し、この理論の裏付けとなる観測的な証拠は未だに報告されておらず、シンクロトロン放射に 伴うGRBの偏光が観測されれば、強磁場の存在が証明されGRBの放射機構の解明すること が出来るのである。 GRBから放射されるガンマ線は地球の大気で吸収されるため、観測は人工衛星を用いて宇 宙空間で行う必要がある。我々金沢大学宇宙物理研究室では、予てから人工衛星搭載用のガ ンマ線バースト偏光検出器を開発してきた。そして、2007年11月に小型ソーラー電力セイ

ル実証機Ikaros (Interplanetary Kite craft Accelerated by Radiation Of the Sun) に我々

のガンマ線バースト偏光検出器 (GAmma-ray burst Polarimeter : GAP)が理学観測機器

とし搭載されることが決定した。現在は2010年5 月の打ち上げに向けてプリフライトモデ

ル (Pre-flight Model : PM) の性能評価とフライトモデル (Flight Model : FM) の開発を

行っている。

(10)

している。完全偏光に対する検出器の応答は偏光検出器の性能を決めるもっとも大きな要素で あるし、宇宙空間に存在する X線バックグラウンドなどの影響を事前に知る上でモンテカル ロシミュレーションが必要となる。 過去の開発段階では議論されていなかった宇宙線陽子による物質の放射化や、X線背景放射 によるバックグラウンドについてシミュレーションにより、予想されるカウントレートの見積 りを行った。 また打ち上げ後の得られる観測結果は、そのままでは光源の偏光度を決定することが出来 ず、モンテカルロシミュレーションの結果と比較することで偏光度を知ることになる。そのた め、シミュレーションでいかに実際の検出器の応答を再現することが出来るかはとても重要で ある。 検出器の応答を再現できているか確認するために、高エネルギー加速器研究機構で行ったX 線照射実験とシミュレーションの比較を行い、偏光度を測定した。高エネルギー加速器研究機 構で用いた光源は80%偏光光源であり、また指向性の強いペンシルビームとして得ることが できるため検出器の応答を細かに知ることができる。 宇宙空間での実際の観測は検出器に対してあらゆる方向からやってくるGRBの光子に対し て偏光を観測することになる。そのように幾何学的に対称でない場合の偏光度の求め方につい ても議論を行う。

(11)

3

2

GRB

2.1

GRB

とは

ガンマ線バースト (Gamma-Ray Burst :GRB ) は非常に短い時間変動を伴うガンマ線 が、宇宙の遠方から数10 msecから数100 secの短時間に突発的に飛来する天体現象である。 GRBは一日に約1回等方的に検出されており、その総エネルギーは1052 ergにも達する。こ れは超新星爆発時における電磁波の総エネルギーが1048 erg程度である事と比べてもとても 大きく、ビッグバンに次ぐ宇宙最大の爆発現象であると考えられている。GRBの最初の発見 は1967年アメリカの核実験探知衛星VELAによる偶然の観測である。VELAは3年間で16 例のガンマ線バースとを観測していたが、当時宇宙から大量のガンマ線が飛来することなど、 まったく予想されていなかったために軍事機密として扱われた。その後GRBとして正式に発 表されたのは1973年のことである。 現在では少なくともある種のGRBが、Ic型超新星爆発と関連していることは確実視される ようになった。 GRB の継続時間や光度曲線は千差万別で、継続時間が約 10ミリ秒の非常に短いバース トから、1000秒以上に及ぶものまである。GRBの光度曲線の例を図2.1に示した。これは

CGRO衛星に搭載されたBATSE (Burst And Transient Source Exeperiment) による観測

である。これらの継続時間の短いバーストと長いバーストの分布は一様ではなく、図2.2に示 すようにおよそ2秒という継続時間を境にして二つのピークが見られる。これはBATSEの 観測データの固有の性質ではなく、一般的にGRBには継続時間が約2秒以下の短いGRBと 約2秒以上の長いGRBの2種類があることが分かっている。現在詳細な観測が進んでいるの は長いGRBで、これは短いGRBが全GRBの25%程度しかないことと、典型的な継続時間 が約0.3秒と短く検出される光子数の統計もよくないからである。 またBATSEはGRBの空間分布をもっとも系統的に求めた検出器であると言える。図2.3 にBATSEが観測した2704個のGRBの方向分布を銀河座標にプロットした。統計的な解析 からもGRBは天球上に一様に分布することが示されてる。このことから、GRBは銀河内の 現象では無く、さらに遠方の宇宙で起こっていることが分かる。 1973年に打ち上げられたX線天文衛星BeppoSAXに搭載された光子やX線カメラは1997 年2月28に発生したガンマ線バーストGRB970228の位置を特定し、BeppoSAXの主要観

(12)

図2.1 CGRO衛星に搭載されたBATSE検出器が観測したGRBの時間変化。 図2.2 「CGRO」衛星に搭載されたBATSE検出器が観測した1234例のGRBの継続時間の分布。 測装置であるX線望遠鏡ををこの位置に向け未知のX線天体を発見した。その後X線天体の 位置に可視光でも輝く天体が発見された。衛星と地上の観測装置により、X線・可視光天体か ら時間とともにべき関数的に減光する要すが観測され、GRBに付随する残光であることが確 認された。図2.4はGRB970228のバーストから8時間後と3日後のX線残光を示している。 可視光でのGRBの残光の発見によって、GRBの位置が正確に分かるようになり、GRB の対応天体を同定できるようになった。その後多くのGRBについて母天体と思われる銀河が 発見され、その可視光分光観測から母銀河の赤方偏移、すなわち距離が決定できるようになっ た。距離が分かるようになった結果、GRBは我々の銀河系外の数十億光年以上遠方で発生す

(13)

2.1 GRBとは 5 図2.3 CGRO衛星に搭載されたBATSE検出器が観測した2704例のGRBの到来方向 分布を銀河座標で表示した。 図2.4 BeppoSAXが観測したGRB970228のX線写真。左はバーストから8時間後、右 はバーストから3日後の残光である。 る爆発であることが明かになった。 突発天体探査衛星HETE-2が発見したGRB030329の可視光残光は明るく、長期にわたる 観測が可能であったため、すばる等の大望遠鏡を含む多数の天文台で詳細な観測が行われた。 この結果、この GRBの赤方偏移はZ=0.169 (約20億光年) と比較的近傍で発生したことが 分かり、さらに可視光残光が時間に対してベキ関数で減光するにつれて、その光源に重なる明 るい超新星成分 (SN 2003dh) が発見された。図 2.5にGRB030329の残光とSN 2003dhの 可視光スペクトルのバースト後33日までの時間発展を表示した。 GRB030329によって、ある種のGRBとある種の超新星爆発は関連する現象であることが

(14)

図2.5 GRB030329/SN 2003dhの可視光スペクトル。GRB030329の可視光残光が減光 していくにつれて、付随するSN 2003dhの成分が顕著に見えてきた。 証明された。したがって、GRBは大質量星の崩壊によってブラックホールが誕生する瞬間に 生じる大爆発であると考える事ができる。 GRBのエネルギースペクトルはBATSEの観測から、2.1の様な折れ曲がったべき関数で 表される。[2]。 N (ν) = N0× (hν)αexp ( −hν E0 ) , hν < (α− β)E0 (2.1)

= N0× {(α − β)E0}(α−β)(hν)βexp(β− α) , hν > (α− β)E0 (2.2)

ここでE0はブレイクエネルギー、α (β)は低エネルギー(高エネルギー)のエネルギー光子指 数である。熱平衡にある物体からの放射はマクスウェル分布∝ exp(−hν/kT ) に従う黒体放 射となるが、GRBのスペクトルは式2.1 で示されるように、ベキ関数の形をしている。つま り、GRBはシンクロトロン放射のような非熱的な放射であると考えられる。観測から、式2.1 の係数はα∼ −1β ∼ −2であること分かっている。特にβ はどのGRBでもよく揃ってい る。GRBのエネルギースペクトルの例としてGRB990123を図2.6に示す。[1]

(15)

2.2 GRB理論 7 図2.6 GRB990123のエネルギースペクトル。非熱的放射の特徴であるベキ関数で説明で きるため、GRBの放射機構はシンクロトロン放射であると考えられる。

2.2

GRB

理論

GRBの記述する標準的な理論モデルとして「火の玉モデル」がある。ローレンツ因子で γ  1の相対論的な速度をもつ物質同士がぶつかり合うことで衝撃波を発生し、短い時間変動 をともなうGRBとそれに続いて起こる残光現象までを記述するものである。火の玉モデルは 小さな領域でE = 1052 ergにもおよぶエネルギーの質量が小さな質量の物質(shell) 運動エネルギーに変換される。 • shellの速度はローレンツ因子でγ ∼ 100ほどの相対論的速度に加速される。 ローレンツ因子の大きい速いshellは速度の遅い shellとぶつかり、内部衝撃波が発生 する。内部衝撃波により加速された電子は圧縮された磁場に巻きつきシンクロトロン放 射により、運動エネルギーを放射のエネルギーに変えて開放する。 内部衝撃波を繰り返し、shellはひとつにまとまりローレンツ因子は小さくなる。まと まったshellは星間物質の中を通過し星間物質とぶつかることで外部衝撃波が発生する。 外部衝撃波により加速された電子は磁場に巻きつきシンクロトロン放射を行い、これが 残光として観測される。これを簡単な図で表すと図2.7のようになる。 GRB のガンマ線フラックスはおよそf ∼ 102 erg/cm2/s である。宇宙論的な距離 d 1030 cmからやってくるので、GRBが等方的な放射をしていると考えると、GRBの光度は

(16)

central engine variable wind internal shock external shock (GRB) (afterglow)

Inter Stellar Medium

図2.7 GRBとそれに続く残光を記述する火の玉モデルを示した図。相対論的速度に加速 された物質同士がぶつかり合いGRBが発生する。その後一つにまとまった物質は星間物 質とぶつかり残光を発生させる。 ∼ 4πd2f ∼ 1051 erg/sとなる。銀河一つの光度は大体Lg ∼ 1043 erg/sなので、GRBの 光度は瞬間的には宇宙にある全銀河の光度に匹敵する。この点からGRBは宇宙でビッグバン の次に大きく明るい爆発と言えるだろう。 観測されているGRBのフラックスの変動時間はおおよそ∆t∼10ミリ秒なので、単純には 放射領域のサイズはR∼ c∆t ∼ 3 × 108 cmと見積もることができる。その間に放射される ガンマ線のエネルギーはE ∼ Lγ∆t ∼ 1049 erg である。ガンマ線のエネルギーが十分に高い とき、電子・陽電子を生成する (γγ → e+e−) ことが出来る。この反応ができる割合をfp と する。 一対のe+e を生成する断面積はトムソン断面積σ T くらいなので、対生成の全断面積は σTfpE/mec2 になる。 この式に対して上で仮定し求めたガンマ線エネルギーE、トムソン断面積 σT = 0.665× 10−24 cm2、電子の静止エネルギー511 keVを代入すると、∼ 8.1 × 1030 cm2となる。この 値に対して、最初に求めた放射領域のサイズはR∼ 3 × 108 cm なので比較しても1014 も対 生成の全断面積が大きいことがわかる。そのため、GRBの観測から分かっている光度、放射 領域の大きさではe+e の生成が支配的になり、ガンマ線は領域から出ることが出来ないとい う問題が起こる。この問題をコンパクトネス問題という。 現在考えられているGRBのモデルはGRBやそれに伴う残光が光速に近い相対論的な運動 をする物体から放射されているというと考えている。相対論的な運動を仮定することにより、 コンパクトネス問題を次の二つの効果で解消している。 放射体が観測者に向かうと、光子のエネルギーがローレンツ因子γ 倍だけ青方偏移 する。 放射領域のサイズRγ2倍ほど大きくてもよい。

(17)

2.3 GRBの偏光 9 放射体の共動系ではエネルギーの低いX線が放射されていたが、青方偏移により観測者の 系ではガンマ線として観測されたと考える。よって、スペクトルがE−b に比例する場合、ガ ンマ線領域のエネルギーを持つ光子の数はγ−b 倍少ない。 二つ目の効果について考える。また放射体のサイズはR∼ c∆tではなくR ∼ cγ2∆tとす るのが正しい。これは図2.8のような中心からローレンツ因子γで放射体動いているとき右側 にいる観測者に向かって、点Aから点Bまでの間電磁派を放射したとする。 図2.8 観測者と相対論的な放射体と中心エンジンの幾何学的な関係。放射体が相対論的な 速度で運動している場合、変動時間は∆t∼ R/cγ2<< R/cとなる。 放射体が相対論的速度で観測者に向かっているとき、相対論的ビーミングという効果により 放射は放射体の進む方向にすなわち観測者にとって∼ γ−1 程度の角度に絞られる。 (付録? 参照) よって観測者は放射体の前面∼ γ−1 の領域しか見えない。すると、距離Rで出た光も 到着時間の散らばりは∆t∼ R/cではなく、点Aと点Bの行路差による∆t ∼ R/cγ2 程度に しかならない。また点Aから出た光と点Cから出た光の到着時間の差も∆t∼ R/cγ2 くらい にしかならない。放射体がほぼ光速v = c(1− γ−2)1/2 ∼ c(1 − γ−2/2)で動くので、放射体が 点Aから点Cまで動く間に、点Aから出た光と放射体との距離がcR/v− R ∼ R/γ2 にしか ならないからである。この様な相対論的な運動を考えることで対生成の全断面積はγ2(βB+1) 倍になり、放射体の大きさはγ−4倍になるので、γ > 100程度ならばガンマ線は放射体を抜け て外に出ることが出来る。

2.3

GRB

の偏光

2.3.1

過去の偏光観測

これまでのGRBの偏光観測について示す。過去に GRBの偏光を観測したと報告された のは太陽観測衛星 RHESSI によるGRB021206 の観測である。RHESSI は図 2.10 のよう な9個のゲルマニウム検出器からなり 3 keV− 20 MeV のエネルギー範囲に感度を持つ。 GRB021206では編光度80± 20 %と報告されたが、その後の報告では検出器の配置が幾何学

(18)

的に対象でないこと、得られたデータは衛星の回転周期と同期していたことから、有意な偏光 観測ではないとされている。

また INTEGRAL 衛星のSPI 検出器によって GRB041219aの偏光観測が行われた。図

2.3.1 に示される SPI 検出器は 19 個のゲルマニウム検出器が搭載されており、20 keV 10 MeVのエネルギー範囲に感度を持っている。しかしこの偏光観測は系統誤差が大きいため に有意な結論を得ることが出来なかった。 GRBの偏光を有意に観測するためには幾何学的に対称な形状と二つの検出器間で同期した イベントのみを処理できる回路系をもつ、GRBの偏光検出に特化した検出器が求められてい る。我々の検出器GAPはGRBの偏光検出を目的とした検出器のなかで、世界で最初に宇宙 空間での観測が予定されている検出器である。 図2.9 RHESSIに搭載されているスペクト ロメーター。9個のゲルマニウム検出器から なり3 keV-20 MeV のエネルギーに感度を 持つ。 図 2.10 RHESSI による観測結果。解析の 結果偏光度80± 20 %と報告されたが後に解 析に問題があったと報告されている。 図2.11 INTEGRAL衛星に搭載されているSPI検出器。

(19)

2.3 GRBの偏光 11

2.3.2

GRB

の偏光理論

GRBは相対論的速度で移動するshellがぶつかり合い衝撃波が発生し、衝撃波により加速 された電子と圧縮された磁場によりシンクロトロン放射をすると考えられている。 衝撃波に出来る磁場構造が一様に揃っていると仮定すると、観測者はどのように偏光したシ ンクロトロン放射光を観測することになるか考える。 GRBの放射光は放射体であるshellが相対論的速度で動いているために角度1/γ でビーミ ングしてしまう。よって観測者はshellの進行方向からしかシンクロトロン放射光を見ること が出来ない。 GRBの磁場構造は分かっていないが仮に図2.12を考える。 図2.12 一様な磁場が存在する場合、観測者が見ることが出来るのは赤で囲まれた1/γの 限られた視野である。この時、磁場は横方向に揃っており、観測されるシンクロトロン放射 光は磁場と垂直な方向に偏光する。 この場合、観測者が見ることが出来るのは1/γ の限られた視野であり、そこで磁場はある 一方向に揃っている。よって観測者に届くシンクロトロン放射光もある方向に直線偏光して いる。 次に図2.3.2の様な磁場の構造がランダムな場合を考える。 ある点から観測者に届く放射光を衝撃波の共同系にローレンツ変換すると、放射の方向はあ

(20)

図2.13 ランダムな磁場からの放射光を観測した場合の偏光。 る一方向に決まる。共同系での放射の方向が磁場と垂直な向きであるので、偏光の方向も磁場 と視線方向に垂直な向きに決定する。 ローレンツ変換で観測者系に変換しても、視線方向と偏光方向の関係は崩れないので、観測 者はある一方向に揃った偏光を見ることになる。 ある点からの放射光が偏光していることが分かったので、これを衝撃波全体からの放射とし て考えると図2.3.2右図の様になる。衝撃波全面を観測すると、無偏光として観測されるが、 視野が図の青の範囲の様になれば偏光光が観測される。

(21)

13

3

小型ソーラー電力セイル実証機

Ikaros

ソーラー電力セイル計画では、直径50 cmの超薄膜の太陽帆を軌道上で展開する技術を用 いて、光子および高性能イオンエンジンを併用した推進機構による軌道操作と、太陽光エネル ギーによる動力の確保などの工学実験が行われる予定である。低温動作可能な2液推進機関や 燃料電池を利用した、総合型推進・電力システム、超高比推力イオンエンジンなど、世界初の 試みが多数実施される。 ソーラー電力セイル計画の一環として、小型ソーラー電力セイル実証機

(INterplane-tary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sun:Ikaros)が計画されている。Ikarosは

主に以下の項目についての技術実証を行う予定となっている。 大型薄膜の展開・展張 電力セイルからの集電 光子セイルによる加速実証 光子セイルによる航行技術の獲得 図3.1が衛星の全体像である。Ikarosは太陽からの輻射圧を受けるため常に太陽の方向を向 いており、IkarosへのGAPの取り付け位置は、太陽と反対面である。 さらし、GAPの取り付け位置は図3.2に示す状況になっており、近くには衛星の姿勢制御 のスラスタ用タンクが存在する事が分かっている。 Ikarosは金星まで約200日かけて到達し、その後通信が途絶えるまでの運用が予定されて いる。よって、GAPは約1年間の運用期間でGRBの偏光観測が行える性能を持たなければ ならない。

(22)

図3.1 Ikaros衛星の全体図。衛星の中心に本体部分があり、GAPは本体部の反太陽面に 取り付けられる。

(23)

15

4

基礎的な物理過程について

4.1

偏光とは

光は電磁波であり、進行方向に対して垂直に電場ベクトルと磁場ベクトルを持っている。電 場ベクトルの方向が一定の方向に揃っているとき、その電磁波は「偏光している」と言い偏光 方向は電場ベクトルの方向で定義している。電場ベクトルの方向が時間によらず一定である直 線偏や光、電場ベクトルの方向大きさが時間変化し進行方向に垂直な面で円や楕円機動を描く 円偏光、楕円偏光がある。偏光度Πは式4.1のように定義される。 Π Ipol I (4.1) Ipol  : 偏光している成分の強度 I : 全体の強度 無偏光の場合について考える。無偏光の電磁波の電場方向は完全にランダムになっている。 特別に直線偏光の場合を考える。電磁波の進行方向Z方向と垂直な面X-Y面で、X軸に電 場の振動方向をもつ電磁波が多く存在し、Y軸方向に電場の振動方向をもつ電磁波も混じって いると想定する。X軸方向に電場の振動方向をもつ電磁波の強度と、Y軸方向に電場の振動を もつ電磁波の強度を測定する。それぞれの強度がIX、IYとする。また、偏光方向をX軸方向 とし、偏光成分と無偏光成分をIpol、Iunpol と書く。Y軸方向に電場の振動方向をもつ電磁波 と同じ強度のX軸方向に電場の振動方向をもつ電磁波は無偏光となる。X軸方向に電場の振 動をもつの残りの電磁波は、X軸方向に揃った偏光成分となる。X軸に偏光を持つ電磁波の強 度とY軸に偏光を持つ電磁波の強度は等しいので式4.2となる。 IX unpol = IY unpol= 1 2Iunpol (4.2) 偏光している電磁波の強度は式4.3 IX pol= Ipol (4.3) IY pol = 0

(24)

X-Y面で一番強度が強いのはX軸方向で、一番一番強度が弱いのはY軸方向である。それ ぞれの大きさは Imax= IX = 1 2Iunpol+ Ipol (4.4) Imin= IY = 12Iunpol これを用いて編光度の定義を書き直すと Π = Imax− Imin Imax+ Imin (4.5) となる。Π = 1の時は完全偏光、Π = 0の時は無偏光の電磁波である。

4.2

X

線、ガンマ線と物質との相互作用

4.2.1

光電吸収

光電吸収過程では、光子は吸収物質原子との相互作用で完全に消失する。光子の持っていた エネルギーにより、原子の中の束縛された電子が殻から放出される。この相互作用は原子全体 のとの間で起こるものであり、自由電子との間では起こらない。十分なエネルギーを持ったガ ンマ線は原子の中でもっとも強く結合している電子である、K殻電子を光電子として放出する 確率がもっとも大きい。この光電子は次のようなエネルギーをもつ。 Ee− = hν− Eb (4.6) ここでEbは光電子が最初に存在した殻の結合エネルギーを表す。 光電子を放出するために、この相互作用は光電子に加えて束縛殻の一つに空孔を持つ吸収物 質のイオンを作り出す。この空孔は物質中の自由電子の捕獲や原子内の他の殻の電子の再配列 によって直ちに満たされる。したがって、1個あるいはそれ以上の特性X線光子も生成され る。その他にも特性X 線の代わりにオージェ電子を放出して原子の冷気エネルギーが失われ る事がある。[8]

4.2.2

コンプトン散乱

コンプトン散乱の相互作用過程は入射ガンマ線光子と物質中の1個の電子との間で起こる。 入射ガンマ線はコンプトン散乱によって最初の方向から角度θの方向へ曲げられる。このとき 光子はそのエネルギーの一部を、最初静止していた電子へ伝達し電子はエネルギーを得る。こ の電子は反跳電子と呼ばれる。すべての角度に散乱することが可能なので、電子に伝えられる エネルギーはゼロから入射ガンマ線のエネルギーに近い値までとることが出来る。図4.1に示 すような散乱を考える。X軸方向に電場ベクトルを持った (偏光した) 光子をZ方向へ入射し たとき、原点で制止している電子と衝突した。この時、入射光子の振動数をν、散乱光子の振 動数をν0、衝突後の電子のエネルギーをEe、運動エネルギーをpe、入射光子に対する散乱角 を極角θ、方位角φ、衝突後の電子の反跳角を極角θc、方位角φc とする。散乱ガンマ線エネ

(25)

4.2 X線、ガンマ線と物質との相互作用 17 図4.1 コンプトン散乱の模式図。x軸方向の電場ベクトルを持ってz軸の負の方向から入 射した光子が、原点で静止している電子と衝突する場合。散乱光子は極角θ、方位角phiの 方向へ散乱する。 ルギーと散乱角の関係を、エネルギーと運動量の保存則から導く。 hν = Ee+ hν0 (4.7) c = pecos θe+ hν0 c cos θ (4.8) pesin θecos φe+ hν0 c sin θ cos φ = 0 (4.9) pesin θesin φe+ hν0 c sin θ sin φ = 0 (4.10) となる。相対論での pe とEe の関係(pec)2 = Ee(Ee+ 2mec2)を使うと、式 4.7∼4.10から 散乱光子、反跳電子のエネルギーは、 hν0 = 1 + mc2(1− cos θ) (4.11) Ee = h(ν− ν0) = mec2 2cos2θe (hν + mec2)2− (hν)2cos 2θe (4.12) となる。散乱ガンマ線の角度分布は微分散乱断面積dσ/dΩに対するクライン・仁科の式で与 えられる。クライン・仁科の式は式4.14となる。 dΩ = r20 2 E02 E2 ( E E0 + E0 E − 2 sin 2 θ cos2φ ) (4.13) E0 = E 1 + E mec2 (1− cos θ) E = hν , E0 = hν0 , r0 = e mec2

(26)

入射光子のエネルギーのみで書くと、 dΩ = r 2 0 1− sin2θ cos2φ 1 + γ(1− cos θ)2 [ 1 + γ 2(1− cosθ)2

2(1− sin2θ cos2φ){1 + γ(1 − cos θ)} ] (4.14) γ = E mec2 となる。入射光子のエネルギーが電子の静止エネルギーに比べて十分小さい場合はγ が小さ くなり、 dΩ = r 2 0(1− sin 2 θ cos2φ) , E  mec2 (4.15) のトムソン散乱の角度分布となる。 1 0.5 0 0.5 1 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 x axis z axis 1keV 100keV 500keV 2MeV 10MeV 図4.2 極角θについての微分断面積の角度分布。 入射光子のエネルギーが高くなると、前方散乱が 支配的になっていくことが分かる。 1 0.5 0 0.5 1 1 0.5 0 0.5 1 y axis x axis 1keV 100keV 500keV 2MeV 10MeV 図4.3 θ = 90◦ のときの方位角φについての角 度分布。入射光子の電場ベクトルと垂直な方向に 散乱されやすいことが分かる。 図4.2に無偏光の場合の入射光子のエネルギーごとのθについての微分断面積の角度分布を 示す。トムソン散乱の場合、1keV(赤)の分布を見ると、θについてはθ = 0, 180◦であるz軸 で最大となり、θ = 90, 270◦ であるx 軸に対して対称な分布となる。入射光子のエネルギー が高くなるにつれてγ は大きくなり、トムソン散乱からのずれが大きくなる。つまり、γ > 1 の相対論的領域では前方散乱が支配的になることがわかる。図4.3にθ = 90◦ の場合のφに ついての角度分布を示す。散乱断面積の散乱角の方位角φに対する分布に注目する。式 10.9 から、θ = 90◦ の場合のφについての角度分布を図4.3に示す。極角θ = 90◦ に限って見た場 合、方位角に対する分布は1− cos2φとなり、すなわり角度φに対してsinの分布となる。コ ンプトン散乱では入射光子の電場ベクトル方向(x軸)と垂直な方向に散乱されやすいことが 分かる。 コンプトン散乱の散乱断面積σは式4.14をdΩで積分して、 σ = 3 8γσ0 [{ 1 2(γ + 1) γ2 } log(2γ + 1) + 1 2 + 4 γ 1 2(2γ + 1)2 ] (4.16)

(27)

4.2 X線、ガンマ線と物質との相互作用 19 σ0 = 8πr02 3 = 6.65× 10 −25 [cm2 ] , γ = E mec2 となる。σ0はトムソン散乱断面積である。トムソン散乱の散乱過程は古典的に、入射光子の電 場により電荷が電気双極子的に振動することで双極子放射を行い、入射光子と同じエネルギー を持つ電磁波を放射するというものであり、低エネルギーのコンプトン散乱ではσ0となる。

4.2.3

電子対生成

ガンマ線のエネルギーが電子の静止質量の2倍1.022 MeV を超えると、電子対生成過程が エネルギー的に可能となる。実際この反応確率は主に高エネルギーのガンマ線に限られる。こ の相互作用は原子核のクーロン場の中で起こり、ガンマ線光子は消失して電子と陽電子対に置 き換えられる。電子対を生成するのに必要な1.022 MeV 以上の光子が持っていた余剰エネル ギーはすべて電子と陽電子に分配される。発生した陽電子は物質の中で減速した後、電子と出 会い消滅するので、電子対生成の2次産物として2個の消滅光子が生み出される。原子核あた りの電子対生成の確率を記述する簡単な表現式はないが、その大きさは近似的に物質の原子番 号の2乗にしたがって変化する。

4.2.4

X

線の減衰

ガンマ線光子が物質に入射した場合に、上で記述したような相互作用が起こる。しかし、入 射した光子の全てが相互作用するわけではなく、相互作用せずに透過する光子ももちろん存在 する。光子の物質に対する透過率は式4.17のように書くことができる。 I = I0 e−µx (4.17) I  : 透過したガンマ線強度 I0 : 入射したガンマ線強度 µ : 線減衰係数 1/cm x : 物質中を進んだ距離 cm ここで物質が種類が同じで密度が異なる場合を考えると、線減衰関数もそれぞれの場合で異 なる。そこで質量減衰係数 σ を次のように定義し、ガンマ線透過の式を書き直すと以下のよ うになる。 σ = µ ρ (4.18) I = I0 e−σρx (4.19) I  : 透過したガンマ線強度 I0 : 入射したガンマ線強度 ρ : 密度g/cm3 σ : 全質量減衰係数cm2/g x : 物質中を進んだ距離 cm

(28)

与えられたガンマ線のエネルギーに対して、質量減衰係数がは物質の物理状態によって変化 しない。式4.19のρxは物質の質量厚さとして知られており、減衰の度合いを決める上で重要 なパラメータとなる。また σρxを光学的厚さと呼び、光学的厚さが1より大きいとき光学的 に厚い、不透明であると言い、光学的厚さが 1より小さいとき光学的に薄い、透明であると 言う。

4.3

荷電粒子と物質の相互作用

4.3.1

陽子の飛程

荷電粒子は主にその正電荷と吸収物質原子内の軌道電子の負電荷の間のクーロン力によって 物質との相互作用をする。荷電粒子は吸収物質に入射すると直ちに多数の電子と相互作用を起 こす。このような荷電粒子が接近した場合、電子は荷電粒子のクーロン力にとって衝撃を受け る。荷電粒子との接近の度合いに依存して、この衝撃力は吸収物質原子内の電子をより高いエ ネルギー準位に励起したり電子を原子から完全に取り去って電離したりする。荷電粒子は電子 へ伝達された分のエネルギーを失うので、その結果荷電粒子の速度は減少する。一回の電子と の相互作用で失うエネルギーは荷電粒子のもつ全エネルギーに比べてごくわずかなので、入射 した荷電粒子がエネルギーを失うまでにはこうした相互作用を多数回繰り返すことになる。ど の瞬間をとっても粒子は数多くの電子と相互作用しており、その結果粒子は連続的に減速して 最後には停止する。 またある方向に入射した荷電粒子線の飛跡は直線状である。このことは粒子はどの衝突にお いても大きくは曲げられず、また相互作用がすべての方向に同時に起こっていることを示して いる。したがって、荷電粒子は吸収物質中で一定の飛程を示すことになる。 飛程とは粒子が吸収物質内をそれ以上は透過しない距離を表している。吸収物質の深さが浅 い時には、荷電粒子は吸収物質を透過する際にエネルギーを失うだけである。吸収物質の深さ が飛程の長さに近づくまで荷電粒子の数に減衰は見られない。しかし吸収物質が深くなり飛程 の距離になると、吸収物質中に停止する荷電粒子の数は増大し、透過する粒子の強度は急速に 落ちてゼロになる。深さに対する物質に付与するエネルギーの関係を表した図4.4の様な曲線 をブラッグカーブと呼ぶ。 飛程は、荷電粒子の透過強度が入射強度の半分に減少する吸収体の厚さで定義される。ある エネルギーの荷電粒子の飛程はある一つの吸収物質については固有の量である。また、飛程に 吸収物質の密度をかけた単位で表されることもある。 主な吸収物質のエネルギーごとの飛程について表4.1に示す。飛程の単位はg/cm2 で与え られており、飛程を密度で割ったものである[24]。

4.3.2

陽子による核反応

核反応とは原子核と他の粒子( 核子、その他の素粒子、または他の原子核)との衝突によっ て起こる現象の総称である。反応の書き表し方は原子核Aに粒子xが衝突し、その結果原子 核Bと粒子y1、y2、・・・、yn が出来るという反応を表すには次の様に書く。

(29)

4.3 荷電粒子と物質の相互作用 21 図4.4 物質に付与するエネルギーは荷電粒子のエネルギーに比べると大きくない。しか し、物質の厚さが飛程ほどの深さになると荷電粒子は急速にエネルギーを失う。そのため物 質に付与するエネルギーは飛程の深さの付近で大きくなる。この曲線をブラッグカーブと 呼ぶ。[8] 表4.1 陽子に対する各吸収体の飛程。飛程はg cm−2で与えられている。 エネルギー( MeV ) Be C Al Cu Pb Air 2 0.00091 0.0084 0.0115 0.0190 0.0410 0.0087 4 0.0296 0.0275 0.0355 0.0513 0.0988 0.0287 6 0.0601 0.0558 0.0704 0.0967 0.1746 0.0581 8 0.0999 0.0926 0.1155 0.1542 0.2674 0.0963 10 0.1487 0.1376 0.1700 0.2234 0.3761 0.1428 12 0.2061 0.1904 0.2337 0.3035 0.5000 0.1974 14 0.2719 0.2508 0.3062 0.3943 0.6385 0.2598 16 0.3459 0.3187 0.3872 0.4954 0.7912 0.3999 18 0.4278 0.3937 0.4766 0.6066 0.9576 0.4073 20 0.5175 0.4759 0.5742 0.7276 1.138 0.4920 25 0.7750 0.7116 0.8526 1.071 1.644 0.7346 30 1.079 0.9891 1.179 1.472 2,229 1.020 A + x→ B + y1+ y2+· · · + yn (4.20) または A(x, y1y2· · · yn)B (4.21) と書き、Aを標的核、xを入射粒子、Bを生成核、yを放出粒子とよぶ。

(30)

核反応の分類としては、入射粒子がエネルギーを失わずそのまま散乱されるA(x, x)Aの弾

性散乱、入射粒子がエネルギーの一部を殻に与えて励起し散乱されるA(x, x0)A の非弾性散

乱、入射粒子と放出粒子の数や種類が異なったりA(x, y)B、二つ以上に分裂するA(x, f )

変換がある。核変換では反応の前後で核の種類が変化する。 陽 子 が 入 射 粒 子 の 場 合 に 起 こ り う る 反 応 と し て は 、(p, p),(p, n),(p, p0),(p, α), (p, γ),(p, 2n),(p, pn)などがある。 我々が検出器のバックグラウンドとして気にしているのは、(p, n), (p, pn)の反応である。 これらは核変換の反応であるため、標的核と異なる核種の生成核が出来る。この様な場合、生 成核は不安定であることが多くその後に核崩壊を伴い放射線を放射線を発する。

4.4

放射線線源

4.4.1

ベータ崩壊とそれに伴うガンマ線

ベータ崩壊の過程は次の式で表される。 ここでX およびYは最初と最後の核種であり、?は反ニュートリノである。反ニュウート リノおよびニュートリノは物質に対してほとんど相互作用をしないので、普通は検出できな い。生成核 Y は通常電離の閾値よりも低いエネルギーしか持っていないので検出できない。 ベータ崩壊で生成する電離性放射線は高速電子すなわちベータ線しかない。大半のベータ崩壊 では生成核は励起準位に入るので、生成核がこの励起準位から遷移してガンマ線を放出する。 ベータ崩壊の遷移は、一定の崩壊エネルギーQ値によって定められる。

4.4.2

内部転換

内部転換過程は、親核のベータ崩壊のような先行過程によって形成された生成核の励起した 状態から引き起こされることが多い。通常この励起準位はガンマ線光子の放出で遷移するが、 ある特別の励起状態ではガンマ線放出が禁止され、その代わりに内部転換が重要になってく る。この場合生成核の励起エネルギーEerは原子の軌道電子の一つに直接伝達され、その軌道 電子は放出される。そこでこの電子の持つエネルギーは次の式で与えられる。 Ee− = Eer − Eb (4.22) ここでEbは転換電子が最初に存在した電子殻の結合エネルギーである。転換電子は原子内の K殻、L殻、M 殻などの電子殻からでも放出されうるので、一つの原子核の励起準位につい て何本かの異なったエネルギーを持つ電子が放出されるのが普通である。原子核の中で1個以 上の励起状態が転換するような場合にはスペクトルはいっそう複雑となる。さらに電子エネル ギースペクトルに、励起核を生成した親核の連続ベータスペクトルが重なることもある。図に 内部転換の例を示す。

(31)

4.4 放射線線源 23

4.4.3

消滅放射線

beta+や電子対生成などにより、陽電子が出来た場合、その陽電子は制動放射をおこしなが らエネルギーを失い、最終的には制止している電子と接触し電子の静止エネルギー 511 keV と等しいガンマ線を2方向に放射する。この反応においてガンマ線は必ずそれぞれ逆方向に2 本放射するので、検出器で測定される確率がとても高い。また大きな立体角を網羅できる検出 器では2本の消滅放射線のエネルギーが足し合わされた1.021 MeVのエネルギーを検出する こともある。

4.4.4

特性

X

原子の軌道原子が何らかの励起過程によって正規の配列から外されると、この原子は短時間 の間、励起状態になる。通常固体内では、1 ns程度の時間内に電子は原子の基底状態に戻っ て際配列する性質を持っている。このように励起状態化ら基底状態への遷移時に溶出されるエ ネルギーは特性X線の形をとり、そのエネルギーは初期状態と最終状態のエネルギーの差に なる。 もし原子のK殻に1個の空孔が一時的に出来たとすると、その後子の空孔が埋められる際 にK系列の特性X線が放出される。空孔を埋める電子がL殻からくる場合はK殻とL殻の 結合エネルギーの差に等しいエネルギーをもつ 光子が放出される。K系列X線はそのエ ネルギーが最大なので、通常これがもっとも需要である。 特性X 線を発生する励起状態に原子を励起する方法は、主に放射性崩壊による励起や外部 放射線による励起がある。電子捕獲の核崩壊過程では軌道電子を捕獲して、原子核の電荷が1 単位減少する。電子捕獲過程で生じる1個の空孔を埋める際に特性X 線を放出する。外部放 射線、例えばX線が物質に入射したし光電吸収を起こした場合X線の持っていたエネルギー はすべて電子に渡され、原子は励起状態になる。

4.4.5

動く電荷からの放射

図4.5の様に電子が運動するとき出来る電場と磁場は β u c κ≡ 1 − n  β とすると式4.23、4.24と書ける。 E(r, t) = q [ (n− β)(1 − β2) κ3R2 ] + q c [ n κ3R × (n − β) × ˙β ] (4.23) B(r, t) = [n× E(r, t)] (4.24) 式中の[]の表記は遅延ポテンシャルの表記の仕方である。式4.23、4.24の第一項目は速度 場で、第二項目は放射場である。速度場と放射場を比較すると、速度場は距離Rについて二乗 で減少していくのに対して、放射場は一乗で減少する。

(32)

図4.5 遅延時間に放射している電子からR離れた場所での電場の計算のための図。 非相対論的な運動を考えると、β  1なので、 Erad = [ q Rc2n× (n × ˙u) ] (4.25) Brad = [n× Erad] (4.26) 図4.6の様な場合を考えると、電場と磁場の大きさは |Erad| = |Brad| = q ˙u Rc2 sin Θ (4.27) 図4.6 非相対論的粒子の作る電場と磁場。 視線方向のポインティングベクトルは S = c 4πE 2 rad = c q2u˙2 R2c4 sin Θ (4.28)

(33)

4.4 放射線線源 25 となる。 単位時間単位立体角あたりのエネルギーはポインティングベクトルより dW dtdΩ = q2u˙2 4πc3 sin 2 Θ (4.29) となる。 全立体角に放射される全パワーは P = dW dt = q2u˙2 4πc2 ∫ sin2Θ dΩ (4.30) (4.31) = q 2u˙2 4πc3 ∫1 −1(1− µ2) dµ P = 2q 2u˙2 3c3 となる。

4.4.6

制動放射

高速電子が物質と相互作用すると、そのエネルギーの一部は制動放射の形で電磁放射線に変 換される。これは電子が物質の原子核の電場によってクーロン力を受け、進路が曲げられる際 に加速度運動を行うことによって電磁波が放射されるからである。電子の進行方向や、クーロ ン力による加速度ベクトルがランダムな熱的放射では、放射される電磁波の電場方向は揃って いないため無偏光である。一方電子ビームなど一定の方向から電子を飛ばし物資に衝突させた 場合、電子の受ける加速度ベクトルは比較的揃っており、直線偏光したX線は観測される。 図4.7 制動放射の概念図。放射される電磁波の電場ベクトルは、電子が受ける加速度ベク トルと放射されるX線との平面内にある。

(34)

4.4.7

シンクロトロン放射

磁場Bによって加速される電荷は放射を行う。比相対論的な速度の電荷の場合はサイクロ トロン放射と呼ばれ、放射の周波数は磁場内でのらせん回転の周波数となる。 相対論的な速度で動く粒子の場合周波数スペクトルはより複雑でらせん回転の周波数の数倍 に達することが出来る。 図4.8の様に 図4.8 上向きの一様磁場での電子の運動。 質量m、電荷qの粒子が磁場の中を相対論的な速度で運動する時、運動方程式は d dt(γmv) = q cv× B (4.32) d dt(γmc 2) = qv E = 0 と書ける。2式目からγ = constもしくは|v| = constであり、これを1式に代入する。 ここでv = v||+ v とすると、 dv|| dt = 0 (4.33) v dt = q γmcv× B (4.34)

(35)

4.4 放射線線源 27 磁場と平行な方向は等速運動であり、磁場と垂直方向は等速円運動をしている。ここで円運 動の周波数は ωB = qB γmc (4.35) となる。相対論的速度の運動と垂直方向に働く加速度は観測者系から見ると、v0 = γ2v となり、共同系での垂直方向の加速度はv˙ = vωB であるので、放射のパワーは P = 2q 2 3c3γ 4 q2B2 γ2m2c2v 2 (4.36) 図4.9の様に観測者がある方向からシンクロトロン放射を観測した場合を考える。 図4.9 シンクロトロン放射をする粒子の運動を上から見た図。相対論的な速度で運動する 粒子からの放射は粒子の進行方向に角度1/γでビーミングされる。 相対論的な速度で運動する粒子からの放射はビーミング効果によって、運動方向に角度 1 γ に絞られる。そのため、観測者は粒子からの放射のうち、1点から2点の間の放射しか観測で きない。 点1と点2の個の長さは∆S = a∆θ = 2a γ で、vBのなす角をαとすると γm∆v ∆t = q cv× B (4.37) ここで|∆v| = v∆θ∆s = v∆tなので ∆θ ∆s = qB sin α γmcv (4.38) a = v ωBsin α (4.39)

(36)

を得る。点1と点2の弧の長さは ∆s≈ 2v γωBsin α (4.40) となる。 観測される光の長さは点1で出た放射が観測者に届いてから、点2で出た放射が観測者に届 くまでである。点1での放射の時刻をt1、点2での放射の時刻をt2とし、tA1 を点1から出た 放射が観測者に届いた時刻、tA 2 を点2から出た放射が観測者に届いた時刻とする。放射の継 続時間はtA 1 − tA2 となる。放射体から観測者までの距離をRとすると、 tA1 = R c (4.41) tA2 = (t2− t1) + R c (t2− t1)v c (4.42) (4.43) ∆tA= tA2 − tA1 = (t2− t1) (t2− t1)v c (4.44) (4.45) = (t2− t1) ( 1 vc) ∆s = v(t2− t1)より、t2− t1 = 2 ωBsin αγ なので、 ∆tA = tA2 − tA1 = 2 γωBsin α ( 1 vc) (4.46) v 1の時 v c = √ 1 1 γ2 ≈ 1 − 1 2 なので、 ∆tA≈ 2 γωBsin α 1 2 (4.47) = 1 γ3ω Bsin α となり、実際に観測される周波数ωc 1 ∆tωc ∼ γ3ωBsin α (4.48) となる。

(37)

4.5 核崩壊の種類 29

4.5

核崩壊の種類

4.5.1

β

崩壊

原子核内の中性子が陽子に変換される過程である。その際に反ニュートリノ( ¯ν )を放出す るために、電子線のエネルギーは連続的になる。 (A, Z)→ (A, Z + 1) + e−+ ¯ν (4.49)

4.5.2

β

+

崩壊

原子核内の陽子が中性子に変換される過程である。その際にニュートリノ( ν )をを放出す るために、陽電子線のエネルギーは連続的になる。 (A, Z)→ (A, Z − 1) + e++ ν (4.50)

4.5.3

電子捕獲

原子核内の陽子の数が過剰になった場合に、陽子が軌道電子(通常はK殻電子)を核内に捕 獲して、中性子に変わりニュートリノを放出する過程である。その際にK殻に空孔ができ上 の軌道電子がその空孔を埋めるため特性X線が発生する。 (A, Z) + e− → (A, Z − 1) + ν (4.51)

(38)
(39)

31

5

ガンマ線検出器

ガンマ線検出器にみられる振る舞いの極端な例として、入射ガンマ線との相互作用でうまれ る2次ガンマ線の平均自由行程よりも小型の検出器、中型の検出器、大型の検出器をれぞれの 検出器の応答を予想する。ここでの2次放射線としては、コンプトン散乱の散乱光子、光電吸 収による特性X線、電子対生成で生まれた陽電子による消滅放射線などがある。 小型の検出器の場合 小型の検出器での反応の様子を図 5.1に、小型の検出器の場合に検出器に付与されるエネル ギーの予想を図5.2に示す。入射ガンマ線のエネルギーが電子対生成が可能となるエネルギー 1.022 MeVよりも小さい場合、検出器で得られるエネルギースペクトルは、コンプトン散乱 と光電吸収が混合したものとなる。コンプトン散乱の反跳電子に対応する連続エネルギーはコ ンプトン連続部と呼ぶ。検出器内で光電吸収をした場合、検出器に付与するエネルギーは入射 光子のエネルギーと等しい。小型の検出器の場合、検出器内で多重反応することは少ないため 光電吸収以外で入射光子のエネルギーと等しいエネルギーを検出器に付与することは少ない。 入射ガンマ線のエネルギーが十分に高い場合は、電子対生成の結果も検出器で得られるスペ クトルに現れる。検出器が小型の場合、電子と陽電子の運動エネルギーのみが検出器に付与さ れて、陽電子の消滅放射線は検出器外へ逃げる。その結果、入射エネルギーから2mec2 のエ ネルギーだけ低いところにダブルエスケープピークが現れる。 大型の検出器の場合 極端に大型の検出器での反応の様子と得られるエネルギースペクトルを図5.3、図5.4に示す。 図5.4に示すようにすべての2次放射線の平均自由行程よりも大きい検出器の場合、2次放射 線は検出器内で必ず相互作用する。2次放射線の平均移動距離が10 cm程度であるとすると、 出発点から寿命を終える点までに要する時間は 1 nsよりも短い。この時間はガンマ線測定用 の実用的な検出器の固有応答時間よりはるかに短いので、検出器の中の反応が複数回あったと しても一つのイベントとして検出される。そのため得られるエネルギースペクトルは全エネル ギーピークのみとなる。この時得られた全エネルギーピークのカウント数は単純に検出器に入 射したガンマ線光子の数に比例する。

(40)

図5.1 小型の検出器での反応。コンプトン 散乱した散乱光子は外に逃散しやすく、電子 対生成に伴って放射される消滅光子はエネル ギーもまた飛散しやすい。 図5.2 検出器にはコンプトン散乱の反跳電 子のエネルギー、光電吸収のエネルギーが付 与される。検出器内で多重反応することは少 ないため光電吸収以外で入射光子のエネル ギーと等しいエネルギーを検出器に付与する ことは少ない。 図5.3 大型の検出器での反応。平均自由行 程よりも大きい検出器では複数回の反応のの ちに入射光子エネルギーは全て検出器へエネ ルギーを付与する。 図5.4 入射光子のエネルギーが全て付与さ れ、得られるスペクトルは全エネルギーピー クのみとなる。 中型の検出器の場合 中型の検出器の場合は上で述べた小型、大型の検出器の特性に2次ガンマ線が一部だけしか検 出されない場合が付け加わる。図5.6、図5.5に予想される検出器の応答を示した。小型検出 器に比べるとコンプトン連続部のカウントは少なくなるが、さらに高エネルギーまで多重コン プトン散乱の連続部が続くことになる。また、小型検出器のときにはダブルエスケープピーク のみであったものが、2本の内1本が検出されるシングルエスケープピークも現れるようにな る。このように、小型、大型の場合よりも複雑なエネルギースペクトルとなることが予想で きる。

(41)

5.1 半導体検出器 33 図5.5 中型の検出期での反応。小型の検出 器と大型の検出器の特徴が出てくる。 図5.6 中型の検出期で得られるスペクトル。 小型の検出器と大型の検出器の特徴が出てく る。そのため得られるスペクトルは複雑であ る。小型の検出器に比べ全エネルギーピーク のカウントは多くなり、多重コンプトンによ るコンプトン連続部が続く。

5.1

半導体検出器

半導体検出器の最大の特徴はエネルギー分解能が良いことである。入射ガンマ線に対して 情報キャリアである光電子をつくるのに必要なエネルギーはシンチレーション検出器で約 100 eVなのに対して、半導体検出器は約1 eVである。キャリアの数が100倍多いというこ とは、光子の統計揺らぎは10分の1に抑えられることになる。 PN型検出器の原理について説明する。PN型検出器ではp− n接合に逆バイアスをかけ、 接合面近傍にキャリアの存在しない領域 (空乏層) をつくる。このとき外部からかけている電 場のほとんどはこの空乏層にかかっている。半導体の空乏層にガンマ線が入射した場合に、発 生した電子・ホール対が電極に集まり検出される。PN型検出器は空乏層があまり厚くならな いので、X線やガンマ線などの高いエネルギーの光子に対しては検出効率が低い。

5.2

ゲルマニウムガンマ線検出器

上で述べたように、空乏層が厚くないと高エネルギーの光子に対して検出効率が低い。こ の問題を克服するためにはなるべく厚い空乏層を実現しなければならない。ゲルマニウムで は精製技術の発達により、不純物を 1010原子/cm3 にまで低減できるようになった。この超

高純度ゲルマニウムから作られる検出器は通常真性ゲルマニウム検出器 (high purity

germa-nium detector:HPGe 検出器) と呼ばれ、厚さ数 cmの空乏層のものまで入手できるように なった。 ゲルマニウム検出器の形状はプレナ型検出器と同軸型検出器がある。プレナ型検出器は円盤 状のゲルマニウム結晶により作られており、低エネルギー光子の測定に適している。同軸型検 出器は、結晶を縦方向に長く作ることが出きるので、プレナ型よりも有感体積の大きなものが 製作可能である。

(42)

図5.7 ORTEC製GEM20ゲルマニウム検出器の全体像。

5.3

シンチレーション検出器

5.3.1

シンチレータ

古くから放射線測定方法の一つに物質の中で発生するシンチレーション光を光電子増倍管で 読み出すという方法が用いられてきた。シンチレーション過程は各種放射線の検出とスペクト ル測定を行うためのもっとも有用な方法の一つとして今日でも使用されている。シンチレータ の種類としてはヨウ化ナトリウム (NaI) 、ヨウ化セシウム (CsI) などの無機シンチレータと、 有機液体やプラスチックなどの有機シンチレータがある。無機シンチレータは成分中の原子番 号(Z) が大きく、密度も高いことからガンマ線の吸収体として使われることが多い。逆にプラ スチックシンチレータなどの有機シンチレータはZが小さく、ガンマ線の散乱体として用いら れることが多い。有機シンチレータの代表のプラスチックシンチレータは製作・成形加工が簡 単なため、大体積の個体シンチレータとして使いやすい。無機シンチレータのNaIやCsIシ ンチレータは潮解性を持っているため、性能の劣化に気をつけなければいけない。CsIシンチ レータはNaIシンチレータと比較して、単位長さあたりのガンマ線吸収量が大きいため、重量 が問題となる場合には有利である。また潮解性はNaIシンチレータに比べ少なく、比較的剛 性が高いため衝撃や振動にも強い。表5.1に主なシンチレータの特性を示す[8]。

5.3.2

光電子増倍管

光電子増倍管は、入射光を低エネルギーの電子に変換する光電陰極(光電面)、集束電極、電 子増倍部(ダイノード)、陽極で構成される真空管であり、高感度、高速応答の光センサーの一

図 2.1 CGRO 衛星に搭載された BATSE 検出器が観測した GRB の時間変化。 図 2.2 「 CGRO 」衛星に搭載された BATSE 検出器が観測した 1234 例の GRB の継続時間の分布。 測装置である X 線望遠鏡ををこの位置に向け未知の X 線天体を発見した。その後 X 線天体の 位置に可視光でも輝く天体が発見された。衛星と地上の観測装置により、 X 線・可視光天体か ら時間とともにべき関数的に減光する要すが観測され、 GRB に付随する残光であることが確 認された。図 2.4 は
図 2.5 GRB030329/SN 2003dh の可視光スペクトル。 GRB030329 の可視光残光が減光 していくにつれて、付随する SN 2003dh の成分が顕著に見えてきた。 証明された。したがって、 GRB は大質量星の崩壊によってブラックホールが誕生する瞬間に 生じる大爆発であると考える事ができる。 GRB のエネルギースペクトルは BATSE の観測から、 2.1 の様な折れ曲がったべき関数で 表される。 [2] 。 N (ν) = N 0 × (hν) α exp ( −hν E 0
図 2.7 GRB とそれに続く残光を記述する火の玉モデルを示した図。相対論的速度に加速 された物質同士がぶつかり合い GRB が発生する。その後一つにまとまった物質は星間物 質とぶつかり残光を発生させる。 L γ ∼ 4πd 2 f ∼ 10 51 erg/s となる。銀河一つの光度は大体 L g ∼ 10 43 erg/s なので、 GRB の 光度は瞬間的には宇宙にある全銀河の光度に匹敵する。この点から GRB は宇宙でビッグバン の次に大きく明るい爆発と言えるだろう。 観測されている GRB のフラ
図 2.13 ランダムな磁場からの放射光を観測した場合の偏光。 る一方向に決まる。共同系での放射の方向が磁場と垂直な向きであるので、偏光の方向も磁場 と視線方向に垂直な向きに決定する。 ローレンツ変換で観測者系に変換しても、視線方向と偏光方向の関係は崩れないので、観測 者はある一方向に揃った偏光を見ることになる。 ある点からの放射光が偏光していることが分かったので、これを衝撃波全体からの放射とし て考えると図 2.3.2 右図の様になる。衝撃波全面を観測すると、無偏光として観測されるが、 視野が図の青の範囲
+7

参照

関連したドキュメント

⚫ うめきた 2 期は、JR 大阪駅をはじめとした 7 駅 13

前章 / 節からの流れで、計算可能な関数のもつ性質を抽象的に捉えることから始めよう。話を 単純にするために、以下では次のような型のプログラム を考える。 は部分関数 (

特に, “宇宙際 Teichm¨ uller 理論において遠 アーベル幾何学がどのような形で用いられるか ”, “ ある Diophantus 幾何学的帰結を得る

※1 多核種除去設備或いは逆浸透膜処理装置 ※2 サンプルタンクにて確認するが、念のため、ガンマ線を検出するモニタを設置する。

個別の事情等もあり提出を断念したケースがある。また、提案書を提出はしたものの、ニ

バーチャルパワープラント構築実証事業のうち、「B.高度制御型ディマンドリスポンス実

 活動回数は毎年増加傾向にあるが,今年度も同じ大学 の他の学科からの依頼が増え,同じ大学に 2 回, 3 回と 通うことが多くなっている (表 1 ・図 1

(Economic load Dispatching Controlの略):DPC(Dispatching Power Cont rolの略)、OTM(Order Telemeterの略)と同義. (14)