第 9 章 シミュレーションと実験の比較 83
10.5 ななめから入射した場合の偏光度
偏光度を定義するモジュレーションは、光子の入射方向に対して90◦ 方向に限定した場合に 正弦関数で分布する。しかし、実際に観測するGRBは正面から入ってくるのではなく、GAP に対して2π 方向どこから入射するのか分からない。その時は9章のKEK での実験のよう に、斜め方向から光子は入射した場合には綺麗な正弦関数ではなくどちらかに偏った形となる 事が分かっっている。
偏光度の定義はモジュレーションファクタを用いてΠ = Mexperiment
M100% としていたが、斜め からガンマ線が入射する場合はモジュレーションファクタMがsinで定義できなくなる。
10.5 ななめから入射した場合の偏光度 97
5 10
100120140160180200
count
CsI ID
40% polarized incident=30deg 1.7663x104 photon
図10.6 1回のGRBでの光子数が100 photon/cm2のイベントを観測した場合に予想さ れるモジュレーションカーブ。CXBによるバックグラウンドは含まれていない。光子数が 100 photon/cm2以上のGRBは全天の50%を一年間観測した場合に10回観測される可 能性がある。
散乱断面積はもともと dσ
dΩ =r02(1−sin2θcos2φ) , E mec2 (10.9) と書かれ、GAPの場合は図10.7左の様にθ = 90◦方向に散乱する光子を観測している。その た散乱断面積は1−cos2φとなりsin の分布をする。しかし斜めから入射する場合は図10.7 右の様に散乱の方向がθ = 90◦ に限られなくなる。そのため、φの角度によって、θの角度が 異なるために散乱断面積はsinの分布に従わない。
図10.7 X線が斜めに入射した場合、CsIシンチレータに入るコンプトン散乱の散乱光が 方位角θ= 90◦でなくなる。そのため、散乱断面積は正弦関数に従わない。
斜めからガンマ線が入射hした場合、偏光度の決定にモジュレーションファクタを用いるこ とが困難である事が分かった。観測により得られたモジュレーションに対して偏光度を決定す るために、どのような解析を行ったら良いか考える。
GAPとGRB の発生した方向は他のGRB 観測衛星によって知ることが出来るので、シ ミュレーションでは方向を固定し、偏光度をパラメータとして変化させ、得られたモジュレー ションを実験で得たモジュレーションと比較し、カイ二乗検定を行い最も誤差の小さいシミュ レーション結果から偏光度を決定する。
40%偏光で光子数が 100 photon/cm2 のGRB を想定した場合と 106 個と十分に光子数 のある場合のシミュレーション結果を元にどれだけの精度で偏光度が定義出来るか誤差を求 めた。
それぞれのモジュレーションカーブは図10.8である。GRBの観測を想定したモジュレー ションカーブにCXBの誤差は含まれていない。
5 10
100120140160180200
count
CsI ID
40% polarized incident=30deg 1.7663x104 photon
5 10
80001041.2×104
count
CsI ID
40% polarized incident=30deg 106photon
naomi 29−Jan−2009 21:05
図10.8 左図は40%偏光で光子数が100 photon/cm2のGRBがGAPに対して斜め30 度から入射した場合を想定したモジュレーションカーブ。CXBのバックグラウンドは含ん でいない。右図は光子数106個で40%偏光をGAPに対して斜め30度から入射させた場 合に得られるモジュレーションカーブ。
光子数が十分に多く、統計的揺らぎが少ない図10.8 右図の結果をモデル関数とする。図 10.8左図の結果を観測結果だと仮定し、偏光度がどの程度の誤差で決まるのかを考える。カイ 二乗をデータ点の数で割ったものは式10.10と定義される。
χ2ν ≡ 1 N
∑N
i=1
(yi−y(xi))2
σ2i (10.10)
今データ点 N=12 で、カイ二乗を最小にするモデル関数の係数を求めたい。よって、式 10.10は式10.11となる。
χ2ν ≡ 1 12
∑N
i=1
(yi−ay(xi))2 yi
(10.11)
10.5 ななめから入射した場合の偏光度 99 aとχ2ν の関係は図10.9のようになり、観測データに対して最適なモデル関数の係数aは a = 0.0177となった。
0.016 0.017 0.018 0.019
11.522.5χ2 ν
a a − χ2ν
図10.9 横軸にモデル関数の係数a、縦軸にカイ二乗の値をとりaに対するカイ二乗の分 布を描いた。カイ二乗が最も小さくなる係数aが観測データを最もよく表したモデル関数 の係数。
モデル関数が 1σ の範囲でとりうる a の値を求める。自由度 11 のカイ二乗分布より、
1σ = 0.68の範囲はχ2ν ≤1.4 である。図10.9よりχ2ν ≤1.4となる範囲は
0.166≤a≤0.188 (10.12)
である。
よって
0.166
0.177 ×40% = 37.5% (10.13)
(10.14) 0.188
0.177 ×40% = 42.5%
Π = 40%±2.5%
で偏光度を求めることが出来た。
101
第 11 章
まとめ
シミュレータの比較としてEGS5とMEGAlib で同じ状況のシミュレーションを行った。
その結果、二つのシミュレータの結果は誤差の範囲内で一致し、今後どちらのシミュレータの 結果も同じように扱うことが出来ることが分かった。
GAPの偏光観測に影響を与えるバックグラウンドを特定し、そのカウントレートを見積 もった。今まで議論されていなかった、陽子によって放射化したCsIシンチレータからのX 線の放射、GRB光子の衛星による散乱成分、CXBによるバックグラウンドについてその影 響を調べた。その結果CXB が一番のバックグラウンドとなることが予想でき、今まで懸念 されてきた衛星による散乱や放射化によるX線の放射は影響を与えない程度であることが分 かった。
高エネルギー加速器機構のX線照射実験とシミュレーションの結果から GAP正面から中 心のみに光子を入射させた場合正しく偏光度を測定できることが分かった。入射範囲が広い場 合や、斜めから入射した場合は偏光度を正しく決定することが出来なかった。理由としては、
エネルギー較正が正しく行われていないため、実験とシミュレーションのエネルギー範囲が異 なっている可能性がある。
シミュレーションにより、GAPが実際に GRBを観測した場合のモジュレーションカー ブを予想した。年間 10 個程度起こりうる100 photon/cm2 という光子数のGRB について GRBが40%偏光していると仮定すると6%程度の誤差の範囲内で偏光度40%を定義するこ とが出来ることが分かった。
またGRBの観測期間約一年の間にGAPの前方30度の視野内で、GRBが40%偏光して いるならば2イベント、75%偏光しているならば5イベントの偏光観測が可能であると予想 される。
103
付録 A
相対論的ビーミング
A.1 速度のローレンツ変換
o x
y
Kn
o' x'
y'
K'n
Æ' v
図A.1 速度のローレンツ変換
観測者系(K系)に対してx軸方向へ速度vで動く静止系(K’系)がある。K’系で速度u0を 持つ質点をK系から見た場合の速度を求める。ローレンツ変換の式から、
dx=γ(dx0+vdt0) dy=dy0
dz=dz0 dt=γ
(
dt0+ v c2dx0
)
(A.1)
と書けるので、速度は以下のようになる。
ux = u0x+v 1 + vu0x
c2 uy = u0y
γ (
1 + vu0x c2
)
uz = u0z γ
(
1 + vu0x c2
)
(A.2)
K系に対するK’系の任意の速度vに対して式を一般化する。uのvに対する平行成分をuk、 垂直成分をu⊥とすると、以下のように書ける。
uk = u0k +v 1 + vu0k
c2 u⊥ = u0⊥
γ (
1 + vu0k c2
) (A.3)
この式は特殊相対論での速度合成則である。
また、K系から観測した速度の方向θとK’系から観測した速度の方向θ0は、以下に示す光 行差の式で関係付けられている。u0 ≡ |u0|として、
tanθ = u⊥
uk = u0sinθ0
γ(u0cosθ0+v) (A.4)
となる。また、u ≡ |u|として、cosθ は以下のようになる。
cosθ = uk u = 1
u · u0cosθ0+v 1 + vu0
c2 cosθ0
(A.5)