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はじめに(pdf)

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Academic year: 2021

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はじめに

この本は,「自己」と「他者」が脳のなかでどのように生まれ, 存在しているのか,認知脳科学の近年の成果をまとめつつ,哲学 の力を借りて考察を加えたものである。その中で重要なキーワード となってくるのが「身体性」と「社会性」である。身体性とは,人 間の認識が身体の構造や機能に深いレベルで結びつけられているこ とを意味しており,「自己」の基盤とも切り離せない。一方,社会 性は,他者とのコミュニケーションや協調作業など,他者を認識 し,他者と相互作用する能力と関係している。人間は高度に社会化 された動物であり,日々の交友関係だけでなく高度な組織や文化を 作り上げられたのもこの社会性の能力による。 この身体性と社会性は脳のなかで複雑に絡み合っている。身体性 を突き詰めていくといずれ社会性に突き当たるし,社会性を深く覗 き込んでみると身体性が見えてくる,というように両者は切っても 切れない関係にある。そしてそれらを繫ぎ合わせるものが「自己」 と「他者」である。この本では,この「自己」と「他者」が脳のな かでどのように表現され,またどのように関係しているのかについ て考える旅に読者を誘いたい。そこで見えてくるのは,あるときに は「他者」として捉えていたものがいつのまにか「自己」に同化さ れ,一方で「自己」からそれとは異なるものとして「他者」が分離 していくというような,自他融合と自他分離のダイナミックな脳の プロセスである。「自己」とは何なのか,「他者」とは誰なのか,本 書を読み進めながらじっくりと考えていただければと思う。 筆者の専門は認知脳科学であり,本書では脳機能イメージング研 越境する認知科学 全13巻 【1】巻 脳のなかの自己と他者―身体性・社会性の認知脳科学と哲学― 日本認知科学会 編・嶋田 総太郎著 https://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320094611

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vi はじめに 究や脳損傷患者の症例,また心理実験のデータなど,最新の知見を ふんだんに紹介している。特に健常者や患者を対象とした脳機能 イメージング研究はこの20年ほどで飛躍的に発展してきており, 読者は本書の中でそのような多くの研究成果に触れることができ る。一方で,古くから「自己」について考え続けてきたのは哲学で ある。本書ではそのような「自己」の哲学についても紹介したい。 優れた哲学は認知脳科学研究の良き指針となる,というのは筆者の 持論でもある。本書では,デカルト,フッサール,メルロ ポンテ ィ,ハイデガー,アンリ,レヴィナス,ブーバー,ギャラガー,ポ ランニー,デネット,リクールなど,多くの哲学者の論考を紹介し ている。どれも「自己とは何か」あるいは「他者とは誰か」という 問題を考える上で,深遠なヒントを与えてくれるものばかりであ る。これらの哲学を踏まえた上で,最新の認知脳科学の成果を見る と,その見方もまた変わってくるのではないかと期待している。も ちろん,本書はそれぞれの哲学者の解説書ではないし,紙面も限ら れているので,各哲学の全貌をまとめているわけではない。その代 わりに,筆者なりのそれらの哲学のダイジェストと,そこから認知 脳科学の最新の知見をどのように読み解けるかを示す試みを書かせ て頂いた。読者にもそのように読んで頂ければ幸いである。 とはいえ,哲学が苦手だという方も読者の中にはおられるかもし れない。哲学に関する記述は各章の第1節に留めてあるので,そ ういう方は第2節以降を読んでいただければと思う。認知脳科学 についても,これまでの知見をなるべく整理して紹介するように努 めた。これからこの分野で研究を始めようという学生や若手の研究 者にとって,ひとまずは十分なリファレンスが与えられるようにと 思って書いている。この本を読んで,この分野の研究を始めたいと 思う人が出てきてくれれば本望である。 越境する認知科学 全13巻 【1】巻 脳のなかの自己と他者―身体性・社会性の認知脳科学と哲学― 日本認知科学会 編・嶋田 総太郎著 https://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320094611

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はじめに vii 見取り図として全体の構成を述べておく。第1章から第3章ま では「自己」に関する章である。ここでは「身体」が脳のなかでど のように表現され,そこからどのように「自己」が生まれてくるの かを考えていく。第1章では身体所有感(身体保持感),第2章で は運動主体感,第3章では情動・感情(情感性)が中心的なテー マとなる。これらはいずれも身体的な自己感の源となっており,そ れらの複雑な関係性と役割の違いについても見ていただければと思 う。 第4章から第6章までは「他者」に関する章である。「他者」と は誰か,「自己」と「他者」の関わりはどのようにして可能となっ ているのか,考えていきたい。第4章はミラーシステム,第5章 は他者認識と「心の理論」,第6章は共感とwe-mode認知が主な テーマとなる。他者の認識や他者との相互作用の仕方は一通りでは なく,いくつかのモードをわれわれは持っているのだということを 見ていく。また,これらのテーマの中では第1章から第3章まで に見てきた身体性の研究成果も登場する。 第1章から第6章までの議論は主として「身体」がベースに据 えられているが,最後の第7章では,この身体からの飛躍,すな わち「脱身体性」として生じる「意識」について検討をしている。 その中で「プロジェクション(投射)」と「物語的自己」の概念に ついても紹介する。これは第1章から第6章までを別の見方で振 り返るための概念的枠組みともなる。本書を通じて,読者は「自 己」と「他者」が脳内でどのように表現されているのか,いくつか のアイデアを得ることができるだろう。 なお本書の中では脳の基本的な構造や仕組み,部位ごとの機能の 違いについてまとめて書くことは紙面の都合でできなかった。認知 脳科学についての基本的な知識を補いたい場合は他書(拙著『認知 脳科学』もぜひご参照いただきたい)を当たって頂ければと思う。 越境する認知科学 全13巻 【1】巻 脳のなかの自己と他者―身体性・社会性の認知脳科学と哲学― 日本認知科学会 編・嶋田 総太郎著 https://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320094611

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viii はじめに 本書のベースは,私の勤務校である明治大学,および東京大学, 京都大学,慶應義塾大学等で行った大学3,4年生および大学院生 向けの講義を,数年間かけて少しずつ修正していったものである。 学生たちの熱心に授業に取り組む姿勢と授業内容に対するフィード バックは本書の随所に活かされているし,本書を書く原動力ともな った。また,その間に行った学会や研究会での発表・講演に対する 研究者仲間からのフィードバックも貴重な情報として取り込んでい る。ここに感謝の意を記したい。 越境する認知科学 全13巻 【1】巻 脳のなかの自己と他者―身体性・社会性の認知脳科学と哲学― 日本認知科学会 編・嶋田 総太郎著 https://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320094611

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