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ドイツ連邦共和国における賭博制度の発展と再構築に関する研究 : EU共通市場の原則が与えた影響とドイツ州政府の対応

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ドイツ連邦共和国における賭博制度の発展と再構築

に関する研究 : EU共通市場の原則が与えた影響と

ドイツ州政府の対応

著者

木村 勇

内容記述

学位記番号:論経第86号, 指導教員:橋爪 紳也

URL

http://doi.org/10.24729/00000841

(2)

大阪府立大学博士学位論文

ドイツ連邦共和国における賭博制度の発展

と再構築に関する研究

EU

共通市場の原則が与えた影響とドイツ州政府の対応―

大阪府立大学大学院

経済学研 究科

博士後期課程

経済学専攻

木村

2019

3

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序 論 ... 1 1.はじめに... 1 2.研究の意義と目的 ... 6 3.論点と研究の方法 ... 8 4.用語の定義 ... 11 5.本論文の構成 ... 16 第1章 先行研究 ... 18 1.先行研究の概観 ... 18 2.まとめ ... 21 第2章 第2次大戦前のカジノの歴史 ... 23 1.はじめに... 23 2.温泉都市における公的カジノの勃興と発展 ... 23 3.北ドイツ連邦のカジノの閉鎖法 ... 26 4.1933年カジノ法の制定 ... 28 5.まとめ ... 32 第3章 第2次大戦後の賭博法と連邦憲法裁判所判決 ... 34 1.はじめに... 34

2.連邦憲法裁判所判決(2BvO1/65, BVerGE 28, 119-Spielbank) ... 34

3.ハンブルク州カジノ法 ... 37 4.ハンブルク州のオンライン・カジノ ... 38 5.まとめ ... 39 第4章 第2次大戦後の賭博の動向と賭博州際協約 ... 41 1.はじめに... 41 2.カジノの再開と隆盛 ... 41 3.宝くじとスポーツ賭博 ... 43 4.営業用ゲーム機 ... 46 5.宝くじ州際協約と賭博州際協約 ... 48

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ii (1)宝くじ州際協約 ... 48 (2)賭博州際協約 ... 50 6.賭博と州財政への貢献 ... 53 7.まとめ ... 64 第5章 ドイツの依存症、資金洗浄対策 ... 66 1.はじめに... 66 2.依存症の認識 ... 67 3.連邦政府の依存症対策 ... 70 4.ハンブルク州の依存症対策 ... 71 5.賭博の社会的コスト ... 79 6.資金洗浄対策 ... 82 7.まとめ ... 85 第6章 EUの賭博に関する政策 ... 87 1.はじめに... 87 2.欧州委員会による第1次賭博実態研究 ... 87 3.エディンバラ欧州理事会からリスボン欧州理事会への動き ... 89 4.欧州委員会による第2次賭博実態研究 ... 90 (1)概要 ... 90 (2)「設立の自由」と「サービス提供の自由」の解釈 ... 91 5.欧州裁判所の賭博に関する主な先決裁定判決 ... 94 (1)先決裁定とは ... 94 (2)シンドラー(Schindler)事件(1994.3.24.C-275/92) ... 94 (3)レエレ(Läärä)事件(1999.9.21.C-124/97) ... 98 (4)ゼナッティ(Zenatti)事件(1999.10.21.C-67/98) ... 100 (5)リンドマン(Lindman)事件(2003.4.10.C-42/02) ... 103 (6)ガンベリ(Gambelli)事件2003.11.6.(C-243/01) ... 106 (7)プラカニカ(Placanica)事件(2007.3.6. C-338/04,C-359/04,C-360/04).. 112 6.ドイツ・スポーツ賭博事件の先決裁定判決 ... 115 (1) ドイツ賭博政策への影響 ... 115

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iii (2) マルクス・シュトース(Markus Stoß)事件(2010.9 C-316/07、C-358/07、 C-360/07、C-409/07、C-410/07) ... 115 (3) インセ(Inse)事件(2016.2.4.C-336/14) ... 118 7.欧州委員会による加盟国賭博政策への対応 ... 121 (1) EU機能条約第258条の条約違反手続き ... 121 (2) 「域内市場におけるオンライン賭博に関する緑書」(2011年) ... 123 (3) 「オンライン賭博の包括的欧州体制に向けて」(2012年) ... 129 (4) 「オンライン賭博サービスの消費者、賭博者を守り、オンライン賭博 から未成年者を保護する原則に関する勧告」(2014年) ... 131 (5) EUの資金洗浄対策とスポーツ競技の公正性の確保 ... 132 (6)欧州議会の決議 ... 139 8.まとめ ... 140 第7章 EUの主な加盟国の賭博政策と欧州評議会 ... 142 1.はじめに... 142 2.フランスの賭博制度 ... 143 (1)概要 ... 143 (2)オンライン賭博の自由化 ... 145 3.英国の賭博制度 ... 147 (1)バッド・レポート ... 147 (2)2005年賭博法の遠隔地賭博 ... 149 4.マルタの賭博制度 ... 152 (1)概要 ... 152 (2)マルタ賭博制度の光と影 ... 155 5.欧州評議会のスポーツ競技の操作に対する協定 ... 158 6.まとめ ... 161 第8章 ドイツ賭博制度の改革 ... 162 1.賭博州際協約の変遷 ... 162 2. 第2次改定賭博州際協約案の批准... 165 3.ドイツ賭博市場の課題 ... 169

(6)

iv (1)営業用ゲーム機 ... 169 (2)宝くじ ... 171 (3)カジノ ... 171 4.まとめ ... 173 結論 ... 174 1.研究の総括 ... 174 2.課題 ... 179 (1)EUに関する課題... 179 (2)ドイツに関する課題 ... 180 参考文献 ... 181 参考資料 ... 192 謝 辞 ... 205

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v 図 表 図表 1 ドイツの許可・無許可別賭博市場 ... 6 図表 2 戦後のカジノの設置状況... 43 図表 3 ドイツの賭博市場の発展... 44 図表 4 スポーツ賭博の経営別賭け金額 ... 46 図表 5 宝くじ州際協約制定後の法制 ... 49 図表 6 賭博州際協約制定後の法制 ... 53 図表 7 2015年ドイツ各州の賭博税収入 ... 54 図表 8 ドイツ賭博関連税の管轄... 55 図表 9 NRW州賭博関連税の内訳 ... 57 図表 10 西ドイツ宝くじ社の粗収入の流れ ... 58 図表 11 NRW州カジノ粗収入の配分 ... 59 図表 12 NRW州の公的カジノの概要 ... 60 図表 13 デュイスブルク市CityPalais ... 62 図表 14 シュピールバンク・デュイスブルク テーブルゲーム会場 ... 62 図表 15 シュピールバンク・デュイスブルク ゲーム機会場 ... 63 図表 16 依存症調査の概要 ... 69 図表 17 ハンブルク中央駅付近の賭博施設 ... 72 図表 18 依存症の発症率調査 ... 73 図表 19 ゲームセンターに置かれている依存症対策パンフ(表) ... 75 図表 20 ゲームセンターに置かれている依存症対策パンフ(裏) ... 76 図表 21 NRW州カジノに置かれた依存症対策カード「賭博癖」 ... 78 図表 22 ハンブルク・レーパーバーンのゲームセンター ... 79 図表 23 EUにおける条約違反手続き制度 ... 122 図表 24 オンライン賭博の予測値... 124 図表 25 2008年国別オンライン賭博市場 ... 125 図表 26 英国賭博市場の賭博種類別シェア ... 151 図表 27 2011年EU加盟国の賭博産業/GDP比率... 154

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vi

図表 28 第1次改定賭博州際協約制定後の法制 ... 163

図表 29 ハンブルク中央駅付近のスポーツ賭博場 ... 164

図表 30 第2次改定賭博州際協約制定後の法制 ... 166

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vii

略語 原語 邦訳

BZgA Bundeszentrale für Gesundheitliche

Aufklärung 連邦健康啓発センター

DLTB Deutscher Lotto- Totoblock ドイツ・ロト・トト連合 DNS Domain Name System

ドメイン名(コンピュータを識別する名称)

を IP アドレスに自動的に変換してくれるア

プリケーション層プロトコル

DSM Diagnostic Statistical Manual 精神的障害の診断と統計マニュアル EC European Community 欧州共同体

EEA European Economic Area 欧州経済領域 EEC European Economic Community 欧州経済共同体 EFTA European Free Trade Association 欧州自由貿易連合 EU European Union 欧州連合

GKL Gemeinsame Klassenlotterie der Länder 州クラスくじ連合

HP Home Page 公式ウェブサイト

ICD International Classification Disease 国際疾病分類

IP Internet Protocol インターネットの通信プロトコル

NRW Nordrhein-Westfalen ノルトライン・ヴェストファーレン(州) SA Sachen-Anhalt ザクセン・アンハルト(州)

SH Schleswig-Holstein シュレスヴィッヒ・ホルシュタイン(州) SKL Süddeutsche Klassenlotterie 南ドイツクラスくじ連合

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1 序 論 1.はじめに 本論文では、ドイツ連邦共和国(以下、ドイツ)における賭博制度の発展を 時系列に考察し、EU 共通市場の原則が与えた影響と、ドイツ州政府の対応に 鑑み、混迷するドイツの賭博制度の原因を分析する。 ドイツの公的な賭博制度は、宝くじを嚆矢とする1。国で行う業務の資金を調 達するため宝くじが利用され、1470 年に南ドイツのアウグスブルク(Augsburg) を初めとして、ニュルンベルク(Nürnberg)、ケルン(Köln)などで発行されたこと が明らかとなっている。17世紀にはオランダから現在のクラスくじと類似のく じがハンブルク(Hamburg)に、イタリアからは18 世紀にナンバーくじがベルリ ン(Berlin)に導入された。18 世紀には制度化が進み、領邦2で宝くじ規則が制定 さ れ 、 同 時 に 税 金 も 課 税 さ れ 、19 世 紀 に は 各 ラ ン ト3の 権 限 と な っ た (Bundesministerium der Finanzen, 2013, pp117-118)。またカジノに先行する賭博場 の公的な利用は、中世にさかのぼる。フランクフルト・アムマイン(Frankfurt am Main)では、14世紀終わりから15世紀半ばまでサイコロ賭博場を通じて、市に

売上金が歳入された。ニュルンベルクでは 3,600 もの課税義務のある賭博盤が

あったといわれる。領邦は賭博の害悪を認めながらも税収として賭博場を利用 した(Bundesministerium der Finanzen, 2013, pp.117-118)。

かつて近世、近代において中心的な賭博であったカジノは、行政の監督下に おいて公的カジノとして4、1771年、現在のヘッセン(Hessen)州の州都であるヴ ィースバーデン(Wiesbaden)に始まった(Zink, 1970, p28)。フランスから導入され たルーレット(Roulette)は不正がしにくく、王侯の賭博とされ 18 世紀にドイツ の 温 泉 で 開 帳 さ れ た 。 現 在 温 泉 と カ ジ ノ で 高 名 な バ ー デ ン ・ バ ー デ ン (Baden-Baden)では、1748年初めてルーレットを利用したカジノ許可が降ろされ 1 日本法では 「富くじ 」であ るが、本論文ではドイ ツの各種くじを総称 して「宝くじ」 を使用する。 2 1871年 ドイツ帝国 が発足する前に、ドイ ツ各地を分割支 配した王国、 君主国な どを言 う。 3 ラント(Land)は州と訳され るが、それぞ れ独自の 国家権 力と独自の憲法を持つ 国家(Staat)と されてい る。この歴史 的意味を込めてLandはラントと して使用 され ることも多く 、ドイツ 基本法の翻訳では”Land” の訳を「州」と訳すよ りも「ラント」を訳 文として使用し た。(宮沢,1976,p.154) 4 ドイツ語でカジ ノは”Spielbank”という。カジノには許 可 制度以後”öffentlich”「 公的」という文言が 付 加される。

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2 た5。バーデン・バーデンでは、カジノの許可・施設賃貸料を基金に積み立て、 都市整備が行われ(Fischer, 1975, p47)、現在も整備された街並みにそれがうかが われる。 歴史的には、ドイツにおいてもカジノは弊害があるとされ、プロイセン王国、 さらに後の北ドイツ連邦で禁止された。しかし財源のみならず集客策としての カジノは領邦とその支配下にある温泉都市にとり貴重な存在であった。第1次 世界大戦(以下、第1次大戦)後の不況に沈むドイツにおいて、ドイツ帝国で 禁止されたカジノは1933年、ヒトラー政権がカジノ法を制定し、独仏国境に近 接するバーデン・バーデンにのみ設置された。目的は外国人を主眼とした観光 客の誘致と外貨獲得であった。 第2次世界大戦(以下、第2次大戦)後のドイツの賭博制度は、連邦制度の もとで、大衆化を迎える。カジノに加え、宝くじが戦災復興を目的として州政 府により発 行され、 ナ ンバーくじ であるロ ト (Lotto)、サッ カーを 中心とする トト(Toto)などのスポーツを賭け事の対象とする賭博が生まれた。また簡易 に金銭を賭けることのできる「利得可能性のあるゲーム機6、以下、営業用ゲー ム機」は、市民の嗜好に合致し 3D 化とともに、今日では賭博市場でその比率 は最も高い。こうした多様な賭博は、1970年の連邦憲法裁判所で、カジノ権が 州政府にあると判断されたことにより、規制は連邦政府ではなく、主に州政府 が担うことになった。その結果ドイツの賭博市場は、連邦政府が管轄をする競 馬、型式検査を行う営業用ゲーム機と、州政府が許可権を留保する宝くじ、カ ジノ、スポーツ賭博とで構成され、二元的規制構造となった。州政府は賭博に 伴う弊害の除去を名目として、管轄する賭博の規制を全16州で統一するため、 2004 年に宝くじ州際協約、続いて 2007 年に賭博州際協約を制定し、宝くじと スポーツ賭博の州政府独占と、カジノの許可制を制度化した7。 一方欧州では、戦後復興と欧州内での不戦を大きな目的とした欧州経済共同 5 バーデン・ バーデン 市広報 課で2016年3月16日にヒヤ リングをした。しかし この資料は残ってい な いという。 6 ドイツでは ゲーム機が法律 により2種に 分類され る。カ ジノに設置される「小 賭博(Kleines Spiel)と 呼ばれるゲーム機と、 ゲームセンター(Spielhalle)に 設置 さ れ る「 利 得 可能 性 の ある ゲ ー ム機 」 であ る 。 後者は連邦政府の型式 検査を受け、1回の賭け金額 、最高賞金額などの 制 限 が付 け ら れ る。 設 置に は 州、 市の許可が要る。これ に対し小賭博の方は 公的カジノに設 置されるので 以上の規 制がな い。 7 第4章第5節で宝くじ 州際 協約、賭博州際協約を 詳述する。

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3

体(European Economic Community、以下、EEC)が結成され、統合が深化した現 在の欧州連合(European Union、以下、EU)は、ヒト、モノ、サービス、資金の 自由な移動による国を超えた共通市場を創設し、北米と対抗できる経済圏の形 成を目指した。その実現は EEC、EU の大きな目標であり、その目的に沿う限 り で 加 盟 各 国 の 国 家 権 限 は 制 限 さ れ る 。EU の 政 策 立 案 を 担 う 欧 州 委 員 会 (European Commission)は8、域内における賭博のサービス分野に占める割合が高 くなるに従い、規制を加盟国に任せる方針から「サービス提供の自由」、「設立 の自由」を旨とする、共通市場の原則の適用へと方針を変化させた9。その基礎

となったのは、1994年の欧州司法裁判所(European Court of Justice、以下、欧州

裁判所)による賭博事件の先決裁定判決である。欧州裁判所は賭博の弊害を配慮 し、共通市場の原則と加盟国の賭博規制との比較考量をした。宝くじの輸入規 制が問題のシ ンドラー 事件10から、進 出した加 盟国で許可の とれない オンライ ン・スポーツ賭博事業者11の活動が問題のゼナッティ(Zenatti)事件12、ガンベリ (Gambelli)事件13、プラカニカ(Placanica)事件判決14へとサービス活動に含まれる 賭博が拡大をした。ガンベリ、プラカニカ事件判決では、イタリア政府が自国 の賭博事業者に独占的地位を与え、活発な営業活動をすることは許す一方で、 海外のスポーツ賭博事業者に許可を与えないのは、首尾一貫したシステム的規 制ではないという理由で、「サービス提供の自由」、「設立の自由」を侵害すると した15。欧州裁 判所判決 の基礎となっ たのは、 情報通信産業 としてイ ンターネ ット、双方向テレビなどを使いオンラインで行われる賭博であり、その活動は 国境を越え、国内的規制では事業者の活動を規制できない実態がある。 欧州委員会は2012年のコミュニケーションに付随する「域内市場におけるオ ン ラ イ ン 賭 博 に 関 す る 欧 州 委 員 会 ス タ ッ フ 作 業 文 書(Communication Staff 8 EEC、EC、EUを 通じる機関の一つで主 に立法と政策の 執行を行う 。本論文 では「 欧 州委員会」とし て各時期の名称を統一 して表現をする。 9 EU機 能条約では、「サービス提供の自由 」は第56条、「 設立の自由」は第49条で規定される。 10 第6章第5節で詳述す る。 11 イタリアで問題 となった オンライン・スポーツ賭博は 、サッカーを対 象として本拠の ある英国とイ タ リアとの間で、インタ ーネットを利用して 行った賭博であ る。 12 第6章第5項で詳述す る。 13 第6章第5節で詳述す る。 14 第6章第5節で詳述す る。 15 第6章第5節で詳述す る。

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4

Working Document, SWD/2012/0345 final))」において、オンライン賭博の詳細な 調査を発表した。オンライン賭博は、以下のように要約できる。 オンライン賭博(online gambling)とは、オンラインで配信される偶然に支配さ れる賭博を言い、賭事(スポーツ、競馬、ドッグレース、イベントの発生を賭 ける、ビリヤードなど)とポーカー、カジノ、ビンゴ、宝くじを主なものとす る。配信する手段は、インターネット、電磁的通信手段(双方向テレビ、モバ イル、電話、ファクシミリ)を含む。 欧州委員会は、欧州裁判所のオンライン賭博に対する判断に基づき、加盟国 の賭博政策に対する方針、EU法上の諸手続きを活用し、EU法違反と考えられ る加盟国の賭博政策に修正を加える動きを顕著にした16。EUの動きに対し、ド イツ州政府はカジノ法が「公の安全と秩序の維持に関する法」であるとの連邦 憲法裁判所判決をもとに、第1次改定賭博州際協約で一部の民間スポーツ賭博 を限定で認め るが17、弊害のテストを する暫定 的政策をとっ た。しか し欧州裁 判所のガンベリ、プラカニカ事件判決に続くドイツの民間スポーツ事業者への 許可が問題になった先決裁定で、ドイツの賭博規制は首尾一貫したシステム的 規制ではないため、第1次改定賭博州際協約におけるスポーツ賭博に係る規制 は無効とされ、かつ刑法賭博罪は無許可のスポーツ賭博事業者に適用が不可能 となった18。その結果違反者に罰則が適用できず、民間スポーツ賭博19はグレー ゾーンのまま集客と売り上げを伸ばしているのが実態である。 6 ページの図表 1 は州賭博監督庁がまとめたドイツの賭博市場の現状を表す 資料である。許可賭博の10,448百万ユーロ(1ユーロ=約130円で邦貨換算す ると約1兆3,582億円20)に対し無許可賭博が2,270百万ユーロ(約2,951億円) となり、許可賭博の約 22%に成長した。一部の無許可スポーツ賭博事業者は、 総計で243百万ユーロ(約316億円)のスポーツ賭博税を払い、許可賭博と無 16 EU法 とは、EU条約 、EU機能条約と指令、規則 など二次法、判例で 構成される法。 17 第8章第1節で詳述す る。 18 第6章第6節で詳述す る。 19 現在公式に行わ れている のは、サッ カー 、アイス ホッケー 、NBA(北米プ ロバスケットボ ール)、NFL(北 米プロアメリカンフッ トボール)、NHL(北 米プロアイスホ ッケー)である。 20 本論文では1ユーロを130円と換算して邦貨表示 をする。

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5 許可賭博の境が明確でなくなった。混迷状態をさらに加速した要因は、16の州 政府で政策の不一致がある。州政府は賭博権を持つがゆえ、シュレスヴィッヒ・ ホルシュタイン州(Schleswig-Holstein州、以下、SH州)はEU法に則ってオン ライン賭博を自由化し21、税収を増やそうとした結果、全州で一致した第 2 次 改定賭博州際協約の再改定が不可能になった。このため賭博制度は混迷してお り 、メ ル ケ ル(A.Merkel)首 相も こ の 状 態 を看 過 でき ず 、 州 の 代表 と 協議 を し て 早期の法制化を求めたが(ZDFonline Nachrichten 2018)、州政府はまだ方針を出せ ていない。 21 ドイツ最北端の 州でデン マークと接する 。人 口2.8百万 人。政権 がキリスト 教民主同 盟・自由 民主党 の連立政権と社会民主 党中心の政権との間 でたびたび交代 し、賭博政 策がその 都度変更された。2012年、 キリスト教民主同盟・ 自由民主党政権時に 第1次 改定賭博州際協約から 脱退しオンライ ン賭博を認め た が、後社会民主党の連 立政権に交代した結 果第1次改定賭 博州際協約体 制に 復 帰 した 、 し かし2018年 、 キリスト教民主同盟・ 自由民主党などの連 立政権が政権を 把握すると、 再度オン ライン 賭博自由化を 目 指し、第2次改定賭 博州際協約案に反対し 現在自由化を進 めている。

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6 図表 1 ドイツの許可・無許可別賭博市場 許可賭博 無許可賭博 収入の内訳 粗収入 粗収入 賭博種別* オフライン オンライン カジノ 557 - オンライン・カジノ* 1,165 営業用ゲーム機 5,300 - - 宝くじ 4,209 299 オンライン・宝くじ* 246 スポーツ賭博 70.6 0.4 736 取次所 70.6 オンライン* 0.4 294 賭博場* 442 競馬 12 オンライン・ポーカー* 123 小計 10,188.6 299.4 2,270 総計 10,488 2,270 (単位:百万ユーロ) ・オフラインは従来の定置型の賭博を示す。 ・ドイツではインターネットでの賭博は原則禁止される。例外規定は、公的ス ポーツ賭博、試験的に許可されるスポーツ賭博、競馬のみである。 ・粗収入=賭博総収入―消費者への賞金、すなわち消費者の純損失額。

出典:州賭博監督庁2015年年次報告(Die Glücksspielaufsichtsbehörden der Länder) 2.研究の意義と目的

本研究の意義は以下の通り。

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7 Resorts,以下、IR)を整備することを目的に、IR 推進法が公布、施行された。同 時に負の側面として賭博の弊害についての議論が盛んである。日本における各 分野をカバーする賭博法に関する研究は緒に就いたばかりである。本研究は、 先進例としてドイツの賭博制度を対象とする。ドイツは日本と同じく成熟経済 下にあり、経済規模、一人あたりの国民所得が日本と近いゆえ適切な例である。 ドイツの賭博制度は、その独特な歴史、伝統をもとに形成された。しかしEU の広域的な経済圏の創設と情報通信技術を使ったオンライン賭博に十分な対応 ができない状態になった。欧州裁判所は、ドイツの現行の賭博制度が首尾一貫 したシステム的規制ではないとして、EU 法違反との判断をした。そして欧州 裁判所による判決の結果、ドイツ賭博制度が混迷状態に陥った。ドイツの賭博 制度について、時系列に発展過程を確認し、EUの枠組みの中で再検討を行い、 現在における課題を分析し、今後の可能性を提示する。 本論文の目的は以下の通りである。 欧州裁判所は、ドイツの賭博規制制度が首尾一貫せず、システム的ではない として、EU 法違反との判断をした。その結果、現在ドイツの賭博制度が、無 許可スポーツ賭博を規制できず混迷に陥った原因を明らかにする。 そのため次の2点を仮説として設定する。 ① 賭博制度は各国の歴史的、文化的な伝統を背負って形成された。しかし情 報通信手段を活用して国境を越えるオンライン賭博は、国内的な視点ではその 問題点を解決できない。ドイツ賭博制度の混迷は、ドイツ州政府が国内を中心 に政策を形成し、国際的視野を欠いた点を一つの原因とする。 ② オンライン賭博は新しい情報産業の一面を持っており、21 世紀に入り EU は新しい経済分野であることを認識した。しかしインターネット特有の匿名性 を持つこと、家庭でも賭博行為が可能なこと、決済はクレジットカード、電子 マネー、仮想通貨などが使用されるため、資金の流れが不透明となり、賭博の 弊害が大きくなる可能性がある。ドイツの統一的賭博制度は、21世紀に入って 形成され、弊害の除去として依存症を中心とする対策を実施した。しかし急速

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8 なオンライン賭博の発展は、州政府が規制のできない新たな賭博を生み出した。 既に総収入額では、無許可賭博は許可賭博の21%を占め、州政府は貴重な財源 を失っている。 オンライン賭博の問題に対処するには、金融、スポーツ、ITなどを含む広範 な分野で、ドイツ州政府は、連邦、EU、スポーツ団体などと密接な協議をし、 オンライン賭博の制度化に取り組むべきであった。州政府は既得権としての賭 博権に拘泥し、こうした政策形成の責任を放棄した点を他方の原因とする。 3.論点と研究の方法 本論文の仮説を論証するために、以下の4項目を論点とする。 ① 18,19 世紀に起源をもつドイツ賭博制度の中心的存在であり、制度化のモ デルとなった公的カジノが、現在の賭博制度に与えた影響。 ② 1933年カジノ法に対する1970年の連邦憲法裁判所判決が現ドイツ賭博法制 に与えた影響。 ③ 新しい情報通信技術を活用した賭博が出現した20世紀末から21世紀の現在 まで、国内的な規制に拘泥し、国際的な動きを考慮しなかったドイツ州政府 の賭博政策が、EU共通市場の原則に基づく欧州裁判所の判決により受けた 影響。 ④ 欧州委員会は条約違反手続き、資金洗浄、スポーツ競技の公正に関する指令 など加盟国に向けてオンライン賭博に対する政策を実施した。条約違反手続 きは賭博州際協約の改定をもたらし、資金洗浄、スポーツ競技の公正に関す る指令は個々に制度化をした。しかし州政府は中心となって、広範な分野を 含むオンライン賭博に対する法制化策をとらなかった。その背景および理由。 研究資料として 3 分野から論点に接近をする。1 点目として、ドイツの賭博 政策に関連する都市史とカジノ史、賭博の法制度、2 点目に、EEC から EU に

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9 至る条約文、欧州裁判所の判例、欧州委員会の指令、緑書、コミュニケーショ ンなどの賭博政策関連資料を扱う。3点目にドイツと比較するため、EU主要国 の賭博法令である。 まずドイツの賭博制度の原型である、ライン川に沿った温泉都市で形成され たカジノの歴史、制度を各都市の都市史、カジノ史で検証する。同時に法律と してのドイツの賭博制度を解読する。すなわち1871年に成立したドイツ帝国以 後の賭博制度について、法律関連の文献を扱う。特に第3帝国で初めて詳細に 規定されたカジノ法は、第2次大戦後にも適用され戦後の賭博制度の基礎とな ったため、重要である。さらに第2次大戦後では、賭博の大衆化と、新種の賭 博の出現、また許認可に関する管轄行政機関の変遷などの変化がある。具体的 には、各州に共通する基礎的な賭博法である宝くじ州際協約が2004年に、続い て現在の法制の基礎となる賭博州際協約22が2007年に制定された。その後、連 邦憲法裁判所、欧州裁判所の判決は賭博州際協約の改定を必要としたので、判 例、条文の変更を検討し、ドイツ賭博制度の受けた影響を調べる。 2 点目として、ドイツの賭博制度を検証するには EU の枠組みを確認する必 要がある。そこでEU基本条約、EU機能条約をはじめ、欧州裁判所の判例、欧 州委員会の指令、緑書、コミュニケーション、勧告、作業文書など EU 加盟国 の賭博政策に対する方針に関する資料を分析する。 3 点目として、ドイツの賭博制度と比較するため加盟国、具体例としてフラ ンス、英国、マルタに関する資料を実証する。 あわせて研究方法としてフィールドワークを行い、現地調査と担当者へのヒ ヤリングを行った。また各州議会における文書とインターネットの最新情報を 参照し、州内務省の担当者に対し、ヒヤリングを実施した。連邦制度に支えら れたドイツの賭博制度は、州ごとに権限がある。権限内の賭博の制御は、州政 府の政権を担う政党の考え方に影響される。EU の動きに連動して賭博の自由 化 を 勧 め る キ リ ス ト 教 民 主 同 盟(Chrstlich-Demokratische Union)、 自 由 民 主 党 (Freie Demokratische Partei)に 対 し 、 州 政 府 に よ る 規 制 を 重 視 す る 社 会 民 主 党

22 現在ドイツの賭 博制度を 基礎づけるのは 、第1次改定賭 博州際協約で ある。原 則全16州間で一 致さ せるべきであるが、実際 はSH州 が反旗を翻した。ド イツ では協約も法として取 り扱われる。詳細は第8 章で述べる。

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(Sozialdemokratische Partei Deutschlands)の考え方の対立がある。

本研究の実証のため以下の通りドイツ州政府内務省、市、カジノ、賭博事業 者の連合団体にヒヤリングをした。ヒヤリングの方法は、事前に電子メールに より質問票を送付し、面接をした。なお使用言語は、ドイツ語と英語である。 質問票は参考資料に掲載する。職名はヒヤリング当時のものである。 ・シュピールバンク・デュイスブルク社社長ブラウン(Jochen Braun) 2014年10月15日10:00~12:00 於社長室 ・デュイスブルク都市開発局課長プーエ(Georg Puhe) 2014年10月16日10:00~12:00 於課長室 ・バイエルン州内務省賭博担当官エルツル(Worfgang Ertl) 2015年9月24日10:00~12:00 於州内務省会議室 ・デュ イスブ ルク 都 市開発 局課長 プー エ(G.Puhe)、ゲー ムセ ン ター規 制担当官 カント(M. Kant) 2015年11月16日11:00~12:30 於課長室 ・シュピールバンク・デュイスブルク社社長ブラウン(J. Braun) 2015年11月19日10:00~12:00 於社長室 ・バーデン・バーデン市広報課長ザイテ(Roland Seiter) 2016年3月16日10:00~12:00 於課長室 ・バイエルン州大蔵省宝くじ管理公社法制度担当官エック(Angelika Eck) 2016年3月17日10:00~12:00 於担当官室 ・連邦ゲーム機企業者連盟ベルリン本部広報担当ミッターク(Alexander Mittag) 2016年3月22日10:00~12:00 於会議室 欧州において28か国で構成されるEUの、ドイツの賭博制度への影響は大き い。1957 年締結のローマ条約で経済統合を目指した EEC から、統合が進化し た現在のEU まで、ヒト、モノ、サービス、資金の自由な移動を通じて、経済 の発展、雇用の確保が目指されてきた。この自由な経済活動を確保する政策が、 EU法の一環である共通市場の原則である。加盟国の法に優先するEU法がどの ように加盟国の賭博政策に影響を与えたか、この問題に答えるには、EU 基本

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11 条約、EU 機能条約をはじめ、欧州裁判所の判例、欧州委員会の指令、緑書、 コミュニケーション、勧告、作業文書など EU の加盟国の賭博政策に対する方 針の形成を物語る資料を詳細に分析する。 EU 共通市場の原則と、それが与えたドイツの賭博政策の変遷について、日 本 で の 研 究 は ま だ 多 く は な い 。 ド イ ツ の 賭 博 制 度 に 対 す る 日 本 の 研 究 は 、 IR(Integrated Resorts)の制度化と関係して緒についた。そのためドイツ賭博制度 の邦文文献も多くない。賭博規制が連邦政府と州政府の二元的構造になってい ることも原因である。幸い EU、ドイツとも電子政府化が進んでいるため、多 くの法律、資料がインターネットにアップロードされており、こうした文書の 入手が可能である。 EU 加盟国の賭博制度については、歴史的にドイツ賭博制度に大きな影響を 与えたフランス、独自の制度を構築しいち早くオンライン賭博を認めた英国、 加盟国で唯一オンライン賭博を経済振興のツールとして制度化したマルタの事 情は、ドイツの硬直した制度との比較で参考となる。各政府が発行する賭博に 関する報告書を入手し、実証する。ドイツが今後どのようにオンライン賭博を 制度化するのか、これは本論文の対象外であるが、3 カ国の政策は今後ドイツ のとるべき策について、州政府が検討すべき材料である。 4.用語の定義 本論文で使用する用語の定義をする。表題の「EU 共通市場」とは、製品の 自由な移動に加え、労働、資本、サービスの自由な移動が実現された市場であ る。特にサービスについては、「サービス提供の自由」、「設立の自由」を内容と する。本論文では EU 法で定義されるサービスとしての「賭博」を取り扱う。 同じく「ドイツの賭博制度」は、現在ドイツで行われている賭博制度を定める 賭博州際協約、第1次改定賭博州際協約と実施法である各州の賭博法、連邦営 業法、競馬・宝くじ法を検討の対象にする。 法律上の「賭博」と一般的な用語としての「ギャンブル」を同じ意味で用い る23。また「ゲ ーミング 」も英語では 賭博の意 味で使用され ており、 本論文で 23 日本の刑法 賭博罪で は公然 性が構成要件となって いないが、ドイツ では公然 性が構成要件となってお り、この点に差異があ る。

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12 も使用する24。ドイツ語では賭博を”Glücksspiel”25、EUでは”gambling”を使用す る。現在ドイツでは基本的に賭博は禁止であるが、例外として法規定により認 められた26。現在16州で締結された第1次改定賭博州際協約の規定を用いて定 義をする。 賭博:「賞金を得るためある一つの賭けごとで代価を払い、賞金の決定は全面 的にあるいは主に偶然にかかることを前提とする。将来の出来事の発生あるい は結果に対し代価を賭ける賭事(Wette)も、賭博である」。 カジノ:第1次改定賭博州際協約ではカジノの定義はない。1933年のカジノ 法がその原型となった。カジノを管轄するドイツ州政府はその規則で、カジノ で実施可能な賭博を掲げている。ハンブルク州の規則では、ルーレット、アメ リカン・ルーレット、バカラ、ポーカーなどのカードゲーム、小賭博といわれ るゲーム機などが実施可能とされる。ドイツ全土には70か所弱のカジノがあり、 中には小賭博のみのカジノも20か所程度存在するが、主に人口の少ない地域と 旧東ドイツに由来する州に多い。 宝くじ(Lotterien):「一団の人々に、一定の支払いに対し確定した計画に従い、 賞金を獲得する機会が開かれている」賭博である。ドイツで宝くじは一部の福 祉宝くじを除いて、州政府の独占である。宝くじを主催するため州政府はそれ ぞれ監督下にある独立採算の組織を設立している。このほかに長期間にわたっ て段階的に当選がわかる仕組みであるクラスくじがある。このくじは16州で組 織される「州クラスくじ連合」で発行し、当選金額も多額となる27。

24 gambling、gamingと もア ングロサクソ ン語のgamen、gamon、すなわちsport、playを語 源とする ので元の意味は同じで ある。(柳父2008,pp.150-153)Oxford Advanced Learner’s Dictionaryでは 、 gamingを 法律用語、あるい は古い言い回しとする 。主に英国ではこの 語が使用される 。 25 ドイツ法律 用語辞典( 山田,1985)では賭博 と訳す。意 見 の相違を決す る賭事(Wette)は含まれないと する説もあるが、第1次改定賭博州際協約 では賭事も賭博 であると規定 するので 、分け る必要はない で あろう。 26 連邦議会調査局 が出した 賭博州際協約を 解説した文書で 明示されてい る。(Deutscher Bundestag Wissenschaftliche Dienste WD3-171/07)

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13 オンライン賭博:第4条第4項でインターネットでの賭博の主催、仲介は禁 止される。同第5項ではインターネットで許される賭博を規定し、公認宝くじ、 公認スポーツ賭博のみとした。なお第10条aで試験的に民間事業者のスポーツ 賭博を限定付きで認め、インターネットでのスポーツ賭博の提供も含まれる。 本論文ではドイツで問題になっている、海外のオフショア賭博事業者が無許可 でインターネット、賭博場で開帳するスポーツ賭博を主にとり上げる28。

スポーツ賭博(Sportwetten):公的な組織(Deutscher Lotto- und Totoblock、以下 DLTB)29 で行われるのは、パリ・ミュチュエル(pari mutual)30方式でドイツのサッ カーを賭けるフットボール・トト(Fußball Toto)と、サッカー、クリケット、テ ニ ス な ど ス ポ ー ツ 競 技 を 対 象 に ブ ッ ク メ ー カ ー(bookmaker)方 式 で 賭 け を す る オッドセット(Oddset)が公式ものである。しかし独自に決めた掛け率(オッズ) を提示して、自らの危険負担で賭博を運営する海外のオフショア・ブックメー カー(bookmaker)が、シェアを拡大した。DLTB もオッドセットによるブックメ ーカー方式の スポーツ 賭博を始めた が31、還元率が高く、全 世界のス ポーツと 対象とするなど魅力を高めた海外オフショア・ブックメーカーのシェアが圧倒 的である。 競馬(Rennwetten):第 27 条で規定され、インターネットでの取り扱いは許 可を得れば可能であり、ブックメーカー方式も依存症対策を講じれば許可を与 えられる。1922 年の競馬・宝くじ法により規定された。ドイツではフランス、 英国ほど競馬は盛んではない。許可は連邦政府が与えるが、実施、収益につい ては全て州政府が担当する。 28 オフショアは海 外のみで 営業ができる許 可であり、マルタにおける制 度が典型的であ る。ブッ クメー カー方式の賭博は独自 に決めた掛け率を公 示し、消費者が 良いレートを 出す事業 者を選 択して賭ける 。 賭博事業者が払い戻し をできないことも発 生しうる。 29 全国16州にある 独立採算の ロト運営団体から構成 される。各団体は州 政府の傘下にあ り、賭博の弊 害除去を旨にロト、ト トを 独 占 的に 運 営す る 。 現在 は ハ ン ブル ク 州に 本 部 を置 き 、「 ハ ンブ ル ク・ ロ ト」 社の意見は賭博州際協 約にも強く反映され ているといわれ る。 30 賭金をプールし 、運営経 費などを差し引 いた額を当選者 に払い戻す方 式。 31 第4章第3節で詳述する。

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14 営業用ゲーム機:第24条から第27条に、営業用ゲーム機を置いて営業をす るゲームセンターについて規定する。営業用ゲーム機は、バー、レストランな どにも設置されるいわゆるスロットマシーンである。手軽に遊べるので、多く の市民の嗜好にあい、全国で約267千台に上る。ゲーム機自体を規定するのは 連邦営業法であり、具体的には賭博規則で詳細が決められる。機械の型式検査 は連邦経済省 物理技術 院が管轄する32。機械の 構造はカジノ に設置さ れる小賭 博(Kleines Spiel)と称されるゲーム機と同じであるが、賭博規則により賭け金の 上限、賞金の上限が決められており、これを設置するゲームセンターは州政府 により建物の構造チェックを受け、機械の設置台数が規制される。隣国のフラ ンスではこうした手軽なゲームセンターはなく、カジノに設置されるスロット マシーンのみである。そのためライン川をはさむ独仏国境沿いの都市、バーデ ン・ヴュルテンベルク(Baden-Württemberg)州ケール市(Kehl)には、フランス人目 当てのゲームセンターが集中する。 次にEUにおける賭博の定義を示す。EUでは2006年に出した「第 2次賭博 実態研究」で、賭博を次のように定義した。33 賭博(gambling services):宝くじ、競馬、スポーツ賭博を含む偶然性が伴う ゲームで金銭を賭けるものをいう。インターネットによるサービス提供も含む。 偶然にかかるゲーム(games of chance):賞金を求めて競う機会を提供するゲー ムで、成功は全くあるいは圧倒的に偶然である将来の未知の出来事に依存し、 参加者の技術によって結果は影響を受けない。少なくとも参加者のだれかは賭 け金を失う。このゲームの第1の特徴は、金銭を賭けること、第2は偶然性で ある。 賭事(betting,Wette):競技、イベント、それらの進行の結果、あるいは出来事 が起こる、起こらない可能性に賭ける。あることが真実かどうかに賭ける。偶 然にかかるゲームとは異なり、ある程度の知識を必要とする。 32 物理技術院(Physikalisch-Technische Bundesanstalt、以下PTB)は 、連邦経済省の傘 下にありブラウンシ ュバイクとベルリンに 設置される。PTBで は連邦営業法賭 博規則の改定 に合わせ 、技術 ガイドラインに 合わなくなった営業用 ゲーム機の運用に期 限を付ける。 33 第8章第2節で詳述す る。

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参考として、EU 市民から選出された議員で構成される欧州議会の賭博の定

義を掲げる(European Parliament A6-0064/2009)。(著者試訳)

「賭博サービスは経済的行為ではあるが、特別な性質を持つ、それ は賭博に関連した社会的・公共的な秩序、健康への配慮によるもので ある。そのため自由競争は資源の適切な配分に導くものではない。そ れゆえ複合的なアプローチが必要となり、域内市場の原則に基づくア プローチは、この高度に微妙な分野では適切ではなく、欧州委員会は 欧州裁判所の見解に特に注意を払うことを求める」。 この定義は、賭博は純粋の経済的行為ではない点を強調し、その結果、社会 秩序、健康への配慮を含める点で特徴がある。また欧州議会では賭博を競争原 理に置くことに反対であり、共通市場の原則のみによる判断も適切ではないと する。欧州議会では、先決裁定で綿密に検討をする欧州裁判所の見解が重要だ と考えた。EUとしての賭博に対する見解は、欧州委員会が代表するが、EU内 には異なった意見があることは注目に値する。 次に EU におけるサービスの定義を検討する。賭博がサービスに含まれると いう欧州裁判所の判断は、以後の EU による加盟国の賭博政策に対する方針の 変化をもたらした。(著者試訳) EU 機能条約第 57 条:「サービスとは、ヒト、モノ、資金の移動の 自由の規定に支配されないで、この条約の意味において、通常報酬を 対価として与えられるサービスと見なす。サービスには次の4点を含 む、工業的性格のサービス、商業的性格のサービス、職人的性格のサ ービス、専門家的性格のサービスとする」。 この規定により、欧州裁判所は賭博が報酬を払って与えられる商業的サービ スと判断したと考えられる。 なお EU が目指す統合された市場は、共通市場/共同市場(Common Market)、

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域内市場(Internal Market)、単一市場(Single Market)などと呼ばれるが、本論文で は主に「共通市場」を使用する。翻訳文では原文を生かして「域内市場」ある いは「単一市場」も使用する。 5.本論文の構成 第1章で、ドイツ、欧州の賭博制度、賭博政策の先行研究を概観する。 第2章では、第2次大戦前のドイツの公的カジノ制度が形成された歴史を考 察する。 第3章では、1933年に制定されたカジノ法と、カジノ法の権限主体を決めた 1970年の連邦憲法裁判所判決、カジノ法がもととなって制定された第2次大戦 後の州カジノ法を検討する。この連邦憲法裁判所の判決後に制定されたハンブ ルク州のカジノ法に焦点をあてる。 第4章では、第2次大戦後、賭博の大衆化によりドイツで行われるカジノ、 宝くじ、スポーツ賭博、営業用ゲーム機など各種の賭博の動向とドイツの現行 賭博制度の基礎となった宝くじ州際協約と賭博州際協約を検討する。 第5章では賭博制度がもたらす弊害である依存症と資金洗浄対策を分析する。 ドイツでは依存症を初め弊害対策は州政府が中心的に担うことにより、賭博の 独占を含む強い規制が正当化された面がある。特に近年問題が大きくなってい る賭博を利用した資金洗浄を取り上げる。 第 6 章では、EU の賭博に対する政策の変化、欧州裁判所における賭博に対 する先決裁定判決の変遷と、ドイツのスポーツ賭博の許可に関する事件の先決 裁定判決、判決を受けた欧州委員会の加盟国賭博規制への方針を検討する。 第7 章では、ドイツ以外の主な EU加盟国の賭博制度を比較検討する。まず ドイツのカジノ制度に大きな影響を与えたフランスの制度を検討する。次に独 自の賭博制度を確立した英国のオンライン賭博規制を検討する。マルタは、オ ンライン賭博で経済の振興を図り、加盟国では例外ともいえるオンライン賭博 に依存した経済を形成した。EEC形成の原動力ともなった欧州評議会は、国際 社会の基準策定を主導する任務を持ち、近年、スポーツ競技の公正にも取り組 んでいる。欧州評議会が進める欧州をカバーするスポーツ競技の公正に関する

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17 協定の現状を明確にする。 第8章では、ドイツ州政府のスポーツ賭博独占が、欧州裁判所の先決裁定に より、変更を受ける状況に至った経緯を検証し、州政府が効果的な対策を打た なかった事実を明らかにする。 結論として、論点を明らかにすることにより仮説の検証を通して、本論文の 目的を総括し、課題を提起する。

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18 第1章 先行研究

1.先行研究の概観

賭博制度の分野では、欧州における詳細な研究として、「スイス比較法研究所

(Schweizerisches Institut für Rechtsvergleichung)が2009年に出した『 International vergleichende Analyse des Glücksspielwesens.(賭博制度の国際的比較分析)』が広 範な領域をカバーしている34。しかし対象国はEU加盟の7か国、それ以外の欧 州2か国、米国、豪州が含まれるが、ドイツは対象とされていない。また調査 項目は、宝くじ、カジノ、営業用ゲーム機、賭事、情報通信技術を活用した賭 博、宣伝用くじ、賭博を財源とする慈善団体の概要、さらに弊害として依存症、 資金洗浄まで網羅しているものの、内容に精粗がある。情報通信技術の発展に 伴う各国の法制度の変化は叙述されていない。 ド イ ツ の 賭 博 の 歴 史 は 、(Zink,W.1970)『 ド イ ツ の カ ジ ノ (Spielbanken in Deutschland)』 が 先 験 的 で あ り 、 近世 、 近 代 の 賭 博 の 歴史 が 詳 細 で あ る が 、 歴 史に重点を置き、ゲルマン民族の賭け好きなど文化的特性も論じるが、1970年 の連邦憲法裁判所の判決の直前までで叙述が終わり、EU(EEC)についての言 及がない。小冊子(Kummer,H.1977)『ドイツにおける賭博権と利得可能性のある 娯楽用ゲーム機の法律(Das Recht der Glücksspiele und Unterhaltungsautomaten mit Gewinnmöglichkeit in der Bundesrepublik Deutschland)』は、1871年のドイツ帝国 成立後の賭博法のみを取り扱っており、古い法律の条文の入手とともに解釈の

点で参考になるが、やはりEU(EEC)が対象となっていない。

2004年の宝くじ州際協約に関する資料は、施行期間が短く資料自体が少ない

が 、 (Reeckmann,W.2004) 『 Staatsvertrag zum Lotteriewesen in Deutschland: Polizeirecht der Länder oder Wirtschaftsrecht des Bundes?(ドイツにおける宝くじ 州際協約:州の警察法か連邦の経済法か)』が1970年連邦憲法裁判所判決に対 し疑問を呈し、その後のドイツの賭博制度の混迷を予期している。ただドイツ では、現在の賭博制度の混迷と連邦憲法裁判所の判決とを関連させる議論はさ

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19 れていない。レックマンの注目した州の警察権または連邦の経済権かの議論は 州の権限に落ち着いたが、それが適切であったのかどうかの議論は、管見では 現在聞かれない。 欧州裁判所の賭博に関する先決裁定は、ドイツの賭博制度が EU 法に反して いることを確定した。これに対する各界の反応は、ホーエンハイム大学賭博研

究施設(Forschungsstelle Glücksspiele,Universität Hohenheim)のHPにアクセスを して得られた関係者の意見、新聞、雑誌の記事により、欧州、ドイツの賭博研 究者の考え方を知った。全体の印象は、ドイツの賭博制度が EU 法に反してお り、EU に従って自由化を進めるべきとする意見が優勢であった。これに対し て北ドイツの大学、例えばブレーメン大学、ハンブルク大学の研究者は、賭博 の弊害を中心に論じており、ドイツの政治的地域差を反映する。 EU 加盟国の賭博に関しては、欧州委員会がスイス比較法研究所に依頼をし

て、2006年公表した『Study of gambling services in the Internal Market of the European Union.(以下、第2次賭博実態研究)』が有益である35。当時の加盟国25 か国の賭博実態調査の結果と、欧州裁判所の判例に言及する。しかし1991年、 欧州委員会が直接実施した第1次賭博実態研究と比較した場合、研究の実施者 が外部機関となっており、価値判断を加えていないゆえ、EU 全体を展望した 賭博制度の特徴、傾向は明確ではない。 日本における、欧州の賭博制度の研究は、2002年(財)社会安全研究財団が 欧州の主要3か国、すなわちドイツ、フランス、イギリスの賭博規制を論じた のが最初であ ろう36。当時の日本では この分野 の業績は少な く新しい 視点であ ったが、各国の一部の法律の紹介に限定された。ドイツについては 1933年カジ ノ法まで遡るべきであった。また同財団ゲーミング研究会が、賭博の種類別に ヨーロッパの事情を調査した。この中で特にドイツの場合、国としての権限は 全て州政府に委譲し、州ごとに施設の設置許諾や課税権限を規定するという分 散的な施行のあり方であり、規制のあり方は州ごとに異なる、と理解されてい る。この調査では、ドイツの連邦制が基礎となって賭博権が形成された経緯が 35 第6章 第4節で 詳述する 。 36 (財)社会安全研究財 団は 現在公益財団法人日工 組社会安全研究財団 となっており、その目的は「安 全で安心な社会を創る ための研究および事 業を振興し、公 共の安全と秩序の維持 に寄与する」とHPで述 べる。

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20 言及されていない。法的には1949年制定のドイツ基本法で連邦政府と州政府の 権限が明確にされ、行政分野では州政府が広範な権限を持つに至ったこと、1970 年の連邦憲法裁判所によりカジノ権が州にあると判断されたことを確認すべき であった。『ヨーロッパにおけるゲーミング』調査が実施された2004年の時期 は、宝くじとスポーツ賭博の規制を、基本的な部分で全ての州において共通化 する作業が進められている過程であったためと考えられる。 またドイツの賭博法制については同じく同財団が、2002年に『諸外国のゲー ミング規制について』がフランス、イギリスと並んでドイツの法規制を詳述し た。ドイツでは刑法、営業法、カジノ規制について述べており、後に依存症の 原因の一つとされる営業用ゲーム機についても法規定を明らかにした。また現 在のドイツ賭博法制を動揺させているスポーツ賭博への言及もある。しかし21 世紀以後のスポーツ賭博の伸長については触れられていない。最近のドイツの 賭博法制に関する動きは激しく、邦文資料ではフォローできず、最新情報は現 地調査とヒヤリング、インターネットを批判的に検討することで入手が可能と なる。 またカジノを実際に調査するために、関係する公的団体、民間団体が欧州に 調査団を出し、後に報告書も出されている。しかしドイツに関しては制度が複 雑なため、詳細な調査資料はなかった。宝くじに関しては、日本宝くじ協会が 欧州各国の調査をし、制度、法令、宝くじの内容の言及はある、ドイツに関す る詳細な調査結果もあるが、制度の法的説明は少ない。 近年、国立国会図書館がカジノ解禁論議に合わせ、徐々にドイツの賭博法制 の調査報告を行った。先駆的研究として、2003年に戸田がハンブルクにおける オンライン・カジノを糸口に刑法、州カジノ法、カジノ税について述べた。し かしこのハンブルク州独自のオンライン・カジノは、州憲法裁判所により州カ ジノ法違反という判断で中止を余儀なくされ、現在適用される第1次改定賭博 州際協約でも、オンライン・カジノは禁止されていることには触れられていな い。 同図書館の渡辺による 2012 年、賭博に関する州際協約の報告がある。続く 2015年には同じく齋藤、渡辺によりカジノとゲームセンターとの規制の比較の 観点から、カジノ法規が詳しく説明された。この中でドイツの賭博規制の幅の

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21 大きさ、カジノのゲーム機(小賭博)と営業用ゲーム機を置くゲームセンター との間の規制の差などを例に、EU がドイツに求める規制の一貫性はドイツに とりはるかに遠い目標との指摘がある。しかし EU が求めたのは、ドイツの公 的機関が宝くじ、スポーツ賭博を独占し市民に賭博を進める一方で、民間によ る同じスポーツ賭博を法で禁止していることの矛盾をただす、すなわち首尾一 貫したシステム的規制である。もちろん2種類あるゲーム機の法的区別も問題 ではあるが、EUはこの区別に対しては何も要求していないのである。 これまでの先行研究を批判的に検討してきた。基本的には、欧州裁判所、欧 州委員会が今後のドイツにおける賭博制度を外部から変化させる一方、州政府 の中でも政権政党により、あるいは歴史的な経緯により、意見は一枚岩ではな く、制度が流動化している状況を理解して研究を進めなければならない。 各種賭博が定着する欧州と比較すれば、日本でも依存症をはじめ問題が徐々 に顕在化しつつありながら、未開拓の部分が多い。EU をはじめ加盟国で進展 するオンライン賭博などの新しい賭博に関する研究は多岐にわたる分野を包摂 しており、日本においても国際的な視野に基づいて早急に深める必要がある。 2.まとめ 先行研究としては、欧州において各国の賭博法を論ずる研究書は多く、能力 的、時間的に目を通すことができる量は限られる。そこで論点に関係する研究 書に焦点を絞り研究を進めた。EU における賭博制度の発展は激しく、参考に した報告書、論文は過去の制度の概要を得るために活用できる。現在の問題で ある EU 法と賭博に関する裁判、その批判、欧州委員会の加盟国賭博制度に対 する措置などは、EU を初め欧州の大学、研究者、実務家が各種情報をアップ ロードするため、詳細な情報の収集が可能である。 日本における賭博に関する研究は、従来の賭博に関する諸法律の研究、先進 的な例として21世紀の初めに英国、フランス、ドイツの法制度の研究、最近の 例では欧州の各国別の賭博の種類別の研究があるが、ドイツの賭博制度は連邦 制と密接に関係していることの明確な指摘は管見では見られなかった。また依 存症、資金洗浄、八百長試合などの新しい研究はまだ日本では十分に行われて

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22 いない。近年IR法との関連で国立国会図書館がドイツを中心に報告をしており、 1970年の連邦憲法裁判所判決が初めて紹介されたのは貴重である。国立国会図 書館の報告はどれも短いものであり、EU 法との関係は明らかにされていない が、発表された時点でのドイツの賭博事情を知るには有益である。欧州と比較 すれば、日本でも依存症を初め問題が顕在化しつつありながら、未開拓の部分 が多い。EU を初め加盟国で進展するオンライン賭博研究は多岐にわたる分野 を包摂しており、日本においても国際的な視野に基づいて深められなければな らない分野である。

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23 第2章 第2次大戦前のカジノの歴史 1.はじめに ドイツにおける現在の賭博制度の基礎となった、カジノの制度化を概観し検 討する。これらのカジノは、18 世紀から 19 世紀にフランス国境に近いライン 川に沿った温泉から始まった。そこで主催される賭博はフランスから導入され たルーレットであった。領邦の支配下にある温泉は、領邦にとり免許料、施設 使用料の財源を得る場となり、こうした資金は温泉の魅力を高めるため都市整 備あるいはカジノにおける文化活動に充てられた。しかしドイツがプロイセン 王国により統一へと進むにつれ、カジノは閉鎖されてゆく。プロイセンが主導 する北ドイツ連邦でカジノ閉鎖法を制定し、刑法賭博罪とともに1871年に成立 したドイツ帝国へと引き継がれた。カジノが再開されるのは第3帝国で制定さ れた1933年カジノ法である。温泉都市の再開運動で復活したカジノは、外貨獲 得を旨として、フランスに接するバーデン・バーデンにのみ設置許可が下され た。しかし 1944年に戦況の悪化によりカジノは閉鎖され、第2次大戦前のカジ ノの歴史は終わるが、1933年カジノ法は第2次大戦後まで影響を与え、ドイツ 賭博制度の基礎をなす法となった。 2.温泉都市における公的カジノの勃興と発展 ドイツのカジノ制度は、ライン川に沿ったバーデン・バーデン、ヴィースバ ーデン、バート・ホンブルクなどのローマ時代から温泉源を持つ都市で、領邦 政府、帝国都 市37などが事業者に許可 を与えた ことに起源を もつ。こ れらのカ ジノは17世紀から18世紀にかけて温泉とカジノを備えた高級保養地として英 国でも名が知られており、英国よりも設備の整ったこれらドイツのカジノへ、 貴族 な どが 足を 運 ん だこ と が英 国で 記 さ れて い る(Johnson, 1991, 別 宮訳,1995, 37 ドイツの中 世都市は 商人層 を中心として自治権を 獲得し、目覚ましい活 躍を見せた。帝国都市は皇帝 から自治権を認められ た都市である。しか し近代に入ると 領邦君主の力 が強くな り、宮 廷が位置する 都 市が発展し、自治権を もつ都市はハンザ同 盟都市などに限 られた。

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24 p.178)。現 在も これ ら の都市 では 、古 典様 式で建 築さ れた クア ハウス(Kurhaus) においてカジノの営業が続けられているが、その許可はおおよそ18、19世紀に 与 え ら れ た 。 バ ー デ ン(Baden)大 公 国 に 属 す る バ ー デ ン ・ バ ー デ ン で は 、1748 年、ホテルにゲームテーブルの設置を認めたという。(Fischer, 1975, p.22)。バー デン・バーデン市当局では、この事実に関する文書は残っていないが、当時の 許可は1回ごとの開帳に与えられたという38。ヴィースバーデンでは1771年に ナッサウ・ウジンゲン(Nassau-Usingen)公国がルーレットを含む賭博の許可を与 えたが(Niedental, 1997, p.26)、賭博が殷賑し、領邦政府、市参事会が対策に手を 焼き、賭博を一切禁止し、政府管理下で独占的な権利を一定の事業者に与えた といわれている。ルーレットは不正がしにくいとの理由からフランスで奨励さ れ、それがドイツにも入り王侯の遊びとして広まり、カジノ賭博の中心となっ た。また帝国都市 アー ヘン(Aachen)でも、違 法な賭博を抑制す るた めに、1764 年、市参事会がカジノ許可を事業者に与えた(Siemons, 2004, p.11)。 温泉を持つ都市にとっては、集客施設として豪華な温泉とカジノの賃貸料、 許 可 料 が そ の 財 源 と な っ た 。1824 年 3 月 に フ ラ ン ス 人 シ ャ ベ ー ル(Antone Chabert)が バ ー デ ン ・ バ ー デン で 支 払 っ た カ ジ ノ賃 貸 料 と 許 可 料 の 記録 が あ る (Fischer, 1975, p.39)。それによると1年間の賃貸料が27,000グルデン、許可料 が 19,000 グルデンであった39。シャベールは後ナッサウ(Nassau)公国に移り、 1834 年 2 月同国政府とヴィースバーデン、バート・エムス(Bad Ems)、シュラ ーゲンバート(Schlagenbad)などでカジノ経営の独占的契約を得ており、年間賃 貸料・許可料30,310グルデンを支払い、ヴィースバーデン・クアハウス社に新 柱廊棟の建設のため13万グルデンの前払いをした(Niedenthal, 1997, p.45)。 1830 年 フ ラ ン ス 7 月 革 命 で フ ラ ン ス 人 の 王 と な っ た ル イ ・ フ ィ リ ッ プ (Louis-Philippe)は、1836 年にカジノ閉鎖を決定したため40、企業家精神に富む フランス人カジノ経営者がライン川沿った温泉地へ移動し、これがカジノ賃貸 料と許可料を高騰させた。ヴィースバーデンにおける領邦政府とシャベールと が1834年結んだ契約書の一部を記す(Niedenthal, 1997, p.45)。この契約書で賭博 38 2016年3月16日、バーデン・バーデン 市広報課長ザイ テから聞き取 りをした 。 39 1850年から1870年まで の工 業労働者の1日当たり の給与 は1グルデン、鉄道機関 士は1年あたり500 グルデン、裁判所判事 は1,800から2,500グルデンであっ た。(Niedenthal,1997,p.63) 40 1836年7月の財政法によ り1838年1月1日 をもってカジノが禁止 された。

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25 はフラ ンス 語起源 の”Hasard-Spiel”(偶然に かかる 賭博 )と表 現 されて おり、 ルーレット、カードゲームを含んで規定した。(著者試訳)。 第 40 条 賃借人は賭博を営むことを認められる、賃借人はルーレッ ト、黒と赤、ファラオを行う権利と義務がある。賃借人はこの3種 類以外の賭博を恒常的に行うならば、加えて政府の許可を取得しな ければならない。他の第三者は同種の賭博をする許可を得ることが できない、賃借人は万一の場合、政府の告発により賃借人の独占的 権利内で保護される。・・・ 第 41 条 クアハウスで賭博を開催する権利は、5 月 1 日から 9 月 30 日に与えられる。これ以外の時に特別な開催で、外国人の団体が現 れた場合、賃借人がカジノを開くことを希望するならば、クアハウ ス委員の許可で行うことができる。 第 43 条 大ゲーム(ルーレット)は毎夜大会議室に隣接したゲーム 室で開催され、小ゲームはビリヤード室に接したゲーム室で毎日午 前に開催される。 第 44 条 カジノは有効な硬貨と十分に価値のある金貨で支払いをす る義務がある。 この規定は現在の州カジノ法、賭博法の規定と類似する内容が多いことに気 付く。第40条はカジノゲームの主催者は独占権があることを意味し。第41条 は夏の期間のみカジノの開催ができることを示す。第43条では賭博の種類に応 じて開催時間を決めており、現在のテーブルゲームとゲーム機の開催時間の違 いを思わせる。第44条の規定は、現在州政府がカジノの粗収入を把握する際、 偽造紙幣も算出の基礎とすることに引き継がれたと考えられる。フランス人シ ャベールとの契約を契機に、ヴィースバーデンは黄金期を迎え、バーデン・バ ーデンと肩を並べる地位を築いた。一方バーデン・バーデンでは19世紀に領邦 政府はカジノ管理委員会を設置し、監視とともに許可料、賃貸料を基金に蓄積 をする。この基金は都市の整備に充てられ、バーデン・バーデンの街並みの整 備に役立てられた。バーデン・バーデンが欧州の夏の首都として王侯、貴族を

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26 集客するようになるのは、1837 年フランス人ベナゼ(Jacques Benazet)がパリか らこの地に活 動拠点を 移したことを 契機とす る41。ベナゼは 破格の許 可料と賃 貸料を払って大公国政府と契約を交わし、バーデン・バーデンの広報にパリ仕 込み の音 楽、 ファ ッ ショ ン、 フラ ンス 語 を活 用し 、豪 華な 温 泉(Luxusbad)を前 面に出した。1830 年から、普仏戦争が起こる 1870 年までをバーデン・バーデ ンの都市史で「フランス時代」と称する。この地に英国をはじめフランス、遠 くはロシアからも軍人、貴族が蝟集する様、主人公が依存症と思われる状態を 示す様は、ドストエフスキーの『賭博者』で活写されている。この小説は各地 のカジノでその歴史、あるいは賭博の弊害を示すために引用されることが多い。 3.北ドイツ連邦のカジノの閉鎖法 ライン川沿岸の温泉都市で領邦、帝国都市から認められた公的カジノは、温 泉と相まって繁栄をするが、ドイツにおけるカジノに関しては各領邦による意 見の違いがあり、1815年ナポレオン退位後のウィーン体制を基に成立したフラ ンクフルト・アムマインの「ドイツ連邦議会」1844 年第 12 会期でカジノ廃止 の議論が始まった(Zink, 1970, p.30)。廃止を主張したのは、当時カジノを一切認 めなかったヴュルテンベルク王国(Württemberg)の代表であり、カジノが道徳に もとるという理由である。この会期で唯一この提案に反対をしたのはバーデン 大公国のみで、他の領邦は全会一致を条件として提案に賛成するというあいま いなものであった。ただナッサウ公国ではドイツ連邦議会の圧力を感じて、1845 年2か所のカジノを閉鎖した(Niedenthal,1997,p.51)。 各領邦のカジノはドイツが統一に向かって動きを進める中、さらに圧力を受 けることとなる。次に法制化が試みられるのは、1848年フランス2月革命の影 響を受けたドイツ3月革命で設置された、フランクフルト・アムマインにおけ る「憲法制定ドイツ国民議会」である。知識人、官僚の代表が多い議会により 1849年1月20日カジノ閉鎖法が可決される。全ての公的カジノは1849年5月 1 日から、全ドイツで閉鎖され賭博に基づく賃貸借契約は破棄されるという趣 41 カジノ・バーデ ン・バー デンの基礎を築 いたベナゼの肖 像画が、カジ ノの ホ ー ルに 掲 示 され て いる。

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27 旨であった。しかしこの議会では急進派が当初もくろんだ自由主義的憲法の制 定は貫徹できず、プロイセン国王が国民議会で決定した帝位を拒否、議会は無 力化しカジノ閉鎖法は1850年無効を宣言される。その後カジノは復活し存続す るが、プロイセン王国が弱小領邦を併合しドイツ統合を進める過程で、領邦の カジノは徐々に閉鎖される。カジノに批判的な質実剛健を旨とするプロイセン 王国は、1868年2月同国議会でカジノ禁止法を成立させた。続いて同年6月プ ロイセン王国を中心に設立された北ドイツ連邦議会でカジノ閉鎖法が成立した。 北ドイツ連邦のカジノ閉鎖法は、1970年3月のドイツ連邦憲法裁判所判決でも 引用されており、北ドイツ連邦からドイツ帝国、第3帝国、第2次大戦後まで 適用された。その内容は以下の通り。(著者試訳)。 1868年7月1日 公的カジノの閉鎖、制限に関する法律 ヴィルヘルム・プロイセン国王は連邦参議院、連邦議会の賛成により 北ドイツ連邦の名のもとに以下を定める。 第1条 公的カジノには免許も許可も与えられない。 第2条 現在許可のあるカジノは、各領邦の法律に従って許可が与え ら れ た 期 間 の 満 了 と と も に 期 限 前 に 閉 鎖 さ れ な い 限 り 、 遅 く と も 1872年12月31日をもって閉鎖される。早期の閉鎖は北ドイツ連邦 議会議長のもとで決められた法令により、それぞれのカジノにおい て総意で、あるいはそれぞれの観点で表明できる。この法律が有効 となる日とともに、日曜日、祝祭日の賭博は全てのカジノで禁止さ れる。 第 3 条 閉鎖日に存在するカジノの賃貸借契約、許可は破棄される。 カ ジ ノ の 閉 鎖 お よ び 賭 博 の 制 限 に よ る 逸 失 利 益 に 対 す る 補 償 の 請 求はできない。 署名:ヴィルヘルム国王、副署:ビスマルク・シェーンハウゼン また北ドイツ連邦では刑法を制定し、1871年にはドイツ帝国で北ドイツ連邦 刑法を継続して採用した。1872年の刑法第284条、第285条で賭博に関して以 下のように規定をした。(著者試訳)。

参照

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