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オランダ国際不法行為法に関する研究ノート : -不法行為抵触法を中心として- 利用統計を見る

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オランダ国際不法行為法に関する研究ノート :

-

不法行為抵触法を中心として-著者名(日)

笠原 俊宏

雑誌名

東洋法学

47

2

ページ

101-119

発行年

2004-02-25

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000167/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

オランダ国際不法行為法に関する研究ノート

      不法行為抵触法を中心としてー

東洋法学

七六五四三二一

︵参考資料︶ 目  次 緒言 オランダ国際私法の法典化の動向 オランダ国際不法行為法の展開 オランダ最高裁判所OOく︾判決の内容 不法行為抵触法の立法化の経緯 不法行為抵触法の特徴 結語     オランダ不法行為抵触法 101

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オランダ国際不法行為法に関する研究ノート 緒 言  ハーグ国際私法会議の開催国であるオランダの国際私法については、多くのハーグ国際私法条約の批准に先鞭 を付け、それらをいち早く国内立法に採り入れていることでも注目されるものであるが、そればかりではなく、 その立法・判例の内容が全般的に革新的である点においても、しばしば瞠目されるところが少なくない。そのよ うな理由から、オランダ国際私法については、欧州国際私法の今後の方向を予測させるものとして格別な関心が 抱かれ、すでに若干の論及がされている︵最近のものとして、拙稿﹁オランダ国際家族法立法に関する研究ノートー 婚姻抵触法および相続抵触法を中心としてー﹂東洋法学四四巻一号一六一頁以下︶。  近年、諸国国際私法の法典化ないし改正の活性化には顕著なものがあるが、オランダ国際私法の場合は、その 規則の不備が認識されながら、法典化が放置された時期がかなり継続したように見受けられる︵その情況を検証 するものとして、冨雲ユ8く。勺o訂ぎ↓○薫畦房8q強8U暮魯冥一く簿Φ営譜ヨ呂o奉=四註・≧鳴導ミ無§駐﹄ミミミ§§ミ ト§寒蔑§︵以下、自肉として引用︶一8どマω旨9ω8。︶。現在、単一の国際私法典の制定は計画されておらず、 寧ろ、ある程度の単位法律関係ごとにその規則を成文化するという方針の下に、その整備が進められている。こ の小稿において論及されようとしている不法行為抵触法もまた、そのようなオランダ国際私法の一部を構成する ものである。以下は同抵触法上の規則を概観することを主たる目的とするものであるが、それに先立ち、オラン ダ国際私法の最近の全体的動向についても、法典化との関連において術轍しておきたい。 102

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ニ オランダ国際私法の法典化の動向

東洋法学

 オランダ国際私法の法典化の作業の開始は一九八○年代であるが、その後の一〇年間は、判例法および学説に よってその実定法が構成されていた。しかるに、一九九〇年代に入ってからは、諸外国や国内立法やEU条約等 の影響を受けて、それらの殆どが成文化されるに至っている︵図きα声中囚茜ヨ璽U暮魯箕貯簿巴耳Φ旨蝕自巴 冨妻10<R≦Φ≦おOo 。−︾q讐曾80ド、x嚢傍魯Gり﹄ミミ§織§ミ§、嵐ミト黛ミ駄ささミ§簑§ミ︵以下、霜§として引 用︶80ρψ認ご。  法務省が国際私法の法典化の作業に着手したのは一九八○年代の初頭であり、法務大臣が諮間のためにオラン ダ国際私法常任委員会に未公表の予備草案を付託したのが一九八二年である。その予備草案は﹁青本﹂と呼ばれ るものであるが、その目的は、国際管轄および外国判決の承認・執行の規則を含む一連の国際私法規則を法式化 することである。同委員会はその作業を開始したが、数年後、国際私法の全体を網羅する統一法の立法化を遂行 しようとする法務省の計画に疑念が抱かれるようになり、一九九〇年のオランダ国際法協会の年次大会において は、﹁青本計画﹂は殆ど退けられる結果となった︵内轟ヨP自阜︶。そして、それに代わる新しい目標は、既存の規 則を革新することなく整理することを方針とした部分的な国際私法の成文化であり、それに向けて、一九九二年、 法務省は﹁国際私法に関する一般法要綱﹂という整理された国際私法の予備草案を公表したが、その要綱が総則 一〇箇条並びに現行抵触法規則である国内法および条約を含む﹁赤本﹂と呼ばれるものである︵因声目9葦e。 103

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オランダ国際不法行為法に関する研究ノート それはオランダ民法典中の題目の構成に従ったものであり、全ての題目が包括された段階で、現行法が民法典に その第一〇巻として追加されることが企図されている︵内蚕ヨ9量輿︶。なお、整理された法規の予備草案が公表 された一九九二年の段階においては、国際私法に関する国内成文法としては、離婚抵触法︵一九八一年施行︶、氏 名抵触法︵一九九〇年施行、一九九八年改正︶、婚姻抵触法︵一九九〇年施行、一九九八年改正︶、夫婦財産制抵 触法︵一九九二年施行︶が挙げられるに止まっていたが︵これらの抵触法の邦訳として、拙稿・前掲一八一頁以下参 照︶、一九九二年以降における立法作業は加速され、多くの題目の単独法が施行されるに至っている︵国声導9 ま群︶。それらの単独法を列挙すれば、次の通りである。すなわち、外洋、内国航海および航空抵触法︵一九九三 年施行︶、生命保険抵触法︵一九九三年施行︶、婚姻関係抵触法︵一九九四年施行︶、財産保険抵触法︵一九九四年 施行︶、相続抵触法︵一九九六年施行︶、信託抵触法︵一九九六年施行︶、会社抵触法︵一九九八年施行︶、外国会 社法︵一九九八年施行︶、年金受給権平等化抵触法︵二〇〇一年施行︶、不法行為抵触法︵二〇〇一年施行︶、世襲 抵触法︵二〇〇二年施行︶がそれらである︵内声日9PPρω●㎝巽︵㎝ご。  二〇〇一年五月、法務省は抵触規則を整理した別の予備草案を公表したが、これは、全ての現行国内法および 条約、すでに懸案となっている草案の提案、および、常任委員会による提案が含まれている。その意図するとこ ろは、なおも、全ての題目が網羅され、そして、その内容が確保されたならば、民法典に別巻として、整理され た抵触法を付け加えることである︵国声BPp鉾ρψ器。 。甲︶。 104

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三 オランダ国際不法行為法の展開

東洋法学

 従来のオランダ国際不法行為法の規則については、それを条約外のものとオランダが批准した条約によるもの とに分けることができる。後者として挙げられるのは、一九七一年五月四日の﹁交通事故の準拠法に関するハー グ条約﹂、一九七三年一〇月二日の﹁生産物責任の準拠法に関するハーグ条約﹂、さらに、船舶の衝突に関する 一九一〇年九月二三日のブラッセル条約および一九六〇年三月一五日のジュネーブ条約である。なお、前者につ いても、一九五一年の﹁ベネルックス国際私法統一法草案﹂の影響が認められる︵認鼠くき閑。&\寓き誉Φく。 ℃。一曽ぎ℃暑讐①巨R墨け一。墨=餌壌ぼ跨Φ2Φ些①匹ゆ&ω﹂㊤。 。凶巳ωご。  まず、伝統的な不法行為地法主義の規則を定立したのが、シャム︵ω一餌B︶におけるKLM航空機事故について シャム法をそのまま適用したオランダ最高裁判所︵国。鴨寄区︶一九三八年三月一八日判決︵≧&ミN§駄器鳶誌− 特ミ駄§欝︵以下、>﹃として引用︶一。。 。。ふεである。その後、一九六〇年代初頭からは、ベネルックス国際私法統 一法草案第一四条の影響を受けて、損害が行為地以外の国の法域において発生した場合には、その賠償責任は同 国の法律によって規律されるべきものとされ、さらに、一九七二年の条約草案第一〇条においては、不法行為地 法主義が原則として掲げられながら、加害者と被害者の共通常居所や営業地等により、他の国が不法行為とより 密接に関連しているときは、その関連性が当事者に共通の要素に基づく限り、不法行為地法主義に対する例外が 認められている︵くき園09\く。℃o冨F8ら芦や罠ε。例えば、オランダ最高裁判所一九八一年一二月一八日判 105

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オランダ国際不法行為法に関する研究ノート 決︵>黛一。。 。Nる舞︶は、ドイッ会社に雇用されたオランダ人運転手の過失による交通事故について、オランダ国際 私法により、オランダに居住するオランダ人の間の事故にはオランダ法が適用されるべきであると判示している。 また、時として、当事者は今日通常のこととされる準拠法の合意を行なうことが認められている︵くき知。9\く。 評一接もP。F巳β︶。例えば、ライン河の汚染によって惹起された損害賠償事件において、フランス側の被告が オランダ側の原告によるオランダ法の選択に同意したとして、ロッテルダム︵園o辞R量目︶地方裁判所一九七九 年一月八日判決︵ζ一。β=εがオランダ法を適用したのがその一例として挙げられる。かくして、原告の訴え が不法行為法に基づいていても、オランダ裁判所は、契約の準拠法を含め、契約条項を顧慮することがあり、契 約債務と契約外債務との間の明瞭な区分は益々失われつつあるということが指摘されている︵くき寄9\く。 勺o冨ぎぎす︶。  次に、オランダが批准した条約上の抵触規則の適用の情況はどうか。まず、交通事故の準拠法について見れば、 オランダにおいては、一九七八年に前記ハーグ交通事故条約が批准されて以来、同条約上の規則により、殆どの 国際交通事故訴訟が処理されている︵くき勾09\ダ℃o冨F8乙Fロkご。その抵触規則に関する規定は︵溜池 良夫﹃国際私法講義︵第二版︶﹄︵有斐閣、一九九九年︶三七一頁以下参照︶、事故が発生した国の法を準拠法とする伝統 的な不法行為地法主義を原則としている︵同条約第三条︶。ベルギーにおけるオランダ人とベルギー人との間の事 故について、ベルギー法を適用し、オランダ人当事者にベルギi保険会社へ直接請求することを認めたアルク マール︵>涛ヨ四舘︶地方裁判所一九八三年九月二二日判決︵≧&ミ﹄§訣㌧ミミ§ミ軌§亀ミ、ミ§言偽ミ︵以下、毫隔 106

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東洋法学

として引用︶一㊤。 。合一5は、その原則を根拠とするものである。それに対して、より密接な関連性の観点から例外 が定められている︵同条約第四条ないし第六条︶。ドイツ人の子供がオランダでオランダ人に跳ねられた事件にお いて、同裁判所一九八四年八月九日判決︵毫涌一。。 。9屋じはオランダ法を適用したが、その場合、被害者の常 居所地法としてドイツ法が適用されなかったのは、何よりも、当時の西ドイツが同条約の締約国でなかったから であると説かれている︵くき寄&\く。ぽ一畏﹂画P︶。また、交通の管理および安全に関しては、事故発生地の規 則が顧慮されるべきことが定められている︵同条約第七条︶。  同様に、ハーグ生産物責任条約上の抵触規則も、オランダ国際私法の実定法の法源となっている。その内容に ついての論及は、わが国においても少なくない。同条約第四条ないし第七条は、被害者の常居所、生産者の主た る営業所所在地、生産物の取得地、損害発生地の連結点を組み合わせて段階的に準拠法を決定するとともに、一 定の範囲で原告の選択を認めるものである︵木棚照一抽松岡博”渡辺怪之﹃国際私法概論︵第三版補訂版︶﹄︵有斐閣、 二〇〇一年︶一五一頁以下、溜池・前掲書三七九頁以下、山田錬一﹃国際私法︵新版︶﹄︵有斐閣、二〇〇三年︶三七〇頁以 下等参照︶。ズウォレ︵N≦o一一Φ︶地方裁判所一九七六年二月一八日判決︵言肉一Sρまεは、オランダが不法行 為地かつ被害者の住所地であり、生産者がその主たる営業所所在地を西ドイツに有する事件において、オランダ 法を適用している。  そして、前記ブラッセル条約および前記ジュネーブ条約は、渉外的な船舶衝突や海難救助に関するオランダ国 際私法の法源であるが、それらの条約は正確には渉外実質法と呼ばれるべきものであり、それらが適用されるべ 107

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オランダ国際不法行為法に関する研究ノート きときには準拠法選定の間題は生じない。とくに後者の規則は、オランダ商法典中に、航行中の船舶の衝突に関 する第五三四条ないし第五四四a条、航行中の船舶の救助に関する第五四五条ないし第五七六条、国内航行に関 する第九三六条ないし第九四九条として組み入れられている︵くき寄9\ダぽ一畏もP。F巳参︶。なお、前者 の条約が適用されるのは、船舶衝突については両船舶が、また、海難救助についてはいずれか一方の船舶が締約 国に帰属する場合に限られ︵それぞれ、第一二条、第一五条参照︶、後者の条約が適用されるのは、衝突が締約国 の海域において発生した場合に限られる︵第一条第一項︶。条約が適用されないときは、不法行為地法に拠ること ができる。  公海上において発生した事件については、他の事情により、一定の国の国内法が指定されることになる︵くき 寄9\く.℃。一畏もp9け9も●にε。公海における座礁が英国およびフランスに汚染をもたらした事件において、ロ ッテルダム地方裁判所一九六九年四月八日判決︵>黛一り①P蕊eは、公海上の事故を法廷地法に服せしめる英国お よびフランスの国際私法規則に言及し、法廷地法であるオランダ法を適用した。また、オランダ最高裁判所一九 七九年三月一六日判決︵ミ一。β鰹εは、公海上における英国船とオランダ船の衝突につき、オランダ船がオラ ンダ政府の費用負担の下にオランダにおいて修理されることを理由として、オランダ法が適用されると判示した。 さらに、また、アムステルダム︵︾含磐R量B︶地方裁判所一九八四年二月二九日判決は、公海上におけるオラン ダ船と西ドイッ船の衝突つき、被告が原告による法廷地法の適用の主張を争わなかったため、オランダ法を適用 している︵く磐寄9\く,℃9接﹂ぴ一e。 108

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四 オランダ最高裁判所OO<>判決の内容

東洋法学

 前述のように、不法行為抵触法の施行︵二〇〇一年六月一日︶以前、不法行為に関するオランダ国際私法規則 は、道路交通事故、生産物責任および船舶衝突に関する規則を除いて制定されておらず、それらの外の不法行為 については判例法に頼っていた。それとして重要な役割を担ったのがオランダ最高裁判所の一九九三年一一月 一九日のOOく︾判決︵自肉一8合ω$8冨甲U巳呂①目↓3幕霧’︶において判示された規則であり、それによ り、オランダ国際不法行為に関する判例法理が確立された︵目巽窪9畳ωご9U器昌一8包餌&一ω畠Φ国房旨呂2巴Φ 即貯簿お。拝8。ど9ε。噛ご。同判決は、不法行為は、原則として、当事者による準拠法選択を除き、不法行為が 行なわれた国の法律によって支配される、と判示したものである。但し、加害者および被害者が不法行為が行な われた国以外の国に居住し、不法行為の法的結果が全て当該国に存在するときは、同国法が適用されるものとさ れる。これはいわゆる結果の例外である︵丙声日9鉾鉾ρψ竃。9︶。いま一つの例外は、法務官rω鼠犀毒震9に よって定立されたいわゆる従属的連結の例外である。すなわち、不法行為が加害者と被害者との間における現在 または過去の法的関係と密接に結合しているときは、その関係を支配する法が不法行為にも適用されることがで きる、とするのがそれである︵囚声ヨ99 。9鉾ρψ9。。︶。最高裁判所の同判決は、その後、オランダ判例法とし て遵守され、そして、オランダ国際私法常任委員会が提出した草案もその画期的な判決に基づくものである︵≦歩 OP9“P旨ご。 109

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オランダ国際不法行為法に関する研究ノート  それでは、○○く︾判決の内容はいかなるものであるか。次に掲げるのが、○○く︾ダωOU事件の事実の概要お よびOOくト判決の要旨である。同事件はオランダからスイスヘの預金の不正な送金に関するものであるが、スイ ス法とオランダ法とにおける不法行為の出訴期限が異なることから、準拠法の決定をめぐって争われた。  まず、事実は次の通りである。オランダの法人団体であるロッテルダムの○○<︾の従業員であるHがOO<︾ の取引銀行であるオランダの銀行︵オランダに所在︶に約一千万ギルダーの偽造の振替注文を出した。その注文 は、○○く︾とその銀行との間において合意された適正な暗号を含んでおり、ルクセンブルグの銀行ω○■のスイ ス子会社︵以下、スイス一WO一とする︶のチューリッヒ営業所が保有する口座宛て、同金額の送金を請求するもの であった。その口座は、Hの共犯者Aによって開設されたばかりのものであった。その注文が実行された数日後、 Aは、チューリッヒにおいて、スイスω○一による通常の本人照合がなされた後、大部分の現金を引出した。その 後、HおよびA、並びに、現金は姿を消した。そこで、○○く︾が、そのオランダの銀行およびスイス団○一を相 手に、ロッテルダム地方裁判所へ送金された預金の返還を求めたのが本件である。渉外訴訟の関連における被告 はスイスω○いに限られることになるが、OOく︾の請求は、被告が前記振替注文が事実であることを確認するこ となくチューリッヒにおいてAに支払ったことは不注意であると主張し、不法行為を理由とするものであった。 それに対して、スイスωO一は、原告によって主張された不法行為はスイス法によって支配されるものであり、 OOく>が不正行為を知った後一年以上経過しているので、同法の下においてはその請求は期限を徒過していると 争った。なお、オランダ法の下ではその請求は期限︵五年︶を徒過していない。 110

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東洋法学

 ハーグ地方裁判所およびハーグ控訴裁判所は、主張された不法行為はスイスにおいて行なわれていることから、 スイス法が適用され、訴えは期限を徒過していると判示した。それに対して、最高裁判所において、OOく>は次 のように反論した。すなわち、⑥オランダ法が、損害を被った地の法として、被告の賠償責任の存在およびその 範囲について適用されるべきである。さらに、予備的に、㈲少なくとも訴えの期限の間題に関する限り、不正行 為を犯した且およびAがともにオランダ国民であること、OOく︾の口座からスイスヘ預金が送金される詐欺はオ ランダにおいて犯されていたこと、OOく︾およびそのオランダの銀行の所在地がオランダにあること等の諸般の 事情から、不法行為は、オランダ法によって支配された法律関係と結び付いているか、または、オランダ法がそ の間題に適用されるべき程にオランダ法域と結び付いていることが示されている。  オランダ最高裁判所は、法務官の意見と一致して、次のように判示した。  ω﹁オランダ国際私法によれば、不法行為の訴えは、当事者による準拠法選択を除いて、原則として、不法行  為が行なわれた国の法律によって支配される。主張された不正行為ースイス切OUが事前に必要な照合およ  び確認手続きを行なうことなく支払いをなしたーは、チューリッヒにおいて発生した。それゆえ、控訴裁判  所が、他の法律が適用されるべきとする当事者による合意の抗弁がなされなかったため、スイス法を準拠法と  見倣したのは正当である。﹂  ⑭﹁さらに、控訴裁判所が、当事者双方が不法行為が犯された以外の国に居住し、かつ、不法行為の法的結果  が全て同国に所在するときは、不法行為地法主義の原則に対する例外が認められることができると判示したの 111

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オランダ国際不法行為法に関する研究ノート も正当である。しかし、本件の場合には、控訴裁判所が正当にも判断しているように、そのような例外には当 たらない。﹂ ⑥﹁そのほか、OO<︾は、前出㈲において述べられた事実および情況が、少なくとも期限規定に関し、賠償責 任がオランダ法によって支配されるほどに、主張された不法行為とオランダ法域との間における密接な結合を 構成すると明臼に主張している。この主張は正当なものとして容認することはできない。﹂ 以上が○○<>判決の要旨である。    五 不法行為抵触法の立法化の経緯  二〇〇一年六月一日、二〇〇一年四月一一日成立の不法行為抵触法に関するオランダ法︵オランダ王国官報 二〇〇一年第一九〇号︶が施行された。それに至る過程として、右の題目に関する法案が議会へ提出される前に は、法務大臣はオランダ国際私法常任委員会にその間題に関する意見を求めており、それに従い、一九九六年一 二月二三日、同委員会はその意見を公表し、同委員会法案を準備している。議会に提出された法案︵第二六六〇八 号︶および二〇〇一年四月一一日成立の法律は、広範に常任委員会によって提出された右法案に基づいており、 それらが同法案と異なるのは重要でない点においてのみである︵マ≦βU旨畠冥ぞ簿Φ言8ヨ呂○墨=鎖薄↓ぎ 8自8けお鵯巳一薦8旨一算95壽88貝貫自肉N。8︸P旨ご。なお、前記の通り、不法行為抵触法の原型は前 出OOく︾判決にほかならない。 112

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六 不法行為抵触法の特徴

東洋法学

 重要な抵触法規則を規定しているのは第三条ないし第六条である。  まず、第三条第一項は不法行為地法主義を採用している。同条第二項は行動地と結果発生地とが別々の国に所 在する場合について定めている。その場合には、加害者が損害発生地を正当に予測することができなかったとき でない限り、その地の法が適用され、基本的に、被害者を保護する立場が採られている。同条第三項は、加害者 と被害者とが平常的に同一国に居住しているときは、同国法が適用されることを定めている。これは前出OOく︾ 判決における結果の例外に相応する規定であるが、不法行為の結果が当事者の共通常居所地に存在することがそ の適用の要件とはされていないことが指摘されるべきであろう。  次に、第四条は、不正競争から生じる不法行為のための特別規則である。これについては、行為が競争状態に 影響を与える国の法律によって支配されることが定められている。  さらに、第五条が前述の従属的連結の規則を定めている。すなわち、前述の通り、不法行為が加害者と被害者 との間における現在または過去の何らかの法的関係と密接に結合しているときは、この関係を支配する法律も不 法行為に適用されることができる、とするのがそれである。これは前出OOく︾判決における従属的連結の例外に 相応するものである。この規則は、情況に応じて、それを適用するか否かを裁判所の判断に委ねている。そのた め、その基準がかなり曖昧であり、安易に法廷地法の適用へと導かれかねないことが指摘されていた︵U菖昼R 113

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オランダ国際不法行為法に関する研究ノート ↓Φ薯Φβ≧臼肉一8“も。ω$①けωΦρ︶。  また、第六条は、当事者が準拠法を選択したときは、第三条ないし第五条の諸規定に拘わらず、選択された法 律が最優先して適用されることを定めている。但し、準拠法の選択は明示的に行なわれるか、または、相当な確 実性をもって表明されなければならない。これは、スイス法、オーストリア法、ドイッ法に続くものである︵中野 俊一郎﹁不法行為準拠法と当事者の意思﹂国際私法の争点一四〇頁、さらに、拙稿﹁ドイツ国際私法における契約外債務お よび物権の準拠法−一九九九年六月一日法の概要1﹂東洋法学四三巻二号一八七頁以下参照︶。もっとも、下級裁判 所判決および学説上においては、実質不法行為法における処分の自由の考え方を受けて、従前から準拠法選択の 自由が認められており︵内簿冨ユ轟切o巴9ミo巴評くO弩鼠む拐貸隻OR什ω叶8酵o糞U旨魯賓貯簿①凶旨Φ旨魯・暴=鋤名 讐跨Φの&・︷跨①N。島8pけ霞零零。ひQおωω9お鴨Φω鳴”5琢幕80琢幕。三αΦω︵痒ン︸暑碧Φ巨①旨蝕・尽=塁 讐魯①の且99Φ8甚。窪9曼一ギ畠お器98嬢8興N8ρPω目卑ωβ︶、第六条の内容に新規性が認められる わけではない。もとより、オランダ国際私法の場合、当事者自治による準拠法選定については、立法上ばかりか、 判例上も極めて積極的である︵囚簿冨ユ惹ω8すゑ8一犀押︾三ざ一。 。dgR富房魯ぎ旨ヨ窪馨①耳Φ冒R寄。窪塁魯一 昌算雪邸①鴨p舅嚢一。。・ 。”ψおNε。  そして、第八条は、優先規則とも呼ばれる委任規定を定めている。すなわち、裁判官は、第三条ないし第七条 に拘わらず、不法行為が行なわれた国における人身または財産を保護するため、管理および安全に言及する規則 を顧慮する自由裁量権を有する、とする規定がそれである。 114

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東洋法学

七 結 輩 口口  オランダほど多くのハーグ国際私法条約を批准した国はないということはよくいわれることである。従って、 ハーグ国際私法条約がオランダ国際私法の発展に大きな影響を与えていることは否定できない︵↓﹃琴8野9 ↓箒=お800践R曾8讐αU9魯魯989ご塑ωOヨΦR庄畠ヨきα曽雲躇①豊OPま肉一8ω博巳雪器ρ︶。し かし、このオランダ不法行為抵触法は、むしろ、オーストリア、スイス、ドイツ各国国際私法とともに牽引役を 果たしているということができるであろう。折しも、不法行為に関する抵触法EC規則︵第ニローマ条約︶がブ ラッセルにおいて協定されようとし、また、二〇〇二年における契約外債務の準拠法に関するEC理事会規則予 備草案の提案についての協議に続き、二〇〇三年九月には、同草案の提案に関する協定が開始され、他のEC加 盟国の代表団のため、オランダ法務省は、前記オランダ政府常任委員会の草案の提案が入った付録を含め、同委 員会意見の英訳を作成している︵≦38らF葛串︶。伝統的な不法行為地法主義の原則に対して、前述の結果 の例外および従属的連結の例外が影響力を有する確立した立場となるか、今後、注目されるところである。  以下は、二〇〇一年の﹁不法行為抵触法に関する法律﹂の試訳である。訳出に際しては、韓肉8。ρ戸器N魯 ω8.に掲載された英語訳に拠った。なお、独語訳は、↓ぎヨ器囚&p段O声凶弩o博国霞○冨δ魯8置富旨簿一9巴のω UΦ一鱒誘おo拝80ρωμ8賄hに掲載されている。 115

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オランダ国際不法行為法に関する研究ノート

︵参考資料︶ オランダ不法行為抵触法

   不法行為抵触法に関する二〇〇一年四月一

一日法律

︵オランダ王国官報二〇〇一年第一九〇号︶ 第一条  本法の目的のため、以下は国家の領土の要素を構成するものとして取り扱われるものとする。  a その国家が、天然資源の踏査および開発のため、同国家の領域外にある海底の構成部分において統治権を   行使することが国際法の下に認められているときは、その内部か、その上部か、または、それを覆っている   天然資源の踏査および開発のための設備および他の施設  b その国家によってか、もしくは、その国家のために登録されたか、または、通行証もしくは相当する証書   を発行された船舶であって、公海上か、領域外のもの、または、いかなる登録、通行証もしくは相当する証   書もない場合には、その国家の国民に帰属する船舶であって、公海上か、領域外のもの  c その国家によってか、もしくは、その国家のために登録された航空機であって、航行中のもの、または、   いかなる登録もない場合には、その国家の国民に帰属する航空機であって、航行中のもの 第二条 一 本法は、一九七一年五月四日、ハーグにおいて採択された道路交通事故の準拠法に関する条約︵オランダ王 116

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東洋法学

 国条約集一九七一年第一一八号︶、および、一九七三年一〇月二日、ハーグにおいて採択された生産物責任の準  拠法に関する条約︵オランダ王国条約集一九七四年第八四号︶を侵害しないものとする。 二 本法は、海事法および国内航路法に関する国際私法の諸規則を定めている一九九三年三月一八日法律第七条  をも妨げないものとする。 第三条 ︸ 不法行為、違法行為または準違法行為に関する間題は、その行為が発生した領域が帰属する国家の法律によ  って支配されるものとする。 二 本条第一項の殿損として、ある行為がその行為が発生した領域が帰属する国家以外における人身、財産また  は自然環境に対する有害な衝突を有する場合には、加害者がこれを正当に予見できなかったときを除き、準拠  法は衝突が発生した領域が帰属する国家の法律とする。 三 加害者および被害者が同一の国家に常に居住するか、または、それらの者の本拠を有するときは、前諸項か  らの殿損として、その国家の法律が適用されるものとする。 第四条 一 第三条からの殿損として、不正競争に関する間題は、競争行為が競争関係に影響を及ぼす領域が帰属する国  家の法律によって支配されるものとする。 二 特定の競争者のみに対して向けられているときは、第一項は適用されないものとする。 117

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オランダ国際不法行為法に関する研究ノート 第五条  不法行為、違法行為または準違法行為が当事者間に現存する何らかの法律関係と密接に関連しているときは、 かような不法行為、違法行為または準違法行為に関するいずれの間題も、第三条および第四条からの殿損として、 他の当該関係を支配している法律に服することができる。 第六条 一 当事者が不法行為、違法行為または準違法行為に関する問題の準拠法を選択したときは、その法律は、第三  条ないし第五条の諸規定に拘わらず、それらの者の間において適用されるものとする。 二 法律の選択は明示されるか、または、さもなければ、相当な確実性をもって表明されなければならない。 第七条  第三条ないし第六条に従った準拠法は、とくに次に掲げる事項を支配するものとする。

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自分自身の権利として、被った損害の賠償を受ける権利を与えられた者 損害賠償の権利の移転または譲渡の余地 損害の範囲および賠償の方法 賠償に相当な損害の存在および性質 責任の排除、制限および配分の根拠 責任の根拠および範囲 118

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 9 本人のその代理人の行為についての責任  h 賠償請求権の時効または期限の期間、並びに、その期間が開始する時期、および、それが中断するか、ま   たは、停止する時期 第八条  第三条ないし第七条の諸規定は、交通および安全の諸規則、並びに、不法行為、違法行為および準違法行為の 地において施行されている人身または財産の保護のための他の相当する諸規則を顧慮することを妨げないものと する。 第九条  本法は不法行為抵触法に関する法律として引用されることができる。

東洋法学

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