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国宝・重要文化財建造物の耐震対策

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Academic year: 2021

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(1)西 岡 聡. 国宝・重要文化財建造物の 耐震対策. 一 はじめに 本稿は、国宝・重要文化財建造物の耐震対策について、これまでの歴史的. などがある程度あった。ただ煉瓦造については、早くから耐震対策が始めら. れ て い た。 最 も 本 格 的 に 研 究 が 進 め ら れ た の は 平 成 七 年︵ 一 九 九 五 ︶ の 阪. 神・淡路大震災からである。地震を契機として工学的な研究、耐震診断の進. め方、文化財的価値と耐震対策の在り方等について盛んに研究・議論が行わ. れ、平成一三年︵二〇〇一︶頃までに現在の仕組みの骨子ができあがった。. その後は研究・実績の蓄積を反映する形で耐震診断指針の改訂、手引、事例. 集などが作成され、保存修理工事においても耐震対策が一般化し、実績はよ. り充実したものとなった。事例の蓄積に伴い、文化財建造物の耐震補強に関. する研究も増えてきている。近年ではより適切な補強を目指して既存部材の. 性能確認実験や、補強材料、補強方法開発なども継続的に実施されてきてい. の国宝・重要文化財の耐震対策の状況については概ね把握しているが、個別. 筆者は平成二一年度以降文化庁で耐震対策について継続的に関わり、近年. る。. 文化財建造物の耐震対策は、平成七年の阪神・淡路大震災を契機として本. の研究については拾い切れていない部分もある。研究史というよりは行政史. 経緯と研究成果を整理し、今後の展望を行うものである。. 格的に対策に取り組まれるようになり、その後、地震や国全体の防災に対す. 寄りの記述が多いものとなってしまうが、何卒ご容赦いただきたい。. うものについては、原則耐震診断、耐震補強等の対策を行うようになった。. る。構造対策は、耐震対策だけでなく、軒の垂下や変形抑制のための対策も. まず、文化財行政として、文化庁が示してきた施策の経緯について説明す. 二 文化財の耐震対策についての文化財行政の経緯. る施策の推進に伴って改変、充実が図られてきた。初期の頃は解体修理等の 根本修理に合わせて耐震対策を行うものがある程度に限られていたが、補助. 黎明期の暗中模索に近い時期から数多くの実例の蓄積を経て、現在では耐震. 含まれるが、ここでは耐震対策を中心に説明を行うこととする。. 事業の充実や耐震対策に関する指導内容の徹底により、現在は保存修理を行. 診断、耐震補強に関わるツール、仕組みは概ね整ってきたといえよう。 文化財建造物の耐震対策に関する工学的研究は、昭和初期の法隆寺修理に. されたものがあるが限定的であり、研究としては伝統的建造物群保存地区の. 構造的な検討が実施されたり、塔や門で軒の垂下などの鉛直荷重対策が実施. 三〇年︵一八九七︶の古社寺保存法制定により文化財建造物の保護が本格的. 眼がおかれ、耐震対策は一部の例を除きあまり検討されてこなかった。明治. 二―一 阪神・淡路大震災以前 文化財建造物の防災は、木造が主であることから、もっぱら防火対策に主. 関する坂静雄の研究を嚆矢とする。しかし、戦後は天守の解体修理に伴って. 住宅を想定した土壁や仕口強度の研究や、平城京朱雀門復元に際しての研究. - 146 -.

(2) に始まって以降、文化財が最初に大きな地震被害を受けたのは関東大震災で. 基礎が新設された。建物の耐震の検討がなされたかは不明であるが、部材の. ても天守が倒壊しないよう、石垣の内部に鉄筋コンクリート造の柱梁による. ︵三︶. あろう。. 早急に修繕すべきこと、周囲に池や防火樹帯を設けること、耐火性・防火性. 寺仏殿、唐門が倒壊し、昭堂が大きく傾斜した。関野貞は被害報告の中で、. 書によると、強度計算を東京大学生産技術研究所小野研究室に依頼し設計し. れている。この際、天守の壁面に鋼棒ブレースが設置された。修理工事報告. 松本城天守は、昭和二五年∼三〇年︵一九五〇∼五五︶に解体修理が行わ. 補修以外に特段の補強がなされた跡は見られない。. を有する含浸材を開発すべきこと、復旧可能なように図面や写真などの記録. たとあり、計算書等がなく詳細は不明であるが、計算に基づく文化財建造物. 大正一二年︵一九二三︶九月一日の関東大震災では、円覚寺舎利殿や建長. を取っておくことの必要性を指摘しているが、耐震性能については、倒壊し. の耐震補強としては最初期の可能性がある。また、鉛直荷重対策として、大. ︵一︶. 天守石垣下に元々設置されていた杭基礎を鉄筋コンクリート造杭へ置換する. ても復旧可能としてあまり重要視していなかったようである。 法隆寺では、昭和九年︵一九三四︶から戦争を挟んで保存修理が続けられ. る性状を把握する研究が行われた。法隆寺国宝保存事業部から京都大学工学. われている。この際に実施された構造計算書︵昭和三一年三月二〇日︶が存. 熊本城宇土櫓は、昭和二九∼三二年︵一九五四∼五七︶に半解体修理が行. 工事が実施された。. 部建築学教室の坂静雄に委託されたもので、 ﹁金堂構造の安定度判定に関す. 在する。風荷重、地震力︵水平震度〇・三︶ 、鉛直荷重について検討が行われ. 験、壁土の強度試験などの材料試験から、柱の傾斜復原力、貫の耐力、真壁. 地震では続櫓部分は倒壊したが、五階櫓部分は倒壊を免れた。柱とのボルト. アングルによるブレースが設置されており、平成二八年︵二〇一六︶の熊本. 戦後、耐震的な検討が行われたのは城郭建築であった。福井地震で倒壊し. 施し、鉛直荷重対策として石垣内部に鉄筋コンクリート造基礎を設置した。. 姫路城大天守は、昭和三一∼三九年度︵一九五六∼六四︶に解体修理を実. 昭和二三年︵一九四八︶の福井地震では、丸岡城天守が倒壊した。天守台. り、慶長一六年︵一六一一︶の地震で倒壊し、同一九年に柱間規模を縮小し. 耐 震 補 強 の 先 行 事 例 の 一 つ で あ る。 こ の 建 物 は、 解 体 修 理 に 伴 う 調 査 に よ. 昭和四九年︵一九七四︶に解体修理が行われた熊野神社長床は、文化財の. - 147 -. たが、修理事業の一環として、初めて工学的に木造の建造物の地震時におけ. る研究﹂として昭和一六年︵一九四一︶三月∼一九年︵一九四四︶一一月ま. た。なお、宇土櫓は文化財指定前の昭和二年︵一九二七︶解体修理で、鋼材. の耐力、一/二模型を用いた軸組の耐力などを実験研究し、金堂の耐震、耐. 接 合 部 に は 相 当 な 力 が か か っ た こ と が わ か り、 有 効 に 働 い た も の と み ら れ. ︵四︶. で 全 一 〇 報 で ま と め ら れ て い る。 斗 の 強 度 試 験、 桧 材 の 新 材、 古 材 強 度 試. 風に対する所見をまとめている。ただし、これは戦争激化によって研究成果. る。. た丸岡城天守以外は経年劣化や過大な鉛直荷重の問題で根本修理に至ったも. この際、京都大学の棚橋諒らにより構造計算が行われており、基礎や各部材. ︵二︶. を暫定的にまとめざるを得なくなった事情もあったようである。. のであるが、鉛直荷重だけでなく耐震的な検討、補強が行われているのは興. の静荷重の対策とともに、耐震性能の確認もなされた。. 石垣の崩落により西北隅に転落、部材が散乱した。昭和二六年∼三〇年︵一. ︵五︶. 味深い。. 九五一∼五五︶に復旧工事が行われたが、再びこのような石垣の崩落が起き. 学界展望.

(3) て部材を切り縮めて再用し、足固貫を追加するなどして再建されていたこと. 針、手引の作成に乗り出した。そしてまず地震からちょうど一年後の平成八. 研究協力者会議﹂を立ち上げ、文化財建造物の総合的な耐震対策に関する指. ︵六︶. が判明した。当初の形式への復原に際し、元々地震で倒壊した事実に鑑み、. 財︵建造物︶耐震診断指針﹂ 、﹁重要文化財︵建造物︶所有者診断︵現・耐震. 年︵一九九六︶一月一七日に﹁文化財建造物の地震時における安全性確保に. 煉瓦造建造物は比較的早くから耐震対策が行われており、昭和四九年︵一. 予備診断︶実施要領﹂を策定した。そして二年後の平成一三年︵二〇〇一︶. 耐震補強を実施することとなった。東京大学の杉山英男の指導により、頭貫. 九七四︶に旧近衛師団司令部庁舎、同五六年︵一九八一︶に同志社彰栄館の. 四月に、具体的な診断方法を示した﹁重要文化財︵建造物︶基礎診断︵現・. 関する指針﹂を策定し、三年後の平成一一年︵一九九九︶四月に﹁重要文化. 耐震補強が実施されている。前者は室内側に鉄筋コンクリート壁を増打する. 耐震基礎診断︶実施要領﹂を策定し、耐震対策に関する基本的な指針、要領. と柱頭をボルトにより緊結し、小壁に構造用合板を設置した。. 工法がとられたが、後者は京都大学金多潔の指導により、鉄筋コンクリート. が整備された。. レームによる補強が行われた。平成二年︵一九九〇︶の同志社礼拝堂も金多. 技術協会に対し﹁文化財建造物等の耐震性能の向上に関する試験研究﹂が委. 物の耐震性能に係る試験研究として、文化庁から財団法人文化財建造物保存. これに並行して、平成八年∼一〇年度︵一九九六∼九八︶には文化財建造. ︵七︶. に よ る 補 強 で 課 題 で あ っ た 内 部 木 造 架 構 の 保 存 と 可 逆 性 に 配 慮 し、 鉄 骨 フ. と 西 澤 英 和 の 指 導 に よ り、 内 部 に 鉄 骨 バ ッ ト レ ス に よ る 補 強 が 行 わ れ て い. 託された。その成果は﹃ ﹁重要文化財︵建造物︶耐震診断指針﹂参考資料集﹄. る。 平成二年︵一九九〇︶には山形県旧県会議事堂において、外部に鉄骨バッ. ︵平成一二年︵二〇〇〇︶三月 文化庁文化財保護部建造物課︶としてまと められている。. トレスを付加する補強が行われた。これは、文化財としての価値と構造補強 の意匠性、可逆性等について徹底的な検討が行われ、その過程が修理工事報. 実際の現場では、阪神・淡路大震災発生以降、地震による災害復旧事業を. らである。この地震では、重要文化財︵建造物︶一一六件と重要伝統的建造. ︵一九九五︶一月一七日に発生した阪神・淡路大震災︵兵庫県南部地震︶か. 二―二 阪神・淡路大震災と基礎体制の整備 文化財建造物が本格的に耐震対策に取り組むようになったのは、平成七年. り補強を行った旧五十嵐家住宅︵福島県、平成九年︵一九九七︶完了︶、旧. を行った本興寺方丈︵平成一〇年完了︶などがあり、他地域では合板壁によ. 旧トーマス家住宅︵平成八年︵一九九六︶完了︶ 、合板や炭素繊維等で補強. 成一〇年︵一九九八︶完了︶ 、ステンレス線で外壁煉瓦の脱落防止を行った. 告書に記録されたという点において重要な事例である。. 物群保存地区一件と数多くの文化財が被災し、特に旧神戸居留地十五番館は. 札幌農学校演舞場︵時計台︶ ︵北海道、平成一〇年完了︶ 、鉄骨補強を行った. はじめ、当時進められていた他地域の根本修理現場でも、耐震診断、補強が. 通常レストランで活用されていたものが完全に倒壊するなど、文化財建造物. 天徳寺山門︵秋田県、平成一〇年完了︶ 、彦部家住宅主屋︵群馬県、平成一. 〇年完了︶などがある。以降、解体修理や半解体修理などの根本修理の際に. 進められた。災害復旧としては、免震を採用した旧神戸居留地十五番館︵平. においても耐震対策が必要であることが強く認識された。 地震後、文化庁はただちに﹁文化財建造物の耐震性能の向上に関する調査. - 148 -.

(4) 態把握を目的に文化庁が調査を実施し、平成二一年度から二六年にはそれ以. 六府県︵滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県︶において実. 平成一七年度︵二〇〇五︶より、新たに耐震診断事業の補助事業が開始さ. 外の都道県について文化庁からの委託で実施する所有者診断支援事業を行. は耐震対策を行うこ と が 原 則 と な っ た 。. れた。それまでは保存修理事業に合わせて耐震診断、耐震補強を行ってきた. い、耐震対策の意識醸成に努めた。. 平 成 二 三 年︵ 二 〇 一 一 ︶ 三 月 一 一 日 に 発 生 し た 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 で. が、平成一六年︵二〇〇四︶新潟県中越地震などを受けて新たに耐震診断単. 日、中央防災会議の東南海、南海地震等に関する専門調査会より、中部圏、. 地 震 時 の 被 害 に つ い て の 議 論 が 行 わ れ、 平 成 二 〇 年︵ 二 〇 〇 八 ︶ 二 月 一 八. 二―三 耐震対策の充実と進展 平成一九年︵二〇〇七︶頃より、中央防災会議で中部・近畿圏の文化財の. 震対策の必要性が浮き彫りになる一方で、耐震補強や修理・維持管理をしっ. による流失など、多岐に渡った。この被害により、改めて文化財建造物の耐. や倒壊、壁の亀裂や剥落、瓦や天井材の落下、地盤の地滑りや液状化、津波. 録有形文化財︵建造物︶四三八件が被災し、その被害の内容は、建物の傾斜. 独でも事業化できるようにしたものである。. も、 多 く の 文 化 財 建 造 物 が 被 災 し た。 青 森 県 か ら 三 重 県 に 渡 る 広 域 に お い. 近畿圏の数多くの文化遺産が内陸地震で震度六強以上の揺れによる倒壊また. かりと行っていた建造物は被害が小さく、耐震対策として有効であることが. 文化庁ではこれに並行して、平成一九年度から新たに震災対策部門を設置. し、内容の修正を行うとともに、本格的な補強を行うまでの経過的措置とし. て、改正を行った。改正では、これまでの対策事例、研究成果の蓄積を反映. - 149 -. て、重要文化財︵建造物︶一四三件、重要伝統的建造物群保存地区六件、登. は 焼 失 の 恐 れ が あ る こ と が 指 摘 さ れ た。 こ れ を 受 け て 平 成 二 〇 年 度 に 内 閣. 確認された。. し、耐震対策専門の調査官を配置した。そして平成一九年度は﹁重要文化財. て、少しでも地震被害を軽減させるために行う﹁経過的補強﹂についての記. か ら 一 〇 年 以 上 が 経 っ た 重 要 文 化 財︵ 建 造 物 ︶ 耐 震 診 断 指 針 や 要 領 に つ い. 平成二四年︵二〇一二︶六月、東北地方太平洋沖地震の被害も鑑み、策定. 府、国土交通省、消防庁、文化庁は﹁重要文化財建造物の総合防災対策検討 ︵八︶. 会﹂を発足させ、文化財に求められる防災設備のあり方及び実現方策等につ. ︵建造物︶の耐震診断の推進方策に関する調査研究会﹂ 、平成二〇年度からは. 述も追加した。改正の主要な内容は、所有者診断、基礎診断、専門診断の名. いて議論を行った 。. ﹁ 重 要 文 化 財︵ 建 造 物 ︶ の 耐 震 対 策 の あ り 方 に 関 す る 協 力 者 会 議 ﹂ を 設 置. 称を、それぞれ耐震予備診断、耐震基礎診断、耐震専門診断に改めたこと、. ︵九︶. し、耐震対策の推進に関する議論を行った。本会議は様々な議題について継. 基礎診断において、中地震動時の評価を参考値扱いとしたこと、復旧可能水. ていた耐震対策を、根本修理以外でも耐震対策を実施すること、また不特定. するために事務連絡を発出した。事務連絡では従来根本修理に併せて実施し. ︵一〇︶. また、この改正にあわせて、より積極的に文化財建造物の耐震対策を推進. 準時の性能目標目安を大地震動時の半分としたこと、などである。. 続的に審議を行い、平成二四年度︵二〇一二︶まで開催された。 それらの成果の一つとして、平成二一年度︵二〇〇九︶から、保存修理の 機会ではないものに対し、地震被害を軽減させるための耐震補強を行う耐震. また、所有者診断︵現・耐震予備診断︶については、平成二〇年には近畿. 対策工事について、新たに補助事業を開始した。. 学界展望.

(5) ことを伝えている。この事務連絡は保存修理現場にとってはインパクトの大. ︵二〇一七∼一八︶にかけて、会計検査院により﹁文化財建造物の耐震対策. こうした耐震対策の制度の充実を図っていた最中に、平成二九年∼三〇年. た。. きいものであった。それまでほぼ解体修理、半解体修理などの根本修理のみ. について﹂の調査が実施され、特に不特定が出入りする文化財建造物の耐震. ﹁伝統的建造物群の耐震対策の手引﹂が完成、ホームページへの掲載を行っ. で進められてきた耐震対策を、屋根葺替等の小修理の機会にも実施するよう. 対策についての問題が指摘された。耐震予備診断や耐震基礎診断、耐震専門. 多数の人が使用したり、脆弱な構造を有するものは修理にかかわらず耐震対. 拡大したもので、これにより耐震化される重要文化財の数は飛躍的に増加し. 診断を実施し、結果が問題ありと知りながらその後特段の対策がとられてい. 策を早急に実施すること、天井材など非構造部材についても耐震対策を行う. た。. ないこと、修理の機会に耐震対策を検討することなく修理を終えていること. 処方針を作成し提出することを所有者へ求め、保存修理の補助事業採択にあ. ︵一四︶. 平成二五年度︵二〇一三︶には、所有者等に向けた耐震対策に関するパン. などが主な内容であった。これを受け、文化庁は改善のための事務連絡を平. 平成二六年度から二八年度︵二〇一四∼六︶の﹁文化財建造物の耐震対策. たり耐震対策未完了のものについては耐震対策の実施を徹底させた。所有者. ︵一一︶. フレットを作成し、対策の必要性を説明周知するとともに、技術者等に向け. 成三〇年八月九日付けで発出し、説明会の開催等による関係者の意識改善に. の在り方に関する協力者会議﹂では、煉瓦造・鉄筋コンクリート造等の文化. や関係者に作業を求めたことにより、耐震対策に関する所有者や関係者の意. ︵一五︶. た 耐 震 対 策 に 関 す る 手 引﹃ 重 要 文 化 財︵ 建 造 物 ︶ 耐 震 診 断・ 耐 震 補 強 の 手. 加えて、耐震対策が完了していないものについては、安全性確保のための対. 財建造物の耐震対策、構造体劣化対策、天井材などの非構造部材の耐震対策. 識は高まり、また保存修理に伴って実施される耐震対策の数も大幅増となっ. ︵一二︶. 引﹄を作成し、冊子の配布及びホームページに掲載した。. について議論を行い、平成二九年︵二〇一七︶三月にこれらを盛り込んだ手. た。. ︵一三︶. 引の改訂を行った。改訂に伴い、事例を二七から四八に大幅に増やし事例集. が 必 要 な 国 宝・ 重 要 文 化 財 四、〇 八 〇 棟 の う ち、 二、五 三 六 棟︵ 六二・二 %︶. 令和元年︵二〇一九︶一一月末現在の文化庁集計によると、現在耐震対策. 平成二八年︵二〇一六︶四月一四日から一五日にかけて発生した熊本地震. の耐震対策が完了しているところであり、このうち六五一棟で耐震補強が実. を別冊とした。. では、重要文化財︵建造物︶三九件、重要伝統的建造物群保存地区三件、登. 施されている。. 三―一 通史的研究 文化財の耐震対策に関する通史的なものとしては、光井渉による﹁地震被. 三 既往の研究. 録有形文化財︵建造物︶七四件で被害を生じた。特に熊本城においては、建 造物の倒壊や石垣の崩落など、城のほぼ全域で甚大な被害を生じた。建造物 の基礎となる石垣の耐震対策は引き続き大きな課題である。. の在り方に関する協力者会議﹂では、文化財構造実験データ集の作成や、伝. 害と文化財建造物﹂ ︵ ﹃月刊文化財三九〇号﹄平成八年︵一九九六︶二月︶が. 平成二九年∼令和元年度︵二〇一七∼一九︶の﹁文化財建造物の耐震対策. 統 的 建 造 物 群 の 耐 震 対 策 等 に つ い て 議 論 を 行 っ た。 令 和 二 年 一 月 一 七 日、. - 150 -.

(6) ある。これは、阪神・淡路大震災から一年後にまとめられたもので、それ以. 材や斗、壁土の材料試験、柱の傾斜復原力、貫の耐力、真壁の耐力試験など. 戦後、伝統木造の研究は数は多くないものの、前出の天守等の城郭建築の. を実施している。. 構造対策や、主に軒の垂下など鉛直荷重の対策において必要に応じて構造的. 前の文化財の耐震対策の経緯について概ねまとめられている。 それ以降の通史については、本論の前半が行政史的としては整理されたも. な検討、補強が実施された。そこで主体的役割を果たしていたのが京都大学. の 坂 静 雄 の 流 れ を 汲 む 棚 橋 諒、 金 多 潔、 西 澤 英 和 ら で あ り、 法 隆 寺 五 重 塔. のとなるであろうが、近年の事例を含めた通史はまだない。特に木造につい. 城郭建築の耐震補強史については、西川英佑が﹁城郭における震災対策の. ︵昭和二七年解体修理、鋼材による軒の垂下防止補強︶、平等院鳳凰堂︵昭和. ては近年の通史はな い 。. あゆみ﹂︵﹃月刊文化財六二〇号﹄平成二七年︵二〇一五︶五月︶で、近世以. 修理、鋼材による軒の垂下防止補強︶ 、東福寺三門︵昭和五二年解体修理、. 三一年解体修理、尾垂木、肘木等の補強︶ 、法起寺三重塔︵昭和五〇年解体. 煉瓦造文化財建造物の耐震対策の通史については、 ﹃建築・土木分野にお. 鉄骨補強︶ 、清水寺三重塔︵昭和六一年半解体修理、鋼材による軒の垂下防. 前から現在までの主要な城郭建築の耐震対策についてまとめている。. け る 歴 史 的 構 造 物 の 診 断・ 修 復 検 討 委 員 会 報 告 書 ﹄ ︵社団法人日本コンク. 止補強︶で構造的な検討と補強が実施された。. 昭和五六年∼五七年︵一九八一∼八二︶ 、東京文化財研究所の伊藤延男は. 科研費研究﹁建造物・美術工芸品の劣化現象と保存・修復に関する研究﹂の. ︵一六︶. い伝統的な大規模木造建築物の構造性能を評価するために様々な検討が行わ. 門の復元に向けた調査研究が本格化する。建築基準法三条適用除外を受けな. ︵一七︶. - 151 -. リート工学協会建築・土木分野における歴史的構造物の診断・修復研究委員 会 平成一九年︵二〇〇七︶六月︶に事例を含めた通史が含まれる。また、. 一部として、西浦忠輝、安藤直人、杉山英男らとともに主に民家や住宅を想. 定した柱、貫、やほぞ差部の接合部強度、貫軸組や土壁、板壁の水平耐力、. 東 京 文 化 財 研 究 所﹃ 未 来 に つ な ぐ 人 類 の 技 一 七 煉 瓦 造 建 造 物 の 保 存 と 修   復﹄︵平成三〇年︵二〇一八︶︶には、井川博文が﹁煉瓦造文化財における保 存修理について﹂として通史と課題を整理しているほか、補強方法を含めた. れは、文化財建造物の保護が社寺中心から民家へ拡大し、昭和五〇年に重要. 継手︵鎌継ぎ、金輪継ぎ︶の強度などについて実験的研究を行っている。こ. 鉄筋コンクリート造文化財建造物の耐震対策については、前述の日本コン. 伝統的建造物群保存地区の制度がはじまり、社寺に比べて地震に対して脆弱. 事例集がまとめられ て い る 。. クリート工学協会の報告書のほか、東京文化財研究所﹃未来につなぐ人類の. もので、これらの成果は、 ﹃文化財保存を目的とした歴史的住宅建築の構造. と想定される民家・住宅の耐震性能把握のための基礎資料収集を目的とした. 技一二 コンクリート造構造物の保存と修復﹄ ︵平成二二年︵二〇一〇︶ ︶に も事例等がまとめら れ て い る 。. 三―二 伝統木造 に 関 す る 工 学 的 研 究 文化財建造物の耐震性能に関する研究の嚆矢は、先述のように、昭和一六. れた。建築構造からは、金多潔、杉山英男、内田祥哉が委員となり、垂木や. 力学的研究﹄としてまとめられている。. 年∼一九年︵一九四一∼四四︶にかけて行われた坂静雄による﹁金堂構造の. 昭和六一年︵一九八六︶頃より、奈良国立文化財研究所による平城宮朱雀. 安定度判定に関する研究﹂である。当研究では、実験的検証を主として、桧. 学界展望.

(7) 肘木等軒の構成部材の強度検討、風や地震力に対する鉄骨や木材による補強. の水平構面評価のための強度試験、建物の重量計算に必要な木部、屋根、土. タが少なかった大壁・真壁等の土壁の強度試験、天井や瓦屋根、茅葺屋根面. 壁、建具、畳、天井の重量算定、実大茶室や組物、土壁・板壁等の振動台実. の検討が行われた。 これに並行して、平成二年∼三年︵一九九〇∼九一︶に東京大学の坂本功. この時期には、実現場においても耐震性能把握のための実験研究が行われ. 験、実建物の常時微動測定などが実施されている。. れ、河合直人により﹁古代木造建築の柱傾斜復元力と耐力壁の効果に関する. ている。京都大学西澤研究室では、当時保存修理実施中の冷泉家住宅、旧岡. らにより、科研費研究﹁伝統的木造建築の構造安全性に関する研究﹂が行わ. 実大実験﹂がまとめられた。朱雀門を想定した柱の傾斜復元力の検討及び補. 田住宅の土壁を想定した土壁の強度試験を実施しており、宝塔寺本堂では、. 坂本功、腰原幹雄らの指導により、関家住宅に過去に被害を及ぼしたであろ. 関家住宅主屋及び書院︵平成一七年︵二〇〇五︶完了︶では、東京大学の. になった。以下に研究や実験を伴う特徴的な事例を挙げておく。. その後、各保存修理現場において、必要な場合に実験研究が行われるよう. 震と推定︶によると思われるひび割れの詳細調査を実施した。. ︵二〇︶. 実土壁を切り出した上で試験を実施し、また過去に受けた地震︵慶長伏見地. 強壁としてのダボ入り積層壁の実験が行われた。 そして平成五年∼一〇年︵一九九三∼九八︶にかけての朱雀門復元の施工 にあたっては、さらに実験が重ねられ、木製積層壁、鋼板補強積層壁、上層 ︵一八︶. 内部に木製筋交補強などが実施された。復元建造物ではあるが、伝統的な木 造建築物に本格的な工学的検討により補強を実施した例として、この後に続. さらに奈良国立文化財研究所は、これに引き続き平城宮内の大極殿院正殿. う元禄地震や大正関東地震などの仮想関東地震を想定した地震波に対して解. く文化財建造物の耐震補強の先鞭となった。. の復元設計のため、平成九年∼一〇年︵一九九七∼九八︶に構造実験を行っ. 析が行われ、併せて茅葺屋根面の剛性を調べるための実験が行われた。. ︵一九︶. 善通寺偕行社︵平成一九年︵二〇〇七︶完了︶では、既存筋交壁及び膠材. ている。朱雀門の検討で十分でなかった土壁の強度や伝統的木造架構や斗組 の実験を実施し、大極殿院正殿では免震工法を採用し上部はほぼ伝統工法に. 唐招提寺金堂︵平成二一年︵二〇〇九︶完了︶では、大規模な古代建築の. を用いた集成材補強の実験が行われた。. 平成七年︵一九九五︶の阪神・淡路大震災以降、文化庁は前述のように平. 解体修理に伴い柱の内倒れや組物の外倒れなどの変形の性状を解析結果と比. よる施工を実現した 。. 成八年∼一〇年度︵一九九六∼九八︶に、 ﹁文化財建造物等の耐震性能の向. 旧岩崎家住宅洋館及び大広間︵平成二四年︵二〇一二︶完了︶では、既存. 較検討することや斗組の載荷実験などを実施し、原因の究明が行われた。. データを得ることを目的として、既往研究・事例の収集、試験体による各耐. の特殊な壁の耐力評価と補強の検討のため、洋館の既存の筋交壁や斜め木摺. 上 に 関 す る 試 験 研 究 ﹂ を 実 施 し た。 文 化 財 建 造 物 の 耐 震 性 能 把 握 に 必 要 な. 震要素の性能把握、実大実験による耐震性能解析が行われた。財団法人文化. 漆喰壁、大広間の紙張下地である面格子+木摺壁の実大実験が行われた。. 室、同清家研究室、京都大学西澤研究室、職業能力開発大学校前川研究室、. 造の重要文化財ではじめて免震が用いられた。過去に移築を繰り返した建物. 護国寺月光殿︵旧日光院客殿︶ ︵平成二五年︵二〇一三︶完了︶では、木. ︵二一︶. 財建造物保存技術協会が受託し、建築研究所河合研究室、東京大学坂本研究. 横浜国立大学大野研究室などが実験研究を実施した。具体的には、当時デー. - 152 -.

(8) 設計手法を含む﹃伝統的構法のための木造耐震設計法 石場建てを含む木造 建築物の耐震設計・耐震補強マニュアル﹄が令和元年︵二〇一九︶六月に伝. で、オリジナルの柱足下及び礎石が失われていたため免震構造を仕込むこと が可能であり、また障壁画の損傷を極力抑えるために変形を抑制する目的で. 統的構法建築物設計マニュアル編集委員会から刊行されている。. まっている。重要文化財建造物では、近衛師団司令部庁舎、同志社彰栄館、. 三―三 煉瓦造、鉄筋コンクリート造の耐震対策に関する研究 煉 瓦 造 の 文 化 財 建 造 物 の 耐 震 対 策 は、 前 述 の よ う に 木 造 よ り も 早 く は じ. 免震を採用したもの で あ っ た 。 姫路城大天守︵平成二六年︵二〇一四︶完了︶では、既存部材を極力評価 するため、土壁︵大壁︶、長押、床組などの実大実験を行い、実験結果を基 ︵二二︶. 北海道大学農学部第二農場︵平成二七年︵二〇一五︶完了︶では、複数の. 山形県会議事堂などで早期に補強が実施されたが、主要な研究開発は文化財. に時刻歴応答解析を 実 施 し た 。. 洋風建築の耐震診断にあたり、外壁下見板壁と内壁板張壁の性能確認実験を. 業界以外で進められた。. ︵二三︶. 鉄筋コンクリート造については、旧山邑家住宅︵淀川製鋼迎賓館︶が同構. 実施した。. 瑞巌寺本堂︵平成三〇年︵二〇一八︶完了︶では、小壁における変形性能. 界平和記念聖堂など大型の文化財でも耐震対策が実施されたが、こちらも専. 造の重要文化財の耐震対策の嚆矢であり、近年では広島平和記念資料館、世. 旧富岡製糸場西置繭所︵令和二年完了予定︶では、木骨煉瓦造という特殊. ら一般建築で培われたノウハウを文化財へ応用して実施されており、文化財. に、東京駅丸ノ内本屋や日本銀行本店本館のように、単費事業で実施される. - 153 -. の高い補強材として、穴あきポリカーボネート板補強の実験が行われた。. な構造の性能を把握するため、木骨煉瓦造壁の実大模型による面内静的載荷. ほか、文化財に特化したものではないが、国土交通省による伝統的構法に. もの、煉瓦造では旧金澤陸軍兵器支廠︵石川県立歴史博物館︶、北海道庁旧. 実際、重要文化財の耐震対策についても、補助事業で実施されるものの他. に特化した研究は少ない。. ︵二四︶. 実験及び振動台による面外方向への実大地震波の加震実験を行い、設計に反. 関する研究等についても触れておきたい。建築基準法の改正により手続が煩. 庁舎、法務省旧本館、鉄筋コンクリート造では旧東京科学博物館本館、早稲. 映させた。. 雑となり困難となっていた伝統的構法による建築の設計を実務的に可能とす. 田大学大隈記念講堂のように、重要文化財指定前に対策を行い、対策完了後. 以下に煉瓦造、鉄筋コンクリート造の耐震対策に関わる研究をあげる。. るために、平成二〇年度︵二〇〇八︶以降国土交通省の補助事業により﹁伝. 年度︵二〇一二︶まで様々な検討がなされてきた。その検討成果を引き継ぐ. ﹃無補強煉瓦造建築及び市街地建築物法期の鉄筋コンクリート造建築耐震. に重要文化財指定されたものも数多くある。. 形 で、 伝 統 的 工 法 デ ー タ ベ ー ス 検 討 委 員 会 に よ り 伝 統 構 法 に よ る 様 々 な 継. 性能評価ガイドライン﹄ ︵財団法人国土開発技術研究センター 監修京都大. 統的工法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会﹂が設置され、平成二四. 手・ 仕 口 の 実 験 結 果 や 設 計 の た め の モ デ ル 化 を 含 む デ ー タ が、 平 成 二 九 年. 学建築学教室西澤研究室 平成一〇年︵一九九八︶三月︶は、明治期から戦 前までに建築された無補強煉瓦造や鉄筋コンクリート造の耐震性能評価のガ. された。また、﹁石場建て﹂と呼称される基礎を緊結しない礎石建の建物の. ︵二五︶. ︵ 二 〇 一 七 ︶ 三 月 に﹁ 伝 統 的 工 法 デ ー タ ベ ー ス ﹂ と し て ホ ー ム ペ ー ジ で 公 表. 学界展望.

(9) イドラインが示され た も の で あ る 。 ﹃明治期灯台の保全﹄︵︵財︶日本航路標識協会 平成一四年︵二〇〇二︶ ︶ は、 海 上 保 安 庁 が 管 理 す る 石 造 や 煉 瓦 造 な ど の 明 治 期 の 歴 史 的 灯 台 に つ い て、歴史的な価値付けを行った上で耐震改修等を実施しており、様々な手法. 三―四 文化建造物の耐震補強に関する理論的整理 文化財建造物の耐震補強に関する理論で、初期のものとしては、棚橋諒、. 高原道夫﹁法隆寺五重塔及び金堂の構造補強﹂ ︵ ﹃建築雑誌八二一号﹄日本建. 社団法人北海道建築技術協会は、平成二二年︵二〇一〇︶に煉瓦造建物の. 造をさけ﹂ 、 ﹁附加物のなかった当初の構造状況を明瞭に看取し得る﹂、 ﹁とり. 切な補強法として、 ﹁当初の構造方式をそのままの形で残すとともに、当初. 築学会 昭和三〇年︵一九五五︶四月︶がある。法隆寺五重塔内部に加えた 鋼製タイロッド補強︵厳密には耐震補強ではないが︶について、古建築に適. 耐震診断と補強方法に関する研究委員会︵委員長 南出孝一︶を立ち上げ、 中小規模の煉瓦造建物の耐震診断手法として、 ﹁煉瓦造建築物の耐震診断基. かえ、除去等が可能﹂と説明している。オリジナルの構造形式の尊重、区別. を用いた耐震補強例 を 掲 載 し て い る 。. 準﹂︵平成二七年︵二〇一五︶五月改訂第二版︶をまとめている。. 性、可逆性と現在の文化財耐震補強に通ずる考え方が既に示されている。. 前川歩﹁昭和初期の建造物修理からみる文化財における構造工学の受容過. の構造方式の持つ結果を是正する手段を明瞭に附け加えることによって偽構. ﹃ 建 築・ 土 木 分 野 に お け る 歴 史 的 構 造 物 の 診 断・ 修 復 研 究 委 員 会 報 告 書 ﹄ 平成一九年︵二〇〇七︶六月︶は、   煉瓦造、鉄筋コンクリート造、石造等の非木造の建築・土木構造物に関して. ︵社団法人日本コンクリート工学協会. 文化財建造物保存技術協会は、煉瓦造文化財建造物の耐震調査手法整理の. らの補強理念を比較し、坂が東大寺南大門で実践した部材を置き換えてでも. 修理において構造工学の受容の状況を分析したものである。坂静雄、棚橋諒. 程﹂ ︵ ﹃遺跡学研究第一三号﹄日本遺跡学会 二〇一六年︶は、この棚橋の考 え方に至るまでの昭和初期から昭和二〇年代までに実施された文化財建造物. ため、﹃歴史的煉瓦造建造物の構造検討のための調査方法﹄ ︵財団法人文化財. 構造的特性の保存を目的としたものから、棚橋が法隆寺五重塔で実施した当. 劣化調査、耐震診断、耐震補強について調査研究を行ったものである。. 建造物保存技術協会近代化遺産等修復研究会組積造建造物の構造に関する専. 方法で付加する方法に移り変わっていく過程を整理している。. 西澤英和、金多潔は、棚橋の流れを汲んで文化財の構造補強に早くから関. 初の構造方式を保存しつつ欠陥を是正する手段を可逆的で明瞭に区別可能な. 門部会編 平成二一年︵二〇〇九︶三月︶をまとめている。既存の調査事例 を網羅的に整理し調査方法を提案したものである。 近年では、青木孝義らによる科研費研究﹁歴史的建造物のオーセンティシ. 与しているが、 ﹁層塔の構造形式に関する力学的な考察︱鉄骨による構造補. 法隆寺五重塔、法起寺三重塔や清水寺三重塔の軒の垂下防止のための鉄骨に. ティと耐震性確保のための保存再生技術の開発﹂が平成二八年度∼令和元年. 東京文化財研究所は、近代の文化遺産のの保存修復に関する研究会におい. よる補強方法についての説明の前段として、文化財建造物の構造補強につい. 強を巡って︱﹂ ︵ ﹃建築史学第一三号﹄平成元年︵一九八九︶九月︶において. て、平成一一年度と二八年度に煉瓦造建造物の研究、平成二二年度と三〇年. て一般的に考慮すべき条件として、﹁当初の架構の形態が明瞭に看過できる. 度︵二〇一六∼一九︶で実施されている。. 度にコンクリート構造物の研究を行っており、耐震対策に関する内容が含ま. こと。このため補強材は目だたないことが望ましい。 ﹂﹁将来の解体修理に際. ︵二六︶. れている。. - 154 -.

(10) し て、 補 強 材 は 容 易 に 撤 去 し う る こ と ﹂ ﹁補強材によって本来の架構の荷重. 記録の公開の推奨などが提示された。. る こ と を 前 提 と し た 上 で、 ① 意 匠 を 損 な わ な い こ と、 ② 部 材 を 痛 め な い こ. 平成二五年︵二〇一三︶の﹃重要文化財︵建造物︶耐震診断・耐震補強の. 阪神・淡路大震災後は、文化財の構造補強に関する議論が本格化し、まず. と、③可逆的であること、④区別可能とすること、⑤最小限の補強であるこ. の伝達経路を大幅に変更しないこと。すなわち、補強のために当初の架構が. 平成八年︵一九九六︶一月一七日付けで文化庁により﹁文化財建造物等の地. との五つに整理した。このとき、オリジナルの構造形式の尊重を入れるかど. 手引﹄では、指針に示された考え方を集約しわかりやすくより具体的に提示. 震時における安全性確保に関する指針﹂が示された。文化財建造物といえど. うかが議論となった。もちろん理想的には望ましいが、現在求められる耐震. 構造上の機能を失って、擬構造化することは避けること。 ﹂の三つを挙げて. も地震時には安全性確保が必要であること、文化財的価値を損なわない可能. 性能に対しあまりにも脆弱な構造である場合も現実には多く見られるため、. するために、文化財建造物の耐震補強の原則として、文化財的価値を尊重す. な範囲で補強を進めるとともに、ソフト面の対策も併せて行うこと、補強に. あえて採用が見送られた。. いるが、これは前述の棚橋らの論をほぼ踏襲している。. より文化財的価値を失うなどやむを得ない場合は立ち入りを制限すること、. 耐震対策についての理論的な整理については、現在では一段落した感があ. 平成一一年︵一九九九︶に策定された﹁重要文化財︵建造物︶耐震診断指. ら、付加物とわかり似合っていればよく、必ずしも同じ素材にこだわる必要. 造補強めがね論と称して建物にとって構造補強はめがねのようなものだか. - 155 -. などの考え方が示さ れ た 。. り、個別物件ごとの検討を除いては大きな議論が起こることは希である。. 近年の耐震補強論として、文化財建造物の耐震補強に構造設計事務所とし. 文化庁の耐震対策に関する検討に並行して実施された平成七年∼八年の加 藤 邦 男 ら に よ る 科 研 費 研 究﹁ 文 化 財 建 造 物 の 耐 震 的 保 存 方 法 に 関 す る 研 究 ﹂. て携わる冨永善啓の論文がある。﹁文化財建造物の構造補強の考え方︱実務. ︵二七︶. では、最終的に提言として﹁歴史的建造物の耐震対策の基本的考え方﹂が示 された。そこには、歴史的建造物の耐震対策の基本的考え方として、歴史的. か ら の 発 想 ︱﹂ ︵ ﹃建築の研究 №二二七﹄一般社団法人建築研究振興協会     二〇一五年二月︶ 、 ﹁なぜ文化財では文化財の破壊を伴う耐震補強を推し進め. るのか﹂ ︵ ﹃ 遺 跡 学 研 究 第 一 三 号 ﹄ 日 本 遺 跡 学 会  二 〇 一 六 年 ︶ で、 補 強 は ﹁文化財的観点﹂ ﹁物理的観点﹂﹁社会的観点﹂の三つから決まるとの整理の. 建造物の保存と安全性確保、それらの周知徹底の重要性についてを基本理念. 物件ごとに個別的に判断されなければならないこと、伝統工法と現代工法双. ほか、文化財の耐震補強は、補強を取り付けることが文化財に与える影響と. とし、構造補強については重点を置くべき価値、周辺環境、使用状況等から. 方による補強があり得ることなどが述べられている。なお、この時期には耐. いう狭い観点から見た場合は文化財の破壊を伴う絶対悪であるとの論や、構. 針﹂では、耐震診断の手順とともに、耐震性能の向上措置については、文化. はない、など平易な言葉を用いて論じている。. ︵二八︶. 震補強に関する研究会等も数多く開催されている。. 財的価値の尊重のための材料、工法、仕様、意匠の尊重、健全性維持のため. フト対策の検討、簡易な補強等の応急措置の検討、多角的な検討の必要性、. の修理・補修の推奨、活用の見直しや危険性明示・避難経路の確保などのソ. 学界展望.

(11) 三―五 事例分析 耐震補強の実施例が増えるにつれ、それらを分析する研究も増えている。. 林章二、福和伸夫、松波秀子﹁歴史的建造物の保存修復事例に基づく保存. 対策工事報告書に掲載されている。これらは基本的に文化財建造物保存修理. ついて文化財指定を問わず収集整理し、免震事例に着目した分析や、保存の. 五七B 平成二三年︵二〇一一︶三月︶は、鉄筋コンクリート造の歴史的建 造物の耐震補強の事例︵ファサード保存や意匠継承などの新築改修含む︶に. 方針と耐震補強方法の対応関係の分析﹂ ︵ 日 本 建 築 学 会 構 造 工 学 論 文 集 . 主任技術者が執筆し、構造設計者が耐震診断・補強に関する部分を分筆する. 方針と耐震補強レベルについての改修年による変遷などについて分析を行っ. 文化財の耐震補強の事例は、基本的にはそれぞれの修理工事報告書、耐震. ものが多い。初期のものは耐震に対する理解不足から記述不充分なものも散. ている。価値において重要な要素である仕上材の被害について、一九二三年. 究﹂ ︵日本建築学会大会学術講演梗概集︵九州︶ 平成二八年︵二〇一六︶八 月︶は、木造の国宝重要文化財建造物の耐震診断、耐震補強工法の傾向につ. 奧廣晴香、森藤祥裕、宮本慎弘﹁文化財建造物の耐震補強工法に関する研. 損傷と概ね一致するとしている。. 関東地震と一九九五年兵庫県南部地震の被害調査資料から分析し、構造体の. 見されるが、現在はほぼ充分な記述がなされている。 事例を集約したものとしては、初期のものとしては﹃ ﹁重要文化財︵建造 物︶耐震診断指針﹂参考資料集﹄︵文化庁文化財保護部建造物課 平成一二. 化財︵建造物︶耐震診断・耐震補強の手引︵改訂版︶事例集﹄ ︵文化庁文化. を参考に分析を行っている。補強における鋼材の使用について、民家の場合. 年︵ 二 〇 〇 〇 ︶ 三 月 ︶、﹃ 阪 神・ 淡 路 大 震 災 と 歴 史 的 建 造 物 ﹄ ︵ 加 藤 邦 男 編  平成一〇年︵一九九八︶二月二五日︶がある。近年のものとしては﹃重要文. 財部参事官 平成二九年︵二〇一七︶三月︶があり、四八事例を掲載してい   る。ほか、前述の耐震補強に関する研究会報告書︵註二八参照︶においても. 五〇〇平方メートルを超えると鋼材補強が増えるなどの傾向や、ベースシア. て、主に構造設計者に対してヒアリング等を行い、補強の意志決定プロセス. ︱﹂︵日本建築学会計画系論文集第五九〇号 平成一七年︵二〇〇五︶四月︶   は、 木 造 の 重 要 文 化 財 建 造 物 の 耐 震 補 強 に つ い て、 初 期 の 三 三 事 例 に つ い. で、より良い文化財建造物の耐震対策のために必要な今後の展望について、. ら、 実 務 に 携 わ る 上 で ま だ ま だ 課 題 が 多 い と 感 じ る こ と は 多 々 あ る。 そ こ. が、初期に比べると事例や研究も蓄積されてきたことがわかる。しかしなが. 四 文化財建造物の耐震対策に関する今後の展望. 係数に着目して補強前後の性能比較を行っている。. いて、平成一六年∼二五年度に竣工した一三七棟について修理工事報告書等. いくつかの事例が掲 載 さ れ て い る 。 事例を分析した研究としては、以下のものがある。 角陸順香、清家剛、藤田香織、宇野繕晴﹁木造重要文化財建造物の耐震補. について分析を行った研究である。補強に関する意志決定のプロセスは修理. これから研究が求められることや、批評、検証が必要と思われることについ. 強における意志決定プロセスに関する研究︱構造設計者の役割を中心として. 工事報告書からでは読み込めないものも多く、また実際に補強方法を決定す. て、整理しておきたい。. ここまで、文化財建造物の耐震対策に関する過去の経緯について整理した. る上で重要な役割を果たす構造設計者からの意見を集約したという点で貴重 な研究である。. - 156 -. Vol..

(12) 四―一 工学的研究に関する課題 工学的研究という面では、初期に比べれば実例や研究も増えており、相当 充実したものになってきている。今後もこれらのさらなる蓄積、充実が求め. きる建具の開発も行われている。. ︵三一︶. また、炭素繊維材やガラス等新素材による補強材も試みられている。. なお、通常良く用いられる合板補強壁についても、文化財に用いる上では. が増えてきた。木材の材料強度は法令等に定められる基準値や既存の実験結. る。診断の精度が高くなるにつれて、大変形時に柱の折損が問題となること. 四―一―一 性能把握 性能把握について近年実施されていることは、木材の材料強度の評価があ. 他は補強材の意匠的な工夫であろう。木造で見え掛かりに補強が露出する. れ使用されている。このような薄型の補強材も開発が求めれるものである。. 用した合板補強など、三〇ミリメートル程度に納められる補強方法が開発さ. ることが多い。そのため、真鍮枠を使用した合板補強や、ステンレス枠を使. まだ改良の余地がある。合板補強壁は辺付などを含めると五〇ミリメートル. 果を使うことが多いが、実際は目の詰まった良材であるなど、より良い数値. 場 合、 木 造 の 壁 の 補 強 で あ れ ば、 格 子 壁 を 使 っ た り 土 壁 風 に 仕 上 げ た り す. られる。. が期待できる場合もある。試験体が採取可能な場合は材料試験を行えばよい. る。鋼材を使う場合は、ボルト等の接合部の存在感をいかに消すかが課題と. ︵三三︶. ︵三二︶. ほか、漆喰塗やモルタル塗の天井の落下防止措置、壁のタイルや左官材料. - 157 -. 程度以上の厚さが必要であり、これが柱内に補強材を納める場合に支障とな. が、文化財の場合それが許される場合は多くない。そこで、非破壊もしくは. なる傾向がある。. ︵二九︶. 微破壊で材料強度を推定する方法の開発が試みられている。. また、土壁の強度試験について、文化財修理では近年はあまり実験は実施. の落下防止措置等もよりよい工法の開発が求められる。. 四―一―三 過去の地震に関する被害の検討 文化財の中では過去に地震による被害を受けたものもある。通常実施され. されなくなったが、伝統木造データベースからも実験実施例が増えているこ. り、それらから基準値を割り出すとどうしても低めの値となってしまう。個. る耐震診断の中でも過去の地震被害履歴は確認事項に含まれているが、実被. と が わ か る。 土 壁 は 土 に よ る 差、 施 工 に よ る 差、 地 域 差 の 大 き い 材 料 で あ. 別では、基準値より強度が期待できるものもあり、反対に弱いものもある恐. 害の検討まで至った事例はあまり多くない。. 建長寺昭堂は、大正一二年の関東大震災において大きく傾斜する被害を受. れもある。また、既往の実験も、再現土壁による実験は多いが、既存壁の切 り出しによる試験は極めて少ない。今後さらなる研究の蓄積が期待される。. けており、古写真や記録からその被害状況が詳細に判明する。現在実施中の. 果と実被害の比較検討をしながら対策が進めてられている。. 熊本地震の被害においても、熊本城や阿蘇神社、江藤家住宅では、診断結. が詳細に行われている。. 保存修理工事に伴う耐震診断において、当時の実被害と診断結果の比較分析. ︵三四︶. 四―一―二 補強材 補強材について近年試みられているものとして、建具形の補強材の開発が ある。従来は建具は耐震性への寄与が想定されていたが、脱落の恐れや制御 の 困 難 さ か ら な か な か 実 用 に は 至 ら ず、 耐 力 壁 に 置 換 さ れ る こ と が 多 か っ. 鴨居に固定する補強の実施例が増えてきた。また、障子のように光を透過で. ︵三〇︶. た。近年住宅、書院型の建物で、襖や板戸を合板等の補強建具に置換し、敷. 学界展望.

(13) ての検証が必要である。近年ではあまり総合的な研究会などは行われておら. 四―二 既存の耐震対策の検証 耐震対策が実施されたものも数が多くなってきたことから、これらについ. 破損など軽微であった。. 阪市中央公会堂、大阪府立図書館は耐震対策済であり、被害は土壁の一部の. 北区、中央区は震度四を記録したが、旧緒方洪庵住宅、愛珠幼稚園園舎、大. 平成三〇年︵二〇一八︶六月の大阪府北部を震源とする地震では、大阪市. ず、方法が確立しつつあるとも言えるが、一方で方法の固定化が生じている. 同年九月の北海道胆振東部地震では、札幌市北区は震度五強を観測した場. が、その補強が実地震が来たときにどうなのか、という検証に至ったものは. 四―二―一 耐震対策済のものの実地震に対する検証 阪神・淡路大震災以来、文化財建造物の耐震補強は着々と進められてきた. 舎、旧札幌農学校演武場︵時計台︶ 、豊平館は補強済であったが、特段の被. 耕 馬 舎 の 二 階 筋 交 い が 脱 落 す る 小 被 害 が 生 じ た。 同 じ 市 内 の 北 海 道 庁 旧 庁. は、未補強の釜場の石造煙突にズレが生じたほか、補強済の産室追込所及び. 傾向も否定できない 。. 稀である。それでも、東日本大震災以降少しずつではあるが、実例と呼べる. 害はなかった。. 所 も あ っ た が、 北 海 道 大 学 農 学 部︵ 旧 東 北 帝 国 大 学 農 科 大 学 ︶ 第 二 農 場 で. ものが出てきている。ただ、まだ巨大地震とよべるほどのものはなく、被害. はほとんど未対策であったが、旧五十嵐家住宅は、水平震度〇・二に対して. 平成二四年︵二〇一二︶の東日本大震災において被害を受けた重要文化財. 署庁舎は平成三〇年に保存修理工事を終え耐震補強も実施されたばかりであ. 喰壁に亀裂が多数入るなどの被害を生じたが、同じ博物館内にある鶴岡警察. 度六弱を記録した。致道博物館内の旧西田川郡役所は補強未実施であり、漆. 令和元年︵二〇一九︶六月の山形県沖を震源とする地震では、鶴岡市は震. 変形角一/六〇以下となることを目標に、結果的に一/五六〇に収まるよう. り、漆喰壁の随所に微細なクラックが生じたものの前者に比べ被害は軽微で. も極めて軽微で、補強の検証が可能なレベルに至っていない。. な合板補強が建物外周になされており、合板継ぎ目にわずかなクラックが確. 四―二―二 過去の補強の構造性能的な検証、補強の見直し 過去に実施された構造補強については、基準がないあるいは整備中の段階. あった。. であったが、小規模ながら明導寺七重石塔︵湯前町︶は昭和六〇年の解体修. で実施されたものもあり、再検証が必要になるものがある。初期のものは、. 認される程度の被害 で あ っ た 。. 理で内部にステンレス柱を挿入しシリコンゴムを充填しており被害がなかっ. 許容応力度設計や壁量計算によるものや、当時明らかでなかった性能を評価. 平成二八年︵二〇一六︶の熊本地震において被害を受けた建造物は未対策. た。ほか、耐震対策済ではないが、熊本大学内の旧第五高等中学校本館など. できずに補強を実施したものもある。. 直交壁が桁行方向の外壁が外へ変形したことにより引きちぎられるように竪. ムによる補強が取り付けられたが、活用方法の見直しにより内部空間も公開. 喞筒室、旧金毘羅大芝居がある。前者は、当初喞筒室内部一杯に鉄骨フレー. 補強の見直しが実施されたものとしては、三河島汚水処分場喞筒場施設の. は、耐震診断済で補強を実施する前に地震を受け、被害を生じた。煙突の脱. クラックが入る破損については診断時にさほど想定されておらず、新たに対. することとなり、平成二四年︵二〇一二︶の修理に伴い限界変形角を見直し. 落や煉瓦壁の破損傾向は概ね診断時の想定にほぼ整合していたが、梁間方向. 策を追加する必要が 生 じ た 。. - 158 -.

(14) した。後者は昭和五一年︵一九七六︶の移築修理時に客席平場部分に大梁を. 一部補強を付加するなどをして、壁際の鉄骨柱補強のみ残して鉄骨梁を撤去. 等により意見交換を再開するべき時期かもしれない。. ず、近年ではあまりこれらについて議論する機会はない。あらためて研究会. らえどころがないと嘆く。お互い専門領域が異なるため、安易な批判はでき. 文化財建造物の耐震対策については、本格的に実施されるようになってお. 五 まとめ. 支える鋼管支柱が立てられていたが、平成一六年︵二〇〇四︶補強の見直し で小屋内に鉄骨水平ブレース補強を付加することとなったため、これを用い て大梁を吊り込み、鋼管支柱を撤去した。さらに平成三一年︵二〇一九︶現 行の耐震診断基準に則って診断した結果、耐震性能不足が明らかとなったた. が、昭和四〇年︵一九六五︶の解体修理で撤去され、このたびの修理で再び. な っ た 例 も あ る。 犬 山 城 天 守 は 明 治 期 に 筋 交 い や 補 強 柱 が 付 加 さ れ て い た. から行った復原等により撤去され、近年の耐震診断により再び補強が必要に. 古い補強として、過去に筋交いなどが取り付けられていたが、歴史的側面. が常に衝突しつつ答えを見いだしてきた経緯がよく見えた。近年では耐震へ. り、初期の議論を見返すと、構造の専門家、文化財の専門家それぞれの意見. くものであり、必ず異種の専門家による協調が必要となる。本稿執筆にあた. 課題である。耐震補強は、文化財的側面と構造的側面の両方から決定してい. 有が求められる。また、既存の耐震補強に関する検証はまだまだこれからの. よそ二五年が経過し、今後はさらなるデータの充実に加え、それらの情報共. 外壁内や一階床に合板による補強が付加された。熊本城長塀もかつて筋交い. の意識は非常に高くなってきたことを実感している。ある分野からの一方的. - 159 -. め、あらためて耐震補強工事を実施する見込みである。. が付加されていたが昭和五二年︵一九七七︶の修理時に撤去され、今回熊本. な批判では済まされないところに難しさがあり、研究の難しさがある。文化. ︵三︶ ﹃重要文化財丸岡城天守修理工事報告書﹄ ︵重要文化財丸岡城天守修理委. 報告されている。. の流れ﹂ ﹃月刊文化財三九〇号﹄ ︵平成八年︵一九九六︶二月︶に概要が. ︵二︶坂静雄の研究については、西澤英和﹁伝統木造建築の耐震性と耐震補強. 録追加︶ ﹂ ﹃建築雑誌第四五一号﹄ ︵一九二四年三月︶。. ︵一︶関野貞﹁建築史上より見たる古社寺の災害︵震災に関する第四回講演会. 註. 震対策が進むことを期待したい。. ではないが、これらを横断的に検証するような研究が増え、より良い形で耐. 財保存、現場実務、構造全てを理解するハイブリッドな専門家の育成は容易. 地震災害復旧工事に伴い、偶然ではあるがこれと同位置に鋼棒ブレースが付 加される見込みであ る 。 四―二―三 文化財的価値の側面から見た耐震補強の検証 耐震補強の考え方に関しては、基本的な理論については前述の通りある程 度議論し尽くされた感があるが、実際行われている補強には、様々な批判の 声を聞く場面もある。旧来の構造性能を活かす形の補強ではなく、鉄骨など の別の構造に頼り切った補強となっている、木造に鉄骨などの異質のもので 補 強 を 行 う の は い か が な も の か、 数 値 目 標 を 満 足 す る た め に 過 剰 な 補 強 と なっているのではな い か 、 な ど 。 耐震補強は文化財的価値と必要な耐震性能のせめぎ合いで決まるもので、. れば批判が難しく、構造の専門家は文化財的価値が曖昧で何が大事なのかと. それぞれに言い分があるものであり、文化財の専門家は性能のことを言われ. 学界展望.

(15) 員会 一九五五年三月︶。以下、事例説明で特記なきものは各工事の修 理工事報告書及び筆者の実見による。 ︵四﹃ ︶特別史跡熊本城跡総括報告書整備事業編﹄ ︵熊本市 二〇一六年︶ 。 ︵五︶南 井 良 一 郎﹁ 姫 路 城 大 天 守 の 構 造 補 強 に つ い て ﹂ ﹃ 棚 橋  諒 ﹄ ︵ 朋 木 会  一九七三年三月 ︶ に よ る 。 ︵六﹁ ︶文化財建造物の耐震性能の向上に関する調査研究協力者会議﹂は、平 成七年五月に発足後、平成一〇年度まで開催された。 ︵七︶現行の指針、要領は以下のとおり。 ﹁文化財建造物等の安全性確保に関 する指針﹂︵平成八年︵一九九六︶一月一七日︶ 、 ﹁重要文化財︵建造物︶ 耐震診断指針﹂︵平成一一年︵一九九九︶四月、平成二四年︵二〇一二︶. 文化庁文化資源活用課震災対策部門となった。. ︵ ︶ 平成二四年︵二〇一二︶六月二二日付け事務連絡﹁文化財建造物の耐震. 対策について﹂ ︵ 各 都 道 府 県 教 育 委 員 会 文 化 財 所 管 課 長 宛  文 化 庁 文 化 財部参事官︵建造物担当︶ ︶。. ︵ ︶ パンフレット﹁地震から文化財建造物を守ろう!Q&A﹂︵文化庁文化. 財部参事官︵建造物担当︶ 平成二五年︵二〇一三︶六月︶ 。   ︵ ︶ ﹃重要文化財︵建造物︶耐震診断・耐震補強の手引﹄ ︵文化庁文化財部参. 事官 平成二五年︵二〇一三︶一〇月︶ 。 ︵ ︶ ﹃重要文化財︵建造物︶耐震診断・耐震補強の手引︵改訂版︶﹄ ﹃ 同  事. 施された予備診断の判定結果が公開建造物の耐震診断等に有効に活用さ. 例集﹄ ︵文化庁文化財部参事官 平成二九年三月︶。 ︵ ︶平成二九年度会計検査院検査結果参照。指摘事項は①支援事業により実. れていなかった事態。②耐震診断事業により実施された耐震診断の判定. 六月改正︶、﹁重要文化財︵建造物︶ ・耐震予備診断実施要領﹂ ︵平成一一. ︵建造物︶基礎診断実施要領﹂︵平成一三年︵二〇〇一︶四月、平成二四. 結果が公開建造物の耐震補強等に有効に活用されていなかった事態。③. 年︵一九九九︶四月、平成二四年︵二〇一二︶六月改正︶ 、 ﹁重要文化財. 年︵二〇一二︶六月改正︶。冊子として、旧の指針・要領は﹃重要文化. を実施していて、修理と併せて耐震診断及び耐震補強を実施する場合と. ︵ ︶平成三〇年八月九日付け事務連絡﹁重要文化財︵建造物︶の耐震対策に. 比べて費用が増大するおそれがある事態。. 修理と併せて耐震診断を実施することを十分に検討しないまま修理事業. 財︵建造物︶耐震診断指針﹄︵平成一三年︵二〇〇一︶三月 文化庁文   化 財 部 ︶、 改 正 後 の も の は﹃ 重 要 文 化 財︵ 建 造 物 ︶ 耐 震 診 断 に 係 る 指 針・要領﹄︵平成二四年六月︵二〇一二︶改正 文化庁文化財部︶にま. ついて﹂ ︵各都道府県文化財担当課長、各都道府県教育委員会文化財所. とめられている 。 ︵八﹃ ︶重要文化財建造物及びその周辺地域の総合防災対策のあり方﹄ ︵重要文. 管課長宛 文化庁文化財部参事官︵建造物担当︶︶ 。事務連絡には、﹁重 要 文 化 財︵ 建 造 物 ︶ の 地 震 に 対 す る 対 処 方 針 の 作 成 指 針 ﹂ と、 リ ー フ. 策部門は平成一九年四月∼二〇年三月が長谷川直司、二一∼二二年三月. 歴史的住宅建築の構造力学的研究︱接合部の強度について︱﹄︵財団法. ︵ ︶伊藤延男・西浦忠輝・安藤直人・杉山英雄﹃文化財の保存を目的とした. レット﹁地震から文化財と命を守るために!﹂を含む。. が犬飼瑞郎、二三年四月∼二八年九月が西川英佑、二八年八月∼現在が. 人住宅総合研究財団 平成三年︵一九九一︶二月︶。. 震対策は平成一八年度までは主に整備活用部門が担当していた。震災対. 化財建造物の総合防災対策検討会 平成二一年︵二〇〇九︶四月︶ 。   ︵九︶文化庁では、文化財部参事官︵建造物担当︶が建造物全般を担当し、耐. 筆者が担当している。平成三〇年︵二〇一八︶一〇月、組織改変により. - 160 -.

(16) ︵ の根拠に基づく旧規に復する行為の時に使用する﹁復原﹂を一貫して使. 宝姫路城大天守修理工事に伴う調査工事構造調査報告書﹄ ︵ ︵公財︶文化. ︵九州︶ 二〇一六年八月︶ 。   ︵ ﹃ ︶国宝姫路城大天守構造調査報告書﹄︵建築研究協会 二〇〇六年︶、 ﹃国. ︶平城宮での一連の建造物の再現について、奈良文化財研究所では建造物. 用しているが、本論では一般的に史跡等で用いられる建物の再現行為を. 財建造物保存技術協会 二〇〇七年︶、 ﹃姫路城大天守の土壁実験 実験. 実験 その 実験の概要﹂﹁その  実験結果﹂ ︵日本建築学会大会学術 講演梗概集︵関東︶二〇一一年八月︶。. ︵ ︶ 花里利一、冨永善啓ほか﹁旧富岡製糸場木骨煉瓦造実大壁試験体の耐震. 年︶ 。. 書﹁本文編﹂ ﹁図面編﹂ ﹄︵︵公財︶文化財建造物保存技術協会 二〇一五. ︵ ︶ ﹃北海道大学農学部﹁第二農場﹂及び﹁植物園・博物館﹂修理工事報告. 〇〇九年︶ 。. 報告書﹄ ︵二〇〇八年︶、﹃国宝姫路城大天守調査工事 構造解析修正及 び補強案概案作成業務報告書﹄︵ ︵公財︶文化財建造物保存技術協会 二. さす﹁復元﹂を 用 い る 。. ﹄ ︵奈良国立文. ︵ ﹃ ︶平城宮朱雀門の復原的研究﹄︵奈良国立文化財研究所 平成六年︵一九   九四︶三月︶、﹃平城宮朱雀門復原工事の記録﹄ ︵財団法人文化財建造物 保存技術協会 平成一一年︵一九九九︶三月︶ 。 ︵ ﹃ ︶伝統木造建造物に関する構造実験報告書その ∼その 化財研究所 平成九∼一二年︵一九九七∼二〇〇〇︶ ︶としてまとめら れている。その ︵平成九年八月︶には伝統木造架構の復元力特性の把. 的土壁復原施工経過、その ︵平成一二年一一月︶では木造筋違架構実. れている。 ︶田淵敦士、西澤英和﹁土壁の力学的特性に関する実験的研究︵国指定重 要文化財宝塔寺本堂をモデルとして︶ ﹂ ︵日本建築学会大会学術講演梗概. T字型、L字型金物の引張試. 集︵中国︶ 。  平成一一年︵一九九九︶九月︶ ︶ 宮原作太、石大樹、藤原大輔、木村将士、古川洋﹁旧岩崎家住宅の耐震 性能を確認するための実験的研究 その. 験﹂﹁同その 筋交いを含む木造架構の水平加力試験﹂ ﹁同その 木摺漆. 壁 面格子+木摺壁の水平加力試験﹂ ︵日本建築学会大会学術講演梗概集. 煉瓦造建造物の保存と修復﹄ ︵平成三〇年︵二〇一八︶  . ︵ ︶ ﹁伝統的工法データベース﹂ http://www.denmoku-db.jp/ ︵ ︶ ﹃レンガ造文化財の保存と修復﹄ ︵平成一二年︵二〇〇〇︶ ︶ 、﹃未来に繋 ぐ人類の技一七. 八月︶ 、 ﹃ 未 来 に つ な ぐ 人 類 の 技 一 〇  コ ン ク リ ー ト 構 造 物 の 保 存 と 修 復﹄ ︵平成二三年︵二〇一一︶三月︶ 、にそれぞれまとめられている。平 成三〇年分は報告書刊行見込み。. ︵ ︶ 加藤邦男編﹃阪神・淡路大震災と歴史的建造物﹄︵思文閣出版 平成一. 〇年︵一九九八︶二月︶にまとめられている。. ︵ ︶ ﹃文化財建造物保存事業主任技術者研究会﹄第一〇号︵ ︵財︶文化財建造. 物保存技術協会 平成八年︵一九九六︶ ︶ 、﹃文化財の構造補強に関する. 研究会﹄ ︵ ICOMOS 国内委員会 平成九年︵一九九七︶六月一〇日︶ 、 ﹃文化財建造物耐震補強研究会記録﹄︵東京国立文化財研究所 平成一一. - 161 -. 握、伝統木造斗組架構の復元力特性の把握、炭素繊維による補強接合の 性 能 試 験、 木 材 と 金 属 の 合 成 部 材 の 性 能 確 認 な ど の 実 験 結 果、 そ の. その ︵平成一二年七月︶では実大土壁載荷実験に伴う材料実験、伝統. ︵平成一一年六月︶には伝統土壁の構造特性の把握のための実験結果、. 2 紙貼り下地. 3. 1. 2. 1. 験、炭素繊維補強接合部実験、檜材の長期曲げクリープ実験がまとめら. 4. 喰 壁、 木 摺 漆 喰 + 斜 め 板 貼 り 壁 の 水 平 加 力 試 験 ﹂ ﹁同その. 2. ︵. 3. 1. 1. 4 4. ︵. 学界展望.

(17) ︵. ︵. ︵. 年︵一九九九︶一一月二六日︶など。 ︶ 杉野未奈、李想、結城啓司、立石一、林康裕﹁衝撃弾性波を用いた伝統 木造建物の柱の材料特性推定 重要文化財旧名手本陣妹背家住宅主屋を 例として﹂︵日本建築学会大会学術講演梗概集︵東北︶平成三〇年︵二 〇一八︶九月︶ な ど 。 ︶ 観智院客殿︵平成二八年度完了︶、旧日野医院病棟、離れ︵平成二九年 度完了︶で実施 例 が あ る 。 ︶ 炭素繊維については、善光寺経蔵で水平ブレースに用いられた。ガラス は旧高取家住宅︵平成一七年度完了︶ 、星名家住宅︵平成二三年度完了︶. ︶ 真鍮枠を利用した合板補強は、︵株︶ホンマ・アーキライフが開発した. で用いられてい る 。 ︵. ︶ ステンレス枠合板補強については、古川洋、石大樹﹁伝統建築耐震補強. ︶ 関 東 大 震 災 復 旧 時 の﹁ 修 理 工 事 設 計 書 ﹂ ︵建長寺所蔵︶に﹁二十度以上. 東 ︶  二 〇 一 五 年 九 月 ︶ で 鋼 板 枠 付 き 合 板 耐 力 壁 と し て 紹 介 さ れ て い る。厚三六ミリメートルに納めることができる。. のための耐力壁に関する実験的研究 木摺面格子壁、斜め木摺壁、鋼板   枠付き合板耐力壁の復元力特性の確認﹂ ︵日本建築学会学術梗概集︵関. もので、白山神社能舞台等で施工実績がある。 ︵. ︵ ノ傾斜ヲナシタ リ ﹂ と あ る 。. ︵にしおか さとし 文化庁文化資源活用課震災対策部門︶. - 162 -.

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