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学 位 の 種 類 博士 (医学) 報 告 番 号 甲第1783号 学 位 記 番 号 第1262号 氏 名 加藤 真理奈 授 与 年 月 日 令和 2 年 9 月 25 日 学位論文の題名
Left ventricular end-systolic volume is a reliable predictor of new-onset heart failure with preserved left ventricular ejection fraction.
(左室収縮末期容積は左室駆出率の保たれた心不全の新規発症を予測する) Cardiol Res Pract. 2020:3106012
論文審査担当者 主査: 早野 順一郎
論 文 内 容 の 要 旨
左室駆出率(LVEF)、左室拡張末期容積(LVEDV)および収縮末期容積(LVESV)は、左室 収縮能や左室リモデリングを示す臨床指標として用いられ、心血管疾患の予後も規定する。なか でもLVESV の上昇は、LVEF の低下や LVEDV の上昇に比べ、予後予測指標として優れている とされる。良好な収縮能を有する左室のLVESV は小さく、収縮期末期に蓄積した弾性エネルギ ー(位置エネルギー)は等容弛緩期に大きな反跳力を生み出し、良好な左室弛緩をもたらす。す なわちLVESV の小さい左室では良好な左室弛緩が担保される。 さて、LVEF が保たれている(LVEF50%)にも関わらず存在する軽度の左室収縮能の低下が、 LVEF が保たれた心不全(HFpEF)の発症に関係していることを当分野から報告している。今回、 その軽度の左室収縮能低下がLVESV の増加に鋭敏に反映され、LVEF 50%以上の患者において、 LVESV の上昇が新規の HFpEF 発症や心臓血管死を予測するのではないかとの仮説を立て、 LVESV の予後予測力を検証した。 「対象と方法」対象は、1999 年 5 月~2011 年 1 月の間に、名古屋市立大学病院にて冠動脈造影 検査で冠動脈疾患の評価を行い、左室内圧測定と左室造影を行なった連続465 例をスクリーニン グし、除外基準に該当する110 例を除いた 355 例の LVEF50%の成人男女を後ろ向きに検討し た。対象の背景、血液検査所見、服薬状況、左室容積指標および左室機能指標を収集した。左室 機能の指標としては、観血的に心拍出量・心係数、カテ先マノメーターで記録した左室内圧より 左室圧波形1次微分の最大・最小値(peak ±dP/dt)、等容弛緩期の左室圧下降脚時定数(tau)を求 めた。加えて左室造影からLVESV・LVEDV を測定し LVEF を算出した。左室容積は体表面積で 補正し、それぞれLVESVI、LVEDVI とした。観察期間中の心臓血管死または心不全による入院 を有害事象と定義した。収集した患者情報と有害事象との関連をCox 回帰モデルで評価し、有害 事象と関連のある指標が連続変数の場合にはROC 曲線を用いて有害事象を予測するカットオフ 値を求めた。 「結果」対象の年齢は平均67.4 歳、LVEF の平均値 68.7%、BNP の中央値 15.6 pg/ml であった。 中央値6.7 年の観察期間中に 9 例の心臓血管死と 15 例の心不全入院を認めた。単変量解析におい て、加齢、BNP 上昇、tau の延長、peak −dP/dt の上昇、LVEF 低下、LVEDVI 上昇、LVESVI 上 昇が有害事象と有意に相関した。LVESVI と BNP との間に正の相関(r=0.356, P<0.001)、peak +dP/dt との間には負の相関(r=−0.324, p<0.001)、tau および peak −dP/dt との間には正の相関(tau: r=0.337, p<0.001; −dP/dt: r=0.391, p<0.001)を認めた。ステップワイズ法を用いた多変量解析では、 年齢(HR:1.071, 95% CI:1.009~1.137, p=0.024)、BNP 上昇(log BNP: HR:1.533, 95% CI: 1.090 ~2.156, p=0.014)、LVESVI 増加(HR:1.051 95% CI:1.011~1.093, p=0.013)が有害事象に関 連する有意な予測因子として採択された。ROC 解析により有害事象のカットオフ値として、log BNP 3.23 pg/ml (BNP: 25.3pg/ml);感度 75.0%・特異度 68.7%(AUC:0.753, p<0.001)、LVESVI 24.1 ml/m2;感度79.2%・特異度 62.5%(AUC:0.729, p<0.001)が得られた。 「考察」本研究では、LVEF が保たれた患者において、LVESVI の増加は、BNP 上昇・加齢と同 様に、新規のHFpEF 発症に関連する因子であることを明らかにした。本研究の主要所見は、 LVEF50%の左室収縮能が保たれている患者においても、LVESVI の上昇で示される軽度な左室 収縮能の低下が新規の心不全発症に寄与することを新たに実証したことである。LVESVI は左室 収縮性と後負荷によって規定され、後負荷が一定であれば、収縮能の低下はLVESVI の上昇に反 映される。本研究において、LVESVI は他の左室収縮能の指標である peak +dP/dt と有意な相関 を認め、弛緩性の指標であるtau や peak -dP/dt とも有意な相関を認めた。すなわち LVESVI の
小さい左室は収縮能・弛緩能とも良好である。一方でLVESVI の上昇は、左室収縮能・弛緩能の 障害を意味する。
「結論」例えLVEF50%に保たれていても LVESVI24.1ml/m2のときには、新規にHFpEF が
左室駆出率(LVEF)、左室拡張末期容積(LVEDV)および収縮末期容積(LVESV)は、左室収縮能 や左室リモデリングを示す臨床指標として用いられ、心血管疾患の予後も規定する。なかでも
LVESV の上昇は、LVEF の低下や LVEDV の上昇に比べ、予後予測指標として優れているとされる。 良好な収縮能を有する左室のLVESV は小さく、収縮期末期に蓄積した弾性エネルギー(位置エネル ギー)は等容弛緩期に大きな反跳力を生み出し、良好な左室弛緩をもたらす。すなわちLVESV の小 さい左室では良好な左室弛緩が担保される。LVEF が保たれている(LVEF≧50%)にも関わらず存 在する軽度の左室収縮能の低下が、LVEF が保たれた心不全(HFpEF)の発症に関係していることを 当分野から報告している。今回、その軽度の左室収縮能低下がLVESV の増加に鋭敏に反映され、 LVEF 50%以上の患者において、LVESV の上昇が新規の HFpEF 発症や心臓血管死を予測するのでは ないかとの仮説を立て、LVESV の予後予測力を検証した。 「対象と方法」対象は、1999 年 5 月~2011 年 1 月の間に、名古屋市立大学病院にて冠動脈造影検査 で冠動脈疾患の評価を行い、左室内圧測定と左室造影を行なった連続465 例をスクリーニングし、除 外基準に該当する110 例を除いた 355 例の LVEF≧50%の成人男女を後ろ向きに検討した。対象の背 景、血液検査所見、服薬状況、左室容積指標および左室機能指標を収集した。左室機能の指標として は、観血的に心拍出量・心係数、カテ先マノメーターで記録した左室内圧より左室圧波形1次微分の 最大・最小値(peak ±dP/dt)、等容弛緩期の左室圧下降脚時定数(tau)を求めた。加えて左室造影 からLVESV・LVEDV を測定し LVEF を算出した。左室容積は体表面積で補正し、それぞれ LVESVI、LVEDVI とした。観察期間中の心臓血管死または心不全による入院を有害事象と定義し た。収集した患者情報と有害事象との関連をCox 回帰モデルで評価し、有害事象と関連のある指標が 連続変数の場合にはROC 曲線を用いて有害事象を予測するカットオフ値を求めた。 「結果」対象の年齢は平均67.4 歳、LVEF の平均値 68.7%、BNP の中央値 15.6 pg/ml であった。中 央値6.7 年の観察期間中に 9 例の心臓血管死と 15 例の心不全入院を認めた。単変量解析において、加 齢、BNP 上昇、tau の延長、peak −dP/dt の上昇、LVEF 低下、LVEDVI 上昇、LVESVI 上昇が有害 事象と有意に相関した。ステップワイズ法を用いた多変量解析では、年齢(HR:1.071, 95% CI:1.009 ~1.137, p=0.024)、BNP 上昇(log BNP: HR:1.533, 95% CI: 1.090~2.156, p=0.014)、LVESVI 増加(HR:1.051 95% CI:1.011~1.093, p=0.013)が有害事象に関連する有意な予測因子として採択さ れた。ROC 解析により有害事象のカットオフ値として、log BNP 3.23 pg/ml (BNP: 25.3pg/ml);感 度75.0%・特異度 68.7%(AUC:0.753, p<0.001)、LVESVI 24.1 ml/m2;感度 79.2%・特異度 62.5% (AUC:0.729, p<0.001)が得られた。【審査の内容】約 15 分間のプレゼンテーションの後に、主査 の早野教授より左室拡張障害とLVESVI の関係、LVESVI の増加が予後の悪化に関係する機序につ いてなど計9項目の質問、次に第二副査の須田教授からLVESVI と左室 suction の関係、LVESVI と 収縮後期大動脈血流のinertia force との関係などについて計4項目、最後に第二副査の橋谷教授よ り、旧いデータであるが著者の本研究に対する貢献内容は何か、心不全の研究であるのにどうしてエ ンドポイントに心血管死を含めているのか、結果に対する治療薬の影響はどうかなど計6 項目の質問 がなされた。いずれに質問に対しても概ね満足のいく回答が得られ、学位論文の主旨を十分理解して いると共に専門領域の知識を有すると判断した。本研究は、左室収縮末期容積が左室駆出率の保たれ た心不全の新規発症に関係することを明らかにした。以上をもって本論文の著者には、博士(医学) の称号を与えるに相応しいと判断した。 論文審査担当者 主査 早野順一郎 副査 須田久雄、橋谷光