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はじめに 安全な水への 開発途上国では安全な水を安定的に得ることが困難であり 今もほとんどの村では井戸や川 泉などでの生活のための水汲みは女性や子どもたちの仕事です そのため 過重労働や衛生問題などによる身体への影響はもちろんのこと 教育や就労 社会参加など 男性と平等な生活をおくる機会が十分に与え

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C o n t e n t s はじめに 〜「安全な水へのアクセス」の改善に向けて〜 / 〜ジェンダー平等の推進に向けて〜 ………p.2 安全な水へのアクセスがない、ということ。………p.6 1 下痢症などの病気が蔓延しやすい 2 女性や子どもに大きな負担となる水汲み労働 3 夫婦間不和の元? 安全な水が手に入るようにするための支援………p.8 1 給水施設の建設 2 井戸の維持管理 女性や家族の生活はどう変化するの? 〜給水施設(ボアホール)設置がもたらしたこと〜 ………p.10 1 子どもの下痢症が減った! 2 女性の水汲み労働の軽減と収入向上 3 水管理委員会や水料金の活用でコミュニティの活性化 4 水汲み労働:子どもへの影響 5 女性の水管理委員会への参加 6 ジェンダー間や社会関係にも影響あり

ジェンダー

~開発途上国の水と衛生、ジェンダー平等に向けて~

(2)

皆さんは手を洗いたくなったり、喉が渇い たりするとどうしますか? 出かけている時でも水道を見つけることは 難しくありません。緊急用の備蓄では飲み水 として最低1日3リットルが必要であると日 本では内閣府が推奨しています。一方、私た ちの普段の生活では、トイレ、風呂、洗濯、 炊事などに毎日の生活で1人当たり220リッ トルの水を使っています。家族4人であれ ば、1日に軽自動車1台分の重さの水を使っ ていることになります。

かつては日本でも

昭和初期まで地方の村では、水道が整備さ

はじめに

〜「安全な水への

開発途上国では安全な水を安定的に得ることが困難であり、今も

ほとんどの村では井戸や川、泉などでの生活のための水汲みは

女性や子どもたちの仕事です。そのため、

過重労働や衛生問題などによる身体への影響はもちろんのこと、

教育や就労、社会参加など、男性と平等な生活

をおくる機会が十分に与えられていません。

現在、開発途上国の水問題、貧困、不平等解決のための

国際的な取り組みが行われ、日本も積極的に支援しています。

さまざまな側面からのJICAの支援の一端をご紹介します。

希少な水資源を求めて水汲みに来る女性

(3)

れていない地域が多く残り、浅井戸、泉など が利用されていました。「井戸端会議」とい う言葉がありますが、古くから井戸は水汲み や洗濯に集まってくる女性の交流の場となっ ていました。一方で家の生活のために水を運 ぶのは大変な労働で、その役割を担う女性や 子どもにとっては苦痛の日々でした。

今なお重労働に苦しむ開発途上国

開発途上国では、今でもほとんどの村々で 女性や子どもたちが井戸や川、泉で水汲みを 行っています。中東やアフリカは年間の降 水量が少なく、例えば中東のイエメン共和 国では年間167mm、アフリカのマリ共和国 では年間282mmと日本の1~2割程度しか 雨が降らない地域もあるのです。水源は乾期 に枯れてしまったり、雨期は泥水で汚染され たりするため、安定的に安全な水を得ること が難しいのです。近年の世界的な気候変動に 伴って、乾期が厳しくなって水事情はますま す大変になってきています。

水問題の解決をめぐる取り組み

1980 年代の「国際水供給と衛生の 10 年」以来、開発途上国の水問題の 解決のための国際的な取り組みが行 われ、日本も積極的に援助をしてき ました。2000 年に採択された国連ミ レ ニ ア ム開発目標(MDGs)に向け た取り組みにより、2015 年には「安 全な水へのアクセス」のある人口の 割合は世界的にみれば 91%にまで改善され ています。 MDGs に引き続いて 2015 年に国連で採択 された「持続可能な開発目標(SDGs)」では、 2030 年の目標達成に向けて貧困の撲滅と ジェン ダー平等に重点が置かれています。 だれ一人取り残さない支援が届くように、質 の高い援助が求められています。水と衛生 は、特に脆弱な環境の下にある女性にとって 日々の切実な問題であり、今後とも支援が必 要になっています。

アクセス」の改善に向けて〜

安全な水へのアクセスがある人口の割合(%) わずかな水の流れに子どもたちが集まる 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 都市部 (1990) 都市部 (2015) 村落部 (1990) 村落部 (2015) (1990) 全体 (2015) 全体 95.1 96.4 62.3 84.5 76.4 90.9

(4)

ジェンダー平等と

女性のエンパワメントの推進

ジェンダー関係が不平等な社会では、一 見、「中立的」な開発政策や施策、事業であっ ても男女それぞれに異なる影響を及ぼす可能 性があります。そのため、すべての開発政策、 施策、事業の計画・実施・モニタリング・評 価のあらゆる段階で、社会における男性と女 性の社会的な役割の違いや力関係によって生 じる課題やニーズを踏まえ、ジェンダー平等 の視点を組み込んでいくことが必要です。 ジェンダー平等と女性のエンパワメント の推進は、すべての人が生きやすい世界をめ ざし、人間の安全保障の視点に基づく公正で 持続可能な開発の実現に向けて取り組むべき 重要な課題です。 これまでの国際社会の努力によって、教育 や保健、労働市場等におけるジェンダー格 差は大きく是正されてきています。しかしな がら、多くの国で、性別に基づく差別的な慣 行、法律が残っており、女性は自らの生活に 影響を及ぼす決定に男性と平等に参加する機 会を十分に得られていません。貧困状態にあ る家庭では女性や女児のニーズが犠牲になる ことが多く、栄養不足や過重労働、教育機会 の喪失、高い妊産婦死亡率といったさまざま な影響が深刻に表れています。 ドメスティック・バイオレンスや性暴力、 幼児婚や人身取引といったジェンダーに基づ く暴力も深刻な課題です。紛争やテロ、感染 症、自然災害の発生時には、そのしわ寄せの 多くが更に女性や子どもに及んでいます。

〜ジェンダー平等の

ジェンダー平等を 推進する政策・制 度の整備と組織の 能力向上 女性の生活と活躍 を 後 押 し す る 農 村・都市インフラ の整備

JICAの協力指針:ジェンダー平等と女性のエンパワメント

●女性の可能力(ケイパビリティ)の強化  ●差別の撤廃  ●生活基盤整備 開発目標 戦略目標 優先開発 課題 ジェンダー平等と女性のエンパワメント 女性の社会参画とリーダーシップの実現 Ⅰ 女性の経済 的エンパワメン トの推進 女性の生産資源へ のアクセス向上、 生計向上、雇用・ 就業機会の拡大、 起業の推進 紛争や災害、暴力 や人身取引被害か らの女性の保護と 社会復帰・自立支 援 女性の生涯にわた る健康の推進、女 性の自己実現に向 けた教育の推進 Ⅱ 女性の人権 と安全の保障 Ⅲ 女性の教育 と生涯にわたる 健康の推進 Ⅳ ジェンダー 平等なガバナン スの推進 Ⅴ 女性の生活 向上に向けた基 幹インフラ整備

(5)

「人間の安全保障」の視点に基づいた

JICAの支援

JICA は「すべての人が恩恵を受ける、ダ イ ナ ミックな開発(Inclusive and Dynamic Development)」をビジョンに掲げ、グローバ ル化に伴う課題への対応、公正な成長と貧困 削減、ガバナンスの改善といった課題に対 し、「人間の安全保障」の視点に基づき、開 発途上地域の人々に包括的な支援を迅速に実 施することをその目標として掲げています。 ジェンダー平等と女性のエンパワメント を推進することは、一人ひとりの人間を中心 に据え、多様な人々のエンパワメントと参 画を通じたダイナミックな開発をめざすJICA の協力理念の具体化につながるものです。 協力の実施にあたっては、各地域や社会の 開発および平和の定着における重要な「担い 手」として女性の役割や能力を認識し、女性 たちのリーダーシップと社会参画を推進して いきます。すなわち、女性たちが、自分自身 の生活や人生を決定する力を身に付け、家庭 や職場、政治などさまざま意思決定過程に参 加し、社会や環境を変えていく力をもつこと ができるよう、支援しています。

用 語 解 説

推進に向けて〜

ジェンダー平等 ジェンダーとは社会的、文化的に形成される男女の差 異を指し、生物学的な性別と区別されます。女らしさあ るいは男らしさといった言葉に代表されるような、特定 の社会で共有されている価値観や、個々人の価値観など によって形づくられる、男女の役割やその相互関係を含 む意味合いを指します。 ジェンダー平等とは、人生や生活において、さまざまな 機会が男女均等であることをめざすものです。また、女性 のエンパワメントとは、女性が欲しい情報を入手でき、そ れを基に自分で意思決定をして、健康を含めた自身の生活 のコントロールができるような力をもつことをいいます。 人間の安全保障 紛争、地球温暖化、武器や薬物の拡散、感染症の拡大、 これらの問題は国家の枠組みを容易に超え、人々の生命 や生活を脅かしています。こうした現象から、一人ひと りの命の尊厳や生活を守るために必要と考えられるのが 「人間の安全保障」という概念です。中心にとらえるのは 「人間」であり、人々が着実に力を付け自立することを重 視する考え方です。 人々は、紛争・テロ、災害・環境破壊、感染症の蔓延、 経済危機などの「恐怖」や、貧困、栄養失調、教育・保健 医療などの社会サービスの欠如、電気・水道などの基礎イ ンフラの未整備などの「欠乏」という多様な脅威にさら されています。また、それらは相互に関連し合っており、 人々はこのような脅威により更に状況が悪化する危険性 を抱えています。「人間の安全保障」とは、人々が「恐怖」 や「欠乏」から解き放たれ、安心して生存でき、人間らし い生活ができる状態をつくることを指しています。 持続可能な開発目標

(Sustainable Development Goals:SDGs)

国際社会は、2001 年に国連総会で採択されたミレニ アム開発目標(MDGs)のもとで 2015 年までの達成を めざして、貧困対策に取り組んできました。2015年9月、 国連本部において「持続可能な開発サミット」が開催さ れ、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択 されました。MDGs で積み残された課題に更に取り組ん でいくために、17 の目標と 169 の ターゲットからなる持続可能な開 発目標(SDGs)を掲げ、2030 年 までに貧困を撲滅し、持続可能な 開発の実現をめざし、「誰も置き去 りにしない」ことを誓っています。 なお、SDGs の目標5は、ジェ ンダー平等を達成し、すべての女 性及び女児の能力強化を行うこと、 目標6ではすべての人々の水と衛 生へのアクセスと持続可能な管理 を確保することがうたわれていま す(右アイコン参照)。

(6)

1

下痢症などの病気が

蔓延しやすい

安全ではない水、つまり汚染された水を飲 むことでかかる病気がたくさんあります。コ レラや腸チフス、A 型肝炎、ポリオ、ギニ ア虫症など、非常に多くの怖い病気が水を媒 介して感染します。特に幼い子どもは抵抗力 が弱く、安全ではない水を飲むことで下痢症 となり、脱水症状を起こして命を落とすこ とも少なくありません。5歳の誕生日を迎え る前に下痢症で亡くなる子どもの数は、年間 53 万人(1 日当たり約 1,400 人)もおり、5 歳未満の子どもの死亡要因の病気として下痢 症が2番目となっています。 また、遠くまで水を汲みに行く必要がある と、家庭で使える水量が減って洗濯や水浴び などが十分に行えず衛生状態が悪化します。 そのため、疥癬などの皮膚病や、トラコー マという失明にもつながる目の感染症にかか る危険性が高まります。 こうした多くの病気が、水の質と量が確保 されることで予防が可能なのです。

2

女性や子どもに大きな負担

となる水汲み労働

家に給水の蛇口がないということは、水源 まで水を汲みに行き、家まで運ぶ必要があ ることを意味します。最初に述べたように、 日本もかつて水汲みは日課でした。UNICEF が示す1日1人当たりの最低必要水量は 20 リットルとされていますが、例えば家族8 人分、合計 160 リットルの水を運ぶのは容 易ではありません。開発途上国の農村部では 給水施設が足りていないところが多く、朝の 支度をするために早朝から井戸で列をなし、 何時間も待たなければならない村も数多く

安全な水へのアクセスが

ミレニアム開発目標(MDGs)が達成されたとはいえ、

「安全な水へのアクセス」

1

のない人々は世界にまだ6億6,000万人もいます。

特に後発開発途上国の農村部では人口の38%が安全な水が手に入りにくい

生活をしているのです。では、安全な水へのアクセスがないと、

日々の生活においてどのような影響があるのでしょうか。

開発途上国での現状について、主な側面をいくつか見てみましょう。

遠距離を水運びする母親と娘

(7)

残っています。井戸がないところでは、川の 水を汲むこともあります。子どもにとっては 増水期は流される危険と隣り合わせです。 では、その水汲み労働は誰が担っている のでしょうか。世界的にみて9割が女性と子 どもによって担われているのです。アフリ カでは、炎天下に赤ちゃんを背負って 20 ~ 30 リットルの水を頭に乗せて運ぶ女性の姿 を日常的に見かけます。アジアの農村でも 井戸の周りにいるのは女性や子どもばかりで す。一口に20 ~ 30リットルと言いますが、 10kg パックのお米を 2 ~ 3 個を頭に乗せる ことを想像してみてください。ウガンダ共 和国の女の子たちは 13 歳ころから大人の女 性と同じ水量を運べるようになります。登校 前の少女も、臨月の妊婦さんも、赤ちゃんを 背負ったお母さんも、毎日の生活に必要な 「水」を汲みにいく労働 ―― ずっしりとくる 水の重さと、順番待ちの時間と、何度も水源 まで往復する労力 ―― から解放はされませ ん。水事情の改善は、その地域の女性や子ど も一人ひとりにとっての毎日の過酷な水汲み 労働からの解放でもあるのです。

3

夫婦間不和の元?

これだけの労力と時間をかけて水を確保し ているのですから、水は家庭内で大切に使わ れます。子どもは小さいうちから節水をしな いと叱られます。水を無駄遣いしないように 夫にも小言を言って夫婦喧嘩になることもあ ります。例えば、仲間とお酒を飲みに行くた めに一旦帰宅した夫が、夕食の支度のために とってあった水をジャブジャブと使ってし まったことに妻が怒り、その妻を逆に夫が罵 倒するという悲しい光景も見受けられます。 また、妻が水汲みに時間がかかり過ぎて帰 宅が遅くなると、「何をしていたんだ」と夫 は妻に疑いの目を向けたり、他の家事がおろ そかになると怒ったりすることもあるので す。水が貴重なだけに、水をめぐる事情は家 庭内や、ひいては社会関係にも影響があるわ けです。

ない、ということ。

*1:国際的な定義として、「安全な水」は上水道、 共同水栓、深井戸、保護された浅井戸、保護湧水、 雨水から得られる水を指す。また「アクセス」の定 義は各国で定めることになっているが、1kmで設定 している国が多い。 川は汚染されている可能性が高い

(8)

安全な水が手に入るよう

ボアホールは、サブサハラアフリカの村 落部では最も普及しています。住民自らが保 守や修繕を行うために各村で水管理委員会を 設立する支援もしています。女性は日常的に ボアホールを使うので、委員会への参加が とても重要になります。

1

給水施設の建設

アフリカの多くの国々で、安全な水を確保 するために、深い帯水層(地下水が流れてい る地層)の地下水が利用されています。季節 変化や旱魃の影響を受けにくく、水質汚染の 危険性が少ないという利点があるからです。 井戸の建設に際しては、地層 を分析して地下水のありかを探 し出し、掘削機(右上写真参照) を用いて掘り抜きます。ボ ア ホールでは、地下 40 ~ 50m の 水位の地下水が利用されていま す。井戸が崩れないようにプラ スチックや金属製のパイプを充 てて補強し、帯水層にスクリー ンを設置します。その後、適切 な水量が得られるかを揚水試験

開発途上国の水問題の解決のために、日本は多くの国々を

支援しており、村落給水では、ハンドポンプを用いた深井戸

給水施設(以下、「ボアホール」といいます)を多く建設しています。

建設費、維持管理費が安価であり、1施設で100~500人の

生活水を賄うことができます。

AFRIDEVポンプ(国連がインドを基に標準仕様を設定) ボアホールを掘る掘削機

(9)

にするための支援

で確認し、水質検査で安全性を確認します。 ポンプは定期的に消耗品の取り替えが必 要ですので、その国で指定されているものを 使います。深井戸用のポンプは井戸の底か ら水を押し上げる仕組みになっています。村 の住民にも維持管理できるように簡単なつく りになっています。しかしながら、井戸の径 は狭く、底にまでつながっている部品を引き 上げる必要があるので、保守点検には知識と 経験が求められます。

2

井戸の維持管理

外国の援助で新たに給水施設を建設すると き(あるいはその国の政府が独自に建設する 場合も)、ただ施設をつくるだけでは人々の 間に依存心を生み出しがちで、故障しても放 置されてしまう可能性が高いので、その新た な施設(井戸、共同水栓など)を住民たち自 身の手で維持管理していってほしい、と援助 する側は考えます。そもそも井戸は村の住民 の生活を支える共同資産となりますので、援 助と引き替えに、村長のもとに水管理委員会 を設置して村の責任で維持管理が行われるこ とを促します。水管理委員会は井戸建設の前 に設置され、建設用地の提供や整備を行い、 井戸の完成後には、あらかじめ用意したレ ンガなどの材料を使い自分たちでフェンスを つくります。 水管理委員会は、日常の清掃、井戸の不具 合の診断や簡易な修理も行います。また、井 戸の修理に備えて、井戸を利用している各家 から定期的にお金を集めています。マラウ イ共和国のチタンボ村の水料金は月々 300 クワチャ(45 円)ですが、子どもだけ、ある いは老人だけの世帯は払えない場合もありま すので、村長と相談して無料にすることもあ ります。徴収された水料金は、日々の井戸の 維持管理に必要な費用に加え、井戸が故障し た際の交換部品(スペアパーツ)代とポンプ の修理工に支払う工賃にあてられます。こう して、住民が主体となって井戸の維持管理が 行われるようなキャパシティ・ビルディン グも、支援の重要な一部です。 共同水栓(地下水を汲み上げた給水塔を背景に) (写真提供:今村 健志朗/JICA)

(10)

女性や家族の生活はどう変化

1

子どもの下痢症が減った!

新しい給水施設が建設され、安全な水が毎 日飲めるようになると、水因性の感染症が予 防できることになります。新しい深井戸がで きたマラウイのチタンボ村のお母さんたち は、口々に「井戸がつくられる前に比べて子 どもの下痢が減った」と喜んでいました。あ るお母さんは「以前は月に3~4回は子ども が下痢になっていたけれど、今はほとんど下 痢症にかからなくなりましたね。そのお陰 で、子どもを病院へ連れて行ったり薬を買っ たりする手間や費用が浮いて助かっている わ。」と語ります。その女性の言葉に、他の お母さんたちも大きくうなずきました。 子どもの病気が減れば、当然母親としての 看病の時間や心労も減っているはずです。先 述のように、開発途上国の多くの国では下痢 症ひとつとっても、まだまだ「死ぬ可能性の ある」病気なのです。また、下痢症を繰り返

安全な水が手に入る給水施設(深井戸や共同水栓)が村にできると、

人々の日々の生活はどのように変わるのでしょうか。

その変化を六つの側面から見てみましょう。

お母さんたちにとっては子どもの健康が大切

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するの?

〜給水施設(ボアホール)

設置がもたらしたこと〜

すことで胃腸の健康が損なわれ、栄養の吸収 が悪化してますます栄養失調に陥ることも最 近の研究で分かってきています。 子どもが重症の下痢症にかかったり、その 結果死んでしまったりすると、それは誰かが 呪術をかけたせいだとする考えが世界の各地 でみられます。ウガンダのブゴベロ村でも、 15年前は、「邪視(evil eye)」が原因だとさ れる子どもの下痢症が多くみられました。そ の邪視をかけたのが誰か、ヒソヒソと噂さ れ、子どもは呪術を解く伝統医のところへ連 れていかれます。伝統医への謝礼金もばかに なりません。ところが、安全な水へのアク セスが改善されて下痢症が減ると、母親た ちが邪視について語ることも減ったのです。 また、健康に悪影響を及ぼすのは悪い水質 だけではありません。水汲み労働そのものが 原因の健康被害もあります。20 ~ 30 リッ トルの水を頭の上や手で持って運ぶことで、 頭痛や胸痛に悩まされる女性や子どもが多く いるのです。特に、妊婦さんにとっては、毎 日重い水を長距離運ぶことが体に良いはずが ありません。日本では妊婦さんは重たいもの を持たないようにいわれますが、開発途上国 の農村部では、水汲み労働が流産や早産の原 因にもなっています。新しい給水施設が建設 されて水汲み労働が軽減されると、こうした 問題も少なくなるのです。

2

女性の水汲み労働の軽減と

収入向上

私たちの毎日で、水汲みのために費やす時 間はどれくらいでしょうか。朝起きて、顔を 洗い歯を磨く、食事の支度のために鍋ややか んに水を入れる。これらはすべて「蛇口をひ ねる」という行動だけなので、これにかかる 時間は、おそらく1日分を合わせても5分 からせいぜい10分でしょう。洗濯は全自動、 風呂は最近ではボタンを押せば、水張りか ら湯沸かしまでしてくれますから、ほぼゼ 水運び自体の健康への影響も大きい

(12)

ロ分です。トイレを流したり手を洗ったり するための水も既にタンクにたまっていま すからゼロ分ですね。 家に水道がない途上国の人たちは、飲み水 であれ、炊事用の水であれ、洗濯用の水であ れ、家の中に溜めておかなければなりませ ん。そのためには水源まで水汲みに出かけま す。それに要する時間は、水場までの往復の 時間とつるべを上げ下ろししたり(浅井戸の 場合)、ポンプを押したり(手押しポンプの 場合)、共同水栓の蛇口からバケツに水がた まるのを待っていたり(蛇口がある場合)の 時間×回数(1日に2回、ないし3回という のが普通)です。合計して1日に1時間なら よい方で、水場が遠かったり、混んでいて行 列待ちをする場合には1日に3~4時間とい うことも珍しくありません。そして帰りには 重い水を運ぶという重労働も伴います。 井戸が新たにできると、それ以前に比べ て家からの距離が近くなることが普通です。 その結果、時間とエネルギー(水汲み労働) が節約できることになります。これが、「生 活が楽になる」ということなのでしょう。 では、水汲み労働が軽減すると、女性はど のように対応するでしょうか。家でゆっくり する、ということも可能です。それだって十 分に女性(水汲み労働に従事するのは前述の とおりほとんどの場合女性です)の生活改善 につながります。場合によっては、それ以上 の変化が起こることもあります。 次のページで紹介する事例のように、収入 向上活動を始める女性もいるのです。

〜給水施設(ボアホール)

水汲みの順番待ちをする女性と子どもたち

(13)

マラウイのベルニーサさんの場合は、こ れまでの浅井戸(つるべ式)が、深井戸(手 押しポンプ式)に替わったことを契機に、フ リッター(ポテトに衣を付けて揚げたもの) の販売を始めました。

彼女の背中を押したのは

ベルニーサさんがこの新たな事業に取り 組もうと思ったのは、 ①水汲みにかかる時間が減ったこと ②一年中きれいな水が使えるようになった こと(以前の水は浅井戸だったのであま りきれいではなかったうえ、乾期には水 位が下がるので川まで汲みに行かなけれ ばならなかった) そして、 ③水管理委員会が徴収した料金(世帯当た り3カ月ごとに500クワチャ(約75円)) の貯蓄金の一部を村人に貸し付けるよう になり、商売の元手が村の中で借りられ るようになったこと が理由です。

貴重な現金収入を手に

彼女は水管理委員会から 2,000 ク ワ チャ(約 300 円) を借り、メイズの粉、ポテトを買って家で調理し、村の 中や市場で自家製フリッターを売り始めました。学校に 満足に行ったことのない彼女ですが、レシピは友達から 学んだそうです。売値は1つ10クワチャ(1.5円)ですが、 彼女にとっては自分の自由にできる現金を手に入れる貴 重な仕事になりました。

現金収入を得られる仕事を始められた

設置がもたらしたこと〜

ビジネスを始めたベルニーサさん

(14)

3

水管理委員会や水料金の活用

でコミュニティの活性化

ベルニーサさんがフリッター販売を始め られるようになった理由の③に、水管理委員 会が徴収した料金の話が出てきました。多く の国の水管理委員会では、井戸の利用料とし て水料金を各世帯から徴収することが定めら れています。そして、きちんと水料金が徴収 され保管されると、井戸が故障して修理代が 必要になるまで、その資金は別の活動に利用 することも可能となってきます。 例えばセネガル共和国では、水管理委員 会が研修や実際の運営経験を積むなかで修得 した組織力と貯蓄された資金を活用して、コ ミュニティ活動を展開しました。まず、水 管理委員会が給水施設の維持管理のための研 修を受け、住民に対して安全な水の大切さや 水料金支払いの重要性について啓発活動を行 います。そして、訓練を受けた会計係が細か く帳簿を付け、水料金の徴収と管理を徹底す るようにしました。適切な水料金徴収のカ ギの一つは信用です。面白いことに、世界の あちこちで「女性の会計係の方が信頼でき る」という声が聞かれます。また、セネガ ルの場合、水管理委員会を定期的に開催して 会計報告を行うことで透明性を確保したよう です。 水管理委員会が管理するお金を資金の一部 とし、ある女性グループは養鶏を始め、別 なコミュニティグループは野菜栽培や果樹 栽培を開始しました。最初の小さな資金があ ればこそ、始められた収入向上活動です。 近年では、開発支援としてマイクロクレ ジットを行う NGO が増えていますが、まだ そうした組織に慣れていない人々にとって は、NGO からの融資を受けることは敷居が 高く感じられるようです。先述のマラウイ のベルニーサさんも水管理委員会から資金 を借りています。この村の水管理委員会が貸 す資金は、金利が決して低いわけではない のですが、委員会がコミュニティ内のメン バーだけからなる組織であることに安心感 があるようです。NGO からの融資について は「外の組織からお金を借りるのは怖い。家 財を取られるという噂を聞いたことがある。」 といった未知に対する恐怖心があるようで す。マ ラ ウ イの財務省のア ド バ イ ザーも、 農村の人々がまずはコミュニティ内の組織 による貯蓄や融資で金融に慣れ、次の段階と

〜給水施設(ボアホール)

養鶏を始めた女性たち

(15)

してマイクロクレジットを利用してビジネ ス展開していくことを勧めています。 つまり、水管理委員会とその資金は、コ ミュニティの開発活動のエントリーポイン トとなり得るのです。

4

水汲み労働:

子どもへの影響

さて、水汲み労働は女性だけではなく、多 くの地域で子どもも担い手となっています。 女児だけが手伝うのか、男児も手伝うのかは 社会によって異なります。 子どもが水汲みを分担する場合、子どもが 受けられる教育の機会にも影響があります。 朝、水汲みの列が長くて学校に遅れてしまっ たというケースは少なくありませんし、ウ ガンダのナホンベ(10 歳男児)のように、 乾期だけ一人暮らしの祖母の水汲みを手伝う ために別の学校に転校する子もいました。 新しい給水施設が村にできて、水汲み労 働自体が減ると、一般的には子どもの負担 も減って学校へ ちゃんと行き勉 強する機会が増 えることになり ます。タ ン ザ ニ ア連合共和国で は、水 源 が 近 く な っ て 水 汲 み にかかる時間が 短縮されたこと で、女子生徒の 出席率が 12%も 上がったという 報告があります。

設置がもたらしたこと〜

ボアホールに水汲みに来た子どもたち 学校に通う子どもたちの水汲みも軽減される

(16)

就学率の向上は、小学校教育の無償化や教育 の重要性の啓発など、多くの要因が絡んでい ますが、子どもの水汲み労働の軽減も間接的 要因のひとつといえます。つまり、水汲みに 費やされる時間が減れば、学校の遅刻や欠席 が減る、あるいは毎年の厳しい進級試験に備 えて勉強にあてられる時間を増やすことが可 能になるのです。 一方で、驚いたことに、近くに深井戸がで きたことで逆に子どもの負担が増えるケース もあるのです。マラウイのチタンボ村の子 どもたちは、かつては水汲みをしていません でした。川への水汲みは遠く、川で溺れる心 配や、女の子ならば道中で性的な嫌がらせを 受ける心配があったからです。しかし、この 村の中に深井戸ができたことで、子どもも水 汲みの手伝いをさせられるようになりまし た。「井戸はすぐそこだし、そんなに並ばな くて済むから夕方の水汲みは娘に行ってもら うことにしたの。学校から帰ってきてから水 汲みに行くから、勉強に支障はないわ。」と 母親たちは言います。 水汲み労働が変化することで、いろいろな 影響があるものなのですね。

5

女性の水管理委員会への参加

新しくできた給水施設を持続的に利用でき るようにするために、住民が水管理委員会を

〜給水施設(ボアホール)

水管理委員会のメンバーの半分は女性であることが多い

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設置がもたらしたこと〜

*2:例えば、マラウイの成人の識字率(2010年)は男 性72%、女性51%と大きな違いがあり、女性の方が読 み書きの力が弱いという一般的な見方が、水管理委員会 での女性の参加が消極的になる要因にもなっている。 設置することが重要だと先述しました。ただ し、その場合、村人たちに人選を任せると、 ややもすると村長を中心に男性だけの委員会 になりがちです。なぜなら、「そういう大事 なことは男の仕事」と思っているからです。 しかし、水汲みを行うのはほとんどの場合、 女性や子どもです。であれば、ユーザーであ る彼女たちの声を反映することが、より適切 な維持管理につながるはずです。そこで、水 管理委員会にはメンバーの半数以上を女性 とするよう政府が指導している国が多くあり ます。マラウイでは、援助機関や政府が一 致して「水管理委員会の委員構成は男女半々 (50:50)にすること。可能であれば女性が 過半数(40:60)となることが望ましい」 というルールを設定しました。男性と女性が 対等の立場で参加して議論し、物事を決め て、共同して実行するということは、村社会 の伝統にとって新たな挑戦になります*2 こうしたルールをつくることは、どんな意 味があるのでしょうか。 まず第一に、 これは一種の教育効果をもっているでしょ う。 強制的にであれ女性が水管理委員会の メンバーになることで、村人たちの間に 「女性が委員になることもあるんだ」とい う意識を育てることになります。 第二に、 そのため当初は恥じらい、意見も言いにく いことが多いですが、政府や援助機関の人が トレーニングをしたり勇気づけたりするこ とで、自分の意見を言えるようになる人も少 なくありません。そのような振る舞いを身に 付けること自体がその女性にとっての力づけ (エンパワメント)となります。 第三に、 こうして、これまで男性の言うことに従う しかなかった女性が、自分たちの意見が村の 改善に結びつく経験をすることも、更なるエ ンパワメントにつながります。 委員になった女性はそれまで慣れ親し んだ「女性らしい振る舞い」とは異なる 振る舞いを期待されることになります。 男性の前で自分の意見を言わなくてはな らないからです。 何人かの女性(通常マラウイの水管理 委員会は定員10人なので、女性が5人以 上集まることになります)が集まること で、互いに励まし合い、男性に対して自 分たちの意見を主張することが容易にな ります。

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第四に、 これは、より幅広い人々の開発効果への取 り込み(包摂的参加)につながります。 第五に、 マ ラ ウ イでは、井戸周りの掃除は女性、 草刈りと修理が男性という役割分担がなされ ています。 すなわち、井戸をつくるというハード面の 援助が、水管理委員会などを支援するという ソフト面の援助と組み合わせることで、社 会を変えていくきっかけになることも可能な のです。

6

ジェンダー間や

社会関係にも影響あり

新しい給水施設ができることで、水管理委 員に選出された女性だけではなく、水汲みを する一般の住民のジェンダー間や社会関係 にも変化が生じます。 まず、給水施設の数が増えて井戸周りが混 まなくなると、順番争いをめぐる喧嘩は減り ます。村に井戸が少ないときは、水汲みで順 番待ちの長蛇の列ができることになります。 来た順に水の容器を並べることがマナーで すが、割り込みする人がいるとやはり喧嘩に なります。また、子どもだと割り込まれても あまり文句も言えず、どんどん待ち時間が長 くなるので、「子どもは水汲みに行かせられ ない」というお母さんもいます。意地悪をさ れるのを避けるため、あえて遠くの井戸や池 などに水汲みに行くという子どももいます。 こうした状況は、混雑が緩和されると改善さ れるわけです。 いわゆる井戸端会議で女性が待ち時間にお しゃべりすることも少なくなるわけですが、 これにより地域社会におけるつながりが希薄 女性が水管理委員会にいることで、他 の女性が井戸の利用で困ったこと(ポン プが壊れた、列に割り込む人がいる、家 畜に水を飲ませている人がいる、禁止さ れているところで洗剤を使って洗濯して いる人がいるなど)を、気軽に相談しや すくなるという効果もあります。 水管理委員会が水管理に限らず村の衛 生状態改善などの活動に取り組むように 育っていくことも少なくありません。

〜給水施設(ボアホール)

水汲みの列が長くなるとケンカの原因にもなる

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になるのでしょうか。マラウイのチタンボ 村の人々は「ああいう無駄話をする機会が 減ったのはよかったよ。結局、そこにいない 人の噂話や悪口になっていたからね。」とい う印象をもっているようでした。 「水汲みに行って何時間も妻が帰ってこな いと、何か怪しいことでもしているのではな いかと勘繰って妻を怒ることもあった」とい う男性もいました。 給水施設が近くにできて水汲みの時間が短 縮されると、他の家事や、生産活動にあてる 時間も増やすことができます。母親たちは、 「水汲みをさっさと終わらせられるので、子 どものお昼の時間に間に合わせてご飯の用意 ができるようになりました。前は、お昼ご飯 を食べさせてあげられず、子どもたちはお腹 を空かせたまま学校に戻っていました。」と 言います。 こうした母親・妻の役割は、夫からも求め られることになります。ある男性は「妻がき ちんと洗濯をするようになって、きれいな服 が着られるようになった」と誇らしげに言 い、井戸ができたことの好影響だと話しまし た。水汲み労働が軽減されると、確かに水を たくさん使う洗濯は容易になります。しか し、きちんと洗濯をすることや、家事をこな すことが期待され、ジェンダー関係の再固 定化につながらないとも限りません。 各戸給水となり、家の蛇口をひねれば水が 出るようになれば、水汲み労働は家庭生活内 から消滅し、「水汲みは女の仕事」ではなく なるのでしょう。そこに世界中で達成するま での道のりはまだ長そうです。 しかし、新しい給水施設へのアクセスが 現状より改善されれば、女性や家族の生活が 大きく変わることは確かといえるでしょう。 (文責:杉田映理、益田信一、佐藤寛)

設置がもたらしたこと〜

妻にきれいに洗濯してもらったシャツを 誇らしげに着る男性

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独立行政法人国際協力機構(

JICA)

社会基盤・平和構築部 ジェンダー平等・貧困削減推進室 〒102-8012 東京都千代田区二番町5-25 二番町センタービル E-mail: eiggh@jica.go.jp http://www.jica.go.jp/ 2016年

参照

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