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【目次】 情報・システムソサイエティ誌 第22 巻第 4 号(通巻 89 号)
情報・システムソサイエティ誌 第
22 巻 第 4 号(通巻 89 号)
目 次
巻頭言 今を時めく北千住で思索と晴耕雨読の日々を 前田 英作···3 研究最前線 IBISML 研究会:第 20 回情報論的学習理論ワークショップ (IBIS2017) 及び第 6 回 IBISML チュートリアル活動報告 梶野 洸···4 ソサイエティ活動 開催報告(国際会議 CANDAR2017) 中野 浩嗣,藤田 聡,藤原 一毅,鯉渕 道紘···6 開催報告 (Graph Golf 2017) 藤原 一毅,鯉渕 道紘,藤田 聡,中野 浩嗣···7 CW 研究会と国際ワークショップ WSSM 岡本 秀輔···8 フェローからのメッセージ サイバーとフィジカルの垣根を越えて —企業とアカデミアでの研究を振り返って— 越前 功···10 ハートタッチング AI を目指して 山田 武士···12 コミュニティ通信 「ことば」に魅せらせて 柳澤 佳代子···14 技術会議から 2018 年度からの技術研究報告の完全電子化 斎藤 英雄···16 コラムAuthor’s Toolkit —Writing Better Technical Papers— Ron Read···18
平成29 年度 ISS 組織図及び運営委員会構成 ···19
編集委員会名簿・編集後記 ···20 ◇表紙デザインは橋本伸江さんによる
情報・システムソサイエティ誌 第22 巻第 4 号(通巻 89 号) 【巻頭言】
今を時めく北千住で思索と晴耕雨読の日々を
フェロー前田 英作
東京電機大学 昨年9 月,31 年余を過ごした民間企業を退職 し,私立大学へ籍を移しました.その折りにお 送りした御挨拶の最後に「今を時めく北千住で 思索と晴耕雨読の日々を· · · ·」と書き添えま した.諸先輩からは暖かい励ましとともに「今 の大学は大変なんだよ」というメッセージを頂 き,気心の知れた友人からは「馬鹿を言ってい るんじゃあない!」という忠告ももらいました. もう今から15 年ほど前になるでしょうか.エ コノミストの田中直毅氏(現,国際公共政策研 究センター理事長)が厚木の研究所で講演をさ れたことがあります.国際関係・国際競争という ものがいかに深く激しい知的闘いの場であるか を強調されていました.そのことが今でも鮮明 に記憶されています.いかに頭を働かせ,知恵 を絞るか.羽布団の上に座っているだけでは世 の中は変わらない.企業を離れアカデミアに籍 を置く身は,幾つかの拘束から解き放たれ,思 想的に自由である分,「思索」に対する責務は重 いはずであると考えています. ビジネスにも研究活動にも日々の運転資金は 必要です.日銭が入ってくることが約束されて いるとやりくりが楽になります.教育という場 では,毎日の仕事そのものが人を育てる作業で あり,日々の活動そのものが社会的価値に直結 しています.その意味で教育や医療はやりがい という日銭が入る仕事であるとも言ます.教育 に携わっているという時点で私の「晴耕」は約 束されているのかもしれません. 2 年ほど前の PRMU 研究会において満場の拍 手喝采を浴びた発表[1] がありました.それは若 い学生さんたちが自主的に行ったCVPR 採択論 文全600 本読破の報告でした.ともすると私た ちは賢く効率的に振る舞おうとします.でも「ば か」になってただひたすら愚直に取り組むこと で大きな成果が生まれることもあります.刑事 の聞き込み捜査に似ているかもしれません.聞 き込み捜査にも知恵と勘が必要でしょう.そし て何よりこの発表は教育のあり方,人の育て方 についても一石を投じるものでありました. 最後の「雨読」については紙数が足りないの で,ここ5 年ほどの AI 騒動の中で私自身が「う ん?!」と思った文章[2], [3] の書誌情報と本誌 表紙イラストの趣向をもってメッセージとしま す.学問の深層においても産業の育成において も,バベルの図書館的な知的営為が大切である と思うのです.いろいろな方々の御支援と御協 力を得て,なんとか新しい一歩を踏み出そうと しているところですが,これからこの国を築い ていく若い人たちのために,少しでもお役に立 つことができればいいなと思っています. 参考文献 [1] 片岡裕雄,宮下侑大,山辺智晃,白壁奏馬,佐 藤 晋 一 ,星 野 浩 範 ,加 藤 遼 ,阿 部 香 織 ,今 成 隆 了 ,小 林 直 道 ,森 田 慎 一 郎 ,中 村 明 生 , “cvpaper.challenge in CVPR2015,” 信学技報, PRMU2015-103, Dec. 2015. [2] 伊藤穣一,“AI 時代における社会ビジョン∼人々 の働き方,生き方,倫理のあり方∼,” NEC 技法, vol.69, no.1, pp.8–10, Sept. 2016.[3] 松本徹三,AI が神になる日—シンギュラリティー が人類を救う,SB クリエイティブ,2017.
【研究最前線(IBISML)】 情報・システムソサイエティ誌 第22 巻第 4 号(通巻 89 号)
第
20 回情報論的学習理論ワークショップ (IBIS2017)
及び第
6 回 IBISML チュートリアル活動報告
梶野 洸
日本アイ・ビー・エム 1. 情報論的学習理論ワークショップ 情報論的学習理論ワークショップ(Information-Based Induction Sciences; IBIS) は,機械学習・ データマイニングの理論と応用に関するワーク ショップである.理論面では統計的学習理論だけ でなく,統計物理,情報理論,統計学,アルゴリ ズム論,最適化など,様々な観点から学習を捉え ることを目標としており,応用面ではデータマ イニング,メディア処理(画像・自然言語・音声な ど),Web/SNS 解析,バイオインフォマティクス など,多岐にわたる分野との交流を促進してい る.今回は,1998 年の発足から数えて記念すべ き20 回を迎え,2017 年 11 月 8∼11 日に東京大 学本郷キャンパスにて,理化学研究所革新知能統 合研究センター及び統計数理研究所とIBIS2017 を共同開催した.ワークショップは11 月 8∼10 日の一般セッション(招待講演,企画セッション, ポスターセッション)と,11 月 11 日の IBISML チュートリアルからなる.招待講演,企画セッ ションは安田講堂,ポスターセッションは工学部 2 号館,チュートリアルは伊藤謝恩ホールで行っ 図 1. チュートリアル当日の伊藤謝恩ホールの様子 た(図1).ワークショップの参加登録者は 1,000 名を超えるなど,非常に多くの人に参加頂いた. 2. チュートリアル IBISML チュートリアルは,機械学習・データ マイニングの各分野で活躍している講師を招き, 入門的な内容から最新の高度な技術までを非専 門家にも分かりやすいように解説することを目 的としており,今回で第6 回を迎えた.チュート リアルの登録者数は計353 名で,伊藤謝恩ホー ルを埋め尽くすほどの方々に参加頂いた.今回 は「実データ解析で役立つ機械学習」という趣 旨でプログラムを決定した.ただ,昨今は機械 学習の基礎に関しては様々な教科書やウェブで 情報を得ることができるため,ただ単に基礎的 な内容でプログラムを構成するのではなく,ま とまった情報が手に入りにくいが実際に機械学 習・データマイニングを行う際に重要な分野を 中心に,IBIS らしく数理的なところまで踏み込 んだ企画構成を心掛けた. 2.1 チュートリアルの内容 以下に本チュートリアルの四つの講演それぞ れの趣旨と講演の概要を紹介する. (1) 統計解析における統計的・暗号理論的デー タプライバシの保護(佐久間淳・筑波大学) プライバシ問題は個人に関するデータを取り 扱う際には切っても切れない関係にある一方で, どのような場合にプライバシが侵害され得るの か,技術的にはどのように解決し得るのかとい う点について全容を把握することは簡単ではな い.プライバシ問題を,(i) 複数のデータベース情報・システムソサイエティ誌 第22 巻第 4 号(通巻 89 号) 【研究最前線(IBISML)】 を統合的に用いてデータ解析を行う場合,(ii) 個 人データからの統計解析結果を公開する場合の 問題,(iii) 個人データを匿名化して公開する場 合の問題の三つに分け,前者二つについてその 問題及び解決法を解説した.解決法として紹介 されていた完全準同型暗号や差分プライバシに ついては数理的な事項に踏み込んで説明されて いる一方で,それらの「気持ち」を含めて明快 に説明し聴衆の理解を促していた. (2) 機械学習におけるテンソル(林浩平・産業 技術総合研究所) 関係データは,例えば人と人の関係を表すソー シャルネットワークデータや,人と商品の関係を 表す購買データなど,様々な分野で現れる.これ らのデータは,行列やテンソルなど多次元配列 の形で表現することができる.この講演は,行列 やテンソルを因子に分解することを通じて,関 係データを数理的に紐解く手法を解説した.行 列分解やテンソル分解などの基礎的な手法だけ でなく,これらを一般化した最先端の手法とし て近年注目を集めているテンソルネットワーク の解説を行った. (3) 強化学習入門(森村哲郎・IBM Research - Tokyo) 強化学習は,未知の環境との相互作用を通じ て環境の制御に関する意思決定方策を学習する ための方法論であり,深層強化学習の成功によ り近年注目を集めている.この講演では,深層 強化学習などの発展的な話題というよりは,マ ルコフ決定過程や動的計画法など基礎的な話題 を中心に,通常の教師あり学習や教師なし学習 とは毛色が異なる点など初学者がつまづきやす い事項を丁寧に解説していた.また強化学習は 教師あり学習などと比べると実用化の例がまだ 少ないが,その中で実業務に応用された事例を 紹介した点や,実応用をするにあたって強化学 習が効果を発揮する状況を議論している点かが 特徴的だった. (4) 深層学習の構成と応用の最前線(得居誠也・ Preferred Networks) 深層学習という単語を聞かない日がないほど 注目を浴びている手法であり日々新しい手法が 開発されている一方で,今日の常識が明日には 崩れているなど技術の入れ替わりが非常に激し い分野である.この講演では,現在広く使われ ている深層学習の技術の概説を行うだけではな く,深層学習の実装面でいかに高速化をするか という話や,深層学習の仕組みの理解の現状に 関する解説を行った点が特徴的だった.特に後 者については,実験的・理論的両面の研究成果 を紹介しており IBIS らしい深層学習の解説で あった. 2.2 当日の様子 チュートリアル当日の様子や改善点などを振 り返りたい.それぞれの講義で講義中や最後に 質疑応答を設定しており,活発な質疑応答が行 われていた.一方,講義の時間が90 分,昼休み が1 時間,講義間の休み時間が 15 分と非常に タイトなスケジュールであったため,質疑を途 中で打ち切る必要があった.休み時間にオフラ インで質疑が継続して行われていたため質問の チャンスはあったが,それでも十分に質疑の時 間が確保できたとはいい難いため,この点は改 善が必要である. 3. おわりに 次回も IBIS に付属する形でチュートリアル が行われることが決定している.チュートリア ルは北海道大学(2018 年 11 月 4 日),IBIS は札 幌のかでる2.7(2018 年 11 月 5∼7 日)で開催予 定である.IBIS,チュートリアルともども,研 究分野だけでなく社会活用を含めた発展により 一層貢献できるよう努力を継続していきたい.
【ソサイエティ活動】 情報・システムソサイエティ誌 第 22 巻第 4 号(通巻 89 号)
開催報告(国際会議 CANDAR2017)
中野 浩嗣
広島大学藤田 聡
藤原 一毅
情報通信研究機構鯉渕 道紘
国立情報学研究所 コンピューティングとネットワーキングに関す る幅広い分野を扱う国際会議である CANDAR (5th International Symposium on Comput-ing and NetworkComput-ing,http://is-candar.org/) は, 2017 年 11 月 20 日から 22 日まで青森県観光物 産館アスパムにおいて開催された.電子情報通 信学会コンピュータ・システム研究会 (CPSY) と情報処理学会システム・アーキテクチャ研究 会 (ARC),プログラミング研究会 (PRO) の共 催 (Technically co-sponsored) であり,論文集は IEEE から出版され,IEEE のデジタルライブラ リに収録される.参加登録者は約 200 名で,延 べ 113 件の発表があった. メインシンポジウムは 5 つのトラック (Algo-rithms and Applications, Architecture and Com-puter System, Networking and Grid, Software and Middleware, Information and Computer Se-curity) から構成され,合計 73 件の投稿があり, 7 件が Long Paper,18 件が Regular Paper とし て採択された.採択率は 34%であり,質の高い論 文が選ばれた.また,併設の 9 つのワークショッ プでは,合計 88 件の発表があり,Graph Golf コンペティションで 2 件の発表があった.メイ ンシンポジウム全体で評価の高かった論文 2 件 を CANDAR Best Paper,各トラックで優れた論文を 1 件(計 5 件)を CANDAR Outstanding Paper として表彰した.ワークショップ全体で 評価の高い Poster 論文を Workshop Best Poster Paper に選び,また,ワークショップごとに優れ た論文を 1 件ずつ表彰した. 3 件のメインシンポジウム基調講演と 9 件の ワークショップ基調講演が行われた.うち,メイ ンシンポジウム基調講演は,(1) ポスト京の構想 とアーキテクチャ,(2) 折り紙による立体作成パ ズル,(3) 液浸スーパーコンピュータ ZettaScaler のアーキテクチャとプログラミングモデル,で あり最新のスーパーコンピュータアーキテクチャ から計算機によるパズル解法まで,興味深い講 演が行われた. また,前日の 11 月 19 日には,コンピュータ・ システム研究会の萌芽的コンピュータシステム 研究展示会を同じ会場で開催し,10 件の発表が 行われた.うち 1 件を優秀若手デモ/ポスター賞 として表彰した. 2018 年は JR 高山駅近くの高山市民文化会館 で 11 月 28 日(水)∼30 日(金)に開催する.ま た,前日の 11 月 27 日には,コンピュータ・シス テム研究会の萌芽的コンピュータシステム研究 展示会を開催する予定である.メインシンポジ ウムの投稿締め切りは 7 月上旬を予定している.
情報・システムソサイエティ誌 第 22 巻第 4 号(通巻 89 号) 【ソサイエティ活動】
開催報告 (Graph Golf 2017)
藤原 一毅
情報通信研究機構鯉渕 道紘
国立情報学研究所藤田 聡
広島大学中野 浩嗣
「与えられたノード数と次数をもつ無向グラフ の中で,直径・平均距離が最小のグラフを求め よ」.これは Order/Degree 問題と呼ばれるグラ フ理論の問題であり,次世代スーパーコンピュー タに必須とされる低遅延な相互結合網の設計に 直接役立つが,グラフ理論家による研究が進ん でいなかった [1].我々は,Order/Degree 問題を オープンサイエンスの俎上に載せて追究を加速す るべく,小直径グラフ探索コンペ “Graph Golf” を 2015 年から開催している [2].このコンペは, 主催者が指定したノード数・次数をもつグラフ を一般から募集し,その直径・平均距離の小さ さを競うものである.3 回目となる 2017 年は, より現実のスーパーコンピュータに近い問題設 定として正方格子上の頂点を距離制約付きの辺 で結ぶ格子グラフ部門を設けた.また,一般グ ラフ部門の 10 題中 6 題を実在のスーパーコン ピュータに即した頂点数・次数とした.開催期 間は 3 月 6 日から 6 月 25 日までがクローズド投 稿期間,6 月 26 日から 9 月 24 日までがオープ ン投稿期間であり,オープン投稿期間に入ると 図 1. 受賞した松崎貴之さんらのチーム 投稿された解が毎週 1 回公開される.最終的に 国内外から 269 件の有効投稿があった.中でも, 2016 年 11 月の TOP500 で 5 位だった Cray 社製 スーパーコンピュータ “Cori” に即した問題にお いて,直径・平均距離とも理論下限に等しいグ ラフが発見されたことが特筆される. 2017 年 11 月 22 日,青森県観光物産館アス パムで国際会議 CANDAR’17 に併設して開催 した Graph Golf ワークショップにおいて授賞 式を行い,一般グラフ部門の Widest Improve-ment Award と格子グラフ部門の Deepest Im-provement Award を受賞した松崎貴之さん(熊 本大)らのチーム(図 1)と,格子グラフ部門の Widest Improvement Award を受賞した川又生 吹さん(東北大)がそれぞれ講演を行った.ま た,高校生・高専生対象のプログラミング大会 “SuperCon2016” の主催者である渡辺治さん(東 工大)が基調講演を行った.SuperCon2016 では Graph Golf から着想を得た問題が出題され,高 専生らが知恵を絞った様子が紹介された.講演内 容はウェブサイトで公開している [2].ワークショ ップでは来年度の開催に向けた討論も行い,ビギ ナーとベテランが直接競争しないように部門を分 ける,高専生やグラフ理論家のコミュニティ参加 を呼び掛ける,などのアイディアが挙がった. Graph Golf 2018 は 4 月から開催予定である. 読者も是非周囲の学生に参加を勧めて頂きたい. 参考文献 [1] 藤原一毅,藤田 聡,中野浩嗣,井上 武,鯉渕道 紘,“みんなで Order/Degree 問題を解いて究極の 低遅延相互結合網をつくろう,” 信学技報,CPSY 2015-38, Aug. 2015. [2] http://research.nii.ac.jp/graphgolf/【ソサイエティ活動】 情報・システムソサイエティ誌 第 22 巻第 4 号(通巻 89 号)
CW 研究会と国際ワークショップ WSSM
岡本 秀輔
成蹊大学 1. はじめに サイバーワールド特別研究専門委員会(CW 研究会)の活動内容と国際ワークショップ WSSM とのコラボレーションについて紹介する.筆者 はどちらにも創設時から関係しており,本稿で は国内の活動としての CW 研究会と海外の活動 としての WSSM の特徴と共通点及び両者の関係 について述べていく. 2. CW 研究会の活動 CW 研究会は 2005 年から始まる息の長い時限 研究会である.コンピュータとネットワークが 作り出すサイバー空間と人間との関わり合いに 何が生まれるか,言い換えれば,サイバー空間 とリアルワールド(現実世界)を行き来する人 間の活動はどうなっていくのかを研究対象とし ており,これまでにオンラインゲームをはじめ としてモバイル・電子商取引・BBS/SNS・動画 共有・遠隔医療・遠隔教育などの様々な分野で の技術とシステム運用そして影響について議論 を重ねてきている. 研究会の専門委員はサイバーワールド構築 に必要と考えられる様々な分野の専門家である (図 1).それらは例えば,CG/VR などの映像生 成やヒューマンインタフェース・暗号・セキュ リティ・社会情報学・放送技術・ICT 国際標準 化・Web 技術・システムソフトウェアなどの研 究者であり,昨今では国際テロ情勢の研究者も 加わった.この多様な技術分野のそれぞれから 見ればサイバーワールド研究は境界領域と考え られるが,逆側から見てそれぞれの研究分野を 眺めたときに,何が今求められているかを考え させられ,自分の立ち位置を常に意識させてく れる研究会となっている. 多様な専門家に加えて,研究会のもう一つの 特徴は,常にビジネスを念頭に置いている点で ある.研究会を立ち上げた 2005 年当時から必ず 専門委員には企業からの参加者を多く含めるよ うに努力をしている.また,企業の研究者やベ ンチャー企業の若い社長による招待講演を積極 的に行うことで,技術要求に対する時流を常に 意識している. 年間の研究会活動は大きく分けて四つであり, それらは 6 月の企業中心の研究会,9 月の FIT のイベント,12 月の各種企画研究会,そして 3 月の学生発表を推奨する研究会が通例となって いる.過去 3 回の研究会のテーマを振り返ると, 平成 28 年 12 月「サイバーセキュリティと人材 育成」,平成 29 年 3 月「IoT とビッグデータ」, 平成 29 年 6 月「サイバーマネー」であり,本稿 執筆時点で次回研究会は平成 29 年 12 月「AI と サイバーワールド」を予定している.研究対象 分野の広さとともに扱うべき事柄の多さについ ても感じて頂けると思う.活動は研究会のほか に電子情報通信学会論文誌 D におけるサイバー ワールド論文特集の編集も行っており,この分 野の研究成果を形に残す活動も積極的に行って いる. 図 1. CW 専門委員会委員長 井原雅行氏情報・システムソサイエティ誌 第 22 巻第 4 号(通巻 89 号) 【ソサイエティ活動】
3. 国際ワークショップ WSSM
Web System and Social Media (WSSM) と呼 ぶ国際ワークショップは,その名が示すとおり, Web 関連技術とソーシャルメディア関連技術に 関する内容を中心に発表と議論を行う場である. インターネットの代名詞とも言える Web の技術 がソーシャルメディアを支え,逆にソーシャル メディアの進化が新たな Web 技術を生み出すと いう,相互のフィードバックを考えて,WSSM という 180 度ぐるりと回しても同じ形となる略 語を選んでいる. このワークショップは,2012 年から国際会議 NBiS (Network-Based Information System) の併 設として,毎年 1 回,8 月下旬または 9 月上旬 に開催している.これまでに,オーストラリア・ メルボルン,韓国・クァンジュ,イタリア・サ レルノ,台湾・台北,チェコ・オストラバで開 催し,2017 年度の第 6 回はカナダ・トロントで あった(図 2). CW 研究会の研究対象と比べると,Web とソー シャルメディアに絞った形となっているが,発 表内容は CW 研究会と似たスタイルのものが多 く,個々の技術の応用や新たな Web 関連サービ スの模索が中心となっている.ワークショップ であるために,研究初期段階の提案的なもので も気軽に発表できるが,完成度の高いシステム 実装の発表もあり,様々なレベルで議論を進め ている.実際に,このワークショップから本会議 NBiS のベストペーパー賞に選ばれた例や後に ジャーナルペーパーにつながった例もあり,意 図 2. ウィーンからチェコへ移動する途中 欲的に研究を進める若い研究者に対する良い意 味での動機付けとなっている. ワークショップの発表者は毎回 10 人前後であ り,2 時間の発表セッションを 2 枠,多いときで は 3 枠で行っている.ワークショップの主催者側 としてセッションを盛況にするために心掛けて いることがある.それは,査読をお願いした人 とはなるべく事前に食事などをともにし,セッ ション中にその方を中心として議論が盛り上が るように,軽い打ち合わせをしておくことであ る.この軽さのさじ加減が難しいが,海外での緊 張した発表場面で和やかにいろいろな意見が出 ると,発表者と聴講者の双方が安心した良い雰 囲気を味わえる.その雰囲気が伝わってか,他国 の全く知らない方々もセッションに参加してく れて,毎回そこそこの盛況ぶりを達成している. 4. CW 研究会とワークショップ WSSM の関係 当初,国際ワークショップ WSSM は CW 研 究会とは関係なくスタートしたが,筆者は CW 研究会とその専門委員会とで年に 5∼6 回ほか の委員と顔を合わせているため,自然とワーク ショップの査読やら参加をお願いするようにな った.CW 研究会の方では当初から国際会議の CYBERWORLDS と関係をもって活動を進めて きたが,お互いの活動を活性化させる意味で手を 取り合うこととなった.具体的には,CW 研究会 の専門委員会委員長である井原雅行氏を WSSM のプログラムチェアとして迎え,お互いに連携を 強調して活動している.2016 年度から開始した 正式な連携は,現在,良好な関係を築いている. CW 研究会と国際ワークショップ WSSM の情 報は以下の参考 URL の Web ページから得られ る.どちらも基本的にオープンな雰囲気で運営 しているので,本稿を読んで興味を抱いた方, 自分の研究との何らかの関係を見いだせる方は, 是非参加して頂きたい. 参考 URL CW 研究会:http://www.ieice.org/iss/cw/jpn/ WSSM:https://sites.google.com/site/iwwssm/
【フェローからのメッセージ】 情報・システムソサイエティ誌 第22 巻第 4 号(通巻 89 号)
サイバーとフィジカルの垣根を越えて
—企業とアカデミアでの研究を振り返って—
フェロー越前 功
国立情報学研究所 民間企業からアカデミアに移って10 年が経っ た.企業で10 年,アカデミアで 10 年,同じ年 数を異なる環境で過ごしたが,いずれの環境も 魅力的で,多くの方々から御指導を頂いた.本 稿では企業とアカデミアでの研究を振り返って, これからの10 年に向けて,自分なりの抱負を述 べてみたい.筆者の経験が,これからを担う若 手研究者や若手エンジニアの一助となれば大変 幸いである. 1. 企業での 10 年 大学では物性理論に興味を持ち,修士課程で は当時ホットなトピックであった連想記憶の神経 回路モデルの研究に取り組んだ.神経回路モデ ルと磁性体モデルとの類似から,記憶容量や記 憶の想起過程を理論的に解析できることを,紙 と鉛筆(理論計算)とスパコン(解析結果の実 証)を使って楽しんでいた.当時はポスドク一 万人計画などの施策で,理学部でも博士課程へ の進学希望者が増えていたが,理論計算だけで 生きていく自信がないことや,社会に直接貢献 できるような応用研究がしたいという思いから, 修士課程修了後に,日立製作所システム開発研 究所に入所した.1997 年のことである. 日立では,不正コピー防止技術の研究に取り 組んだ.当時は,コンテンツ配信サービスの黎 明期であり,ネットワークやDVD などの可搬媒 体を通じて画像や映像などのコンテンツが流通 し始めた時期である.一方でコンテンツの不正 コピーによる著作権侵害や情報漏えいの問題が 顕在化しており,不正コピー技術の確立が求め られていた.既に暗号技術を用いた著作権管理 やアクセス制御が広く利用されていたが,ディ ジタル情報を印刷や画面表示することで一旦ア ナログ化し,再度ディジタル化することで,暗 号を無効化してしまう問題(アナログホール問 題)への対策が今後重要になると考え,映像ア ナログ出力や印刷物を経由した不正コピーを検 知する電子透かしの研究に取り組んだ.視覚モ デルに基づく情報埋込み時の画質劣化防止,軟 判定復号法を用いた情報検出時の誤り訂正など の学術成果を上げるとともに,汎用PC を用い たライブ映像配信向けのリアルタイム電子透か し埋込みシステムや,白黒二値画像電子透かし による紙文書の情報漏えい検知システムの実用 化に力を注いだ. 日立は社員教育が大変充実しており,入所後 2 年間は指導員(メンター)が懇切丁寧に指導し てくれた.OJT をベースとした業務文書の書き 方や,企業倫理などのコンプライアンス教育は, アカデミアに移ってからも大変役に立っている. 入所後3 年目から論文博士を取得するために 4 年間ほど週末をジャーナル論文の執筆に充てて いたが,当時の上司(現 電気通信大学 吉浦 裕 教授)には毎週末,論文の添削をして頂き,大 変有難かったことを記憶している. 2. アカデミアでの 10 年 2007 年に国立情報学研究所に移って,最初に 取り組んだのは,映像盗撮防止技術の研究[1] で ある.この技術は,人間と撮像デバイスの分光 感度特性の違いに着目し,人の視覚に影響を与 えず撮像デバイスに反応する近赤外領域のノイ ズ光源を用いて,表示装置側で撮影映像にノイ ズを重畳するため,既存のビデオカメラに新た な機能を追加することなく,スクリーンやディ スプレイに表示した映像の盗撮を直接的に防止 することが可能な技術である.この研究は,日情報・システムソサイエティ誌 第22 巻第 4 号(通巻 89 号) 【フェローからのメッセージ】 立時代に多くの顧客から指摘されていた,電子 透かしは不正コピーの検知はできるが,不正コ ピーの生成を防止できないという課題を克服す るために着想したものである.研究者でも顧客 と直接会話し,問題点をくみ取り改良せよとい う日立製作所システム開発研究所の理念をアカ デミアで実践したことに嬉しさ半分,悔しさ半 分である. 次に取り組んだのは,カメラの写り込みによ るプライバシー侵害を被撮影者側から防止する 技術の研究[2] である.映像盗撮防止技術の研究 に着想を得て,人の視覚には影響を与えずに,撮 影時のみ被撮影者の顔検出を不能にする技術を 世界で初めて確立した.本技術は,発表後,国内 メディアに先行して,BBC,TIME,Discovery Channel,NBC News などの海外の有力メディア を中心に大きく取り上げられた後,NHK ニュー スなどの国内主要メディアで取り上げられ,サ イバーとフィジカルの境界における人間のセン シティブな情報を自らの意思により制御できる という研究が世界的な関心を集めた.本技術は 眼鏡フレームの国内生産シェア95%以上を誇る 福井県 江市の協力を経て,プライバシー保護 眼鏡(PrivacyVisorR) として 2016 年 5 月に製品 販売されている(図1).企業と比べてアカデミ アでは研究成果の実用化には大きな困難が伴う. アカデミアでは,基本的に独力で営業活動や製 品化企業との交渉を行う必要があり,製品化の 図 1. PrivacyVisorR 過程で生じる様々な課題を解決しなければなら ない.最終的に研究成果の実用化の成否を分け るのは研究者本人の熱意であろう. 3. これからの 10 年 コンテンツやデータの流通は,メディア処理 の発展と新たなビジネス展開により,これから 益々多様化するであろう.同時に今まで考えら れなかったようなセキュリティホールやプライ バシー問題が顕在化してくるはずである.特に 今後,高性能なカメラやマイクロフォンの普及 により,他人の顔,音声,歩行動作,更には指 紋,静脈,虹彩といった生体情報が,遠隔からの 撮影や録音を経て,サイバー空間に共有される ことで,生体認証の突破や,詐欺や詐称といっ た「なりすまし」の脅威となることが指摘され ている.筆者は指紋の盗撮を防止する指紋盗撮 防止技術の研究[3] を進めており,上述の脅威へ の対策技術を確立するために,国内外の他分野 の研究者との共同研究や共同開発を開始してい る.今後も研鑽をつみながら,サイバーとフィ ジカルの垣根を越えた新たなセキュリティホー ルやプライバシー問題に立ち向かうことで社会 に貢献していきたいと強く思う. 参考文献
[1] T. Yamada, S. Gohshi, and I. Echizen, “Prevent-ing re-record“Prevent-ing based on difference between sen-sory perceptions of humans and devices,” Proc. 17th International Conference on Image Process-ing (ICIP 2010), pp.993–996, Brussels, Belguim, Sept. 2010.
[2] T. Yamada, S. Gohshi, and I. Echizen, “Use of invisible noise signals to prevent privacy invasion through face recognition from camera images,” Proc. ACM Multimedia 2012 (ACM MM 2012), pp.1315–1316, Nara, Japan, Oct. 2012.
[3] T. Ogane and I. Echizen, “BiometricJammer: Preventing surreptitious fingerprint photogra-phy without inconveniencing users,” Proc. In-ternational Joint Conference on Biometrics 2017 (IJCB2017), 8 pages, Denver, USA, Oct. 2017.
【フェローからのメッセージ】 情報・システムソサイエティ誌 第22 巻第 4 号(通巻 89 号)
ハートタッチング
AI を目指して
フェロー山田 武士
日本電信電話 空前のAI ブームである.コンピュータの囲碁 プログラムがプロ棋士に勝利した,などは言う に及ばず,最近はAI に関するニュースを見聞き しない日はない.AI 関連の講演会も連日のよう に開催されている.AI 関連の書籍もあまた出版 されており,それらを斜め読みすると,AI の能 力は飛躍的に向上し,人間の職を奪い,人間の 能力を超え,人間の敵となって人類を滅亡に導 く,らしい.これは一大事である. 確かに,深層学習はますます進歩し,音声認 識や画像認識,自然言語処理の性能は今後も向 上していくだろう.例えば音声認識の精度は人 間を超える勢いだし,機械翻訳の精度も実用レ ベルに急速に近づいている.技術は既にコモディ ティ化しつつあり,誰もが深層学習を使い,大 量の学習データとチューニングのノウハウがそ の性能を左右する.これでは研究者の方が先に 職を奪われかねない. しかし,このように深層学習を中心としたい わゆる第三のAI ブームが続く一方で,本当に 「人間に迫り,超えるAI」の実現を目指すので あれば,もっと異なるレベルの,人間への深い 理解に基づくAI を探求することがますます必 要になる. 人間の脳の中で,一番外側にあり,最も新し く出現した部位は,新皮質と呼ばれ,合理的で 分析的な思考や言語機能を主に担っている.一 方,新皮質の内側には,古い脳である大脳辺縁 系や,脳幹,小脳が存在する.信頼や忠誠心,好 き嫌い,快・不快,やる気などの感情や,無意識 の認知処理,運動など,脳のこの部位の役割は 無視できない.しかし,これらの機能・メカニ ズムは十分に解明されておらず,また計測・評 価技術も発展途上のようである. このように,知能だけでなく,感性・本能・身 体といった人間にとって不可分かつ根源的な部 分を科学的に解明することは重要であり,それ を模倣することは簡単にはできなくても,その 機能を理解し,それに基づいて人間に働き掛け, 拡張していくAI を工学的に実現することはあ る程度可能で,かつ,チャレンジングな課題で あろう. この考え方は,NTT グループの AI 技術 corevo の中で提唱されている四つのAI のうちの一つ である,ハートタッチングAI: Heart-Touching AI に反映されている [1].Heart-Touching AI は, いわゆるロジックよりも人間の本能とか,深層 心理に関わるAI である.例えば情報を伝えるに しても,単にテキストを用いるのではなく,五 感を駆使してもっと直接的に伝えるなど,人の 心(= ハート)に直接触れる(タッチ)ように心 を読み取り,そして心に直接伝えるAI である. 以下,筆者が所掌するNTT コミュニケーショ ン科学基礎研究所で取り組んでいる技術も踏ま え,私見を交えて,Heart-Touching AI が目指す べき幾つかのポイントについて論じてみたい. 人の心を読み取る AI 人の心を読み取ると言っても,たくさんの電 極を頭につけたり,fMRI 装置の中に入って計測, というのでは実用的とはいえない.そこで,例 えば眼球運動を計測することによって,非侵襲 で人の心を直接読み取ることが期待される.専 門家によると,人間の覚醒レベルの制御,選択 的注意などに関与すると言われる「青斑核」と いう部分と,眼球運動・瞳孔径の制御,視覚・聴 覚・触覚入力を司る「上丘」という部分が物理情報・システムソサイエティ誌 第22 巻第 4 号(通巻 89 号) 【フェローからのメッセージ】 的に近い場所にあり,両者の活動は相関が高く, すなわち,「目は心の窓」だそうである.実際眼 球運動を計測することで,その人の好き嫌いや 注意の状態などを読み取ることができるように なってきている[2].近年このような観測のため のカメラも進歩しているので,例えば車の運転 中など自然な姿勢の状態で測定できる.今後こ のような技術が更に進歩すると,パートナーか ら誕生日のプレゼントを貰い「気に入った?」と 聞かれた際,「とっさの嘘がつけなくなる」かも しれない. 触= 知性 五感の中でも,視覚,聴覚以外に,特に触覚が 重要となる.遠隔手術において微妙な指先の感 覚を正確に伝える,ということも大事だし,「身 体にタッチすることで相手に癒やしを与える」 ことも大事かもしれない.しかし,もっと幅広 く,触覚は,言葉だけでは伝えられない「情報」 を「直感的に」伝えるための手段として重要で ある.最近の知見によると,触覚を通じて物体 に「触れる」ことによって,記号化されたもの を身体的に感じることができる,すなわちそれ は,正に記号接地(Symbol Grounding) である, ということらしい[3]. 人間型のロボットがリアルな触覚を持つとい うのではなくとも,ちょっとしたデバイスやガ ジェットが人間の触覚に働き掛けるだけで人間 にとって「生き生きとした」存在になるのでは ないか.また,人間同士のコミュニケーション の手段としてもっと触覚を活用する,というの も面白い可能性を秘めている. 人の心をつかむ AI 人間はかなり優秀かつ柔軟であって,簡単に 人間の能力を超えることはできない.しかし一 方で,人間は「振り込め詐欺」に騙されてしま う.人間が柔軟であるがゆえに誤差を許容し,拡 大解釈するからであろうか.例えば対話ロボッ トが真の意味で人間の知性を超えることは難し いが,一方で人間は,一見知能がありそうな振 る舞いをするものに対しては,勝手に擬人化し, 知能を感じてしまう.ペットの犬に対して「うち の子はなんて賢いの」と飼い主が思うほど,実 は賢くない,ということもあり得る. したがって,対話ロボットの「ちょっとした 立ち居振る舞い」「相づちのタイミング」などを 工夫することによって,一見賢く見せ掛けるこ ともある程度は可能と考えられる.複数台のロ ボットを用いてうまく役割分担することで,1 台 の場合より,限られた音声認識性能と対話能力 においても,より自然な対話ができる,という 知見も得られている.但し,対話ロボットを本 当に賢くする対話処理の研究と,賢くなくとも 賢く見せ掛ける研究は,両方進めてほしい. 人を感動させる AI
Heart touching story と言えば,人を感動させ
る物語,という意味である.AI が人間に代わっ て人を感動させるような長編小説を書くのは, AI 研究の一つの目標ではあろうが,そう簡単で はない.一方で,上述の対話ロボットのように, 人間の特性を理解した上で,それをうまく利用 するしかるべき「演出」を施すと,特定の状況 なら人間を感動させることも可能かもしれない. 平均寿命100 歳の時代に向けて,AI が単に人 間に取って代わるのではなく,人間のパートナー として,人間と共存,共創してゆく社会の実現 のためには,人間の役に立つことに加え,人間 の心に寄り添い,触れて,感動させるAI の実現 を目指したい. 参考文献 [1] 山田武士,高橋 敏,納谷 太,池邉 隆,古川 茂人,“NTT グループにおける AI 研究の取り組 みと方向性,” NTT 技術ジャーナル,vol.28, no.2, pp.8–13, Feb. 2016. [2] 古川茂人,米家 惇,Hsin-I LIAO,柏野牧夫,“眼 から読み取る心の動き Heart-Touching-AI のキー 技術,” NTT 技術ジャーナル,vol.28, no.2, pp.22– 25, Feb. 2016. [3] 渡邊淳司,“情報を生み出す触覚の知性:情報社 会をいきるための感覚のリテラシー(DOJIN 選 書),” 化学同人,2014.
【コミュニティ通信】 情報・システムソサイエティ誌 第22 巻第 4 号(通巻 89 号)
「ことば」に魅せらせて
柳澤 佳代子
Amazon.com 筆者の専門は音声合成で,現在はAmazon の英 国ケンブリッジ開発センターで,Alexa や Polly など∗Amazon の音声合成技術の研究開発に携 わっている.が,工学部を出て音声工学の道まっ しぐらでここにたどり着いたわけではない.端 から見るとかなり一貫性のないキャリアだが,自 分の中では一貫したテーマがあり,各マイルス トーンでそのテーマが大きな判断材料となって きた.個人史的な内容ではあるが,今後の進路 を考えている学生さんやキャリアの転換を考え ている若手の方々の参考になれば幸いである. 自分が歩んできた道を振り返るとき,いつも 思い出すシーンがある.高校3 年時の親子面談. 数学の先生との面談で,両親も先生も筆者が大 学では理系に進むものと思い込んでいる中,フ ランス語とロシア語を専攻したいと宣言.その 後もプッシュバックがあったが,周りの反対を 押し切って最終的にフランス語専攻の道を選ん だ.とはいえ,中高でフランス語を学んでいた ため大学ではほとんどフランス語の授業を受講 せず,代わりに言語学関係の授業ばかり受講し て過ごした.また,フランス語,ドイツ語に加 え,スペイン語,ロシア語,古典ギリシャ語,ラ テン語をレパートリーに追加した. 大学卒業後は就職か進学かで悩んだが,もっと 勉強したければ就職した後にでも大学院に戻っ∗Amazon Alexa は Amazon Echo などのデバイスで提供
するクラウドベースの音声サービス.Amazon Polly はアマ ゾン ウェブ サービス (AWS) 上で提供するクラウドベース の音声合成サービス. てくるだろうと,いったん大学の外の世界を見 てみることにした.言葉を素材とした仕事をし たいという基準で就職先を探し,校閲記者志望 で日本経済新聞社に応募.校閲記者とは記者が 執筆した原稿の誤字・脱字・言葉の間違い及び 事実確認をする仕事.しかし内定をもらって蓋 を開けてみると一般記者採用.校閲記者で採用 された同僚は漢検1 級保持者で,帰国子女の筆 者には到底かなわなかった.一般記者とは想定 していない展開だったが,毎日原稿を執筆する という意味では「言葉を素材にする」ことに変 わりはないだろうと,チャレンジしてみること にした.多岐にわたる分野を担当,毎日取材を 通してたくさんのことを学んだ.デスクで地道 に原稿チェックをする仕事を望んでいた筆者に とって,毎日取材に出て人と話す仕事は対照的 なところにあり,自分をストレッチすることで 一皮むけたように思う. 国際部在籍中には世界の言葉にまつわる連載 コラム「ことば企画」などを企画・執筆する機 会をもらったが,日常を見ると,原稿執筆とい う行為を通して「言葉を素材にする」というの は理想に過ぎなかった.現実は毎日取材・執筆 の数をこなさなければならず,一本一本の記事 の言葉遣いや文調に気を遣っている余裕がなく, 毎日「ことば」に対する冒涜をはたらいている 気がしていた.そんな中,音声認識ソフトウェ ア販売の企業の取材をする機会があり,「ことば」 に対する熱意に再度火がついた.その時点では, 自分が音声認識や合成のソフト開発に携わるよ
情報・システムソサイエティ誌 第22 巻第 4 号(通巻 89 号) 【コミュニティ通信】 うになることは全く想定していなかったが,もっ と「ことば」の世界に近い部分で仕事をしたい という気持ちが強くなった.更に,記者という 仕事は広く浅くという傾向があり,幅広い分野 の,自分にとって未知の世界について勉強する 機会に恵まれたのはよかったが,常に「もっと 深く追究したい」という欲求が満たされていな いことに気づき始めていた. そこで方向転換を決意,高校時代までを過ご したイギリスに戻ってUCL(ロンドン大学)で 音声学の修士課程に進んだ.音声学を選んだの には幾つか理由があるが,一番大きなものとし ては1 歳から小学校入学までを海外で過ごし,中 高でまたイギリスに戻ったのだが,そのとき文 法や語彙はほとんどゼロからの再スタートだっ たのに発音だけは幼少の頃に身についたものが 残っていて,言語習得の中でも音声は何か特別 なのだな,と思っていたことが挙げられる. 音声学の修士は文系のもので,将来の就職先 を考えて博士課程では意図的に音声工学系の研 究テーマ(cross-language voice conversion) を選 んだ.博士課程修了後にケンブリッジの東芝欧 州研究所で職を得,音声合成の分野でのキャリ アはここから本格的に始まった.始めは欧米諸 言語の開発に携わり,言語学により近い部分(フ ロントエンド)で仕事をしていたが,巡り合わ せで音声合成の話者適応を担当することになり, そこでバックエンドの技術を学ぶことになる.幸 い同じ研究所には現在各所で活躍中の研究者が 何人もいて,技術的なことを本当に丁寧に指導 してもらった.高校卒業時に悩んだ末に文系の道 を選んだが,最終的に理系に戻ってきたわけで, 20 代後半での転換はかなり急な学習曲線だった. 好きなことを追究できる幸せの実感,新しいこ とを勉強できる好奇心が原動力となっていたの は確実だが,当時の同僚の指導・支援なしには 到底乗り切れたものではなく,心から感謝して いる. 2016 年 6 月に Amazon に転職,音声合成技術 の研究開発に取り組んでいる.Amazon では物事 の進むペースが早く,じっくり考えてから行動す る傾向にある筆者は戸惑うことも多いが,仕事 内容がすぐに製品に反映されお客様の元に届く 点は大変に刺激的だ.初めての非日系企業への 就職ということで転職前は不安があったが,自 分が何をやりたいのかがはっきりしていれば器 が変わっても適応できるのだと思うようになっ た.大学であれ企業であれ,日本であれ海外で あれ,肝心なのは自分が情熱を持って取り組め る仕事かどうか,自分を伸ばしていける環境か どうか.筆者は安全な道を選びがちなので,常 に自分にチャレンジを与えていかなければなら ないと自身を戒めている.Amazon は日々自分 に挑戦できる環境を提供してくれる. 紆余曲折あってここにたどり着いた.紆余曲 折といっても,「曲がりくねった道」という意味 であって,「物事が順調に運ばないでこみいった 経過をたどる」という意味ではない.各ターニ ングポイントで学んだこと,それぞれが今の自 分を形成しているのだと思う.次の展開がいつ どこで待っているかは分からないが,情熱を持っ て取り組めているか,自分に挑戦しているか,常 に見直してこれからもキャリアを考えていくこ とになるのだろう. 2017 年 8 月の学会でたまたま東工大の篠崎隆 宏先生に自己紹介をさせて頂く機会があり,一 風変わったキャリアということで今回当コラム で御紹介させて頂く機会を頂いた.これまで幾 度とない方向転換の中で縁という要素も否めず, これも何かの御縁と思い僭越ながらお引き受け した.自分が何を考えながらこの道を歩んでき たのか,振り返って考える機会を頂いたことに 感謝したい.
【技術会議から】 情報・システムソサイエティ誌 第22 巻第 4 号(通巻 89 号)
2018 年度からの技術研究報告の完全電子化
副会長(技術会議担当)斎藤 英雄
慶應義塾大学 1. はじめに 情報・システムソサイエティ(ISS) では,2018 年度より,研究会の「技術研究報告(技報)」を 完全に電子化する.つまり,従来の紙媒体の「冊 子」の発行を廃止し,PDF による電子ファイル をオンラインで発行するのみとする.既に2017 年度は,幾つかの研究会で実施している「電子 化トライアル」の研究会では,会場での紙媒体 「冊子」の配布・販売がなく,完全に電子ファイ ルのダウンロードのみで研究会を実施している. ISS の全ての研究会では,2018 年度からこのよ うな完全電子化の運用が始まる. 本稿では,技報の完全電子化に伴うルールや 料金体系の変更点や,電子化に伴って導入される 新しい形態の技報データの提供方法について説 明し,できるだけ多くの皆様に完全電子化の運 用体系を御理解頂くための一助としたいと思う. 下記2 点が変更点の要点となる. 1) 技報の配布方式の変更 技報の冊子体を廃止し,インターネットから 技報電子ファイルをダウンロードできる「技報 オンサイトビュー」「技報アーカイブ(ISS)」サー ビスをスタートする. 2) 研究会参加費と年間登録制度の導入 研究会参加を有料とし,参加者は「技報オン サイトビュー」により技報電子ファイルのダウ ンロードを可能とする.参加費は,1 回の参加 費に加えて,研究会ごとに年間登録でお支払い 頂く研究会年間登録制度を導入する. 2. 技報オンサイトビュー 既に電子化トライアルで運用されているサー ビスであり,研究会に参加される方(有料)が, 当該研究会の技報電子ファイルをダウンロード できるようになるサービスである.参加費は,1 回の研究会に参加できる通常の参加費か,研究 会に年間を通じて参加できる研究会年間登録費 (研究会ごとの料金と,ISS の全ての研究会の一 括料金がある)として支払うことができる.研 究会年間登録すると,当該の年度の当該研究会 で発表される全ての技報電子ファイルを,研究 会開始日の1 週間前からダウンロード可能とな る.表1 に研究会参加費を示す. 従来,研究会の参加を前提にして個人単位で 技報の年間予約をされていた方は,当該研究会 の年間登録によって,これまでと同様のサービ ス(1 年分の全ての技報電子ファイルのダウン ロードと研究会参加が可能)を受けることがで きるので,年間登録制度の利用を勧める. ただし,これまでの年間予約から自動的に切 り替わるわけではなく,御自身での年間登録手 続き(オンライン)が必要となる. 表 1. 研究会参加費 オンライン申込(税別) 当日現金払(税込) 会 員 非会員 会 員 非会員 一般 2,500 円 3,500 円 3,000 円 4,000 円 学生 無料 1,000 円 500 円 2,000 円 年間 登録 4,000∼ 8,000 円 7,000∼ 11,000 円 不要 不要 注:学生で技報電子ファイル不要の場合は参加費無料情報・システムソサイエティ誌 第22 巻第 4 号(通巻 89 号) 【技術会議から】 3. 技報アーカイブ (ISS) 技報電子ファイルをダウンロードできるもう 一つのサービスである「技報アーカイブ(ISS)」 は,通信ソサイエティでも新たに開始するサー ビスである「技報アーカイブ(通ソ)」と同様の サービスで,ISS に属する 23 の研究会全てにつ いて,2007 年度以降の全ての技報電子ファイル をダウンロードできる.ただし,最新版の技報 については,各研究会開催の約1ヶ月後からダ ウンロードが可能になる.これまでは研究会単 位で年間予約可能だったが,この「技報アーカ イブ(ISS)」は,ISS 全 23 研究会の技報全てがダ ウンロード可能なアーカイブとなっている.年 度ごとの利用規模に応じたサイトライセンスま たはグループライセンスを取得して頂くことに より,年度を通じて複数の利用者での利用が可 能になるサービスであり,これまで研究室・部 署・組織・機関といった複数名の利用者グルー プ単位で技報を閲覧することを目的に年間予約 表2. 技報アーカイブ (ISS) 料金表 種 別 ランク DL 数上限 (月間) 利用人数 料金(万円/ 年,税別) サイト ライセンス (IP 認証型) S 無制限 500∼ 32 A 2,000 100∼499 24 B 1,000 30∼99 16 グループ ライセンス (PW 認証型) C 320 10∼29 8 D 160 5∼9 4 E 80 1∼4 2 DL:ダウンロードの略 表3. 技報オンサイトビューと技報アーカイブの比較 DL 開始 DL 可能範囲 研究会参加 会員料金 技報オンサイ トビュー(研 究会に参加す る個人向け) 通常参加費 研究会開催 1 週間前 当該回研究会のみ 当該回研究会のみ可 2,500 円 1 研究会 年間登録 1 研究会 当該年度 1 研究会 当該年度可 4,000∼ 8,000 円 ISS 全研究会 年間登録 ISS 全研究会当該年度 ISS 研究会当該年度可 15,000 円 技報アーカイブ(技報ファイルを 共有するグループ・組織向け) 研究会開催 1ヶ月後 ISS 全研 2007 年度以降全て 別途参加費 が必要 2 万∼ 32 万円 DL:ダウンロードの略 をされていた場合や,過去から現在までの全て のISS 研究会の技報電子ファイルをダウンロー ドしたい方に勧める.表2 に料金表を示す. 4. お勧めプラン 表3 に,技報オンサイトビューと技報アーカ イブの比較を示す.これまで,個人単位で技報 の予約をしていた方は,研究会の年間登録がお 勧めである.これにより,1 年分の技報電子ファ イルがダウンロードでき,更に研究会にも参加 可能となる. 一方,グループ・組織単位で技報を予約購読 していた場合には,技報アーカイブがお勧めで ある.ただし,研究会に参加するには,別途参 加費若しくは年間登録が必要になるので,頻繁 に参加する場合は,個人ごとに年間登録を御検 討頂いた方が安く済む場合もある. なお,基礎・境界ソサイエティ,NOLTA ソサ イエティ,エレクトロニクスソサイエティ,及 び,ヒューマンコミュニケーショングループの 技報については,2018 年度も引き続き,従来ど おり技報冊子体の年間予約となっている.通信 ソサイエティにおいては,情報・システムソサイ エティ同様技報完全電子化を進める予定である. 本件についての質問等は,技術会議幹事団 (E-mail: [email protected]) までお問 合せ頂ければ幸いである.
情報・システムソサイエティ誌 第22 巻第 4 号(通巻 89 号) 【ISS 組織図など】
【編集委員会名薄】 情報・システムソサイエティ誌 第22 巻第 4 号(通巻 89 号) 編集後記 ▼著者の皆様には,お忙しい中,多彩な記事を御執筆頂きありがとうございました.編集作業 の傍ら,活発な研究活動をされている様子や,その会にはそういう経緯があったのだと「なるほど!」と思 う箇所もあり,有意義な時間でした.読者の皆様にも何か気づきがありましたら幸いです.(主担当:河野) ▼記事を御執筆頂いた皆様に心より御礼を申し上げます.素晴らしい記事が集まった号になったと思います. 個人としては,会誌の編集作業は初めての経験であり,編集作業開始前は多少の不安はありましたが,編集 委員会の方々からの御支援のおかげで無事に発行できたことを感謝しています.(副担当:肥後)