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感染症学雑誌第77巻第8号

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はじめに 耳鼻咽喉科領域の多くは外界に直接した生体防 御の第一線に存在することから,様々な外来性病 原体にたえず暴露されており,感染症の好発部位 となる.なかでも,急性中耳炎は耳鼻咽喉科にお ける代表的な感染症であり,鼻咽腔に存在する起 炎菌が経耳管的に中耳腔に感染し発症すると考え られている.急性中耳炎の臨床経過は従来までは 良好とされ,経口抗菌薬の投与にて容易に治癒し ていた.しかし近年,急性中耳炎の臨床像は,経 口抗菌薬の治療にも関わらず急性中耳炎が改善し ない遷延例や感染を繰り返す反復例といった難治 例が増加するなど大きく変化し問題となってい る1)2) このような急性中耳炎の臨床像の変貌に関与す る要因としては,第 1 には起炎菌の薬剤耐性化が, 第 2 には集団保育をはじめとする社会生活環境の 変化が,第 3 には宿主の免疫能の関与が考えられ る. 本稿では,難治化する急性中耳炎への対策とし て,中耳炎起炎菌の薬剤耐性化,中耳炎患児の細 菌特異的免疫能,社会的要因としてその伝播様式 について,分子生物学的および免疫学的検討を加 えるとともに,それらの要因を考慮した対策につ いて概説したい. 1.急性中耳炎の難治化を来した要因は何か 和歌山県立医科大学耳鼻咽喉科およびその関連 施設で行われた急性中耳炎の臨床経過および治療 に関する臨床研究(Prospective Clinical Study)を もとに,何によって急性中耳炎の難治化がもたら されたのか検討した. 急性中耳炎の多くが幼小児期に罹患することか ら,発熱などで小児科を受診する患児も多い.0∼ 1 歳の乳幼児では発熱は高率に急性中耳炎に合併 するにもかかわらず,79% もの症例で急性中耳炎 の存在に気づかれていない3).また,急性中耳炎は 鼓膜の膨隆,発赤から容易に判断できるため,細 菌感染による急性炎症であるにも関わらず,その 重症度が注目されることは少なかった.しかし, 近年の難治化する急性中耳炎の診療においては, 急性中耳炎の臨床症状および鼓膜所見をスコアー 化して,その重症度を判定し,治療選択および治療 効果の評価を行うことが重要と考えられる(表 1). 急性中耳炎の経過を,臨床症状および鼓膜所見 より検討した結果,臨床症状は 5 病日目に 91% の 症例で改善を認めたのに対し,鼓膜所見はわずか 18.8% で改善を認めるにすぎず,鼓膜所見の評価 が重要であることが再認識された(図 1).すなわ ち,中耳内に貯留液(膿汁などの炎症性分泌物)が 陽性の症例は,14 病日では 44.6%,28 病日では 23.6% であり,急性中耳炎の再発率は 14 病日∼28 病日では,14.4% であった.したがって急性中耳炎

難治化する急性中耳炎

―難治化の要因とその対策―

和歌山県立医科大学耳鼻咽喉科学教室

〔感染症誌 77:595∼605,2003〕

acute otitis media, drug-resistant microbes, treatment guideline, preventive vaccine

別刷請求先:(〒641―0012)和歌山県和歌山市紀三井寺 811―1

和歌山県立医科大学耳鼻咽喉科学教室 山中 昇 Key words:

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表1 急性中耳炎スコアリング・システム 臨床所見 2:高度 1:軽度 0:なし 耳痛 2:高度 1:軽度 0:なし 啼泣 / 不機嫌 2:38.0℃ 以上 1:37.1 ∼ 37.9℃ 0:37.0℃ 以下 発熱 【付則 1】耳痛あるいは啼泣 / 不機嫌の一方しか観察できない場合には 1 項目のみ判定し,スコアを 2 倍し参考 とする. 【付則 2】発熱において平熱が 37.0℃ 以上の場合には,以下のように判定する. 0:平熱,1:平熱+ 1℃ 未満,2:平熱+ 1℃ 以上 鼓膜所見 (1)耳漏がない場合には,下記の 3 項目を評価する. 2:高度 1:軽度 0:なし 膨留 2:高度 1:軽度 0:なし 発赤 2:高度 1:軽度 0:なし 光錐減弱 / 混濁 (2)耳漏がある場合には,以下のとうりとし上記 3 項目の参考とする. 3:多量 2:中等量 1:少量 耳漏 3:膿性 2:粘性 1:漿液性 性状 患児の約半数は 14 病日にも中耳貯留液を有し,1! 4 の症例では,28 病日目においても何らかの鼓膜 所見を有し,中耳炎が治癒していないと考えられ る.上記の Prospective Clinical Study により変貌 要因および予後因子を Cox 比例ハザード解析を 用いて検索した結果を以下に示す. 1)臨床症状の改善が遅延するリスク・ファク ター a)低年齢児 b)鼻咽腔から肺炎球菌が検出される例 2)鼓膜所見が遅延するリスク・ファクター a)低年齢児 b)初診時の鼓膜所見が重症 c)鼻咽腔より肺炎球菌が検出される例 d)ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)検出例 したがって,急性中耳炎の難治化を来す要因と しては,中耳炎罹患年齢の低年齢化(低年齢保育 と密接に関連),中耳炎起炎菌である肺炎球菌の薬 剤耐性化などが大きく関与していることが明らか となった. 次にそれぞれの要因について考察を加える. 2.急性中耳炎起炎菌の変貌:肺炎球菌や インフルエンザ菌の薬剤耐性化が進行 している 急性中耳炎の起炎菌としては,肺炎球菌,イン フルエンザ菌およびモラキセラ・カタラーリスが 3 大起炎菌とされる4)∼6).肺炎球菌はさらに,アメ リカ臨床検査標準委員会(NCCLS)の基準7)により ペニシリン G の最小発育阻止濃度(MIC)が 0.06 µg!ml 以下のペニシリン感性肺炎球菌(penicillin susceptible Streptococcus pneumoniae : PSSP ),

0.125∼1.0µg!ml のペニシリン軽度耐性肺炎球菌 ( penicillin intermediately resistant S . pneumo-niae:PISP),2µg!ml 以上のペニシリン耐性性肺

炎球菌(penicillin resistantS. pneumoniae:PRSP)

に 分 類 さ れ る が,1990 年 頃 よ り PISP お よ び PRSP による難治性中耳炎が増加し臨床上の大き な問題となっている8)∼10) (1)分子生物学的手法による耐性遺伝子の検討 肺炎球菌 図 1 急性中耳炎の臨床症状が改善しても鼓膜所見は 改善していない

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肺炎球菌のβ-ラクタム剤に対する薬剤耐性化

は,β-ラクタム剤の作用標的であるペニシリン結

合蛋白(penicillin binding protein:PBP)遺伝子の 変異により PBP の構造変化が生じ,薬剤親和性が 低下するためと考えられている.なかでも,PBP 1A,PBP2X,PBP2B の変化が重要であり,ペニシ リン系抗菌薬に対する耐性には PBP1A,PBP2B の変化が,セフェム系抗菌薬に対する耐性には PBP1A,PBP2X の変化が関与していると考えら れている.ペニシリン耐性肺炎球菌では,これら の PBP を支配するpbp1a 遺伝子, pbp2x 遺伝子, pbp2b 遺伝子の変異が生じていることが報告され ている11)∼13) 小児急性中耳炎患児の鼻咽腔より分離された肺 炎球菌 1,014 株について PCR 法によるpbp 遺伝 子の変異の検討およびマクロライド耐性遺伝子 (mefE ,ermB )の検出を検討した結果を図 2,3 に 示した.肺炎球菌全株の 76% でなんらかの遺伝子 変異が認められており,pbp 遺伝子の変異が認め られなかったのは 22% のみであった.41% の株 では,pbp1a,pbp2x,pbp2b の 3 つの pbp 遺伝子に 変異を認めpbp 遺伝子の変異にともないペニシ リン G に対する MIC が増加していた14)(図 4) 一方,セフェム系抗菌薬の耐性化に関与するpbp 図 2 小児鼻咽腔より分離された肺炎球菌のpbp 遺伝子変異の検討 図 3 小児鼻咽腔より分離された肺炎球菌のマクロライド耐性遺伝子の発現

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2x 変異株は 24% に認められた.pbp1a,pbp2x,pbp 2b 変異株は 2 歳以下の小児(45.0%)で,2 歳以上 (42.9%)より多く検出された.マクロライド耐性 遺伝子の検討では,32% にmefE 遺伝子が,32%ermB 遺伝子が検出され,肺炎球菌の 67% がマ クロライド耐性遺伝子を有していた. ペニシリン耐性肺炎球菌は,pbp 遺伝子の変異 を来しているため,ペニシリン系抗菌薬のみでな く,セフェム系抗菌薬を含め広くβ-ラクタム系抗 菌薬に対して耐性を示すことが特徴である.また, pbp2x 変異株はペニシリン系抗菌薬には感受性を 示すため感性菌と判断されやすいが,セフェム系 抗菌薬には耐性を示すことに注意を要する. インフルエンザ菌 インフルエンザ菌の薬剤耐性化は,1974 年に米 国で ampicillin 耐性菌が分離されて以来,β-ラク タマーゼ産生による耐性化が中心とされてきた. しかし,欧米においては,β-ラクタマーゼ産生株が インフルエンザ菌の 30% 以上に存在するのに対 して,本邦では 15∼20% と分離頻度が低く,β-ラクタマーゼ産生以外の機序による耐性菌,すな わ ち BLNAR の 増 加 傾 向 が 報 告 さ れ て い る15)∼17).し か し,BLNAR の 定 義 は 本 邦 で は ABPC に 対 す る MIC 値 が 1∼2µg!ml で あ る の に対し,欧米では ABPC に対する MIC 値が 2∼4 µg!ml と差があるほか,一般に用いられている ディスク法による薬剤感受性検査では,ABPC に中等度耐性を示す BLNAR が感性と判断され る場合が多いなど明確な統一がなされていない. BLNAR における薬剤耐性化機序もペニシリン耐 性肺炎球菌と同様に,遺伝子変異により PBP の構 造変化が起こり抗菌薬の親和性が低下するためと 考えられている18).PCR 法により遺伝子変異を検 討した結果では,pbp3 遺伝子に変異を有するイン フ ル エ ン ザ 菌 株 で は ABPC に 対 す る MIC 値 は 0.5∼2µg!ml で あ り,BLNAR に 相 当 す る MIC 分布を示している. 小児急性中耳炎患児の鼻咽腔より分離されたイ ン フ ル エ ン ザ 菌 784 株 に つ い て PCR 法 に よ る pbp3(ftsI )遺伝子の変異の検討およびβ-ラクタ マーゼ産生株の検出を検討した結果を図 5 に示し た.β-ラクタマーゼ産生株は 9%,pbp3(ftsI )遺 伝子変異株は 35% に認められた.残りの 44% は 感性株であった.β-ラクタマーゼ産生 pbp3(ftsI ) 遺伝子変異株(β-lactamase positive amoxicillin cu-lavulanate resistant;BLPACR)は 3% に認めら れた. 年齢による分布では,pbp3(ftsI )遺伝子変異株 は 6 歳以下の小児に多く認められた. 3.中耳炎患児の免疫能の変貌:低年齢児 および反復性中耳炎患児では起炎菌特 異的免疫能が低い 急性中耳炎を反復するリスクファクターとして は,急性中耳炎に初めて罹患する年齢が重要であ ることが指摘されている19).すなわち生後 12 カ 月以内に急性中耳炎に罹患すると,その後頻回の 中耳炎に罹患しやすいことが報告されている.そ の後,生後 6 カ月以内に急性中耳炎に罹患した患 児の方が,反復する確率が高いことが判明してき ており,より幼弱な年齢において中耳炎に罹患す ることが,その後の反復性を規定する因子になる 可能性が高いとされる.また,ほとんどの小児が 生後 2 歳までに急性中耳炎に罹患し,反復性のパ ターンを形成する20) 急性中耳炎の難治化には先に述べた起炎菌の薬 剤耐性化が大きく影響していると考えられる.し かしながら,薬剤耐性菌のすべてが難治化する中 耳炎を発症するのではなく,鼻咽腔での常在化や 不顕性感染も多く存在する.すなわち宿主におけ る細菌と免疫とのバランスを考慮することが重要 図 4 肺炎球菌における PCG 感受性とpbp 遺伝子の 変異

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であり,中耳炎起炎菌に対する特異的免疫応答の 検討が中耳炎の難治化,反復化の病態解明のキー となると考えられる. 急性中耳炎の多くの症例では起炎菌株は中耳炎 のエピソード毎に異なるため,1 回目の急性中耳 炎により誘導された菌株特異的免疫応答では 2 回 目の起炎菌株に対応できない.そのため,起炎菌 に対する免疫応答では,菌株に対する共通な免疫 応答が重要となる.菌株に対する共通な免疫をも たない宿主では,エピソード毎に変化する起炎菌 に免疫学的な対応ができず,容易に急性中耳炎が 反復すると考えられる.すなわち,急性中耳炎で は起炎菌株は中耳炎のエピソード毎に異なるた め,菌株に対する共通な抗原に対する免疫応答が 重要となる. 1)肺炎球菌菌株共通抗原に対する免疫応答 肺 炎 球 菌 表 面 抗 原 A(Pneumococcal surface protein A:PspA)は,肺炎球菌の表面に存在する 蛋白抗原の一つであり,肺炎球菌に広く分布して いる菌株共通抗原として注目されている21)∼23).中 耳 炎 患 児 に お け る PspA に 対 す る 免 疫 応 答 を PspA(PspA1!PspA2)を 固 相 化 抗 原 と し た ELISA 法により検討した結果を以下に示す.

健康児:抗 PspA 特異的 IgG 抗体は,IgG 抗体, IgA 抗体, IgM 抗体ともに加齢に伴い上昇する. IgG 抗体は,生後 6 カ月までは母親からの経胎盤 の移行抗体が存在するため緩やかに低下する.そ の後 2 歳まで緩やかに上昇した後に,2 歳以降で は急速に上昇したのち,成人期でやや下降する (図 6). 反復性中耳炎患児:約 57.7% の患児で抗 PspA1 特異的 IgG 抗体の低値を認めた(図 7). 2)インフルエンザ菌菌株共通抗原に対する免 疫応答 急性中耳炎の起炎菌となるインフルエンザ菌 は,95% 以上が 無 莢 膜 型(型 別 不 能:nontype-able)であり,髄膜炎の起炎菌となる b 型インフル エンザ菌とは異なり莢膜を持たないタイプであ る.無莢膜型インフルエンザ菌の表面は,リポ多 糖体からなる外膜であり,この外膜は主に約 20 個の蛋白から構成されている.インフルエンザ菌 の共通抗原としては,外膜蛋白の一つである P6 図 5 小児鼻咽腔より分離されたインフルエンザ菌の薬剤耐性の検討 図 6 健康児における肺炎球菌共通抗原 PspA に対す る特異的免疫応答

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が注目されている24)∼26).この P6 に対する中耳炎 患児における免疫応答を検討した結果を以下に示 す. 健康児(図 8):P6 に対する抗体産生は IgG 抗 体が主体を占めており,臍帯血中には母親由来の 抗 P6 特異的 IgG 抗体が高濃度に存在するが,生 後 6 カ月頃までに急激に低下する.その後加齢に 伴って 10 歳頃まではほぼ直線的に上昇し,その後 再び低下し成人で臍帯血のレベルが維持される. しかし,生後 6 カ月から 2 歳頃までは他の年齢群 に比較して抗体価の上昇カーブがきわめて緩いこ とが特徴的である. 反 復 性 中 耳 炎 患 児:反 復 性 中 耳 炎 患 児 の 約 54 %に抗 P6 蛋白特異的 IgG 抗体価の低下が認め られた.反復性中耳炎グループと非反復性中耳炎 グループの間で血清中抗 P6 蛋白特異的 IgG 抗体 価の推移を比較検討した結果では,非反復性中耳 炎グループでは年齢に伴う良好な上昇カーブを示 すのに対し,反復性中耳炎グループでは頻回のイ ンフルエンザ菌の感染にも関わらず,抗 P6 蛋白 特異的 IgG 抗体価の上昇が悪く,生後 4 歳頃によ うやく抗体価の上昇が認められている(図 9)27)28) 以上より,小児における肺炎球菌およびインフ ルエンザ菌に対する特異的免疫応答の検索では, 健康児でも生後 6 カ月から 2 歳頃まで未熟であ り,この免疫学的に未熟な期間は,急性中耳炎罹 患率も高く,PspA や P6 に対する小児の免疫能の 低下と肺炎球菌およびインフルエンザ菌による中 耳炎の発症との関連を示唆しており極めて興味深 い期間である. 4.社会環境の変貌:薬剤耐性菌は保育園や 兄弟間で容易に伝播される 集団保育を受けている子供が家庭で育てられて いる子供に比べて感染症にかかりやすいことは, 1940 年代にすでに報告されている29)30).特に 2 歳 以下の幼児において感染症罹患率が著しく異な 図 8 健康児におけるインフルエンザ菌特異的免疫応 答 図 7 反復性中耳炎患児における肺炎球菌特異的免疫 応 健康児では血清中の抗 PspA1 特異的 IgG 抗体価は 加齢とともに上昇する 反復性中耳炎患児の 57.7% で抗 PspA1 特異的 IgG 抗体価が低値である 図 9 反復性中耳炎患児におけるインフルエンザ菌特 異的免疫応答 健康児では血清中の抗 P6 特異的 IgG 抗体価は加齢 とともに上昇する 反復性中耳炎患児の 54.0% で抗 P6 特異的 IgG 抗体 価が低値である

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り,集団保育は急性呼吸器感染症のリスク・ファ クターとなることが示されている31).急性中耳炎 は,感冒などのウイルス感染症によるか,これら 先行するウイルス感染に続発する二次感染として 発症することから,風邪や肺炎といった呼吸器感 染症の中でも急性中耳炎の反復が集団保育にもっ とも関連する.集団保育園児の鼻咽腔検出菌の分 子疫学解析を行ったところ,保育園の部屋毎に園 児の鼻咽腔から共通して検出される菌株が存在 し,特定の菌株が部屋を同じにする園児間で蔓延 していることや,薬剤耐性菌の検出される率は季 節として冬季に高く,これらの薬剤耐性菌は抗菌 薬投与を繰り返すことによって細菌叢の中から選 択されていくこと,園児間で接触し水平伝播し園 児全体の薬剤耐性菌検出率が増すことが報告され ている32)33) . 一方,われわれは兄弟内での肺炎球菌株の伝播 について PFGE 法による遺伝子多型性を検討し たところ,13 例のうち 12 例(92%)で遺伝子多型 性が一致した.さらに兄弟間で伝播の見られた 12 株中,9 株(75%)が PISP であり(図 10),薬剤 耐性菌を頻繁に兄弟間でやりとりしていることが 推測される.このように集団保育などにおいて, 同年齢層の子供同士が密接にまた頻回に接触する ことが細菌伝播の重要な要因といえる34) . 今後,感染症を病原微生物の感染にともなう症 状としてとらえるのでなく,健康保菌者および易 感染性の要因となる社会的背景を含めた集団レベ ルでの検討が必要である. 5.変貌する感染症への対策 (1)上気道感染症は重症度,リスクファクター などを考慮して,治療選択を行う必要がある 従来から薬剤耐性菌に対しては,より強力な抗 菌薬の開発という点に目を奪われがちであるが, 今までの経験に基づく抗菌薬による治療(empiri-cal therapy)では,さらなる耐性菌が選択されて いく可能性がある.薬剤耐性菌を増加させないた めには,抗菌薬の使用を減少させることが大原則 であるが,そのためには抗菌薬の使用およびその 選択のためのガイドラインが必要である.米国で はすでに,疾病管理センター(Center of Disease Control:CDC)より薬物動態,薬物力学に基づい た中耳炎35)および鼻副鼻腔炎36)の治療ガイドライ ンが示されている.しかしこのガイドラインはそ の使用する抗菌薬の種類や使用法が本邦に適して いないため,本邦独自の治療ガイドラインの作成 が早急に望まれている.我々は中耳炎の臨床経過 を点数化し評価するスコア−リング・システムを 開発し,重症度に基づいた治療ガイドラインの作 成を試みている37) .すなわち,スコアーにより軽 図 10 兄弟間の鼻咽腔における肺炎球菌の伝播

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表2 薬剤耐性菌による急性中耳炎の治療選択案 14 ∼ 28 日無効,再発例 7 ∼ 10 日無効例 3 日後無効例 初診時 重症度・ 耐性菌* 1 1.鼓膜切開 2.AMPC/CV       60 ∼ 80mg/kg 3.CDTR or CFPN  18mg/kg 1.AMPC/CV 40mg/kg 2.CDTR or CFPN 9mg/kg 3.鼓膜切開 AMPC 40mg/kg 抗菌薬なし 軽症 耐性菌(−) 1.鼓膜切開 2.CTRX (iv) 60mg/kg, 1x/day (外来) 1.鼓膜切開 2.AMPC/CV 60 ∼ 80mg /kg 3. CDTR or CFPN 18mg/kg 1.AMPC/CV 40mg/kg 2.AMPC 60 ∼ 80mg /kg 3.鼓膜切開 AMPC 50mg/kg 軽症 耐性菌(+) 中等症・ 重症 耐性菌(−) 1.鼓膜チュービング 2.ABPC/SBT 120mg/kg/day or 3.PAPM/BP 50mg/kg/day (入院) 1.鼓膜切開 2.CTRX (iv) 60mg/kg, 1x/day(外来) 1.鼓膜切開 2.AMPC/CV 60 ∼ 80mg/kg 3.CDTR or CFPN 18mg/kg 1.AMPC 60 ∼ 80mg/kg 2.AMPC/CV 40mg/kg 3.鼓膜切開 中等症・ 重症 耐性菌(+) *1薬剤耐性菌 Risk factors:①2歳以下②1カ月以内の抗菌薬使用③集団保育児④中耳炎の反復 症,重症に分類し,さらにリスクファクター(2 歳以下,抗菌薬治療の既往,中耳炎の反復,集団 保育児)を組み合わせて,表 2 のような治療選択 を行っている. (2)薬剤耐性菌による難治性・反復性中耳炎に 対して予防的ワクチンの開発が急がれる 難治化する感染症に対しては,抗菌薬の開発の みでなく効果的な予防法,すなわちワクチンの開 発が重要となる.肺炎球菌に対するワクチンとし ては,23 種の血清型の肺炎球菌莢膜多糖体抗原よ りなる Pneumovax!が現在臨床応用されている. しかし,6 カ月以下の乳幼児では効果がなく,また それ以上の年齢においては効果はワクチン投与後 半年しか認められない点が問題とされる38).これ らの欠点は,莢膜多糖体抗原が T 細胞非依存性抗 原であり,B 細胞を直接刺激し抗体を産生するが, T 細胞によるメモリー効果がないため,追加免疫 による抗体産生の増強を認めないことにある.現 在では 7 つの血清型(4,6B,9V,14,18C, 19F, 23F)の莢膜多糖体抗原にキャリアー蛋白を結合 させ T 細胞依存性抗原とした 7 価蛋白結合肺炎 球菌ワクチンが臨床応用されており,ワクチンに 含まれる血清型による中耳炎の予防効果は 57% と報告されている39).さらに Pneumococcal sur-face protein A(PspA)をはじめとする肺炎球菌の

菌 株 共 通 の 表 面 蛋 白 抗 原 が 注 目 さ れ て お り 臨 床応用も近い22)23).インフルエンザ菌に対しては,b型 インフルエンザ菌莢膜多糖体抗原ワクチン(Hib ワクチン)が臨床応用されているが,上気道にお けるインフルエンザ菌感染症のほとんどが無莢膜 型(型別不能)インフルエンザ菌(Nontypeable Haemophilus influenzae:NTHi)により引き起こ されることから,Hib ワクチンは無効である. NTHi に対するワクチンとしては菌株共通抗原で ある外膜蛋白 P4 および P6 蛋白が注目されてお り40),動物実験においてその有用性が検討されて いる41) ワクチンの投与経路としては,これまでの多く のワクチンが皮下注射や筋肉注射により投与さ れ,IgG 抗体を中心とした全身免疫応答の賦活を 目的としたものであった.しかし,ワクチンによ る中耳炎予防を考える場合,鼻咽腔局所において 分泌型 IgA 抗体を主役とした免疫応答を誘導し, 細菌の定着を抑制することが重要となる.このよ うな局所免疫応答を誘導する方法として,粘膜免 疫応答を利用したワクチン(経口ワクチン,経鼻 ワクチン)が注目されており,われわれは動物実 験において,インフルエンザ菌の外膜蛋白 P6 を 用いた経鼻免疫の有用性を報告した41).近年で は,さらに免疫機能が十分に発育していない乳幼

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児に対して,母胎へワクチン接種を行うことによ り高い特異的抗体が得られ,経胎盤的に胎児に移 行し乳児に防御免疫が得られる母体免疫が,発育 早期における免疫能の未成熟を補う効果的な方法 として注目されている42) .さらに従来のワクチン とまったく異なる概念から,標的抗原の遺伝子を プラズミド DNA に組み込み免疫することによ り,DNA の一部が核内に入り組み込まれ抗原蛋 白を作り,この抗原蛋白が B 細胞および T 細胞を 活性化して特異的免疫応答を誘導することができ る遺伝子ワクチン43)44)の検討がなされている. ま と め 急性中耳炎に代表される上気道感染症は近年, 薬剤耐性菌の出現や母乳栄養の短期化,集団保育 などの社会生活環境の変化とともに大きく変貌し ている.そのため,感染症を起炎菌の感染により 引き起こされる症状としてとらえていた従来の考 え方から,起炎菌と生体との相互関係として分子 レベルまたは集団レベルで総合的にとらえる研究 へと,感染症研究のパラダイム・シフトが必要で ある. 1)山中 昇,保富宗城:中耳炎難治化の要因.小児 科 1999;40:1093―9. 2)山中 昇,保富宗城:変貌する急性感染症―薬剤 耐性菌への対策―.耳鼻臨床 2000;93:431―7. 3)小林俊光,末武光子,保富宗城,砂川慶介,原渕 保明:反復性中耳炎の病態と治療.耳展 1999; 42:73―97.

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Molecular-Biological and Immunological Approaches Against Intractable Acute Otitis Media in Children

Noboru YAMANAKA & Muneki HOTOMI

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