《総 説》
2015 年 5 月 25 日受付,2015 年 7 月 6 日受理
*1 藤田保健衛生大学医学部リハビリテーション医学Ⅰ講座/〒 470.1192 愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪 1.98 Department of Rehabilitation Medicine Ⅰ, School of Medicine, Fujita Health University
*2 産業医科大学医学部リハビリテーション医学講座/〒 807.8555 福岡県北九州市八幡西区医生ヶ丘 1.1 Department of Rehabilitation Medicine, University of Occupational and Environmental Health
*3 京都府立医科大学大学院医学研究科リハビリテーション医学/〒 602.0841 京都府京都市上京区河原町通広小路上ル梶 井町 465
Department of Rehabilitation Medicine, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine *4 札幌医科大学医学部リハビリテーション医学講座/〒 060.8543 北海道札幌市中央区南一条西 16 丁目
Department of Rehabilitation Medicine, Sapporo Medical University School of Medicine *5 近森リハビリテーション病院/〒 780.8522 高知県高知市廿代町 2.22
Chikamori Rehabilitation Hospital
*6 かがわ総合リハビリテーションセンター/〒 761.8057 香川県高松市田村町 1114 番地 Kagawa General Rehabilitation Center
*7 昭和大学医学部リハビリテーション医学講座/〒 227.8518 神奈川県横浜市青葉区藤が丘 2.1.1 Department of Rehabilitation Medicine, Showa University School of Medicine
*8 横浜市障害者更生相談所/〒 222.0035 神奈川県横浜市港北区鳥山町 1770 Yokohama City Rehabilitation Counseling Offi ce for the Disabled People
*9 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター/〒 474.8522 愛知県大府市森岡町 7 丁目 430 番地 The National Center for Geriatrics and Gerontology
E-mail : [email protected]
ポストポリオ症候群
青柳陽一郎
*1佐 伯 覚
*2沢田光思郎
*3松 嶋 康 之
*2土岐めぐみ
*4和田恵美子
*5木 下 篤
*6川 手 信 行
*7小 林 宏 高
*8近 藤 和 泉
*9才 藤 栄 一
*1Post-polio Syndrome
Yoichiro AOYAGI,*1Satoru SAEKI,*2Koshiro SAWADA,*3Yasuyuki MATSUSHIMA,*2
Megumi TOKI,*4Emiko WADA,*5Atsushi KINOSHITA,*6Nobuyuki KAWATE,*7
Hirotaka KOBAYASHI,*8Izumi KONDO,*9Eiich SAITOH*1
Abstract : Post-polio syndrome (PPS) is the term used to describe the symptoms that may de-velop many years after acute paralytic poliomyelitis (APP). In the case of PPS, the symptoms and signs include progressive muscle wasting and weakness, limb pain, and/or fatigue, occurring one or more decades after maximal recovery from APP. An overuse of enlarged motor units is sus-pected to cause the deterioration of some nerve terminals or the loss of the motor units them-selves. This could in turn induce PPS symptoms such as new muscle weakness and atrophy. Elec-tromyography (EMG) is often a strong tool to diagnose and evaluate PPS. Some studies have shown that mild to moderate intensity muscular strengthening has a positive effect in patients af-fected by PPS. Rehabilitation for PPS patients should utilize a multiprofessional and multidisci-plinary approach. PPS patients should be advised to avoid both inactivity and overuse of the af-fected muscles. Finally, patient evaluation is often required to access the need of orthoses and assistive devices. ( Jpn J Rehabil Med 2015;52:625.633 )
Key words : 筋 電 図 検 査(electromyography), 過 用(overuse), 装 具(orthosis), 運 動 (exercise)
は じ め に ポリオ(急性灰白髄炎)は,ポリオウイルスの中枢 神経系への感染により引き起こされる急性ウイルス感 染症である.わが国では 1940 年代の後半頃から 1960 年 初頭にポリオが大流行した.1961 年にワクチン接種が 開始され,新規発生が激減しポリオの流行は終息した. 典型的な麻痺性ポリオでは,脊髄前角細胞の不可逆 的な損傷により,四肢に様々な程度の弛緩性麻痺を呈 する.下肢の発症が多く,麻痺は発症直後に最も重篤 で,しばらくするとある程度まで回復し,その後安定 した状態が続く.ポリオ経験者が,罹患後に年月を経 て新たな筋力低下や筋萎縮を生じることは,以前より 報告があった1 ∼ 3).ポリオ経験者が中高年になった 1980 年代より,易疲労性,筋力低下,痛みなどの新 たな障害を生じることが問題となり,ポストポリオ症 候群(post-polio syndrome,以下 PPS)と呼ばれるよ うになった4,5). わが国では 1981 年以降,野生株によるポリオ罹患 者の報告は確認されていない6).その影響で昨今のわ が国の医学教育カリキュラムからポリオがほぼ姿を消 し,ポリオおよび PPS の診断経験のない医師が増え ている.このような時代背景と幼少時にポリオに罹患 して中高年になった多くのポリオ経験者に機能低下と いう問題が生じていることから,特にリハビリテー ション(以下,リハ)科医はこの PPS の本態とその 対応を知る必要がある.PPS は日本リハ医学会のシン ポジウム等ではしばしば取り上げられるものの,一般 的な社会的認知度は決して高くない.本学会誌では 2003 年に PPS の障害像とリハに関してレビューされ たが7),その後 10 年以上が経過し,ポリオ経験者が 高齢化した.その間,装具の軽量化などのテクノロ ジーの進歩や運動療法等に関する新たな知見が出てき ている.本総説では,最近の国内外の PPS に関する 疫学,診断,評価,運動療法,補装具に関して最近の 知見を中心にレビューするとともに,障害管理や社会 福祉サービスについても言及したい.なお本稿は,日 本リハ医学会専門医会ポストポリオ Special Interest Group(SIG)の活動の一環として,同 SIG コアメン バーを中心に纏められた. 疫 学 ポリオ経験者が,罹患後長年月を経て,新たな筋力 低下や筋萎縮を生じることは 19 世紀後半に初めて報 告され,1980 年代以降 PPS として多数報告されてき た5).PPS は麻痺性ポリオから発症すると考えられて いるが,非麻痺性ポリオからも PPS を発症したとの 報告もある8). PPS の発症はポリオ経験者の 28 ∼ 64 %とされる が9),用いた診断基準と母集団や対象選択方法により 異なる10).わが国の調査では,ポリオの有病率は 24.1/ 人口 10 万人,PPS の有病率が 18.0/人口 10 万人と推 定し,わが国におけるポリオ経験者の PPS 発症率は 75 %としている11).わが国のポリオ定期検診12,13)を 基にした報告では,受診したポリオ経験者の PPS 発 症率は 76 %であり,検診受診者は年々高齢化し PPS と診断される割合は増えている14).わが国のポリオ経 験者で身体障害者手帳保持者(肢体不自由)が約 5 万 人であることから,わが国の PPS 患者は少なくとも 約 4 万人と見積もられる15). 発症メカニズム 典型的な麻痺型ポリオ症例では,脊髄前角細胞の不 可逆的な損傷により,四肢に様々な程度の弛緩性麻痺 を呈する.脊髄前角細胞のみならず,脳幹部の運動神 経を侵すことがある. ポリオ罹患後一定期間を経て新たな生じる一連の機 能障害が PPS として扱われるようになった.PPS の 発症メカニズムとしては,筋電図および筋生検研究か ら以下のような説明が可能である16,17).ポリオの急性 発症により一部の運動ニューロンが死滅するが,生存 している運動ニューロンによる再支配(reinnerva-tion)が起こり,‘巨大な運動単位’(giant-size motor units)が形成される.再支配により生存している軸 索末端と機能を失った筋細胞が再接続し,再び作用し 始めるとき,ある程度の筋力回復が起こる. しかし加齢や過用により,再び軸索の一部もしくは 運動ニューロン自体が死滅するか機能不全になると き,新たな筋力低下と萎縮,その結果として PPS 症 状を引き起こす.PPS の際にしばしば現れる筋・関節 痛や疲労は,追加して出現した筋力低下のために,そ の近辺の末梢神経や筋・関節に余分の負担がかかるた めに生じると考えられる. 発症要因としては,加齢,過重労働,廃用,過用, 体重増加などが考えられている5).また,ポリオ経験 者は「頑張り気質」が多く,勤勉で仕事も熱心であ
り,手を抜くことができずに無理を強いる傾向にあ り,これがよりいっそう過用を進行させている18,19). また,PPS の発症要因である過用の背景に,筋力低下 などに伴う低活動によって二次的な廃用を生じている ことも多く,病態をより複雑にしている20). 診断基準・電気診断 Dalakas らは,PPS をポリオ罹患後に少なくとも 15 年安定した期間を経た後に起こる新たな神経筋症状と 定義した21,22).症状としては,(1)四肢,下部脳神経 由来,あるいは呼吸筋の筋力低下・筋萎縮(post-polio-myelitis muscular atrophy,PPMA),(2)過 度 な 筋 疲 労と身体持久力低下としている.ポリオ経験者にみら れる球麻痺症状としては,頻度は多くないが嚥下障 害23 ∼ 25),呼吸機能障害26),睡眠時無呼吸27)などが指 摘されている. PPS の診断基準としては,いくつか提唱されてい る4,22).Halstead らのものが有名であり,よく用いら れる(表 1)4).彼らは,麻痺性ポリオ罹患後に部分的 または完全な神経学的・機能的回復を経て,少なくと も 15 年以上の安定期間を経過した後に普通でない疲 労,筋肉痛/関節痛,麻痺側または非麻痺側の新たな 筋力低下,機能低下,寒冷に対する耐性の低下,新た な筋萎縮のうち 2 つ以上の問題が発生し,これらの問 題を説明する他の医学的診断がない場合,PPS と診断 している.PPS 診断基準の中にこれらの症状が少なく とも 1 年以上持続することを入れるべきとの提案もあ る17,28).鑑別診断としては,中高年者に生じる筋力低 下を念頭において,筋炎,筋萎縮性側索硬化症,脊柱 管狭窄症,変形性関節症等が挙げられる. Halstead らの PPS 診断基準に挙げられる症状は, 主観的な症状に基づくものであり特別な検査を必要と しないが,実際の日常臨床では症状の判断に苦慮する こともある.筋電図検査(electromyography,EMG) は,脱神経所見を確認でき,他の疾患を除外するのに 役立つため,補助診断として重宝される.針筋電図に よる安静時の線維自発電位や陽性波の出現は新たな神 経障害を表し,PPS の病態の根拠となる.近年では, 筋力低下や筋電図検査を重視する March of Dimes 国 際会議の診断基準も使用される28). 表 1 Halstead による PPS 診断基準(文献 4 より引用) 1.麻痺性ポリオの確実な既往 2.部分的または完全な神経学的・機能的回復 3.少なくとも 15 年間の神経学的・機能的安定期間 4. 安定期間を経過した後に,以下の健康問題が 2 つ以上 発生 ・普通でない疲労 ・筋肉痛/関節痛 ・麻痺側または非麻痺側の新たな筋力低下 ・機能低下 ・寒冷に対する耐性の低下 ・新たな筋萎縮 5.以上の健康問題を説明する他の医学的診断がない 図 1 ポリオ経験者の F 波所見 (文献 10 より改変引用) 左は反復 F 波(潜時と波形が同じ F 波が繰り返し出現する),右は高振幅 F 波(F/M 振幅比が 10 倍以上)の例.
F 波の出現率低下は前角細胞機能障害を表すが,出 現率低下がなくてもポリオ経験者では波形の単純化や 反復 F 波,高振幅 F 波を認めることがある10,29)(図
1).反復 F 波は運動単位数の減少と相関があり,今
後 PPS の予防や診断への応用が期待される29).単一 線維筋電図(single fiber EMG),マクロ筋電図は,病 態の詳細な把握に役立つ.筋生検,脳脊髄液検査は, 臨床診断としては確立されていないため通常行わな い. 評 価 PPS 患者では筋萎縮,側弯,脚長差の有無を観察 し, 四 肢 の 筋 力, 関 節 可 動 域, 歩 行 能 力 を 評 価 す る10).筋力は徒手筋力テストでの評価を基本として, ハンドヘルドダイナモメーターや等運動性筋力測定装 置などの機器による測定で客観的な評価を行うとよ い30).特に起立や歩行に重要な大臀筋,中臀筋,大腿 四頭筋の筋力評価が大切である.また骨格筋 CT を撮 影することで萎縮筋の分布や脂肪変性を確認できる. 一見正常に見える部位でも電気生理学的な神経原性変 化や CT での筋萎縮を認めることが多い. 関節可動域では反張膝や股関節伸展制限,足関節背 屈制限などが問題となる.歩行は歩容や歩行速度,補 装具の利用状況を評価する.ポリオ経験者は様々な代 償歩行パターンを呈しており,PPS による筋力低下が 獲得した代償歩行パターンを維持できなくする31). PPS 患者では疲労感や下肢の倦怠感を生じやすく,6 分間歩行試験の歩行速度は大きく低下する32). 血中 CPK(creatine phosphokinase)値は,正常も しくは軽度上昇していることが多く,過負荷による横 紋筋融解の指標となるため参考になる28,33). ポリオ経験者は基本的な ADL が保たれていても IADL の低下や社会参加の制限が QOL の低下に関与 しており,PPS 発症後急激に IADL の低下や社会参加 の 制 限 が 進 行 す る こ と が あ り,Frenchay activities index や Community Integration Questionnaire などの 評価が有用である34). リハビリテーション PPS に対する有効な治療法が確立されていない今 日,PPS に対するアプローチの多くは非 PPS の発症 予防にも適用されている. 1.運動療法 PPS に対する治療法は諸説あるが,運動療法がその 基本となる.筋力低下,筋肉や腱・関節などに関連し た疼痛,体重の減量,疲労,呼吸機能障害などが運動 療法の適応になる PPS の症状である28).PPS の運動 療法についての研究や,いわゆるエビデンスとして評 価の高い報告は多くなく,今後も検証が必要であ る35).特に,筋力低下が著しい筋に対する運動や長期 間の運動の効果についての報告は少ない.しかし,注 意深く行われた運動療法では,筋力が低下したという 報告はなく,反対に運動療法によって筋力強化が得ら れたという報告や,運動習慣のある患者ほど身体症状 が少ないといった報告が散見される1,28,36). Chan らは,PPS 患者の母指球筋で抵抗運動(3 ∼ 5 秒間の 50 %最大随意収縮を 8 回 3 セット)を週 3 回 12 週間行い,トレーニング群はコントロール群に 比較して運動単位数に影響を及ぼすことなく有意に筋 力が改善したと報告した37).PPS 患者におけるトレー ニング群の筋力改善率は平均 41 %で,健常高齢者の 改善率(平均 29 %)よりも高かった.これらより, PPS 患者での中等度の筋力強化訓練は安全かつ効果的 であるとしている.水中での運動療法により,筋力は 変化しなかったが,疼痛の軽減や同負荷時の心拍数の 低下などを示す報告もある38). PPS の発症機序の 1 つとして「過用」があり,過用 を起こすことなく,「廃用」を防ぐことが運動療法の ポイントといえる.運動療法の実施に当たっては,患 者個々の状態にあわせたプログラムを作成し,十分に 管理することが前提であり,特に筋肉の過用を防ぐこ とに留意されなければならない.過用を防ぐために, 休憩をはさむことや最大筋力より少ない負荷にするこ とが勧められている1).運動を指導する立場の関係者 や患者自身の中には,PPS の運動療法に関して,過用 を防ぐ知識が不十分な場合もある.過用を防ぐための 生活指導などを併せて指導することと,運動療法実施 の際には,注意深い観察を怠らないことが重要であ る. 2.物理療法 PPS による主な症状である疲労,筋力低下,疼痛の うち,疼痛の一部には物理療法を行うことがある.疼 痛は一日の終わりに近づくにつれておこり,身体的活 動,ストレス,冷えによって悪化する場合がある.特 に筋肉と関節の疼痛はよくみられる.井元らは,疼痛
は上肢よりも下肢,そしてもともとの麻痺の程度が重 い不良側よりもむしろ麻痺の程度が軽い良好側で多く 認められたと報告した14). 過用による疼痛は軟組織,筋肉,腱や滑液胞などの 障害を含む.変形性関節症,背下部痛,手根管症候群 のような絞扼性神経障害,神経根症からの痛みとして も現れる場合がある17,33).このうち過用による疼痛に は非ステロイド系抗炎症薬とともにホットパックや超 音波などの物理療法がおこなわれる場合がある.冷温 刺激も同様に有効である場合もある39). 多くのポリオ経験者(非 PPS を含む)は冷え症で あり4),一肢に不快な冷感を覚える場合がある.皮膚 の色調変化を伴ったり,知覚過敏を訴える場合もあ る.重ね着に加えてマッサージや局所の温熱療法が有 用である. 3.補装具 装具使用の目的は,PPS 発症・進行の危険を低減し ながら,安全・快適な歩行可能期間を延長することで ある.主に下肢装具,車いす(電動含む),クラッチ などが処方される40,41).車いすは,実用的移動を確保 しながら最低限の短時間短距離の歩行能力を温存する ために用いる. PPS 症状の進行に相まって関節変形,褥瘡が生じた り,転倒回数が増えるなどの問題が生じれば,装具の 適応を積極的に考慮する.足部変形や胼胝の疼痛に対 しては足底装具(図 2),足関節の内反・外反変形・ 不安定性に対する運動方向性の制御,下垂足に対する 足関節背屈保持,膝折れに対する足関節背屈制限など に対しては短下肢装具(AFO)(図 3)を用いる.ほ とんどの場合,AFO で対応可能であるが,AFO で制 御できない膝折れや股関節・体幹のコントロール不良 に 対 し て は 長 下 肢 装 具(KAFO)( 図 4) を 考 慮 す る42).KAFO の装着率は高くない.KAFO を処方する 際には,歩容を変えることになるため,入院の上,十 分な歩行訓練を実施してから日常生活での使用を開始 したい.いずれにせよ,PPS に対して処方する装具に 求められる必要な機能を見極め,装具自体をシンプル かつ軽量化することが望ましい14,43). ポリオ経験者に装具導入を困難にしている要因とし て,1)社会性・活動性が高く,軽量であることや外 観が良いことなどを現実因子として極めて重視され る,2)重い麻痺を抱えながらも絶妙にバランスを とった独自の動作で活動しており,装具によって安定 性は向上しても歩行速度などの機能的改善はあまり期 待できない,3)PPS は長い安定期後に生じ,慢性的 に進行するため病識が薄い,4)ポリオは小児疾患で あるが,現在は高齢者として受診するため受診先が限 られる,5)ポリオの装具に関する系統的な研究が少 ない,などが挙げられる43). このような観点をふまえ,ポリオ経験者に処方する 下肢装具を「ポリオ装具」,「ポストポリオ装具(装具 使用者)」,「ポストポリオ装具(新規)」に区別して対 応する場合もある41).「ポリオ装具」は主に,幼少期 のポリオ罹患時から使用している装具であり,活動的 な生活に見合う装具強度が必要である.「ポストポリ オ装具(装具使用者)」は,ポリオ装具を使用してき た者が,不具合が生じたときに作製する装具であり, ポリオ装具よりも軽量化して作製する.「ポストポリ オ装具(新規)」は,装具なしで歩行してきた者に対 する装具である. 下肢装具に使用する素材の 1 つに炭素繊維強化樹脂 (carbon-fiber-reinforced plastic:CFRP)があり,これ を用いたいわゆるカーボン製装具40,44)は,軽量化, 図 2 足底装具(FO)の 1 例
耐久性,外観性が良好である.その一方で,修正が難 しく作製期間が長い,義肢装具士の習熟を要する,高 価であるといった課題を残す44). 薬 物 療 法 アスピリン(Aspirin),アセトアミノフェン(Acet-aminophen),イブプロフェン(Ibuprofen)などの非 ステロイド系抗炎症薬は,筋肉痛や関節痛に対して, 疼痛を軽減させることがある.疲労やその他の PPS 症状に対して,これまでいくつかの Randomized clini-cal trial(RCT) が 行 わ れ た35). モ ダ フ ィ ニ ル (Modafinil), ピ リ ド ス チ グ ミ ン(Pyridostigmine), アマンタジン(Amantadine),プレドニゾン(Predni-sone),IVIG(intravenous immunoglobulin)に関して は,PPS に有益という結果は得られていない.グルタ ミン酸遊離の抑制作用を有するラモトリギン(Lam-otrigine)(50 ∼ 100 mg/日)は,疼痛,疲労,筋けい れんを軽減する可能性があるが45),今後の追試が必要 である. 生 活 指 導 リハの立場からの生活指導においては,PPS の悪化 要因である過用を回避し,かつ体重増加や廃用を予防 することを念頭に置き17),疲労が残らない程度の生活 図 3 ポリオ経験者に用いられる短下肢装具(AFO) (左上)APS type:中殿筋筋力低下などによる側方不安定性の制御,膝関節の進行方向不 安定性の制御を目的とする.調整性もある.(左下)Heavy support type:足部の内反や外 反による足関節の側方不安定性の制御を目的とする.また膝関節の進行方向不安定性の制 御も目的とする.(中上)Moderate support type:膝関節の進行方向不安定性の制御を目的 とする.(中下)Light support type:足関節の軽度側方不安定性,下垂足の制御を目的とす る.CEPA®
,オルトップ®
など.(右上)Dorsal support type:立脚期後期における膝関節 の進行方向不安定性の制御を目的とする.足背部からベルトで足部を懸垂し,下垂足を制 御する場合もある.
活動の指導19)が基本となる.指導を行なう前に患者 の機能・能力評価,生活環境・生活状態や仕事などの 聴取,日常生活での活動量の把握19)を行い,患者と 共に十分に検討しながら,不要な活動の中止,休息の 導入,仕事内容の変更など生活活動の優先付けや生活 変容の指導33)などを行う.また,食事指導や日常の 運動指導は体重増加や廃用予防するためにも重要であ り,患者の機能状態に応じた適切な運動(表 2)46)を 指導する.日常での運動を行った後に疲労感や筋痛な どが続く場合にはその運動を中止し1),負荷のない運 動に変更するなど検討する.ポリオ経験者の障害や生 活は一人ひとり異なるため,生活指導にあたっては, 個々の患者に適した内容を患者やその家族と共に作り 上げることが重要である. 障 害 管 理 ポリオ経験者における障害管理の目標は,PPS の発 症・進行防止に他ならない.そのためには,PPS 発症 前からの医学的対応開始が望まれる.しかし多くのポ リオ経験者は,もともとの麻痺に対する代償手段が程 度の差こそあれ破綻して,すなわち PPS 発症後しば らくして初めて医療機関を受診する. 早期対応開始のための一手段として,医療機関とポ リオ経験者のサポートグループとの協同が重要である (図 5).1995 年わが国でポリオ経験者のサポートグ ループが発足し,ポリオ経験者から医療機関への働き かけをきっかけに,2001 年に産業医科大学,2006 年 に 藤 田 保 健 衛 生 大 学,2009 年 に 川 崎 医 科 大 学 で サ ポートグループと協同したポリオ検診会が始まった. その後,高知,富山,香川,宮城などへ,ポリオ検診 会の輪が広がりつつある.このシステムにより,PPS 発症前の予防段階からポリオ経験者は治療・教育の機 会を得ることが可能となる.医療機関ではリハ科医が 中心となりポリオ経験者を診療する医師や療法士の育 成,各地でサポートグループと協同した PPS 予防シ ステムの構築が必要である. ポリオ患者会 1990 年代後半から PPS の認識が高まることと並行 図 4 軽量で高い耐久性をもつカーボン製長下肢 装具(KAFO)
表 2 NRH(National Rehabilitation Hospital)の運動
プログラム (文献 46 を改変) クラスⅠ(臨床ポリオ症状なし) ・最大心拍数の 60 %∼ 80 %または 6 ∼ 9 METs ・1 回 15 ∼ 30 分で週 3 ∼ 5 日 クラスⅡ(無症状のポリオ) ・最大心拍数の 60 %∼ 80 %または 5 ∼ 7 METs ・1 回 15 ∼ 30 分で週 3 ∼ 5 日 ・4 ∼ 5 分の運動で 1 分の休憩 クラスⅢ(臨床的に安定したポリオ) ・最大心拍数の 60 %∼ 80 %または 5 ∼ 7 METs ・1 回 15 ∼ 20 分で週 3 ∼ 4 回隔日 ・2 ∼ 3 分の運動で 1 分の休憩 クラスⅣ(臨床的に不安定なポリオ) ・自動・他動のストレッチ ・有酸素運動を 15 ∼ 30 分で週 3 ∼ 5 回隔日 ・2 ∼ 3 分の運動で 1 ∼ 2 分の休憩 クラスⅤ(筋萎縮が高度なポリオ) ・日常生活の活動を行う.装具や車椅子が必要. 図 5 ポリオ経験者を支えるシステム
して,全国各地にポリオの患者会が設立され,2000 年には 8 つの会が連合して全国ポリオ会連絡会として 結成された47).患者会の主な目的はポリオ罹患者や医 療福祉関係者などへの PPS の知識や情報の普及であ る.これまで患者会は PPS に関する良書をいくつも 発行し39,47),学会での展示ブースの出展など積極的に 情報提供を行っている.また 2001 年以降各地の患者 会と近隣の大学のリハ医学講座が協力して定期的なポ リオ検診会が開催され47),近年は一般病院や行政と患 者会が協力したポリオ検診会も行われるようになっ た.患者会は当事者と医療従事者をつなぐ重要な役割 を果たしている. 社会福祉サービス ポリオ経験者は幼小児期に身体障害者手帳(肢体不 自由)を取得していることが多く,下肢機能障害者は 手帳を利用して補装具を定期的に更新している.身体 障害者手帳により補装具の給付,重度障害者の場合は 医療費助成制度が利用できる.しかし,PPS 発症によ り歩行障害が増悪,あるいは,呼吸機能障害や嚥下障 害の合併症を生じ,福祉サービスの見直しが必要な状 況になっても,身体障害者手帳の再申請などが行われ ていない場合もある.制度上,PPS と診断された後に 筋力低下や歩行障害などの機能低下が一定期間みら れ,永続する障害と判断された場合には,身体障害者 手帳の再申請を行うことができる.その結果,より重 度の等級と認定される場合がある. 在宅サービスでは障害者総合支援制度あるいは介護 保険制度を利用するが,年齢によって制度の使い分け が必要となる.ポリオおよび PPS は介護保険制度の 特定疾病ではないため,本制度が利用できるのは 65 歳以降となる.そのため,65 歳未満では障害者総合 支援制度を,65 歳以降は介護保険制度利用(支援の 必要量に応じて,介護保険に加えて障害者総合支援制 度を併用することも可能)となる.その他,各自治体 独自のサービスがあるが周知されず利用されていない ことが多い. 障害年金は老齢年金が支給される 65 歳以前に心身 の障害を負い,日常生活や就労に支障がある場合に支 払われる.従来,PPS では障害年金給付が認められな かったが,2006 年より,PPS はポリオとは別に生じ た新たな障害として障害年金給付が認められるように なった. お わ り に PPS は過用で生じることが多いが,廃用や老化もそ れに関与してくる.PPS の誘因が過用であれば活動度 を下げるように指導するが,廃用や老化が関与してい る場合は,翌日に疲労感を残さない程度の適度な運動 指導を行う.運動や補装具の使用などに関する今後の エビデンスの蓄積が待たれるが,麻痺の部位や程度は 個々で異なるため,ポリオ経験者に対する対応はテー ラーメードでなければならない. ポリオ経験者が高齢化し医療機関を受診する機会が 増えている.医療関係者は,PPS の実態を知り,PPS 症状に悩む患者の診断と治療,ならびに生活指導のノ ウハウを蓄積し,その正しい知識と技術をポリオ経験 者の QOL 向上に役立てることが重要である. 本稿を纏めるにあたって,ポストポリオ SIG の顧問をは じめ関係者に多大なる支援を賜り,深く感謝いたします. 文 献
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5) 蜂須賀研二, 緒方 甫, 井手 睦 : 神経・筋疾患のリハ ビリテーション ポリオ後遺症にみられた過用性筋力低 下. 総合リハビリテーション 1988 ; 16 : 513.518 6) 清水博之 : ポストポリオ症候群のリハビリテーション ポリオの疫学. J Clin Rehabil 2007 ; 16 : 114.120 7) 花山耕三 : ポリオ後症候群 障害像とリハビリテー ション. リハビリテーション医学 2003 ; 40 : 771.779 8) Halstead LS, Silver JK : Nonparalytic polio and postpolio
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