当 価 値 権 論
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(2) 有害登記の存在. 法律的行為一般による減価 抵当権設定登記前の法律的行為. 早稲田法学会 誌 第 四 十 八 巻 ︵ 一 九 九 八 ︶. 3. 2. 短期賃貸借による﹁損害﹂1侵害と損害の関係 物理的行為一般による減価. 1. 4 5. 序. 対抗権原なき占有者の排除 民事執行法適用の際の間題点 結 語. 抵当権と占有排除. 妨害排除請求権 返還請求権. 物権的請求権の態様 妨害予防請求権. 物権的請求権の根拠. 序. c6 対抗権原なき占有者の存在 第四章 抵当権に基づく物権的請求権 一一. 一. コ 2. 三. 一. ⑫ 第五章 二. 第六章. 第一章. 三四一一. 民法制定後一〇〇年を迎える一九九六年︑民事執行法の一部が改正されることになった︒これは不当な執行妨害行. 為を予防︑排除することを目的とするものである︒その五年前︑最高裁判所は抵当権に基づく不法占拠者に対する明. 渡請求権を否定した︵最判平成三・三・二二民集四五巻三号二六八頁︶︒その判決は抵当権の価値権論に固執するも.
(3) のとされ︑これに対する学説の批判が多々なされていたところである︒. では︑ここにいう価値権論とはどのようなものをいうのであろうか︒担保は金融の最先端であることを念頭に置け. ば︑抵当権もまた時代の変化に応じて︑目まぐるしく進展する金融の要請に応えるものでなければならない︒そこで 価値権論が修正されることは必然なのであろうか︒. 一九八○年代から始まるバブル経済の崩壊により︑金融機関の不良債権問題が噴出する︒それは言いかえれば担保. 不動産の処分困難の問題であるということができる︒もちろん︑不況という経済の大きな変動に伴う不動産価額の下. 落︑設定時の不適切な担保評価に起因するものは本稿の枠外である︒現在において特に顕著になった抵当権を侵害す る行為をみるなかで︑抵当権の価値権たる本質は具体化されていくものと考えられる︒. 抵当権は価値権であるとはいえ︑権利が侵害されるとき抵当権者としてはどうすることもできないとすることは︑. はなはだ妥当性を欠く︒そのような非力な物権であるとすれば︑担保としての効力も脆弱なものとなり︑担保を必要. とする金融からも敬遠されることになろう︒このとき︑その一手段として物権的請求権が考えられるのであるが︑ド. イツ民法と異なりわが民法は抵当権に基づく物権的請求権の規定を欠くばかりか︑一般に物権的請求権が明文化され. ておらず︑ただそれは占有訴権に確認されるのみである︒占有を伴わない物権たる抵当権についても︑これを認める ことは可能なのであろうか︒その根拠が間題となる︒. とりわけ抵当価値権論が議論の対象となったのは︑前記平成三年判決を契機とするものであった︒そこでは︑もは. や実体法に基づく抵当権の占有排除効は認められる余地なしと考えられた︒しかし︑抵当権と占有の問題を手続法の 場に移して解決するにしても︑抵当権の価値権たる性格は問題となる︒. 三四三. 抵当権は価値権であり目的物の交換価値を把握し︑設定者はなお使用価値を保有しうる性格のものである︒それゆ 抵当価値権論︵柴原宏昭︶.
(4) 早稲田法学会誌第四+八巻︵一九九八︶. 三四四. え︑抵当権侵害ないしそれを基礎とする物権的請求権は︑目的物が通常の用法の範囲内で使用される限り︑認容され. る性質のものではない︒つまり︑抵当権者は設定者に留保された通常の用法の範囲内での使用に干渉しうるものでは. ないのである︒しかし︑短期賃貸借解除請求︵民法三九五条但書︶および民事執行法上の保全処分︵民執法五五条︑. 一八七条の二︶においては︑通常の用法の範囲内の行為であるか否かを問うことなく︑抵当権は目的物の使用・収益. 関係に干渉することが可能である︒だが︑そこにおいては物権的請求権では特に間題とされない被担保債権との関連 性が問題とされなければならないのである︒. 一 立法当初の考え方. 抵当権の本質に関する理解の変遷. 第二章抵当価値権論. ω. 抵当権の本質を捉えようとする解釈につきその変遷を辿るとき︑民法三九五条に規定する短期賃貸借保護制度の理 ︵1︶ 解にそれは顕著にあらわれてくる︒昭和初期以降︑伝統的学説は抵当権は価値権であると解釈してきたのであるが︑ ︵2︶. 民法起草者は決してそう解釈していたわけではない︒ボワソナードは﹁適度の期問でなされているが故に︑管理行為. の性質を有する賃貸借である﹂として︑短期賃貸借保護規定を説明する︒つまり︑抵当権は所有権の分割物であり︑. 債務者から目的物に対するすべての権利まで奪ってしまうものではないが︑抵当権設定により債務者はもはや債権者 ︵3︶ を害する処分行為をなしえず︑管理に属する権利のみを保有することになると解していたのである︒現行民法の起草. 者においてもこの考えは維持されることになる︒草案三九〇条︵現三九五条︶も旧民法と何ら変わるところなく︑そ ︵4︶ の趣旨説明につき起草者の一人である梅博士は﹁短期ノ賃貸借ハ管理行為デアル﹂として︑抵当不動産の利用を阻害.
(5) しないように管理行為の性質を有する短期の賃貸借のみを抵当権者に対抗しうるようにしたのである︒すなわち梅博. 士においても︑抵当権は抵当不動産に対する所有者の利用権を制限するものであり︑所有者のなしうる利用の範囲を. 定めたのが草案三九〇条であると考えられていたと解されるところである︒同じく起草者の一人である富井博士もま ︵5︶ た︑抵当不動産の所有者は管理行為の範囲内でのみ不動産の使用収益権を失わないとされる︒このように立法当初の. 学説は︑抵当権が不動産所有者の権限を制限するという観念との関係で三九五条を位置づけてきたのであるが︑なぜ. 抵当権に対抗しうる賃貸借が管理行為の性質を有するものに限定されるのかが間題となる︒この点について︑旧民法. において抵当権は設定者の権限を管理行為の範囲内に制限するとの規定が明文化されており︵旧民法債権担保編二〇 ︵6︶ 二条︶︑この規定の趣旨をも含めて三九五条は起草されたためであると解される︒. ボワソナードが参考としたベルギー抵当権法を含むフランス法系の抵当権は元来所有権に対する制約であり︑抵当 ︵7︶ 不動産の所有者は目的物の使用・収益権能を制限され︑その者に残された権能は管理行為と呼ばれた︒そして︑わが. 国においても起草者意思として︑抵当権は所有者の利用権を管理行為の範囲に制限するものと考えられていたのであ る︒. ω 価値権論の台頭 ︵8︶ 借家法制定を要請した社会情勢のなかで︑三九五条の制度趣旨として﹁住居の安定﹂が掲げられるようになり︑三. 九五条の制度趣旨につき﹁管理行為﹂であるとの説明は姿を消すことになる︒大正期において︑すでに三九五条の制 ︵9︶ 度趣旨は抵当権の本質との関連で正しく理解することは困難になっていたとされる︒そして昭和初期に至って︑ドイ. 三四五. ツ法学の影響を受けた学説が︑抵当権は本来的に﹁価値権﹂であるから︑目的物の使用・収益に関して基本的に干渉 ︵10︶ できないとの思想をとることになり︑それに伴い三九五条の制度趣旨は﹁価値権と利用権の調和﹂ということのみに 抵当価値権論︵柴原宏昭︶.
(6) 早稲田法学会誌第四十八巻︵一九九八︶. 三四六. 求められることとなる︒以来︑抵当権は目的物の交換価値のみを把握するものであるとの解釈が通説的な見解となり︑ 判例においても重要な道具概念となったのである︒. 価値権論の意義. 二 価値権論の維持. ω. 旧く︑判例は︑抵当権を﹁抵当権ハ其ノ設定者ガ占有ヲ移サズシテ債権ノ担保二供シタル不動産二付他ノ債権者二. 先チテ自己ノ債権ノ弁済ヲ受クル一ノ価格権タルニ止マリ︑抵当不動産ノ使用収益ハ勿論其ノ占有ヲ為ス権利ヲモ包. 含セザル﹂もの︵大判昭和九・六・一五民集一三巻一工ハ四頁︶と定義する︒また文言上も︑抵当権は目的物の占有. を債権者に移さない非占有担保であり︵三六九条一項︶︑ある時まで果実収取を認めないとする規定︵三七一条一項︶. から︑目的物につき債権者による占有使用がなく︑収益権能も債権者に移さない担保物権であることがわかる︒そし ︵11︶. て︑理論上︑抵当権は目的物の占有支配を内容とする権利ではなく︑目的物の交換価値を支配する権利であると説明 されるのである︒抵当権の本質に関する︑この理論こそが﹁価値権論﹂なのである︒. 価値権という概念は︑昭和初期︑石田文次郎博士が抵当権の本質を究明するにあたり︑債権と実体物権との差異か. ら独自の存在として認められるものとして提唱されたものである︒実体物権は物の使用収益を目的とし︑存在するこ. とにより権利者が利益を受ける権利であり︑その内容は使用価値の取得であるということができる︒これに対し︑抵. 当権は物の所有も利用もすべて設定者に委ね︑ただその物に対する執行による交換価値の取得を内容とする︒実行に. より消滅することにより価値の取得が実現される︑この特定の価値により量定された目的の将来の満足のための権利. であるとの点で︑債権と目的を同じくする︒しかし︑債権は債務者に対する給付行為の請求を主たる内容とするのに.
(7) 対し︑抵当権にあっては義務者の中間行為を要せず直接に物から一定量の価値を取得することが可能である︒そして︑. ︵12︶. このように本来の実体物権とも債権ともその本質を異にする抵当権を︑価値権たる独自の権利として承認されるので ある︒. 抵当権においては︑占有担保における目的物に対する危険を債権者から債務者へ転嫁することが可能となると同時. に︑債務者においても目的物の占有持続による使用収益が可能となり︑債務償却の資源を保持することができる︒こ. のことを我妻博士は︑資本主義経済組織の下における財貨の有する二重の効用として使用価値と交換価値を掲げて説. 明される︒設定者の側からみれば目的物の使用価値を保留してその交換価値のみを抵当権者に与えることとなり︑抵 ︵13︶. 当権者の側からみれば目的物の使用価値は所有者の下において実現させ︑自分は単にその交換価値のみを把握するこ ︵14︶. とになる︒担保の思想の下では︑債権者にとって目的物の所有権を受けることが主たる目的ではなく︑債権の弁済を. 受けることが主となるのであるから︑担保権実行時に目的物価額が被担保債権額に不足ある場合にはなお不足額の請. 求が可能であり︑逆に被担保債権額を超過する場合その剰余分は所有者に残されることになる︒担保権の対象が目的. 価値権論の 動 揺 と そ の 維 持. 物そのものでなく︑その保有する交換価値であることが︑このことからも理解できる︒. 働. 価値権論は石田博士が主張され︑その影響を受けて我妻博士が展開されたものであった︒これが従来の学説や判例. において受け容れられてきたのであるが︑詐害的短期賃借人に対する明渡請求否定判決︵最判平成三・三・二二民集 ︵15︶ 四五巻三号二六八頁︶を契機に多数の批判がなされるに至っている︒価値権論の動揺と評されるところである︒それ. 三四七. は︑近代的抵当権論に対する批判からの価値権論への批判と︑価値権論そのものに対する批判とに大別することがで きる︒. 抵当価値権論︵柴原宏昭︶.
(8) 早稲田法学会 誌 第 四 十 八 巻 ︵ 一 九 九 八 ︶. 三四八. 近代的抵当権論とは︑高度に発達したドイツ抵当制度を近代的抵当制度と捉え︑資本主義の発達により︑抵当権は. 特定の債権の効力保障を中心とする保全抵当︵oり喜段琶閃ξ宕仔爵︶から︑もっぱら不動産の有する交換価値を中心. として構成され︑その交換価値を投資の客体として金融市場に流通させることを目的とする投資抵当 ︵16︶. ︵︾三甜①ξ宕9魯︶へと展開すると考え︑保全抵当に止まるわが民法の抵当権を遅れた非近代的なものとみる立場で. ある︒しかし︑この保全抵当から投資抵当へという図式は︑ドイツ資本主義の特殊な発達に結合した特殊なもので ︵17︶ あって︑資本主義の発達の仕方が国により様々である以上︑これを普遍化して考えることはできないとされている︒ ︵18V ︵19︶. 石田・我妻両博士が近代的抵当権論者であったことは疑いないものであるが︑ともすると︑このことから投資抵当た. る近代的抵当権の本質を価値権と解して価値権論を批判するという誤りに陥ることになりかねない︒ ︵20︶. しかし︑保全抵当においてもその本質は価値権たることに変わりない︒抵当権が債権の担保として担保的な権利構. 造をとる限り︑独立した権利として流通するなど︑価値権として明瞭な姿であらわれることがないにすぎない︒保全. 1︶. ︵22︶. 抵当︑流通抵当︵<R冨ぼωξ宕島魯︶︑土地負担︵9巨房ど5のどの段階にあっても︑抵当権の一形態として︑そ ︵2 の本質は同じものなのである︒たとえば︑流通抵当は抵当権が価値権たる姿・作用を現わす初期段階とされるが︑そ. こにおける抵当権の独立は登記の公信力の結果にすぎないのである︒保全抵当から投資抵当への展開は︑価値権とし ︵23︶ ての純粋な姿を顕現していく過程を意昧するにすぎず︑何らその本質の修正を意昧するものではない︒価値権論すな. わち近代的抵当権論というわけではないのである︒そもそも価値権論は抵当権の本質を究明する際に用いられた概念. であるが︑それがさらに抵当権に関する規制の説明・根拠づけという解釈上の作業︑そしてこの説明・根拠づけに基 ︵24︶. づく実際上の規範定立機能を営んできたのである︒そして︑さらに価値権論は抵当権に関する立法論において現在の. 規制を批判し︑将来のあるべき姿を描きだすための判断基準を提供する機能をも有する︒とはいえ︑抵当権の本質を.
(9) 価値権として捉えることが︑必然的に︑価値権としての純粋型をより明瞭に示す形態に進むべきとの近代的抵当権論. に至らしめるものではない︒ドイツにおいても保全抵当と投資抵当とが併存することはもちろん︑土地負担が流通抵 ︵25︶. 当に比してより価値権としての性格を明瞭に示すに関わらず︑現実には土地負担の形態はあまり行なわれていないこ とからも︑このことは理解できる︒. 価値権論はドイツ民法学の影響下で生まれたものであることに対し︑わが国立法者はフランス法系の立法を範とさ. れるところである︒しかしこの︸言を以て現在の価値権論が不適であるともいえまい︒立法当時においては︑今日で ︵26︶. は担保を提供して金融を受けるべき企業が国家の直接的介護の下に育成されたために︑担保制度整備による金融促進. の必要がなかったとの経済背景が指摘されている︒金融の最先端たる担保を考える際︑ドイツ民法学の影響の一言を ︵27︶ 以て︑経済背景をも視野に入れておられた両博士の見解が払拭されねばならぬことにもなるまい︒. 抵当権の本質を価値権と捉えること自体に対して︑その本質は実行による目的物の交換価値を取得しうる期待権で ︵29︶. あるとの主糧・抵当権の実行は九九●九九%行なわれてい漢との実情を髭ると・実行とい︑つ面にとらわれすぎ. ているとされる︒価値権論に関する議論につき︑鎌田教授が︑その発想を具体的な解釈上の結論に短絡させ過ぎてい ︵30︶ るところに問題があり︑価値権たる基本的な考え方はこれからも維持されてよいと指摘されることが注目される︒ま. た︑抵当権が設定者の使用収益権能に一定の支配を及ぼすといってみても︑交換価値の実現を阻害する範囲内におい ︵32︶. て効力が否認されるだけであるとすね龍︑そこにおいても価値権論は生きているとはいえないだろうか︒保全抵当の 枠内での価値権的考察はなお可能なのである︒. ところで︑価値権論が大きく採り上げられることになるのは平成三年判決を契機とするものであるが︑決してこれ. 三四九. は偶然的なことではない︒﹁抵当権が如何にして侵害されるかは即ち抵当権の本質は何処に存するや﹂の間題なので 抵当価値権論︵柴原宏昭︶.
(10) ︵33. 早稲田法学会誌第四十八巻︵一九九八︶. 三五〇. 内田貴﹁抵当権と短期賃貸借﹂民法講座皿一八一頁︒ぎ誘9区ρミ薯ミ鳴O&ミ画ミ曹ミ高§慧§§﹄愚§二くレo︒︒ o ⑩も●ミρ. 我妻栄・新訂担保物権法一五頁︒. 抵当権に対する侵害を考察することにより︑その本質を具体的に理解することが可能になるからである︒. ︶. 1. あり︑. 2. 3 内田貴・前掲︵注2︶一八二頁︒ぎ望8区ρ昏ミもDG︒8︐ 4 梅謙二郎・民法要義巻之二・五〇四頁・五八六頁︒. 内田貴・抵当権と利用権五三頁︑内田貴・民法皿三五二頁︒. 条二定メタル期間其不動産ヲ賃貸スルコトヲ得又其果実及ヒ産出物ヲ譲渡シ及ヒ管理ノ総テノ行為ヲ為スコトヲ得﹂と規定する︒. 6 内田貴・前掲︵注2︶一七九頁︒なお︑旧民法債権担保編二〇二条は︑﹁抵当財産ノ差押エナキ問ハ債務者ハ財産編第二九条及ヒ第一二. 5 富井政章・民法原論第二巻物権五五二頁︒. 7 8 三潴信三・全訂担保物権法五八三頁︒. 我妻栄・前掲︵注1︶三四〇頁︒. 9 内田貴・前掲︵注2︶一八七頁︒. 11. 我妻栄・前掲︵注1︶二〇八頁︒. 10. 石田文次郎﹁抵当権の本質と価値権﹂法協四七巻七号九四頁︒. 13. 我妻栄・前掲︵注1︶二〇八頁︑我妻栄・近代法における債権の優越的地位八四頁︑我妻栄﹁資本主義と抵当制度の発達﹂民法研究W四頁︒. 12. 石田文次郎・担保物権法論上巻︹全訂︺一〇頁︒. 15. 松井宏興・前掲︵注16︶四五頁︒. 鎌田薫﹁抵当権の効力1﹃価値権論﹄の意義と限界﹂司法研修所論集九一号四頁︒. 14. 高島平蔵・物的担保法論−三二頁︑. 松井宏興﹁近代的抵当権論﹂民法講座皿三三頁︒. 16. 石田文次郎・前掲︵柱14︶一〇八頁︑我妻栄・前掲︵注1︶六頁︑二一四頁︒. 鈴木禄弥・抵当制度の研究三頁︑. 17. 18. 松井宏興・前掲︵注16︶三四頁︑伊藤進﹁抵当権の学理上の課題﹂別冊NBL三一号一九一頁︒ 石田文次郎﹁価値権の純粋型﹂志林三四巻八号四五頁︒価値権として純粋の形相は︑抵当権が債権から完全に独立して譲渡の形式をとった. 19. ときにあらわれる︒我妻栄・前掲︵注1︶一五頁︒抵当権は最もよく価値権の本質を備えるものであるが︑債権に附従する性格を止揚しない. 20. かぎり︑その独自の価値権たる性格は完全なものとはいえない︒ 石田文次郎・前掲︵注20︶二六頁︒保全抵当は債務者の責任を加重して債務者の弁済を確保する︑債権に附従する形態︒流通抵当において. は︑債権と抵当権とが目的においてのみ結合しその他の点において互いに併立する形態であり︑独立した権利としてあらわれるのであるが︑. 21.
(11) 一. 附従性ありとされる︒土地負担は債権との従属関係から離脱して完全に独立した段階である︒. 流通抵当を規定するドイツ民法一一一三条も﹁その者の有する債権を弁済するため﹂と明記されており︑少なくとも消滅に関しては債権との. ︵22︶ 石田文次郎・前掲︵注12︶法協四七巻五号七一頁︑石田文次郎・前掲︵注20︶三〇頁︒流通抵当においては︑善意の取得者保護のために︑. 福島正夫 清水誠﹁日本資本主義と抵当制度の発展﹂法時二八巻二号四頁︒. 石田文次郎・前掲︵注20︶四七頁︑我妻栄・近代法における債権の優越的地位九二頁︒. 高島平蔵﹁担保物権の価値権性﹂別冊法学セミナー八三号一二頁︒. 石田文次郎・前掲︵注20︶四五頁︒. 抵当権の登記に付与した公信力を被担保債権にまで拡大せねぱならず︑抵当権の独立は登記の公信力の結果なのである︒ ︵23︶. ︵24︶. ︵25︶. 川井健・担保物権法一二頁︒. 昭和八年当時の大審院判例につき︑物権に関するもののうち︑抵当権関係が実に六割を占めていた︵田島順・担保物権法一八一頁︶︒. ︵26︶. ︵27︶. 鎌田薫・前掲︵注15︶四三頁︒. 松井宏興・前掲︵注16︶四四頁︒. ︵28︶. ︵29︶. 鎌田薫・前掲︵注15︶二六頁︑鎌田薫﹁抵当権侵害と明渡請求﹂高島平蔵先生古稀記念論文集二八五頁︒管理行為しかできないことの具. ︵30︶. ︵1 3︶. 我妻栄 福島正夫﹁抵当権判例法﹂民法研究卜二〇三頁︒. 鎌田薫発言・私法五九号五五頁︒. 体的な意味は︑実行時にその処分行為は抵当権者︑競落人との関係で効力を失うということにすぎない︒. ︵33︶. ︵2 3︶. 第三章抵当権侵害論 価値権に対する侵害 ︵34︶. 抵当権の本質は価値権であるが︑その価値の内容は具体的には配当上の優先弁済権としてあらわれるのであるから︑. 競売による換価代金を限度としてあらわれる︒もちろん抵当権設定時と抵当権実行における換価時点には相当程度の. 時問の経過が予定されるので︑占有権能・使用収益権能を所有者に留保する抵当権にあっては︑この間に目的物に関. 三五一. する事実的ないし法的変動が予想される︒そして︑抵当権が担保たる機能を有するためには︑目的物の抵当権設定時 抵当価値権論︵柴原宏昭︶.
(12) 早稲田法学会誌第四十八巻︵一九九八︶. 三五二. における交換価値と換価時点における交換価値のギャップを縮めることが必要となる︒実務では︑抵当権者は当該物. 件の予測される減価要因を抽出して︑各執行裁判所ごとに協議して定める﹁不動産執行評価基準﹂における減価率か. ら逆算して設定時の評価がなされるとのことであるが︑実際には時問の経過のなかで生じる経済環境の変動や︑所有. 者ないし第三者による占拠行為などの有無により︑実行時の態様は一律でなく︑それをあらかじめ折り込んだ評価を. することは不可能である︒また︑それだけでは﹁最大価値の最大担保﹂という金融の要請にも応えられない︒そこで︑. その価値下落要因を排除する手段として︑抵当権者は物権的請求権を有するのである︵抵当権に基づく物権的請求権. の詳細については後述する︶︒しかし︑目的不動産の価値低下が生じれば常に︑抵当権者の物権的請求権行使による. 目的物の占有に対する干渉が許されるわけではない︒その価値権たる特性から︑抵当権に対する﹁侵害﹂が認められ るためには︑種々の制約を伴うのである︒ ︵35︶. 価値権とは目的物の交換価値を把握する権利を意味した︒つまり︑目的物の物質的支配を重要な内容とせず︑その. 交換価値によって優先的に弁済を受けることを主要な効力とする︒価値権たる抵当権においても︑権利内容の実現が. 妨げられるとき︑それは抵当権に対する侵害ということができる︒しかし︑この侵害を認定する際︑抵当権の特殊性. の考慮が必要となる︒この﹁権利内容の実現が妨げられるとき﹂を考察する際︑いわば負の側面から抵当権の把握す る価値内容を捉えることが可能になると考えられる︒. 我妻博士によれば︑抵当権に対する侵害には﹁積極的な範囲﹂と﹁消極的な限界﹂があるとされる︒目的物の交換. 価値そのものを減損し︑あるいはその正当なる交換価値を抵当権者が把握することに対して妨害を加うるものは抵当. 権の侵害である︵抵当権侵害の積極的な範囲︶︒しかし︑抵当権は目的物の使用価値に直接交渉を有さないものであ. るから︑他人による使用・収益が交換価値を減損するものであれば格別︑それが権限なき者によってなされていても.
(13) ︵36︶. 抵当権の侵害とはならないのである︵抵当権侵害の消極的限界︶︒さらに︑目的物所有者が設定後も目的物の使用収. 益を継続することができることに鑑みれば︑たとえ目的物の交換価値が下落したとしても︑それが目的物の通常の用. 被担保債権 と の 関 連 性. 法に従った使用収益によるものであるかぎり︑抵当権侵害が認められることはないのである︒. 二. ところで︑債権に付従する抵当権において︑その侵害の認定は︑被担保債権額︑被担保債権の弁済期到来の有無に. 被担保債権 額 と の 関 係. より何らかの影響を受けるものであろうか︒. ω. 目的物の価値が減損しても︑なお被担保債権を満足させるに十分な価値を保有していれば︑抵当権者は目的物から. 優先弁済を受けることが可能である︒しかし︑抵当権侵害の認定にあたっては︑被担保債権額を下回ることが要求さ ︵37︶. れるものではない︒なぜなら︑抵当権不可分の原則により︑抵当権は目的物の価格如何を問わず︑その全部に対して. その効力を及ぼしうるからである︒安全確保の手段たる担保においては︑被担保債権額と目的物の交換価値の差が大. ︵38︶. きいほど担保機能は確実なものとなるのであるから︑価値の低下はそれだけで抵当権侵害を成立させるとも考えられ. よう︒また︑残余価値により被担保債権額が十分担保されるときは抵当権侵害とならないとすれば︑抵当権侵害とは. 認定されない後日の経済環境の変化や︑通常の用法に従う目的物使用によるさらなる価値の低下が生じて︑被担保債. 被担保債権弁済期との関係. 三五三. 権額を下回ることとなる場合︑それに先行してなされた行為による価値低下の負担を抵当権者が負う結果となり︑妥. ω. 当な結論を導くことができなくなる︒. 抵当価値権論︵柴原宏昭︶.
(14) 早稲田法学会誌第四十八巻︵一九九八︶. 次に︑抵当権侵害の認定は︑被担保債権の弁済期の到来を要件とするものであろうか︒. 三五四. 債権担保たる抵当権において︑履行期に被担保債権が弁済ないし抵当権実行時までに目的物の価値が回復すれば︑. 終局的に抵当権者に財産的損害はないということができよう︒しかし︑抵当権は被担保債権弁済期到来前において完 ︵39︶. 全に成立する物権なのであるから︑被担保債権弁済期到来前においても︑抵当権に対する侵害を観念することは可能. である︒抵当権は目的物の交換価値を把握して常時この上に支配を継続するものであることから︑被担保債権の弁済 期到来ないし抵当権の実行を待たずして︑抵当権侵害を認めることができるのである︒. なお︑価値減損行為が債務者によりなされた場合においては︑民法一三七条二号により期限の利益が喪失されるの ︵40︶. であるから︑この点については問題にならない︒第三者による価値減損行為がなされた場合には同条の適用はないの. であるが︑目的物所有者の有する損害賠償請求権に代位することにより︑抵当権者の保護は図られることになる︒物. 上代位につき被担保債権弁済期到来の有無を問わないと解されているからである︒物上保証の場合も︑第三者による. 価値減損行為に対しては同様に抵当権者は保護されることができる︒先取特権の場合と異なり︑民法三〇四条の﹁債. 務者﹂は﹁不動産上の権利者﹂と解されるからである︵大判明治四〇・三二二民録二二輯二六五頁︶︒しかし︑物 ︵覗︶ 上保証人が自己の所有する目的物の価値を減損する場合︑抵当権者の保護は困難となる︒この場合︑期限の利益の喪. 失も損害賠償請求権の物上代位も予定されていないからである︒事実上︑抵当権者としては何ら債権確保の手段を有. することもなく︑なお弁済期の到来を待たざるを得ないとの結論に至ることは果たして妥当であろうか︒このことと の整合性を考えても︑弁済期の到来を抵当権侵害の要件とすべきではないと考えられる︒.
(15) 三 侵害行為の態様. 抵当権は債権担保を目的として現在の価値を支配することを内容とするのであるから︑担保機能に関するかぎり︑. 目的物価格が被担保債権額を下回るようになったか否か︑弁済期到来の有無︑債権の任意弁済の可能性の有無等は︑. 侵害の認定に影響を及ぼすものではないと解すべきである︒したがって︑抵当権侵害を認定するにあたって残された. 最も重大な課題は︑抵当権侵害はいかなる行為による価値減損がある場合に認められるかである︒抵当権侵害が認定. 法律的行為 一 般 に よ る 減 価. されるのは︑具体的にいかなる場合なのであろうか︒. ω. 抵当目的物の交換価値を減少させる行為として︑山林の伐採や建物の損壊などが採り上げられることが多いが︑そ. のような物理的行為に限られるものではなく︑抵当権者が第三者に用益権を設定するような法律的行為がその交換価. 値を下落させることも考えられる︒しかし︑このような行為がなされたとしても︑第三者の権利は抵当権登記に劣後. するため抵当権者に対抗し得ないのであるから︑抵当権侵害を構成するものではない︵大判明治三八・五・二六民録. 一一輯七五九頁︶︒抵当権設定登記後の目的物の売却︑賃貸︑用益物権や後順位抵当権の設定といった法律的行為に. よる減価があるとしても︑抵当権実行時の配当に影響を及ぼすことはないのである︒もちろん︑抵当権を実行せず︑. 抵当不動産を任意売却するような場合には侵害ありとも考えられようが︑抵当権侵害は最終的に競落人の地位によっ. て判断されるべきであるとの考えが判例および学説の根底にあるのであろうか︒ともかく︑法律的行為による減価は︑. 三五五. 物理的行為による減価たとえば目的物の殿損が一度生ずれば抵当権実行時においても回復されることは予定されない ことと︑重大な差異を有するのである︒. ㈲ 抵当権設定登記前の法律的行為 抵当価値権論︵柴原宏昭︶.
(16) 早稲田法学会誌第四十八巻︵一九九八︶. 三五六. では︑登記の前後により侵害の有無が決定されるというのであれば︑抵当権設定契約後登記前になされた法律行為. についてはどのように解されるのであろうか︒たとえば︑抵当権設定契約後登記までの問に目的物が第三者に譲渡さ. れて登記がなされたり︑他の債権者に対し抵当権が設定され先に抵当権設定登記がされてしまうと︑せっかくの抵当. 権が︑設定登記ができなくなったり︑あるいは後順位となり担保力が激減することが考えられる︒もっとも︑抵当権. 設定者が登記手続に協力しない場合︑抵当権者がとり得る手段として仮登記仮処分があり︵不動産登記法三二条︑三. 三条︶︑抵当権設定登記請求権を被保全権利として目的物の処分禁止の仮処分を求めることでこれを防止することも. また可能である︵東京高判昭和四五・一一・一一判時六一四号七四頁︶︒未登記の抵当権であっても有効に競売を申. 立てることは可能であるが︵ただし︑民執法一八一条一項の制約がある︶︑登記を対抗要件としているのであるから. ︵大判大正一二・七・三二民集二巻五四五頁︶︑第三者が背信的悪意者である場合は格別︑不動産取引の安全を考慮. し︑抵当権設定契約後であってもその登記前に第三者のための法律行為がなされた場合には︑抵当権者は当該第三者 に対抗できないことになる︒. ただし︑設定者の目的物に対する用益権設定その他の法律的行為の自由は抵当権登記の対抗力を基礎として初めて. 認めうるものである限りにおいて︑目的物所有者は本来︑抵当権者に対する関係では抵当権設定登記完了までは目的. 不動産に関する法律的行為をしてはならない義務を負うべきものと考えられる︒抵当権設定契約後登記前に行われた. このような義務違反の行為は︑設定者の法律的行為をなす権原なきうちになされるものであるから︑それに伴う価値. 有害登記に よ る 抵 当 権 侵 害. 減損は抵当権侵害と認定しうるものと解されねばならない︒. ㈹. 抵当権登記に劣後する法律的行為は抵当権者に対抗できないものであるがゆえに︑抵当権侵害とはならない︒なぜ.
(17) なら︑賃借権などの用益権設定登記がなされた場合であっても︑抵当権者は何ら負担なきものとして目的不動産を競. 売に付すことが可能なのであり︑競落人もまた完全な所有権を取得することが可能であるからであった︒抵当権侵害. が認定されないのであるから︑その賃借権契約を解除する必要なきことはもちろん︑その登記に関する抹消請求を認. 容できないこともちろんである︵大判昭和六・七・一〇民集一〇巻五二四頁︶︒その登記が単なる無効登記である場 合も同様である︒. だがしかし︑その登記が抵当権に優先する外観を有するものであれば話は別である︒たとえば解除後の短期賃借権. の登記︵大判明治四二二二二〇民録一五輯九三三頁︶︑既に消滅した先順位抵当権の登記︵大判大正八・一〇・. 八民録二五輯一八五九頁︑大判昭和一五・五・一四民集一九巻八四〇頁︶︑無効な不動産先取特権の登記︵大判大正. 四・一二・二一二民録二一輯二一七三頁︶の存在する事案につき︑判例は︑このような登記の存在は﹁抵当権ノ行使其. ノ他諸般ノ取引上種々ナル障凝ヲ受クルコト免レザル﹂がゆえに抵当権侵害であるとする︒抵当権に優先する外観を ︵42︶. 有する権利の登記である場合︑その登記の存在は原因の有効を推定せしめ︑しかもその推定せしめる法律関係は抵当. 権に対抗しうる実体的効力を有するものである︒それゆえに︑抵当権を実行して優先弁済を受ける際の障害となり︑. 実行時における価値滅損が確定的となるのである︒ために抵当権侵害を認めることができるのである︒また︑その登. 記内容に基づく所有者の使用収益がなされていないことが前提となるのであるから︑その登記の存在ゆえの滅価を︑. 抵当権者が通常の用法の範囲内の利用によるものとして認容せねばならない性質のものでもなければ︑そもそも︑抵. 侵害と損害の関係. 三五七. 当権の登記状態に対する侵害に登記抹消請求という物権的請求権を認めることは︑抵当権の非占有担保たる性格に矛 盾するものでもあるまい︒. @ 短期賃貸借による﹁損害﹂ 抵当価値権論︵柴原宏昭︶.
(18) 早稲田法学会誌第四十八巻︵一九九八︶. 三五八. 抵当権は目的物の交換価値のみを把握し︑目的物所有者は設定後においても目的物に対しいかなる法律行為を為す. ことも可能である︒このことは︑その行為が抵当権に対抗できないことを基礎としていた︒ただし︑短期賃貸借は抵. 当権登記に劣後するものであっても抵当権に対抗できるものとされるため︵民法三九五条︶︑抵当権実行時において. も︑その消滅は予定されておらず︑それに伴う減価は確定的なものとなる︒もっとも︑抵当権者は常にその減価に甘. んじなければならないことまでも予定されているものでなく︑短期賃貸借が抵当権者に﹁損害﹂を及ぼすときは︑裁 判所は抵当権者の請求によりその解除を命ずることができる︵民法三九五条但書︶︒ ︵娼︶. ところで︑ここにいう抵当権者の﹁損害﹂は抵当権侵害と密接な関係を有するものであろうか︒一般に権利侵害と. これに基づく損害の発生とは常に相伴うものではないとされている︒損害は抵当権者が不法行為に基づく損害賠償請 求権を行使する際にも問題となる︒ここに一瞥しておく︒. 抵当権者の不法行為に基づく損害賠償請求権について︑抵当権侵害により目的物の交換価値が如何に減損せしめら. れたとしても︑履行期に債務の弁済がなされれば抵当権者に財産的損害は生じたということはできない︒その意昧で︑. 被担保債権弁済期までに弁済がなされれば財産的損害は生じなかったことになるのであるから︑損害賠償請求権を行. 使しうる時期についても少なくとも弁済期以後とすべきことになる︒また︑残余価値によってもなお十分に被担保債 ︵製︶. 権が担保されるかぎり︑たとえ侵害があったとしても︑不法行為における損害は発生せずということができる︵大判. ︵45︶. 昭和三・八・一民集七巻六七一頁︶︒ここにいう損害とは︑抵当権侵害による目的物の交換価値の減損によって︑本. 来受けられるべきであった弁済額を取得しえなかったときの︑その不足額をいうからである︒つまり︑抵当権に対す. る損害の発生は︑抵当権侵害の要件︵通常の用法の範囲を逸脱した目的物の使用収益による価値減損︶に加え︑被担. 保債権との関係が重視されているのである︒したがって︑不法行為における損害は抵当権侵害に相伴って発生するも.
(19) のではなく︑抵当権侵害の発生を基礎として生じるものであるということができる︒. しかしながら︑民法三九五条但書にいう﹁損害﹂は︑抵当権侵害を前提にしない損害であるとの特殊性を有する︒. この損害の認定につき︑判例は︑﹁賃貸借ノ存在ガ抵当不動産ノ代価ヲ低廉ナラシメ為メニ抵当権者ヲシテ完全二弁. 済ヲ受クルコトヲ得ザラシムベキ場合﹂とする︵大判大正五・五・二二民録二二輯一〇一六頁︶︒すなわち︑民法三 ︵46︶. 九五条に規定する損害は︑①短期賃貸借に伴う︑②価値の減損により︑③被担保債権弁済期到来後︑目的物の交換価. 値が被担保債権額を下回ること︑を要件とするのである︒ここにおける価値の減損は︑目的物の通常の用法の範囲外. の行為によるものに限られるとの絞りをかけられる性質のものではない︒そもそも︑抵当権設定登記後の短期賃貸借. は︑﹁法の認容する所﹂とされているのである︵大判昭和八・四・二五民集一二巻九二四頁︑大判昭和九・九・八新 聞三七四六号一〇頁︶︒. なおどの損害の認定に契約内容の不合理性を要求する説に立脚す灘・短期賃貸借契約をその契約内容によ軌. 通常の用法の範囲内と範囲外とに峻別することも可能であるかもしれない︒しかしながら︑近時の判例においても︑. 短期賃貸借の存在により抵当権者の受ける配当などの額が減少する場合には︑賃貸借の内容が通常よりも買受人に不 ︵48︶. 利益であるか否かを問わず︑原則としてこれを解除すべきとするのが三九五条の趣旨であるとされている︵最判平成. 八・九・二二判時一五七九号七三頁︶︒それゆえ︑いかなる内容の短期賃借権の設定もやはり法の認容するものであ. るということができ︑抵当権侵害の要件たる通常の用法の範囲外の利用とすることはできず︑そもそも抵当権の把握. する交換価値の枠外の減価であるということができよう︒したがって︑民法三九五条の損害は抵当権侵害を基礎とす. るものではなく︑たとえこの損害が認められようとも当然に抵当権侵害が認められる性質のものではない︒短期賃借. 三五九. 権が抵当権者に損害︵民法三九五条︶を及ぼすものであっても︑抵当権者はその解除を請求できるのみであり︑抵当 抵当価値権論︵柴原宏昭︶.
(20) 早稲田法学会誌第四十八巻︵一九九八︶. 三六〇. 権侵害を基礎とする損害賠償請求権︵民法七〇九条︶が否定されることも当然の事理である︵大判昭和八・四・二五 民集一二巻九二四頁︶︒. この損害は賃借権の存在による減価なのであるから︑解除により損害は消滅するということができる︒侵害なき損. 害原因たる短期賃貸借が解除されることにより︑賃借人であった者はただ不法占拠者として︑目的不動産につき物理 的行為を行なう存在となる︒. ㈲ 物理的行為一般による減価. では︑抵当目的物に対するいかなる物理的行為が︑抵当権侵害として認められるのであろうか︒. 抵当目的物の滅失・殿損による交換価値の下落は抵当権侵害となる︒滅失・殿損が目的物の通常の用法の範囲内で ︵49︶. の使用収益行為と認められることはおそらくあり得ないであろう︒また︑改築・建替え等の増改築がなされる場合に. あっても︑それにより建物の同一性が社会経済的にみて失われるとき抵当権は消滅するのであるから︑少なくともそ. の同一性を破壊するような物理的行為は︑それが抵当権者の承諾なくしてなされる場合︑抵当権侵害が認定されると. 解すべきである︒抵当権は目的不動産の滅失により絶対的に消滅するものであるから︑目的物の滅失は単なる交換価. 値の減損ではなく︑抵当権が目的物の交換価値を把握すること自体に対する侵害となるからである︒滅失までには至. らない物理的行為である殿損においても︑目的物の交換価値の減少することもちろんである︒そして︑抵当権設定後. の付加︼体物についても抵当権の効力は及ぶのであるから︑その物を分離・搬出する行為もまた殿損・滅失の場合と. ︵50︶. 同様に考えることができよう︒抵当権の把握する交換価値は︑客体が構成部分ないし従物と結合して全体をなすこと. において体現されるものであり︑この全一体の破壊は抵当権の侵害なりとされるところである︒この物理的行為は︑. 法律的行為と異なり︑それが一度生じると抵当権実行時においても回復されることは予定されないものである︒.
(21) もつとも︑この物理的行為も目的不動産に対し直接なされるものでなければならず︑たとえば隣接地に廃棄物処理. ︵51︶. 場が建設されるなどによる生活環境の悪化など︑目的不動産周辺の物理的変更が価値減損事由となることがあっても︑. その行為が権利の濫用︵民法一条三項︶に該当する場合は格別︑抵当権侵害は認められない︒. もちろん︑滅失・殿損には至らないまでも︑抵当権設定者による目的不動産の利用形態や内容の変更によっても︑. その交換価値は変動しうるものである︒たとえば更地に抵当権を設定した後に抵当不動産上に建物が建築されると︑. その土地の交換価値は減少することになる︒しかし︑それは通常の用法という意昧で抵当権侵害とはいえず︑抵当権. 者は目的不動産所有者が土地上に建物を建築することの禁止を求める仮処分を求めることはできないとされる︵札幌. 高裁昭和五二・六・二八判タ三五九号二七三頁︶︒この点につき︑通常の用法の範囲内の行為として︑抵当権設定当. 時予想されるべき目的物の利用形態や内容の変更であれば︑その変更に伴う価値変動は担保評価に折り込み済みであ ︵52︶. るといい得るのであるから︑抵当権侵害が認められるのは︑抵当権者の予期しえなかった利用の変更であると考えら れている︒. 抵当目的物所有者はなお目的物の使用収益が可能なのであり︑目的物の通常の用法の範囲内の行為であれば︑いか ︵53︶. に目的物の交換価値が減損されようとも抵当権侵害とはならない︒このことは通常の用法の範囲内での使用収益によ. る減価分は︑抵当権の把握する価値の枠外にあるからと説明することができるのである︒抵当権の把握する交換価値 ︵54︶. ならびに目的物所有者の使用価値の範囲は︑抵当権設定時の主観的態様ではなく︑目的物の客観的・経済的見地から. 対抗権原なき占有者の存在. 定められるべきである︒. ⑥. 三六一. 抵当権者に対抗できない目的不動産の占有者としては︑抵当権登記に劣後する長期賃借人︑使用貸借人のほか︑不 抵当価値権論︵柴原宏昭︶.
(22) 早稲田法学会誌第四十八巻︵一九九八︶. 三六二. 法占有者︑所有者︑その家族等が考えられる︒抵当不動産に対する滅失・殿損等の物理的行為が侵害なりと認められ. ることはあっても︑最高裁判所において目的物の占有状態が抵当権侵害なりと認められたことはない︒先にみた物理. 的行為による価値減損は︑一度生じれば︑抵当権実行時においても︑何らかの手を打たないかぎり回復されることは ︵55︶. あり得ないものであった︒他方︑対抗権原なき不動産占有者の存在は︑その者が出ていけば元の状態に戻るというこ. とができる︒ここにおいては︑占有減価の不確定性なるものが侵害を認定する際の障害とされているようである︒し. かし︑抵当権侵害において被担保債権弁済期到来の有無を問題としないのであれば︑物理的殿損との比較で侵害の蓋 然性云々を考える余地はない︒. 価値減損行為が通常の用法の範囲外の行為であるか否かにつき︑行為の主体は問題とならないのであるから︵大判. 大正二二二・一一民録一九輯一〇一一頁︑大判昭和五・四・一六新聞三一二一号七頁︑大判大正四・六・一六民録. 二一輯九七一頁︶︑第三者の不法占有が目的物所有者の使用価値に対する侵害を生じることはあっても︑抵当権の本. 来把握する交換価値の侵害にはならない︒この点︑不法占有者はとくに侵害が著しいとして︑これを単に抵当権者に ︵56︶. 対抗しえない占有者と区別すべきであるとも考えられそうであるが︑むしろ減価率は︑長期賃借人・使用貸借人. ︵五%︶に比し︑不法占有者が存在する場合の方が小さいとのことである︵二〜三%︶︒そうであれば︑対抗権原な. き占有者に侵害ありとして長期賃借人等を排除する結論と︑常に占有による侵害はないものとする結論のいずれかの ︵57︶ 選択を迫られることになるのであるが︑もちろん後者が妥当であろう︒ ︵58︶. なお︑抵当権侵害を設定者の行為によるもの︵価値維持義務違反︶と︑第三者の行為によるものとに二分する説も. あるが︑すべては設定者の作為・不作為に起因するものと考えることができるのであるから︑このような構成は意昧 をなすものではないと考えられる︒.
(23) 浦野雄幸﹁抵当価値論﹂幾代通先生献呈論集・財産法学の新展開二六〇頁︑我妻栄・福島正夫・前掲︵注33︶六一頁︒競落代金の支払があ. ると競売物件上の抵当権は消滅して所有権は競落人に移転し︑抵当物件は不動産から競落代金に移る︒そして︑この競落代金の配当をもって. ︵34︶. 我妻栄・前掲︵注1︶三八六頁︑我妻栄 福島正夫・前掲︵注33︶二〇七頁︒. 我妻栄n福島正夫・前掲︵注33︶二〇三頁︒. 高島平藏・前掲︵注17︶三九頁︒. 抵当権実行手続は究極の目的を果たし終わる︒ ︵5 3﹀ ︵36︶. ︵37︶. 中島玉吉・民法釈義巻ノニ・一〇四〇頁︒. 高島平蔵・前掲︵注17︶八八頁︒. 民法二二七条二号の趣旨は︑担保が殿滅ないし減少して債務者の信用の基礎が失われるのに︑期限の到来まで債権の行使ができないのでは. ︵38︶. ︵40︶. ︵9 3︶. 我妻栄 福島正夫・前掲︵注33︶二三九頁︒. なお︑このことは︑抵当権に基づく損害賠償請求権を認める積極的論拠にもなろう︒. れる︒よって﹁債務者﹂による場合に限定される︒道垣内弘人・担保物権法一四八頁︒. 債権者に酷だからであるとされ︑逆に︑第三者の行為で担保が殿滅ないし減少したのに期限の利益を失うのでは債務者に酷だからであるとさ. ︵41︶. ︵42︶. 我妻栄・前掲︵注1︶三八六頁︒. 高島平蔵・前掲︵注3 5︶九三頁︒. 鎌田薫﹁抵当権1その二﹂私法五九号一五頁︒我妻栄・前掲︵注1︶三四六頁は︑我妻栄時福島正夫・前掲︵注33︶二四〇頁を変更される︒. 高島平藏・前掲︵注17︶九三頁︒. ︵必︶. ︵45︶. ︵43︶. ︵46︶. て︑抵当権者からの解除請求訴訟の事実審口頭弁論終結時において︑抵当不動産の競売による売却価額が同条本文の短期賃貸借の存在により. なお︑最判平成八・九・二二︵民集五〇巻八号二三七四頁︶は︑﹁民法三九五条ただし書にいう抵当権者に損害を及ぼすときとは︑原則とし. 柚木馨・注釈民法︵9︶二二九頁︑我妻栄・前掲︵注1︶三四〇頁・三四八頁︑道垣内弘人・前掲︵注40︶一四〇頁︒最判平成三.三・二. 下落し︑これに伴い抵当権者が履行遅滞の状態にある被担保債権の弁済として受ける配当等の額が減少するときをいう﹂とする︒ ︵7 4︶. 通説とされる︵星野英一・民法概論H二八二頁など︶︒なお︑本判決調査官解説は︑短期賃貸借契約について︑契約が真実成立したか否か︑. 二︵民集四五巻三号二六八頁︶もこの説をとるものと解されていた︒. 契約条件が契約書記載のとおりか否か等の点について疑問がもたれるものも多く︑内容虚偽の疑いのある契約書などの証拠書類に基づきその. ︵48︶. 一二山ハ三. ﹁建物の同一性が失われたか否かは︑新旧の建物の材料︑構造︑規模等の異同に基づき社会通念に照らして判断すべきであり⁝−﹂︵最判昭. 契約内容の不合理性を判断し︑解除請求の拒否を決定するのは妥当でない旨指摘する︵判時一五七九号七四頁︶︒ 和五〇・七・一四判時七九一号七四頁︶︒. ︵49︶. 抵当価値権論 ︵ 柴 原 宏 昭 ︶.
(24) 浦野雄幸・前掲︵注34︶二六二頁︒. 我妻栄目福島正夫・前掲︵注33︶二二一二頁︒. 早稲田法学会誌第四十八巻︵一九九八︶. ︵1 5︶. 鎌田薫・前掲 ︵ 注 1 5 ︶ 一 〇 頁 ︒. 浦野雄幸・前掲︵注3 4︶二六三頁︒. ︵0 5︶. ︵2 5︶. 三六四. 鉱業権が抵当権の目的であるとき︑採掘の権限なき者が普通鉱業家のとるべき方法をもって採掘をなしたとき︑判例は抵当権侵害たりえな. いとしてきたのであるが︑同様の事案につき︑大判大正二・ニマ一一︵民録一九輯一〇一一頁︶は﹁抵当権者タル被上告人ノ当初ヨリ予期. スル所ナレバ﹂と抵当権者の主観を論拠とするのであるが︑その後大判昭和五・四・一六︵新聞三一二一号七頁︶は︑﹁鉱業権ノ性質上当二. 鎌田薫・前掲︵注15︶一六頁︒. 東京弁護士会編・実務民事執行一七四頁︒. 第四章. 抵当権に基づく物権的請求権. 近江幸治・担保物権法︹新版︺一六一頁︒. 宇佐見大司﹁抵当権と物権的請求権﹂法学セミナー三六九号一一八頁︒. 序. ︵8 5︶. ︵57︶. ︵56︶. ︵55︶. えられている︵村上久一﹁法定地上権について﹂判例タイムズ七七二号一七頁︑鎌田薫﹁抵当権︵その二︶別冊NB﹂三一号三七頁など︶︒. また︑同じく抵当不動産の交換価値下落要因となり得る法定地上権成立の成否についても︑当事者の主観は問題とされるべきではないと考. 然ルベキ所ニシテ﹂と目的物の客観的・経済的性質をその論拠とすることになる︒. ︵54V. ︵53︶. 一. 民法は︑不法行為の要件として権利侵害なる抽象的要件を掲げるに止まるから︑抵当権侵害による不法行為が成立. する余地のあることは問題なしということができる︒しかしながら︑物権的請求権はただ占有訴権にその具体的な規 ︵59︶. 定を有するのみである︒だが︑占有を伴わない抵当権において︑差押えの前後を問わず︑物権たる抵当権自体の効力. 物権的請求権の根拠. として物権的請求権が認められること︑判例の承知するところである︒. 二.
(25) 2︶. 物権的請求権は占有を前提とする権利にのみ認められるものであるとすれば︑非占有担保たる抵当権における物権 ︵60︶ ︵㎝︶ 的請求権は否定されねばならないことになる︒しかし︑占有に物権的請求権の根拠を見出すことには異論がある︒そ ︵6 の根拠はむしろ︑権利の支配権たる性質に求められるべきである︒. 民法は自力救済を禁止するのであるが︑支配権としての物権がその行使の円満を害される場合︑その一事をもって. 法による保護が承認されずとすれば︑その支配権は全く有名無実ということになりかねない︒そこに物権的請求権の. 必要性が見出されるのである︒これにょると︑所有権のごとく目的物の有形的な利用を目的とする権利においては︑ ︵63︶. その支配権行使の円満を欠くことを︑その外形的客観的標識たる占有の侵害に還元し︑妨害なき占有の回復をもって. 物権的請求権の内容としているということができる︒すなわちここで物権的請求権が占有の回復を要求することは︑. 物権保護のための一手段にすぎないのである︒抵当権は質権における占有の要素を登記に変わらしめたるものとして. 発展したといえども︑物権的請求権が登記に対する侵害にのみ向けられるものではないこともちろんである︒それは. 同時に︑物的責任から価値責任への転化を意昧した︒抵当権にあっては︑目的物の交換価値に対する支配権が問題と. 物権的請求権の態様. されねばならないのである︒. 三. 抵当権に基づく物権的請求権の根拠は明らかとなったのであるが︑この物権的請求権の発現態様を考察するにつき︑ やはり抵当権が非占有担保たり価値権であることは何らかの影響を及ぼすものである︒. 物権的請求権とは︑他人の行為または物によって物権の行使が妨げられ︑もしくは妨げられる危険あるとき︑物権. 三六五. を有する者が特定の相手方に対して︑物権の行使を可能ならしめるために一定の作為・不作為もしくは受忍をなすよ 抵当価値権論 ︵ 柴 原 宏 昭 ︶.
(26) 早稲田法学会 誌 第 四 十 八 巻 ︵ 一 九 九 八 ︶. 三六六. う請求できることを内容とする権利である︒その典型的なものとして︑所有権における物権的請求権には︑妨害予防. 妨害予防請求権. 請求権︑妨害排除請求権︑返還請求権の三種の態様が認められる︒. ω. 抵当権に基づく妨害予防請求権は︑抵当権侵害の発生を予防するための請求権であるから︑抵当権侵害の発生まで. を要求するところのものではなく︑抵当権侵害のおそれありということをもって足りる︒この意昧で︑抵当権侵害の. 発生と物権的請求権の発生はパラレルではないということができる︒当然︑抵当権侵害と同様︑被担保債権の弁済期. 到来︑被担保債権額を下回ることを要件としない︒具体的には︑たとえば抵当山林の不当な伐採・搬出の禁止の請求. としてあらわれる︵大判昭和六・一〇・二一民集一〇巻九一三頁︑大判昭和七・四・二〇新聞三四〇七号一五頁︶︒. ω 妨害排除請求権. 他方︑抵当権に基づく妨害排除請求権は︑すでに抵当権の侵害たる状況が存在することを前提とするものであり︑. その侵害を排除して原状に帰せしむることを内容とする︒この場合も︑もちろん被担保債権との関連性は間題としな. い︒有害登記抹消請求権もまたこれに含ましめて考えることができる︵大判明治四二二二・一〇民録一五輯九三三. 頁︑大判大正四・一二・二三民録二一輯二一七三頁︑大判大正八・一〇・八民録二五輯一八五九頁︑大判昭和一五・. 返還請求権. 五・一四民集一九巻八四〇頁︶︒. ㈹. 目的物の占有を伴わない抵当権に基づく物権的請求権について︑占有の喪失を前提とする返還請求権が最も問題と なる︒. この返還請求権はさらに︑占有を伴う担保権たる留置権︑動産質権にも認められるものではない︒留置権について.
(27) 4︶. は︑占有は留置権の存続要件であるから占有の喪失により留置権は当然に消滅する︵民法三〇二条︶︒ゆえに︑留置 ︵6 権者は占有回収の訴以外に物権たる留置権自体に基づき返還請求権を行使することはできないとされるのである︒動. 産質権については︑動産質権者は目的物の占有を奪われたとき︑占有回収の訴によってのみその返還を請求できると. される︵民法三五三条︶︒つまり︑動産質権自体に基づく返還請求権は認められない︒このことは︑抵当権の場合に ︵65︶. ︵66︶. 影響を及ぼすのであろうか︒それゆえに担保権一般において物権的請求権としての返還請求権は認められないとする. 説も存在するが︑物権的請求権は制限する規定なき場合当然に認められるものとされるから︑抵当権に基づく返還請 求権が︑そのことのみをもって否定されるものではないと考えられる︒. 抵当権に基づく返還請求権は︑たとえば目的不動産の付加一体物の分離・搬出が通常の用法の範囲を逸脱して行な. 7︶. われた場合︑その分離・搬出物を抵当不動産上に返還せよとのかたちであらわれる︒では︑分離物が抵当不動産上よ ︵6 り搬出されることにより︑分離・搬出物に抵当権の効力が及ばなくなるのであれば︑このような抵当権の効力の範囲. 外にある分離・搬出物に対して︑抵当権に基づく物権的請求権が何故に認められることが可能になるのであろうか︒. 物権的請求権は物権の一効力に過ぎず︑分離・搬出によって付加一体物であったものに抵当権の効力が及び得なく ︵68︶. なった場合には︑抵当権に基づく物権的請求権もまた成立する余地なく︑損害賠償請求権や増担保の間題を生ずるに. すぎないとも考えられる︒しかし︑このように解しても︑所有者に対する抵当不動産上への返還請求権の行使は︑分. 離・搬出物に抵当権の効力が及んでいることに由来するものではなく︑抵当不動産に関する物権的請求権の一態様 ︵原状回復請求権︶として構成することも可能である︒. 三六七. なお︑第三取得者が現れるまでは︑分離・搬出物について対抗要件がなくとも︑抵当権の効力はなお及ぶと解する. のであ灘・当然にその分離●搬出物に対する物権的請求権が認められることになうつ・ 抵当価値権論︵柴原宏昭︶.
(28) 早稲田法学 会 誌 第 四 十 八 巻 ︵ 一 九 九 八 ︶. 三六八. もちろん︑分離・搬出物についての返還請求権が認められるとはいえ︑占有を有さない抵当権者への返還請求は認. められず︑目的不動産上への回復が請求できるのみである︒そうであれば︑分離・搬出物の目的物所有者への返還請. 求を︑目的物所有者に対してなすというのはいささか奇妙である︒むしろ︑抵当権の効力の及ぶべき物が効力の枠外. に存在するとの妨害状況を排除するとみて︑抵当権に基づく妨害排除請求権として捉えることが妥当であるかもしれ. ない︒また︑第三者の取得まで抵当権の効力は失われないとする後説であれば︑これは妨害予防請求権であるともい ︵70︶. えよう︒この点︑典型的とされる三種の物権的請求権は相互に独立した権利ではなく︑一つの物権的請求権の相互に ︵71︶. 移行しうる異なった現象形態にすぎないのであるから︑あえて抵当権に基づく物権的請求権をそれら三種に対応させ. るまでもないと考えられる︒ここに︑抵当権に基づく物権的請求権の特殊性をみることができるのである︒. 大判昭和六・一〇・二一︵民集一〇巻九一三頁︶﹁債務者力滅失殿損等事実上ノ行為ヲ以テ抵当物二対スル侵害ヲ敢行スル場合二於テハ其. ノ侵害行為力抵当権者ノ有スル債権ノ弁済期後ナルト或ハ抵当権ノ実行二著手シタル後ナルト否トヲ問ハス抵当権者ハ物権タル抵当権ノ効力. ︵59V. 佐賀徹哉﹁ 物 権 的 請 求 権 ﹂ 民 法 講 座 π 一 八 頁 ︒. 中島玉吉・前掲︵注39︶一〇四一頁︒. トシテ之力妨害ノ排除ヲ請求シ得ヘキハ当然ナリ﹂︒. 我妻栄. ︵60︶. ︵1 6︶. 田島順・前掲︵注27︶九頁︒. 田中整爾・注釈民法︵7︶八一頁︒. 田島順﹁抵当権者の妨害排除請求﹂法学論叢一三号六五一︒. 有泉亨・新訂物権法二二頁︒. ︵2 6︶ ︵63︶. ︵65︶. ︵64︶. 有川哲夫・民法︵2︶物権︹第三版︺︵有斐閣双書︶一八頁︒ 井健・前掲︵注28︶五二頁︒. ︵66︶. 柚木馨.前掲︵注47︶四四頁︒. 川. 我妻栄・前掲︵注1︶二六八頁︑星野英一・前掲︵注48︶二五七頁︒しかし︑独立して動産となった分離物が搬出された場合︑当該分離・. ︵67︶. ︵69︶. ︵68︶.
(29) することは︑独立した動産について抵当権を認めることになり︑民法三六九条の趣旨に反することになる︒. 搬出物自体に抵当権の追及効を認めることは果たして妥当であろうか︒少なくとも抵当権の実行として︑その分離・搬出物のみの競売を開始. 清水誠・ 判 例 コ ン メ ン タ ー ル 担 保 物 権 三 三 四 頁 ︒. ︵70︶ 好美清光・注釈民法︵6︶八三頁︒. 第五章抵当権と占有排除 対抗権原なき占有者の排除. ︵71︶. 一. 抵当不動産の占有は常に抵当権侵害たり得ないことから︵もちろん当該占有者が目的不動産を破壊・殿損するおそ. れあるときは別である︶︑抵当権侵害またはそのおそれを要件とする物権的請求権の行使を認めることもできず︑実. 体法に基づき占有者を排除することは不可能である︒それゆえに悪質な占有者︵裸の占有は刑事罰の対象となるから. むしろ少なく︑何らかの権原を備えることが多い︶の排除もまた手続法に一歩退却した議論をせざるを得なくなる︒. ﹁民事執行法の一部を改正する法律﹂︵平成八年法律第一〇八号︶により︑民事執行法が執行妨害対策として定め. る差押債権者︵抵当権者︶の申立てによる売却のための保全処分︵民執法五五条︶︑最高価買受申出人または買受人. のための保全処分︵民執法七七条︶︑代金納付後の買受人の申立てによる引渡命令︵民執法八三条︶が改正され︑不. 動産競売の開始決定前の保全処分︵民執法一八七条の二︶が新設されるのであるが︑この民事執行法改正前において. も平成三年判決︵最判平成三・三・二二民集四五巻三号二六八頁︶以来︑下級審においては民事執行法の規定により. 占有による執行妨害に対処してきたところである︒平成三年判決は民事執行法八三条により不法占拠者の排除が予定. されていることも補助的な理由として掲げるのであるが︑この引渡命令によるときは買受人が自らのリスクで抵当不. 三六九. 動産の引渡しを受けるしかない︒そこで︑下級審においては︑買受人の現れる以前︑抵当権者自身の行使が可能な売 抵当価値権論︵柴原宏昭︶.
(30) 早稲田法学会誌第四十八巻︵一九九八︶. 却のための保全処分︵民執法五五条︶が活用されてきたのである︒. 三七〇. この際︑旧法下においても解釈上の努力がなされ︑保全処分の相手方たる債務者︵または所有者︶の範囲を拡張し︑. それ以外の占有者を占有補助者として相手方たらしめるとともに︵東京高決平成四・︼二・二八判時一四四五号︼五. 〇頁︑東京地決平成四・五・二九判時一四三二号一〇五頁︶︑一定の場合には保全処分命令前にも執行官保管命令. ︵二項︶を認めるのが解釈︑運用の実際とされてきた︵東京地決平成四・一〇・二二判時一四三六号六七頁︶︒保全. 処分の相手方を債務者︵または所有者︶のほかに不動産の占有者にまで拡大し︵︼項︶︑特別の事情あるときは直ち. 2︶. に執行官保管命令を発することができるとする︵二項︶民事執行法新五五条は︑これら従前の学説や判例において説 ︵7 かれてきたところを法文化したものということができる︒しかしながら︑売却のための保全処分は差押え時における. 不動産の交換価値を売却完結まで維持する制度であるから︑差押えの効力発生前からの占有について﹁価値減少行. 為﹂があったとはいうことはできない︒ここでは︑差押え後の最低売却価格の決定︑賃貸借の公告等に明確な関係を. 民事執行法適用の際の問題点. 築くことの要請が働くものと考えられる︒なお︑不動産担保権者に限っては︑民事執行法一八七条の二の新設により︑ ︵73︶ とくに必要な場合において︑この売却のための保全処分が差押え前にも認められことになる︒. 二. 抵当権に対抗できない占有が存在しても︑それは抵当権侵害と認められることはない︒非占有担保たる抵当権にお. いては︑目的物の占有が誰によりなされようと︑その行為主体は問題となり得ないのであり︑占有による減価が認め. られるにしても︑目的不動産の占有は通常の用法の範囲内の行為であり︑そもそも抵当権者の把握する価値の枠外で. の減価であった︒占有による抵当権侵害は常に認められないのである︒いかなる占有も通常の用法の範囲内の行為.
(31) ︵行為主体は間題とならず︶であるがゆえに︑抵当権侵害となるものでない︒ために︑物権的請求権不発のため︑当. 面は民事執行法の規定する手続の活用が期待叡解上述のように下級審においてもこれが当然に活用されてきたので ある︒. しかし︑差押えは債務者︵または所有者︶が通常の用法に従って不動産を使用・収益することを妨げるものではな. く︵民執法四六条二項︶︑差押え後においても占有は通常の用法の範囲内の行為であるとして認容されるはずである︒. このことは当然︑新設された競売開始決定前の保全処分︵民執法一八七条の二︶の適用に関しても問題となる︒競売. 開始決定前の債務者︵または所有者︶が差押え後に比較して︑不利に扱われる理由はないからである︒. 占有減価は抵当権者の把握する価値の枠外︑つまり通常の用法の範囲内の行為であるとして︑抵当権侵害の認定が. 否定されるのであるが︑抵当権実行前と同様に通常の用法に従う利用が認容されるはずの差押え後において︑何故に その占有を排除することが可能なのであろうか︒. 民事執行法四六条二項は差押えの効力の内容について︑差押えが債務者︵または所有者︶の通常の用法に従ってす. る使用収益に影響を及ぼすものではないと規定する︒すなわち︑差押えがなされたといえども︑債務者︵または所有. 者︶のする通常の用法の範囲内の利用によって︑債権者が差押えにより把握した不動産の交換価値が低減しようとも︑. 債権者はこれを甘受せねばならない︒そして︑その使用収益権と差押債権者の利益との調整を図るために︑価値を著. しく減少させる行為またはそのおそれのある行為がなされる場合に︑差押債権者保護のために売却のための保全処分 が認められるのである︵民執法五五条︶︒. 民事執行法五五条が創設されるにあたって参考とされたドイツ強制競売強制管理法二五条との差異として︑民事執. 三七一. 行法五五条の要件としての﹁価値の著しい減少﹂は﹁通常の用法﹂に従ったものであると否とを間わないことが指摘 抵当価値権論︵柴原宏昭︶.
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