博 士 ( 歯 学 ) 行 木 隼 人
学 位 論 文 題 名
中学生、高校生における顎機能異常の有無が 咀嚼機能の主観的評価に及ぼす影響について
(Effect of temporomandibular disorders on subjective masticatory function in junior and senior high school students)
学位論文内容の要旨
【目的1
本研究は,1.近年における中学生・高校生における顎機能異常の発生頻度,2.´
中学生・高校生の咀嚼能カに,顎機能異常の有無,咬合感圧紙を用いて測定した咬 合圧 ・咬合力・ 咬合接触 面積,ま た現在歯 数やDMF歯数などの因子がどの程度関 連しているかを評価することを目的とした. ´
【対象と方法】
札幌市に ある中学 校2校の全 校生徒620名 (男子310名 ,女子310名 )および,
高 校2校か ら無作為 に抽出し た生徒761名 (男子372名 ,女子389名 )の計1,381 名(男子682名,女子699名)を調査対象とした,
自記式質問調査におぃて食品摂取能カに関する調査と顎機能異常に関する調査を 行った.また,質問紙調査の結果を知らされていない4名の歯科医師が,視診型検 診で対象者の口腔内診査および顎機能の臨床診査を行った,さらに,咬合感圧紙を 用いて咬合力・咬合圧・咬合接触面積を測定した,
摂取可能食品に関する質問調査を材料に,平井らの方法に準拠して咀嚼能カの高 い者と低い者とに分類した,そして,咀嚼能カの高い者と低い者との間で年齢,性 別,顎機能異常にっいての質問調査および臨床診査の結果,口腔内診査結果(現在 歯数,DMF歯数),咬合機能(咬合接触面積・咬合力・咬合圧)にっいて単変量解 析を 行った.さ らに,各 因子のう ちオッズ 比の計算 結果で有意水準(p)が0.10以 下となった因子を有意傾向のあるものとして抽出した,その抽出した因子をロジス ティック回帰分析法に投入し,摂食能カと各因子との関連の強さを検討した,有意 水準は5%とした,咬合感圧紙を用いて得られた咬合接触面積,咬合圧,咬合カに おける平均値の差の検定にはt検定を,また,各学年の男女間における咀嚼能カの 低い者の割合の差の検定にはズ2検定を用いた,
【結果】
調査対象者のうち,矯正治療中の者,自記式質問紙,臨床診査において不備があ るものは除外した,その結果,分析対象者数は,男子648名,女子663名,計1,311 名となった,
咀嚼 スコアが100ポ イントより少ない者を咀嚼能カが低い者(531名,分析対象
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者 の40.5% ), そ れ 以外 の 者 (咀 嚼 ス コアが100ポ イン卜の 者)を 咀嚼能カ が高い者 (780名,分析対象者の59.5%)とした,中学2年生(pく0.05),高校2年生(pく0.01),
高 校3年 生 (pく0.05) に お いて , 女 子の 方 が 男子 よ り も咀 嚼 能 カ の低い者 の占める 割合が有意に高かった.(ズ゜検定)
自 記 式 質 問 紙 調 査 に よ る 顎 機 能 異 常 の 自 覚症 状 で は各 学 年 とも 関 節 雑音 の 症 状 が あ る者 の 割 合 が多 く , 全体 の13.6% の者 に 認 めら れ た ,ま た , 他覚症 状では, 各 学 年 と も ク リ ッ ク 音の 症 状 があ る 者 の 割合 が 最 も多 く 全 体の9% に認 め ら れた . 学 年 が 上が る と と もに , 顎 関節 部 圧 痛, 顎 運 動痛 , 開 口制 限 な どの 症 状を持つ 者が出 現した.
咬合 接 触 面 積お よ び 咬合 カ は 中学3年 生までは 増加傾 向にあっ た.こ れに対し て,
平 均 咬合 圧 は ど の学 年 も ほば 一 定 であ り , 年齢 ( 学 年進 行 ) との 間 に一定の 傾向は 認 め ら れ な っ た , 男女 差 に つい て み る と, 中 学3年 生 以 降に お い ては 男 子 の方 が 咬 合 接 触面 積 , 咬合カに おいて, 女子と 比較して 有音に 商かった (t検 定,pく0.01),
咀嚼 能 カ と 有意 に 関 連し て い た項 目 は ,性 別 ( 女性 ,OR‑ 1.76), 自覚症状 (顎 関 節 の疲 労 感 ,OR‑ 2.48;関 節 痛 ,OR= 2.07), 他 覚 症状 ( ク リッ ク音,OR= 1.84) の3項目 (pく0.01) ,及び顎 機能の その他の 症状( 顎圧痛, 筋症状 ,顎運動 痛,開口 制 限 の い ず れ か が あ る ,OR=3.58,pく0.05) で あ った , ま たDMF歯数 を8本 以上 有 し て いる 者 (OR=1.25) に10% 以 下の 水 準 で有 意 傾 向が 認 め ら れた .単変量 解析で 関 連 が認 め ら れ ,抽 出 し た因 子 に つい て ロ ジス テ ィ ック 回 帰 分析 に よる多変 量回帰 分 析 を行 っ た , 咀嚼 能 カ の低 い 者 と統 計 的 に正 の 関 連が 有 意 に認 め られた項 目は,
自覚症状(顎関節部の疲労感,OR〓1.71,p ̄0.048)および性別(OR=1.75,pく0.001) であった.
【考察】。
本 研 究 の 対 象 集 団 はDMF歯 数 が 中 学1年 の3.43本 か ら 学 年 が 上 が る と と も に 増 加 し , 高 校3年 で7.98本 で あ り ,1999年 の 歯 科疾 患 実 態調 査 に おけ る 一 人平 均DMF 歯 数12歳2.44本 ,13歳3.68本 ,14歳5.22本 ,15―19歳7.15本 と ほ ぼ 一 致 し た 結 果 ヌ あっ た こ と から , 本 研究 に お ける 集 団 の口 腔 内 状態 は 一 般的 な 集団と同 様であ ると考えてよいと思われる.
ロジ ス テ ィ ツク 回 帰 分析 の 結 果, 顎 機能 異常に 関する4つの自 覚症状 (関節雑 音,
顎 関 節部 の 疲 労感,顎 関節痛, 開口制 限)のう ち, 顎関節部 の疲労 感 が咀 嚼能カ と 有 意な 関 連 を 示し た . 筋症 状 は より 重 篤 な症 状 に 発展 す る とい う 報告があ る,従 っ て , 顎 関 節部の疲 労感 と いう筋 症状と咀 嚼能カ との間に 有意な 関連が認 められ た 事 を考 慮 す る と顎 機 能 の症 状 が 重症 化 し なぃ う ち に中 学 生 ,高 校 生になん らかの 予 防 処置 を 施 す 必要 性 が 示唆 さ れ た, ま た ,本 研 究 では 咀 嚼 能カ と 関節雑 音 と
の間に関連は認められなかった, 関節雑音 は 顎関節部の疲労感 顎関節痛 ,
開 口制 限 と 比較 し て 症状 は 軽 度で あ り ,可 逆 的 な症 状 で あり , しかもそ の環境 に 自 然に 適 応 す ると い う 報告 が あ る. 特 に ,顎 機 能 異常 を 発 症し 始 める思春 期の年 代 で はそ の 傾 向 が強 い . その た め ,関 節 雑 音の 項 目 は咀 嚼 能 カに 関 連する因 子とは ならなかったと考えられる,
咬合 感 圧 紙 を用 い て 測定 し た 咬合 圧 ・ 咬合 力 ・ 咬合 接 触 面積 と 咀嚼 能カの関 連は 認 め られ な か っ た, 咀 嚼 運動 そ の もの が 動 的要 素 を 含む こ と を考 慮 すると, 咬合の 静 的 状態 を 評 価 する 咬 合 感圧 紙 の みで 咀 嚼 能カ と の 関連 を 評 価す る ことは咀 嚼運動 の動的要素を評価していなぃため不十分であるかもしれない.
本研 究 で は 性差 と 咀 嚼能 カ と の間 で 関 連を 認 め たが , そ の原 因 は明 らかでな い,
し か し な が ら , 咬 合 圧 に 性 差 は み ら れ な ぃ が ,中 学3年生 か ら 高校3年 生に か け て 咬 合 接触 面 積 ・ 咬合 カ に は性 差 が みら れ た ,こ の 咀 嚼能 カ の 差が , 多変量解 析にお
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いては性差の結果として現れたとも考えられる,
咀嚼能カにかかわる因子は,本研究において取り入れた顎機能異常,性差のほか,
crowding,overbite,overetなどの不正咬合や心理的因子があげられる,本研究にお いて不正咬合は診査基準が診査者間で一致していなかったため,因子の中には入れ なかった,しかしながら,不正咬合は咀嚼機能に関連する因子となりうることを考 慮した場合,何らかの客観性を持たせた不正咬合の診査を取り入れるべきであった と考えられる・
【結諭】
中学生,高校生における顎機能異常(筋症状)の有無が咀嚼能カに影響している 可能性が示され,この年代における咀嚼能カの低下を防ぐために顎機能異常の重症 化を予防する重要性が示唆された.
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学位論文審査の要旨 主査 教 授 森田 学 副査 教授 飯田順一郎 副査 教授 井上農夫男
学 位 論 文 題 名
中学生、高校生における顎機能異常の有無が 咀嚼機能の主観的評価に及ぼす影響について
(Effect of temporomandibular disorders on subjective masticatory function in junior and senior high school students)
審 査 は ,3名 の 審 査 員 が 一 同 介 し て 行 っ た . 試 験 は 口 頭 試 問 の 形 式 で , 学 位 申 請論 文 の 内 容 と そ れ に 関 連 し た 学 科 目 に つ い て 行 わ れ た . 以下 に 提 出論 文 の 要 旨と 審 査 の ´
内 容 を 述 べ る .
咀 嚼 能 カ と 顎 機 能 異 常 と の 関 連 に つ い て の 疫 学 的 研 究 は , こ れ まで に 多 数報 告 さ れ て い る が , 顎 機 能 異 常 お よ び , 顎 機 能 異 常 以 外 の 因 子 ( う 蝕 や 咬 合 力) を 同 時に 考 慮 し て , 咀 嚼 能 カ と の 関 連 を 調 査 し た 報 告 は な い , 本 研 究 は 近 年 の 中 学生 ・ 高 校生 に お け る 顎 機 能 異 常 の 発 症 頻 度 を 調 査 す る と と も に , 中 学 生 ・ 高 校 生 の 咀嚼 能 カ に顎 機 能 異 常 の 有 無 , 咬 合 感 圧 紙 を 用 い て 測 定 し た 咬 合 圧 ・ 咬 合 力 ・ 咬 合 接 触面 積 , また 現 在 歯 数 やDMF歯 数 な ど の 因 子 が ど の 程 度 関 連 し て い る か 評 価 す る こ と を 目 的 と し た . 札 幌 市 内 の2っ の 中 学 校 と2つ の 高 校 に 在 籍 す る 全 校 生 徒1,380名 を 対 象 と し た . 調 査 の 内 容 は , @ 自 記 式 質 問 調 査 法 に よ る 食 品 の 摂 食 可 能 の 程 度 , 自覚 的 な 顎機 能 異 常 の 有 無 , ◎ 口 腔 内 診 査 ( 現 在 歯 数 とDMF歯 数 ) , ◎ 臨 床 的 な 顎 機 能 異 常 の 有 無 , 及 び @ 咬 合 感 圧 紙 を 用 い て の 咬 合 機 能 ( 咬 合 力 ・ 咬 合 圧 ・ 咬 合 接 触 面 積) の 測 定で あ っ た . 自 記 式 質 問 紙 調 査 よ り 対 象 者 を 摂 食 に 不 自 由 の な い 者 ( 咀 嚼 能 カの 高 い 者) と 不 自 由 を 感 じ て い る 者 ( 咀 嚼 能 カ の 低 い 者 ) と に 分 類 し て ,2群 の 問 で 年 齢 , 性 別 , 現 在 歯 数 ,DMFT, 顎 機 能 異 常 の 自 覚 的 症 状 と 他 覚 的 症 状 , 及 び 咬 合 機 能 を 比 較 し た . 最 終 的 に 全 て の デ ー タ の 整 っ た 男 子648名 , 女 子663名 , 計1,311名 を 分 析 対 象 と し た . そ の 結 果 ,1)21品 目 の 食 品 全 て 摂 食 可 能 と 答 え た 者 は780名 ( 咀 嚼 能 カ の 高 い 者 : 分 析 対 象 者 の59.5% ) ,1つ で も 摂 食 が 困 難 で あ る と 答 え た 者 は531名 ( 咀 嚼
能カ の低 い者: 分析 対象 者の
40.5%) であ った .2 ) 中学
2年 生, 高校2 年生 ,高校
3年生 にお いて ,咀 嚼能カの低い者の占める割合は女子の方が男子と比べて有意に高 かっ た.
3)顎 機能 異常について最も多く認められた症状は,自覚症状では関節雑音 であった。また歯科医が判定した結果では,各学年ともクリック音の症状がある者の 割合 が最 も多く ,全 体の9 %の者に認められた.次に高頻度に認められた症状は顎偏 位(3.3 % )であ った .4 )単変量解析の結果,自覚症状( 顎関節部の疲労感 及び 関節痛 ),性別(女性),クリック音の4 項目において咀嚼能カとの間で有意な関 連(
pく0.01 ) が, 顎機能のその他の症状(顎関節部の圧痛,咀嚼筋の圧痛,顎運動 痛, 開口 制限の いず れか があ る) にお いて 有意 な関連(p く0.05) が認められた.ロ ジスティック回帰分析の結果,自覚症状( 顎関節部の疲労感 ,p 二ニ0.048 ),女性
Qく0.001) の項目で有意な関連が認められた.