博 士 ( 工 学 ) 藤 原 英 樹
学 位 論 文 題 名
微小球共振器による発光過程の制御と 光プローブ顕微鏡への応用に関する研究
学位論文内容の要旨
現代 の情 報化社会の到来に伴う光デバイスのめざましい進 歩は、半導体レーザー や光フんイ′ ヾ等の光材料作製技術や微細加工技術の向上のみならず、微小領域にお け る光 計測 手法の進展にも依るところが大きい。特に近年、 非伝搬光成分であるエ バ ネッ セン ト場を利用した近接場走査光学顕微鏡が開発され 、ナノメートル空間領 域 にお いて 表面形状と分光学的な物性情報を同時に得ること が可能な技術として注 目 を浴 びて いる。しかしながら、光フんイバの先端を尖らせ 金属でコートした従来 の プ口 ーブ では、波長より細くなったフんイバの先端部を通 る際にレーザー光が急 激 に減 衰す るので、光が試料まで到達する効率が10‑4 から10'6 と極めて低いとぃう 問 題が ある 。また、金属コートの熱的な損傷を避けるために 入射レーザーパワーが 制 限さ れ、 プロ ーブ 先端 で はnW オー ダー の光 強度 しか 得ら れず 、十分な精度で螢 光 や吸 収を 測定することが困難である。そのため、ごく限ら れた試料にしか応用さ れていないの が現実である。
本論 文で は、マイクロメートルオーダーの微小球に特有な 「光共振現象」を利用 し た近 接場 レーザープローブ顕微鏡を提案する。マイクロメ ートルサイズの球形微 粒 子の 中で 色素をポンプして光らせると、微粒子の表面に浅 い角度で入射した発光 は 全反 射し 、再び同じ角度で界面に入射するので全反射が繰 り返され、微小球の縁 に 沿っ て伝 搬する。一周して位相が揃う波長の光は共振して 場が増強し、誘導放出 を 誘起 して レー ザー 発振 に 至る 。微 小球 共振 器の Q 値 は 108 にも 達する。レーザー 発 振微 小球 の表 面近 傍に は 全反 射に よる エバ ネッ セン ト場 が生 成するので、ナノ メ ート ル微 粒子を接着すると場を散乱し光局在場が発生する 。この微小球を光の放 射 圧を 利用 したレーザー操作技術によって非接触に走査しナ ノ光源として用いるの がレーザー発 振微小球プローブである。本プローブは、(1 )光ファイバ等の導波路を 介さないので 高強度の光局在場が得られる、(2 )微小球レーザー発振の非線形性によ ルフォトント ンネリングの高感度な検出が可能、(3 )微小球共振器レーザーはピコ秒 パ ルス 光の 発生が可能であり高速時間分解分光ヘ応用可能、 といった特徴がある。
本 研究 では 、レーザー発振微小球プローブの提案とともに基 礎的技術を開発するた めの指針につ いて検討を行った。
本論文は以 下の7 章から構成される。
第 1 章 で は 、序 論と して 本研 究の 背景 と目 的そ して 本論 文の 構 成に つい て述 ぺ る。
第2 章 では 、微 小球 の光 共鳴 現象 について波動光学的・幾 何光学的な取り扱いに つ いて 述べ 、共振器量子電気力学効果による色素分子の自然 放出過程の制御に関す
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る理論を概説するとともに、希土類イオンのアップコンバージョン機構について述 べる。また、近接場顕微鏡用のレーザー発振微小球プローブを提案し、その原理と 特徴について述ぺる。
第3 章では、レーザー発振微小球プ口ーブの基礎的実験としてレーザー発振微小 球のフォトントンネリング特性を解析した。微小球とガラス基板の距離をレーザー マニピュレーションにより制御しながら発振スベクトルを測定した結果、工バネッ セント場の強度分布に対応した発振ピークの強度変化が現れた。この現象はMie 散 乱理論を用いて説明することができ、光局在場を介したフォトントンネリングが起 こっていることを実証できた。また、ナノメートルサイズの金属微粒子を微小球に 接着することによって、工バネッセント場が選択的に散乱される様子を観測し、近 接場顕微鏡プローブとしての有効性を示した。
第4 章では、微小球レーザーの長時間安定性、ポンブ光と発振光の波長域の分離 を 目的として、希土類イオン含有ガラス微小球を作製し、アップコンバージョン レーザー発振を試みた結果について述べる。近赤外光を用いた3 光子励起により 480nm 及び800 nm の両波長において初めて微小球アップコンバージョンレーザー発 振 に成 功し 、. 10 時 間程度の連続動作後も安定に動作することを確認した。
第5 章では、色素溶液中に分散した微小球におけるレーザー発振現象の観測につ いて述べる。従来レーザー色素として用いられてきた有機色素分子では励起光照射 による退色によってレーザー発振光強度が減少し、最終的には発振が停止するとい う問題がある。そこで、有機色素分子を含有した溶液中に非発光性のガラス微小球 を分散しても微小球周辺のエバネッセント場領域が利得媒質となってレーザー発振 が誘起できることを実験的に示した。溶液中での色素分子の拡散により退色の速度 は 色 素 分 子 含 有 微 小 球 に 比 べ て 大 幅 に 遅 く な る こ と を 確 認 し た 。 第6 章では、光デバイスの低しきい値化、省電力化を実現する上で注目を集めて いる共振器量子電気力学効果をマイクロメートルサイズの高分子微小球において実 験した結果について述べる。ピレン分子を含有した高分子微小球においてピレン分 子の螢光ダイナミクスを測定し、自然放出過程が増強される様子を初めて観測する ことに成功した。実験から求めた増強因子が粒径2.4 pm で約17 倍にも達することを 明らかにし、共振器量子電気力学の理論との整合性を示した。また、2 分子間の双 極子一双極子相互作用によるエネルギー移動の効率も共振器量子電気力学効果によ り増加することを実験的に明らかにした。
第7 章では、本研究における成果を総括するとともに今後の課題・展望について 述べる。
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学位論文審査の要旨 主査 教授
副査 教授 副査 教授 副査 教授
笹 木 敬司 三 島 瑛人 小 柴 正則 末 宗 幾夫
学 位 論 文 題 名
微小球共振器による発光過程の制御と 光プローブ顕微鏡への応用に関する研究
現代の情報化 社会の到来に伴う光 デバイスのめざま しい進歩は、半導 体レーザーや光ファイバ等の光 材料作製技術や 微細加工技術の向上 のみならず、微小 領域における光計 測手法の進展にも依るところが 大きい。特に近 年、非伝搬光成分で あるエバネッセント場を利用した近接場走査光学顕微鏡が開発され、
ナノメートル空 間領域において表面 形状と分光学的な 物性情報を同時に 得ることが可能な技術として注 目を浴びている 。しかしながら、光 フんイパの先端を 尖らせ金属でコー トした従来のプローブでは、波 長より細くなっ たファイバの先端部 を通る際にレーザ ー光が急激に減衰 するので、光が試料まで到達す る効率がl04からl06と極めて低いと ぃう問題がある。 また、金属コート の熱的な損傷を避けるために入 射レ ーザ ー パワ ーが 制 限さ れ、 プ ロー ブ先 端 ではnWオ ー ダー の光 強度しか 得られず、十分な 精度で 螢光や吸収を測 定することが困難で ある。そのため、 ごく限られた試料 にしか応用されていないのが現 実である。
本論文では、 マイクロメートルオ ーダーの微小球に 特有な「光共振現 象」を利用した近接場レーザー プローブ顕微鏡 を提案している。マ イクロメートルサ イズの球形微粒子 の中で色素をポンプして光らせ ると、微粒子の 表面に浅い角度で入 射した発光は全反 射し、再び同じ角 度で界面に入射するので全反射 が繰り返され、 微小球の縁に沿って 伝搬する。一周し て位相が揃う波長 の光は共振して場が増強し、誘 導放 出を 誘 起し てレ ー ザ一発振に至る 。微小球共振器のQ値は10sにも達する 。レーザ一発振微 小球の 表面近傍には全 反射によるエバネッ セント場が生成す るので、ナノメー トル微粒子を接着すると場を散 乱し光局在場が 発生する。この微小 球を光の放射圧を 利用したレーザー 操作技術によって非接触に走査 しナノ光源 として用いるのがレ ーザ一発振微小球 プローブである。 本プローブは、(1)光フんイ バ等の 導波路を介さな いので高強度の光局 在場が得られる、 (2)微小球レーザー発振の非線形性によルフォト ントンネリング の高感度な検出が可 能、(3)微小球共振器レーザーはピコ秒パルス光の発生が可能であ り高速時間分解 分光ヘ応用可能、と いう特徴がある。 本研究では、レー ザ一発振微小球プローブの提案 とともに基礎的 技術を開発するため の指針について検 討を行っている。
以下に本論文 の構成を示す。
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第1章 で は 、 序 論 と し て 本 研 究 の 背 景 と 目 的 そ し て 本 論 文 の 構 成 に つ い て 述 べ て い る 。 第2章では、微小球 の光共鳴現象につ いて波動光学的・幾 何光学的な取り扱 いについて述ペ、 共振器 量子電気力 学効果による色素分 子の自然放出過程 の制御に関する理 論を概説するとともに、希土類イオ ンのアップ コンバージョン機構 について述べている。また、近接場顕微鏡用のレ―ザー発振微小球プロー ブを提案し 、その原理と特徴に ついて述べている 。
第3章では、レーザ ー発振微小球プロ ーブの基礎的実験としてフォトントンネリング特性の解析を行っ ている。微 小球とガラス基板の 距離をレーザーマ ニピュレーション により制御しながら発振スペクトル を測定した 結果、エバネッセン ト場の強度分布に 対応した発振ピー クの強度変化が現れることを示して いる。この 現象はMie散乱理論を用いて 説明することができ 、光局在場を介し たフォトントンネ リング が起こって いることを実証でき ている。また、ナ ノメートルサイズ の金属微粒子を微小球に接着するこ とによって 、工バネッセント場 が選択的に散乱さ れる様子を観測し 、近接場顕微鏡プローブとしての有 効性を示し ている。
第4章では、微小球 レーザーの長時間 安定性、ポンプ光と 発振光の波長域の 分離を目的として 、希土 類イオン含 有ガラス微小球を作 製し、アップコン バージョンレーザ ー発振を試みた結果について述べて い る 。 近 赤 外 光 を 用 い た3光 子 励 起に よ り480nm及 び800nmの 両 波長 にお い て初 めて 微 小球 アッ プ コンバージ ョンレーザー発振に 成功し、10時間程度の連続動作後も安定に動作することを確認している。
第5章では、微小球 に添加した有機レ ーザー色素の光退色 によって発振光強 度が時間とともに 減少す る問題を解 決するために、有機 色素分子を含有し た溶液中に非発光 性の微小球を分散しても球周辺のエ パネッセン ト場領域が利得媒質 となってレーザー 発振現象が誘起で きることを実験的に示している。溶 液 中の 分子 拡 散に より退色速 度は色素分子含有 微小球に比べて大幅 に遅くなることを 確認している。
第6章では、レーザ ーの低しきい値化 を実現する上で注目 を集めている共振 器量子電気力学効 果をマ イクロメー トルサイズの高分子 微小球において実 験した結果につい て述べている。ピレン分子を含有し た高分子微 小球においてピレン 分子の螢光ダイナ ミクスを測定し、 自然放出過程が増強される様子を初 めて観測す ることに成功すると ともに、共振器量 子電気力学の理論 との整合性を示して いる。また、2 分子間の双 極子一双極子相互作 用によるエネルギ ー移動の効率も共 振器量子電気力学効果により増加す ることを実 験的に明らかにして いる。
第7章 で は 、 本 研 究 に お け る 成 果 を 総 括 し 、 今 後 の 課 題 ・ 展 望 に つ い て 述 べ て い る 。
これ を要するに、著者は 、微小球内の光の 特異な振る舞いを 利用して自然放出やエネルギー移動ダイ ナミク スを制御するととも に、ナノメートル空間おける光物理現象を高感度、高精度に計測するレーザー 発振微 小球プローブ顕微鏡 への応用に関する 有益な知見を得た ものであり、光工レクトロニクスの分野 に貢献 するところ大なるも のがある。
よ っ て 著 者 は 、 北 海 道 大 学 博 士 ( 工 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。