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アルツハイマー病病因因子

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Academic year: 2021

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博 士 ( 生 命 科 学 ) 松 島 隆 英

学 位 論 文 題 名

アルツハイマー病病因因子APP のりン酸化の機能解析 学位論文内容の要旨

く要旨>

   アミ ロイ ド前駆体タンパク質くAPP) はI 型膜タンパク質であり、膜近傍の細胞 外で 一次切断を受けた 後、さらに膜内でy‑secretase によって二次切断を受け、アルツハイ マ ー病 の発 症に関わるAp を産生する。APP の代謝と機能の制御についての解析は 数多 く なさ れて きたが、詳細な分子機構は未解明の点が 多い。当研究室ではAPP の機 能又 は 代謝 を制 御し うる 翻訳 後修 飾と し て、 APP 細胞 質ド メイ ンの Thr668 のりン酸 化を 報告してきた。Thr668 を含む 667‑VTPEER‑612 配歹IJ はN‑terminal helix capping box structure を形成しており、リン酸化を受ける ことでAPP 細胞質ドメイン全体の二次構 造が変化する。こ のためThr668 のりン酸化は構造変換の分子スイッチとして機能して いると考えられる 。

   当研 究室 では 、こ れま で神 経特 異 的にAPP Thr668 がゴルジ体以降の後期分泌 経路 でりン酸化を受け ること、PC12 細胞の分化時に神経突起の伸長に関わること、神経特 異的なアダプター タンパク質FE65 との結合を制御すること、細胞の高浸透圧ストレス 刺 激で りン 酸化 が亢 進す るな どを 報 告してきた。しかし、現在までにAPP Thr668 を Ala668 に置換した 変異マウスでは顕著な表現型は確認されず、in vivo での機能は明確 ではない。

   一般的に、タン パク質のりン酸化の機能解析には荷電状態を模したアミノ酸置換変異 体 が用 いら れる 。し かし 、Thr668 の 場合、 Asp 、Glu といった酸性アミノ酸への 置換 で は、 APP 細 胞質 ドメ イン のThr668 のり ン酸 化状 態を 完全 には 模倣できないこ とが 構 造解 析か ら明らかになった。そこで本論文ではAPP のりン酸化の機能を解明す るた め に、 1 )マ ウス の脳 内で APP およ び その代謝産物のりン酸化状態を正確に分析 し、

リ ン酸 化が 機能しうるAPP 代謝過程を解明した。次に、2 ) in vitro, in vivo の 解析 から、新たなAPP リン酸化の機能の解明を行っ た。

   マウス脳の APP は、 リン酸化レベルが全APP の10 %以下と低い。そこで、まだ明らか にされてぃないAPP の 1 回目の切断により生成する 膜貫通部位を含むC 末領域であるAPP CTF のり ン酸 化 レベ ルを 解析 した 。マ ウス 脳組 織抽 出液 をThr668 リン酸化特異抗体 (Anti‑p 气PP )を用い たWbsternblot 法で解析した 結果、APPCTF は 50 %の高率でりン酸 化されていることを明らかにした。そこで、私はマウス脳内でのりン酸化CTF (pCTF )と非 リン酸化CTF (nCTF )のY ‐secretase による膜内切断に注目した。マウス脳組織膜画分を調 製し、インキュベーションを行うことで、Y ーsecreta8e によるpCTF とnCTF の切断を時間 を追って比較・解析した。その結果、マウス脳組 織にはnCTF とpCTF がほば同等量存在

―1199―

(2)

し て お り 、 か っy‑secretaseの 基 質 と し て 両 者 は 等 価 で あ る に も 関 わ ら ず 、 脳 内 で はpCTF の'y'secretase切 断 産 物pAICDがnMCDの 生 成 に 比 較 し て 、 著 し く 少 な ぃ 事 を 見 い だ し た 。 こ れ は 、pCTFがnCTFと 比 較 し て 、Y‐8ecreta8eに よ る 切 断 を 受 け に く い 膜 領 域 に 存 在 し て い る 可 能 性 を 示 唆 し て い る 。

  さ ら に 、 こ の 仮 説 を 実 証 し 分 子 機 構 を 解 明 す る た め に 、 私 は 活 性 化 型Y.8ecretaseに 富 む 膜 微 小 領 域 ( ラ フ ト ) の 生 化 学 的 単 離 を 試 み た 。 マ ウ ス 脳 組 織 の 膜 画 分 を1%CHAPSOで 処 理 し 、Sucrose密 度 勾 配 遠 心 法 に よ り 調 製 し た 低 密 度 不 溶 性 画 分 を 活 性 型Y・secretaseに 富 む 膜 微 小 領 域 ( ラ フ ト ) と し て 単 離 し た 。 単 離 し た 膜 微 小 領 域 ( ラ フ ト ) のCTFリ ン 酸 化 状 態 を 調 べ た と こ ろ 、nCTFが 多 く 、CTFの り ン 酸 化 状 態 は 、 非 ラ フ ト 分 画 に 比 較 し て 低 い こ と が 明 ら か と な っ た 。 こ れ は 、pCTFがnCTFと 比 較 し て 、y‐8ecretaseに よ る 切 断 を 受 け に く い 膜 領 域 に 存 在 し て い る こ と を 裏 付 け る 結 果 で あ っ た 。 以 上 の 結 果 よ りAPPCTFは り ン 酸 化 に よ っ て 特 定 の 膜 微 小 領 域 ( ラ フ ト ) へ の 移 行 が 制 御 さ れ て い る 可 能 性 が 考 え ら れ た 。   さ ら にAPP―CTFの り ン 酸 化 に よ る 膜 微 小 領 域 ( ラ フ ト ) へ の 移 行 制 御 機 構 を 明 ら か に す る た め に 、 初 代 培 養 神 経 細 胞 を 調 製 し 、 ラ フ 卜 構 成 を 撹 乱 す る 薬 物 で あ る コ レ ス テ ロ ー ル 結 合 薬 物MpCDを 添 加 し た 。 添 加 後 、 初 代 培 養 神 経 細 胞 か ら 膜 画 分 を 調 製 し 、 血 洫 り Y‐8ecretaseassayを 行 い 、nCTFとpCTFの 切 断 に よ っ て 生 成 す る nmCDお よ びpmCD 量 を 解 析 し た 。 そ の 結 果 、MpCD処 理 し た 初 代 培 養 神 経 細 胞 か ら 調 製 し た 膜 画 分 で はp心CD 生 成 が 増 加 し た 。 こ れ は 、 膜 微 小 領 域 ( ラ フ ト ) ヘ 局 在 し てい たY―secretaseが 、 膜内 に 一 様 に 散 在 し 、pCTFsを 切 断 す る 機 会 が 増 加 し た こ と を 示 唆 し た 。

  APP.CTFの り ン 酸 化 に よ る 膜 微 小 領 域 ( ラ フ ト ) へ の 移 行 制 御 の 詳 細 な 分 子 機 構 を 明 ら か

. に す る た め に 、 私 はAPP.CTFと 脂 質 と の 結 合 性 に 注 目 し た 。 最 近 のAPPの 構 造 解 析 よ り 、 APPの 最C末 端 部 位 が 脂 質 二 重 膜 の 脂 質 と 直 接 結 合 し て い る 可 能 性 が 報 告 さ れ て い る 。 Thr668の り ン 酸 化 はAPP細 胞 質 ド メ イ ン の 構 造 全 般 を 変 化 さ せ る こ と か ら 、 私 はThr668 の り ン 酸 化 に よ っ てAPPCTFと 脂 質 と の 結 合 性 が 変 化 す る 可 能 性 を 考 え た 。APP細 胞 質 ド メ イ ン の 合 成 ペ プ チ ドAPP6481695と マ ウ ス 脳 組 織 膜 画 分 か ら 抽 出 ・ 調 製 し た り ポ ソ ー ム を 反 応 さ せ た 結 果 、APP6481695ペ プ チ ド は 、 リ ポ ソ ー ム に 強 く 結 合 し た が 、Thr668を り ン 酸 化 し た り ン 酸 化 合 成 ペ プ チ ドAPP648・695[pThr668] は 、 リ ポ ソ ー ム と の 結 合 が 顕 著 に 減 少 し た 。 こ れ は 、C末8残 基 を 欠 失 し た ペ プ チ ド (C△8) が 、 リ ポ ソ ー ム に 結 合 出 来 な い 事 と 同 様 な 結 果 で あ っ た 。 こ の 解 析 は 、Thr668の り ン 酸 化 がCTFの 最C末 と 膜 脂 質 と の 結 合 を 解 離 す る よ う にCTFの 構 造 変 換 を も た ら し た 事 を 示 唆 す る 。 さ ら に 、 脂 質 と 結 合 す る こ と が で き な いAPP‐C△8を 発 現 す る 細 胞 は 、AD産 生 の 減 少 が 認 め ら れ た 。

  以 上 の 解 析 か ら 、 本 論 文 で は1) リ ン 酸 化 はAPP細 胞 質 領 域 の 構 造 を 変 化 さ せ 、2冫CTF と 脂 質 二 重 膜 と の 結 合 を 解 離 さ せ る こ と で 、3)Y‐8ecretase・enrichedmicrodomainで の CTFの 局 在 を 制 限 し 、 結 果 と し て 、4)CTFの 二 次 切 断 に 抑 制 的 に 働 く 、 す な わ ちAp の 生 成 が 抑 制 さ れ る 可 能 性 が 明 ら か に さ れ た 。

‑ 1200 ‑

(3)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

アルツハイマー病病因因子APP のりン酸化の機能解析

  アミロ イド前 駆体 夕ンパ ク質(APP)は 、アル ツハイ マー病(AD)の特 徴的病理であるアミロイドロタンパ ク質(AB)の 前 駆 体 夕 ン パク 質 で あ る 。I型 膜 夕 ン パク 質APPは神経 細胞 内の細 胞内輸 送過程 およ び細 胞膜上 で切断 ・代謝 を受 ける。 ルーメ ン側の 膜近傍 近く でaセ クリ ターゼ もしく はBセクリ ターゼによる 切断 を 受 け 、 細胞 外 ド メ イ ン(sAPP) を 分 泌 し 、 細胞 膜 状 にaCI雷およ び口田 雷を 残す。 このCTFは、

ア セ ク レ タ ー ゼ に よ る 膜 内 切 断 を 受 け、aCTFか らp3ベ プチ ド 、 ロCIFか らAロを 分 泌 し 、 同時 に 細 胞質に 細胞質 断片(AICD)を 遊離する。生成したA日はオリゴマーを形成し、神経毒陸を示す事カゞ報告さ れて お り 、 これ がADの 発症に 強く関 わって いる と考え られて いる。 しかし なが ら、Aロ生 成がど のよう な細胞 内調節 機構の 下で 制御さ れてい るのか は、未 解明 な点カ ミ多く 、Aロ生成制御機構の解明はAD発症 機構を 解明す ると共 に、 新たな 創薬標 的を開 発する 上で 重要で ある。APPの 細胞質 ドメ イン皿1r668(ア ミノ 酸 番 号 はA阿}695ア イソフ オーム によ る)の りン酸 化は、APPの 細胞 内輸送 や代謝 を制御 する 可能 性 が 示 唆 さ れ て き た が 、APPの り ン 酸 化 レ ベ ル は5% 程 度 と 低 く 、 そ の 役 割 は 未 解 明 であ っ た 。   本 論 文 で は、 マ ウ ス 脳 内の 内 在 性CrFsの約50% がりン 酸化 状態で 存在し ている 事を見 いだ し、リ ン 酸 化 がAPPで は な くAPPCIFで 機 能 し て いる 可 能 性 を 見い だ し 、 実 証を 行 っ た 研 究 であ る 。 リ ン 酸化 卿 ̄QCTDと 非 リ ン 酸 化CTF(nCI町 は 、 脳神 経 細 胞 で 等 量存 在 し て い るが 、 そ こ からァ セクレ ターゼ で切 断 さ れ 、 生成 す る 脳 内p心 (m量 は 、nmCD量と 比 較 し て 著 しく 少 な い こ とを 見い だした 。そ の原 因 を 探 る た め 、 膜 分 画 を 用 い たmutroア セ クレ タ ー ゼ ア ッセ イ を 構 築 し、pAI(mとnAICDは 酵 素 学 的に丁 セクレ 夕一ゼ の等 価の基 質にな ること を証明 し、 神経細 胞では 、pCITが ァセク レター ゼによる切 断を受 けない 別の仕 組み がある 事を見 いだし た。こ の仕組みを解明する目的で、松島は、生化学、細胞生 物学的 な解析 を行い 、pCI雷が 活性あ るァセ クレタ ーゼ が存在 する膜 ラフト様マイク口ドメインに少ない 事を 明 か に し た。 そ の 分 子 機構 と し て 、 の 雷はC末 端 部 分を利 用し て膜と 相互作 用を取 って いるが 、 リン酸 化はCrF内の 構造変 換を 引き起 こし、 脂質結 合活 性を失 うこと を生化学的に実証した。このため、

p(汀Fは 細胞膜 にお ける流 動性に 富み、 膜ラ フト様マイクロドメインに侵入後もそこにトラップされる時 間が短 く、ア セクレ ター ゼによ る切断 を受け る前に ラフト外に移動するため、切断効率が落ちることを示 した。 さらに 、細胞 をm甜1yl・p℃yc】odeX価n(MpCめ処理 し、 膜ラフ ト様マイク口ドメインを破壊し、

アセク レター ゼが細 胞膜 に均等 に分散 する条 件下で は、p心CDの7゛セク レター ゼによ る切断 が著しく増 加す る こ と を 実証 し た 。 さ らに ヒ ト 型APPを 発 現 し てい る カニ クイザ ルは、 加齢と 共にA8の沈着 物で あるア ミ口イ ドプラ ーク を形成 するが 、CI雷 のりン 酸化レ ベルは 、加齢 と共 に低下 するこ とを示した。

これ ら の 解 析 から 、CIFのり ン 酸 化 は 、膜 脂 質 と 田Tの 相 互 作 用 を制 御 す る こ とで 、CI雷の 膜局 在を 制御し ている 事を明 らか にした 。老化 に伴い 田Fのりン 酸化が 低下 する事 実は、7. セクレ ターゼに変化

―1201−

雄 融

利 章

   

原 本

鈴 木

山 佐

授 授

授 師

   

   

教 准

査 査

査 査

主 副

副 副

(4)

が 無 く て も、 老 化 と と も にCTFが ァセ クレ ターゼ の基 質にな りやす くなる 事を 示して おり、CTFの りン 酸 化状態 を保持 する ことが 、アル ツハイ マー病 の発 症に関 わるAB産 生の 抑制に 結びっ くこと を初めて実 証 した、 極めて 独創 的かつ 先進的 な研究 であり 、ア ルツハイマー病の創薬における新たな標的を示すと共 に 、 予 防 法 の 開 発 に 大 き く 貢 献 す る 、 薬 学 領 域 の 博 士 号 に 相 当 す る 価 値 の 高 い 研 究 で あ る 。

  こ れ は 、 よ うす る に 、 著 者 はAPP CTFのり ン酸化 の機 能を生 化学的 および 細胞 生物学 的に解 明し、 そ の 特 性・ 役 割 を 明 らか に し た 上 で、 霊 長 類 で 老化 と と もに生 成量が 増加す るAロとCTFのり ン酸 化レベ ルの 低下の 相関性 を示し た研 究であ り、発 症原因 が不明 であ った孤 発陸AD患者の発症原因をを示唆した。

そ の 成果 は 、 こ れ まで 開 発 が 進め られて きた りン酸 化抑制 剤とは ことな り、CTFの りン酸 化状態 を維持 する 、脱リ ン酸化 抑制剤 の創 薬開発 に貢献 するこ とが大 いな るもの がある 。

  よっ て著者 は、薬 学領 域の大 学院課 程であ る医 薬科学 コース 博士課 程を修了し、北海道大学博士(生命 科学 りの学 位を授 与され る資 格があ るもの と認め る。

―1202−

参照

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