博士(農学)鈴木 学位論文題名
園芸作物組織の超低温保存に関する基礎的研究
学位論文内容の要旨
卓
本論 文 は, 園芸 作 物の 品種 ,系統 (遺伝資源)を長期 間に亘って保存維 持するための有効 な方 法 とし て ,植 物組 織 の超 低温 凍結保 存技術を確立するた めの基礎的研究を 行ったもので,内 容の 概要は以 下のとおりである 。
1. 茎頂 培養 に よる 個体 再 生系 の確 立 と培 養特 性 :リン ゴ,ナシ,オウト ウ,ハスカップ及 びブ ル ーベ リ ―の5種の 果樹 に っい て, 茎 頂か らシ ュ ートを 形成させるための 条件にっいて検討 した 結 果, リ ンゴ ,ナ シ ,オ ウト ウ 及び ハス カ ップ では 培養基中にBA10―6 Nl0‑。Mを添加する こと が 有 効で あ り, ブル ー ベリ ーの シ ュ― ト増 殖 には2iPの 添加 が 適し てい る こと が明 ら かに なっ た 。ま た ,オ ウ卜 ウ 及び ハス カップ の茎頂培養では,茎 頂の生存及びシュ ―ト形成に培地基 本成 分 の濃 度 が大 きな 影 響を 及ぼ してい たが,適濃度は各作 物において異なっ ていた。次に,リ ンゴ 及 びナ シ 茎頂 の初 代 培養 開始 時 期に っい て 検討 した ところ,茎 頂のシュート形成能 は7月及 び冬 期 間に 高 く, 冬季 の 茎頂 は凍 結保存 の材料に適している ことが明らかとな った。ブル―ベリ ーで は ,初 代 培養 にお い て茎 頂か らシュ ートを形成させるこ とが極めて難しい が,僅かに形成さ れた 培 養体 シ ュ― トを 用 いて ,効 率的な シュートの増殖に成 功した。ハスカッ プ及びブルーベリ ーの 培 養 シ ュ ー ト 基 部 を ,IBA高 濃 度 溶 液(100mg/1程 度) に浸 漬 後, 培養 土 ヘ挿 し木 す るこ とに よ り良 好 な発 根が 得 られ た。 これら の結果をもとに,各 作物の茎頂から植 物体を再生させる こと が可能で あることを実証し た。
2. 液体 窒素 凍 結・ 融解 後 にお ける 茎 頂の 生存 と 植物体 再生:茎頂から植 物体を再生させる ため の 培養 条 件が 明ら か にな った ため, 液体窒素中で凍結し ,融解した茎頂か らの植物体再生に っい て 検討 し た。 まず , 冬季 に野 外から 採取したりンゴ,ナ シ,オウトウ及び ハスカップの茎頂 から 液 体窒 素 凍結 ・融 解 ・培 養後 に 再生 植物 体 を得 るこ とに成功し た。この場合,凍結 媒液中に8〜 10% のDMSOを 添 加 す る と 生 存率 が高 ま った 。ま た ,ナ シ茎 頂 の液 体窒 素 凍結 ・融 解 後の 生存 率には品 種間差が認められ , フレミッシュ ・ビューティ 身不知 及び 長十郎 ーで高く,
バー ト レッ ト 及 び ブラ ン デー ワイ ゾ で低 かっ た 。凍 結処 理 後の 植物 体再生率はハス カッ
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プ で極 めて 高く他 の作 物でtま低 かった 。そこ で,液 体窒素 凍結 ・融解 後のり ンゴ茎 頂をThidi‑
azuron (TDZ)を 加 え た 培 養基 を 用 い て 培養 し た と こ ろ, 植 物 体 再 生率 を 向上 させる ことに 成 功 した 。 次 に , 培養 体 組 織 に っい て 検 討 し た 結果 , アスパ ラガス 培養体 節部 切片はDMS08〜16
% を含 む凍 結媒液 を用 いて予 備凍結 を行う ことに より ,液体 窒素凍 結・融 解後 に高い 生存率(70
〜 80%)を 示し たが, ハスカ ップ及 びブ ルーベ リーの 培養体節部切片では生存個体がほとんど得 られな かっ た。
3.茎 頂 の耐凍 性と超 低温凍 結生 存性: 野外の 茎頂の 属性で ある 耐凍 性 と 人為的 な前 処理・
凍結・ 融解 操作に 伴って 茎頂が 示す 凍結 生存性 との 間には ,平 行関係 が認められた。すなわ ち,リ ンゴ 及びナ シ茎頂 の凍結 生存性 には ,耐凍 性の変 動に伴 う季 節的変 動が認められ,凍結生 存性は 夏季 に低く 冬季に 高いこ とが実 証さ れた。 この場 合,リ ンゴ はナシ に比べて凍結生存性の 高い期 間が 長く, ナシ茎 頂の凍 結生存 性の変動には品種間差のあることが明らかになった。また,
冬 季の 茎頂 のもっ てい る高い 凍結生 存性は ,リン ゴで は切り 枝をO℃で 低温保 存する こと により 8か月 間 保持さ れるこ とが立 証さ れた。 これに より耐 凍性の 高い 植物材 料をほ ぼ周年 入手 するこ と が で き , 関 連 研 究 の 効 率 及 び 凍 結 保 存 技 術 の 実 用 性 の 向 上 が 可 能 と な っ た 。 4.凍 結 生存性 の制御 :凍結 ・融 解の操 作に先 立ち, 植物材 料の 凍結生 存性を 人為的 に高 める方 法にっ いて 検討し た。ブ ルーベ リ一及 びハ スカッ プ培養 体シュ ―ト の凍結 生存性は,ハードニン グ(0℃ ,1〜2週 間 ) に より 高 ま っ た 。 また , ハ ス カ ップ 培 養 体 節 部切 片 の凍 結生存 性は, 前 培 養(DMS05% , ス ク ロー スO.4Mを 合 む 培 地 で2日 問 ) に より 高 く な る こと を明ら かにし た。
次に, アス パラガ ス小側 枝茎頂 の凍結 生存 性に及 ぼす前 培養に おい ては, 培地中の糖が組織の凍 結生存 性を 高める こと並 びに至 適糖濃 度は,グルコースの場合0. 4Mであることを明らかにした。
ま た , 前 培 養 培 地 中 のDMSOは 凍 結生 存 性 を 低 下さ せ る の で 添加 し な い ほ うが よ い こ と が わ かった 。
5.凍 結 生存性 の相違 と内生 成分 :野外 から採 取した ナシ及 びハ スカッ プ茎頂 の内生 成分 の季節 的変動 を調 べた結 果,含 水率は 夏季に 高い が冬季 に低く なり, 糖及 び遊離 アミノ酸含量は夏季に 低く冬 季に 高いこ とが明 らかに なった 。ま た,ア スパラ ガス培 養体 シュー トの節部組織及び節間 部組織 中の 内生成 分にっ いて調 べた結 果, 糖及び 遊離ア ミノ酸 含量 は凍結 生存性の高い節部にお いて高 く, 凍結生 存性の 低い節 間部に おい て低い こと並 びに含 水率 は,僅 かに節間部が高いこと が実証 され た。し たがっ て,凍 結生存 性の 高い組 織は, 含水率 が低 く可溶 性成分の濃度が高いこ とが明 らか になっ た。次 に,ア スパラ ガス 小側枝 茎頂及 びハス カッ プ培養 体節部切片を用いて,
前培養 に伴 う組織 内成分 の変動 を調査 した 結果, 前培養 後の組 織は 培地中 の糖を吸収し組織・細
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胞内 の水を 排出 してい ること が示唆 され た。こ の場合 ,糖含 量及び 含水 率から 推定した前培養後 のア スパラ ガス 茎頂の 浸透価 が,前 培養 培養基 に添加 した糖 濃度か ら推 定した 浸透価とほぼ一致 した ことか ら, 前培養 は植物 組織内 の浸 透価を 高める ことに より組 織の 凍結生 存性を高めている もの と推測 され る。
6. 植 物組 織の構 造と 凍結生 存性: 夏季と 冬季に 採取 したナ シ茎頂 の構造 を比 較する と,冬 季の 茎 頂 は 夏季 の 茎 頂 に 比べ て 液 胞が 小胞化 し,PLB (proteinーlipid body, タンパ ク質及 び脂肪 を含 む顆粒 )の 蓄積が 多く, 緻密な 構造 を有し ていた 。これ は,冬 季の 茎頂の 含水率が夏季に比 べて 低いこ とを 裏付け ていた 。次に ,液 体窒素 凍結・ 融解後 の組織 を観 察した 結果,リンゴ茎頂 で は 頂 端分 裂 組 織 及 び葉 原 基 の一 部に細 胞内凍 結に より死 滅した 細胞集 塊を 見出す ことが でき た。 リンゴ 茎頂 の凍結 ・融解 後の生 存率 が高い 場合で も植物 体再生 率が 低い理 由は,凍結・融解 過程 で生じ たこ れらの 一部の 細胞の 死に よって ,茎頂 が組織 として の機 能を失 ったことによるも のと 推測さ れる 。また ,アス パラガ ス培 養体節 部組織 では, 液体窒 素凍 結・融 解後に生存するの は腋 芽のド ーム 状組織 及び擬 葉の一 部の 細胞で ,これ らは緻 密な細 胞で 構成さ れていた。特に,
ドー ムを構 成す る細胞 は小さ く細胞 質で 満たさ れてお り,液 胞は未 発達 であっ た。アスパラガス 培養 体節部 組織 が高い 凍結生 存性を 有し ,液体 窒素凍 結・融 解後の 植物 体再生 率も高い理由は,
ドー ム状組 織が 完全に 生き残 るため であ ると考 えられ る。
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 八 鍬 利 郎 副 査 教 授 筒 井 澄 副査 教授 匂坂勝之助 副査 助教授 原田 隆
本 論文 は,表22,図75,引用 文献136を含 む総ぺ ージ 数252の和文 論文で あり,7章 に分け て論 述さ れてい る。別 に参考 論文7編が 添え られて いる。
本研 究は, 園芸作 物の 品種, 系統(遺伝資源)を保存維持するための有効ナょ方法として,植物 組織 の超低 温凍結 保存技 術を 確立す るため の基礎 にっい て行 ったも ので, 成果の概要は以下のと おり である 。
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1. 茎頂 培 養 に よる 個体再 生系の 確立と 培養 特性; リンゴ ,ナシ ,オウ トウ ,ハス カップ および ブ ル ー ベリ ー の5種 の果 樹 に っ い て, 野 外 か ら 採取 し た 茎 頂か らin vitroでシュ ートを 形成さ せ, 効率的 にシ ュート を増殖 し,発 根を促 す条件を明らかにした。また,これらの結果をもとに,
各作 物の茎 頂か ら植物 体を再 生させ ること が可 能であ ること を実証 した 。次に ,リン ゴおよびナ シ 茎 頂 のシ ュ ー ト形成 能は7月及 び冬期 間に 高く, 冬季の 茎頂は 凍結保 存の 材料に 適して いるこ とを 明らか にし た。
2. 液体 窒 素 凍 結・ 融解後 におけ る茎頂 の生 存と植 物体再 生:冬 季に野 外か ら採取 したり ンゴ,
ナシ ,オウ トウ 及びハ スカッ プの茎 頂から 液体 窒素凍 結・融 解・培 養後 に再生 植物体 を得ること に成 功した 。こ の場合 の植物 体再生 率はハ スカ ップで 高く他 の作物 では 低かっ たが, リンゴでは Thidiazuron (TDZ)を 加 え た 培養 基 を 用 い て凍 結 ・ 融 解 後 の茎 頂 を 培 養 する こ と に よ り, 植 物体 再生率 を向 上させ ること に成功 した。 次に ,培養 体組織 にっい て検 討した 結果, アスパラガ ス培 養体節 部切 片は液 体窒素 凍結・ 融解後 に高 い生存 率及び 植物体 再生 率を示 したが ,ハスカッ プ及 びブル ーベ リーで は生存 個体が ほとん ど得 られな かった 。
3. 茎頂 の 耐 凍 性と 超低温 凍結生 存性: 野外 の茎頂 の属性 である 耐凍 性 と人為 的な前 処理・
凍結 ・融解 操作 に伴っ て茎頂 が示す 凍結 生存 性 と の間に は,平 行関 係が認 められ た。すなわ ち, リンゴ 及び ナシ茎 頂の凍 結生存 性には ,耐 凍性の 変動に 伴う季 節的 変動が 認めら れ,凍結生 存性 は夏季 に低 く冬季 に高い ことが 実証さ れた 。この 場合, リンゴ はナ シに比 べ凍結 生存性の高 い期 間が長 く, ナシ茎 頂の凍 結生存 性の変 動に は品種 間差の あるこ とが 明らか になっ た。また,
冬 季 の りン ゴ 茎 頂 が もつ 高 い 凍 結 生存 性は ,切り 枝を0℃で 低温保 存する ことに より8か月 間保 持さ れるこ とを 立証し た。
4, 凍結 生 存 性 の制 御:ブ ルーベ リ一及 びハ スカッ プ培養 体シュ ートの 凍結 生存性 は,ハ ードニ ング により 高ま ること ,並び にハス カップ 培養 体節部 切片及 びァス パラ ガス若 茎小側 枝茎頂の凍 結生 存性tま, 前培養 によ り高ま ること を明ら かにし た。 この場 合,アスパラガス茎頂の前培養に おい ては, 培養 基中の 糖が組 織の凍 結生存 性を 高める こと並 びに至 適糖 濃度は ,グル コースの場 合0. 4Mであ ること を明ら かに した。
5. 凍結 生 存 性 の相 違と内 生成分 :野外 のナ シ及び ハスカ ップ茎 頂の含 水率 は夏季 に高く 冬季に 低い こと, 並び に糖及 び遊離 アミノ 酸量は 夏季 に低く 冬季に 高いこ とが 明らか になっ た。また,
アス パラガ ス培 養体シ ュート のうち 凍結生 存性 が高い 節部組 織は, 凍結 生存性 が低い 節間部組織 に比 べて糖 及び 遊離ア ミノ酸 含量が 高く, 含水 率が低 いこと を実証 した 。次に ,前培 養に伴う組 織内 成分の 変動 を調査 した結 果,前 培養後 の組 織は培 地中の 糖を吸 収し 水を排 出して いた。アス
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パラガスでは前培養後の茎頂の浸透価が,前培養培養基に添加した糖の浸透価とほぼ一致したこ とから,前培養は植物組織内の浸透価を高めることにより組織の凍結生存性を高めているものと 推測される。
6.植物組織の構造と凍結生存性:凍結生存性が高い冬季のナシ茎頂は凍結生存性が低い夏季の 茎頂に比べて液胞が小胞化し,物質の蓄積が多く認められ,緻密な構造を有していた。次に,冬 季に野外から採取し液体窒素凍結・融解・培養したりンゴ茎頂を観察したところ,頂端分裂組織 及び葉原基の一部が細胞内凍結により死滅していた。凍結・融解後のりンゴ茎頂の植物体再生率 が低い理由は,これらの一部の細胞の死によって,茎頂が組織としての機能を失ったことによる ものと推測される。また,アスパラガス培養体節部組織は液体窒素凍結・融解後に高い植物体再 生率を示すが,これは緻密な細胞で構成される肢芽のドーム状組織が,凍結・融解後もほぼ完全 に生き残るためであると考えられる。
以上のように本研究は,数種園芸作物において凍結保存技術開発の可能性を実証したばかりで な く , そ の 実 用 化 を 図 る 上 で の 基 礎 的 知見 を明 らか に した こと は高 く評 価 され る。
よって審査員一同は,別に行った学力認定試験の結果と併せて,本論文の提出者,鈴木卓は 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た 。
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