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遷移金属錯体を利用した精密高分子合成

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Academic year: 2021

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鬼 塚 清 孝

Kiyotaka ONITSUKA

− 79 − 1964年11月生

大阪大学大学院理学研究科有機科学専攻 博士後期課程修了(1992年)

現在、大阪大学 大学院理学研究科高分 子科学専攻高分子反応化学研究室 教授 博士(理学) 有機金属化学

TEL:06-6850-5449 FAX:06-6850-5474

E-mail:[email protected]

遷移金属錯体を利用した精密高分子合成

Precise polymer synthesis using transition metal complexes Key Words:polymerization catalyst, macromolecular complex, 

helix, transition metal, acetylide complex

生 産 と 技 術  第63巻 第2号(2011)

1.はじめに

 遷移金属錯体は炭素−炭素結合を効率的に形成す る触媒として働き,機能性材料や医薬品などの原料 となる様々な有機化合物を合成するためには必要不 可欠である.このことは,2010 年のノーベル化学 賞がパラジウム触媒によるクロスカップリング反応 の開発に大きな貢献があった Heck 先生,根岸先生,

鈴木先生に贈られたことから,化学を専門としない 人にも広く知られるようになった.高分子の多くは 低分子有機化合物の連続的な結合で構成されるため,

遷移金属錯体が高分子合成に利用できることは容易 に想像でき,オレフィン重合触媒や開環メタセシス 重合触媒など,実用的な高分子合成プロセスに用い られている例もある.しかしながら,遷移金属触媒 が多種多様な低分子有機化合物の精密合成に広く浸 透していることを考慮すると,精密高分子合成への 応用はまだ十分ではない.

 我々の研究室は,理学研究科高分子科学専攻高分 子合成・反応化学大講座の研究グループの一つとし て 2008 年 6 月に発足した.研究室の伝統である金 属が関与する高分子化学の研究に新たな切り口でチ ャレンジしている.ここでは,当研究室で現在精力 的に取り組んでいる幾つかの研究テーマについて紹 介する.

2.金属錯体を利用したらせん高分子の合成と機  能化

 タンパク質をはじめとする生体高分子は精密に制 御された 3 次元構造をとり,高い機能を発現して地 球上の生命を維持するために極めて重要な役割をし ている.生体高分子に迫る高機能高分子の開発を目 指して,精密に構造を設計した高分子が注目されて おり,  1 次構造だけでなく 2 次構造を制御した高分 子も合成されるようになった.らせん構造は代表的 な 2 次構造の一つであり生体高分子では一般的であ るが,溶液中でもらせん構造を安定に保持する合成 高分子は数が限られている.通常らせん高分子は右 巻きと左巻きの等量混合物であるが,どちらか一方 だけを選択的に合成することができれば,光学活性 な材料として興味深い.

 我々は,アセチレン架橋パラジウム−白金複核錯 体にアリールイソシアニドを反応させると,パラジ ウム−炭素結合間への連続的な挿入反応が進行し,

大過剰のイソシアニドを用いた場合には定量的にポ リイソシアニドが得られることを見出している.生 成ポリマーの末端には反応活性点であるパラジウム 種が残っているために本反応はリビング重合となり,

分子量の制御やブロック共重合体の合成が可能とな った.かさ高い側鎖置換基を持つポリイソシアニド は,溶液中でも 4 分子で 1 巻きのらせん構造を安定 に保持することが知られている(図 1).そこで,

リビング重合である本系の特徴を活用して,一方向

巻きのポリイソシアニドを選択的に合成する新しい

方法を開発した(図 2).即ち,適当な光学活性置

換基を有するキラルイソシアニドモノマーを反応さ

せて一方向巻きのらせん状オリゴマー錯体を選択的

に合成し,それを開始剤としてかさ高いアキラルモ

ノマーを重合させると,一方向巻きのらせん構造を

保ちながら重合反応が進行することを見出した.入

研究室紹介

(2)

図 2.ブロック共重合による一方向巻きポリイソシアニドの合成 図 1.ポリイソシアニドの構造

− 80 − 生 産 と 技 術  第63巻 第2号(2011)

手容易な光学活性化合物から簡便に合成したキラル モノマーを不斉源として,高分子合成で一般的なブ ロック共重合によって一方向巻きらせんを選択的に 合成できる新しい方法として評価されている.

 次に,ポリイソシアニドの強固ならせん構造を活 用して側鎖置換基が規則的に配列した機能性高分子 を合成した(図 3).例えば,ポルフィリンを側鎖 置換基に有するポリイソシアニドでは,分子内間で 効率的なエネルギー移動が起こることを明らかにし,

キラルモノマーとのブロック共重合体の円偏光二色 性スペクトルを利用したらせん方向決定法を開発し た.また,側鎖にフェロセンを導入したポリイソシ アニドでは,酸化反応によって側鎖置換基をフェロ セニウムカチオンへ変換すると,カチオン間の静電 反発によってランダムな構造へ可逆的に変化した.

これは,電気化学的な外部刺激によってポリイソシ アニドのらせん構造が可逆的に制御できることを示

している.

3.有機金属種を構成単位とする高分子錯体の精  密合成

 炭素,水素,酸素,窒素等から構成される有機化 合物と異なり,金属錯体は酸化還元特性や磁性,触 媒活性などの特有の性質を示す.そのため,配位性 元素を用いて高分子に金属種を導入すると,有機化 合物である高分子に新たな機能を付与することがで きる.金属−炭素結合を有する有機金属化合物も高 分子錯体の合成に利用でき,無機錯体を導入した高 分子錯体とは異なる特性が期待されるものの,一般 の有機化合物や無機化合物よりも不安定であるため に,これまで有機金属高分子錯体の報告例は限られ ていた.

 我々は,合成が容易でかつ安定であり,特異な機

能を有する遷移金属アセチリド錯体に注目し,様々

(3)

図 4.様々な分子形状を有する有機金属高分子錯体 図 3.機能性分子を側鎖に有するポリイソシアニド

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生 産 と 技 術  第63巻 第2号(2011)

なアセチレン化合物を架橋配位子とする有機金属高 分子錯体を精密合成した.平面四配位構造をとるパ ラジウムあるいは白金錯体では,アセチレン架橋配 位子の構造が全体の分子構造に直接反映されること に着目し,特徴的な分子形状を持つ高分子錯体を設 計した(図 4).例えば,

o

−ジエチニルベンゼンを 架橋配位子に用いると,平面構造をとる四核環状錯 体が選択的に生成し,光学活性なビナフトールから 誘導されるジアセチレンを用いると,らせん状高分 子錯体を与えた.また,1, 3, 5 −トリエチニルベン ゼン誘導体を架橋配位子に用いると,規則的な枝分

かれ構造を有する樹木状高分子であるデンドリマー が得られる.効率的な合成法を開発し,分子内に 189 個の白金原子を含み分子量が約 15 万に達する 第 6 世代白金アセチリドデンドリマーを単離するこ とができた.

  また,優れた酸化還元特性を有するルテニウムア セチリド錯体を用いて,新たな機能性高分子錯体の 合成へ展開した.光学活性なビナフトール由来のジ アセチレンとの組合せでは,酸化還元に応じてらせ ん構造が可逆的に変化する高分子錯体が得られた.

また,トリフェニルアミンから誘導されるトリアセ

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− 82 − 生 産 と 技 術  第63巻 第2号(2011)

チレン配位子で架橋した三核錯体では混合原子価状 態が安定化し,そのデンドリマーでは多段階の多電 子酸化還元特性が観測されたことから,分子内で比 較的大きな金属間相互作用を持つことが明らかにな った.

4.おわりに

 以上の研究テーマに関しては,かなりのレベルで 精密高分子合成が達成されつつあるので,今後は機

能を引き出す方向へシフトしていく予定である.一

方,これらの研究テーマのきっかけは,共に金属ア

セチリド錯体に関する基礎的な研究である.新しい

有機金属錯体や新しい触媒反応を開発し,新しい精

密高分子合成へつなげることができれば,新しい機

能発現の期待が膨らむ.日夜根気よく実験に励んで

いる学生諸氏と共に,これから益々研究を楽しんで

いきたい.

参照

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