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(1)

【同志社大学刑事判例研究会】併合罪関係にある数 罪を併合審理して一個の主文による刑を言い渡す場 合と刑法二一条にいう「本刑」

著者 洲見 光男

雑誌名 同志社法學

巻 62

号 2

ページ 449‑471

発行年 2010‑07‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012194

(2)

う「一九三同志社法学 六二巻二号

  (四四九)

◆同志社大学刑事判例研究会◆

併合罪関係にある数罪を併合審理して一個の主文による 刑を言い渡す場合と刑法二一条にいう「本刑」

最(二)決平成一八年八月三〇日刑集六〇巻六号四五七頁(「①決定」)、最(三)決平成一八年八月三一日刑集六〇巻六号四八九頁(「②決定」)

洲 見 光 男

一  ①決定

一  事実の概要及び手続の経過

 

 

1

事実の概要

  被告人は、①中華人民共和国の国籍を有する外国人であり、平成一六年九月ころ、有効な旅券又は乗員手帳を所持し

ないで、同国から航空機で本邦の空港に到着した者であるところ、そのころ同所に上陸した後、引き続き不法に平成一七年一月一一日まで東京都内に居住するなどして在留した(以下、「不法在留」という。)、②共犯者Fらとの共謀の上、

(3)

う「一九四同志社法学 六二巻二号

  (四五〇)

ア平成一六年一〇月六日、福島県いわき市所在の駐車場において、同所に駐車中の普通乗用自動車内から現金三万二〇

〇〇円及び預金通帳三通等を窃取し(以下、「第一窃盗」という。)、イ同月七日ころ、同県西白河郡矢吹町所在の駐車場において、同所に駐車中の普通乗用自動車内から現金一〇万円及びキャッシュカード二枚等を窃取した(以下、「第

二窃盗」という。)というものである。

 

 

2

手続の経過

  被告人は、平成一七年一月一二日、第一窃盗の事実で通常逮捕され、同月一五日、引き続き勾留されて、同年二月二

日、同事実により勾留のまま東京地裁に起訴された。次いで、被告人は、同年三月九日、第二窃盗の事実で通常逮捕され、同月一二日、引き続き勾留されて、同月三〇日、同事実により勾留のまま同地裁に起訴されたが、同事件は、同年

四月六日、第一窃盗事件の弁論と併合された。さらに、被告人は、同年五月一七日、本件不法在留の事実により勾留されずに別件勾留中として同地裁に起訴され、同事件は、同月二〇日、第一窃盗・第二窃盗事件の弁論と併合された。

二  本決定に至る経緯

 

 

1

第一審(東京地裁平成一七年六月二三日判決)

  第一審判決は、罪となるべき事実を上記各事実のとおりに認定し、不法在留罪につき、所定刑中「懲役刑及び罰金刑」

を選択した上、これらを刑法四五条前段の併合罪と認めて、同法四七条本文、一〇条により、刑及び犯情の最も重い第二窃盗の罪の懲役刑に法定の加重をし、同法四八条一項により、上記罰金刑をその懲役刑と併科し、その加重した刑期

及び所定金額の範囲内で、被告人を懲役三年・五年間執行猶予及び罰金三〇万円に処し、同法二一条を適用して、未決

(4)

う「一九五同志社法学 六二巻二号 勾留日数のうち六〇日を一日五〇〇〇円に換算し、上記罰金刑に算入した。

  未決勾留日数の算入については、次のとおり判示した。 るび種五ういと﹄刑金罰及の刑錮禁﹃﹄、刑金罰び及類刑役刑あでのたし択選を﹄金の罰び及刑役懲﹃らか中刑懲﹃   「つに罪の︺留在法不、︹所は判裁当、はていおに件い本法刑﹄、刑金罰﹄、﹃刑錮禁﹄、﹃役律懲﹃るいてれらめ定にて

ところ、この﹃懲役刑及び罰金刑﹄という選択刑は、単に別個の刑である懲役刑と罰金刑の双方を科すというのではなく、裁判所が情状を考慮して上記五種類の刑種の中から選択した、全体でひとまとまりの独立の種類の刑であ

る。」それと第一窃盗及び第二窃盗の罪の「懲役刑」との「併合罪関係処理においては⋮⋮、同法四七条によって、処断刑としての統一刑が形成され」るのであって、「﹃懲役刑﹄と﹃罰金刑﹄という別個の刑を併科する場合とは異

なるから、本件における同法二一条の﹃本刑﹄とはこの﹃懲役刑及び罰金刑﹄を指す」。

  これに対し、検察官控訴。最(一)判昭和三九年一月二三日刑集一八巻一号一五頁及び東京高判平成七年一月三〇日

東時四六巻三頁等を援用し、第一審判決は、未決勾留日数を勾留事実に係る罪(第一窃盗罪及び第二窃盗罪)の刑に算入せず、勾留事実以外の事実に係る罪(不法在留罪)の刑に算入した点において、刑法二一条の解釈適用を誤った違法

があり、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである、と主張した。

 

 

2

第二審(東京高裁平成一七年一〇月二五日判決)〔控訴棄却〕

   第二審判決の大要は、次のとおりである。   「と裁判所の見解もこれ同、旨である。⋮⋮本件に当て原と判決が、⋮⋮説示するこっろはまことに正当であお

いては、原判決が宣告した﹃懲役三年及び罰金三〇万円﹄の刑は勾留事実である︹第一窃盗罪及び第二窃盗罪︺を

  (四五一)

(5)

う「一九六同志社法学 六二巻二号

含む併合罪に対する一個の刑であり、同法二一条の﹃本刑﹄とは、この﹃懲役刑及び罰金刑﹄を指すことになるか

ら、裁判所としては、懲役刑又は罰金刑のいずれに対しても、未決勾留日数を算入することができるというべきである。⋮⋮

  検察官︹の援用する︺︹最高裁昭和三九年判決及び東京高裁平成七年判決︺は、いずれも主文で二個の懲役刑が言い渡された場合の未決勾留日数の︹算入︺の方法に関するものであり、⋮⋮いずれも本件とは事案を異にするも

のであ」り、「原判決と同旨の上記⋮⋮の解釈は、これらの判例と何ら抵触するものではない。」

  これに対し、検察官上告。上告趣意の要旨は、ア大判大正九年三月一八日刑録二六輯一九五頁、最(三)判昭和三〇

年一二月二六日刑集九巻一四号二九九六頁及び最高裁昭和三九年判決は、刑法二一条の適用について、未決勾留日数は、勾留されている罪が無罪となったような例外的場合を除き、勾留されている罪の刑を「本刑」として算入しなければな

らないとの立場を厳然として維持しており、高裁判例も、従来からこれらの判例の趣旨に沿った判断を示している、イ上記判例が、刑法二一条の本刑が勾留事実に係る刑であり、原則として未決勾留日数はその勾留事実に係る刑に算入す

べきものとしているのは、専ら勾留事実における事件単位の原則に基づくものであり、この未決勾留日数の算入に関することと、併合罪処理の結果による刑の個数の問題とは直接の関係がないことは明らかである、ウ上記判例に従えば、

本件の場合、勾留されている第二窃盗罪の懲役刑が刑法二一条に規定する「本刑」となり得るのであって、勾留されていない不法在留罪の罰金刑は「本刑」には当らないのであるから、未決勾留日数を罰金刑に算入することは許されず、

原判決が、大審院大正九年判決等に実質的に相反する判断をしたことは明白で破棄を免れない、というものである。

  (四五二)

(6)

う「一九七同志社法学 六二巻二号 三  本決定︹上告棄却︺

  最高裁第二小法廷は、検察官の判例違反の主張は事案を異にする判例を引用するものであって本件に適切でないとした上、職権により、次のとおり判示し、第一審判決のした本件罰金刑への未決勾留日数の算入を是認した第二審判決に

違法はないとして、検察官の上告を棄却した。

  「括場合、その数罪を包的渡に評価して、それに対すい刑る法は、併合罪関係にあ数言罪を併合審理して刑をし

一個の主文による刑を言い渡すべきものとしているから、その刑が刑法二一条にいう﹃本刑﹄に該当すると解すべきであり、この理は、その刑が懲役刑と罰金刑を併科するものであるときでも異なるところはないというべきであ

る。

  以上によれば、勾留事実に係る罪を含む併合罪関係にある数罪についての刑に未決勾留日数を算入する限り、刑

法二一条にいう﹃本刑﹄に算入したこととなるのであって、勾留されていない事実に由来する罰金刑に対し、これと併合罪として処断された他の事実に係る未決勾留日数を算入した第一審判決を原判決が是認したことにつき、何

ら違法はない。」

   〔古田佑紀裁判官の補足意見〕

。てついて補足し意否見を述べておくに   「でも算入の可のもるすにと日を解見と見意廷法、は数留あ事るが、なお、非勾留実勾に係私刑に対する未決る   私は、刑法二一条は、未決勾留に係る犯罪事実に対する刑に未決勾留日数を算入することを想定した規定であり、︹最高裁昭和三九年判決︺は、同条に関するそのような理解の下に、勾留事実と非勾留事実が併合罪の関係になく、

別個の主文で刑が言い渡される場合について、未決勾留日数の算入は勾留されている事実に対する刑に対して行わ

  (四五三)

(7)

う「一九八同志社法学 六二巻二号

れることが原則であることを明らかにしたものと理解すべきものと考える。したがって、勾留事実と併合罪又は科

刑上一罪の関係にない非勾留事実に係る刑に対する未決勾留日数の算入は、それが合理的である特段の事情が認められる場合に限られると解すべきである。

  しかしながら、未決勾留日数の算入は言い渡された刑に対してなされるものであるところ、本件のように非勾留事実が勾留事実と併合罪として処断される場合については、併合罪として処理された勾留事実を含む数個の犯罪事

実に対して一個の主文により刑を言い渡すこととされているのであるから、言い渡された刑が、二個以上の主刑を併科する場合であっても、全体として刑法二一条にいう﹃本刑﹄に該当すると解すべきことは、法廷意見のとおり

と考える。」

二  ②決定 一  事実の概要及び手続の経過

 

 

1

事実の概要

  被告人は、約八か月の間に、わいせつ略取・強盗強姦未遂三件(第一審判示︹以下、単に「判示」という。︺第一ないし第三)、わいせつ略取・強盗強姦二件(判示第四、第八)、わいせつ略取誘拐・強盗強姦・窃盗・強姦一件(判示第

五ないし第七)、強姦未遂一件(判示第一一)、わいせつ略取・強盗強姦・窃盗・強姦一件(判示第一二ないし第一四)、窃盗一件(判示第九)及び道路運送車両法違反一件(判示第一〇)を行ったというものである。

  (四五四)

(8)

う「一九九同志社法学 六二巻二号  

 

2

手続の経過

  被告人は、判示第八の事実と公訴事実の同一性が認められるわいせつ略取・強盗強姦罪の被疑事実により、平成一五

年三月三一日に勾留され、同年四月一八日、同罪による公訴提起とともに同一罪名による新たな勾留状により勾留され、その後、別件勾留中として勾留状が発付されないままその余の罪が追起訴されて、平成一六年一一月一七日に第一審判

決の言渡しを受けた。

二  本決定に至る経緯

 

 

1

第一審(名古屋地裁一宮支部平成一六年一一月一七日判決)

  第一審判決は、判示第一ないし第一四の各事実を認定し、科刑上一罪の処理をするなどした上、勾留されていない判示第五の罪につき無期懲役刑を、判示第一ないし第四、第八、第一二の各罪につき有期懲役刑をそれぞれ選択し、併合

罪の処理をするに当たり、判示第五の罪について無期懲役刑を選択しているため、刑法四六条二項により罰金刑以外の刑を科さず、同法四八条一項により、上記無期懲役刑に勾留されていない判示第一〇の罪の罰金刑のみを併科して、そ

の刑及び所定金額の範囲内で、被告人を無期懲役及び罰金一五万円に処し、未決勾留日数のうち、四〇〇日を無期懲役

刑に、三〇日を一日五〇〇〇円に換算して罰金額に満つるまでその罰金刑に算入するとした。

  これに対し、検察官控訴。罰金は、勾留状の発せられていない判示第一〇の道路運送車両法違反の罪の刑であるとこ

ろ、刑法二一条の法意に照らし、二種の刑が言い渡された場合の未決勾留日数の算入については、まず、勾留状が発せられた罪に対する刑(無期懲役刑)を本刑としてこれに未決勾留日数のうち通算すべき日数を算入すべきであり、特段

の事情がない限り、勾留状が発せられていない罪の刑に未決勾留日数を算入することは許されないとして、第一審判決

  (四五五)

(9)

う「二〇〇同志社法学 六二巻二号

は同法二一条の解釈適用を誤った違法があり、判決に影響を及ぼすことが明らかである、と主張した。

 

 

2

第二審(名古屋高裁平成一七年九月一二日判決)〔控訴棄却〕

  第二審判決の大要は、次のとおりである。   「はされ、他の罪について、勾その勾留があるために留き本れ件では、最初に起訴さたつ罪(⋮⋮判示第八)に、

別件勾留中として勾留されないまま起訴がされ、最初に起訴された罪の勾留がその余の罪を含む全部の罪の審理のために利用されている⋮⋮。また、罰金刑の定めしかない罪(⋮⋮判示第一〇の道路運送車両法違反の罪)につい

ても、刑訴法六〇条三項により勾留すること自体は禁じられていないのであって、本件では、最初の起訴にかかる罪についての勾留はその審理のためにも利用されていることに何ら差異はない。そして、いずれの罪につき勾留状

を発付し、いずれの罪につき発付しないかは、身柄拘束の必要という観点が充たされる限り、実務上適宜決められているという運用の実情をも踏まえると、未決勾留日数の算入が、いずれの罪により勾留されているかという偶然

の事情により左右されるとすること自体にも、全く疑問がないわけではないというべきである。

  このような点を考慮すると、本件のように、勾留されていない罪の刑に科せられる刑をもって一個の併合罪の刑

として言い渡し、その結果二種以上の刑が科される場合において、未決勾留日数を算入する刑の順序についてまで、刑法二一条の解釈として定められているという根拠は結局見出せないと解される。したがって、本件においては、

勾留されている罪の刑により処断されない場合に該当し、かつ、その勾留が他の罪の審理にも利用されている場合であるから、その未決勾留日数をいずれの刑に算入することとしても、相当性についてはともかく、違法となるも

のではないと解するのが相当である。」

  (四五六)

(10)

う「二〇一同志社法学 六二巻二号   これに対し、検察官上告。刑法二一条の解釈上、未決勾留日数は、勾留された罪の刑を同条にいう「本刑」としてこれに算入すべきものであり、本件では、無期懲役刑が本刑に当たるから、第一審判決がした罰金刑への未決勾留日数の

算入を原判決が是認したのは誤りであり、大審院大正九年判決、最高裁昭和三〇年判決及び同昭和三九年判決と実質的に相反する判断をしたものである、と主張した。

三  本決定︹上告棄却︺   最高裁第三小法廷は、検察官の上告趣意は事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でないとした上、次のとおり職権判断を示した。

がるのこ、しと則原をのす則入算に刑るす対に罪る原ににら由理的理合の段特るれめよ認といなで当相がのる係実   「決は又部全の数日留勾未部が所判裁、は条一二法一刑事る留勾、に合場るめ認とあ刑で当相がのるす入算にを

あるときには、非勾留事実に係る罪に対する刑に算入することも許す趣旨と解するのが相当である。そして、刑法は、併合罪関係にある数罪を併合審理して刑を言い渡す場合、その数罪を包括的に評価して、それに対し一個の主

文による刑を言い渡すべきものとしているから、勾留事実に係る罪を含む併合罪関係にある数罪についての刑に未

決勾留日数を算入する限り、上記原則に従ったものであり、この理は、本件のように懲役刑に罰金刑を併科するものであるときでも異なるものではないというべきである。

  そうすると、本件は、認定された各罪が併合罪関係にある事案であるから、勾留されていない事実に係る罰金刑に、併合審理された他の事実に係る未決勾留日数を算入した第一審判決を維持した原判決には、何ら違法はないと

いうべきである。」

  (四五七)

(11)

う「二〇二同志社法学 六二巻二号

三  研  究 一  算入制度の趣旨   刑法二一条は、未決勾留日数の全部又は一部を本刑に算入することができる旨規定している。未決勾留とは、刑事訴 訟法上の強制処分としての勾留(刑訴法六〇条・二〇七条)をいい

無罰、は有期の懲役・禁錮、金期、拘留、科料があり得る・ 、起の訴前の勾留か起訴後勾」留かを問わない。「本刑 1)

。勾留日数 2

、とりあがのもな的要必のもな的意任は入算の 3

本条は前者の裁定通算について定めたものである(後者は「法定通算」とよばれる︹刑訴法四九五条参照︺)。

  未決勾留日数の本刑への算入が認められる趣旨については、一般に次のように説かれている。すなわち、「未決の勾

留は、刑事訴訟遂行の必要上やむなく被疑者又は被告人の身体を施設に収容して拘禁する強制処分であり、もとより刑の執行とはその本質を異にし、その限りではこれを本刑に算入するのは制度上いささか合理性に乏しいが、しかし、一

方未決の勾留による身体の拘禁によって個人の法益が侵害されるところが少なくなく、その形態において自由刑の執行

と類似するところがあること、また、被疑者又は被告人がすべて勾留されるとは限らない上、勾留された者も事件の性質その他種々の事情によって勾留期間に長短を生じることなどに鑑みて、︹刑法二一条︺は、⋮⋮刑事司法における衡

平の維持を計ろうとするものである

と」。 4)

  このように算入制度の趣旨を、自由刑の執行との類似性等に鑑み刑事司法における「衡平の理念」の維持・実現に求

める点で、理解の一致が認められるものの、同一人に対する数個の事件が一個の手続で併合審理される場合の「本刑」の捉え方等については見解の対立がみられる。

  (四五八)

(12)

う「二〇三同志社法学 六二巻二号 二  算入の対象及び算入の方法・順序

 

 

1

判例状況

 

  合審理され、勾留された罪が無罪、勾留されていな併で続るまず、併合罪関係にあ二手個の公訴事実が同一のい

罪が有罪とされた事案に関し、上記大審院大正九年判決は、「令状は之を発したる公訴事実に限り効力を有するものなるを以て本刑に算入することを得べき未決勾留日数は右本刑を以て処断すべき当該公訴事実に付き発したる勾留状の執

行に依り生じたる未決勾留日数なることを要す⋮⋮第一起訴事実は無罪第二起訴事実は有罪と為り無罪の点は確定したること所論の如くなるを以て第一起訴事実は第二起訴事実と全然関係なきに至れり従て第一起訴事実に於ける未決勾留

日数は第二起訴事実の本刑に算入するを得ざるや論を俟たず」と判示し、勾留された事実に係る罪に対する刑が「本刑」であるとして、未決勾留日数の算入を認めない判断を示した。

  その後、上記最高裁昭和三〇年判決は、「数個の公訴事実について併合審理するかぎり、一つの公訴事実による適法な勾留の効果が、被告人の身柄につき他の公訴事実についても及ぶことは当然であるから裁判所が同一被告人に対する

数個の公訴事実を併合して審理する場合には、無罪とした公訴事実による適法な勾留日数は他の有罪とした公訴事実の勾留日数として計算できるものと解するを相当とする。」として、併合罪関係にある数個の公訴事実が同一手続で併合

処理された場合、無罪とされた罪の未決勾留日数を有罪とした他の罪の刑に算入することを認め、その限度で大正九年判決を変更した。

  下級審判例としては、大阪高判平成二年一一月一四日判時一三七一号一五八頁が、業務上横領、軽犯罪法違反で、第一審判決が懲役一〇月及び拘留二九日に処し、未決勾留日数の一部を勾留されていなかった軽犯罪法違反に係る上記拘

留の刑期に満つるまで算入した事案において、「勾留要件を具備しない事実(以下「勾留不能事実」という。)が他の勾

  (四五九)

(13)

う「二〇四同志社法学 六二巻二号

留要件を具備し、勾留状の発せられた事実(以下「勾留事実」という。)と併合して審理を受けたとしても、勾留不能

事実に対する刑に未決勾留を算入することが︹刑法二一条の衡平の︺理念に合致するとは考えられない」として、算入を否定している。同じく「主刑二種」の事案に関する、東京高判平成七年一一月一五日高刑集四八巻三号一八四頁は、

窃盗、軽犯罪法違反等で、第一審判決が懲役二年六月及び拘留二九日に処し、未決勾留日数の一部を、勾留されていなかった軽犯罪法違反に係る上記拘留の刑期に満つるまで算入した場合において、「裁判所が同一被告人に対する勾留状

の発せられている公訴事実と、これと併合罪関係にあり勾留状の発せられていない別個の公訴事実とを併合して審理し、被告人に対し二個の刑を言い渡す場合の未決勾留日数の裁定通算は、まず、勾留状が発せられた罪に対する刑を本

刑として、これに算入すべきであり、その刑の刑期を未決勾留日数が超過する場合など特段の事情がない限り、他の勾留状が発せられていない罪に対する刑に算入することは許されないものと解すべきである(︹大審院大正九年判決、最

高裁昭和三〇年判決、同昭和三九年判決︺参照)。」と判示している。

 

  法四五条後段により二個の刑の言渡しがなされたい刑、めのこれに対し、複数の罪間たに確定裁判が介在するわ

ゆる「主文二個」の場合における「本刑」につき判断を示したものに、上記最高裁昭和三九年判決がある。事案は、第一審判決が懲役一年六月と懲役二年を言い渡し、第二審が控訴を棄却した際、主文で、第二審における未決勾留日数中

一三〇日を第一審判決の刑に算入するとしただけで、第一審判決の二つの懲役刑のいずれに算入するかを明らかにしなかったとして弁護人が上告したというものである。同判決は、「本件におけるごとく被告人に対し二個の刑が言い渡さ

れた場合の未決勾留日数の裁定通算については、未決勾留日数の裁定通算を定めた刑法二一条の法意に照らし、まず勾留状が発せられた罪に対する刑を本刑として未決勾留日数中通算すべき日数をその刑に算入するものと解するを相当と

する(︹大審院大正九年判決、最高裁昭和三〇年判決︺参照)」とした。

  (四六〇)

(14)

う「二〇五同志社法学 六二巻二号

一ら、らかるあでのもたれせ決発てしと実事留勾を実未勾の勾第右たれらせ発の状留、留もてった当に入算の数日事一   「判京東記上、とるみを例審裁級下るす関に」個二文高主第、「示判原、は状留勾件本は成決判)日〇三月一(年七平

の罪の刑をまず刑法二一条の本刑とみるべきことは論をまたないところである。勾留事実以外の罪に未決勾留日数を算入し得るのは、勾留事実が無罪となったときや算入すべき未決勾留日数が勾留にかかる罪の刑の刑期を超過するときな

ど、勾留事実以外の罪の刑に算入することを相当とする場合に限られるべきであり、かかる特段の事情が認められない限り、たとえ、その勾留が勾留状の発せられていない他の事実の審理のために実質上利用されたからといって、他の罪

の刑に未決勾留日数を算入することは許されないものと解される(︹大審院大正九年判決、最高裁昭和三〇年判決、同昭和三九年判決︺参照)」と判示している。

 

 

2

学説状況

  勾留事実に係る刑と「本刑」との関係については、次の三つの考え方が成り立つであろう。第一は、「主文二個」の場合及び「主文一個で主刑二種」の場合のいずれであっても、勾留事実に係る刑を本刑として未決勾留日数を算入する

ことが原則であり、勾留事実以外の罪に係る刑に算入できるのは、勾留事実が無罪となったときや、算入すべき未決勾

留日数が勾留事実に係る罪の刑期を超過するときなどに限られるとするものである

れえである。これに対し、第二の考方も刑ずいの」種二主は」「個二文主、「のる「則め事件単位原の」にその根拠を求 の上記高裁判例。とる立場であり、 5)

の場合であっても、同一の手続によって審理判決する他の刑に広く算入を認めるというものである

実個し、「主文一個」と「主文二」則の場合を区別した上、勾留事と原る罪未決勾留に係を犯事実に対する刑への算入 、そして。最後に、 6)

に係る罪と併合罪又は科刑上一罪の関係にない非勾留事実に係る刑に対する未決勾留日数の算入は例外的な場合に許容

  (四六一)

(15)

う「二〇六同志社法学 六二巻二号

されるに過ぎないとするのが第三の考え方である

に解場立じ同ぼほも定決②、りあで見の官判裁田古るけおに定決①。 7

あるものと解される。

三  両決定の意義

 

  「事案を異にする」ことの意味

1

  ①及び②両決定とも、検察官の判例違反の主張は事案を異にする判例を引用するものであって本件に適切でないとしているので、まずこの点からみてゆくこととする。大審院大正九年判決及び最高裁昭和三〇年判決はいずれも、仮に勾

留事実に係る罪が有罪であれば、他の非勾留事実に係る罪とは刑法四五条前段の併合罪として処理され、「一個の主文」で刑が言い渡されるべき事案に関するものであったのであり、その点で本件両事案と同一であるが、勾留事実に対する

罪については無罪となった点に、また、最高裁昭和三九年判決は「主文二個」の事案に関するものである点に、それぞれ事案の相違が認められる趣旨をいうものと解される。

 

 

2

事案の捉え方

  もっとも、②決定は「主刑二種」の事案に関するものであることに疑問がないものの、①決定の事案を同様に捉えることについては検討の余地がある。検察官の主張が本件を「主刑二種」の事案と捉えていることは、前述のとおりであ り、本両決定の評釈

と留るあで罪る係に実事勾盗、と」刑金罰び及刑窃罪懲、るいてっなに刑一統れのさ理処合併がと刑役懲役「し択選た も①審一第の件事定決し、決かし。るあで様同判非はるきつに罪留在法不あ、で罪る係に実事留勾 8)

いう事案の特殊性を強調して、「主刑二種」に関する高裁判例との抵触を回避しようとしている。原判決も、第一審が

  (四六二)

(16)

う「二〇七同志社法学 六二巻二号 宣告した刑は勾留されている第一窃盗及び第二窃盗の罪を含む併合罪に対する一個の刑であり、刑法二一条にいう「本刑」とはこれを指すとして、第一審の算入方法を是認している。そこで、本件は、「非勾留罪の﹃懲役刑及び罰金刑﹄

及び勾留罪の﹃懲役刑﹄との間で共通する﹃懲役刑﹄が、いわば﹃かすがい﹄となって﹃懲役刑及び罰金刑﹄という統一した刑が言い渡されている事案」と捉えることもできるのであって、「上記一審判決や原判決の見解による説明が可

能である

」事案であったといえよう。 9)

  これに対し、①決定は、こうした本件の特殊性に何ら言及することなく、併合罪関係にある数罪を併合審理して一個 の主文による刑を言い渡す場合一般について判断を示したものと解され、これにより「主刑二種」に関する従来の高裁判例は黙示的に変更されたことに留意する必要がある

10

 

 

3

併合罪と「本件」

(ア)  勾留事実に係る刑と「本刑」との関係

  刑法二一条にいう「本刑」とは勾留事実に係る刑をいうとする考え方は、①決定事件における検察官の上告趣意にも

あるように、その根拠を「事件単位の原則」に求めるものである。上記大阪高裁平成二年判決も、「刑事訴訟法六〇条

によれば、勾留は事件単位になされることが明らかであるから、仮に勾留要件を具備しない事実(⋮⋮)が他の勾留要件を具備し、勾留状の発せられた事実(⋮⋮)と併合して審理を受けたとしても、︹前者の︺事実に対する刑に未決勾

留を算入することが︹衡平の︺理念に合致するとは考えられない」としている。

  これに対し、①決定は、「刑法は、併合罪関係にある数罪を併合審理して刑を言い渡す場合、その数罪を包括的に評

価して、それに対し一個の主文による刑を言い渡すべきものとしているから、その刑が刑法二一条にいう﹃本刑﹄に該

  (四六三)

(17)

う「二〇八同志社法学 六二巻二号

当すると解すべきであ︹る︺。」とし、また、②決定は、「刑法二一条は、裁判所が未決勾留日数の全部又は一部を刑に

算入するのが相当であると認める場合に、勾留事実に係る罪に対する刑に算入するのを原則と︹するところ︺、⋮⋮刑法は、併合罪関係にある数罪を併合審理して刑を言い渡す場合、その数罪を包括的に評価して、それに対し一個の主文

による刑を言い渡すべきものとしているから、勾留事実に係る罪を含む併合罪関係にある数罪についての刑に未決勾留日数を算入する限り、上記原則に従ったものであ︹る︺。」と判示した。

  このように①及び②両決定は、併合罪処理により一個の主文で刑の言渡しがなされることを重視する考え方に立つものであり、この点で、「複数の有期懲役刑に係る併合罪処理に関し、最一小判平成一五年七月一〇日刑集五七巻七号九

〇三頁︹新潟女性監禁事件︺が刑法四七条の法意として示した点と共通する考え方に立脚する

て文の犯罪事実に対して一個の主に数よる刑の言渡しがなされるとし個む合処も、併含として罪理れた勾留事実をさ えのといとる。もっ」も 11

も、だからといって、その言い渡された刑を「本刑」と解すべき理由は必ずしも明らかでない。検察官の上告趣意にあるとおり、「本刑」とは勾留事実に係る罪の刑をいい、併合罪処理の結果としての刑の個数の問題とは直接の関係がな

いとも考えられるからである。

  他方、「事件単位の原則」により「本刑」の解釈が決定されると考えるのはどうであろうか。大阪高裁平成二年判決は、

勾留は事件単位になされることから、勾留要件を具備しない事実に対する刑に未決勾留日数を算入することは衡平の理念に合致するとは考えられないという。検察官の上告趣意も「事件単位の原則」に依拠するものである。しかし、事件

単位の原則とは、「身柄拘束処分を実施するに際して手続的に明示された被疑事実のみを考慮できるとするものである

あ束「本刑」解釈に対する拘力」を認めることには無理がに則た原解されており、こうし理解からは、「事件単位のと 」 12

るといえ

趣るから決せられべるきであると解旨のれ義、「本刑」の意は度、やはり算入制さ 13

。もっとも、刑法二一条の 14

  (四六四)

(18)

う「二〇九同志社法学 六二巻二号 趣旨が「衡平の理念」の維持・実現にあることは前述のとおりであるが、その理念の具体的な内容に対する理解は必ずしも一致しているわけではなく、このことは、同一の理念を前提としながら算入の具体的な基準をめぐる全部算入説と 一部算入説の対立

訴るを性確明の断判、がすめ要を討検な的本抜る求つ関点該当、「ばれす底徹を観つういと済救な的後事、すに念理」 と対窺もらか在存の立説の学るぐめを入算記うがこ」の平衡、「はに釈解刑や本、「でこそ。るきで前 15

訟手続で勾留された者は、それが、どの事実を基礎として発付された勾留状によるものかを問わず、また、およそ有罪判決により言い渡された刑であれば、それを﹃本刑﹄として未決勾留日数を算入することができ︹る

︺」との考え方も 16

説得力を持ちうるものと思われる。

(イ)  算入の条件

  最高裁昭和三〇年判決は、「検察官は他の公訴事実について勾留の要件を具備していることを認めても、それについ

てさらに勾留の請求をしないことがあるのは、すでに存する勾留によって拘束の目的は達せられているからであ︹る︺」と判示しており、ⅰ非勾留事実が勾留要件を具備することや、ⅱ当該勾留が非勾留事実の審理に利用されたことが、算

入の条件となるのかという問題が残されていた。

  ⅰにつき、上記大阪高裁平成二年判決は、勾留と本刑との間の共通性・関連性を要求して勾留要件の具備が算入の条件となるとする判断を示している。ⅱの「利用関係」については、①決定事件の第一審判決は、「︹刑︺法二一条におい

て算入可能な未決勾留日数に被疑者勾留の期間が含まれると解されていることとの対比や、現実に既に起訴された事実の勾留を利用し、別途身柄拘束の手続を採らないまま捜査を遂げ追起訴する事件が多数存在することなどを考慮する

と、結果として併合審理されている限り、併合決定がなされる以前の期間であっても、少なくとも、ある事実の勾留が

  (四六五)

(19)

う「二一〇同志社法学 六二巻二号

他の事実の捜査と審理に利用されていれば、その期間を含めて算入が可能であると解するべきである。」と述べて、利

用関係の存在を算入の条件としたが、その控訴審判決は、「本件における勾留事実(⋮⋮)にかかる刑法二一条の﹃本刑﹄とは、﹃懲役刑及び罰金刑﹄を指すものと解する」ことを理由に、利用関係の有無を問わず、算入が可能であると判断

した。

  ①決定は、勾留事実に係る罪を含む併合罪関係にある数罪についての刑に未決勾留日数を算入する限り、「特段の制

限なく

定勾さ用利に理審の実事留非てが留勾該当、たま、もれいっと決①、もとっも。るな能な可入算、もてしとたっかてあ しでるいてれさ解とるあのでもたし示判旨るきで入。た」要刑の罪いなさた満を件留が勾が実事留勾非、てっ算 17

は、併合罪関係にある数罪を併合審理して一個の主文での刑の言渡しがなされる場合に関する判断を示したものであるため、A事実及びB事実が主文一個による刑の言渡しのなされるべき併合罪(又は科刑上一罪)の関係にある場合であ

っても、A事実が不起訴となったりして両事実の審理が併合されることがなかったときの、A事実による未決勾留日数のB事実に対する刑への算入は、本決定の射程範囲外である

18

(ウ)  本刑算入の不当

  ①及び②両決定により、「主刑二種」の場合につき、「未決勾留日数の算入方法の違法を理由として検察官が控訴するといった事態は解消される

月(訴理由となる(最二の)判昭和二九年六控条の一、未決勾留日数算」入は刑訴法三八が 19

二日刑集八巻六号七九四頁)ので、裁定通算に対する不服が主張されることはありえよう。たとえば、懲役刑と罰金刑が併科された上、

対や合場たれさなが入算てしに双刑金罰、れさと刑実もと方、

懲役刑について執行猶予の言渡し

がなされ、懲役刑に対して算入がなされた場合などが考えられる。

付を束拘の柄身りよに納には刑金罰、はていつ受

  (四六六)

(20)

う「二一一同志社法学 六二巻二号 けずに済むのに、その機会を与えずに、自由刑の執行期間を長くする点で、

け入じ生が益利の算いはに的果結、な点き人受を益利不は告で被れぞれそ、はと行取の執た猶予がり由消されなかっ刑

刑ついては、罰金にの執行がなされ、自 ることになりうるからである。いずれの場合も、未決勾留日数の算入は、情状により決すべき刑の量定としてではなく、事後救済のためになされるものである以上、被告人に有利な算入が要請されると解することとなろう

20

 

4

「主文二個」の場合における「本刑」

でで、「は見意足補同。るあけ留だるいてれ触にれこが勾事意関文主の個別、くなに係の実罪合併が実事留勾非と見足   「「きべす解うどを」刑本るにけおに合場の」個二文か主補断田古、ずらおてし示を判いは見意数多の定決①、てつ

刑が言い渡される場合について、未決勾留日数の算入は勾留されている事実に対する刑に対して行われることが原則」であり、「勾留事実と併合罪又は科刑上一罪の関係にない非勾留事実に係る刑に対する未決勾留日数の算入は、それが

合理的である特段の事情が認められる場合に限られると解すべきである」というものである。②決定もほぼ同様の判断を示している。最高裁昭和三九年判決は、「未決勾留日数の裁定通算を定めた刑法二一条の法意に照らし、まず勾留状

が発せられた罪に対する刑を本刑として未決勾留日数中通算すべき日数をその刑に算入するものと解するを相当とす

る」としており、また、大審院大正九年判決の「本刑に算入することを得べき未決勾留日数は右本刑を以て処断すべき当該公訴事実に付き発したる勾留状の執行に依り生じたる未決勾留日数なることを要す」との判示部分は、その後の判

例によって変更されていない。①決定の判断は、「主文一個」の事案について示されたものであるため、「主文二個」の場合における「本刑」を勾留事実に係る罪の刑と解しても、当該判断と矛盾することにはならないといえよう

21

  ②決定は、①決定同様、「主文一個」の事案に関するもので、同決定の判示する「原則」にあたるため、「例外」の判

  (四六七)

参照

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