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銀行規制,信用調整および認知バイアス

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(1)

著者 中井 教雄

雑誌名 社会科学

巻 40

号 4

ページ 75‑104

発行年 2011‑02‑28

権利 同志社大学人文科学研究所

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012314

(2)

1.はじめに

本稿では,Bri

sandCantale

(2004 )のモデルに,Catari

neu-Rabelletal.

(2005 ) のリスク・ウェイトの設定を導入することにより,預金保険適用時に生じる社会厚生の 損失を考慮した自己資本比率規制が,貸出市場および社会厚生に及ぼす影響について考 察する。本稿のモデルでは,行動ファイナンスの分野において「主観的確率バイアス」

を表すウェイト関数が組み込まれており,銀行行動に認知バイアスが生じる状況におい てさえ,預金保険適用時に生じる社会厚生の損失を考慮した自己資本比率規制が,利己 的な銀行行動を抑制することにより,社会厚生の改善および貸出量の適正な調整が可能 であるということが示されている。

すなわち,本稿の目的は,預金保険適用時に生じる社会厚生の損失を考慮した自己資 本比率規制が,利己的な銀行行動を抑制することにより,貸出量の調整を適正に誘導す

銀行規制,信用調整および認知バイアス

中 井 教 雄

本稿では,社会厚生における自己資本比率規制の有効性について分析したBris andCantale(2004)のモデルに,Catarineu-Rabelletal.(2005)のリスク・ウェ イトの設定を導入し,さらに,行動ファイナンスで示されるウェイト関数を組み込ん だモデルを構築することにより,預金保険適用時に生じる社会厚生の損失を考慮した 自己資本比率規制が,貸出市場および社会厚生に及ぼす影響について考察する。

その結果,銀行が将来の経済見通しについて,行動ファイナンスで示されているよ うな認知バイアスが生じている状況においても,預金保険適用時に生じる社会厚生の 損失を考慮した自己資本比率規制が,利己的な銀行行動を抑制することにより,貸出 量の調整を適正に誘導することができることが明らかにされた。さらに,このような 自己資本比率規制が,社会厚生を改善させることができるということが示された。

リーマン・ショックに端を発した金融危機を踏まえ,新たな銀行規制の1つとして,

可変的な最低所要自己資本比率の導入について議論されているが,本稿で示された自 己資本比率規制の在り方は,その一例であると言える。

(3)

ることができると同時に,社会厚生の改善が可能であるということを示すことである。

まず,Bri

sandCantale

(2004 )のモデルとその背景について概観する。預金保険 制度は,本来,銀行がデフォルトした場合に,預金者(特に小口預金者)の資産を保護 することを目的として設立された。しかし,その目的とは逆説的に,預金保険機構によ る預金保証のために,銀行が過度なリスクテイキングを行うというモラル・ハザードが 生じる(例えば,GennotteandPyl

e

(1991 )および

Johnetal.

(2000 ))。そのため,

預金保険適用時に生じる社会厚生の損失を考慮した自己資本比率規制の設定が必要であ り,これにより,銀行が過度なリスクテイキングを行うインセンティブが消失し,社会 厚生が改善することができる。この点が,Bri

sandCantale

(2004 )のモデルによっ て示されている。

自己資本比率規制に関する研究分野は,主として次の2つに分類される。1つは,自 己資本比率規制を導入することにより,社会厚生水準を改善させることを含意とする研 究である(例えば,GennotteandPyl

e

(1991 ),Hardi

ng,Liang,andRoss

(2009 ) および

Kato,Kobayashi,andSaita

(2010 ))。いま1つは,自己資本比率規制の導入 によるクレジット・サイクルの増幅作用(プロシクリカリティ)を示した上で,その特 性を低減させるメカニズムを理論的または実証的に示した研究である(例えば,Estrel

la

(2001 ),Pederzol

iandTorricelli

(2005 )および

Catarineu-Rabelletal.

(2005 ))。

上述の先行研究で指摘された問題が現実に生じたのが,サブプライムローン問題およ びリーマン・ショックに端を発した金融危機である。この金融危機により,自己資本比 率規制による景気循環の増幅作用の問題が露呈した。これは,景気拡大(後退)期にお ける銀行の自己資本比率の上昇(低下)が,銀行の資産保有の増大(減少)を促すこと により,更なる景気の拡大(後退)をもたらすというものである。この点を踏まえ,新 たな銀行規制の1つとして,可変的な最低所要自己資本比率の導入について議論されて いる。

ここで,留意すべき点は,銀行が,必ずしも経済情勢について正確に判断する訳では なく,経済情勢について過度に楽観・悲観視することで,最適な資金供給が行われない 状況が生じることを考慮して,新たな銀行規制を構築しなければならないということで ある

1

例えば,晝間・安田(2004 )は,銀行が,近視眼的な収益増強行動に陥ることによ

り,過剰な貸出を行うことを示した上で,経済システム全体に負の外部効果をもたらす

可能性を指摘している。また,樋口・龍岡(2008 )は,これまでの金融危機(例えば,

(4)

日本の不良債権問題,LTCM 危機およびサブプライム問題など)が,金融市場関係者 によるリスク量の錯誤および誤ったリスクテイキングに起因していた点を指摘し,規制 監督機関によるリスクテイクキング抑制政策の必要性を主張している。さらに,溜川・

福田(2010 )は,信用市場における期待計測の誤りが信用収縮とその後の不況を生じ させるということを示している。

特に,サブプライム問題を起因とする金融危機が生じた理由の1つとして,植田

(2009 )は,歴史から教訓を得ず,近い過去から将来を推測する人間行動の問題性を挙 げている。

今回の金融危機において,証券化商品(およびその原資産)の時系列データが存在し ていなかったため,金融機関は,従来のアプローチによるリスク推定を行うことができ ず,格付けを過信したことにより,デフォルト率およびデフォルト時損失率の誤認に陥っ た。このように,投資決定者が,予期せぬ損失よりも収益性を過大に評価することによ り,過度にリスクを許容する行動は,行動ファイナンスの分野において,「自信過剰仮 説」と呼ばれている。

逆に,金融危機が生じると,金融機関は過度のリスク回避を行うようになった。特に,

中央銀行が大幅な金融緩和政策を行ったとしても,銀行が貸出よりもむしろ国債保有を 増加させる行動が見受けられている。これは,銀行が,僅かにでもデフォルトが生じる 可能性のある貸出よりも,確実に収益の実現が可能な国債を選好するためである。この ような行動は,行動ファイナンスの分野において,「曖昧性回避」と呼ばれている。

行動ファイナンス(または行動経済学)において,経済主体の誤りは構造的である

(平均しても解消されない)ので,限定合理的な経済主体の行動は,合理的な経済主体 の行動に影響を与えることにより,市場および経済の結果を動かしうる。

Hirshleifer

(2001 )は,心理学を応用して投資家の意思決定のバイアスを対象にし た諸研究を紹介した上で,投資家の非合理性を強調している。また,Bruhi

netal.

(2010 )は,個人のリスクテイキングにおいて,ほとんどの投資決定者が確率をウェイ ト化して意思決定を行うことを示している。

自己資本比率規制に関する先行研究では,社会厚生の改善あるいは経済に対する景気 増幅(プロシクリカリティ)効果の低減を目標とする自己資本比率規制を構築する上で,

銀行が特定の情報をどのように解釈して意思決定するのかという問題が無視されている。

それに対し,本稿では,銀行の期待収益が事後的な収益と大幅に異なる原因を,銀行の

ヒューリスティックによる主観的確率の客観的確率(真の確率)からの乖離として捉え

(5)

ることにより,この場合における銀行の自己資本規制の問題点について指摘している

2

。 この点が本稿のモデルの特徴である。

本稿の構成は以下の通りである。次節では,通常の自己資本比率規制下において,利 潤最大化を行う銀行経営者および社会厚生最大化を行う金融当局が,それぞれ達成する 社会厚生水準が異なることを明らかにする。第3節では,第2節で示された社会厚生水 準の差を解消させ,金融当局が達成するような社会厚生水準に基づいた自己資本比率規 制の在り方を示す。第4節では,第3節で示された自己資本比率規制が,銀行の信用調 整機能に対してどのように作用するのかについて検証する。最後に,本稿のまとめおよ び今後の課題について述べる。

2.モ デ ル

2.1 モデルのセット・アップ

本稿では,Bri

sandCantale

(2004 )のフレームワークを採用し,このフレームワー クに

Catarineu-Rabelletal.

(2005 )で導出された自己資本比率規制の制約式を導入 する。

t

0,1,2

の2期間モデルを考える。経済には,銀行(経営者),銀行株主,預金者,

中央銀行および規制監督者(金融当局)が存在する。これらのエージェントはすべて,

リスク中立的とする。銀行を,(期待)利潤を最大化するエージェントとし,規制監督 者を,社会厚生を最大化するエージェントとする。

銀行規制は,t =

0

で設定される。中央銀行は,預金量(D )に準備率

(0 <

1

) を掛けて導出される準備

Rを銀行に課す。また,規制監督者は,銀行に対して,次式

のように表される自己資本比率規制を事前に課す。

K

・L・・

(1 )

ここで,Kを自己資本,Lを貸出量,・ を最低所要自己資本比率とする。また,・ はリ

スク・ウェイトであり,バーゼルⅡ・BIS規制の場合,プロジェクト(貸出)の成功

確率(p )の減少関数となる

3

。これは,銀行が内部格付手法(基礎的内部格付手法ま

たは先進的内部格付手法)を採用するものと仮定しているためである

4

。つまり,本稿

のモデルでは,先行研究と同様に,リスク・ウェイト(・ )が,成功確率(p )に依存

(6)

しないケースは,現実のバーゼルⅠ・BIS 規制におけるリスク・ウェイトに該当し,

リスク・ウェイト(・ )が,成功確率(p )と負の相関にあるケースは,現実のバーゼ ルⅡ・BIS 規制における

PIT

(Poi

ntInTime

)型のリスク・ウェイトに該当する

5

銀行は,以下のバランスシート制約(予算制約)に直面しているものとする。

L

+R=

D

+K (2 )

ここで,Dは預金量である。このとき,準備Rを消去した予算制約式を,以下のよう に表すことができる。

L=(1

D

+K (3 )

t

=1において,銀行は貸出を行い,t =2 において,確率

p

で貸出利子率(r

L

)と貸 出元本(L )から構成される元利合計(・

1・rL・L

)が返済され,確率1-p ですべての 貸出がデフォルトする。貸出の元利が返済される場合,銀行は,t =

2

において,預金 者および株主に対して,資金調達コストを含めて預金と自己資本を返済する。また,モ デルの単純化のために,貸出がデフォルトした場合であっても,預金利息および資本コ ストは返済することができるものとする。

従って,銀行の(期待)利潤関数(・ )は,次式のように示される。

・・prLL・rDD・rKK・c

2L2

(4 )

ここで,r

D

は預金利子率であり,r

K

は資本コストである

6

。また,(4 )式の最後の項は,

貸出費用関数を表しており,c はこの関数のパラメータとする(0 <

c

1

)。すなわち,

銀行は,(1 )式および(3 )式を条件として,(4 )式を最大化する。

よって,銀行の最適貸出量は,(1 )式および(3 )式を条件として,(4 )式をL ,D

および

Kについて最大化することにより導出される。

(7)

MaxL,D,K ・・prLL・rDD・rKK・c

2L2

(P1 )

s.t. L・ ・1・・・D・K and K

・L・・

最適化問題(P1 )をラグランジュ乗数法を用いて解くことにより,銀行の最適貸出 量(L

B

)は,次式のように示される

7

LB・ 1

cprL・rD1・・・

1・・・rK・・

・・

・・

・・

・・

・・

・・

(5 )

2.2 ウェイト関数の導入

本稿では,銀行の期待収益が事後的な収益と大幅に異なる原因を,銀行のヒューリス ティックによる主観的確率の客観的確率(真の確率)からの乖離として捉えることによ り,銀行が将来の経済見通しについて,必ずしも規制監督者と同じように認識するとは 限らないということを表現する。

ヒューリスティックとは,心理学における人間の思考(推論)に関する簡便法を意味 する。この簡便法は,必ずしも正確な値を導くことができる訳ではないが,ある程度の レベルで正解に近い解を得ることができる方法である

8

。この手法において,精度は保 障されないが,推定される値の算出時間が少なくて済む。

合理的な選択では,同種の問題において,異なる状況でも結果の予想(確率評価)は 不変であることが前提であり,この前提に反する状況を「普遍性の失敗」といい,確率 予想に主観的なバイアスが生じる。このとき,行動ファイナンスの分野において,事前 に分かっている確率を「客観的確率」というのに対し,推測した確率を「主観的確率」

という。

この客観的確率と主観的確率との関連性を明示する有効な数理モデルとして挙げられ

るのが,KahnemanandTversky (1982 ),および

Prelec

(1998 )によって提案され

ているウェイト関数である

9

。ウェイト関数は,意思決定者が不確実性下において,実

際に生起する確率を直接認識している訳ではなく,何らかのバイアスを伴って認識して

いることを,数理モデルで表現したものである。これらのウェイト関数により,不確実

性に対する経済主体の態度がどのようなバイアスを持っているのかを表すことができる。

(8)

ここで,入力情報(ここでは

p

)が無意識に取得され,予測結果(ここでは

w・p・

) がブラックボックスを介して経済主体(ここでは銀行)に認識されるということに注意 する。すなわち,本稿において,銀行は,客観的確率

p

を認識するのではなく,主観 的確率

w・p・

を直接的に認識する。

以上の点を踏まえ,本稿では,次式のように示されるウェイト関数を用いることによ り,銀行による確率の見誤りを表現する。

w・p・・p 0・・

(6 )

上式のウェイト関数において,・ は,銀行による経済見通し(正常債権率

p

)に対す る誤りの度合いを表している

10

。このウェイト関数を図示すると,図1のようになる。

ここでの客観的確率は,正常債権率

p

であるので,比較的高い領域にあると言える。

そのため,以降の分析は,この確率

p

の状態が,図1のAの領域にあるものとして行 われている

11

この図において,0

・・・1

の場合,この関数は45 度線よりも上部にあり,主観的確 率は客観的確率よりも高く認識されていることになる。このとき,客観的確率が上昇し たとしても,変化前から主観的確率が客観的確率よりも高く認識されているので,主観 的確率は客観的確率ほど上昇しない。すなわち,・

w・p・・・p

となる。

一方,1

・・

の場合,この関数は45 度線よりも下部にあり,主観的確率は客観的確率 よりも低く認識されていることになる。このとき,客観的確率が上昇すると,変化前か

図1 本稿でのウェイト関数

( ) p

w

1

A

O 1 p

(9)

ら主観的確率が客観的確率よりも低く認識されているので,主観的確率は客観的確率よ りも大きく上昇する。すなわち,・

w・p・・・p

となる。

また,・

・1

のとき,w

・p・・p

となり,客観的確率は主観的確率と等しくなり,両 者の変化率も等しくなる

12

このように示されたウェイト関数を本稿での銀行行動に導入すると,最適化問題

(P1 )において,p が

w・p・・p

となり,銀行の最適貸出量(L

B

)は,次式のように示 される。

LB・ 1

cprL・rD1・・・

1・・・rK・・

・・

・・

・・

・・

・・

・・

(7 )

上式により,行動ファイナンスで示されているような認知バイアスが生じている状況 を銀行行動に組み込むことができ,銀行が規制監督者とは異なり,将来の経済見通しに ついて誤った認識を行うことを表現している。

2.3 規制監督者の最適貸出量の決定

規制監督者は,銀行の費用・収益構造,すなわち(4 )式で示される利潤関数を認識 しているものとする。また,t =

2

において,貸出(ポートフォリオ)は,確率

1

-p で貸し倒れになるため,銀行は確率

1

-p でデフォルトする。この場合,預金者は,預 金保険制度により保護されており,預金量

Dの返済が保証されている。銀行がデフォ

ルトする場合, 預金保険が行使され, このとき, 預金量1単位当りに対して,

1・・・・・0・

の社会厚生費用が生じると仮定する

13

規制監督者は,(4 )式で示される利潤関数と,この社会厚生費用を考慮した社会厚 生関数を最大化するような貸出量が,社会的に望ましいと考えるものとする。すなわち,

規制監督者は,(1 )式および(3 )式を条件として,次式のように示される社会厚生関 数(W)を最大化する。

W・prLL・rDD・rKK・c

2L2・・1・p・・1・・・D

(8 )

上式の社会厚生関数は,銀行の利潤関数に,預金保険行使時の社会厚生費用を融合させ

た関数として定義されている

14

。すなわち,(8 )式の最後の項は,預金保険行使による

社会厚生の損失関数を表している。

(10)

このような社会厚生関数を最大化するという規制監督者の行動は,銀行が利潤を得る ことを見込んで信用市場に参入することができ,預金者がいかなる場合でも銀行(シス テム)を利用することができるような理想的な世界が,社会的に重要であるということ を認識する上で合理的であると言える。

よって,規制監督者の最適貸出量は,(1 )式と(3 )式を条件として,(8 )式を

L

DおよびKについて最大化することにより導出される。

MaxL,D,K W・prLL・rDD・rKK・c

2L2・・1・p・・1・・・D

(P2 )

s.t. L・ ・1・・・D・K and K

・L・・

最適化問題(P2 )をラグランジュ乗数法を用いて解くことにより,規制監督者の

(目標とする)最適貸出量(L

R

)は,次式のように示される

15

LR・ 1

cprL・rD1・・・

1・・・rK・・・・1・p・・1・・・1・・・

1・・

・・

・・

・・

・・

・・

・・

(9 )

2.4 銀行および規制監督者の最適貸出量の比較

ここで,銀行および規制監督者の貸出量を比較する。前述のように,リスク・ウェイ ト(・ )は,バーゼルⅠ・BIS 規制のケースにおいて一定であるのに対し,バーゼルⅡ・

BIS

規制のケースにおいて正常債権率(p )に依存する。そのため,両者の最適貸出量

(L

B

および

LR

)の大小関係は,これら2つのケースに分割して比較しなければならな い。まず,バーゼルⅠ・BIS 規制の場合,両者の最適貸出量(L

B

および

LR

)の大小関 係は,次式のようになる。

LB・LR・ 1

crL・p・p・・・1・p・・1・・・1・・・・ 1・・

・・

・・

・・

・・

(10 )

If0・・・・1 then LB・LR If・1・・ then LB・LR

where・1・ ln・rLp・1・・・・・1・p・・1・・・・1・・・・・・・ln・rL・1・・・・

lnp ・1

(11)

従って,銀行は,臨界値(・

1

)以下の慎重さで,あるいは経済の先行き見通しにつ いて過度に楽観的に判断する場合,規制監督者の想定量(最適貸出量)よりも多くの貸 出を行う。これは,銀行が,預金保険行使時の社会費用を十分考慮しない程度に,また はその点についてまったく考慮せず容易に貸出を行うことにより,誤った期待利潤の最 大化を行うためである。すなわち,銀行は,規制監督者よりも過剰にリスクテイキング を行う。

一方,銀行は,臨界値(・

1

)以上の慎重さで,あるいは経済の先行き見通しについ て過度に悲観的に判断する場合,規制監督者の想定量(最適貸出量)以下の貸出しか行 わない。これは,銀行が経済の先行き見通しについて過度に悲観的になっているので,

リスク許容能力を過剰に自制しているためである。このような状態の場合,銀行は貸し 渋りを行っていると言える。

また,バーゼルⅡ・BIS 規制の場合,両者の最適貸出量(L

B

および

LR

)の大小関係 は,次式のようになる

16

LB・LR・ 1

c rL・rK・ rD 1・・

・ ・

p・p・・p11p・・・・1・・

・・

・・

・・

・・

(11 )

If0・・・・2 then LB・LR If・2・・ then LB・LR

where・2

1・ln・・1・・・・rL・rK・・rD・・1・p・・1・・・・・ln・・1・・・・rL・rK・・rD

lnp ・1

上式より,バーゼルⅡ・BIS 規制のケースにおいても,結果はバーゼルⅠ・BIS 規 制のケースと同じになる(ただし,その臨界値は異なる)。すなわち,・ がある臨界値

(各ケースにおいて

1

または

2

)以下(以上)であれば,銀行は過剰(過少)な貸出 を行う。

次節では,このような銀行行動により,社会厚生水準が規制監督者の想定水準と比較

して,どのようになるのかについて検証する。

(12)

2.5 銀行および規制監督者の社会厚生水準の比較

ここでは,銀行が規制監督者の想定量とは異なる貸出を行うことにより,銀行の最適 貸出量を実行することによって達成される社会厚生水準が,規制監督者の想定する最適 貸出量によって達成される社会厚生水準よりも低くなることを示す。

まず,銀行の最適貸出量を実行することにより達成される社会厚生水準(W

B

)は,

次式のように表される

17

WB・ prL・rK・・・・rD・・1・p・・1・・・・1・・・

1・・

・・

・・

・・

・・

・・1

cprL・rD1・・・

1・・・rK・・

・・

・・

・・

・・

・・

・・

・ 1

2cprL・rD1・・・

1・・・rK・・

・・

・・

・・

・・

・・

・・

2

(12 )

また,規制監督者の目標とする貸出量により達成される社会厚生水準(W

R

)は,次 式のように表される

18

WR・ prL・rK・・・・rD・・1・p・・1・・・・1・・・

1・・

・・

・・

・・

・・

・1

cprL・rD1・・・

1・・・rK・・・・1・p・・1・・・1・・・

1・・

・・

・・

・・

・・

・・

・・

・ 1

2cprL・rD1・・・

1・・・rK・・・・1・p・・1・・・1・・・

1・・

・・

・・

・・

・・

・・

・・

2

(13 )

ここで,銀行および規制監督者の貸出量を比較する。両者の社会厚生水準(W

B

およ び

WR

)の大小関係についても,バーゼルⅠ・BIS規制のケースとバーゼルⅡ・BIS規 制のケースに分割して検証する。まず,バーゼルⅠ・BIS規制の場合,両者の社会厚 生水準(W

B

および

WR

)の大小関係は,次式のようになる。

WR・WB・ cLR・c

2・LR・LB

・・

・・

・・

・・

・・LR・LB・・ c

2・LR・LB2・0

(14

1

また,バーゼルⅡ・BIS 規制の場合,両者の最適貸出量(L

B

および

LR

)の大小関係

は,次式のようになる

19

(13)

WR・WB・ prL・・rD・・1・p・・1・・・・ 1 1・・

・・

・・

・・

・・

・・LR・LB・・c

2・L2R・L2B

・ rK・・rD・・1・p・・1・・・・ 1 1・・

・・

・・

・・

・・

・・・・・p・LR・・・p・LB・・0

(14

2

従って,上記2つのケースにおいて,社会厚生水準は,共通して,銀行よりも規制監 督者の方が高くなる。すなわち,銀行は,預金保険行使時の社会費用を考慮せずに,利 己的に(期待)利潤の最大化を行うことにより,過剰に貸出を行うため,銀行の達成す る社会厚生水準は,規制監督者の想定する水準よりも低くなる。あるいは,銀行は,経 済の先行き見通しについて過度に悲観的になることにより,貸し渋りを行うため,銀行 の達成する社会厚生水準は,規制監督者の想定する水準よりも低くなる。

このことから,新たな自己資本比率規制を構築する上で,このような両者の社会厚生 水準の差を考慮することは重要であると言える。次節では,銀行の(最適)貸出量を規 制監督者の目指す貸出量に誘導するような自己資本比率規制を構築することにより,銀 行の利潤最大化行動を通じて決定される最適貸出量によって達成される社会厚生水準が,

規制監督者の目指す社会厚生水準とどのような関係にあるのかについて検証する。

3.社会厚生水準に基づいた自己資本比率規制

3.1 環 境

まず,t =

0

において,規制監督者は,t =

0,1,2

における銀行の行動を予測する。

つまり,仮想上の経済環境において,銀行が,預金準備率(・ )および所与の最低所要 自己資本比率(・

0

)の銀行規制に従い,(期待)利潤最大化を行った場合に達成される 社会厚生水準を算出する

20

。同時に,規制監督者は,預金保険適用時の社会厚生の損失 を考慮した社会厚生を最大化するような貸出量によって達成される社会厚生水準を算出 する。このとき,本稿では,モデルの単純化のために,規制監督者にとって,銀行のヒュー リスティックの度合い(・ )が観察可能であると仮定する。

その結果,最適化問題(P1 )および(P2 )における

0

として,それぞれに対す る最適貸出量およびそれらの貸出量から導出される社会厚生水準を比較する。

ここで,所与の最低所要自己資本比率(・

0

)の下で規制監督者が社会的に最適とする

貸出量(L

R

)およびこの貸出量によって達成される社会厚生水準(W

R

)は,それぞれ

(14)

以下のように導出される。

LR・ 1

cprL・rD1・・0

1・・・rK0・・・1・p・・1・・・1・・0・ 1・・

・・

・・

・・

・・

・・

・・

(15 )

WR・ prL・rK0・・・rD・・1・p・・1・・・・1・・0・ 1・・

・・

・・

・・

・・

・LR・c

2L*2R

(16 )

また,第2節の分析により,両者の社会厚生水準は,規制監督者の方が高くなること が示されている

21

。よって,規制監督者は,銀行の利潤最大化行動による社会厚生水準 を,規制監督者の目標とする社会厚生水準に誘導するような最低所要自己資本比率を別 途銀行に対して定めることにより,前者の社会厚生水準を改善させることができる。

ここで,規制監督者によって銀行に課される新たな最低所要自己資本比率を「新最低 所要自己資本比率」(・

)と定義する。このとき,最適化問題(P1 )において,・を

に置換することにより,最適貸出量(L

B

)およびこの貸出量によって達成される社 会厚生水準(W

B

)は,それぞれ以下のように導出される。

LB・ 1

cprL・rD1・・・ 1・・・rK

・・

・・

・・

・・

・・

・・

(17 )

WB・ prL・rK・・・rD・・1・p・・1・・・・1・・・ 1・・

・・

・・

・・

・・

・LB・c

2L*2B

(18 )

3.2 社会厚生水準に基づいた最低所要自己資本比率の導出

ここでは,以下のアプローチにより,社会厚生水準に基づいた最低所要自己資本比率 の導出を行う。規制監督者が,このような最低所要自己資本比率を決定するためには,

2つの方法が考えられる。1つは,銀行の達成する社会厚生水準そのものを規制監督者 の達成する社会厚生水準に一致させるような最低所要自己資本比率を導出する方法であ る。いま1つは,銀行による利潤最大化行動の結果としての貸出量を,規制監督者によ る社会厚生最大化行動の結果としての貸出量に一致させるような新最低所要自己資本比 率(・

)を導出する方法である。

ただし,通常,社会厚生水準を事前に観察することは不可能であるため,後者の方法

により,新最低所要自己資本比率(・

)を導出する。すなわち,L

B・LR

とし,(15 )

式および(17 )式を用いて

について解く。このとき,・

は,次式のように導出され

22

(15)

・ rL・p・p・・1・・・・ ・・1・・・rK・rD・・・p・・0・・1・p・・1・・・・1・・・p・・0

・1・・・rK・rD

・ ・・・p

(19 )

上式のように,規制監督者にとって所与とされる最低所要自己資本比率(・

0

)とは異 なる新たな最低所要自己資本比率(・

)を銀行に課すことにより,銀行の利己的な貸 出量の増加を抑制することができる。

このような2つの最低所要自己資本比率は,現実的に次のように対応される。まず,

規制監督者にとって所与とされる最低所要自己資本比率(・

0

)は,バーゼル合意におい て世界共通に定められた(すなわちバーゼルⅡ・BIS 規制の「第1の柱」における)

最低所要自己資本比率を表している。また,(19 )式で導出された新最低自己資本比率 は,各国の金融市場において,銀行による過度な(利己的な)行動を回避するために必 要とされる銀行資本の最低水準を示している。すなわち,ここで示された新たな最低所 要自己資本比率(・

)は,現在議論されている可変的な最低所要自己資本比率に対す る1つの対処法であると言える。

ただし,ここで導出された新最低所要自己資本比率(・

)は,銀行の利潤最大化行 動による貸出量を,規制監督者の社会厚生最大化による貸出量に誘導するように設定さ れているが,政策当局による「窓口指導」とは異なる

23

。窓口指導は,商業銀行に対し て,貸出量を直接的に規制・調整するのに対することにより,マネーサプライの調整を 介して景気調節を行う。これに対し,ここで示された最低所要自己資本比率の調整は,

銀行の利潤最適化による貸出量を,規制監督者の厚生最大化による貸出量に一致するよ うに減少させると同時に,資本バッファーを積み増しさせるので,マネーサプライによ る景気変動を平準化するだけでなく,金融機関の安定性も改善させる効果も含んでいる。

3.3 新最低所要自己資本比率(・)の特性

ここでは,(19 )式で示された新最低所要自己資本比率(・

)が,現在議論されてい る最低所要自己資本比率の可変的な規制とどのように対応しているのかということにつ いて検証する。まず,基礎的最低所要自己資本比率(・

0

)と新最低所要自己資本比率

(・

)との間に,以下の関係が成り立つ。

(16)

・・

・・0 ・ ・・p・ ・・・1・・・rK・rD・・・1・p・・1・・・・

・1・・・rK・rD

・ ・・・p

(20 )

If0・・・・・・1・・・rK・rD

1・p then ・・

・・0 ・0 If・・・ then ・・

・・0 ・0

上式は,預金保険適用時における社会厚生の損失が甚大であるような金融システムを 持つ国の場合,世界共通の最低所要自己資本比率(基礎的最低所要自己資本比率(・

0

))

の引き上げが,新最低所要自己資本比率(・

)の上昇をもたらすということを表して いる。一方,預金保険適用時における社会厚生の損失がそれほど甚大ではないような金 融システムを持つ国の場合,基礎的最低所要自己資本比率(・

0

)の引き上げは,世界共 通の最低所要自己資本比率(・

)の低下をもたらす。すなわち,このように,可変的 な自己資本比率規制そのものが,個別銀行に対するミクロ・プルーデンス政策だけでな く,各国の金融システムにも適合した自己資本比率規制であると言える。

また,・

0

の大小関係については,前節と同様に,バーゼルⅠ・BIS 規制のケー スとバーゼルⅡ・BIS 規制のケースに分割して比較する。まず,バーゼルⅠ・BIS 規 制の場合,両者の社会厚生水準(W

B

および

WR

)の大小関係は,次式のようになる。

・・0・ rL・p・p・・1・・・・・1・p・・1・・・・1・・・・0

・1・・・rK・rD

・ ・・・

(21

1

If0・・・・3 then ・・・0 If・3・・ then ・・・0

where・3・ ln・prL・1・・・・・1・p・・1・・・・1・・・・0・・・ln・1・・・・lnrL lnp

また,バーゼルⅡ・BIS 規制の場合,・

0

の大小関係は,次式のようになる。

(17)

・・0・・・1・・・・rL・rK・・rD・・p・p・・p・1・p・・1・・・

・1・・・rK・rD

・ ・・1・p・ ・0

(21

2

If0・・・・4 then ・・・0 If・4・・ then ・・・0 where・4・ 1

lnp

ln・・1・p・・・1・・・・prL・rK・rD・・p・1・p・・1・・・・

・ln・・1・・・・rL・rK・・rD

・・

・・

・・

・・

これら2つのケースにおいて,銀行が経済見通しについて相対的に楽観視する場合

(0

・・・・i

(i =

3,4

)),新最低所要自己資本比率(・

)は基礎的最低所要自己資本 比率(・

0

)よりも高くなるのに対し,銀行が経済見通しについて相対的に悲観視する場 合(・

i・・

(i =

3,4

)),基礎的最低所要自己資本比率(・

0

)は,新最低所要自己資本 比率(・

)よりも低くなる。新最低所要自己資本比率(・

)がこのような特性を持つ のは,銀行の過度なリスクテイキング,あるいは銀行の過度なリスク回避を抑制するよ うに新最低所要自己資本比率(・

)が設定されるためである。

さらに,預金保険適用による社会厚生損失(・ )と新最低所要自己資本比率(・

)と の関係について分析する。ここで,(19 )式を

について偏微分すると,次式のように なる

24

・・

・・・・1・p・・・1・p・・1・・・・・p・・0

・1・・・rK・rD

・ ・・・p・ ・・1・p・・1・・・p・・0

・1・・・rK・rD

・ ・・・p・・0

(22 )

よって,預金保険適用による社会厚生損失が甚大であるほど,銀行に課される最低所 要自己資本比率は上昇する。このことから,預金保険適用による社会厚生損失が甚大で ある国ほど,最低所要自己資本比率を高く設定するべきであるということを示している。

すなわち,米英のような証券市場重視の金融システムよりもむしろ,日独のような銀行 貸出重視の金融システムの方が,通常預金保険適用による社会厚生損失が甚大であると 予想されるので,このような最低自己資本比率の設定は合理的であると言える。

以上により,このような最低所要自己資本比率規制の導入は,社会厚生にとって最適

なものとなり,現在議論されている自己資本比率規制におけるフレキシビリティの導入

について,明確な変動基準を提示している

25

(18)

3.4 新最低所要自己資本比率(・)による社会厚生の影響

上述の新最低所要自己資本比率(・

)の特性について検証する他に,銀行の貸出量

(L

B

)を規制監督者の想定する最適貸出量(L

R

)に誘導させるような最低所要自己資本 比率(・

)により,社会厚生水準が改善されているのかについて検証する必要がある

26

このとき,新最低所要自己資本比率適用後における規制監督者および銀行の最適社会 厚生水準

WR・・0

および

WB・・

は,それぞれ以下の式のようになる。

WR・・0・・ prL・rK0・・p・・・rD・・1・p・・1・・・・1・・0・・p・ 1・・

・・

・・

・・

・・

・LR・c

2L2R

(23 )

WB・・・・ prL・rK・・p・・・rD・・1・p・・1・・・・1・・・・p

1・・

・・

・・

・・

・・

・LR・c

2L2R

(24 )

ゆえに,新最低所要自己資本比率(・

)が導入された場合における両者の社会厚生 水準の差は,次式のようになる。

WB・・・・WR・・0・・ rD・・1・p・・1・・・ 1・・ ・rK

・・

・・

・・

・・

・・

・・

・rL・p・p・・1・・・・・1・p・・1・・・・1・・0・・p・・

・1・・・rK・rD LR

(25 ) ここで,前節と同様に,バーゼルⅠ・BIS規制のケースとバーゼルⅡ・BIS 規制の ケースに分割して比較する。まず,バーゼルⅠ・BIS 規制の場合,両者の社会厚生水 準(W

B

および

WR

)の大小関係は,以下のようになる。

WB・・・・WR・・0・・ rD・・1・p・・1・・・ 1・・ ・rK

・・

・・

・・

・・

・・

・・

・rL・p・p・・1・・・・・1・p・・1・・・・1・・0・・・

・1・・・rK・rD LR

(26

1

また,バーゼルⅡ・BIS 規制の場合,両者の社会厚生水準の大小関係は,次式のよ

うになる。

(19)

WB・・・・WR・・0・・ rD・・1・p・・1・・・ 1・・ ・rK

・・

・・

・・

・・

・・

・・

・rL・p・p・・1・・・・p・1・p・・1・・・

・1・・・rK・rD LR

(26

2

) このとき,バーゼルⅠ(Ⅱ)・BIS 規制下における規制監督者と銀行の社会厚生水準 の差について,以下の命題が成り立つ

27

命題1.

バーゼルⅠ(Ⅱ)・BIS 規制下における規制監督者と銀行の社会厚生水準の大小関係 は,以下の3 つのケースに分類され,いずれのケースにおいても,新最低所要自己資本 比率(・

)により,銀行の社会厚生水準は,少なくともセカンド・ベストに改善され る。

A.0

・・・・

の場合,W

B・・・・WR・・0・・0

となる唯一の

5・・7

とすると,

WB・・

WR・・0

の大小関係は,以下のようになる。

0・・・・5・・7

のとき:

WB・・・・WR・・0

・・・5・・7

のとき:

WB・・・・WR・・0

5・・7・・・

のとき:

WB・・・・WR・・0

B.0

・・・・

場合,W

B・・

WR・・0

の大小関係は,常に,W

B・・・・WR・・0

となる。

C.

・・

の場合,W

B・・・・WR・・0・・0

となる唯一の

6・・8

とすると,

WB・・

WR・・0

の大小関係は,以下のようになる。

0・・・・6・・8

のとき:

WB・・・・WR・・0

・・・6・・8

のとき:

WB・・・・WR・・0

6・・8・・・

のとき:

WB・・・・WR・・0

命題1により,バーゼルⅠ・BIS 規制およびバーゼルⅡ・BIS 規制下における規制 監督者と銀行の社会厚生水準の大小関係は,預金保険適用時における社会厚生の損失の 度合い(・ )および銀行のヒューリスティックの度合い(・ )に依存する

28

まず,預金保険適用時における社会厚生の損失がそれほど甚大ではないような金融シ

ステム(すなわち,0

・・・・

のケース)において,銀行が経済見通しについて過度

(20)

に悲観視している場合(・

5・・7・・・

),銀行の社会厚生水準は,規制監督者の想定する 社会厚生水準を下回り,セカンド・ベストとなる。これは,銀行が規制監督者の想定量 よりも少ない貸出しか行わないことにより,預金保険適用時の社会厚生損失の低減より も期待収益の減少の方が大きくなるためである。

これに対し,預金保険適用時における社会厚生の損失がそれほど甚大ではないような 金融システム(すなわち,0

・・・・

のケース)において,銀行が経済見通しについ てそのように考えていない場合(0

・・・・5・・7

),銀行の社会厚生水準は,規制監督 者の想定する社会厚生水準を上回る。これは,銀行が規制監督者の想定量よりも多くの 貸出を行うことにより,預金保険適用時の社会厚生損失の増大よりも期待収益の増加の 方が大きくなるためである。

また,預金保険適用時における社会厚生の損失が甚大であるような金融システム(す なわち,・

・・

のケース)において,銀行が経済見通しについて過度に悲観視してい る場合(・

6・・8・・・

),銀行の社会厚生水準は,銀行の社会厚生水準は,規制監督者の 想定する社会厚生水準を上回る。これは,銀行が規制監督者の想定量よりも少ない貸出 しか行わないことにより,預金保険適用時の社会厚生損失の低減の方が期待収益の減少 よりも大きくなるためである。

一方,預金保険適用時における社会厚生の損失が甚大であるような金融システム(す なわち,・

・・

のケース)において,銀行が経済見通しについてそのように考えてい ない場合(0

・・・・6・・8

),銀行の社会厚生水準は,規制監督者の想定する社会厚生 水準を下回り,セカンド・ベストとなる。これは,銀行が規制監督者の想定量よりも多 くの貸出を行うことにより,預金保険適用時の社会厚生損失の増大の方が期待収益の増 加よりも大きくなるためである。

以上の結果により,本稿で示された新たな最低所要自己資本比率(・

)を銀行に課 すことにより,銀行の達成する社会厚生水準を少なくともセカンド・ベストなものに改 善させることができる。

次節では,このような自己資本比率規制が,商業銀行による過度な貸出量の増大およ

び貸し渋りを防ぐだけでなく,景気後退期を想定した資本バッファーの積み増しおよび

景気後退期における資本バッファーの取り崩しを行うことができるため,貸出量の調整

を適正に誘導することができること明らかにする。

(21)

4.社会厚生水準に基づいた自己資本比率規制による信用調整機能

本節では,銀行が将来の経済見通しについて,行動ファイナンスで示されているよう な認知バイアスが生じている状況においても,預金保険適用時に生じる社会厚生の損失 を考慮した自己資本比率規制すなわち,前節で導出された新最低所要自己資本比率

(・

)が,利己的な銀行行動を抑制することにより,貸出量の調整を適正に誘導するこ とができる点を明らかにする。

そこで,銀行および規制監督者それぞれにおける最適貸出量の経済情勢(p )に対す る感応度について検証する。この分析を行うためには,現行の自己資本比率規制下にお ける銀行の最適貸出量(L

B

)と,新最低所要自己資本比率規制下における銀行の最適 貸出量(L

B

)に対する経済情勢(p )の変化による影響を比較する必要がある。この場 合,現行の自己資本比率規制下における銀行および規制監督者の最適貸出量,すなわち

(7 )式で示された銀行の最適貸出量(L

B

)と,(9 )式で示された規制監督者の最適貸 出量(L

R

)に対する経済情勢(p )の変化による影響について分析を行えばよい。これ は,新最低所要自己資本比率(・

)により,銀行の最適貸出量(L

B

)が,L

B

となり,

規制監督者が目標とする最適貸出量(L

R

)に一致するためである。このとき,経済情 勢の変化によるこれら2つの貸出量に対する影響として,両者の経済情勢(p )に対す る弾力性について考察する。銀行の最適貸出量(L

B

)および規制監督者の最適貸出量

(L

R

)の経済情勢(p )に対する弾力性は,それぞれ以下のように表される。

・LB

・p・ p

LB rL・・・1・・・rK・rD・・ 1・・ ・・・

・p

・・

・・

・・

・・

・・・p

・ prL・rD1・・・・p

1・・ ・rK・・・p

・・

・・

・・

・・

・・

・・

・1

(27 )

・LR

・p・ p

LR rL・・1・・・・1・・・p・・・

1・・ ・・・1・・・rK・・rD・・1・p・・1・・・・・・ 1・・ ・・・

・p

・・

・・

・・

・・

・p prL・rD1・・・・p・

1・・ ・rK・・・p・・・1・p・・1・・・1・・・・p・ 1・・

・・

・・

・・

・・

・・

・・

・1

(28 )

まず,バーゼルⅠ・BIS 規制下において,銀行および規制監督者の最適貸出量(L

B

および

LR

)の経済情勢(p )に対する弾力性の差は,次式のように表される。

参照

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