早稲田大学大学院国際情報通信研究科
博 士 論 文 概 要
論 文 題 目
グローバル時代の国際標準化教育の 設計に関する研究
Research on the Design of International Standardization Education in the Global Era
申 請 者
中西 浩
HIROSHI NAKANISHI
2014 年 2 月
1.あらまし
社会や産業のグローバルが進展していく中で,情報通信は,単にコミュニケーションや情 報の流通の手段に留まらず,物作り,再生可能エネルギーの利用や新しい都市構造などの構 築の実現を支える役割を担うようになってきている.かかる状況において,日本政府は,平 成 25 年の 6 月に日本再興戦略を定め,その中で,海外市場獲得のための戦略的取組みを展 開するとある.海外市場獲得のための戦略的取組みとして,国際標準化活動への取組みがあ る.上述のように,国際標準化への取組の重要性は一層大きくなっているが,日本において は,国際標準化の重要性についての認識と人材パワーが十分とは言えず,国際標準化人材輩 出のための国際標準化教育の強化が強く望まれている.
このような状況を受け,筆者は,大学院における国際標準化教育に対する社会ニーズの調 査・分析と,これをもとにした国際標準化教育のあるべき姿と教育内容,大学院生・企業人 を対象にした国際標準化教育プログラムの設計,教育プログラムの設計のための大学教育研 究情報の収集・分析システムの設計と開発,教育プログラムの時間割設計への遺伝的アルゴ リズムの適用,教育プログラムに関わる副専攻教育制度の設計および国内外の大学との連携 教育プログラムについて研究を進めてきた.
本論文は,これらの研究成果をまとめたものである.
第 1 章では,グローバルビジネスの時代において,国際標準獲得と国際標準化人材教育の 重要性を明らかにしつつ,国際標準化教育に関する研究の背景と意義,従来の研究の内容を 分析し,これに基づいて,国際標準化教育の設計についての本研究の目的と概要を述べる.
第 2 章では,国際標準化教育の設計に関わる課題を抽出し,研究課題を設定する.即ち,
先行研究成果の調査とアンケート結果の分析をもとに,「国際標準化人材が具備すべき知 識・能力--知の塊――の定義」,「「知の塊」に基づく国際標準化教育プログラムの設計」,
「科目の知の抽出」,「教育プログラムの時間割設計」,「副専攻教育制度の設計」,「大学連携 による国際標準化教育」の6つの研究課題を設定する.
第3章では,国際標準化教育に対する社会ニーズを,先行研究やアンケート結果をもとに 明らかにし,教育が提供すべき「知の塊(集合)」について,先行研究等をもとに定義する.
これをもとに,教育方法として,「複数の科目が提供する知を組合せ,教育が提供すべきと 定義した「知の塊」を提供する」教育プログラムによる方法が望ましいことを明らかにする.
このため,科目が提供する知を,「形態素解析によるシラバスに含まれる用語の抽出と,知 に相当しない用語の除去」により抽出し,「定義した「知の塊」と科目が提供する知のマッ チング処理」により,教育プログラムの構成科目を設計する方法を提案する.提案した方法 を用いて,大阪大学大学院生および企業人向けの国際標準化教育プログラムの具体設計例と して,大阪大学の 5 科目と早稲田大学の 2 科目で構成したプログラムの設計を示し,平成 23 年度から開講した結果について,受講学生へのアンケートデータも含めて良好な開講結 果を明らかにする.
更に,大学院での「国際標準化」の教育プログラムを,国内や海外の大学と連携して実施す る取組として,大阪大学と早稲田大学の間での,遠隔講義システムを用いた国際標準化科目 の相互提供と,ディベードを含むディスカッション形授業などの先進的取組とその効用につ いて述べる.加えて,大阪大学と早稲田大学に加え,マレーシア・日本国際工科大学院(MJIIT)
との連携実施に向けた,3 大学提供科目を組合せた標準化教育プログラムの設計について述 べるともに,複数の大学の国際標準化関連科目の遠隔配信により,大学連携国際標準化教育 プログラムの実施について述べる.
第4章では,国際標準化教育プログラムを,海外大学も含めて様々な大学で開講している 国際標準化関連科目から望ましい科目を抽出し,これらを組み合わせて国際標準化教育プロ グラムの科目構成を最適設計することを可能とする ICT システムの開発とその効用につい て述べる.
即ち,国内外の大学のシラバスや教育研究情報を自動収集し,インデックスを付与してデー タベース化して保存する.開講科目のシラバスから,形態素解析とノイズフィルタリング機 能により知を抽出する機能や,真に意味ある教育研究情報を抽出する機能などの新しい機能 を実現し,これを利用して国際標準化教育プログラム構成候補科目のシラバスに含まれる
「知の構造」分析と比較を可能とするなどの,システムの効用を明らかにする.
第 5 章では,国際標準化教育プログラムを副専攻として,専攻外の学生も多く受講可能と するためには,学生が所属する専攻の科目の修得(主専攻科目の修得)と両立できるように,
教育プログラムの時間割を設計するためのアルゴリズムを明らかにする.
即ち,教育プログラムの最適な時間割構成を決める方法として,「教育プログラムの設計へ の遺伝的アルゴリズムの適用」についての研究結果を述べる.
具体的には,教育プログラムを構成する複数の科目(様々な研究科の主専攻科目である)の 時間割を移動させて,学生が所属する専攻の科目の履修(主専攻科目の履修)との重なりによ り,教育プログラム科目を履修できない学生数が少なくなるような時間割を求めるため,教 育プログラムを構成する複数の科目の時間割移動順序を遺伝子として世代進化させるアル ゴリズムを明らかにした.
これにより,履修可能となる学生数を数倍にも増やせることを明らかにする.
第 6 章では,国際標準化教育プログラム等の教育プログラムを,中教審等で指摘されてい る「大学院における関連領域を含む幅広い知識の獲得と複眼的視野の涵養」を可能とする教 育とするための方法として,大学院副専攻教育制度として位置付ける方法を提案し,制度設 計を明らかにする.これに基づき,大阪大学での副専攻教育プログラムとして実施し,52 のプログラムの開講と,修士課程1年次学生の 1/3 が受講するなどの活発な受講状況,およ びプログラムを修了し職業人として活躍する OB 学生へのアンケート結果を実施し,良好な 副専攻教育の効果を明らかにする.
第 7 章では,阪大・早稲田大学・マレーシア工科大学の 3 大学のグローバル連携国際標準 化プログラムの設計について,かっての知的財産に重きを置き,地域標準化を出発点にして 国際標準化に発展させていく標準化への取組から,現在のグローバルビジネスを起点とした 国際標準化への取組に至るパラダイムシフトについて明らかしつつ,プログラムの狙いと位 置付け,教育目標の設定および 3 大学の科目を用いたプログラム構成科目設計および期待さ れる Learning Outcomes 等の設計について明らかにする.
第 8 章では,本研究により得られた結論と今後の課題について述べる.即ち,結論として,
1.国際標準化人材輩出のため,大学における国際標準化教育の一層の強化が重要である.
2.様々な先行研究やアンケートで明らかにされた国際標準化人材が具備すべき知識や能力 に基づいて,国際標準化教育が提供すべき「知の塊」を定義し,これを複数の科目で構 成した教育プログラムで提供することが望ましいことを明らかにした.
更に,教育プログラムを構成する複数の科目を,科目のシラバスに含まれる知を抽出し,
定義した「知の塊」とマッチングにより決定する方法を明らかにした.具体例として,
大阪大学と早稲田大学の科目を組合わせて設計した国際標準化教育プログラムを大阪大 学大学院で開講し,アンケートによる良好な理解度を確認した.
3.教育プログラムを構成するのに適した科目を,国内外の大学が開講する科目から選定で きるようにするため,大学ホームページをクローリングしてシラバスを収集し,シラバ スに含まれる知を抽出する「大学教育研究情報収集・分析システム」を設計
し,本システムが,科目が提供する知の抽出と知の構造化を可能とするなど,教育プロ グラム構成科目設計に有効であることを明らかにした.
4.遺伝的アルゴリズムを適用した教育プログラムの時間割設計法を明らかにした.本設計 法は,主専攻科目の履修と教育プログラム科目の履修を両立させる時間割設計を可能に する.
5.教育プログラムを,中教審等から指摘されている「関連領域を含む幅広い知識の修得と 複眼的視野の涵養」を可能とする大学院の教育として位置付ける制度として,副専攻教 育制度の設計を提案した.
本制度の適用例として,大阪大学の副専攻教育プログラム制度と,それをもとにした5 2の教育プログラムの開講と,修士 1 年次学生の 1/3 以上の受講と,プログラム修了後 に職業人として活躍する OB へのアンケート結果を明らかにした.
これら結果から,副専攻教育制度による「関連領域を含む幅広い知識の修得と複眼的視 野の涵養」は,大学院教育制度として適していると判断できる.
6.国際標準化は,かっての「製品開発後に知的財産権をベースにして,先ず国レベルの 標準化を行い,その後に国際標準化機関で国際標準化する」との流れから,「研究開発 段階から国際標準化機関等で国際標準化する」という流れにパラダイムシフトしている.
7.国際標準化教育は,上述の標準化への取組のパラダイムシフトに沿い,「グローバルビ ジネスを想定し研究段階から国際標準化を構想し,知的財産と国際標準化戦略の関わり 等の多様な知見を提供する教育」とするのが望ましい.
8.上記考えに基づき,阪大,早稲田およびマレーシア工科大学の科目を組み合わせること により,グローバル大学連携国際標準化教育プログラムを構成できる.
今後の主要課題は,以下のとおりである.
1.企業経営層への,国際標準獲得とそのための国際標準化人材育成の重要性を説く教育の 設計
2.上記1のための「国際標準獲得と企業収益」等の経済性に関わる研究
3.国際標準化教育プログラム修了者に対する,「国際標準化スキル認定」法の設計 4.海外の大学や機関との教育プログラムの連携開講
5.国際標準化教育プログラム修了者の企業での活躍状況の調査・分析