EUガヴァナンスと欧州憲法条約
その他のタイトル EU Governance and the European Constitutional Treaty
著者 山下 英次
雑誌名 ノモス = Nomos
巻 17
ページ 107‑116
発行年 2005‑12‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/12658
EU ガヴァナンスと欧州憲法条約
山 下 英 次 *
1
両先生の報告に対するコメント田中俊郎先生のご報告は、欧州統合プロセスは、これまで基本的にエリート層中心に進められ てきたが、そのような中で市民の意思がどのように反映されてきたのか、あるいはこなかったの か、という問題意識であった。これまで節目節目に各国で実施された諸々の国民投票や、欧州委 員会が基本的には定期的に実施する世論調査である「ユーロバロメーター」の結果の推移を丹念 に紹介しつつ、シューマン・プラン
( 1 9 5 0
年5
月)以来の欧州統合の歴史を分かり易くご説明い ただいた。その中で、私が特に興味を持ったのは、① ユーロバロメーターによると、
1 9 8 1
年から2 0 0 4
年 まで、 EUへの加盟を良いこととみなしている人々が一貫して多数派だが、趨勢的には漸進的低 下傾向にある ② 欧州議会選挙の投票率は長期的にはっきりとした低下傾向にあり、特に2 5
カ 国に拡大した後初めて実施された2 0 0 4
年6
月の選挙の投票率は45.7%
と低迷した ③ 一般に、「男性よりも女性」、「高学歴層より低学歴層」といういわゆる非主流の人たちの方が欧州統合に 否定的、という結果が出ていることであった。
特に、国民が熱心に EU入りを望み、それがようやく実現した直後のポーランドの先の欧州議 会選挙における投票率が
20.9%
と極端に低かったのは理解に苦しむところである。ポーランドは、イギリスと同様にアメリカのイラク攻撃を強く支持するなど、他のヨーロッパ諸国とは異なり、
かなりアメリカ寄りの外交政策を採っているということもある。また、欧州憲法条約は、当初、
2 0 0 3
年1 2
月のブリュッセル欧州理事会での合意を目指したが、意思決定方式を巡り、当時かなり 親米路線のアスナール政権だったスペインとその時点でまだ EUに加盟すらしていなかったポーランドの強い反対によって決裂したということも思い起こされるい。私は、その意味で、今後ポ ーランドが、欧州統合における第
2
のイギリス、すなわち今後肝心な時に欧1 ' 1 ‑ 1
統合進展の足を引 っ張る存在になるのではないかという危惧を伴う仮説をかねてより抱いてきたが、それがこの欧編集部注*
大阪市立大学大学院経済学研究科教授・経済学博士。本稿は、 2 0 0 5 年 3
月1 6 日開催の法学研究所第 29 回現代法セミナーの報告原稿に加筆修正したものである。
1) 「欧州憲法条約」は、その後、修正の後、 2 0 0 4
年6
月1 8 日のブリュッセル欧朴
1理事会において採択され、同
年1 0 月 29 日のローマ特別欧州理事会において、調印された。
' l
'
ト1議会選挙における投票率の異常な低さにもすでに現れているとみるべきであろうか。また、最後に、国際政治経済・安全保障における
EU
の存在はますます重要になるが、わが国 ではEU
は過小評価されているという田中先生のご指摘には、私も全く同感である。わが国の外 交• 安全保障の専門家の多くは、アメリカの一極支配が今後少なくとも四半世紀、あるいは人に よっては半世紀ぐらいは続くとみているようであるが、米国のマクロ経済の行き詰まりを考える と、私はそのようなことはむしろ起こりにくいのではないかと理解している。グローバル・ガヴ アナンス構造は、今後大きく変容していくことになろう。庄司克宏先生からは、欧州統合において、「多様性」と「結合」の間で非対称性が生じている という非常に興味深い問題が指摘された2)。すなわち、
2
つの密接に関連した政策分野において、一方ではコンセンサスが成立して
EU
レベルの規制撤廃を通じた「消極的な統合」が実現されて いるが、他方、もうひとつの政策分野ではコンセンサスが形成されていないためEU
レベルでの 超国家的な「積極的統合」が進展しない状況がある。その結果、各国ごとに政策の違いが生じて しまうということがある。すなわち、ときとして「正当な多様性」( l e g i t i m a t ed i v e r s i t y )
と呼ば れる状況が生じてしまうのである。そして、このような「正当な多様性」から生じる非対称性の問題を解決すべく、欧州憲法条約 では、意思決定方式の簡素化が図られ、第
1
に特定多数決に従来の3
重多数決制から2
重多数決 制への移行、第 2に特定多数決の適用範囲の拡大、第 3に分野によっては一部の加盟国の間だけ で部分的統合を進める手段としての「補強化協力」の発動の容易化が規定されたと指摘した。また、庄司先生は、
EU
の最終形( f i n a l i t y )
について、AndrewM o r a v c s i k ( 2 0 0 2 )
を引用しつつ、「
(EU
が)連邦国家になることは現実には長期的な目標とすらされていない」と指摘された。し かし、これまでも欧州統合にはゆっくりとしたペースではあるが、政府間主義から超国家主義へ の基本的な流れがある。加えて、「正当な多様性」といった状況を克服するためにも、長期的に はいずれ、 ドイツのヨシュカ・フィッシャー外相が2 0 0 0年 5
月にベルリンのフンボルト大学で行 ったスピーチ3)のように、連邦主義的な方向性を模索する時期が来ると、私は期待したいので ある。2
欧州憲法条約の特徴と今後の課題以下、この機会に、
EU
ガヴァナンスと欧州憲法条約について、若干私の所見を述べることと したい。憲法( C o n s t i t u t i o n )
といわずに、憲法条約( C o n s t i t u t i o n a l T r e a t y )
としたのは、「憲 法の要素を持った条約」という意味であろうが、私がまず初めに疑問に思ったのは、なぜ「憲法」部分と「ニース条約の改定」部分との 2つに分けなかったのかということである。憲法というの は、通常どこの国のものでもかなり短く簡潔なものであり、例えば日本国憲法は
1 0
ページ程度、2) F r i t z S c h a r p h ( 1 9 9 9 ) を引用。
3) J o s c h k a F i s c h e r ( 2 0 0 0 )
‑108‑
アメリカ合衆国憲法もせいぜい
1 5
ページ程度である。しかるに、欧州憲法条約の完全版は、r~
W
の4
部構成で、本文全4 7 4
ページに加え、3 6
の議定書、2
つの付属文書、5 0
の宣言文からなる 非常に大部なものであるい。また、条約にせよ、憲法にせよ、将来の改正手続きのことを考えて も、別々にしておいた方がどう考えても都合が良さそうである。そもそも、条約と憲法では、改 定頻度に違いがあるかもしれない。私の専門は経済であり、法律は素人であるため良く分からないが、
EU
は現時点では条約上法 人格は持っていないため、各国の批准をベースとした条約の中に憲法部分を埋め込む形にせざる を得なかったのではないだろうか。すなわち、法人格を持たない者に、憲法を持たせるわけには いかなかったということではないかと推察する。ちなみに、欧州憲法条約が発効すれば、初めてEU
ば法人格を与えられることになる(「欧州憲法条約」第I‑7
条) 5)。欧州憲法条約の全体的な特徴としては、政治的ガヴァナンスについて大きな前進がみられるが、
経済的ガヴァナンスについてはそれほど大きな変化あるわけではない。それは、これまで、欧州 統合プロセスにおいて経済通貨同盟
(EMU, Economic and Monetary Union)
と政治同盟( P U , P o l i t i c a l Union)
の同時並行的な推進の必要性が叫ばれながらも 6)、現実にはEMU
の方がPUょりもはるかに先に進展してきたことを考えれば当然のことといえよう。
経済的ガヴァナンスについていえば、欧州憲法条約の大きな特徴は、以下の
4
点に集約できる のではないだろうか。まず第
1
に、全般的には、EU
に各国の経済政策をコーデイネートさせる役割をさらに増大さ せる方向へ改定されたということである。ただし、大きく前進したというわけではない。第
2
に、経済・金融政策については、ほとんどすべての分野において特定多数決(QMV)
が 適用されることになり、EU
としての意思決定の迅速化が期待される。第
3に、ユーロ参加国
7)に大きな自主決定権(autonomy)
が与えられた。これまでは、条約 上は、 Eじの全加盟国の経済• 財政担当大臣が参加するECOFIN
理事会に決定権があったが、憲 法条約では、ユーロ参加国だけに対して適用される第皿ー194~196条が特に設けられた。第
4
に、これは第3
とも関連するが、ユーロ参加国だけの財務大臣等によって構成され、原則4) European Communities ( 2 0 0 4 )
5) 当然のことながら、欧州委員会、 EU 理事会、欧州議会、欧朴
l司法裁判所 (ECJ) などの EU 諸機関は、すで に個別に法人格を与えられている。ただ、それらすべてを包含する概念である EU には、まだ条約上の法人 格が与えられていないのである。また、憲法条約では、欧朴
l理事会 ( t h eEuropean C o u n c i l , EU 首脳会議)が、
新たに EU の正式機関のひとつとなった(憲法条約第 I‑ 1 9 条)。現在でも、首脳レヴェルの欧什 I 理事会が事 実上の最高意思決定機関であるが、現時点では正式機関ではないため、条約上は EU 理事会(閣僚理事会)
が最高意思決定機関である。欧州理事会の機能については、憲法条約第 I ‑ 2 1 22 条に規定。
6)
ドイツのコール首相とフランスのミッテラン大統領は、 1 9 9 0 年 4 月と 1 2 月の 2 度にわたって EC 議長宛てに
「コール&ミッテラン独仏共同書簡」を送り、 EMU とPU の同時推進の必要性を訴えた。山下英次 ( 2 0 0 2 ) p . 2 1 3 参照。
7) 現在、 EU 参加2 5 カ国のうち単一通貨ユーロに参加しているのは 1 2 カ国。
として侮月
1
回開催される「ユーログループ」( " t h e Eurogroup")
8)の存在が、条約上初めてメ ンションされた(第皿ー1 9 5
条)。また、憲法条約の第1 2
議定書「ユーログループに関する議定書」9)も別途設けられた。この議定書は、
2
箇条から成り立っており、その第2
条で、ユーログループ の議長の任期をこれまでの6
ヶ月から2
年半に長期化し、その権能を発揮する方向に変更された。すなわち、ユーロ・エリア
( e u r o ‑ a r e a )
も,遂にいわゆる「ミスター・ユーロ」( " M r . E u r o " )
を持つことになった。しかしながら、その一方で、第1
条では、わざわざユーログループをこれ まで通り「非公式なものにとどめる」と謳っている。欧州憲法条約全体の最大の目玉は、なんと言っても、
EU
外相ポストの新設を定めていること である(第I ‑ 2 8
条)。EU
外相は、現在の ①EU
共通外交安全保障政策高級代表と ② 対外関 係担当の欧州委員を兼ねるダブル・ステイタスである。上記①は政府間主義の機関であるEU 理
事 会( t h eC o u n c i l o f t h e European Union)
のポストであり、他方、②は超国家主義的機関であ る欧州委員会( t h e European Commission)
のポストである。現在のEU
ガヴァナンスは、基本 的に政府間主義( i n t e r ‑ g o v e r n m e n t a l i s m )
と超国家主義( s u p r a ‑ n a t i o n a l i s m )
の混合であること から、両者にまたがるポストとなるEU
外相は、大きな権能を発揮することになろう。今後の課題として、経済面についても、
ECOFIN
議長と経済・金融担当の欧' 1
ト1
委員にダブル・ステイタスを持たせることが必要になるかもしれない。また、ユーロ・エリアについていえば、
ユーログループを条約上、公式制度化することは将来不可欠であろうし、ユーログループ議長に、
欧州委員会での然るべきポストを兼任させることも課題となろう。例えば、フランスの元財務大 臣ドミニーク・ストロース=カーンが議長を務めた円卓会議の報告書「政治的なヨーロッパの建 設 一 明 日 の ヨ ー ロ ッ パ の た め の
5 0
の提言」( 2 0 0 4
年4
月)10)は、その第1 1
提言で、ユーログループを制度化するとともに、その議長を
EU
の経済・金融大臣にすべしと提案している。3 EU
の拡大とグローバル・ガヴァナンス構造変容の可能性EU
は、2 0 0 4
年5
月の第5
次拡大によって、人口4
億5
千万人、GDP
の規模でも世界の4
分の1
、 すなわちアメリカと匹敵するような大きな勢力となった。他方、アメリカのハード・パワーに基づく、単独主義
( u n i l a t e r a l i s m )
は、対テロ政策やイラ ク戦争に見られるように、明らかに行き詰まっている。派兵したイラクから撤退する国が相次い で お り 、 ア メ リ カ の 同 盟 は 、 も は や い わ ば 嫌 々 参 加 す る 「 た め ら い が ち な 同 盟 」( " a h e s i t a n t a l l i a n c e " )
になってきている。それに対して、EU
に つ い て は 、 周 辺 諸 国 が み な 自 ら が 進 ん で 加 盟を望むような状況である。すなわち、ソフト・パワーと多国間主義に基づくEU
は基本的にい わば「喜んで参加する同盟」( " aw i l l i n g u n i o n " )
になっている。この違いは大きく、今後、グロ8)
ユーログループについては、詳しくはY a m a s h i t a ( 2 0 0 4 ) を参照。
9) I n t e r g o v e r n m e n t a l C o n f e r e n c e ( 2 0 0 4 b ) 1 0 ) D o m i n i q u e S t r a u s s ‑ K a h n ( 2 0 0 4 )
‑no‑
ーバル・ガヴァナンスにおける
EU
の役割は拡大することになるのではないだろうか。長期的には、EU
こそ世界のモデルになるかもしれない。EU
は、共通外交安全保障政策高級代表のハヴィエル・ソラーナが提案したいわゆる「ソラーナ・ペーパー」
( 2 0 0 3
年6
月)いをベースとして、同年1 2
月、「より良い世界における安全なヨーロッ パー欧州安全保障戦略」12)と題する安全保障戦略ペーパーを正式にまとめた。これは、明らかに2 0 0 2
年9
月に発表された米国の安全保障政策であるいわゆる「ブッシュ・ドクトリン」13)を意識 したものである。また、「ソラーナ・ペーパー」は、アメリカが国連安全保障理事会の決議もな しにイラク攻撃を強行した2 0 0 3
年3
月から僅か3
ヵ月後にまとめられたものである。したがって、EU
のいう「より良い世界」( " a b e t t e r w o r l d " )
とは、国際的なルールを無視した米国の一極支 配が続くような現在の世界は危険なので、グローバル・ガヴァナンスを変えていかなければなら ないということである。すなわち、国連などの国際機関や国際条約・国際合意を重視しない単独 主義に基づくアメリカの一極支配が続く現在の世界ではなく、アメリカが国際的ルールを守りつ つ多国間主義に復帰し、その結果より安全になった世界という意味である。そのような世界にお いて、ヨーロッパはより安全になれるということであり、したがって、EU
としてはアメリカが 多国間主義に復帰するように求めていくとうことである。また、テロについても、
EU
は「ブッシュ・ドクトリン」のように、「民主主義や文明に対する 脅威だ」などとはいわない。テロ発生の複雑な原因を冷静に見つめようという姿勢であり、アメ リカ政府の政策とは、明確に一線を画するのである。2 0 0 4
年1 2
月上旬来日したドイツのシュレー ダー首相は、 NHKテレビのインタヴュ一番組に出演し、「ヨーロッパは一極支配ではなく、世界 の多極化・多元化を目指すが、それは世界全体にとっても好ましいことである」と明確に述べて いる。他方、
EU
は、域内を対象とした安全保障戦略をバック・アップするものとして、非常に周到 な「欧州近隣諸国政策」( " t h eEuropean Neighbourhood P o l i c y " , NEP)
を進めている。第5
次拡 大によって2 0 0 4
年5
月1
日から加盟国が2 5
カ国となったEU
は、基本的には、2 0 0 7
年1
月1
日に、ルーマニア、ブルガリアが加盟し14)、
2 7
カ国になる予定である。その後は、クロアチアの加盟が 見込まれ、さらにその後は、ボスニア・ヘルツエゴヴィーナ(B&H)
、セルビア・モンテネグロ(S&
M)
1s)、マケドニア、アルバニア、トルコが加盟する可能性がある。そうなると、EU
加盟国は3 3
カ国もしくは3 4
カ国になる。EU
の近隣諸国政策とは、これらの加盟候補国のさらに外の東と南 の国々を対象とするものである。すなわち、「悪い統治」("badgovernance")
の国々から麻薬等 の組織犯罪や不法移民がEU
域内に流入するので、EU
の東と南のすぐ外に「良く統治された」1 1 ) J a v i e r S o l a n a ( 2 0 0 3 )
1 2 ) t h e C o u n c i l o f t h e E u r o p e a n U n i o n ( 2 0 0 3 ) 1 3 ) P r e s i d e n t o f t h e U n i t e d S t a t e s ( 2 0 0 2 )
1 4 ) 2 0 0 4
年1 2
月のブリュッセル欧州理事会において正式承認された。ただし、場合によっては、もう1
年加盟が 廷期されることもありうる。1 5 ) 2 0 0 6 年 2
月もしくは3
月に、モンテネグロは、セルビアから離脱し、S&M
は2
つの国になる見込みである。( " w e l l ‑ g o v e r n e d " )
の国々の環( r i n g )
をつくろうという発想である。まず始めに、
1 9 9 5
年1 1
月、地中海諸国との間で欧州・地中海会議を開催し、「バルセローナ宣 言一欧州・地中海パートナーシップ」16)を採択した。この目玉は、2 0 1 0
年までに段階的に、欧州・地中海
FTA
を形成しようというものである。また、2 0 0 3
年3
月には、「ワイダー・ヨーロッパ」17)という概念を打ち出し、ウクライナ、モルドヴァといった旧ソ連諸国を含めるものに発展させた。
さらに、
EU
は、2 0 0 4
年5
月、「欧州近隣諸国政策ー戦略ペーパー」18) をまとめ、そこでの対象 国は、旧ソ連の東欧および南カフカズ諸国6
カ国(ベラルーシ、ウクライナ、モルドヴァ、グル ジア、アルメニア、アゼルバイジャン)、北アフリカ・マグレブの4
カ国(モロッコ、アルジェリア、チュニジア、リビヤ)、および中東・マシュリクの
5
カ国・地域(エジプト、シリア、レバ ノン、ヨルダン、パレスティーナ自治政府)およびイスラエルの合計1 6
カ国・地域に及んでいる。また、ロシアとの間では、
2 0 0 3
年5
月にサンクト・ペテルブルクで開催された第1 1
回E U ・
ロ シア首脳会議において、「4
つの空間構想」( " t h e Four Common Spaces")
19)を将来構築するこ とで基本合意している。このようにみてくと、 EU は、将来の加盟国33~34 カ国に加え、欧州近隣諸国政策の対象国も しくはそれに順ずる国々の計 17 カ国があり、すべて合計すると 50~51 カ国を含む非常に広大な領 域を想定していることになる。これらの国々が、何らかの形で、
EU
と協定を結び、共存共栄を目指していこうということであろう。
他方、アメリカの近隣諸国政策はかなり行き詰まっている。
2 0 0 5
年1
月からの発足を目指した 南北アメリカ全体をカヴァーしようとする米州自由貿易協定(FTAA)
は頓挫しているし、現在、南米諸国の多くは反米色の強い左巽政権となっている。その背後に、アメリカの単独主義に基づ く「力ずくのアプローチ」
(sledgehammer approach)
に対する人々の反発があることは間違い ない。ただし、
EU
の拡大は、第5
次拡大で加盟国が1 5
カ国から2 5
カ国へとビッグ・バン的な拡大に なったこともあり、拡大を急ぎすぎた面は否定できない。本来、地域統合には、「拡大」と「深化」のバランスの取れた発展が不可欠なのであり、その意味から
EU
の拡大プロセスが今後もさらに 順調に進展していくかどうか不明な部分も大きいが、非常に長期的に見れば、EU
の拡大と欧州 近隣諸国政策の進展によって、グローバル・ガヴァナンスにおけるEU
の役割は大幅に拡大して いくことになろう。近年、ヨーロッパだけでなく、アメリカにも、将来、
EU
がアメリカを凌駕するのではないか とう見方もかなり出てきている。ここではごく簡単にそうした文献を紹介するだけにとどめるが、まず、フランスのエマニュエル・トッド(フランス国立人口学研究所)は、『帝国以後ーアメリ
1 6 ) E u r o p e a n C o m m i s s i o n ( 1 9 9 5 ) 1 7 ) E u r o p e a n C o m m i s s i o n ( 2 0 0 3 a ) 1 8 ) E u r o p e a n C o m m i s s i o n ( 2 0 0 4 )
19) 「 4 つの共通空間」とは、共通経済空間、自由•
安全・司法の分野での共通空間、域外安全保障分野での協 カの共通空間、研究・教育・文化の分野での共通空間を意味する。 E u r o p e a nC o m m i s s i o n ( 2 0 0 3 b ) 。
‑ll2‑
カ・システムの崩壊』(原典発行
2 0 0 2
年)20)で、「新ユーラシア時代」の到来を予言している。また、イギリス人のマーク・レナード(欧州改革センター)は、『なぜヨーロッパが
2 1
世紀を支配する のか』( 2 0 0 5
年2
月)2じで、2 1
棋紀はヨーロッパ・モデルが世界を支配するとしている。さらに、アメリカでも、従来、歴代の政権に対して外交政策で大きな影響を与えてきた外交問 題評議会
(theCouncil on Foreign A f f a i r s , CF A
、本部=ニューヨーク)の上級研究員でかつてク リントン政権の中枢にいたこともある国際政治学者が、同じような趣旨の著作を表している。す なわち、チャールズ・カプチャン22)の『アメリカ時代の終わり』(原典発行2 0 0 2
年1 1
月)23)である。また、ジェレミー・リフキン24)(経済トレンド財団理事長)は、(『ヨーロピアン・ドリームー 欧州の将来ヴィジョンが如何にしてアメリカン・ドリームを静かに凌いでいくか』
( 2 0 0 4
年9
月)25)で、ヨーロピアン・ドリームが現在の混乱した世界を照らす灯台の役割を果たし、排除で はなく包含( i n c l u s i v i t y )
と平和をもたらすと論じている。他方、ジャーナリストのトム・リー ド26)は『ヨーロッパ合衆国一新たなスーパー・パワーとアメリカの優越の終焉』27)を2 0 0 4
年1 1
月に出版した。さらに、アメリカの情報機関である国家情報評議会( N I C )
は、世界の民間識者 の意見を基に、2 0 2 0
年の世界を想定して作成した報告書『世界の将来地図』ZS)( 2 0 0 4
年1 2
月)の 中で、ヨーロッパの地盤拡大とアジアの台頭が不可欠であるとし、アメリカの影響力がかなり弱 まることを予想している。欧 州 憲 法 条 約 の 第
I ‑ 8
条「EU
の シ ン ボ ル 」 で 謳われた「多様性の中の結合」("United i n d i v e r s i t y " )
というモットーにも示されているように、EU
の他者を排除するではなく多様性を包 含していくという姿勢、単独主義ではなく国連等の国際機関や国際ルールを重視する多国間主義 の姿勢、力ずくのアプローチではなく対話を重視した姿勢、地球環境の保全に積極的に取り組む 姿勢、等々、ヨーロッパの価値観が今後世界的に受け容れられていく可能性は大いにある。アメリカが、今後マクロ経済的に行き詰まる可能性が極めて高いことをも合わせて考えると、グルー バル・ガヴァナンスにおける
EU
の役割はかなり将来大幅に高まることになるのではないだろう か。他方、アジアの興隆は今後も続くことを考えると、将来、グローバル・ガヴァナンス構造は、大きな地殻変動を伴うことが予想される。しかし、それは、世界全体として、むしろ歓迎すべき ことである。まぜなら、現在のようなアメリカの一極支配が続くことは、戦争と平和という意味 でも、地球環境の保全の意味からも、世界をより危険にすることになるからである。
2 0 )
エマニュエル・トッド( 2 0 0 3 )
2 1 ) Mark L e o n a r d ( 2 0 0 5 )
。なお、マーク・レナードは、ブレア英首相の元顧問。2 2 )
ジョージタウン大学教授(国際関係論)で外交間題評議会上級研究員。クリントン政権の一期目で、国家安 全保障会議( N a t i o n a lS e c u r i t y C o u n c i l )
のヨーロッパ担当部長を経験。2 3 ) C h a r l e s Kupchan ( 2 0 0 2 )
2 4 )
アメリカ人でプローディ前欧州委員会委員長の顧問を務めた経験を持つ。2 5 ) J e r e m y R i f k i n ( 2 0 0 4 )
2 6 )
『ワシントン・ポスト』紙の政治記者で、同紙の東京支局長、ロンドン支局長などを歴任。2 7 ) Tom R e i d ( 2 0 0 4 )
2 8 ) N a t i o n a l I n t e l l i g e n c e C o u n c i l ( 2 0 0 4 )
〔参考文献〕
・カプチャン、チャールズ
( 2 0 0 3 )
、『アメリカ時代の終わり(上)(下)』、日本放送出版協会、坪 内 淳 訳 、
2 0 0 3
年1 1
月(原典:K u p c h a n , C h a r l e s A ( 2 0 0 2 ) , The End o f t h e American Era:
US Foreign P o l i c y and G e o p o l i t i c s o f t h e T w e n t y ‑ f i r s t C e n t u r y , A l f r e d A K n o p f ,
inNew Y o r k , N o v . 2 0 0 2 )
・庄司克宏
( 2 0 0 4 )
「2 0 0 4
年欧州憲法条約の概要と評価」、『慶應法学』(法務研究科)第1
号、慶 應義塾大学大学院法務研究科、2 0 0 4
年1 2
月・庄司克宏
( 2 0 0 5 )
「欧州憲法条約とE U ‑
〈多様性のなかの結合〉の展望と課題」、『世界』第7 3 6
号、岩波書店、2 0 0 5
年2
月• 田中俊郎 ( 2 0 0 5 )
「EU
統合と民主主義一市民意識を中心に」、『海外事情』第5 2
巻2
号、拓殖大学海外事情研究所、
2 0 0 5
年2
月・トッド、エマニュエル
( 2 0 0 3 )
、『帝国以後ーアメリカ・システムの崩壊』、藤原書店、2 0 0 3
年4
月(原典:T o d d , Emmanuel, Apres L ' e m p i r e : E s s a i sur l a Decomposition du Systeme American, G a l l i m a r d , i n P a r i s , 2 0 0 2 )
•
福島清彦「ブッシュ・ドクトリン一米国の新安全保障戦略」、『知的資産創造』、野村総合研究 所、2 0 0 3 年 1 月
• 山下英次 ( 2 0 0 2 )
『ヨーロッパ通貨統合ーその成り立ちとアジアヘのレッスン』、勁草書房、2 0 0 2 年 7 月
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ただし、本セミナー終了後、同一のタイトルで、大阪市立大学経済学会『経済学雑誌』第
1 0 6
巻第