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Kyushu University Institutional Repository
焼結鉱製造プロセスにおけるマグネタイト(Fe2+源) の有効利用に関する基礎的研究
多木, 寛
https://doi.org/10.15017/1806992
出版情報:Kyushu University, 2016, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
焼結鉱製造プロセスにおける
マグネタイト( Fe 2+ 源)の有効利用に関する 基礎的研究
多木 寛
目次
第1章 緒論
---1
1.1
本研究の背景---1
1.1.1 製鉄業界の現状---1
1.1.2 製鉄原料の現状---5
1.1.3 焼結鉱製造プロセス---6
1.3
本研究の目的---11
1.4
本論文の構成---12
引用文献 第
2
章 初期融液生成挙動に及ぼすマグネタイトの影響---14
2.1
緒言---14
2.2
実験方法---15
2.2.1 実験試料---15
2.2.2 実験装置および実験手順---18
2.3
実験結果および考察---21
2.3.1 不活性雰囲気における試薬酸化鉄-CaO反応挙動---21
2.3.2 酸化雰囲気における試薬酸化鉄-CaO反応挙動---27
2.3.3 不活性および酸化雰囲気におけるマグネタイト精鉱-CaO反応挙動---33
2.4
結言---37
引用文献 第
3
章 カルシウムフェライト生成に及ぼすマグネタイトの影響---39
3.1
緒言---39
3.2
実験試料および実験方法---40
3.3
実験結果および考察---42
3.4
結言---45
引用文献第
4
章 マグネタイトの酸化反応速度解析---47
4.1
緒言---47
4.2
実験方法---48
4.2.1 実験試料---48
4.2.2 実験装置および実験手順---49
4.3
実験結果---50
4.3.1 マグネタイト‐CaO混合時の酸化反応---50
4.3.2 マグネタイト酸化に及ぼす温度の影響---51
4.4
一界面未反応モデルによる解析---54
4.4.1 解析方法---54
4.4.2 解析結果および考察---56
4.5
結言---59
引用文献 第
5
章 マグネタイトの酸化反応を考慮した焼結機シミュレーションモデル-62 5.1
緒言---62
5.2
焼結機シミュレーションモデル---63
5.2.1 焼結機シミュレーションモデルの構成---63
5.2.2 支配方程式---65
5.2.3 各種反応式---70
5.2.4 シミュレーション条件---76
5.3
結果および考察---78
5.4
結言---85
引用文献 第
6
章 総括---90
謝辞---93
1
第
1
章 緒論1.1 本研究の背景 1.1.1 製鉄業界の現状
世界の製鉄業界は、21世紀に突入と同時に、大幅な変貌を遂げている。Fig.1-1に世界の 粗鋼生産量の推移を示す1), 2)。このデータより、先進国が伸び悩む中、新興国、特に中国の 台頭が顕著に表れており、その結果、粗鋼生産量は2016年現在15億トンにまで拡大して いる。この粗鋼生産量の急激な伸びを受け、原料の需要が強まり、Fig.1-2に示すように原 料価格が大幅に上昇している3)。
Fig. 1-1 Steel product in individual countries and the product in the world1), 2).
2
Fig. 1-2 Iron ore price in US$ per metric ore 2003-20123).
3
また、Fig.1-3に世界全体の鉄鋼市場における生産能力と生産量のギャップを示す4)。粗 鋼生産能力は、2014年の段階で23億2000万tであり、約6億5500万tの需要ギャップ が生じており、過剰供給構造となっている。経済協力開発機構(OECD)の鉄鋼委員会は、
2017 年までには粗鋼生産能力は 23 億 6100 万tに増える見通しを示している。製鉄業界 は、この過剰供給状態により、収益悪化を招いている。
Fig.1-3 Gap of productive capacity and total production in the steel market of the whole world4).
4
また、世界的気候変動の抑制のため、化石燃料への依存度を減じた低炭素社会への移行が 急務となっている。2008年の第34回主要国首脳会議において、日本を含めた主要8カ国 間で「2050年までに世界全体の排出量の少なくとも50%削減」という長期目標の合意がなさ れた。2014年の日本年間エネルギー起源CO2排出量とその内訳をFig.1-4に示す。日本の CO2排出量のうち約14%と大きな割合を鉄鋼業が占めており5)、鉄鋼業におけるCO2の排 出量の削減が望まれている。
このように、製鉄業界は現状、粗鋼生産量の急増により原料価格が高騰、過剰供給状態の ために製品価格は低下、更には環境対応が求められるといった苦境に立たされており、現状 を打破するためには、更なる技術革新が必要不可欠な状況となっている。
Fig. 1-4. Percentage of CO2 emission in japan (2014)5).
5 1.1.2 製鉄原料の現状
天然原料として高炉製鉄法において主要な原料は鉄鉱石である。可採年数は 100 年以上 であるとされており、その他の天然資源と比較すると十分な埋蔵量が確認されている。この ことより、鉄鉱石は、今後も極めて長い期間にわたり製鉄業に豊富な資源を供給できると考 えられる。
しかし、近年、鉄鉱石中のSiO2、Al2O3、Pなどの脈石成分や結晶水含有量6)の増加とい った鉄鉱石品位低下が問題視されている。日本は 100%海外輸入に頼っており、大半を豪 州・ブラジルに依存している。ここで、日本の主要な鉄鉱石輸入先である豪州の鉄鉱石種別
産出量をFig.1-5に示す7)。Fig.1-5よりもわかるように、高品位鉱石種である低Pのプレ
ミアム・ブロックマン鉱石は減少傾向にあり、一方、その他の低品位鉱石(チャネル鉄鉱石 とマラマンバ鉱石等)の増産が顕著である。現状、豪州鉱石は劣質なものとなっているが、
我が国においてもこれらの劣質鉱石を適切に使用する様々な技術開発8-9)がなされてきた。
また、今後もこの傾向は続くものと考えられ、鉄鉱石低品位化に対する革新的な技術対策が 急務となっている。
Magnetite Channel ore Maramamba ore Hematite
Blochman ore
Premium blochman
0 1965 1971 1977 1983 1989 1995 2001 2007 Low-grade Ore
(Million ton)
Year
400
200
Fig. 1-5 Trends in iron ore production in Australia7).
6 1.1.3 焼結鉱製造プロセス
・焼結鉱製造方法
焼結鉱製造プロセスとは粉鉱石を高炉用鉄源として使用するために行う成分調整および
+5mmに塊状化することを目的とした事前処理である。焼結鉱は塊鉱に比べ優れた被還元 性・軟化溶融滴下特性を持ち、高炉に適した装入物といわれている11)。
現在の製鉄業において、国内の高炉に装入される鉄源のうちの70~80%を焼結鉱が占め ており12)、焼結鉱の品質が高炉の操業成績を左右するといっても過言ではない。すなわち、
品質の高い焼結鉱を供給することが高炉の安定操業につながるといえる。
Fig.1-6にDwight Lloyd(DL)式の焼結機設備13)を示す。焼結機はパレットが鎖状に連
なって無限軌道上を移動する。プロセスとしては、まず、粉鉱石にフラックス剤としての石 灰石と燃料としての粉コークスをドラムミキサーを用いて、水分を添加しながら混合造粒 し擬似粒子を製造する。擬似粒子を製造することで焼結機内の通気性確保や融液生成挙動 制御などが行われる。その後、原料供給ホッパーからパレットに擬似粒子が一定層厚(600- 800mm)で充填される。そして、パレットが点火炉上に移動してきた時にガスバーナーで 点火される。点火炉を出た後パレットは走行を続けながら、焼結機下面のウィンドボックス
(風箱)からの吸引により、コークス燃料部分(燃焼帯)が逐次下方に伝播する。燃焼帯が グレートバーに到着した時点で焼結が完了する。焼結機の下流端では、パレットが反転しな がら 1 台分ずつ焼結ケーキを排鉱する。拝鉱後、パレットは空のまま焼結機の下側軌道に 沿って原料配給側まで戻り、反転して焼結機上側に戻り再び原料を受ける。この操作が繰り 返されて連続的に焼結が行われる。排鉱された焼結ケーキは冷却、粉砕、篩分けされて製品 焼結鉱となる。
7
Fig.1-6 Schematic diagram of DL-type sintering machine13).
8
・焼結機内の基礎反応
焼結機内の反応に関しては、Fig.1-7に示すように進行する14)。湿潤帯は原料が水分を保 持している区間であり、温度が60-80℃程度である。乾燥帯で水分が蒸発し、その後、コー クスの燃焼に伴い、層内の温度が上昇し、CaCO3の熱分解(CaCO3→CaO+CO2)が生じる。
さらに温度が上昇することにより、粉鉱石とCaOが反応し、低融点化合物であるカルシウ ムフェライト融液を生成する。このカルシウムフェライト融液がボンドの役割を果たし、残 留固体粒子間を架橋する。その後、上方からのガスによって冷却されることで凝固し焼結ケ ーキが生産される。Fig.1-7からもわかるように、焼結が進行するに連れて、燃焼帯の幅は 増加する。これは、上部で温められた大気が下方部に進行するためである。
Fig.1-7 Typical temperature profile and different zones of a sintering bed14).
9
・焼結鉱の鉱物組織に関する研究
Table1-1に焼結鉱の主要組織の強度および被還元性を示す15)。この表よりカルシウムフ
ェライトが強度および被還元性共に優れていることがわかる。よって、焼結鉱品質を向上さ れるには、カルシウムフェライト融液の生成を促進することが重要となる。
そのため、カルシウムフェライトに関しては、過去に多くの研究がなされている。Fig.1- 8の大気雰囲気におけるCaO-Fe2O3二元系状態図16)が示すように、カルシウムフェライト に関しては、2CaO・Fe2O3、CaO・Fe2O3、CaO・2Fe2O3の三種類の鉱物が存在し、さら に、還元過程によってはFe2+を含むCaO・FeO・Fe2O3、CaO・3FeO・Fe2O3、4CaO・FeO・ 4Fe2O3、3CaO・FeO・7Fe2O3、4CaO・FeO・8Fe2O3などの存在17),18)が知られている。
また、実際の焼結では鉱石はSiO2、Al2O3を含有しているので、上記の純粋カルシウムフェ ライトとは別種の化合物である4成分系カルシウムフェライトが存在している19),20)。4成 分系カルシウムフェライトはCaO・3(Fe、Al)2O3を一方の端成分とし、(Ca、Mg)O・
SiO2を他端成分とする固溶体で擬単斜晶系の鉱物であると報告されている。さらに、杉山
21)らは4成分カルシウムフェライトの結晶化学構造の解析を行い、鉄イオンの2価、3価を 識別した全原子配置構造を決定した。構造組成は Ca4[Ca0.9, Fe2+0.9, Fe3+0.2][(Si1.8,
Fe3+0.2)(Al3.3、Fe6.7)]O40で示される。このように、カルシウムフェライトは基本的に1価
から 5 価までのサイズの異なる陽イオンを広範囲に収容できる結晶構造であるとされてい る。
カルシウムフェライトを制御するためには、配合成分調整、焼結層内温度管理が重要とな り、詳しく研究する必要がある。
Table 1-1. Tension strength and reducibility of major compornents in sintering ore15).
10
Fig.1-8 CaO-Fe2O3 binary phase diagram in air16).
11 1.2 本研究の目的
前節で述べた通り、鉄鉱石品位が低下しており、焼結鉱品質の低下が懸念されている。鉱 石品位低下の対策の一つとして、Fe2+源であるマグネタイト精鉱の利用が現在検討されてい る。
選鉱過程で微粉化されたマグネタイト精鉱は、造粒性の低下や焼結機内通気性の悪化な どを引き起こすため、焼結原料としては利用が避けられてきた。しかし、近年、劣質鉱石使 用に伴う造粒強化等に伴い、微粉マグネタイト精鉱の使用の可能性が検討され始めた。
マグネタイトは磁力選鉱に有利である点、式(1-1)のように、酸化雰囲気中で酸化発熱する などの特徴を有しているため、高品位原料および焼結過程で必要な熱を供給する凝結材と して期待されている。
Fe3O4+1/4O2→3/2Fe2O3 ΔHR=-114.5kJ・・・・・・(1-1)
Buttonらはマグネタイト鉱石を使用した焼結鍋試験を行い、その酸化発熱の影響を確認
し、マグネタイトはコークスと同様に焼結試料層中で発熱し、ヘマタイト100%の場合と比 較してマグネタイトを 30mass%置換したものは焼結中の最高温度が 60℃高くなることを 確認している22)。Panigraphyらは焼結鍋を用いてヘマタイト鉱石原料の一部を、マグネタ
イトを25-35 mass%含有するCarol Lake精鉱で置換する実験を行っている23)。25mass%
置換のケースでは、焼結層の温度が上昇したため、コークス量削減の可能性を指摘し、同時 に通気性改善結果を報告している。
マグネタイト鉱石の使用割合増加によるコークス使用量削減の可能性は大きいという見 解はあるが、その根拠や考察に関しては不十分である。特に、マグネタイトがカルシウムフ ェライト組織に及ぼす影響に関しては詳しく記述されている文献はなく、焼結機内におけ るマグネタイトの挙動について詳しい解明が必要であると考えられる。
そこで、本研究では焼結原料としてマグネタイトの使用を想定し、マグネタイト使用によ る固相間反応および初期融液生成挙動に及ぼす影響を明らかにすること、焼結プロセスに おけるマグネタイト酸化速度を算出すること、そして、マグネタイト酸化反応を考慮した焼 結機シミュレーションモデルを作成し、マグネタイト有効利用に関する基礎的研究を行う ことを目的とした。
12 1.3 本論文の構成
第1章は緒論であり、本研究の背景および目的、本論文の構成について述べた。まず本研 究の背景として、製鉄業界が原料価格の高騰、製品価格の低下および世界的気候変動抑制の ための CO2排出量削減といった苦境に立たされていることを示し、更に、原料品位の低下 が著しく、現状を打破するためには、技術革新が必要不可欠な状況であることを示した。そ れらを踏まえた対策として焼結でのマグネタイトに着目し、マグネタイト使用の利点につ いて述べた。最後に、本研究の目的を焼結原料としてマグネタイトの使用を想定し、マグネ タイト使用による初期融液生成に及ぼす影響を明らかにすること、およびマグネタイト酸 化速度を算出することに関して実験を行い、マグネタイト酸化反応を考慮した焼結機シミ ュレーションモデルを作成し、マグネタイト有効利用に関する基礎的研究を行うこととし た。
第2章では、酸化鉄とCaOの混合タブレット試料を用いて実験を行ない初期融液生成挙 動に及ぼすマグネタイトの影響を明らかにすることを目的とした。実験試料は酸化鉄とし て試薬マグネタイト、試薬ヘマタイトおよびマグネタイト精鉱を準備しCaOと混合し、タ ブレット状に成形した。この試料の赤外線ゴールドイメージ加熱炉を備えたレーザー顕微 鏡を用いて直接観察により初期融液生成開始温度を測定し、また、XRDを用いて定性分析 を行い、初期融液生成に及ぼすマグネタイトの影響を明らかにした。
第 3 章では、カルシウムフェライト生成に及ぼすマグネタイトの影響を明らかにするこ とを目的として、中断試料の断面観察・画像解析および高温XRDを用いた等速昇温におけ る鉱物組織の変化について実験を行い、カルシウムフェライト生成に及ぼすマグネタイト の影響を明らかにした。
第 4 章では、焼結鉱製造におけるマグネタイトの酸化反応速度式の算出を目的として、
マグネタイトタブレット試料を800℃、900℃および1000℃の3レベルで酸化実験を行い、
酸化率曲線の結果より、一界面未反応核モデルを用いて解析し、マグネタイト酸化反応の温 度依存性を明らかにした。
第 5 章では、マグネタイトの酸化反応を考慮した焼結機シミュレーションモデルの作成 を行った。焼結鉱製造におけるマグネタイトの酸化反応の影響として第 2 章において得ら れた初期融液生成開始温度と第 4 章で得られた酸化反応速度式を組み込んだ焼結機シミュ レーションモデルを作成した。シミュレーション結果より、マグネタイトの酸化反応を考慮 した場合、従来のモデルと異なり、融液生成開始温度の低下に伴い、カルシウムフェライト 生成量が増加することがわかった。また、フレームフロント部(FFP)でマグネタイトの酸化 が生じ、その結果、フレームフロント速度(FFS)を向上させることが分かった。このため、
1200℃以上の高温保持時間が増加する傾向が明らかとなった。
第6章は本論の総括である。
13 引用文献
1) Steel statistic yearbook, world steel ASSOCIATION, (1988, 1998, 2008, 2011).
2) A handbook of world steel statistics 1978, INTERNATIONAL IRON AND STEEL INSTITUTE, (1978).
3) L. Warell : Resources Policy, 41(2014), 16.
4) 経済協力開発機構鉄鋼委員会統計, 経済産業省, (2015).
5) Greenhouse Gas Inventory Office of Japan, Ed.: “National GHGs Inventory Report of JAPAN,” (2014).
6) T. Inagata:Mineral Resource Report, 17(1996), 581.
7) K. Nakayama: Mineral Resource Report, 41 (2012), 595.
8) Y. Hosotani, N.Konno, S.Kabuto, M.Kitamura and T.Abe: Tetsu-to-Hagané, 83(1997), 347.
9) Y. Hida and N. Nosaka : Tetsu-to-Hagané, 78(1992), 960.
10) 鉄鋼協会討論会「高結晶水鉄鉱石多配合下での焼結製造プロセス」, 材料とプロセス,
8(1995), 841.
11) K.Sanbongi and N Nishida : Tetsu-to-Hagané, 44(1958), 853.
12) 内藤誠章:製銑技術の開発概要と今後の課題, 新日鉄技報,第384号(2006)3.
13) T. Umene : Tetsu-to-Hagané, 11(1925), 393.
14) 稲角忠弘: 鉱物工学, 丸善, (1984), 175.
15) 岩見友司:低炭素焼結プロセスの探求-100kg-CO2/Fe-tonの削減を目指して-、社団法人
日本鉄鋼協会 低炭素焼結技術原理の創成研究会, (2011), 11.
16) B. Phillips and A. Muan: J. Amer. Ceram. Soc., 41(1958), 445.
17) J. O. Edstrom: Jernkont. Ann., 142(1958), 401.
18) M. Asada, Y. Omori and K. Sanbongi: Tetsu-to-Hagané, 1(1968), 14.
19) K. Inoue and T. Ikeda : Tetsu-to-Hagané, 68(1982), 2190.
20) K. Inoue, H. Hayashi, I. Nishida and K. Yoshida : Tetsu-to-Hagané, 69(1983), A17.
21) K. Sugiyama : Advanced Approach to intelligent Agglomeration, (1999),163.
22) R. A. Button and P. A. Lundh: Ironmaking and Steelmaking, 16 (1989), 151.
23) P. C. Panigrahy, M. A. J. Rigaud and G, S. Hegedus: Ironmaking and Steelmaking, 21(1994), 353.
14
第
2
章 初期融液生成挙動に及ぼすマグネタイトの影響2.1 緒言
焼結鉱製造プロセスにおける主要な反応のひとつに鉄鉱石と副原料である石灰石間で生 じるカルシウムフェライト生成反応がある。カルシウムフェライトは焼結層内の温度上昇 に伴い生成・溶融し、鉄鉱石粒子同士を接合するボンドの役割を果たすため、焼結鉱品質を 左右する重要な鉱物相である。第1章で述べたように、カルシウムフェライトは 2CaO・
Fe2O3、CaO・Fe2O3、CaO・2Fe2O3の三種類の鉱物が存在し、さらに、還元過程によって はFe2+を含むCaO・FeO・Fe2O3、CaO・3FeO・Fe2O3、4CaO・FeO・4Fe2O3、3CaO・
FeO・7Fe2O3、4CaO・FeO・8Fe2O3などの存在が知られている。このように、様々な種類
のカルシウムフェライト組織が存在し、それぞれ、生成・溶融する温度が異なる。焼結鉱製 造プロセスにおいて、焼結機内通気性を制御し安定操業を達成するためには、これらカルシ ウムフェライトからの融液生成制御が重要となってくる。焼結鉱製造プロセスにおいてヘ マタイトとCaO間の融液生成反応については多くの先行研究1-4)がなされている。一方で、
マグネタイトとCaOの反応に関する詳しい研究は乏しいのが現状である。
マグネタイトを使用した場合、Fe2+/Fe3+の存在状況がヘマタイト使用時と異なるため、
鉱物相および融液生成挙動が異なる可能性が考えられる。そこで、本研究では、マグネタイ ト使用時の初期融液生成挙動の解明を行うことを目的として、焼結プロセスを考慮した等 速昇温条件下において、不活性雰囲気およびマグネタイト酸化雰囲気下で、マグネタイト- CaO試料からの融液生成挙動の基礎的調査を行った。
15 2.2 実験方法
2.2.1 実験試料
焼結原料を単純化して模擬するために、酸化鉄とCaOを混合した試料を作製した。本研 究では、CaCO3の分解反応時の CO2の発泡 4)による試料形状の変化を防ぐためCaOを用 意して用いた。酸化鉄として粒径-1μm、純度99%の試薬マグネタイト、Table2-1に示す化 学組成の粒度 45μm のマグネタイト精鉱および粒径が-1μm、純度 98.5%の試薬ヘマタイ トを用意した。CaOとして純度99.5%の試薬CaCO3を大気雰囲気下で1300℃で10h焼成
し、-45μmに整粒したものを準備した。これら粉末試料をTable2-2および2-3に示す配合
割合で混合した。ここで、H80はFig.1-8のFe2O3-CaO二元系状態図の共晶組成付近の混 合割合であり、H90は一般的な焼結鉱の組成の混合割合である。混合後、Fig.2-1に示すよ うに、直径3mmのダイスを用いて、高さ0.5mm、直径3mm、空隙率30%のタブレット に圧粉成形をしたSample1、および、直径10mmのダイスで、高さ1.7mm、直径10mm、
空隙率30%のタブレットに圧粉成形したSample2を準備した。Sample1はレーザー顕微
鏡を用いた初期融液生成開始温度測定ための試料として使用した。XRDを用いた定性分析 を行う際、試料をガラス試料板の充填部分(20mm×18mm×2mm)に充填するために量が 必要であったため、Sample2を準備した。
T·Fe FeO CaO SiO 2 Al 2 O 3 68.1 28.4 0.03 2.41 0.43
Table 2-1. Chemical composition of magnetite concentrate (mass%).
16
Table2-2. Chemical compositions of sample (mass%).
Table2-3. Chemical compositions of sample (mass%).
17
Fig.2-1 Schematic view of samples.
Mi x Press CaO
(-45μm) Fe
2O
3(-1μm)
or Fe
3O
4(-1μm)
Φ3mm
0.5mm
Sample1
Porosity:30%
Porosity:30%
1.7mm
Φ10mm
Sample2
18 2.2.2 実験装置および実験手順
等速昇温条件下における酸化鉄-CaO 固相反応における初期融液生成挙動の微視的その 場観察を行った。高温でのその場観察を可能にするために、本研究ではFig.2-2に示す赤外 線ゴールドイメージ加熱炉を備えた共焦点走査型レーザー顕微鏡5)を使用した。
タブレット状に成形されたSample1は内径5mm、高さ2.5mmの白金製パンに装入した 後、レーザー顕微鏡直下の赤外線ゴールドイメージ加熱炉内試料チャンバーに設置した。チ ャンバー内部は実験中、流量200ml/min の純度 99.9995%の高純度Ar ガスの不活性雰囲 気、または流量200ml/minの大気雰囲気とした。実際の焼結プロセスでは、コークスの燃 焼に伴い、焼結機層内は1、2分で1000-1200℃付近まで急速に昇温される。ゆえに、実際 の焼結プロセスを模擬し、1000℃まで 1000℃/minの加熱速度で急速昇温した。1000℃に 到達した後、試料からの融液生成開始が確認されるまで50℃/min で等速昇温した。加熱実 験中に試料表面で生じる現象をレーザー顕微鏡のCRTモニター上で直接観察をし、同時に PCへの録画を行った。録画した映像より、初期融液生成開始温度を決定した。
さらに、固相間反応過程で生成する鉱物相の同定を行うため、Sample2のH80、H90、
M80、M90の組成の試料を用意した。これらの試料を Fig.2-3 に示す赤外線ゴールドイメ
ージ加熱を備えた縦型炉を用いて、上記と同様に1000℃まで 1000℃/minの加熱速度で急 速昇温し、その後、50℃/minで等速昇温し、不活性雰囲気の場合にはT-50℃、酸化雰囲気
の場合は1000℃、1100℃、T-50℃で急冷した。ここで、T-50℃は、直接観察により決定した
初期融液生成開始温度よりも 50℃低い温度である。急冷後の試料を粉砕した粉末を XRD を用いた鉱物相の定性分析に供した。
19
Fig. 2-2 Schematic diagram of confocal laser scanning microscope with infrared image furnace.
20
Fig. 2-3 Schematic view of infra-red gold image heating furnace.
21 2.3 実験結果および考察
2.3.1 不活性雰囲気における試薬酸化鉄-CaO反応挙動
Fig.2-4 にレーザー顕微鏡による高温直接観察の一例を示す。温度上昇に伴い CaO と酸
化鉄の固相間反応により試料表面に変化が生じ、さらに温度が上昇すると試料表面の形状 変化が確認された。本研究では、試料表面の形状変化の開始温度を初期融液生成開始温度と 定義した。
22
Fig.2-4 Laser micrographs of initial liquid formation behavior of M80 under Ar.
23
不活性雰囲気条件下におけるヘマタイト‐CaOおよびマグネタイト‐CaO混合試料の初 期融液生成開始温度の測定結果をFig.2-5に示す。ヘマタイト混合試料の平均初期融液生成 開始温度に関しては、H80が1274℃、H85は1273℃、H90 は1287℃であった。マグネ タイト混合試料の平均初期融液生成開始温度は、M80が1298℃、M85は1288℃、M90は 1297℃であった。この結果より、酸化鉄混合割合に関係なく、マグネタイト混合時の方が ヘマタイトより初期融液生成温度が高いことがわかった。Fig.2-6に各々の試料のT-50℃に おける中断試料の光学顕微鏡写真を示す。どの条件においても、酸化鉄とカルシウムフェラ イト系の組織が観察された。また、残留 CaO の存在は確認されなかった。この結果より、
初期融液生成に直接的に関与した鉱物相はヘマタイト、マグネタイト共にカルシウムフェ ライト系の組織であると推察される。
Fig.2-5 Initial liquid formation temperature heated at 50℃/min under Ar.
75 80 85 90 95
1150 1200 1250 1300 1350
Weight ratio of hematite or magnetite in samples(mass%) T em pe ra tu re ( ℃ ) Ar
● Magnetite
〇
Hematite
24
Fig.2-6 Microstructure of samples quenched at T-50℃ under Ar.
25
XRD による定性分析の結果を報告する。本研究では、Table2- 4 に示す9つの鉱物相に 関して定性分析を行った5), 6)。すなわち、ヘマタイト、マグネタイト、CaO、2成分系カル シウムフェライトとしてCaO・Fe2O3(以下CFと略記)、CaO・2Fe2O3(以下CF2と略記)お
よび2CaO・Fe2O3(以下C2Fと略記)の3種類、3成分系カルシウムフェライトとして、マ
グネタイトとCaOがモル比で1:1のCaO・FeO・Fe2O3(以下1-1-1と略記)、CFにFe2+
が関与した4CaO・FeO・4Fe2O3(以下4-1-4と略記)、CF2にFe2+が関与した4CaO・FeO・
8Fe2O3(以下4-1-8と略記)である。
Chemical formula Legend Abbreviation
Fe
2O
3○ -
Fe
3O
4 ●-
CaO △ -
CaO ・ Fe
2O
3▽ CF
2CaO ・ Fe
2O
3▽ C
2F
CaO ・ 2Fe
2O
3▼ CF
2CaO
・FeO
・Fe
2O
3 ◇1-1-1
4CaO
・FeO
・4Fe
2O
3 ■4-1-4 4CaO
・FeO
・8Fe
2O
3 □4-1-8
Table2-4. Mineral phase identified by XRD.
26
Fig.2-7に各々の試料のT-50℃におけるXRDパターンを示す。H80ではFe2O3、CF、C2F およびCF2が同定され、H90はFe2O3、CFおよびCF2が同定された。一方、M80では、
Fe3O4、C2Fおよび1-1-1を、M90はFe3O4および1-1-1を同定した。この結果より、ヘマ タイトではCF またはCF2が初期融液となり、マグネタイトでは1-1-1 が初期融液となっ たと考えられる。これらの鉱物相の違いより、マグネタイトを用いた試料の初期融液生成開 始温度がヘマタイトの試料より高くなったものと推察される。
Fig.2-7 X-ray diffraction pattern of samples (H80,H90,M80 and M90) quenched at T-50 °C under Ar.
27
2.3.2 酸化雰囲気における試薬酸化鉄-CaO反応挙動
大気雰囲気下におけるヘマタイト‐CaOおよびマグネタイト‐CaO混合試料の初期融液 生成開始温度の測定結果をFig.2-8に示す。ヘマタイト混合試料の平均初期融液生成開始温
度はH80が1257℃、H85が1241℃、H90が1265℃であった。大気雰囲気における平衡
状態図上では1205℃の共晶温度が最も低温で融液を生成する温度であるので、1205℃が初 期融液生成開始温度となると考えられる。しかしながら、本実験の初期融液生成開始温度は
1205℃の共晶温度より高い結果となった。初期融液生成開始温度は一般的に昇温速度 7)、
試料粒径ならびに試料混合状態に依存すると考えられる。本研究の昇温速度は焼結プロセ スを模したため50℃/minと比較的速く、非平衡状態であることが推察される点や、酸化鉄 が-1μm、CaOが-45μmと粒径が異なる点などにより反応が不均一であったと考えられるこ とにより、共晶温度の1205℃より高い温度で溶融が確認されたと考えられる。マグネタイ ト混合試料の平均初期融液生成開始温度はM80が1262℃、M85が1201℃、M90が1192℃
であった。この結果より、マグネタイト混合試料は初期融液生成開始温度がヘマタイト混合 試料と異なり、未酸化の Fe2+が初期融液生成に影響を与えている可能性が示唆された。ま た、マグネタイト混合割合の違いにより、初期融液生成開始温度に大きな違いが生じる結果 となった。Fig.2-9に各々の試料の T-50℃における中断試料の光学顕微鏡写真を示す。どの 条件においても、不活性雰囲気と同様に酸化鉄とカルシウムフェライト系の組織が観察さ れ、残留CaOの存在は確認されなかった。この結果より、初期融液生成に直接的に関与し た組織はヘマタイト、マグネタイト共にカルシウムフェライト系であると示唆される。
Fig.2-8 Initial liquid formation temperature heated at 50℃/min under air .
● Magnetite
〇
Hematite
75 80 85 90 95
1150 1200 1250 1300 1350
Weight ratio of hematite or magnetite (mass%)
T em pe ra tu re ( ℃ ) Air
28
Fig.2-9 Microstructure of samples quenched at T-50℃ under air.
29
Fig.2-10に1000℃、1100℃およびT-50℃におけるH80およびH90のXRDパターンを
示す。H80およびH90ではFe2O3、CFおよびCF2が同定された。ヘマタイト-CaO混合 試料の場合、Kimuraら5)のQ-XRDを用いた結晶構造変化のin- situ観察の結果と同様に CFおよびCF2が固相間反応で生じ、融液を生成したことがわかった。
Fig.2-11に1000℃、1100℃およびT-50℃におけるM80およびM90のXRDパターンを
示す。M80はCaO、Fe2O3、CF、CF2および4-1-4が同定された。4-1-4に関しては1000℃
の段階で生成されていることがわかった。M90はCaO、Fe2O3、CF、CF2および4-1-8を 同定した。1100℃から1142℃の間に2θ=約34.5°の回折線の尖度が減少し、回折線が広が っているように変化していることを確認した。この回折線の変化は、Kojimaら8)のCF2と
4-1-8を比較した際の傾向と同様であり、CF2の一部が4-1-8になったと考えられる。マグ
ネタイト‐CaO混合試料の場合、マグネタイトの酸化反応が生じ一部Fe2O3が生成するた め、Fe2O3とCaOが反応してCFを形成すると考えられる。
マグネタイト混合割合が小さい場合は、
3(CaO・Fe2O3)+CaO+Fe3O4→4CaO・FeO・4Fe2O3・・・・・・(2-1)
の反応により、FeO-CaO・Fe2O3系である4-1-4を生成する。(2-1)の反応はFig.2-11より 低温域(1000℃)で生じており、この反応により、マグネタイトが消費され、初期融液生成開 始にはFe3O4は関与しなかったものと考えられる。
一方、マグネタイト混合割合が大きい場合は
3(CaO・2Fe2O3)+Fe3O4+CaO・Fe2O3→4CaO・FeO・8Fe2O3・・・・・・(2-2)
の反応により、FeO-CaO・2Fe2O3系である 4-1-8 が生成されると考えられる。この場合、
(2-2)の反応はFig.2-11より1100℃以上の高温域で生じると考えられ、Fe3O4が初期融液 生成に関与し、その結果、Fig.2-12に示すCaO-FeO-Fe2O3状態図9),10)上の最も低い1194℃
付近で融液生成開始が生じたと考えられる。ゆえに、M90 の初期融液生成開始温度が他の 試料に比べ、低温化したと示唆される。以上の結果より、大気雰囲気においては、融液生成 開始前の過程で酸化されずに残留したFe2+源、CaOおよび二成分系カルシウムフェライト の存在量比が初期融液生成開始温度に影響を与えることが明らかになった。
30
Fig.2-10 X-ray diffraction pattern of samples (H80 and H90) quenched at 1000°C, 1100°C and T-50°C under air.
31
Fig.2-11 X-ray diffraction pattern of samples (M80 and M90) quenched at 1000°C, 1100°C and T-50°C under Air.
32
Fig.2-12 Calcium ferrite reaction of phase diagram of CaO-FeO-Fe2O314),15).
33
2.3.3 不活性および酸化雰囲気におけるマグネタイト精鉱-CaO反応挙動
試薬マグネタイトとマグネタイト精鉱を用いた場合の不活性および酸化雰囲気における 初期融液生成開始温度の測定結果を Fig.2-13、Fig.2-14 に示す。マグネタイト精鉱を用い ると試薬を用いた場合より大幅に初期融液生成開始温度が低下する傾向が見られた。これ
は、Table2-1に示した通り、マグネタイト精鉱中に含まれるSiO2成分の影響であると考え
られる。酸化雰囲気においては、Fig.2-15に示すFe2O3-CaO-SiO2状態図上の初期融液 生成開始温度(最低融点)である1192℃の低融点多成分系カルシウムフェライトが生成し たものと考えられる。不活性雰囲気については、酸化雰囲気よりさらに低温側に移行してい ることから、マグネタイト中のFe2+源とSiO2が反応し、低融点スラグが形成されたと示唆 される。すなわち、Fe2O3、SiO2の組み合わせでは形成されないFeO・SiO2(融点1140℃)
および2FeO・SiO2(融点1083℃)が生成したと考えられる。
酸化雰囲気の場合は、マグネタイト粒子表面は酸化され、ヘマタイトになり、Fe2O3‐
CaO-SiO2間の反応が生じ、低融点多成分系カルシウムフェライトが初期融液となり、不活
性雰囲気の場合は、Fe2+源とSiO2が反応し低融点スラグが形成し、初期融液となったもの と考えられる。
34
Fig.2-13 Initial liquid formation temperature heated at 50°C/min under Ar .
75 80 85 90 95
1150 1200 1250 1300 1350
Weight ratio of magnetite in samples(mass%)
T em pe ra tu re ( ℃ )
△
Magnetite(A r )
△
Magnetite concentrate(Ar)
35
Fig.2-14 Initial liquid formation temperature heated at 50°C/min under Air
75 80 85 90 95
1150 1200 1250 1300 1350
Weight ratio of magnetite in samples(mass%)
T em pe ra tu re ( ℃ )
〇
Magnetite(Ai r )
〇
Magnetite concentrate(Air)
36
Fig.2-16¥5 Phase diagram of CaO-Fe2O3-SiO2.
37 2.4 結言
焼結鉱製造プロセスにおけるマグネタイト精鉱利用を目的としたマグネタイトとCaOの 間の初期融液生成挙動に関する基礎的調査を行い、以下の知見を得た。
1. 不活性雰囲気において、試薬マグネタイト‐CaO 混合試料の初期融液生成開始温度は 混合割合に依らず、試薬ヘマタイト‐CaO 混合試料よりも高い傾向を示した。一方、
酸化雰囲気においては、試薬マグネタイト‐CaO 混合試料の初期融液生成開始温度は 試薬ヘマタイト‐CaO 混合試料よりも低い傾向を示し、さらに、マグネタイト重量割 合の増加に伴い、低温化することがわかった。
2. 不活性雰囲気、酸化雰囲気ともに、試薬ヘマタイト‐CaO混合試料の場合は2成分系 カルシウムフェライト(CaO-Fe2O3)が融液生成温度以下で生じており、試薬マグネ タイト‐CaO混合試料の場合は、それに加えて3成分系カルシウムフェライト(CaO
-FeO-Fe2O3)が生じていた。
3. 大気雰囲気下での試薬マグネタイト‐CaO 混合試料において、マグネタイトの混合割 合が小さい場合は、FeO-CaO・Fe2O3系である 4-1-4が低温で生成し、この反応でマ グネタイトが消費され、未酸化 Fe2+は融液生成には関与しなかったと考えられる。一 方、マグネタイトの混合割合が大きい場合は、FeO-CaO・2Fe2O3系である 4-1-8 が
1100℃以上の高温域で生成し、融液生成に未酸化 Fe2+が関与していたと考えられる。
以上のことより、大気雰囲気の場合、マグネタイトの混合割合により未酸化 Fe2+の利 用される温度が異なり、初期融液生成開始温度に差が生じたと考えられる。
4. マグネタイト精鉱の場合、脈石成分であるSiO2の影響で初期融液生成開始温度は試薬 を用いた場合より低下した。また、大気雰囲気の場合は、低融点多成分系カルシウムフ ェライトが初期融液となること、不活性雰囲気の場合は、低融点スラグが形成し、初期 融液となることがわかった。
38 引用文献
1) D.F.K. Becker and J.S. Kasper: Acta Crystallographica, 10(1957), 332.
2) N.V.Y. Scarlett, M.I. Pownceby, I.C. Madsen and A.N. Christensen: Metall.
Mater. Trans. B, 35(2004), 929.
3) X. Gun, T. Maeda and Y. Ono: Tetsu-to-Hagané, 81(1995), 28.
4) M. Kimura and R. Murao: Tetsu-to-Hagané, 100(2014), 62.
5) K. Ohno, M. Kaimoto, T. Maeda, K. Nishioka and M. Shimizu: Tetsu-to-Hagané, 98(2012), 634.
6) H. Hughes, P. Roos and D. C. Goldring : Mineralogical Magazine, 36(1967), 280.
7) A. Maesono: Netsu Sokutei, 32(2005), 126.
8) K. Kojima, K. Nagano, T. Inazumi, K. Takagi and K. Shinada:Tetsu-to-Hagané, 8(1969), 669.
9) B. Phillips and A. Muan: Trans. Met. Soc. AIME, 218(1960), 1112.
10) E.Schürmann and G. Kraume: Arch. Eisehüttenwes, 47(1976), 435.
39
第
3
章 カルシウムフェライト生成に及ぼすマグネタイトの影響3.1 緒言
焼結鉱製造過程において、粉鉱石とCaOとの固相間反応によってカルシウムフェライト が生成する。前章で述べたが、生成されたカルシウムフェライトが融液生成の起点として働 くことが報告されている1)。酸化鉄とCaOとの固相間反応によるカルシウムフェライト反 応機構に関する研究は重要である。ヘマタイトとCaO間の反応機構に関する研究1-5)はか なり報告されているが、マグネタイトとCaOの反応機構に関する研究はほとんどない。
そこで、本章では、焼結プロセスを考慮して、大気雰囲気において、昇温過程での結晶構 造変化を直接、リアルタイムに観察し、マグネタイトとCaOの固相間反応の初期カルシウ ムフェライト生成温度域を調査し、マグネタイトとCaOの固相間反応によるカルシウムフ ェライト生成について基礎的検討を行った。
40 3.2 実験試料および実験方法
・実験試料
試薬粉末のCaO(粒度-45μm)、Fe3O4 (粒度-1μm) およびFe2O3 (粒度-1μm)をTable 3- 1に示す配合割合混合したものを実験試料とした。H80は共晶組成(Fe2O357.2mol%)付近の 混合割合、H90は一般的な焼結鉱の組成の混合割合をそれぞれ模擬している。
CaO Fe ₂ O ₃ Fe ₃ O ₄
H80 20 80
H90 10 90
M80 20 - 80
M90 10 - 90
Table 3-1 Chemical compositions of sample (mass%).
41
・実験方法
昇温加熱装置を備えた全自動水平型多目的 X 線解析装置を用いて、高温反応中の結晶構 造の変化を調べた。Fig.3-1に装置設置用容器の概略図を示す。設置用容器は白金製であり、
容器自体が加熱する仕組みとなっている。粉末試料を容器内に充填し、装置内に設置した。
試料を大気中で室温から 1100℃まで 50℃/minで等速昇温させながら、随時回折ピークの 測定を行った。リアルタイムでのin situ観察を行うため、測定回折角を2θ=23.5-46.5°
とし、1サイクル(測定時間が23秒+測定準備時間が40秒)を63秒で行った。この回折 角の範囲はヘマタイト、マグネタイト、CaO、CaO・Fe2O3の回折ピークが顕著に表れる範 囲である。
温度校正に関しては実験と同条件で α-Al2O3の熱膨張を X 線回折で測定し、α-Al2O3の 熱膨張係数と格子定数の 関係6)から行った。
Fig.3-1 Schematic view of the sample holder.
42 3.3 実験結果および考察
Fig.3-2 に昇温過程における各試料のX線回折パターンの変化を示す。H80およびH90
の X 線回析パターンの変化は同様な形態を示し、温度上昇に伴い、固相内拡散が十分に早 くなり、CF相の生成が確認された。M80およびM90のX線回析パターンの変化は温度上 昇に伴い、マグネタイトの酸化反応によるヘマタイト相の生成が確認され、さらに温度が上 昇すると、CF相の生成が確認された。どの試料においても、固相内拡散により初期に生成 されるカルシウムフェライトはモノカルシウムフェライト(CaO・Fe2O3)であることがわ かった。
1100℃
1054-1073℃
995-1014℃
934-953℃
20 30 40 50
2θ(deg)
1100℃
1047-1066℃
927-946℃
20 30 40 50
2θ(deg)
987-1006℃
1073-1092℃
1013-1032℃
20 30 40 50
2θ(deg)
1100℃
1053-1072℃
993-1012℃
20 30 40 50
1100℃
2θ(deg)
H80 M80
H90 M90
Fe2O3 CaO
CaO・Fe2O3 Fig.3-2 X-ray diffraction pattern of samples(H80,H90,M80 and M90) heating
at 50°C/min under Air.
43
そこで、本研究における初期カルシウムフェライト生成開始温度域の決定方法をFig.3-3 に示す。今回は、モノカルシウムフェライトの第1ピーク 2θ≒33.45°が確認された温度 を基に定義した。
各試料の初期カルシウムフェライト生成開始温度域をTable 3-2に示す。マグネタイトを 使用した場合がヘマタイトに比べ、初期カルシウムフェライト生成開始温度域が低温であ ることがわかる。一方、酸化鉄重量割合に関してはカルシウムフェライト生成開始温度域に 大きな影響を及ぼさなかった。このことより、初期カルシウムフェライト生成温度域がマグ ネタイトとヘマタイトでは異なり、マグネタイトを使用した方が低温でカルシウムフェラ イトを生成することが可能であり、マグネタイトは1000℃以下でもカルシウムフェライト 生成が可能であるとこが示された。
Temperature (℃)
993-1012℃
1012
993 1053 1072
1053-1072℃
n-1 n
Initial calcium ferrite formation start temperature area
Fe2O3 CaO CaO・Fe2O3
CaO・Fe2O3Peak 2θ≒33.45°
Fig.3-3 Method to decide Initial calcium ferrite formation start temperature area.
Initial calcium ferrite formation start temperature area
H80 1000-1060℃
M80 941-1002℃
H90 1020-1080℃
M90 934-993℃
Table 3-2 Initial calcium ferrite formation start temperature area.
44
次に、X線回析結果より、カルシウムフェライト生成量について定量分析を行った。本研 究では、全回析パターン分解法(WPPD 法)を用いて、実験結果と分析計算結果のフィッ ティングを行い、定量分析を行った。1100℃における各試料の定量分析結果をTable 3-3に 示す。今回、X2(カイ二乗)≒1であり、分析結果は正確であると考えられる。定量分析の 結果から、マグネタイトの方が固相間反応で生成される初期カルシウムフェライト生成重 量割合が大きいことがわかる。
以上のことより、融液生成前の低温域においては、マグネタイトの方がヘマタイトよりカ ルシウムフェライト生成には有利であることがわかった。焼結層上部は熱不足の低温度域 において、マグネタイトを用いることでヘマタイト使用時より固相間反応によるカルシウ ムフェライトを多く生成し、高強度焼結鉱ができ、焼結鉱製品歩留まりの向上が期待できる。
Table 3-3 Quantitative phase analysis of samples (H80,M80,H90,M90) at 1100°C in air.
CaO Fe₂O₃ CaO ・ Fe₂O₃
H80 13.4 64.3 22.3
M80 7.5 60.9 31.6
H90 5.5 74.5 20.0
M90 0 67.8 32.2
45 3・4 結言
酸化雰囲気における酸化鉄-CaO 混合試料の固相間反応挙動について昇温加熱装置を備 えた全自動水平型多目的X線解析装置を用いて結晶構造変化のin-situ観察を行い、以下の 結果を得た。
1. 昇温過程におけるX線回折パターンの変化より、ヘマタイト‐CaO混合試料およびマ グネタイト‐CaO 混合試料においてカルシウムフェライト相の生成を確認することが できた。また、初期カルシウムフェライト生成開始温度域はヘマタイト混合試料よりマ グネタイト混合試料の方が低温であった。
2. 定量分析結果より初期カルシウムフェライトはヘマタイトよりマグネタイトの方が多 く生成する傾向が確認された。
3.
マグネタイト混合試料はヘマタイト混合試料より低温でカルシウムフェライトを生成 し、また、生成量の面でもヘマタイトより多いことがわかった。この特性は焼結層上層 部の強度向上に有効であると考えられる。46 引用文献
1) Y. Hida, J. Okazaki, K. Itoh and M. Sasaki:Tetsu-to-Hagané, 73(1987), 1893.
2) M. Sasaki and T. Nakazawa:Tetsu-to-Hagané, 54(1968), 1217.
3) A.A. El-Geassy, K.A. Shehata and S.Y. Ezz : Iron and Steel Int., 49(1976), 427.
4) Schneider, A. and Koch, K. : Arch. Eisenhuttenwes., 49(1978), 469.
5) A.van Sandwijk and K.Koopmans : Science of Ceramics, 10(1979), 403.
6) T.L.-B.D.Springer Materials, Physical properties of Al2O3, (2011).
7) D.F.K.Becker and J.S.Kasper: Acta Crystallographica, 10(1957), 332.
47
第
4
章 マグネタイトの酸化反応速度解析4.1 緒言
マグネタイトは磁力選鉱に有利である点や式(4-1)のように酸化雰囲気中で酸化発熱す るなどの特徴を有しているため、高品位原料および凝結材として期待されている。
Fe3O4+1/4O2→3/2Fe2O3 ΔHR=-114.5kJ・・・・・・(4-1)
また、NOx生成量の低減効果1)があるとされている。Yangら2)は微粉マグネタイト精鉱を 様々な温度や酸素分圧で酸化させた際の酸化挙動について調べており、酸化速度は温度と 酸素分圧に依存すると報告している。
しかし、焼結プロセスにおけるマグネタイトの酸化反応速度に関する研究、特に、擬似粒 子を形成する微粉の酸化反応に関する研究はなされていない。
そこで、本研究では、造粒後の擬似粒子の微粉鉱石層を模擬した試料を用いて、マグネタ イトの酸化実験を行い、焼結鉱製造に適した酸化反応速度式の算出を行った。
48 4.2 実験方法
4.2.1 実験試料
マグネタイト‐CaO混合時の酸化反応挙動を調査するために、Fig.4-1に示すように、
試薬マグネタイトとCaOを用いて試料を作製した。マグネタイトが90mass%、CaOが
10mass%の混合試料をM90、マグネタイト単味試料をM100とした。M90およびM100
共に粉末試料をダイスを用いて直径3mm、高さ0.5mm、空隙率30%のタブレット状に加 圧成形したものを実験試料とした。
次に、マグネタイト酸化に及ぼす温度の影響を調査するために、粒径-250μmに整粒し たマグネタイトを用いて試料を作製した。焼結プロセスにおけるマグネタイト酸化反応を 模擬するために、Fig.4-2に示すように、マグネタイトにバインダー(小麦粉)を外数
3mass%添加混合したものをダイスを用いて、直径10mm、高さ10mm、空隙率35%の
タブレットに加圧成形したものを実験試料とした。
Fig.4-1. Schematic view of samples.
Mix Press
(-45mμm) CaO
Fe
3O
4(-1μm)
Φ3mm0.5mm
Sample1
Porossity:30%
・Magnetite (-250μm)
・Binder
10mmφ
Mix Press
Porosity 35%
Fig. 4-2. Over all view of raw materials and tablet.