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非熱的核反応を利用した核燃焼プラズマの診断法に 関する研究

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

非熱的核反応を利用した核燃焼プラズマの診断法に 関する研究

川本, 靖子

https://doi.org/10.15017/1931895

出版情報:九州大学, 2017, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

非熱的核反応を利用した核燃焼プラズマの診断法に関する研究

平成 30 年 1 月

川本 靖子

(3)

目次

第一章 序論 ... 5

1-1 核融合炉の現状と今後 ... 5

1-1-1 ITER ... 6

1-1-2 JET ... 9

1-1-3 LHD ... 9

1-1-4 原型炉用ITERテストブランケットモジュール ... 10

1-2 高エネルギー粒子が核燃焼に与える影響 ... 10

1-3 高エネルギー粒子計測 ... 12

1-3-1 中性粒子計測法(高エネルギービーム荷電交換法) ... 13

1-3-2 協同トムソン散乱計測法 ... 13

1-3-3 中性子エネルギースペクトル計測法 ... 13

1-3-4 線計測法 ... 14

1-4 中性子計測による燃料イオン比の計測法 ... 14

1-5 核弾性散乱 ... 15

1-6 ノックオンテイル ... 16

1-7 ノックオンテイル観測法... 18

1-8 中性子及び線計測器 ... 20

1-9 本研究の目的 ... 20

1-10 本論文の構成 ... 21

第二章 解析手法 ... 22

2-1 核弾性散乱断面積 ... 22

2-2 核燃焼プラズマにおけるプラズマイオンの速度分布関数 ... 23

2-2-1 Boltzmann-Fokker-Planck方程式 ... 23

2-2-2 Fokker-Planck方程式 ... 29

2-2-3 二温度Maxwell分布モデル ... 31

2-3 核燃焼プラズマにおける核反応 ... 32

2-4 放出スペクトル ... 33

2-5 ドップラー効果 ... 34

2-6 フォールディング ... 36

2-7 高エネルギー粒子を含むプラズマの速度分布関数と核反応生成物の放出スペクトル 36 2-7-1重水素入射DTプラズマにおける燃料イオン速度分布関数と放出スペクトル .. 37

2-7-2 プラズマパラメータと分布関数、反応率係数、放出スペクトルの関係 ... 39

2-7-3 非Maxwell成分がプラズマに与える影響 ... 43

(4)

2-7-4 トリトンburnupの影響 ... 45

2-7-5 線生成反応に対する分布関数の歪みの影響 ... 46

第三章 NBI加熱DTプラズマにおける燃料イオン比診断 ... 49

3-1 DTプラズマにおける燃料イオン比診断の重要性と評価方法 ... 49

3-2 ブランケット構造が燃料イオン比に及ぼす影響の評価 ... 51

3-3 プラズマ温度が燃料イオン比計測に及ぼす影響の評価 ... 55

3-4 ビーム入射(高エネルギー粒子の増加による)による反応率変化... 56

3-5 プラズマ密度が燃料イオン比計測に及ぼす影響の評価 ... 57

3-6 計測エネルギー領域に対する計測精度依存性 ... 59

3-7 本章まとめ ... 60

第四章 ノックオンテイル観測実験に対するプラズマ温度変化の診断法 ... 62

4-1 ビーム入射によるプラズマ温度変化の懸念 ... 62

4-2 二温度Maxwell分布モデルを利用したアプローチ ... 64

4-3 ノックオンテイル形成がD(d, n)3He、D(t, n)4He及び6Li(t, p)8Li反応率に及ぼす影響 ... 64

4-4 プラズマ(バルク)温度がD(d, n)3He、D(t, n)4He及び6Li(t, p)8Li反応率へ及ぼす影響 ... 66

4-5 プラズマ温度診断へのD(t, n)4He及び 6Li(t, p)8Liの利用 ... 68

4-6 T(d, n)4He、6Li(t, p)8Li反応を利用したノックオンテイル観測実験手順 ... 71

4-7 本章まとめ ... 74

第五章 ノックオンテイルの形状評価法 ... 75

5-1 線放出スペクトルに対するプラズマ条件の依存性 ... 75

5-1-1 電子温度依存性 ... 77

5-1-2 ビームエネルギー依存性 ... 79

5-1-3 加熱入力依存性 ... 80

5-1-4 重陽子密度依存性 ... 80

5-1-5 ノックオンテイル観測実験におけるプラズマ条件が線放出スペクトルに与える 影響 ... 81

5-2 二温度Maxwell分布モデルによるノックオンテイル形状評価法 ... 82

5-2-1 二温度 Maxwell 分布モデルによるノックオンテイル形状と線放出スペクトルの 関係 ... 83

5-2-2 ノックオンテイル形状評価法手順 ... 84

5-2-2 テイル温度Ttailと線放出スペクトルの傾きの関係 ... 87

(5)

5-2-3 テイル温度Ttailと反応率の関係 ... 88

5-2-4 二温度Maxwell分布モデル模擬の妥当性 ... 88

5-2-5 エネルギー分解能に対する二温度Maxwell分布モデルの妥当性 ... 90

5-3 本章のまとめ ... 93

第六章 まとめ ... 94

6-1 総括 ... 94

6-2 今後の展望 ... 96

参考文献 ... 97

謝辞 ... 100

(6)

5

第一章 序論

1-1 核融合炉の現状と今後

現代の人間活動を支えるエネルギーは、火力・水力・原子力・太陽光など多岐にわたって いる。しかし、環境の変化や有限な資源など、将来に対するエネルギー問題への懸念は払拭 されておらず、依然として世界規模での関心は高まっている。そのため、環境に適応した豊 富で安全なエネルギーの長期的な安定が求められている。核融合エネルギーは、資源量・供 給安定性、安全性、環境適合性、核拡散抵抗性、放射性廃棄物の処理・処分等の観点で優れ た可能性を秘めており、将来のエネルギー供給源として有力視されている[1]。特にわが国 は経済大国である一方で資源の少ない島国であり、加えて福島原発事故以降、エネルギーの 安定供給を支えてきた原子力発電に頼ることが難しくなりつつある現状から、核融合エネ ルギーへの期待が高まっている。そのため、核融合炉実現は電源の多様化を目指す我が国の 重要な課題の一つとされている。

核融合炉は、磁場を利用する磁場閉じ込め方式とレーザーや荷電粒子線を用いた爆縮を 利用する慣性閉じ込め方式がある。現在主流となっているトカマク型核融合炉は磁場閉じ 込め方式であり、1960年代後半から研究が開始された。1980年代には世界の三大トカマク 装置と呼ばれたトカマク型臨界プラズマ試験装置JAERI Tokamak-60 (JT-60)、トカマク核 融合試験炉 Tokamak Fusion Test Reactor (TFTR)、欧州トーラス共同研究施設 Joint

European Torus (JET)でのプラズマ実験の研究が始まった。JT-60は日本原子力研究所(現、

量子科学技術研究開発機構)にある実験装置で 1996 年にプラズマ臨界条件の達成を果たし [2]、現在その後継として国際熱核融合実験炉 International Thermonuclear Experiment Reactor (ITER)で行われる実験の補完実験や原型炉のデザインに必要な実験を行うために、

超伝導核融合実験装置JT-60 Super Advanced (JT-60SA) [3、4]の改修作業が進められてい る。アメリカのTFTRの開発は1974年に開始され、(1)パルス運転を基本とした重水素-ト リチウム(DT)燃焼から核融合エネルギーを生産すること、(2)大型トカマクのプラズマ物理 を研究すること、(3)大型核融合システムに関連する工学的な問題を解決することを目的に したプロジェクトが1976年に計画され、DTプラズマでの実験を経て1997年にシャット ダウンされた[5]。イギリスに建設されているJETについては1-1-2節に記述する。閉じ込 め方式には、プラズマ電流を必要としないことで定常性に優れるヘリカル型核融合炉があ り、日本には世界最大規模の大型ヘリカル装置Large Helical Device (LHD)が核融合科学 研究所において稼働している。また、LHDと同程度の規模を持つドイツのヘリカル先進ス テラレータ配位の超電導プラズマ閉じ込め実験装置であるWendelstein7-X(W7-X)が 2015 年に実験を開始した[6]。中国では2006年に先進型超電導トカマク実験装置Experimental Advanced Superconducting Tokamak (EAST) [7]が、韓国では2008年に大韓民国超電導 トカマク先進研究装置Korea Superconducting Tokamak Advanced Research (KSTAR) [8]

が実験を開始している。日本を含め、世界各国で行われている核融合実験の成果は、国際協

(7)

6

力のもとに建設中のトカマク型実験炉ITER[9]に引き継がれる。

商業用炉を目指した核融合炉には、プラズマを囲むように核融合炉ブランケットが設置 される。核融合炉ブランケットは主に①中性子遮蔽、②燃料となるトリチウムの生成、③エ ネルギーの取り出し(冷却)の役割がある。実験炉の次ステップである原型炉にはこれらの機 能を持つブランケットの性能を評価するためにさまざまな設計が各国で進められている。

日本では、原型炉として固体増殖・水冷却ブランケットを採用した DEMO-jp[10]や SlimCS[11]の設計が進められており、核融合炉の商業化を目指した研究が進められている。

各国で進められている核融合炉のR&Dから、核融合炉実現や物理の解明に対して新しい 手法の提案や様々な課題が出されている。ここで、本研究に関連する ITER、JET[12]、

LHD[13]に加えて、ITERのテストモジュールとして開発が進められている核融合原型炉の

ブランケット候補の固体増殖・水冷却ブランケット[11、14]と固体増殖・ヘリウム冷却ブラ ンケットについて紹介を行う。

1-1-1 ITER

国際熱核融合実験炉International Thermonuclear Experiment Reactor(ITER)(Fig. 1-

1、Table1-1)は、核融合炉の物理や工学の研究を目的として、世界で初めて熱核融合実験炉

として計画されたトカマク型装置である[15]。これまでの核融合プラズマ実験装置と比べ、

500 MWの高い出力と400秒の長い燃焼時間を目標としており、幅広いプラズマパラメー

タでの実験が可能となる(Table1-1)。現在の核融合研究は、核反応を維持するプラズマの長 時間維持を実証する段階にきており、エネルギーを取り出すことを前提として、エネルギー 増倍率(=核融合出力パワー/外部加熱入力パワー)Q 値は Q>1 が絶対条件である。将来の商 用炉で必要となる自己加熱性の高い核燃焼過程を見通せるプラズマの実証を想定して、最 低でも10以上のQ値を目標(自己点火の可能性も排除しない)としている。ITERの運転 開始は、現時点で2025年、核融合プラ

ズマとして有力視されているDTプラズ マ核融合運転の開始は2035年を目標と しており、日、欧、米、韓、中、ロシア、

インドの国際協力のもと、フランスのカ ダラッシュに建設が進められている。

ITERには中性子の遮蔽や計測器等の装 備を配置するための遮蔽ブランケット が設置されるが、燃料であるトリチウム を生産するトリチウム増殖層は設置さ れない。しかし、3つの水平ポートがあ り、1つのポートに対して2つ、計6つ

のテストブランケットモジュールを設 Fig. 1-1 ITER 鳥観図 [16]

(8)

7

置することができるため、トリチウム増殖ブランケットの性能実験が行われる予定である。

ITERでは、原型炉や商業用炉の基本設計や運転制御に必要な物理パラメータ、さらに物 理を解明・理解するために必要な実験が予定されている(Table1-2)。実験の計測項目は大き く分けて3つのグループが設定されており、GROUP1aではBasic controlとして、例えば プラズマ電流やプラズマ中での燃料イオン比の計測、GROUP1bではAdvanced controlと して電子密度やイオン温度のプロファイルの計測、GROUP2ではPerformance Evaluation

and physicsとして粒子の閉じ込めや高速イオンの計測が予定されている。計測対象によっ

て要求される、空間分解能、時間分解能、測定精度などが大きく異なるため、目的に適した 計測装置が必要となる。

Table 1-1 ITER、JET、LHDの主要パラメータ比較表

ITER JET LHD

核融合出力[GWth] 0.5 0.016 - 燃焼時間(非誘導)[s] ~400(3000) - - プラズマ主半径[m] 6.2 2.92 3.9 プラズマ副半径[m] 2.0 0.95 0.65

プラズマ電流[MA] 15 Up to 4.8 - 中心トロイダル磁場[T] 5.3 Up to 4 3[4]

平均プラズマ温度[keV] 8.9 Up to 30 - プラズマ体積[m3] 831 80 30

電子密度[m-3] 0.94×1020 Up to 1×1020 5×1020

NBI and RF[MW] 33~50 30 15

(9)

8

Table1-2 ITERで予定される計測項目[17]

(10)

9 1-1-2 JET

欧州トーラス共同研究施設Joint European Torus (JET)(Fig. 1-2、Table1-1)はITERと 同様のトカマク型核融合炉の実験炉であり、ヨーロッパにある40以上の研究機関によって 構成されている。JETでは1983年の運転から、ITERの建設や運転のために核融合炉に求 められる技術やプラズマ運転に対する基礎的な

実験が行われている。ITER と幾何形状が非常 に似ており、1/3 スケールの小さな ITER と呼 ばれ、重水素プラズマを利用した実験はもちろ ん、世界に現存する炉で唯一DT混合燃料での 運転による実験が行われたトカマク炉である。

DTE1 キ ャ ン ペ ー ン で は 、 燃 料 数 密 度 比 nT/(nT+nD)が 0.5 超のショットを行うことで重 水素プラズマでは出すことが難しい高い出力や Q 値(=0.64)、粒子加熱、アルヴェン固有モー ドの研究が行われた[12]。

1-1-3 LHD

大型ヘリカル装置Large Helical Device (LHD)(Fig. 1-3、Table1-1)は、ヘリオトロン磁 場を採用した核融合プラズマ実験装置である。トカマク型では、閉じ込め磁場配位を形成す るための電流(プラズマ電流)が MHD 不安定性によって平衡を崩し、プラズマが消滅する (ディスラプション)可能性があるが、ヘリカル型装置は、外部コイルのみによって無電流状 態でのプラズマを閉じ込めることができる

ため、磁場核融合炉に必要とされる定常プ ラズマ運転が可能である。また、プラズマ電 流の制約を受けないため、低温高密度や高 β(プラズマ圧力/磁場圧力)運転も可能とさ れている[19]。LHDでは 1998 年のプラズ マ点火から核融合工学にまつわる様々な重 要課題に関する実験を行っており、(1)高 nプラズマによる輸送の研究、(2)高プラ ズマの物理研究、(3)ダイバータを用いた定 常運転、(4)高エネルギー粒子の閉じ込め研 究、(5)トカマクとの相補的研究を中心に環

状磁場閉じ込めの総合的な理解を進めている[13]。2017年の第19サイクル実験では、軽水 素実験から重水素実験に移行しており、その中で高温プラズマの達成及び維持や関連する

物理法則の解明を目的とした実験が、9年間にわたって実施される予定である。

Fig. 1-2 JET 鳥瞰図 [18]

Fig. 1-3 LHD 鳥瞰図 [20]

(11)

10

1-1-4 原型炉用ITERテストブランケットモジュール

現在、国際協力のもと建設が進められているITERでは、原型炉用ブランケットの実験を 行うために各国でテストブランケットが開発されている。日本は EU との共同研究により 主に5つのトリチウム増殖ブランケットの開発を進めている(Table 1-3)[21]。大別すると固 体増殖・水冷却ブランケット(WCSB: Water-cooled solid breeder)と固体増殖・ヘリウム冷 却ブランケットがあり、日本では主に前者の開発が進められている。EUで主に開発が進め られているHelium Cooled Pebble Bed(HCPB)やHelium Cooled Lithium Lead(HCLL)は 冷却材にヘリウムガスが使用されており、冷却性能は水に比べて低いが、化学的安定性があ る。一方、Water Cooled Lithium Lead(WCLL)やWater Cooled Ceramic Breeder(WCCB) は化学的安定性がヘリウムガスに比べ小さいが、冷却性能が高く中性子壁負荷が大きい核 融合ブランケットに対する耐性が良いとされている。Dual Coolant Lithium Lead(DCLL)

はLiPbが出力の60%を取り除く一方で、LiPb の温度を550℃以下にする必要がある。燃

料のトリチウムはブランケットに含まれる6Liと中性子が核反応を起こすことで生成され、

BeやPbはトリチウムを生産するために必要な中性子を増加させる効果がある。

Table 1-3原型炉用ITERテストブランケットモジュール[21]

HCPB HCLL DCLL WCLL WCCB

トリチウム増殖材 Li4SiO4

LiPb LiPb LiPb Li2TiO3

中性子増倍材 Be Be12Ti

冷却材 He He He・

LiPb H2O H2O

冷却材入口/出口温度[℃] 300/500 300/500 300/500 285/325 290/325 冷却材圧力[MPa] 8 8 8 15.5 15.5

1-2 高エネルギー粒子が核燃焼に与える影響

核融合炉で核融合反応を継続するためには、プラズマを高温・高密度状態に維持し、エネ ルギーバランスを保つことが重要となる。核融合炉に対するエネルギーバランスから核融 合炉プラズマの成立条件を示すものとして、DT プラズマに対するプラズマ閉じ込め条件

[22, 23]をFig. 1-4に示す。プラズマ閉じ込め条件は、一般的にビーム等による外部加熱が

ない場合のプラズマに対するエネルギーバランス式から導かれている。つまり、ビーム等の 高エネルギー粒子がプラズマに存在する場合にエネルギー増倍率Qが変化する。Fig. 1-4の 点線は外部加熱がない場合、実線は200 keVの中性粒子ビームを入射した場合である[22]。

外部加熱によって高エネルギー粒子がプラズマに加わることで、低温低密度領域に推移す ることがわかる。そのため、プラズマ内の高エネルギー粒子が加わることによるエネルギー の流れを正確に理解することは、効率の良い反応率を示す核燃焼プラズマを維持するため に重要である。

(12)

11

Fig. 1-4 プラズマ閉じ込め条件[22、23]

プラズマの加熱は、主に燃料粒子の核反応や中性粒子ビーム入射等の外部加熱によって 行われる。核融合プラズマとして有力視されているDTプラズマの場合、重陽子とトリトン の核反応、

D+T=MeV+n(14.06 MeV) (1-1) が引き起こされ、発生した粒子がプラズマを加熱する。中性子nは電荷を持たないため 磁場に閉じ込められることなく、プラズマを囲うブランケットで中性子増倍反応やトリチ ウム増殖反応、計測に利用される。DTプラズマにおけるPinPinPPh(

P

:加熱、

P

h: 外部加熱)となる。この時のDT反応の反応率Rは

DT T

Dn v

n

R   (1-2) であり、プラズマ中の重陽子密度nD、トリトン密度nT、DT反応の反応率係数<v>DTに依 存する。Fig. 1-5は核反応断面積を示しており、(a)はHS BoschとGM Haleによる値[24]、

(b)はV.T.Voronchev等による値[25]である。また、Fig. 1-5(b) にV.T.Voronchev等による 値と、ENDF/B-VII.1との比較をFig.1-6に示す。(a)は、6Li(d, p)7Li反応の断面積比較、

(b)は、6Li(d, n)7Be反応の断面積比較である。相対エネルギーがENBI=1 MeVの場合、(a)

6Li(d, p)7Li反応の断面積、(b) 6Li(d, n)7Be反応の断面積は、それぞれENDF/B-VII.1が

V. T. Voronchevの1.78、1.73倍過大評価している。核反応断面積は核反応ごとに異なり、

反応粒子の相対速度 vrの高エネルギー側に反応ピークを持つことが多い。そのため、一般

的にMaxwell分布に従うとされる核燃焼プラズマ中の粒子の速度分布関数が、核反応や中

性粒子ビーム入射等の外部加熱による高エネルギー粒子で非Maxwell成分が形成されると 反応率が大きく変化し、パワーバランスに影響を及ぼす。高エネルギー粒子が存在するプラ ズマのイオンに対するエネルギー分布関数の把握は、核融合炉プラズマを維持する上で重 要であるといえる。

(13)

12 10-3

10-2 10-1 100 101 102 103 104

100 101 102

Cross section [mb]

Er[keV]

D(t,n)4He

D(d,p)T

D(d,n)3He

3He(d,n)4He (a)

10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 100 101 102

101 102 103 104

Er [keV]

6Li(t,p)8Li

6Li(d,p)7Li

6Li(d,n)7Be

Cross section [mb]

(b)

Fig. 1-5 核反応の反応断面積(a)主な反応(HS BoschとGM Hale[24])と (b)6Liと重陽子、トリトンの線放出反応(V. T. Voronchev[25])

10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 100 101 102

101 102 103 104

ENDF/B-VII.1

V.T.Voronchev model

Cross section [mb]

Er [keV]

(a)6Li(d,p)7Li

10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 100 101 102

101 102 103 104

Er [keV]

Cross section [mb]

(b)6Li(d,n)7Be V.T.Voronchev model ENDF/B-VII.1

Fig. 1-6 V. T. Voronchev[25]による断面積とENDF/B-VII.1[26]の断面積比較 (a) 6Li(d, p)7Li反応、(b) 6Li(d, n)7Be反応

1-3 高エネルギー粒子計測

高エネルギー粒子の解析を進めるには実験での計測が重要となる。例えば、DT核融合炉 における核反応によって生成される粒子は高いエネルギーを持ち、核融合プラズマの加熱 源であるため、粒子分布測定の確立は重要課題の一つとされている。また、Table 1-2で示 したITERで予定されている計測項目では、物理の解明を目的としたGROUP2において高

(14)

13

速イオンが対象として設定されている。ここでは、高エネルギー粒子計測に関係する計測法 を数例紹介する。

1-3-1 中性粒子計測法(高エネルギービーム荷電交換法)

この方法は、プラズマ中のイオンを中性粒子と荷電交換することによって中性化し、プラ ズマ中のターゲット粒子のエネルギー分布を中性化しプラズマ外へ放出される粒子を計測 することによって求める方法である[27]。荷電交換反応は共鳴的な反応であるため、得られ る中性粒子は反応前のイオンのエネルギーとほぼ同じであり、プラズマ中の速度分布関数 の情報を得ることができる。荷電交換のための中性粒子は、プラズマ中に存在するものや、

装置壁面等から発生するもの、さらにはこの計測を目的として入射する中性粒子ビーム等 が挙げられる。粒子によって荷電交換の反応断面積が異なり、また、反応断面積を大きくす るためには相対速度を小さくする必要がある。そのためビーム速度が重要であり、3Heの中 性粒子が有利とされている。しかし、MeV領域の中性化効率は著しく低く、また、ヘリウ ム原子には安定な準励起状態があり、プラズマ中でイオン化されるため、減衰が著しい。現 状で、この方法はMeV領域の計測に対してITERサイズでは使用できない可能性がある。

ただし、燃料イオン比(水素同位体計測)やノックオンテイル計測の方法の候補として、ITER に設置予定の中性粒子計測装置での実験が期待されている[28]。

1-3-2 協同トムソン散乱計測法

この方法は、レーザー光等がデバイ長以上の散乱波長の時にプラズマ中で作用した散乱 波からプラズマ中のイオンの速度分布関数などの物理量を得るもので、MeV領域のイオン 速度分布関数の計測を空間的に捉える可能性がある[29、30]。ITERでは、電磁波の伝播と 協同トムソン散乱波の解析が比較的明快なCO2レーザーを採用する方式について、研究開 発が進められている。

1-3-3 中性子エネルギースペクトル計測法

中 性 子 エ ネ ル ギ ー ス ペ ク ト ル の 計 測 に は 、TOFOR(Time Of Flight Optimized for

Rate)[32]や、近年では高いエネルギー分解能と連続運転に対応可能な MPRu(Magnetic

Proton Recoil Upgrade)[33]が計測手法として考えられる。JETでは、粒子計測を目的と

して、DT 反応によって発生するエネルギーを、粒子と中性子が分配することを利用し、

中性子のエネルギー分布を計測することで、粒子のエネルギー分布の情報を得る実験が行 われた[31]。この方法は、プラズマ中のイオンに対する高エネルギー粒子解析に利用するこ とも考えられる。ただし、得られる信号は空間的にプラズマ全体からの寄与があり、時間的 にも散乱減速を経たものである。ITERに対しては、装置の大きさと磁場の干渉によって近 接することができず、この方法の採用は難しいとされている。

(15)

14 1-3-4 線計測法

この方法は、LiやBe等、粒子と反応して励起した核反応生成物が発する特定のエネル ギーを持つ線を捉えることによって、プラズマ中の粒子の速度分布関数などの情報を得る ものである[34]。近年線計測器のエネルギー分解能等の精度向上が進んでおり、目的に合 わせた更なる改善を目指した研究が進められているが、粒子と反応する不純物の密度を把 握することや、バックグラウンドノイズが、対象の線に対して小さいことが条件となる。

1-4 中性子計測による燃料イオン比の計測法

核融合炉の運転を安定的に維持するために、燃料イオン比の計測を行うことが重要とな る。DT核融合炉の燃料は重水素とトリチウムであり、重陽子密度nDとトリトン数密度nT

の比がnT/nD=1の時、最適な燃料イオン比となる。しかし、重水素プラズマからの立ち上げ や炉内からの損失などで、運転中に燃料イオン比が変化することが大いに考えられる。DT 核融合炉内の燃料イオン比を計測する方法として、核反応によって発生する中性子を利用 する方法が提案されている。

中性子を利用した燃料イオン比の計測はJ. Källne等によって提案されたもので[35]、DD 反応によって発生する中性子と DT 反応によって発生する中性子の比を取ることで燃料イ オン比nT/nDを求める方法である。DD反応の反応率はRDDn2DvDD/2であるため、(1- 2)式のDT反応の反応率と比を取ると

DT DD

DD DT

D T

v R

v R n n

 

 (1-3)

が得られる。DD反応によって発生する中性子のエネルギーは2.45 MeV、DT反応によっ て発生する中性子のエネルギーは14.06 MeVであるため、それぞれのエネルギーを持つ中 性子を計測することで燃料イオン比を求める。発生する中性子がGauss分布に従うとき、

中性子放出スペクトルのピーク強度は

 

 

orHe n

n n n

DD DT n

peak m m

T E m v

R N m



3 0 0

4

4 (1-4) となるため、計測されるNpeak[36]から反応率RDT(DD)を求めることができる。ここで、En0は 重心系での中性子放出エネルギー、v0nは相対速度、Tはイオン温度である。

しかし、計測される中性子は核融合炉ブランケット等の構造物によってエネルギーを落 とすため(中性子の減速)、DD発生の中性子とDT発生の中性子の区別がつかなくなる可能 性がある。特に、トリトンの存在比が高いDTプラズマでは、DD反応と比較してDT反応 の反応率が高くなるため、DT反応によって発生する中性子がDD反応によって発生する中 性子のノイズとなり観測不能になる可能性がある。燃料イオン比は、ITERに対して0.01<

nT/nD <10の範囲で約20%の精度が必要とされている。これまで、ITERに対して中性子計

測による燃料イオン比計測の検討が行われているが[37]、その計測可能条件は十分ではない。

これらの条件を満たすために、計測方法の改良が必要とされている。

(16)

15 1-5 核弾性散乱

通常、プラズマ構成粒子(イオン、電子)は電荷持つため、粒子間のエネルギーのやり取

りはCoulomb散乱を介して行われると考えられる。しかし、粒子のエネルギーが高くなる

と、散乱過程に「核力」の影響が現れる(Fig. 1-7)。プラズマ中のエネルギーの流れを明確に 理解するためには、Coulomb 力だけではなく核力の影響を含む散乱過程を考慮した上で、

核燃焼プラズマを理解することが必要である。

Fig. 1-7 Coulomb及び核ポテンシャルのイメージ図

散乱過程に核力の影響が現れると、プラズマ中の(a)イオン-電子間の衝突と比べ、(b)イ オン-イオン間の衝突(エネルギー輸送)の割合が大きくなることが指摘されている。特に 核力が支配的となる散乱は核弾性散乱と呼ばれており、実験によって得られる弾性散乱断

面積からCoulomb散乱の断面積を引いた断面積が、核弾性散乱断面積である。核燃焼プラ

ズマでの核弾性散乱によるエネルギー輸送に関しては 1971年にJJ Devanyと ML Stein によって指摘された [38]。また、1980年にプラズマの代表的なイオンに対する核弾性散乱 断面積がS.R. PerkinsとD.E. Cullenによってまとめられた[39]。

弾性散乱は、高いエネルギーを持つときにイオンへのエネルギー付与が大きい。平衡状態 の燃料イオンプラズマ同士では核弾性散乱断面積が小さいため、核弾性散乱の効果は小さ いが、ビーム入射などの外部加熱や、核反応によって生じる高エネルギー粒子は核弾性散乱 が支配的な散乱を引き起こす。Fig.1-8は、単位時間当たりに重陽子がプラズマ粒子群(T=

20 keVのMaxwellian)に与えるエネルギーである。図中右上のd/dはCoulomb散乱の

微分散乱断面積であり、qは電荷、

02は真空の誘電率、gは粒子間の相対速度、

は相対質

量、

cは粒子間のなす角である。Coulomb散乱の場合、重陽子のエネルギーが上昇するに つれて相対速度gが大きくなるため、散乱断面積が小さくなり、イオン群へのエネルギー付 与が減少する(図中点線)。一方、核弾性散乱の場合は、高エネルギーでの断面積が大きいた め、重陽子のエネルギーが上昇するにつれてイオン群へのエネルギー付与が増大する(図中

ポテンシャル エネルギー

クーロンポテンシャル

核ポテンシャル

(17)

16

実線)。ただし、電子に対するCoulomb散乱は、重陽子のエネルギーが上昇すると、相対速 度gが小さくなるため、電子群に対する重陽子のエネルギー損失率(電子へのエネルギー付 与)は増大する。ここで着目すべき点として、重陽子のエネルギーが1 MeVを超えた領域 から核弾性散乱によるイオン群へのエネルギー付与が、Coulomb散乱によるイオン群への エネルギー付与より大きくなることである。

Fig. 1-8 単位時間当たりに重陽子がプラズマ粒子群に与えるエネルギー[40]

1-6 ノックオンテイル

プラズマを構成する粒子は、平衡状態でMaxwell速度分布関数を持つが、イオンについて は核力の影響を伴う散乱で大きなエネルギーを受け取ることにより、その速度分布関数上

に非Maxwell成分が形成されることが予測されている(Fig. 1-9)。このノックアップされ

た非Maxwell成分はノックオンテイルと呼ばれ、ノックオンテイルの形成は核燃焼プラズ

マに対して粒子の放出スペクトルの歪み[41]や、反応率の上昇[42]、イオン加熱[43、44]、

生成粒子速度分布関数(減速時間)の変化[44]など、核融合炉様々な影響を及ぼすことが考え られる。そのため、ノックオンテイルの実験的検証が重要視されている。

(18)

17

Fig. 1-9 重陽子速度分布関数上に形成されるノックオンテイルのイメージ図

DT プラズマにおいて、電子温度が 20 keV、イオン密度が重陽子・トリトンがそれぞ れ4×1019 m-3の時、粒子は約30%のエネル ギーをイオンに付与するが、核弾性散乱を考 慮しなければ、イオンへのエネルギー付与は、

約27%に過小評価される。D-3Heプラズマに

おいては(Fig. 1-10)核弾性散乱の効果が大き く、電子温度が80 keVの時、陽子のイオン群 へのエネルギー付与は約32%程度であるが、

核弾性散乱を考慮しなければ約 9%に過小評 価されることになる[45]。核弾性散乱によって 形成されるノックオンテイルの大きさの測定 は、散乱過程の核力の影響、つまり核弾性散乱 と核燃焼特性との関係の把握に繋がる。

核弾性散乱は、核反応で発生した高エネル

ギー粒子のエネルギー付与を増加させるため、高エネルギー粒子速度分布関数にも大きな 影響を与える。Fig. 1-11はD-3Heプラズマにおいて発生する陽子の速度分布関数を示して いる [46]。D-3He反応で発生する陽子は、14.7 MeVの高いエネルギーを持つため、イオン

や電子とCoulomb散乱だけでなく核弾性散乱による衝突を起こして減速する。図中の14.7

MeVと3.3 MeV付近にある立ち上がりは、D-3He反応とDD反応によって発生する陽子に

よるものである。核弾性散乱を考慮すると、粒子の減速が促進されるため、高エネルギー領 域の粒子が減少し、バルク成分が増加する。プラズマ内のエネルギーバランスが大きく変化 するため、核弾性散乱効果は無視することのできない重要な現象であるといえる。

10

5

10

7

10

9

10

11

10

13

10

15

10

17

10

19

10

0

10

1

10

2

10

3

10

4

(4  v /m

d

)f

d

[m

-3

k eV

-1

]

Deuteron energy [keV]

Maxwell成分 Knock-on-tail

Fig 1-10 イオン加熱に対する

核弾性散乱効果[42]

(19)

18

Fig. 1-11 陽子速度分布関数に対する核弾性散乱効果[46]

1-7 ノックオンテイル観測法

ノックオンテイルの観測方法についてはいくつかの方法が提案されている。Fisher 等は、

DT プラズマで発生する高エネルギーの粒子(3.5MeV粒子)が核弾性散乱を引き起こし、

トリトンの速度分布関数上にノックオンテイル(非 Maxwell 成分)を形成することによって 生じる高エネルギー中性子を計測する方法を提案した[47]。しかし、DTプラズマでのノッ クオンテイル観測実験は、JETで数例行われているのみである[31]。そのため、ノックオン テイルの研究を進めるために、検証実験が必要となる。近年、6Liを添加した重水素プラズ マに陽子ビームを入射することで核弾性散乱を発生させ、重陽子速度分布関数上にノック オンテイルを形成し、重陽子の核反応で発生する中性子や線の発生率の変化を捉えること によってノックオンテイルを観測する方法が提案されており[42、48、49]、LHDの重水素 プラズマでの実験計画が進められている。

重水素プラズマでは、主に以下の反応が生じる。

D + d → n + 3He + 3.27 MeV (1-5) D + d → p + T + 4.04 MeV (1-6) D + t → n + 4He + 17.58 MeV (1-7) また、6Liを重水素プラズマに加えると以下の線生成反応が生じる。

6Li + d → n  7Be+ 2.95 MeV, 7Be7Be + [0.429 MeV] (1-8)

6Li + d→ p + 7Li + 4.55 MeV, 7Li7Li [0.478 MeV] (1-9)

6Li + t→ d + 7Li + 0.51 MeV, 7Li7Li [0.478 MeV] (1-10)

6Li + t→ p + 8Li − 0.18 MeV, 8Li8Li [0.981 MeV] (1-11)

(1-5)式で発生する2.45 MeVの中性子や(1-8)、(1-9)式で発生する線は、重陽子の速度分布

関数上にノックオンテイルが形成されることで反応率が増加する。このノックオンテイル

(20)

19

観測方法に対して、LHDの第19サイクル実験から検証実験が開始された。第19サイクル 実験では、プラズマ中心の下5.5 mに1.5 m、直径3.9 cmのコンクリート製のコリメータ が設置されており(Fig. 1-12)、今後、LaBr3(Ce)による線計測が可能となる。また、3Heや

10BのFission Chamberによる中性子計測も同時に行われた。

LHD では、重水素プラズマ中に 6Li を添加する方法としてトレーサー内臓ペレット (Tracer-Encapsulated Solid Pellet :TESPEL)[50]を採用することが検討されている。TESPELは、

外殻をポリスチレンで覆った外層部直径が600~900mの球状粒子であり(Fig. 1-13)、中心部 にトレーサー粒子を添加しプラズマ中に局所的に注入することで、不純物輸送の解明を可 能とする。ノックオンテイル観測法に対しては、中心部に6Liの数密度n6Lin6Li=3×1018個 含むLi2CO3を添加し、重水素プラズマ中で(1-8)~(1-11)式の反応を生じさせることを想定し ている。ただし、ノックオンテイル観測実験では、高エネルギーのビームを入射するため、

プラズマの温度変化の影響が懸念されている。

Fig. 1-12 LHDにおける中性子及び線計測の機器概略図

(21)

20

Fig. 1-13 TESPEL概略図

1-8 中性子及び線計測器

核融合実験装置では、プラズマ状態を把握するために、核反応で発生する非荷電粒子の中 性子や線が利用されてきた。プラズマイオンのエネルギー分布に対しても中性子や線の計 測が、JET、JT-60、LHD 等で多数利用されている[31, 51, 13]。中性子計には Fission

Chamber 等が利用されている。線計測に用いられる計測器にはビスマス[52]、NaI(TI)シ

ンチレーション検出器、LaBr3(Ce)検出器[53]、数keV程度の高いエネルギー分解能を持つ高 純度Ge検出器(HpGe detector)[54]があり、さらに数十eV単位のエネルギー分解能を持つ遷 移端温度計TES(Transition edge sensor)[55]の研究開発も進められている。

1-9 本研究の目的

高エネルギー粒子が核燃焼に及ぼす影響を明らかにすることは、核融合炉の成立に必要 であり、その影響を実験で計測する手法を開発することは、核融合炉実現にとって極めて重 要である。また、高エネルギー粒子が引き起こす現象を積極的に利用することは、計測性能 の向上、新たな計測法の開発に繋がる可能性もある。本研究では、核燃焼プラズマの計測法 として、NBI加熱により燃料イオン速度分布関数上に形成される非Maxwell成分を利用す ることによって、(1)重陽子密度 nDとトリトン数密度 nTの燃料イオン比(nT/nD)計測の改善 法、及び (2)核弾性散乱によって生じるノックオンテイルの観測方法、について検討し、そ の有効性を示すことを目的とする。

従来、DT (重水素­三重水素)プラズマ内のDD及びDT反応で発生する2.45、14.06 MeV

中性子発生率の比を観測することで燃料イオン比を計測する方法が提案されている。しか し、トリトンの数密度が大きい場合、14.06MeV中性子の発生率が増加し、DD反応で発生

する2.45 MeV中性子の計測が困難となるため、改善が求められていた。そこで、本研究で

は、DTプラズマに重水素ビームを入射し、14.06MeV中性子に対する2.45 MeV中性子の 発生率を増加させると同時に、計測に有利な高エネルギー側の中性子スペクトルの割合を 高めることを提案する。

次に、少量の6Liを添加した重水素プラズマに軽水素ビームを入射し、陽子の核弾性散乱

(22)

21

によって形成される重陽子速度分布関数上のノックオンテイルを、線や中性子を計測して 捉える方法が提案されている。同手法では、軽水素ビーム入射によるプラズマ温度変化が測 定を妨げることが懸念されている。本研究では、重水素プラズマで顕著になるトリトン速度 分布関数上の非Maxwell成分の性質を利用することで、ノックオンテイル形成による線・

中性子発生率の変化とプラズマ温度上昇による同発生率の変化を識別する方法を提案し、

その有効性を示す。さらに、ノックオンテイル形成によって生じる線スペクトルの歪みを 捉え、ノックオンテイルを含めた重陽子速度分布関数の形状を評価する方法を新たに提案 し、妥当性について議論する。

1-10 本論文の構成

本論文は、中性子計測によるDTプラズマの燃料イオン比の計測法の精度向上効果、ノッ クオンテイル観測実験に対するプラズマ温度の影響診断法、ノックオンテイルの形状評価 法に関する筆者等の研究論文をまとめたものであり、全6章から構成される。

本章では、核融合炉の進展状況と核燃料プラズマ中で高エネルギー粒子が引き起こす現 象、これに関連する計測法について説明し、本研究の背景と目的を述べた。

第二章では、本研究で用いる基礎方程式や、核燃焼プラズマ中のイオン速度分布関数、核 反応反応率、生成粒子の放出スペクトル、線のドップラー拡がりを解析する手法について 述べた。代表的なプラズマパラメータに対して、それぞれの物理量に対する数値解析例を示 し、それらの特徴を説明する。

第三章では DT プラズマの燃料イオン比計測に対する重水素ビームの影響による燃料イ オン比を対象に高エネルギー粒子による計測精度向上を検討する。これまで考えられてい た DD 反応の反応率増幅だけでなく、高エネルギー粒子によって影響を受ける中性子放出 スペクトルの歪みを利用した燃料イオン比計測の方法を提案し、評価を行う。

第四章では、1-5節で紹介したノックオンテイル観測実験において懸念されるプラズマ温 度の変化を診断する方法を検討する。

第五章では線放出スペクトルのドップラー拡がりを利用して、重陽子速度分布関数のノ ックオンテイル形状を評価する方法を新たに提案し、その評価を行う。

第六章では、本研究で示した結果を総括する。

(23)

22

第二章 解析手法

本章では、本研究で用いる方程式や計算手法を示しつつ、論文に登場する物理現象を紹介 する。また、方程式の解として導かれる速度分布関数及び速度分布関数に関わる基礎量の、

プラズマ中における物理的特徴を説明する。ただし、三章で使用する連続エネルギーモンテ カルロコードMVPに関しては参考文献[56]を参照されたい。

2-1 核弾性散乱断面積

核燃焼プラズマにおいて、核反応やNBI等の外部加熱によってプラズマ中に存在する高 エネルギー粒子は、燃料プラズマと核弾性散乱現象を起こす。核弾性散乱の微分散乱断面積 は、実測値から純粋にクーロン力による部分を差し引くことで得られる。

 

 

d

d d d d

dNES  Coulomb (2-1)

一般に、微分散乱断面積は、クーロン力及び核力による散乱振幅fc(θ)、fN(θ)を用いて、下記 のように記述できる。

   

|2

|  

N

C f

d f

d  

 (2-2) クーロン力による微分散乱断面積が

|2

| C

Coulomb

d f

d

 (2-3)

と記述できることから、(2-1)式を、

N C N

NES f f f

d

d | |2 2|

 (2-4)

と書き表すことも可能である。NESは核弾性散乱断面積、

Coulombはクーロン散乱断面積を 表す。Fig. 2-1に(a)陽子-重陽子、及び粒子-重陽子、(b)重陽子-重陽子、及び重陽子-

トリトン間の核弾性散乱断面積を示す。

10-3 10-2 10-1 100 101 102

101 102 103 104

Cross section [b] injectedd(target) p (injected) -> d(target)

Proton/ energy [keV]

(a)

10-3 10-2 10-1 100 101

100 101 102 103 104

Cross section [b]

Deuteron energy [keV]

d(injected) -> d(target) (b) d(injected) -> t(target)

Fig. 2-1 核弾性散乱断面積

(a)陽子-重陽子、及び粒子-重陽子、(b)重陽子-重陽子、及び重陽子-トリトン間

(24)

23

2-2 核燃焼プラズマにおけるプラズマイオンの速度分布関数

本研究で取り扱う核燃焼プラズマは、DD反応やDT反応のような核反応による燃焼を伴 うプラズマである。プラズマ中には、熱平衡状態にあるバルク粒子だけではなく、(1-1)式の ような核反応によって生じる3.52 MeV粒子や、核反応を促進・プラズマを維持するため に入射されるビーム等の高エネルギー粒子が混在する。このような核燃焼プラズマの速度 分布関数を得るために、本研究では Fokker-Planck(FP)方程式を採用する。FP 方程式は、

マルコフ過程に基づく多数の粒子の無秩序な運動によって形成される確率密度関数を記述 する方程式の一つである [57]。プラズマ物理分野では、クーロン散乱過程を介した粒子の 無秩序な運動に基づき速度分布関数を記述する方程式をFokker-Planck 方程式と呼ぶ。本 研究で着目する、核燃焼プラズマにおいて高エネルギー粒子が引き起こす核弾性散乱は、

Boltzmann 衝突項に核弾性散乱に対する微分散乱断面積を適用した核弾性散乱項を用いて

記述される。クーロン散乱及び核弾性散乱の両者による速度分布関数の変動を同時に考慮 する場合の方程式はBoltzmann-Fokker-Planck(BFP)方程式[58]とされる。本研究は、これ ら2つの方程式と併せて、論文で提案する計測方法の有効性や関連する物理現象の理解の ために、プラズマ条件に縛られず自由な速度分布関数を表すモデルとして、二温度Maxwell 分布モデルを利用する。

2-2-1 Boltzmann-Fokker-Planck方程式 時刻tに、位相空間drdv

内に f

rvt

drdv ,

, 個の粒子が存在したとする。これらの粒子が 時刻t

tに、位相空間dr'dv'

に無衝突で移動したとすると、移動後の分布関数

f

nocolは、

r r v v t td r d v fr v td r d v

f

nocol

         

, , '

' ,

,   

   

(2-5)

と書ける。衝突がある場合、

tの間に外側から注目している領域に流入した粒子数を

v d r d f

in

 

、注目している領域から流出した粒子数を

f

outとおくと、

r r v v t t

dr dv f

r r v v t t

dr dv f drdv f drdv

f ,,  ' ' nocol ,,  ' 'in  out  , (2-6) 位相空間の体積はLiouvilleの定理により変化しないので、これに(2-5)式を用いると、

r v t v F m t t t

drdv f

r v t

drdv f drdv f drdv

f 

, /

, 

  ,,  

in  

out  , (2-7) となる。ただし、外力F

は時間によらないとする。左辺を展開し、1次の項をとると、

col out

in

t f t

f f v f m F r v f t

f

 

 

 



 



 

  . (2-8)

右辺を衝突項と呼ぶ。これ以降、本研究では実空間上の一様性を仮定する。速度分布関数fi

の積分値はイオン種iに対する数密度niとなり、

n

i

f

i

  vd v

が成り立つ。

粒子ijの衝突に対して、衝突項の一般系は、速度変数を用いて下記のように書ける。

Fig. 1-5  核反応の反応断面積(a)主な反応(HS Bosch と GM Hale[24])と  (b) 6 Li と重陽子、トリトンの線放出反応(V. T. Voronchev[25])  10 -510-410-310-210-1100101102 10 1 10 2 10 3 10 4ENDF/B-VII.1V.T.Voronchev modelCross section [mb] Er [keV] (a) 6 Li(d,p) 7 Li 10 -510-410-310-210-110010
Fig 1-10  イオン加熱に対する
Fig. 2-1  核弾性散乱断面積
Fig. 2-19 閉じ込め時間変化に対する中性子放出スペクトル
+7

参照

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