本章では、中性子計測を利用した DT 核融合炉の燃料イオン比計測の可能性について議 論する。燃料イオン比の計測精度向上と計測可能なプラズマ領域の改善を目的として、外部 からの重水素ビーム入射を利用することを提案する。この影響を考慮するために、ビーム入 射を行った時のプラズマイオンの速度分布関数を計算する。ビーム入射によって影響を受 けたプラズマイオンから発生する中性子放出スペクトルを計算することで、燃料イオン比 の計測可能なプラズマ領域について検討する。
3-1 DTプラズマにおける燃料イオン比診断の重要性と評価方法
核融合反応を継続して核燃焼プラズマを維持するためには、エネルギー増倍率 Q 値が1 以上であることが必要である。DTプラズマを用いた核融合炉運転では、DT反応によって
発生する3.52 MeVの粒子による加熱が自己加熱の役割を大きく担う。そのため、DTプ
ラズマにおいて、燃料イオン比を計測し、効率よくDT反応を起こすことが重要となる。重 陽子、トリトンは質量の違いによって炉内挙動が異なる可能性があり、空間的に常に一様に 混合する保証はない。燃料イオン比計測を正確に行い、適切な制御が必要である。燃料イオ ン比の計測方法として提案されている、中性子発生率を用いた計測は、DT反応によって発
生する14.06 MeV中性子とDD反応によって発生する2.45 MeV中性子を計測することで
それぞれの発生率を算出し、(1-3)式を用いて燃料イオン比を得る方法である。しかし、プラ ズマ温度や燃料イオン比等のプラズマ条件によっては、Fig. 3-1に示す中性子スペクトルの ように、DD反応による中性子発生量が少なく2.45 MeV中性子が、14.06MeV中性子が減 速した粒子によって計測不能になる可能性がある。2.45 MeV 中性子を計測するためには、
I.コリメータを設置して 14.06MeV中性子が減速した粒子を絞ることやII.ビームを入射し
て2.45 MeV中性子を増加することが考えられる。本章ではIIについて、重水素ビームを
入射する方法に着目して評価を行う。プラズマに重水素ビーム入射を入射すると、DT反応 によって発生する中性子の発生量増加に比べて、DD反応によって発生する2.45 MeVの中 性子発生量増加の割合が大きくなる。Fig. 3-2は、電子密度ne=1.0×1020 m-3、イオン比が nT/nD=1のDTプラズマにおいて、DT反応とDD反応の反応率係数を比較したものである。
実線はビームエネルギーがENBI=1MeV、加熱入力がPNBI=33MW(粒子個数2.57×1017 m-3s
-1)の重水素ビームを入射した場合、点線はビーム入射を行わない場合である。プラズマ温度
が低いほどビーム成分の影響が顕著になるため、ビーム入射による DD 反応の反応率係数 の上昇割合が大きくなる。この効果に加えて、重陽子速度分布関数がMaxwell分布から歪 むことで生じる中性子放出スペクトルGauss分布からの歪みを利用して計測精度向上を図 るものである。
DD反応によって発生する2.45 MeV中性子の計測を想定し、DD反応によって発生する
2.45 MeV付近の中性子(source)とDT反応によって発生する14.06 MeV中性子が減速した
50
2.45 MeV付近の中性子(noise)の比である SN 比(source/noise)を計測精度の診断基準とし
て利用する。DD反応によって発生する2.45 MeV中性子の計測可能条件は、SN比が1以 上であることが絶対条件ではあるが、計測器の位置や計測器の感度、さらにエネルギー分解 能等に依存するため、本研究では、プラズマ条件ごとのSN比を相対的に比較することで計 測精度向上の評価を行う。
エネルギー分解能は、ITERが目標値としている14 MeVに対する4%の280 keV[64]を 元に、560 keVを設定する。計測エネルギーチャンネルは2.18MeV-2.74 MeVのAチャン
ネルと2.32 MeV-2.88 MeVのBチャンネルとする。中性子計測の検出面をトーラス赤道面
上のプラズマとブランケットの境界に設置し、検出角度を絞ることでコリメータの長さを 模擬する。コリメータはDT 反応によって発生する14.06MeV中性子の減速した中性子の 計測を抑えることを目的に設置されるが、本研究では、トーラスの幾何形状(例えば楕円度) の影響やコリメータ設置位置(ポロイダル方向)の影響を除くためのものである。
DT プラズマにおける重陽子及びトリトンの速度分布関数は(2-26)式に示した BFP 方程 式を利用して求める。得られた速度分布関数から(2-44)式を利用して中性子放出スペクトル を得る。核融合炉内の中性子輸送は連続エネルギーモンテカルロMVPコードを利用して計 算を行った。核データにはJENDL3.3[65]を用いた。計算を通して、MVPコードによる計 数の誤差は、計測エネルギー領域において1%以下とした。
108 109 1010 1011 1012 1013 1014
4 8 12 16
N eu tro n fl u x [a.u .]
Neutron energy [MeV]
DT反応中性子
DD反応中性子
Fig. 3-1 DT反応によって発生する14.06 MeV中性子の減速してDD反応によって発生す
る2.45 MeV中性子を計測困難にする場合の中性子スペクトルのイメージ図
51
10
-2910
-2810
-2710
-2610
-2510
-2410
-2310
-221 10
DT
DD
< v > [m
3s
-1]
plasma temperature[keV]
with beam without beam
Fig. 3-2 プラズマ温度に対する反応率
3-2 ブランケット構造が燃料イオン比に及ぼす影響の評価
中性子の減速は主にプラズマを囲うブランケットによって生じている。中性子発生スペ クトルは核燃焼プラズマに依存するが、中性子の反応断面積は物質によって異なるため、核 融合炉に設置される計測器によって得られる中性子のエネルギースペクトルはブランケッ ト構造に依存する。燃料イオン比計測の際、計測エネルギー領域の減速した中性子が少ない ことが計測精度向上につながるため、中性子減速に影響するブランケット構造の議論が重 要となる。ここでは、実験炉ITERにおけるブランケット、DEMO炉において候補とされ ているWCSBブランケット、及びLiPbブランケットを想定して中性子のノイズ評価を行 った。ブランケットの材質による燃料イオン比への影響を論ずるために、ブランケットを主
半径3.5m、小半径1.5mの三次元トーラス体系(Fig. 3-3)に統一することで、幾何形状の影
響を排除した。また、コリメータは検出面が直径6 cmの円形で、長さが6 cm/tan≒344
cm(=1°)とした (Fig. 3-4)。ITER はトリチウム生産を目的としていない実験炉であるた
め、ブランケットとして遮蔽ブランケットが設置される(Fig.3-5)。一方DEMO炉候補であ
るWCSB(Fig. 3-6)やLiPb(Fig. 3-7)ブランケットにはトリチウム増殖層の設置が予定され
ており、中性子の減速や中性子増倍反応によって、計測される中性子スペクトルが影響を受 け る こ と が 考 え ら れ る 。 加 え て 、DEMO 炉 の ト リ チ ウ ム 増 殖 率 Tritium Breeding
Ratio(TBR=生産されるトリチウム量/消費されるトリチウム量)を 1.40 に設定した。また、
計測エネルギー領域はAチャンネル(2.18MeV-2.74 MeV)とする。
52
Fig. 3-4. コリメートを想定した
中性子入射角の取り方 Fig. 3-3 計算体系概略図
R=6 cm Detection surface
S=9 cm2
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Fig. 3-5. ITERブランケット構造モデル
Fig. 3-6 WCSBブランケット構造モデル
Fig. 3-7 LiPbブランケット構造モデル
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プラズマ条件はイオン温度Ti=9 keV、nT=nD=5.0×1019 m-3の場合とする。計算では、ビ ーム入射を行わない場合、すなわち重陽子及びトリトンの速度分布関数がMaxwell分布に 従う場合に対して(Fig. 3-8(a))SN 比の比較を行う。Maxwell 分布に対して(2-44)式を計算 すると、Gauss 分布に従った中性子放出スペクトル Fig. 3-8(b)が得られる。求めた中性子 放出スペクトルを環状線源として、MVPコードにより計算された計測される中性子をFig.
3-9に示す。WCSBブランケットはITERブランケットと同程度のノイズとなるが、LiPb ブランケットはITERブランケットに対して約2倍の大きさを示している。これはLiPbブ ランケットでは、中性子の減速が進まないため(熱中性子化しない)ためである。以上より、
WCSBブランケットやITERブランケットは、SN比の観点からLiPbブランケットに比べ 中性子計測による燃料イオン比計測が有利であるといえる。
109 1011 1013 1015 1017 1019
100 101 102 103
(4v/m i)f i/n i[keV-1 ]
Deuteron/Triton energy [keV]
D T
(a)
106 107 108 109 1010 1011
0 5 10 15 20
Neutron flux [m-3 ev-1 sec-1 ]
Neutron energy [MeV]
(b)
Fig. 3-8 (a)燃料イオンの速度分布関数と(b)中性子放出スペクトル
Fig. 3-9 ブランケット構造に対する中性子分布
中性子エネルギー範囲(a)2-16 MeV、(b)1.5-3.5 MeV
10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 100
2 4 6 8 10 12 14 16
source ITER LiPb solid
Neutron flux[a.u.]
Neutron energy [MeV]
(a)
1.5 2 2.5 3 3.5
source ITER LiPb solid
Neutron flux[a.u.]
Neutron energy [MeV]
6
4 5
3
2
1
0
(b)
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3-3 プラズマ温度が燃料イオン比計測に及ぼす影響の評価
DT燃焼プラズマで生じるDD反応やDT反応は高エネルギーでの反応断面積が大きいた め、プラズマ温度上昇に伴いその反応率が上昇する。プラズマ温度に対する反応率の値は
Fig. 3-1のように変化するため、温度によってSN比も変化する。また、プラズマ温度に依
存して中性子放出スペクトルの拡がりが変化することでもSN比が変化する。この節では、
SN 比のプラズマ温度依存性を評価し、燃料イオン比の計測可能領域について議論を行う。
計算体系として、遮蔽ブランケットを持つITERを対象として計算を行った(Fig. 3-5)。主
半径6.2 m、小半径2.6 m であり、構造体の小半径方向に一次元のブランケットを配置す
る。本計算では、=5°とするため、コリメータ長さは6cm/tan≒43cmとなる。計測エネ ルギー領域はAチャンネル(2.18MeV-2.74 MeV)である。
Fig. 3-10(a)はプラズマ温度がT=10 keVと20 keVの場合の重陽子速度分布関数、Fig.
3-10(b)はこの時の中性子放出スペクトルである。本来はDD反応によって1.01 MeVトリト
ンが発生するが、バルク成分が十分大きく無視できる大きさであるため、ここでは重陽子・
トリトンの両者ともMaxwell分布に従うとする。電子密度ne=5.0×1019 m-3、イオン比が nT/nD=0.6のDTプラズマを想定する。MVPコードによって算出された、半径3 cmの検出 器で計測される中性子スペクトルをFig. 3-11に示す。T=10 keVにおけるDD反応、DT反 応の反応率はそれぞれ2.93×1014 s-1m-3、6.62×1016 s-1m-3、T=20 keVのDD反応、DT反 応の反応率はそれぞれ1.27×1015 s-1m-3、2.54×1017 s-1m-3である。このとき、T=10 keV の場合のSN比はS/N=2.25、T=20 keVの場合はS/N=2.34である。T=10 keVからT=20 keVに上昇した場合の SN比の変化は、純粋にDD 反応の反応率がDT反応の反応率より 上昇するためである。しかし、10 keV~20 keVの反応率増加割合はDT反応とDD反応で 大きな差がないため、SN比への影響は小さい。DT反応の反応断面積は70 keV付近で、
DD反応の反応率は1 MeV以上で最大値を取るため、プラズマ温度上昇によるSN比増加 はプラズマ温度が高い程顕著になる。
1010 1012 1014 1016 1018
100 101 102 103 104
Deuteron energy [keV]
10keV
20keV
(4v/m D)f D/n D[keV-1 ]
1010 1011 1012 1013 1014 1015
0 5 10 15 20
Neutron energy [keV]
Neutron flux [m-3 kev-1 sec-1 ]
20keV
10keV
Fig. 3-10 (a)重陽子速度分布関数と(b) 中性子放出スペクトル