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ノックオンテイルの形状評価法

本章では、重水素プラズマに軽水素ビームを入射することによる重陽子速度分布関数上 のノックオンテイルの形状評価方法を提案し、議論を行う。ノックオンテイルはバルク成分 と比べて高エネルギー領域に存在するため、ノックオンテイルに含まれるイオンが起こす 核反応によって生成される核反応生成粒子には、反応生成エネルギー(Q値)に加え、高い 運動エネルギーが付与される。高いエネルギーを持った反応生成粒子が線を放出するとド ップラー効果により線の放出スペクトルが相対的に拡がる。本研究で提案する方法は、こ の放出スペクトルの拡がりの度合いを捉えることで、重陽子速度分布関数上に形成される ノックオンテイルの形状を評価するものである。

5-1 線放出スペクトルに対するプラズマ条件の依存性

核燃焼プラズマ中で発生する核弾性散乱は、ビーム入射や核反応によって発生する粒子 が高エネルギーである場合に顕著となる現象であるが、その反応率やエネルギー依存性は 入射するビームやプラズマ粒子種によって異なる。そのため、核弾性散乱によるノックオン テイルの形状や強度は、加熱入力やエネルギー、プラズマ温度など様々なプラズマ条件に依 存する。よって、ノックオンテイルの分析を行うことで、プラズマの状態や、核燃焼プラズ マにおける核弾性散乱の性質を捉えることに繋がる可能性がある。ここでは、重水素プラズ マに軽水素ビームを入射した際に形成されるノックオンテイルに対して、電子温度、ビーム エネルギー、加熱入力、重陽子密度に対するノックオンテイル形状の依存性についての検討 を行う(Table 5-1)。プラズマ条件に対する重陽子速度分布関数はBFP方程式を用いて評価

する。7Li*放出スペクトルは、これまでと同様に(2-44)式を用いて求める。また、7Li*から

放出される線の放出スペクトルは(2-52)、(2-53)式を用いて求める。線スペクトルの拡が りを定量的に評価するための指標として、下記の量を導入する。

 

E dE dN

 /

 (5-1) ここで、EEtopEbott(Etopは線スペクトルのピーク強度の99%を取る時の線のエネル ギー、Ebottは線スペクトルのピーク強度の0.25%を取る時の線のエネルギー)と定義する

(Fig.5-1)。EtopとEbottを決定する際に用いた、ピーク強度に対する線発生率の割合は、重

陽子速度分布関数のバルクとノックオンテイルの関係に深く関わっており、観測するノッ クオンテイルや重陽子速度分布関数の条件によって適切な割合を選択する必要がある。本 研究で採用したEtopとEbottに対する計測精度については5-2-4節を参照されたい。

76

Table 5-1 プラズマ条件

Fig. 5-1 ドップラー効果による線スペクトルの拡がりの定義(傾き)

case Te Ti nD n6Li PNBI ENBI p

1 3 keV 2.95 keV 1×1019 m-3 1×1017 m-3 33 MW 103 keV 3 s 2 4 keV 3.89 keV 1×1019 m-3 1×1017 m-3 33 MW 103 keV 3 s 3 5 keV 5.36 keV 1×1019 m-3 1×1017 m-3 33 MW 103 keV 3 s 4 5 keV 5.78 keV 0.5 ×1019 m-3 1×1017 m-3 33 MW 103 keV 3 s 5 5 keV 4.59 keV 2 ×1019 m-3 1×1017 m-3 33 MW 103 keV 3 s 6 5 keV 4.28 keV 1×1019 m-3 1×1017 m-3 16.5 MW 103 keV 3 s 7 5 keV 5.79 keV 1×1019 m-3 1×1017 m-3 33 MW 180 keV 3 s 8 5 keV 5.68 keV 1×1019 m-3 1×1017 m-3 33 MW 300 keV 3 s 9 5 keV 3.97 keV 1×1019 m-3 1×1017 m-3 8.25 MW 103 keV 3 s

-0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

468 470 472 474 476 478 480 482 484 dN /dE[a.u.]

-ray energy[keV]

E





 dE dN

 

E dE dN

 /

 Etop

Ebott

77 5-1-1 電子温度依存性

プラズマの電子温度は、ノックオンテイル形状に影響を与える要因の一つである。電子-イオン間では、Coulomb 衝突しか起こらないため、相対速度が小さい場合にノックオンテ イルイオンの減速が強まる。Fig. 5-2に重陽子密度nD=1019m-36Li密度n6Li=1017m-3、軽 水素ビームエネルギーENBI=1 MeV、軽水素加熱入力PNBI=33 MW(粒子個数2.57×1017 m

-3s-1)の重水素入射、粒子閉じ込め時間p=3 sのプラズマ条件に対してBFP方程式の解とし

て得られた重陽子速度分布関数を示している。電子温度はそれぞれTe=3、4、5keV(case1、

2、3)である。この条件下での重陽子イオン温度はそれぞれTi=2.95、3.89、5.36 keVであ

る。電子温度が低い場合は、高エネルギー粒子に対する減速作用が促進されるため、ノック オンテイル成分が減少する。ここでは、電子温度上昇に伴いイオン温度も上昇するため、電 子温度が高いほどノックアップが促進される可能性もある。この時の7LiスペクトルをFig.

5-3に示す。Fig. 1-5を見ると、6Li(d, p)7Liの反応断面積は高エネルギー側に反応ピーク を持つことが分かる。そのためノックオンテイルが相対的に大きい case3 では反応率が大 きくなり、7Li*スペクトルの絶対量が増加する。Fig. 5-4には7Li* から放出されるcase1~

3 の絶対量を規格化した線をそれぞれ示す。7Li*の発生率は電子温度上昇に伴い増加する ため発生する線も同様に増加するが、線放出スペクトルの拡がりはノックオンテイル形成 によってもたらされるため、電子温度の影響は、ほぼ現れない。電子温度は、線放出スペ クトルの絶対量にのみ、反応率を介した影響を及ぼし、ドップラー効果による放出線スペ クトルの拡がりに対する影響は小さい。

1010 1012 1014 1016 1018

100 101 102 103

Deuteron energy[keV]

(4v/m d)f d[m-3 keV-1 ]

Maxwellian

case3 (T

e=5 keV) case2 (T

e=4 keV) case1 (T

e=3 keV)

Fig. 5-2 電子温度に対する重陽子速度分布関数

78 105

106 107

0 500 1000 1500 2000

dN 7Li/dE[m-3 keV-1 ]

7Li energy [keV]

case3 (T

e=5 keV) case2 (T

e=4 keV) case1 (T

e=3 keV)

Fig. 5-3 電子温度に対する7Li放出スペクトル

-0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2

472 473 474 475 476 477

-ray energy [keV]

dN /dE[a.u.]

Maxwellian case3 (T

e=5 keV) case2 (T

e=4 keV) case1 (T

e=3 keV)

Fig. 5-4 電子温度に対する規格化線放出スペクトル

79 5-1-2 ビームエネルギー依存性

核弾性散乱は、散乱粒子の種類によっても異なるが、散乱粒子(入射粒子)のエネルギーが 高い程、核弾性散乱断面積が上昇し、ノックアップが促進される。加えて、入射する陽子の エネルギーが上昇すると、バルク重陽子に付与するエネルギーは当然上昇する。本研究で想 定されている軽水素ビームの入射エネルギーの上昇は、核弾性散乱が生じる割合を上昇さ せると考えられるため、ノックアップが促進されてノックオンテイルがエネルギー方向に 顕著な成長をする。そのため、ビームエネルギーの変化は、線放出スペクトルによって評 価が可能となる。Fig. 5-5(a)に電子温度 Te=5 keV、重陽子密度 nD=1019m-36Li 密度 n6Li=1017m-3、加熱入力PNBI=33 MW、粒子閉じ込め時間p=3 sのプラズマ条件に対する重 陽子速度分布関数を示す。軽水素ビームエネルギーはENBI=180、300、1000 keV(case7、

8、3)である。ビームエネルギーが上昇するに伴い、ノックアップが促進されることに加え て、ノックアップされるエネルギー領域が拡がっている。ノックオンテイルのエネルギー領 域が拡がることで、6Li+d反応で発生する7Liの放出スペクトルのエネルギー領域が拡がる。

線を発生する粒子のエネルギーが高い程、ドップラー効果が顕著になるため、Fig. 5-5(b) の規格化した線放出スペクトルはビームエネルギー上昇に伴い傾きが増す。増大したノッ クオンテイル成分によって反応率も上昇するため、ビームエネルギーの変化は線放出スペ クトルの反応率とドップラー効果による拡がりをもたらす。

1010 1012 1014 1016 1018

100 101 102 103 104

Deuteron energy [keV]

(4v/m d)f d[m-3 keV-1 ]

case7 (E

NBI=180 keV) case8 (E

NBI=300 keV) case3 (E

NBI=1000 keV) (a)

-0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2

472 473 474 475 476 477

-ray energy[keV]

case3 (E

NBI=1000 keV) case9 (E

NBI=300 keV) case7 (E

NBI=180 keV)

dN /dE[a.u.]

(b)

Fig. 5-5 ビームエネルギーに対する(a)重陽子速度分布関数と(b)規格化線放出スペクトル

80 5-1-3 加熱入力依存性

加熱入力の増加は、入射するビームの入射率の増加を意味する。そのため、加熱入力が 増加するとノックアップする粒子が増加し、ノックオンテイルの絶対量が増加する。5-1-1 節の電子温度が変化した場合と同様に、加熱入力の変化は線放出スペクトルの反応率が変 化する要因となる。Fig. 5-6(a)に電子温度Te=5 keV、重陽子密度nD=1019m-36Li密度 n6Li=1017m-3、ビームエネルギーENBI=1 MeV、粒子閉じ込め時間p=3 sのプラズマ条件に 対する重陽子速度分布関数を示す。加熱入力はPNBI=8、16.5、33 MW(case9、6、3)であ る。加熱入力が増加し、ノックアップされる粒子が増えることでノックオンテイルの絶対 量は増加しているが、散乱する粒子間のエネルギーは変化しないため、ノックアップされ る粒子のエネルギー領域は加熱入力の変化にほとんど影響しない。その結果、加熱入力の 変化によるドップラー効果の変化はなく、Fig. 5-6(b)に示すように規格化線放出スペクト ルにスペクトルの傾きの差が現れない。加熱入力上昇によってノックオンテイルの絶対量 が増加することから、γ線放出スペクトルには、反応率増加の影響のみが現れる。

1010 1012 1014 1016 1018

100 101 102 103

case3(P

NBI=33 MW) case6(P

NBI=16.5 MW) case9(P

NBI=8 MW) (4v/m d)f d[m-3 keV-1 ]

Deuteron energy [keV]

(a)

-0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2

472 473 474 475 476 477 478

case3(P

NBI=33 MW) case6(P

NBI=16.5 MW) case9(P

NBI=8 MW)

dN /dE[a.u.]

-ray energy [keV]

(b)

Fig. 5-6 加熱入力に対する(a)重陽子速度分布関数と(b)規格化線放出スペクトル

5-1-4 重陽子密度依存性

重陽子密度の変化はこれまでのプラズマ条件と影響が異なる。一般的に反応粒子の数密 度上昇が生じると比例して反応率が上昇する。しかし、プラズマの重水素イオンの数密度 (バルク密度)が上昇するとイオンや電子との衝突が増加するため、形成されたノックオンテ イルの減速が促進される。もちろん重陽子密度が増加することによってノックアップされ うる粒子の絶対量は増加するが、効果としては小さく、減速の効果が強く現れるため、高密 度条件の際にノックオンテイルの絶対量が減少する。Fig. 5-7(a)に電子温度Te=5 keV、6Li

81

密度n6Li=1017m-3、ビームエネルギーENBI=1 MeV、加熱入力PNBI=33 MW(粒子個数2.57

×1017 m-3s-1)、粒子閉じ込め時間p=3 s のプラズマ条件に対する重陽子速度分布関数を示

す。重陽子密度はnD=0.5、1、2×1019m-3(case4、3、5)である。この場合も5-1-1節の電子 温度、5-1-3 節の加熱入力の変化した場合と同様に線放出スペクトルの反応率が変化する 要因となるが、ノックオンテイル成分のエネルギー領域の変化が小さいため線放出スペク トルの傾きに影響がない(Fig. 5-7(b))。ここで、重陽子密度変化についての特筆すべき点と しては、重陽子密度が増加する際、バルクの密度は上昇するが、ノックオンテイルの密度は 減少することである。6Li+d反応の断面積は、閾値反応のように、高エネルギー領域で急激 な増加をするため、重陽子速度分布関数上に形成されるノックオンテイル成分が反応の大 半を占める。一方、DD反応は高エネルギー側に断面積の最大値があるものの、バルク成分 の反応の寄与が大きい。つまり、重水素の密度が増加した際、DD反応の反応率は増加する が、6Li+d反応の反応率は減少することになる。

1010 1012 1014 1016 1018

100 101 102 103

case3(n

d=1019 m-3)

case4(n

d=0.5×1019 m-3) case5(n

d=2×1019 m-3)

Deuteron energy [keV]

(4v/m d)f d[m-3 keV-1 ]

(a)

-0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2

472 473 474 475 476 477 478 case3(n

d=1019 m-3) case4(n

d=0.5×1019 m-3)

case5(n

d=2×1019 m-3)

-ray energy [keV]

dN /dE[a.u.]

(b)

Fig. 5-7 重陽子密度に対する(a)重陽子速度分布関数(b)規格化線放出スペクトル

5-1-5 ノックオンテイル観測実験におけるプラズマ条件が線放出スペクトルに与える影響 前節までに、ノックオンテイル形成に影響を与える様々なプラズマ条件に対して、線放 出スペクトルのドップラー拡がりに現れる効果を示してきた。5-1-1~5-1-4節までに検討し たプラズマ条件下において、実験で得られる線放出スペクトルの傾きと線放出反応率、

中性子反応率をTable5-2に示している。また、プラズマ条件が変化した場合の傾き、線放 出反応率、中性子反応率の傾向をTable 5-3に示す。今回着目したプラズマ条件の範囲では、

電子温度、加熱入力、重陽子密度は、線放出スペクトルの発生率(計数率)に対してのみ影響 を及ぼし、ビームエネルギーは線放出スペクトルの発生率(計数率)とスペクトルの拡がり(

82

線放出スペクトルの傾きの両者に対して影響を及ぼす。重陽子密度の増加はノックオンテ イル形成による線放出スペクトルの発生率減少に反比例して、D(d, n)3He 反応等の重陽子 のバルクが反応率の大半を占める反応の発生率が増加するため、6Li+d反応によるノックオ ンテイル形状評価と D(d, n)3He 反応の反応率評価を同時に行うことで他のプラズマ条件の 変化と区別可能である。一方、ノックオンテイル形状から電子温度と加熱入力の影響を区別 することは困難であるが、第四章で提案したプラズマ温度変化診断法を同時に利用するこ とで区別できる可能性がある。

Table 5-2 プラズマの条件に対する線の傾きと発生率

case SLOPE -ray emission rate DDneutron emission rate 1 5.25×10-2 2.85×108 m-3s-1 6.23×1011 m-3s-1 2 5.20×10-2 6.50×108 m-3s-1 1.82×1012 m-3s-1 3 5.13×10-2 1.24×109 m-3s-1 4.04×1012 m-3s-1 4 5.11×10-2 1.99×109 m-3s-1 2.83×1012 m-3s-1 5 5.17×10-2 7.05×108 m-3s-1 9.32×1012 m-3s-1 6 5.18×10-2 7.02×108 m-3s-1 2.40×1012 m-3s-1

7 0.119 6.92×106 m-3s-1 4.45×1012 m-3s-1

8 8.32×10-2 2.36×107 m-3s-1 4.31×1012 m-3s-1 9 5.31×10-2 3.76×108 m-3s-1 1.55×1012 m-3s-1

Table 5-3 プラズマ条件と[傾き、線放出反応率、中性子反応]の関係

5-2 二温度Maxwell分布モデルによるノックオンテイル形状評価法

様々なプラズマ条件が線放出スペクトルに与える影響を判断するために、本研究では二

温度Maxwell分布モデルを利用したノックオンテイル形状評価を提案する。

軽水素ビーム入射された重水素プラズマにおいて、ノックオンテイルが形成された重陽 子速度分布関数は、バルク成分とノックオンテイル成分がそれぞれMaxwell分布に近い形 状である。ノックオンテイル観測実験において、得られる実験値からその条件に適応する重

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