奈良教育大学学術リポジトリNEAR
語形成における漢字の機能について
著者 加藤 久雄
雑誌名 奈良教育大学国文 : 研究と教育
巻 27
ページ 141‑135
発行年 2004‑03‑30
URL http://hdl.handle.net/10105/10773
語形成 にお ける漢字の機 能 につ いて
加 藤 久 雄
1は じめ に
日本 語 教 育 や 国 語 科 教 育 にお い て 、 あ る 語 の意 味 ・用 法 に 関 す る運 用 能 力 を習 得 す る 場 面 を 語 彙 教 育 と呼 ぶ 。語 彙 教 育 の 場 面 に お いて 、 学 習対 象語 が 漢 字 表 記 を 有 す る 場 合 、そ の漢 字 表 記 を 媒 介 と して 、 あ る 種 の 学 習 の拡 張 が お き る 。例 え ば 、 「き り」 の語 を学 習 す る 時 、 「き り」 は 、 「霧 」 と 漢字 表 記 し、 そ の 漢 字 「き り」 は 、 「む 」 とい う読 み を有 す る こ と か ら、 「霧(む)」 を習 得 す る こ と へ の 拡 張 が お き る。 こ の 学 習 の 拡 張 が 、 「き り」 の 学 習 と連 続 して お き るか 、 時 間 をお い て お き る か は、 様 々 で あ る 。 注 目 した い の は 、 学 習 の 目 標 が 、語 「霧(き り)」 に と ど ま る も の で あ っ た と して も、 日本 語 の漢 字 表 記 体 系 が 有 して い る 「ひ とつ の 文 字(ひ とつ の 漢 字)の 読 み は 、 ひ とつ と は 限 らな い場 合 が あ る 」 と い う 特 質 か ら、 日常 の 言 語 生 活 の 中 で も 自ず とお こ る拡 張 で あ る と い う こ とで あ る 。語 「き り」
の 学 習 か ら漢 字 「霧 」、 ま た 、漢 字 「霧 」 か ら 「む 」 の 習得 と い う 学 習 の拡 張 が 、 ひ らが な と漢 字 の 二 重 の 表 記 体 系 を 有 す る 日本 語 の 特 質 と して お き る と い う こ とで あ る 。 この よ う な 学 習 の拡 張 の 延 長 線 上 に は 、 「霧(む)」 が 、 独 立 して 使わ れ る こ との な い 形 式(拘 束 形 式)で あ る こ と も学 習 さ れ る こ と に な る 。 語 「き り」 の学 習 は 、 そ の 漢 字 表 記 「霧 」 の 学 習 を媒 介 と して 拡 張 され 、 決 して 「霧(き り)」 で と ど ま る も の で は な い の で あ る 。
こ の拡 張 が 、逆 方 向 か ら行 わ れ る こ と も あ る。 「本 」 の 字 体 を 知 る た め に 、 「「ぽ ん 」 の 字(漢 字)は ど う書 く の か?」 と発 問す る 学 習 者 は 、 例 えば 、 「六 本(ろ っ ぼ ん)」 や 「根 本(こ ん ぽ ん)」 な ど の 語 の 中 で 、 漢 字 「本 」 を 学 習 し た 学 習 者 で あ る 。 個 々 の学 習(習 得)の 場 面 で は 、 漢 字 「本 」 を 「根 本 」 とい う語 を通 じて 、 つ ま り、拘 束 形 式 にお い て 学 習 す る こ と も あ る し、 「図書 館 には 本 が あ る」 とい う文 の 中 で 、 自 由 形式 に お い て 学 習 す る こ と も あ る 。 また 、 「単 行 本 」 で 「本 」 を学 習 す るな らば 、独 立 形 式 で あ る が 連 濁 形 で 学 習 す る こ とに な る 。 漢 字 の 学 習 と い う点 か らは 、 必 ず し も 、 自 由形 式 が 、 学 習 の入 り口 とな る と は 限 らな い わ けで あ る 。 国 語 科 教 育 に お け る 語 彙 教 育 で 考 え る な らば 、 国語 科 教科 書
た 、 日常 の 言 語 生 活 にお け る 語 彙 習 得 に お いて は、 ど ち らが 先 に な る か は 予 想 の つ か な い こ とで あ りそ の 順 番 は様 々 で あ る。
また 、 「員(い ん)」 と い う語 は 、拘 束 形 式 と して しか 機 能 しな い の で 、 い わ ゆ る 派 生 語 の 中 で 、非 自立 形 式 と して 学 習 す る こ と に な る。 「駅 員 」 「店 員 」な どで あ る 。 この 時 、 「駅 員 」 は 、 「駅(え き)」 が 自立 形 式 で あ る こ とか ら、 接 尾 辞 と して の 「一 員 」 を認 め 派 生 語 と み な し、 「店 員 」 は 「店(て ん)」 が 自立 しな い こ とか ら漢 字 熟 語 と み な す の が 一 般 で あ るが 、 両 者 の 区 別 は 明 確 に行 う こ と は困 難 で あ る。 こ の他 に 、 も っ ぱ ら漢 字 熟 語 の構 成 要 素 と して の み機 能 す る漢 字 が あ る。 「警 察 」 の 「察(さ つ)」 や 「校 舎 」 の 「舎(し ゃ)」 な ど で あ る 。
こ の よ う に考 え る と、 語 彙 教 育 に お い て 、 学 習 対 象 語 の漢 字 表 記 が 、漢 字 の ど の機 能 を 用 い て 表 記 さ れ て い る も の で あ る か が 、 重 要 な 問 題 とな っ て くる 。 ち な み に 、 漢 字 教 育 で は 、音 か 訓 か とい う こ とが 重 要 視 さ れ るが 、 自 由形 式 が 訓 、拘 束 形 式 が 音 と い う こ と で は な い。 自 由形 式 で あ る音(愛(あ い)、 詩(し)、 液(え き)、 運(う ん)、 王(お う))も 存 在 す る し 、拘 束 形 式 で あ る訓(屋(や)、 家(や)、 日(か)、 園(そ の)、 新(に い))も 存 在 す る。 ま た 、 漢 語 や 和 語 と い っ た 語 種(出 自)と も異 な る 問 題 で あ る。
2漢 字の表記 における機能分類
あ る漢 字 が 、 あ る 語(名 詞)の 漢 字 表 記 に使 用 さ れ る 際 に、 当該 の 漢 字 が うけ もつ 音 形 式 が 、 形 態 素 の観 点 か ら どの よ う に 機 能 して い る か を 整 理 す る と 、 漢 字 は 、 自由 形 式 の み を 有 す る1類(表1)、 自由 形 式 と拘 束 形 式 の 両 形 式 を有 す るII類(表2)、 拘 束 形 式 の み を 有 す るHI類(表3)の 三 つ の タ イ プ に分 類 さ れ る 。(こ の 表 を 「名詞 漢 字 機 能 整 理 表 」 と 呼 ぶ こ と にす る 。 以 下 表 中 の 空 白 は 偶 然 の 空 白(accidentalgap)、 ア ス テ リ ス ク は 体 系 的 空 白(systematicgap)を 示 す 。)
表11類
単独 用法 語基用 法
自 由 形 式 詩 を読 む
前 後
詩碑 詩 文 漢詩 訳詩 複合語 詩歌 詩 学 作詩
拘 束形式 熟語
」
* * *
表211類
単独用法 語基用 法
自由形式 山 に登 る
前 後
山道 山奥 岩山 砂 山 複 合語 山 家(や ま が) 狭 山
拘束形式 山(さ ん) 山河 山村 火山 銅 山 熟 語
表3皿 類
単独 用法 語基用法
自 由形 式
*
前 後
* *
複合語* *
拘束形式 察(さ つ) 察知 警察 観察 熟語
1類 の漢 字 は 、 自 由形 式 の 読 み の み を有 す る 漢 字 で ある 。例 え ば 、 「詩 」 は 、 「し」 と い う 読 み を 有 し、 そ の 読 み は 、 「詩 を読 む 」 「詩 にあ らわす 」 な ど、 自 由形 式 と し て の み 機 能 す る。 また 、そ の 読 み を語 基 と して 、複 合 語 や 派 生 語 や 熟 語 を形 成 す る。 「詩 」 の ほ か 、 「駅 」
「肺 」 「肉」 「服 」 「芋 」 「貝 」 「畑 」 な どが1類 で あ る 。 「駅 」は 「え き」、 「肺 」は 「はい」、
「芋 」 は 「い も」 の読 み の み を有 し 、 か つ 、 そ の 読 み は 自 由 形 式 と して 機 能 す る。 この 時 、
「し」 「え き」 「は い 」 「に く」 「ふ く」 は 音 読 み で 、「いも」 「か い」 「はたけ」 は訓読みで あ る と い う こ との 弁 別 は 、 語 彙 習 得 に お い て 有 意 な こ と で は な い 。 音 読 み で あ ろ う と訓 読 み で あ ろ う と、 そ の 読 み が 拘 束 形 式 で あ る か 自由 形 式 で あ る か の 習 得 が 重 要 で あ る 。
ll類 の漢 字 は 、 自 由 形 式 と拘 束 形 式 の 両 方 を 、 少 な くと も ひ とっ ず っ 有 して い る 漢 字 で あ る。 例 え ば 、 「山 」 は 、 自 由 形 式 と して 「や ま 」 を 有 し、拘 束 形 式 と して 「さん 」 を有 す る。 「火 」(自 由 形 式 「ひ 」・拘 束 形 式 「か 」)、 「花 」(自 由形 式 「は な 」・拘 束 形 式 「か 」)、
「犬 」(自 由形 式 「い ぬ 」・拘 束 形 式 「け ん」)な どベ ー シ ッ クな 語 に 多 い 。 「後 」(自 由 形 式
「の ち 」 「あ と」・拘 束 形 式 「ご」 「こ う」)、「紅 」(自 由 形 式 「べ に」 「くれ な い 」・拘 束 形 式
「こ う」 「く」)、「床 」(自 由 形 式 「と こ」 「ゆ か 」・拘 束 形 式 「し ょ う」)な ど の よ う に、二つ 以 上 の 自 由形 式 お よ び 拘 束 形 式 を有 す る漢 字 も あ る。
皿類 の漢 字 は 、 自由 形 式 を有 さず 、拘 束 形 式 の み を 有 す る 漢 字 で あ る。 「院(い ん)」 「級 (き ゅ う)」 「孝(こ う)」 「析(せ き)」 な ど が あ る 。 音 読 み の も の が 多 い が 、 「潟(か た)」
え ば 、 「丸 」 は 、 表4の よ うにH類 に分 類 さ れ る 。
表4「 丸 」 の 名 詞 漢 字 整 理 表
単独 用法 語基用 法
自由形式 丸 を つ け る
前 後
丸顔 丸 襟 本丸 複 合語
丸太
*
拘束形式 丸(が ん) 丸薬 弾丸 砲丸 熟 語
しか し、 「丸」 は 、動 詞 「丸 め る 」や 形 容 詞 「丸 い 」 の漢 字表 記 に も使 用 され る。漢字 を 媒 介 と して 、 品 詞 を超 え た 学 習 の 拡 張 が 行 わ れ る 可 能 性 が こ こ に あ る。 例 え ば、 「丸 をつ け る 」 か ら 「丸(ま る)」 そ し て 「丸 め る 」 「丸 い 」 へ と い っ た拡 張 で あ る 。漢字 表記が媒介 と な っ て 、 名 詞 か ら動 詞 ・形 容 詞 へ の 品 詞 転 生 的 な 拡 張 が 発 生す る の で あ る。 このよ うな こ と を 視 野 に入 れ る と、 先 の3分 類 は 、 さ ら に細 分 化 され る こ と に な る 。
31類 の 下 位 分 類
1類 は 、 自 由形 式 の み を 有 し、 拘 束 形 式 を 有 しな い 漢 字 で あ る。 そ の 自 由形 式 は 、単 独 用 法 を 持 つ と と もに 、 語 基 用 法 と して 機 能 し複 合 名 詞 を 形 成 す る 。 さ ら に、 「案(あ ん)」
「汗(あ せ)」 「圧(あ つ)」 「益(え き)」 「課(か)」 「害(が い)」 「略(り ゃ く)」 な どの よ うに 「す る 」 を下 接 させ 、 サ 変 動 詞 を 形 成 す る も の もあ る(B)。 また そ の 中で 、 「死(し)」
「得(と く)」 の よ う に 、独 自 の動 詞 用 法(「 死 ぬ 」 「得 る」)を 有 す る もの が あ る(B3・B 4)。 ま た 、 「得 」 は 、 独 自の 動 詞 用 法 の 「え 」 が 語 基 用 法 と し て機 能 して 、 「得 体 」 「得 手 」
「心 得 」 な ど を 形 成 す る(B4)。 ま た 、 「別 」 の よ う に、 語 基 用 法 は 名 詞 に 限定 さ れ(「 別 す る 」 が な い)、 独 自 に 「別 れ る 」 の 動 詞 の用 法 を 有 す る も の もあ る(C1)。
以 上 は 、 ひ と つ の 漢 字 が ひ と つ の 自立 形 式 と して 機 能 す る も の で あ った が 、 ひ とつ の 漢 字 が 二 種 類 の 自立 形 式 を有 す る も のが あ る(D)。 「訳 」(「や く」・「わ け 」)、「市 」(「い ち」・
「し」)、「門 」(「か ど 」・「もん 」〉、 「品 」(「しな 」・「ひ ん 」)な ど は 、 二 種 類 の 自立 形 式 を 有 す る。 そ の う ち 「訳 」 は 、 一 方 の 自 由 形 式 が サ 変 動 詞 「訳(や く)す る 」 を 形成 す る(D
2)。 ま た 、 「表 」 は 、 独 自 の 動詞 用 法 「表 す 」 を 有 す る(D3)。
表51類 の 下 位 分 類
単独用 法 語基用 法 独 自
名詞 名詞 動詞 動詞 動詞 名詞
A詩 B1案 B2愛 B3死 B4得 C1別 D1品
D2訳 D3表
し あ ん あ い し と く べ つ しな ひ ん や く わ け ひ よ う お もて
詩 を読 む 詩文 案 を作 る 案文 愛 を育 む 愛情 死 を恐れ る 死刑 得 をす る 獲得 別 にす る 別紙 品が多 い 品物 品が良 い 品質 英単語の訳 訳文 遅刻の訳 言い訳 表に示す 図表 表 と裏 畳表
案ず る 愛す る 愛す
死す 得す る
訳する 訳す
死ぬ 得 る 得体
別 れる
表す
4H類 の 下 位 分 類
ll類 は 、 自 由 形 式 と 拘 束 形 式 の 両 形 式 と し て 機 能 す る も の で あ る 。 「 山 」(「 や ま 」・ 「さ ん 」)、 「 皮 」(「 か わ 」 ・「ひ 」)、 「 首 」(「 く び 」・「し ゅ 」)、 「 者 」(「 も の 」 ・「し ゃ 」)な ど 、 そ の 自 由 形 式 は 名 詞 を あ ら わ し 、 か っ 拘 束 形 式 を 有 し 語 基 と し て 漢 字 熟 語 を 形 成 す る の に 働 く(A)。 い わ ば 典 型 的 な 名 詞 漢 字 で あ る 。 ま た 、 「 砂 」(自 由 形 式 「 す な 」・拘 束 形 式 「さ 」
「し ゃ 」)、 「 己 」(自 由 形 式 「 お の れ 」・拘 束 形 式 「こ 」 「き 」) 、 家(自 由 形 式 「い え 」・拘 束 形 式 「 か 」 「 け 」 「 や 」)、 「 弟 」(自 由 形 式 「 お と う と 」 ・拘 束 形 式 「 て い 」 「だ い 」 「 で 」)の よ う に 拘 束 形 式 を 二 つ 以 上 有 す る も の も あ る(D1)。
A類 の よ う に 名 詞 の 用 法 に と ど ま る も の の ほ か 、 「 春 」 の よ う に 、 自 立 形 式 と 動 詞 接 辞 と
で 、 動 詞 「 春 め く 」 を 形 成 す る も の も あ る(B1)。 「 秋 め く」 「 時 め く」 も 同 類 で あ る 。 ま
た 、 「 病 」(「 や ま い 」・「 び ょ う 」・「 や 一む 」)の よ う に 、 独 立 し た 動 詞 用 法 を 有 す る も の が あ
る(B2)。 「 指 」(「 ゆ び 」・「し 」・「さ 一す 」)、 「 巻 」(「 ま き 」・「か ん 」・「 ま 一く 」)、 「 偽 」(「 に
せ 」・「 ぎ 」・「 い つ わ 一る 」)な ど も 、B2類 で あ る 。 ま た 、 「 辺 」 の よ う に 、 独 自 の 動 詞 の 用
法 を も た ず 、 名 詞 の 用 法 を 有 す る も の が あ る(C1)。
表61[類 の 下 位 分 類
単独 用法 語基用法 独 自
名詞 名詞 動詞 動詞 名詞
A
皮B1春
B2病
C1辺
D1砂
自立形式 かわ 拘束形式 ひ 自立形式 は る 拘束形式 しゅん 自由形式 や まい 拘束形式 び ょう 自由形式 へん 拘束形式 べ 自由形式 すな 拘束形式 さ
しや
皮 を む く 毛 皮
*皮 革
春 が 来 た 春 霞 春 め く
*青 春
病 に 倒 れ る 移 り病
*看 病
この 辺 周 辺
*海 辺
砂 の 山 砂 山
*砂 金
*土 砂
病 む 辺 り
51H類 の 下 位 分 類
m類 は 、 拘 束 形 式 の み を 有 す る 漢 字 で あ る 。 そ の 拘 束 形 式 は 、 語 基 用 法 と し て 機 能 し 名 詞 を 形 成 す る 。 そ の 際 、 「 復(ふ く)」 「 孝(こ う)」 「崎(さ き)」 「 瀬(せ)」 の よ う に 、 他 の 品 詞 へ の 転 生 を 許 さ な い も の(A)と 、 「 演(え ん)」 「 達(た つ)」 の よ う に 「 す る 」 を 下 接 さ せ サ 変 動 詞 を 形 成 す る も の と が あ る(B)。 ま た 、 「 急 」 「 妙 」 「 変 」 な ど の よ う に 、 形 容 動 詞 の 用 法 を 有 す る も の が あ る(C)。
独 自 形 と し て は 、 「 走(そ う)」 の 「 は し 一る 」 の よ う に 、 動 詞 の 自 由 形 式 を 有 す る も の が あ る(D)。 こ の タ イ プ の も の に は 、 「 祭(さ い)」 の 「ま つ 一る 」、 「 止(し)」 の 「と ま 一る 」
「 秀(し ゅ う)」 の 「 ひ い 一で る 」 な ど が あ る 。 そ の う ち 、 「 走 」 「 祭 」 は 「は し 一り 」 「ま つ 一 り」 と い っ た 居 体 言 を 形 成 す る 。 ま た 、 「消(し ょ う)」 の よ う に 、 「 き 一え る 」 「け 一す 」 の
・ 二 つ の 独 自 の 動 詞 形 を も つ も の も あ る
。
こ の ほ か 、 「 古(こ)」 の 「 古 い 」、 「 美(び)」 の 「美 し い 」、 「 醜(し ゅ う)」 の 「 醜 い 」、
「 貧(ひ ん ・び ん)」 の 「 貧 し い 」 の よ う に 形 容 詞 の 独 自 形 を 有 す る も の も あ る(F1)。 ま
た 、 「 痛 」(「 つ う 」・「い た 一む 」 「い た 一い 」)の よ う に 、 形 容 詞 と 動 詞 の 両 方 に 独 自 用 法 を
有 す る も の も あ る(F2)。 ま た 、 「 合 」 の よ う に 、2種 の 拘 束 形 式 を も つ も の も あ る 。
表7皿 類 の下位 分類
語基用法 独 自
名詞 動詞 形容動詞 動詞 形容詞 名詞
A復 ふ く 往 復
B演 え ん 演 題
C急 き ゅ う 急 流
D1似 じ 類似
D2走 そ う 競 走
F1古 こ 古 紙
F2痛 つ う 激 痛
G1合 こ う 会 合
が っ 合併
演 ずる
急 な 急 ぐ 似 る 走 る
古い 痛 む 痛い 合 う
走 り
痛 み
6ま とめ
本 稿 で は 、漢 字 の 読 み を常 用 漢 字 表 に 示 され た 範 囲 に と ど め た 。 した が っ て 、 「愛 」 は
「あ い 」 の 読 み だ け に と ど ま り、 「い とお し む 」 「め で る 」な どの 読 み は、 考 察 の 対 象 にな っ て い な い 。 また 、 下 位 分 類 にっ いて は 、 さ ら に詳 細 な 分 類 が 可 能 で あ る な ど、 研 究 ノー ト の域 を 脱 しな い点 が 多 々 あ る。 今 後 の課 題 と した い。
漢 字 「光 」 は 、 名 詞 「光 」 と動 詞 「光 る 」 の 用 法 を有 す る。 一 方 、漢 字 「祭 」 は 、 名 詞
「祭 り」 と動 詞 「祭 る」 の用 法 を 有 す る。 「光 り」 「祭(ま つ り)」 と用 い られ な い の は な ぜ か 。 共 時 論 的 な 説 明 は 可 能 だ ろ うか 。 学 年 別 漢 字 配 当 表 にお いて 小学 校1年 とさ れ る 漢 字
「下 」 は、 字 体 こそ 単 純 で あ るが 、 「か 」 「げ 」 「した 」 「し も」 「も と」 「さ げ 一る」 「さが 一る」
「く だ 一る 」 「くだ 一す 」 「くだ 一さ る 」 「お 一うす 」 「お 一り る」 と、語形成 にお いて様 々な機能 を有 して い る 。
語 形 成 に お け る漢 字 の 機 能 整 理 を行 う こ と によ って 、 漢 字 の 形 態 論 的 な 分 類 が で き 、 語 彙 に お け る 漢 字 の機 能 が 明 らか にな り整 理 さ れ る と考 え る 。 そ の 結 果 は 、語 彙 教 育 や 漢 字 教 育 の適 切 な ス トラ テ ジ ー にっ いて 考 察 す る 有 益 な 視 点 とな る で あ ろ う。 「光 」 「祭 」 「下 」 につ い て も 、そ の機 能 整 理 分類 を行 う こ と によ っ て 、そ の位 置 づ けが 明 らか にな って く る。
名 詞 漢 字 機 能 整 理 は 、 そ の よ うな 考 察 の た め の 新 しい 観 点 で あ る と考 え る。
本 稿 は 、 森 岡 健 二(1968)「 文 字 形 態 素 論 」(r国 語 と 国文 学 』45‑2)、 情 報処 理 振 興 事 業 協 会(1996)『 計 算 機 用 日本 語 基 本 名 詞 辞 書IPAL』 な ど、先 行 の研 究 に負 いな が ら、 そ