第
5
章 初等関数実変数に対して定義されている初等関数を,次の条件を満たすように,複素変数zに拡張する。
(i) z=x+i0(実数)のとき,実変数関数に一致する。
(ii) 正則関数である。
5.1
指数関数定義 z=x+iy のとき
f(z) = ez = ex( cosy+isiny) (5.1)
ただし,e = 2.71828· · · は自然対数の底である。
上で定義した指数関数は
(i) f(x+i0) = ex,すなわち,実変数に対する指数関数に一致。
(ii) 複素平面上のすべての点で正則(微分可能性2の定理より)。
(1) 関数f(z) =u(x, y) +iv(x, y) = excosy+iexsiny が定義される。
(2) 偏導関数が存在し連続である。
∂u
∂x = excosy ∂u
∂y = −exsiny
∂v
∂x = exsiny ∂v
∂y = excosy (3) Cauchy-Riemannの方程式が成り立つ。
∂u
∂x = ∂v
∂y, ∂u
∂y =−∂v
∂x
注意:1 複素変数z の指数関数を exp (z) と表すこともある。
注意:2 複素変数の指数関数ez は,実数の場合のような eのz 乗という意味ではない。
43
44 第5 章 初等関数
導関数・指数法則 複素変数の指数関数に対して,導関数・指数法則など,実関数の場合と同 様の式が成り立つ。
(1) dez
dz = ez (5.2)
(2) ez1ez2 = ez1+z2, ez1
ez2 = ez1−z2 (5.3)
(3) e0 = 1, (ez)n= enz (nは自然数) (5.4)
(4) |ez| = 0 (5.5)
複素変数の指数関数は実関数と異なる性質ももつ。
(5) eiθ = cosθ+isinθ Eulerの公式 (5.6)
(6) ez+2πi= ez, 虚数の周期2πiをもつ周期関数 (5.7)
(7) |ez|= ex, argz=y+ 2nπ (nは整数) (5.8)
Euler の公式
第1章では,実関数ex において形式的に実数x に虚数を代入してEuler の公式を示した。複 素変数に対する指数関数の定義によって,Euler の公式が正当化される。
Re z Im z
Reω Imω
2π 2π 2π
図5.1: 指数関数の周期性 指数関数の周期性(図5.1)
複素変数z+ 2πiに対する指数関数は定義より
ez+2πi = ex+(y+2π)i = ex[ cos(y+ 2π) +isin(y+ 2π) ] となるが,三角関数(実関数)の周期性
cos(y+ 2π) = cosy, sin(y+ 2π) = siny より,指数関数の周期性
ez+2πi = ex( cosy+isiny) = ez
が得られる。これは,実変数の場合にはない重要な特性である。
指数関数の写像
関数ω =f(z) = ez を写像としてみると,z=x+iy の虚部y については周期2π の周期関数 であるから,xが等しくy が2π の整数倍だけ異なる無数のz が,ω 平面上の同一点に写像さ れる(図 5.1)。
また,ω=u+iv とおくと,u= excosy,v= exsiny であるから,これをx とy について 解くと
x= 1
2log (u2+v2), u
cosy = v
siny (= ex >0)
である。従って,たとえば,z 平面上の直線 x=a,y=b(a,bは実定数)は,それぞれ x = a → u2+v2 = e2a 円
y = b → u
cosb = v
sinb >0 半直線 に写像される(図 5.2)。b= 0 のときは u 軸の正の部分に写像される。
Re z Im z
Reω Imω
f Re z
Im z
Reω Imω
f
図5.2: 指数関数による直線の写像
指数関数の周期性から,ω= ez の逆関数は多価関数であり,ω 平面上の1点がz 平面上の無 数の点に写像される(図 5.1 の逆変換)。
46 第5 章 初等関数
5.2
対数関数定義
logz= log|z|+iargz (5.9)
この定義は,z=reiθ に対する対数関数を形式的に計算した結果に一致する:
logz= log
reiθ
= logr+ log eiθ = logr+i θ
対数関数ω = logzは無限多価関数である。1つのz に対して,実部(log|z|)が同じ で虚部(argz)が 2π の整数倍だけ異なる無数の ω が対応する(図 5.3)。
Reω Imω
Re z Im z
2π 2π 2π
図5.3: 多価関数である対数関数
対数関数logzが無限多価関数になるのは偏角に原因がある。そこで,次の定理に示すように,
偏角(定義域)に制限を加えることによって,1価関数が定義できる。
定理 5.1 対数関数 logz は,
領域|z|>0, α <argz < α+ 2π (α は実定数)で1価,正則であり,
導関数は次の式で与えられる:
d
dz(logz) = 1
z (5.10)
logz の主値 特に,偏角の定義域を−π < θ ≤π とし,これをargz の主値といいArgzで 表す。このように1価関数として定義された対数関数をlogz の主値といい Logz で表す:
Logz= log|z|+iArgz (5.11)
対数関数の主値は
(i) θ= 0 のとき,実関数に一致。
(ii) 複素平面から原点と負の実軸を除いた集合で連続である。
定理 5.2 対数関数の主値 Logz は,
領域 |z|>0,−π <Argz < π で1価,正則であり,
導関数は
d
dz(Logz) = 1
z (5.12)
である。(注意:領域は Argz=π を含まない)
対数関数は次の性質をもつ(z=x+iy)。
(1) elogz =z (5.13)
(2) log ez =z+ 2nπi (n= 0,±1,±2,· · ·) (5.14)
(3) Log ez=z (5.15)
(4) log (z1z2) = logz1+ logz2 (5.16)
(5) logz1
z2 = logz1−logz2 (5.17)
(6) zn= exp (nlogz) (z= 0, n= 0,±1,±2,· · ·) (5.18) (7) z1/n= exp
1
nlogz
(5.19) 注意1: (2)で,一般に log ez =z
注意2: (4)の式は次のように解釈する。対数関数logzは無限多価関数であり,等号は,両 辺の無限個の値のうち適当なものを選べば,両辺が等しく,しかも一方の辺のとる値は 他方の辺も必ずとることを意味する。
従って,一般に logzn=nlogz (n= 1,2,· · ·)
注意3: (4)で,主値をとると,一般に Log (z1z2)= Logz1+ Logz2
多価関数 f(z) について
(1) ある領域で正則である1価関数をf(z) の分枝という。
(2) 特異点からなる直線(曲線)を 分枝せっ線という。
(3) すべての分枝せっ線に共通な特異点を分岐点 という。
対数関数 logz の場合,α <argz < α+ 2π を定義域とする1価関数は1つの分枝である。こ のとき,argz=α が分枝せっ線であり,原点が分岐点である。
1つの分枝である主値 Logz を主枝という。このとき,argz= 0 が分枝せっ線であり,原点 が分岐点である。
48 第5 章 初等関数
対数関数の写像 複素数z は極形式でz=rei(θ+2nπ) と書けるので,対数関数の定義logz= logr+iargz から,ω=f(z) = logz=u+iv とおくと,
u= logr, v=θ+ 2nπ
である。たとえば,z 平面上の原点を中心とする円は,ω 平面の虚軸に平行な直線に写像され る(図5.4の上図)。また,z平面の原点からでる半直線は,ω 平面の実軸に平行な無限個の直 線に写像される(図5.4 の下図)。
|z| = r → u = logr (虚軸に平行な直線)
argz = θ+ 2nπ → v = θ+ 2nπ (実軸に平行な直線)
Re z Im z
Reω Imω
f
Re z Im z
Reω Imω
2π 2π 2π 2π
f
図5.4: 対数関数の写像
5.3
三角関数・双曲線関数実変数に対する三角関数・双曲線関数は,指数関数で表すと次の通りである。
sinx= eix−e−ix
2i cosx= eix+ e−ix 2 sinhx= ex−e−x
2 coshx = ex+ e−x 2
(5.20)
三角関数 複素変数に対する三角関数・双曲線関数を次の式によって定義する。
定義
sinz= eiz−e−iz
2i , cosz= eiz+ e−iz
2 (5.21)
sinhz= ez−e−z
2 , coshz= ez+ e−z
2 (5.22)
上で定義した三角関数・双曲線関数は (i) z=x+i0 のとき,実関数に一致。
(ii) e±iz, e±z は整関数であるから,sinz,cosz,sinhz,coshzも整関数(正則)。
複素変数の三角関数・双曲線関数は,実関数の場合と同様に,次の性質をもつ。これらの性質 は,すべて指数関数の性質を用いて導くことができる。
(1) sin (−z) =−sinz, cos (−z) = cosz (5.23)
(2) sin2z+ cos2z= 1 (5.24)
(3) sin (z1±z2) = sinz1cosz2±cosz1sinz2 (5.25) (4) cos (z1±z2) = cosz1cosz2∓sinz1sinz2 (5.26) (5) d sinz
dz = cosz, d cosz
dz =−sinz (5.27)
(6) sin 2z= 2 sinzcosz, cos 2z= cos2z−sin2z (5.28) (7) sin
z+π
2
= cosz, cos
z+ π 2
=−sinz (5.29)
(8) sin (z+π) =−sinz, cos (z+π) =−cosz (5.30) (9) sin (z+ 2π) = sinz, cos (z+ 2π) = cosz (5.31)
(10) sinh (−z) =−sinhz, cosh (−z) = coshz (5.32)
50 第5 章 初等関数
(11) cosh2z−sinh2z= 1 (5.33)
(12) sinh (z1±z2) = sinhz1coshz2±coshz1sinhz2 (5.34) (13) cosh (z1±z2) = coshz1coshz2±sinhz1sinhz2 (5.35)
(14) d
dzsinhz= coshz, d
dzcoshz= sinhz (5.36)
複素変数をz=x+iyとすると,次の関係式が成り立つ。
(15) sinz= sinxcoshy+icosxsinhy (5.37)
(16) cosz= cosxcoshy−isinxsinhy (5.38)
(17) sinhz= sinhxcosy+icoshxsiny (5.39)
(18) coshz= coshxcosy+isinhxsiny (5.40)
(19) |sinz|2= sin2x+ sinh2y, |cosz|2 = cos2x+ sinh2y (5.41)
(20) sinz= sinz, cosz= cosz (5.42)
注意: 実変数の場合と異なり,(19) より,|sinz|,|cosz|> 1 となることがある(y = 0 の とき)。
三角関数と双曲線関数の間に次の関係式が成り立つ。
(21) sinh (iz) =isinz, cosh (iz) = cosz (5.43)
(22) sinhz=−isin (iz), coshz= cos (iz) (5.44) (23) sin (iy) =isinhy, cos (iy) = coshy (y は実数) (5.45)
他の三角関数・双曲線関数 他の三角関数はsinz,coszによって,双曲線関数はsinhz,coshz によって,実関数の場合と同じ形で定義される。
tanz= sinz
cosz cotz= cosz
sinz secz= 1
cosz cosecz= 1 sinz tanhz= sinhz
coshz cothz= coshz
sinhz sechz= 1
coshz cosechz= 1 sinhz
(5.46)
5.4
三角関数・双曲線関数の逆関数定義 z= sinω のとき,ω= sin−1zを 逆正弦関数といい,z= sinhω のとき,ω= sinh−1z を 逆双曲線正弦関数 という。同様に,他の逆三角関数・逆双曲線関数も定義される。逆三角 関数・逆双曲線関数は,いずれも多価関数であり,次のように対数関数を用いて表すことがで きる。ただし,右辺の対数において,2nπi(n= 0,±1,±2,· · ·)の差異は無視する。(注意:
根号√ は2価関数である。)
sin−1z = 1 i log
iz+1−z2
(5.47) cos−1z = 1
i logz+z2−1 (5.48)
tan−1z = 1 2ilog
1 +iz 1−iz
(5.49) cot−1z = 1
2ilog z+i
z−i
(5.50)
sec−1z = 1 i log
1 +√
1−z2 z
(5.51)
cosec−1z = 1 i log
i+√
z2−1 z
(5.52) sinh−1z = log
z+z2+ 1
(5.53) cosh−1z = log
z+z2−1
(5.54) tanh−1z = 1
2log
1 +z 1−z
(5.55) coth−1z = 1
2log
z+ 1
z−1
(5.56)
sech−1z = log
1 +√
1−z2 z
(5.57)
cosech−1z = log
1 +√
z2+ 1 z
(5.58)
52 第5 章 初等関数
5.5
複素数のべき複素変数(z= 0)に対して,複素数c のべきを次の式で定義する。
定義
zc= exp (clogz) (z= 0 ) (5.59)
注意 対数関数logz が多価関数であるので,複素数のべきzc も多価関数である。2つの実 数aとb を用いてc=a+i b と表すと,
zc = exp
(a+i b) (log|z|+iargz)
= expalog|z| −bargz+iaargz+blog|z|.
対数関数の分枝を1つ定めると,zc はその領域で1価,正則である。主値をとると zc = exp (cLogz) = exp
alog|z| −bArgz
+i
aArgz+blog|z|. 複素数のべき zc には次の性質がある。
(1) 1
zc =z−c (z= 0) (5.60)
(2) d
dz(zc) =c zc−1 (5.61)
複素変数z に対して,複素数 cのz のべきを次の式で定義する。
定義
cz = exp (zlogc) (c= 0 ) (5.62)
注意 対数関数が多価関数であるので,複素数のべきcz も多価関数である。
d
dz(cz) = ( logc)cz (5.63)
が成り立つ。
特例 cが自然対数の底eであるときは,特例として,対数関数の主値をとるものと約束する:
ez= exp (zLog e) (5.64)
Log e = log|e|+i0 = 1 であるので,指数関数の定義に一致する。