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血圧測定の問題点と脈波記録の意義

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(1)

東医大誌 75(1)

: 19

-

27, 2017

最 終 講 義

血圧測定の問題点と脈波記録の意義 Problems of the sphygmomanometry and

significance of pulse wave analyses

高 沢 謙 二 Kenji TAKAZAWA

東京医科大学病院健診予防医学センター

Center for Health Surveillance and Preventive Medicine, Tokyo Medical University Hospital

本日の講義のポイントは血圧の測定と解釈につい ては種々の問題点があり、その理解と解釈には脈波 記録が有用である。これについて下記に示す

3

つの テーマにそって話を進める。

① 拡張期血圧は二つある

② 収縮期血圧は二つある

③ 上腕の血圧は二つある

① 拡張期血圧は二つある。

現在血圧というと収縮期血圧と拡張期血圧という 言葉が使われるが、実はこの二つの言葉だけを使う と非常に大きな問題点が発生していることを述べた い。

一般に、ヒトは年を取ると血圧が上がると言われ るが本当だろうか? 図

1

は加齢に伴う血圧の変化 である

1)

。これをみると収縮期血圧はたしかに年を 取るほど高くなって行く。しかしながら拡張期血圧 は

20

代、30代、40代と上がって行くが

50

代とな り

60

代に向かうあたりから下がりはじめてきて

70

代さらに

80

代と低下している。つまり収縮期血圧 については加齢とともに血圧が上がるといえる。し かしながら、拡張期血圧については、加齢とともに 血圧が上がるが途中から下がるとなってしまい、年 を取ると血圧が上がるとは言えなくなってしまうの

*本論文は平成

29

年

1

月

20

日に行われた最終講義の要旨である。

キーワード

:

血圧、脈波解析、中心血圧、血管年齢

(別冊請求先

:

〒

160

-

0023 東京都新宿区西新宿 6

-

7

-

1 東京医科大学病院健診予防医学センター)

である。実は収縮期血圧と拡張期血圧というのは血 圧における最高点と最低点を意味するだけなのであ る。加齢に伴う血圧変化を理解するためには本質的 な血圧の成り立ち、つまり血圧を構成している成分 は平均血圧と脈圧であるということを理解する必要 がある。

【平均血圧と脈圧】

平均血圧とは血流の定常成分(定常流

:

拍動のな い血流成分)よって発生する圧である。人体におい

図

1 加齢に伴う血圧の変化

収縮期血圧は加齢とともに上昇を続けるが、拡張期血 圧は

50

歳を過ぎると低値となってゆく。しかしなが ら平均血圧と脈圧で考えると両者とも加齢とともに上 昇していることが分かる。

(2)

(pulse wave velocity : PWV)の積で表される 常成人における加齢に伴う一回心拍出量の変化は殆 んどないから、脈波速度が速いか遅いかが脈圧を決 定することになる。つまり大動脈の伸展性(コンプ ライアンス)が低下すると、言い換えれば大きな血 管が硬くなると、脈圧は増大する。その結果として 拡張期血圧は下の方に移動するのである。この状態 は拡張期血圧が低下したと考えるのではなく、脈圧 が大きくなったと考えるべきなのである。この点が 一番重要なのでもう一度詳しく説明したい。図

2

を 見ていただこう。下側の図は血管の状態を模式的に 示したもので、左下が心臓から出た直後の大動脈起 始部、丸く膨らんだ部分は大きな動脈の伸展性を表 す部分、そして右上で先が細く描かれたところが動 脈の末端である末梢血管である。Aは末梢の血管も 大きな血管も異常のない状態である。この状態では 上段の血圧波形で平均血圧および脈圧とも正常であ る。Bの状態は大きな血管のコンプライアンスは正 常であるが、末梢血管に異常がある場合である。末 梢血管の異常とは末梢血管の硬化、狭小化、肥厚、

血管収縮等でありこれは

30

代から

50

代にかけての 高血圧の主たる原因である。上段を見ていただくと 総末梢血管抵抗が増大したために平均血圧は上昇し ている。一方大きな血管の伸展性は保たれているの で脈圧の増大は見られない。脈圧が変化せず平均血 圧だけが上昇するので、結果として収縮期血圧も拡 張期血圧も高くなる。このように

30

代から

50

代に かけての血圧上昇は、脈圧は正常だが平均血圧は上 昇しているという状況であり、収縮期血圧も拡張期 血圧も高い値を示すことになる。それでは加齢が進 んで大きな血管にも動脈硬化が進行するとどうなる のか。

C

は末梢血管の異常は

B

と同じ程度だが、

これに大きな血管の伸展性の低下(血管が硬くなっ たことを意味する)も加わった状態である。この状 態では総末梢血管抵抗が高いために平均血圧が上昇

していると伴に、大動脈の硬化(肥厚、石灰化、内 腔狭小化等)により脈圧が増大している。これは丁 度

50

歳を過ぎて

60

歳、70歳と加齢が進んでゆく 状態を反映している。胸部

X

線でも大動脈に石灰 化が認められたりする年代である。ここで注目して 頂きたいのは

C

の状態での拡張期血圧である。末 梢血管の硬化に加えさらに大きな血管の硬化も起 こった状態では収縮期血圧は上昇するが、一方で拡 張期血圧は下がるのである。大きな血管が硬ければ 硬いほど脈圧は大きくなるから大動脈の硬化が進め ばさらに拡張期血圧は低くなるのである。これにつ いて間違っても血圧が低いなどと言ってはならない のである。この状態こそ血圧が最も高い状態であり、

平均血圧も脈圧も高いという状態なのである。実際 の加齢では末梢血管の硬化も同時に進むので

C

で 示す図より平均血圧はやや上昇しているわけである が、やはり脈圧の増大分の方が圧倒的に大きいので 拡張期血圧は低下する。つまり年を取ると血圧が上 がるというのは収縮期血圧と拡張期血圧という言葉 を使うと拡張期血圧について間違いになるが、平均 血圧と脈圧という言葉を使うと正しく、また普遍的 な現象として説明できるのである。図

3

をご覧いた だきたい。図

2

で示した

A

の状態の正常血圧を仮 に

120/70 mmHg

と す る と、Cの 状 態 で は

160/70 mmHg

といった値となるだろう。Aも

C

も拡張期

血圧は

70 mmHg

で全く同じである。全く正常な血

管である

A

と末梢血管も中枢動脈も硬化している 血管である

C

で拡張期血圧が全く同じ値となるの

図

2 平均血圧上昇と脈圧増大のメカニズム

末梢血管抵抗の上昇により平均血圧が上昇すると収縮 期血圧、拡張期血圧とも上昇する。大きな血管の伸展 性が低下すると脈圧が増大するため拡張期血圧は下方 に押し下げられることになる。この状態は血圧が低い のではなく極めて高い状態と認識しなければならな い。

(3)

である。もうお分かりであろう、拡張期血圧が低く て喜んでいられるのは収縮期血圧が正常の場合で あって、もしも収縮期血圧が高かったらそれは脈圧 が大きいことを意味しているのだ。

《拡張期血圧を単独で使用するのは極めて危険》

今までいかに多くの研究で拡張期血圧を単独で用 いた結果、誤った解釈をしてしまったか想像に難く な い と こ ろ で あ る。120/70の 拡 張 期 血 圧

70

と

170/70

の拡張期血圧を同じ拡張期血圧

70

としてプ ロットしてみたらどうなるか。全く正常な血圧の

70、つまり平均血圧も正常で脈圧も正常な人と、平

均血圧も高く、脈圧も極めて大きい人が全く同じ拡 張期血圧

70

で並ぶことになるのだ。図

1

をもう一 度ご覧いただこう。例えば

30

歳から

50

歳までの集 団で拡張期血圧と心血管系事故、あるいは死亡率を 比較したらどうなるか、当然拡張期血圧の高い人た ち(平均血圧の上昇している人たち)でリスクが高 いとでるであろう。しかるに、50歳から

80

歳の集 団で拡張期血圧と心血管系事故と死亡率を検討した らどうなるか。今度は拡張期血圧の低い人たち(脈 圧が大きい人たち)のリスクが高いとでる。それで は

30

代から

80

までで検討したらどうなるか、集団 が満遍なく散らばっていたら有意差がでないとでる であろうし、若年群が多ければ拡張期血圧が高いほ ど悪いと出るであろうし、高齢群が多ければ下がる ほど危険とでるであろう。

もう十分お分かりいただけたと思うが、拡張期血 圧は単独で扱ってはいけないのである。

拡張期血圧を下げすぎておかしくなったなどとい う論法がまかりとおったりするが、これは脈圧の大 きい人で、脈圧を減少させられなかった人、つまり 降圧が十分にされなかった人で血圧を下げすぎた人 ではないということを肝に銘じておく必要がある。

過去のデータを否定するつもりは毛頭ないが

EBM

の前にまずは基本的な知識と解釈する能力を身につ けておく必要がある。

② 収縮期血圧は二つある

それでは次にさらに重要な問題を含んだ収縮期血 圧は

2

つあるについて述べる。これを読んでいただ ければ、何故大動脈起始部血圧が大事なのか、そし て何故上肢血圧測定において血管拡張薬の効果が過 小評価されるのかが明らかになるであろう。

先ずは図

5

をご覧いただきたい。これは欧州で行 われた大規模試験である

ASCOT

試験のサブスタ ディである

ASCOT CAFE 3)

の結果である。異なる 降圧薬が心血管事故の発症予防にどちらがより役立 つかをみた試験で、β遮断薬であるアテノロールと 利尿薬であるハイドロクロロサイアザイドの群とカ ルシウム拮抗薬であるアムロジピンとアンジオテン シン変換酵素阻害薬であるペリンドロプリルの群の 比較である。つまり利尿薬と

β

遮断薬といった心拍 出量を抑制する薬の群とカルシウム拮抗薬とアンジ オテンシン変換酵素阻害薬といった血管を拡張する 薬の群との比較である。結果としてアムロジピン群 つまり血管拡張薬群で心血管事故の発生が有意に抑

図

3 二つの拡張期血圧

左側の

70 mmHg

は平均血圧も正常で脈圧も正常な拡

張期血圧である。右側の

70 mmHg

は平均血圧も高く さらに脈圧もきわめて大きな拡張期血圧である。しか しながらどちらも同じ

70 mmHg

の拡張期血圧である。

単独の指標として拡張期血圧を扱うことがいかに危険 なものかが分かるであろう。

図

4 心血管系事故の発生と拡張期血圧との関係

拡張期血圧の値と心血管系事故の発生についてはしば しば報告されている。しかしながら拡張期血圧の値だ けを

X

軸にとって、

Y

軸に心血管事故の発生率をとっ たらどうなるか。ご覧のように血圧が全く正常で拡張

期血圧が

70 mmHg

の人と平均血圧も脈圧も高く、極

めてリスクの高い人が全く同じ拡張期血圧

70 mmHg

のところにプロットされてしまうのだ。

(4)

制された。しかしながら腕で通常計られている収縮 期血圧は両群で全く差がなかったのである。つまり 一般的には「降圧を越えた効果がアムロジピン群に はあった」と解説される試験結果なのである。しか しながらこの試験では通常の腕の上腕収縮期血圧

(青枠)と同時に中心収縮期血圧(赤枠)が測定さ れていて、中心収縮期血圧をみるとアムロジピン群 で有意に低下していたのである。つまり降圧を越え た効果ではなく、本当に血圧が下がっていたところ を見過ごしていただけのことだったのである。

何故このようなことが起こるのか?

図

6

は大動脈起始部の血流と血圧の同時記録であ る。図の下にあるのが血流速度である。血流速度波 形は徐々に速度が増しピークをつくった後で減衰し て行き丁度ロケットの先端のような形をしている。

この血流速度波形の頂点に一致する血圧波形に変曲 点(P1)がみられている。この

P1

を頂点とする圧が、

主に血液の駆出によって発生した駆出圧波である。

一方血流速度が減少しているのに血圧が再上昇して いるのは末梢からの反射圧波によって圧が再度上昇 したものであり

P2

で頂点を形成している。つまり 収縮期血圧は主として左心室からの血液駆出によっ て発生する駆出圧波から成る収縮前期圧(第

1

収縮

期血圧

: SBP1)とこの駆出圧波が末梢の血管に伝

播して行き反射して戻ってきた、主として反射圧波

から成る収縮後期圧(第

2

収縮期血圧

: SBP2)の

二つの成分が合わさって形成されているのであ る

1) 2) 4)

。この駆動圧波に対する反射圧波の比、つま り

SBP1

の 振 幅 に 対 す る

SBP2

の 振 幅 の 比 が

augmentation index

(AI)である。

図

7

は

Kelly

ら

5)

の報告である。橈骨動脈および 頚動脈とも加齢に伴い徐々に

AI

が上昇している。

大動脈起始部血圧については、当時彼らはこの部位 の血圧は測定していなかったので、Murgorら

6)

お

図

5 血管拡張薬群と利尿薬群の降圧の比較

青枠で囲まれた上腕血圧の比較では両者に差がなかっ た。しかしながら中心血圧では明らかに血管拡張薬群 で有意な収縮期血圧の低下がみられており、これが心 血管系事故の発生を抑制したものと考えられた。中心 血圧を測定する前までは、通常測定される上腕の収縮 期血圧で差がなかったので、Amlodipineに降圧を越え た効果(Beyond Blood Pressure Effect)があるとも言わ れていたが、実は収縮後期血圧は充分に下がっていた のである。

図

6 中心血圧(大動脈起始部圧)の成り立ち

下段が大動脈起始部の血流速度波形(AoF)で上段が 血圧波形(AoP)である。大動脈起始部の収縮期血圧 は血流速度の上昇に伴って上昇する駆出圧波(収縮前

期圧

: SBP1、青色で表示)と血流は既に減速してい

るのに末梢からの反射波によって再上昇する反射圧波

(収縮後期圧

: SBP2、赤色で表示)の二つの成分から

成り立っている。

図

7 動脈各部位における AI

と年齢との関係

Kelley

等

15)が Augmentation index

(AI)という言葉 を初めて報告した論文の図である。橈骨動脈、頚動脈 および大動脈起始部とも加齢に伴って

AI

が上昇して いる。大動脈起始部のグラフ作成にあたっては若年群 については

Murgo

等

9)の報告(図中□印)から、ま

た中、高齢群については著者

7)の東京医大雑誌の報

告(図中■印)を引用し、論文中の各症例の血圧値か ら

AI

を計算してプロットされたものである。

(5)

よび筆者の論文

7)

の表の中の血圧の数値をひろって

AI

を計算して図にプロットしたものである。動脈 の何れの部位でも加齢に伴う

AI

の上昇が見られる。

この主因は加齢に伴う動脈の硬化による反射圧波の 上昇である。AIと同様の発想で加速度脈波を用い て加齢による変化を検討して算出されたのが血管年 齢である。図

8

は筆者が循環器内科に所属していた ころに当時、東京医大健診センター長の伊藤健次郎 教授にお願いして

20

代から

70

代の健診受診者の加 速度脈波を測定していただき、b波、c波、d波、e 波の値を

a

波の値で除した波高比を検討したとこ ろ、何れの波高比も加齢に伴う有意な相関が得られ た

8)

。これをもとに加齢により上昇する指標として 加速度脈波加齢指数(SDPTG-

AI : second derivative of photo

-

plethysmogram aging index)を求め、指数の

値から相当する年齢を血管年齢として算出できるよ うにしたのが現在よく使用されている血管年齢の測 定器である。もちろん

AI

は器質的な動脈の硬化だ けを反映したものではない。血管拡張薬である

Nitroglycerine

投与により血管が拡張し血圧が下が

ると

AI

も著明に低下し、

angiotensin

投与により血 管を収縮させ血圧を上昇させると

AI

も上昇する

7)

。 つまり同じ血管でも血圧の低下および上昇によって

AI

も変化するのである。結局

AI

は血管の硬化によっ て上昇するが、この硬化には血管の素材そのものが 硬くなる「器質的血管壁硬化」と一時的な血圧上昇 あるいは血管収縮による「機能的血管壁緊張」も含

まれるということを知っておく必要がある。

それでは人体における反射点は一体どこに存在す るのであろうか。Murgoら

6)

は脈波速度と動脈イン ピーダンスの関係から反射点が大動脈起始部から平

均して

44 cm

位はなれた場所、つまり腹部大動脈分

岐部あたりにあることを報告した。

図

9

の右上段はこれをもとに大動脈起始部での駆 出圧波(青波形)と反射圧波(赤波形)を図示した ものである。実際に記録される圧波(黒波形)は駆 出圧波と反射圧波の合成であるが大動脈起始部つま り中心血圧では駆出圧波に反射圧波が重なって収縮 後期に収縮期最大血圧が生じている。つまり第

1

収 縮期血圧である駆出圧波が変曲点を形成した後で、

反射圧波の再上昇によって生じた第

2

収縮期血圧が 最大値を呈して収縮期最大血圧(一般的に収縮期血 圧と呼ばれるもの)になっているのである。ところ が右下段に示した上肢の動脈(上腕動脈あるいは橈 骨動脈)では全く異なった波形となっている。上肢 においては大動脈起始部からの駆出圧波が伝搬して 行くとともに腹部大動脈分岐部からの反射波も重な るのであるが、大動脈起始部と違って、既に駆出圧 波がピークとなった後で、かなり遅れて腹部大動脈 からの反射波が届くため大動脈起始部圧(中心血圧)

と違って、駆出圧波を反映した第

1

収縮期血圧が既 にピークを形成して収縮期最大血圧(カフにより測 定される収縮期血圧の相当する)となった後で下降 脚の部分に腹部大動脈からの反射波による圧波の再 上昇が起こる。この圧波の再上昇が第

2

収縮期血圧

図

8 加速度脈波の波高比から求めた血管年齢

健診センター受診の

20

代から

70

代の男女各

50

名、

合計

600

名の方々の加速度脈波を測定したところ各波 高比とも年齢と有意な相関が得られた。各波高比の加 齢による変化を総合した加速度脈波加齢指数の値に相 当する年齢を算出したのが血管推定年齢である。写真 の器機はわが国で最初の血管年齢算出器(FCP-

3166)

である。

図

9 人体における主要反射点と動脈圧波形の関係

Murgo

等6)の研究により人体の主要反射点は腹部大動

脈の分岐部あたりと推測される。大動脈起始部には収 縮中期にこの主反射波(赤色)が戻って駆出波(青色)

に重なり中心血圧が構成される。上肢では駆出波の増 幅と反射波の減弱および遅延により、図に示すような 収縮後期圧の方が低い波形となることが多い。

(6)

である。つまり上腕血圧では殆どの場合、駆出圧波 を反映した第

1

収縮期血圧の方が高く、これが収縮 期血圧として測定された後にくる第

2

収縮期血圧

(この血圧が本来、大動脈起始部では収縮期最大血 圧となっているもの)は第

1

収縮期血圧の陰に隠れ てしまって(壁の後ろになってしまって)、収縮期 最大血圧だけを測定するカフ法では測定されないの である。

図

10

は著者らが

1995

年に

Hypertension

誌に報告 したものである

9)

。ニトログリセリン投与前後の収 縮期血圧(収縮期最大血圧)の変化をみると中心血 圧では

141 mmHg

から

118 mmHg

と

23 mmHg

低下 している。しかしながら橈骨動脈(上腕動脈のカフ 血 圧 で 較 正 し た も の ) で は

139 mmHg

か ら

128 mmHg

と

11 mmH

の低下にとどまっている。一般に 言う収縮期血圧(収縮期最大血圧)を比較すると、

上肢において中心の収縮期血圧の低下を

12 mmHg

も過小評価してしまっているのである。収縮期血圧 を収縮期最大血圧であると定義した場合にはどうし てもこのような結果とならざるを得ないのである。

それでは第

1

収縮期血圧と第二収縮期血圧に分けて 考えてみるとどうなるか。第

1

収縮期血圧は中心血 圧で

117 mmHg

から

107 mmHg

へと

10 mmHg

の低 下である。それでは上肢ではいかがかというと、

139 mmHg

から

138 mmHg

へと

11 mmHg

の低下で ほぼ等しい低下である。それでは第

2

収縮期血圧は というと、中心で

141 mmHg

から

118 mmHg

へ

23

mmHg

の低下であるが、上肢では

132 mmHg

から

108 mmHg

へと

24 mmHg

の低下でこちらもほぼ等 しい低下がみられている。つまり収縮期血圧を二つ に分けて中心と末梢のそれぞれの成分の低下をみれ ば末梢の血圧変化からでも中心血圧の第

2

収縮期血 圧の低下はおおよそ推定できるのである。

それでは何故中心血圧の収縮期血圧つまり第

2

収 縮期血圧が大切なのかを次に示す。図

11

の中央に 示すように

AI

が低い場合には左室の収縮前期のス トレスは上昇するが後半は減少している。しかしな がら反射波が多く

AI

の高い状態では左室のストレ スは収縮期全般を通じて上昇している。血液を駆出 するために収縮して、もう休もうとしているのに、

戻ってきた反射波によって過剰なストレスを強いら れているのである

10)

。実はこの収縮後期の血圧上昇、

つまり第

2

収縮期血圧の上昇、これこそが左室肥大 の原因なのである。しかしながら、これを果たして 通常の血圧測定で認識できるのか。二人の頭が各収 縮期性分のピークと考えて見ていただきたい。左側 は筆者が駆出圧(収縮前期圧)で

Fries

先生が反射 圧(収縮後期圧)の場合である。右側は逆に

Freis

先生が駆出圧で筆者が反射圧の時である。左側は駆 出圧が高く反射圧の低い状態で駆出は十分で反発も 少ない状態であり中央に示すストレスカーブも良好 で心臓の負担が少ない状態である。一方右側の状態 のように著者が反射圧波になると心臓へのストレス が増し大きな負荷がかかった状態である

11)

。しかし

図

10 この二つの血圧に差がありますか?

二人の頭が各収縮期性分のピークと考えて見ていた くと、左側は著者が駆出圧で

Fries

先生が反射圧の場 合である。右側は逆に

Freis

先生が駆出圧で著者が反 射圧の時である。左側は、心臓はストレスもなく楽 に駆出できる状態、一方右側は収縮後期にストレス を受け、大きな負荷がかかった状態。収縮期の頂点 だけ測っていてはこれらが区別できない。

図

11 血管拡張薬使用前後の中心血圧と上腕血圧の各収縮

期成分の変化

頂点の収縮期血圧だけでなく、中心血圧(大動脈起 始部圧)も上腕血圧も駆出圧波を主体とした青い線 の第

1

収縮期血圧(SBP1)と反射圧波を主体とした 赤い線の第

2

収縮期血圧(SBP2)のそれぞれの成分 について比較すると血管拡張薬によってもたらされ た

SBP2

の低下がきちんと評価できる。

(7)

ながら一般に測定される収縮期血圧(収縮期最大血 圧)だけで考えると右も左も著者の頭となり全くか わらない同じ収縮期血圧の値になってしまう。心臓 への負荷を考える時に二つの収縮期血圧の測定が必 須であることが分かるであろう。

図

12

は現在一般に使用されている

HEM9000AI

を使って血管拡張薬の効果を検討したものである。

この器機は筆者の論文

9) 12)

をもとに製作されたもの である。ARB (angiotensin receptor blocker)投与後 に通常測定される上腕のカフ収縮期血圧は

154 mmHg

から150 mmHgへと4 mmHgの低下であった。

これは

SBP1

の変化である。しかしながら橈骨動脈 のトノメトリーを用いて測定された

SBP2

の変化を みると

140 mmHg

から

125 mmHg

と

15 mmHg

も低 下している。こちらは

SBP2

の変化である。つまり 血管拡張によって生じた反射圧波の減少による収縮 後期圧の低下つまり

SBP2

の低下(これは中心収縮 期血圧の低下でもあるが)は、橈骨動脈の圧波を記 録していれば判定できるということである。

③ 上腕の血圧は二つある

最後に上腕の血圧は二つあるという問題について 述べる。実は先に述べた中心血圧測定の二つの機器 を使って比較したところ、血管拡張薬の使用前後の 血圧の低下については全く等しい結果を得た。とこ ろが中心血圧の推定値には大きな差がみられてい た。ShygmoCorに比べて

HEM9000AI

による推定値

が

10 mmHg

以上も低いのである

13)

。両者を比較し た論文でも全く同じ結果が報告された

14)

。

この原因について調べてみると、両者の器機の推 定値算出の基礎データと実際に使用されている環境 の違いによることが明らかになった。SphygmoCor は上腕の橈骨動脈圧も大動脈起始部圧(中心血圧)

も高精度圧測定カテーテルを用いて直接血管内圧を 測定して得られた値と圧波形を用いて作成した伝達 関数(Generalized transfer function : GTF)を使って 橈骨動脈の圧波から中心血圧の波形と数値を算出す るものであり、上腕の実圧の測定値と中心血圧の実 圧の測定値の間で成り立つ関係をもとにしたもので ある

15) 16)

。そして実際の測定においては橈骨動脈の 圧波形をトノメーターで記録し、それを上腕動脈の カフ測定による血圧の値で較正して中心血圧の波形 と値を算出している。一方、

HEM9000AI

の方は橈 骨動脈のトノメーターを使用して圧波形を出すが、

上腕動脈のカフ血圧で較正した数値を用いて、中心 血圧の実圧の測定値と比較したものであり。実際の 測定においても同様にトノメーターの値をカフ血圧 で較正した値を用いて中心血圧の値を算出してい る

12) 17)

。

従って

HEM9000AI

は推定式を用いた時も実際の

臨床で使用する時も同一の環境で中心血圧の推定が 行われており、中心血圧の実圧値が算出されること になる。ShygmoCorの場合には推定式を作成した 時は上腕の血圧は実圧であったが、実際の臨床使用

図

12 HEM9000AI

を用いた血管拡張薬使用前後の中心血圧

と上腕血圧の各収縮期成分の変化

図の青線が

SBP1

赤線が

SBP2

である。血管拡張薬使 用 後、 通 常 の 上 腕 収 縮 期 血 圧 は

154 mmHg

か ら

150 mmHg

とわずか

4 mmHg

の低下である、しかし ながら中心血圧の収縮期最大血圧に相当する

SBP2

の値を見ると

140 mmHg

から

125 mmHg

と

15 mmHg

も低下しており、血管拡張薬の反射波軽減による降 圧効果が判定できる。

図

13 HEM9000AI

と

ShygmoCor

の中心収縮期血圧の値の 違い血管拡張による降圧が見られた試験において、投与 後の収縮期血圧の低下は

11 mmHg

と一致していた。

しかしながら中心血圧の値は前(139 mmHgに対し て

156 mmHg) と 後(128 mmHg

と

145 mmHg) と

HEM900AI

に比べて

ShygmoCor

の方が

10 mmHg

以 上も低かった。

(8)

に際してはカフ血圧の値で較正している。従って上 腕のカフ血圧と実圧が等しければ中心血圧の実圧が 推定されるが、もしもカフ圧と実圧との間に差があ れば中心血圧の推定値も実圧を異なってしまう可能 性がある。

そこでガイドワイヤー型の高精度圧センサーを用 いて上腕動脈の実圧と通常のカフ測定の値を

34

例 で比べてみたのが図

14

である。収縮期血圧は実圧

に比べて

11 mmHg

も低値であった。拡張期血圧は

逆に

4 mmHg

高値を示しており、結果として脈圧を

大きく過小評価していることが分かった

18)

。 それでは、これはカフによる測定に起因している のか、それともここで用いたオシロメトリック法に よる自動計測に問題があるのか、それを検討したの が図

15

である。2名の医師の聴診法による血圧測 定値とオシロメトリック法による自動計測の値を比 較したものである。非常によく一致していることが 分かった。そもそもオシロメトリック法は検定の段 階で聴診法の値と一致することが求められており、

今回の検討でもそれが示された

19)

。

この結果は上腕動脈のカフによる血圧測定が実際 の血管内圧を過小評価していることを示してい る

20)

。コロトコフ音の発生については種々の検討が 行われてきたが、未だはっきりした解明はなされて いない。しかしながら具体的解析ならびに我々の結 果をみても実圧と異なり、収縮期血圧を過小評価し 拡張期血圧を過大評価していることは明らかであ る。

今後、精度の高い非侵襲的血圧測定法が登場すれ ば①から③の問題は全て解決することになるが、

今のところは、現状における血圧測定には、これ等 の問題点があることをきちんと認識し、脈波記録を 併用して正しく対応して行く必要がある。

本日のまとめ

① 拡張期血圧は二つある

120/70

と

170/70

の拡張期血圧は同じ

70

という拡 張期血圧であるが、前者は全く正常な血圧であり、

後者はリスクの高い異常な高血圧である。拡張期血 圧を単独で用いることの危険性を知っておく必要が ある。

② 収縮期血圧は二つある

収縮期血圧は血液を送り出す駆出圧(収縮前期圧)

と末梢の血管からの反射によって再上昇する反射圧

(収縮後期圧)の二つから成り立っている。後者を 下げることが心血管系の事故の発症抑制につなが る。血管拡張薬の効果を判定するには収縮後期血圧 の変化を見ることが必須である。

③ 上腕血圧は二つある

カフによる上腕血圧の測定は聴診法およびオシロ メトリック法とも実際の血管内圧の値と大きく異 なっている。収縮期血圧を過小評価し、拡張期血圧 を過大評価する結果、著しい脈圧の過小評価をきた している。

図

14 上腕動脈の動脈内実圧と通常の上腕カフ測定による

血圧値の比較

カフによる血圧測定の収縮期血圧は実圧に比べて

11±6 mmHg

低かった。カフによる血圧測定は実際の

血管内圧の収縮期血圧をかなり過小評価しているこ とが分かる。

図

15 オシロメトリック法による自動測定と通常の聴診法

による血圧測定値の比較。

2

名の医師による聴診法の測定の平均値をオシロメ トリック法による自動測定の値を比較した。両者は 一致していた。つまり、上腕のカフによる血圧測定 は聴診法とオシロメトリック法で一致している。こ れは、カフを用いた血圧測定では全ての器機で実際 の血管内収縮期血圧を過小評価していることを示し ている。

(9)

稿を終えるにあたり、学生時代からはじまり、医 者になってから、今日最終講義の機会を与えていた だくまでの間に大変多くの方々にお世話になったこ とに対し、心から感謝申し上げます。ありがとうご ざいました。

文   献

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図

図 7 は Kelly ら 5) の報告である。橈骨動脈および 頚動脈とも加齢に伴い徐々に AI が上昇している。 大動脈起始部血圧については、当時彼らはこの部位 の血圧は測定していなかったので、Murgor ら 6) お図5 血管拡張薬群と利尿薬群の降圧の比較青枠で囲まれた上腕血圧の比較では両者に差がなかった。しかしながら中心血圧では明らかに血管拡張薬群で有意な収縮期血圧の低下がみられており、これが心血管系事故の発生を抑制したものと考えられた。中心血圧を測定する前までは、通常測定される上腕の収縮期血圧で差

参照

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