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乳由来血圧降下素材の開発 - J-Stage

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テクノロジーイノベーション

はじめに

メタボリックシンドロームは,高血圧症,高血糖症,

血清脂質異常などを含めて,将来的に,脳疾患や心臓疾 患に至るリスクが高い状態であり,脳心疾患は,日本で はがんに匹敵する主な死因となっている.そのなかで,

高血圧症は,収縮期血圧が140 mmHg以上,あるいは 最低血圧90 mmHg以上である状態が該当するが,20歳 以上の高血圧患者の数は,1,000万人近くいると推定さ れている.さらに,高血圧状態になる前の正常高値者

(収縮期血圧:130〜139 mmHgまたは拡張期血圧:85〜

89 mmHg)を含めると,その倍程度の2,000万人程度が 高血圧ケアの対象者と考えられている.

高血圧はその多くが遺伝的要因で起こるとされている が,塩分の取りすぎ,運動不足,肥満,喫煙,ストレス など生活習慣に関連することでリスクを高める.高血圧 は降圧剤を処方することで適切に管理することができる が,高血圧症の前段階の状態にある正常高血圧者は,降 圧剤での治療ができないことから,加齢に伴う高血圧へ の移行が課題となっている.

1991年には,わが国では世界に先駆けて機能性食品 に関する制度が,特定保健用食品制度として制定された ことがきっかけとなり,血圧を低下させる食品成分を用 いた有用性の確認試験が1990年代を中心に多く行われ るようになった.「カルピス」の製造に利用するカルピ

ススターターによる発酵乳(カルピス酸乳)の機能性研 究においても,その発酵乳には血圧降下作用があること が確認されていたことから,発酵乳を用いた血圧降下作 用の本格的な開発に着手した.

開発内容

1. 乳酸菌発酵乳の血圧降下作用

「カルピス」の製造に用いられるカルピススターター により得られる発酵乳,「カルピス酸乳」の生理機能研 究を通して,さまざまな保健効果が実証され,血圧降下 作用に関しても,その有用性が確認された.乳酸菌固有 の特徴把握のために,さまざまな乳酸菌による発酵乳 を,自然発症高血圧ラットに経口投与して,4時間後の 各種発酵乳の血圧降下作用を評価した結果,山本ら(1) は,ほとんどの乳酸菌では血圧降下作用が見られないの

に対して, (ラクトバチルス・

ヘルベティカス)発酵乳に特異的な血圧降下作用を確認 した(表

1

.この, 発酵乳に特徴的な血圧 降下作用を理解するために,乳酸菌が乳内で増殖する際 に,乳タンパク質を窒素源として利用するために重要な 菌体表層タンパク質分解酵素活性を評価したところ,

には最も強い活性があること,また,その結 果として発酵乳中に最も多くのペプチドが産生されるこ とを確認した(1)(表1).

乳由来血圧降下素材の開発

山本直之

カルピス株式会社研究戦略部

(2)

さらに, 発酵乳内の血圧降下物質を理解 するために,血圧降下作用の一つの要因と考えられるア ンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害する活性を評 価した結果, 発酵乳には,強いACE阻害 作用があることを確認した(表1).中村ら(2)は,ACE 阻害作用を指標として, 発酵乳内の各種成 分を高速液体クロマトグラフィーで分離,純化を繰り返 すことで,有効成分として,2種のペプチド成分,Val- Pro-Pro(VPP)とIle-Pro-Pro(IPP)の単離・特定に成 功した.また,中村ら(3)の2種のトリペプチドと

発酵乳のACE阻害活性や血圧降下作用を比較し た結果から,2種のペプチドは 発酵乳内の 主要な血圧降下物質であると推測された.

2.VPPIPPの加工に関与する酵素群

両ペプチドは

β

-と

κ

-カゼイン配列中に存在し,乳酸菌 のタンパク質分解系の働きにより分解,加工され発酵乳 中に産生されるものと考えられている(2).VPPとIPPの 加工に関与するタンパク質分解系酵素群をより詳細に理 解し,さらなる高い生産性を得るために,両ペプチド生 産性が最も高いCM4株のゲノム配列解析を行った結果,

若井ら(4)は,CM4株には26種のタンパク質分解系遺伝 子が存在し(表

2

,VPPとIPPの生産に関与すると推 測される特徴的酵素が複数存在することを示した.LC-

MS/MSによる発酵乳中に含まれるペプチドの網羅的解 析や,精製酵素の基質特異性やカゼインの切断点解析に より,血圧降下ペプチドVPPとIPPの加工プロセスを 推定した.まず,両ペプチドの配列を含む

β

-カゼイン を,菌体外プロティナーゼが分解し,28ないし29アミ ノ酸からなる比較的長いペプチド(前駆ペプチド)を発 酵乳中に遊離させる(5).この前駆ペプチドは,オリゴペ プチドトランスポーターの働きにより菌体内に取り込ま れ,菌体内のペプチダーゼにより,順次アミノ末端ある いはペプチド内部配列の切断・加工が行われる.乳酸菌 には,カルボキシペプチダーゼが存在しないため,菌体 内に取り込まれたペプチドのカルボキシ末端の加工に は,pepO, pepO2などのエンド型ぺプチダーゼが作用す ると考えられる(6).一方,アミノ末端の加工は,pepC2 などのアミノペプチダーゼによりアミノ末端のアミノ酸 が順次除去されるが,Proを含む配列が存在した場合に は,その分解反応はProの手前で低下するため,その分 解にはX-Proを含む2アミノ酸の除去に働くX-プロリ ル・ジ ペ プ チ ジ ル・ア ミ ノ ペ プ チ ダ ー ゼ(XPDAP: 

pepX)の関与が必要となる.以上のように,26種の各 種タンパク質分解酵素群の一般的な酵素反応の特徴から の必須酵素群の推測と,精製酵素群のペプチドへの反応 性解析から,少なくともpepO, pepO2, pepXとpepC2 の関与が必要と考えられた.

表1各種乳酸菌発酵乳の自然発症高血圧ラットに対する血圧降下活性,ACEI活性とペプチド量,さらにその乳酸菌菌体表層のプ ロティナーゼ活性の比較

菌株 ペプチド濃度 プロティナーゼ活性 ACEI活性 4時間後の血圧変化値

(%) (U/mL) (U/mL) (Δ mmHg)

Control (milk) 0.00 ̶ 05.0±7.3

(Lactobacilli)

 CP790 0.19 230 5827.4±13.3**

 CP611 0.25 367 70 −20.0±9.6**

 CP615 0.18 420 5123.0±13.4**

 JCM1006 0.15 182 26 −15.2±9.3*

 JCM1120 0.10 112 346.5±10.8

 JCM1004 0.21 186 4829.3±13.6**

 Subsp.   CP973 0.19 105 22 −0.8±8.2

 Subsp.   JCM1002 0.11 124 28 −4.5±4.0

 CP680 0.01 35 3 −0.2±6.6

 JCM1134 0.00 28 97.0±11.2

 JCM1136 0.09 25 18 −9.6±7.2

 JCM1132 0.00 28 8 −8.7±7.8

 Subsp.   JCM1105 0.08 18 16 −3.3±3.5

(Streptococci)

 CP1007 0.02 25 3 −2.4±8.1

(Lactococci)

 Subsp.   CP684 0.00 35 47.3±10.5

 Subsp.   CP312 0.02 18 45.8±13.9

コントロールとの比較における有意差,** <0.01, * <0.05.

(3)

3. 発酵乳を用いた製品開発

乳酸菌 発酵乳の血圧降下作用や有効成 分,さらにその作用メカニズムに関する推測を行い,次 にヒトに対する血圧降下作用の確認を試みた.まず,最 初に,高血圧症に該当する投薬治療者に対する効果確認 試験で,30名と少ない人数ながら,2群に分けて,

発酵乳95 mLを含む発酵飲料または,そのプ ラセボ飲料95 mLを8週間にわたり,毎日継続的に摂取 させた結果, 発酵乳群では,4週目以降に おいて,投与前に比べて有意な血圧降下作用が確認され た(7)(図

1

その後,VPPとIPPを関与成分として含む

発酵乳のヒト試験における有効性実証を経て,特定 保健用食品としての表示許可を取得し,1997年に「カ ルピス酸乳アミールS」を発売するに至った.当時,

「カルピス酸乳アミールS」は乳酸菌発酵乳を利用して いる点で,健康イメージへの受容性が高いことや,他社 に先駆けて市場投入したこともあり,差別化された製品 コンセプトが認知され大きな話題となった.さらに,少 しでも発酵乳内の,VPPとIPP生産性を高めて,最終

製品への加工適性を高めたり,少容量化を図る目的で,

タンパク分解能が強い 株の単離を試み,乳 タンパク質の分解能に優れた,CM4株の分離に至った.

CM4株は,従来のVPPとIPPの生産性が高い株に比べ ても,2倍程度に両ペプチドの生産性が高い株であるこ とが確認され,発酵乳の摂取量を半分程度にしても,同 程度の血圧降下作用が期待できることとなった.これら の技術改良を進めることによって,「アミールS」ブラ ンド製品群の育成,拡大を行うことができた.その後,

発酵乳の配合量を変えたり,製造条件を変えたりするた びに,ヒトに対する症例試験を実施し,いずれの試験に おいても,有意な血圧降下作用を検出し,動物やヒトに 対する過剰摂取試験などの安全性の確認成績を加えて,

特定保健用食品としての許可を得て,製品発売に結びつ けた.最近では,15以上の症例成績において有意な血 圧降下作用が示され,そのなかで同じ条件における試験 成績を用いたメタ解析(8)についても報告が行われ,いず れも有意な血圧降下作用が検出されている.

表2 CM4株に確認されたタンパク質分解系遺伝子

局在 酵素の種類 遺伝子 分子量(kDa)

CM4

菌体外 プロティナーゼ 47.0

181.6 33.7

菌体内 アミノペプチダーゼ 51.4

53.0 95.8 57.2 40.1

X-プロリル・ジペプチジル・アミノペプチダーゼ 90.5

エンドペプチダーゼ 50.0

30.3 68.1 73.6 73.8 73.1

トリペプチダーゼ 47.1

48.4

ジペプチダーゼ 54.9

54.0 53.5 51.5 53.5

プロリダーゼ ( ) 41.2

( ) 41.4

プロリナーゼ 35.0

プロリンイミノペプチダーゼ 33.9

(4)

4. 遺伝子発現調節機構

の発酵乳中には発酵に伴いペプチドが蓄 積し,血圧降下ペプチドVPPとIPPも増加するが,や がて発酵により蓄積されたアミノ酸やペプチドにより,

タンパク質分解系遺伝子の多くが発現抑制を受け,VPP やIPPの生産が飽和することが明らかになった.そこ で,これらの遺伝子群の発現制御に関係する因子とその メカニズムの解析を試みた.そのためにまず,タンパク 質分解酵素遺伝子の上流域に制御領域が存在し,その領 域に何らかの因子がアミノ酸存在下で結合することで,

転写活性を抑制しているのではないか? との仮説を立 てた.まず,そのDNA結合性因子をタンパク質分解酵素 遺伝子の上流域DNA断片を結合させたアフィニティー 樹脂により精製を行い,その因子の特定に成功した.そ の因子はカルボキシ末端領域にDNA結合性が推測され るCBS(Cystathionine 

β

-synthase) ド メ イ ン を 有 し,

アミノ末端領域にはBCAAが結合すると考えられる 領 域 を 有 す る26 kDaタ ン パ ク 質(BCARR: Branched  Chain Amino acids Responsive Regulator)が特定され た.DNA結合配列の解析から,BCARRはBCAA存在 下で,5′-AAA AAT ACTWTTA TT-3′に結合すること

が明らかとなり,分岐鎖アミノ酸存在下でタンパク質分 解酵素遺伝子群の上流域への親和性を高めて結合し,よ り転写活性を抑制するものと推察された(9)(図

2

.今 後,発酵乳中により多くのVPPとIPPを生産させるた めには,これら制御システムに関連する分子をターゲッ トにしたさらなるペプチド高生産株の育種・改良が期待 される.

5. 代替技術(酵素法)の開発

乳タンパク質への高い分解活性を有する   CM4株を利用することで,血圧降下ペプチドの生産性 を高めることが可能となったが,その発酵乳中にはいま だ多くの乳タンパク質が分解されずに残存する.乳酸菌 発酵乳を利用する限りは,発酵時に生産される特徴的風 味や,飲料形態での製品開発が必要であることなど,最 終製品への食品形態への加工が制限される.また,海外 への事業展開を考える場合は,現地での発酵乳の生産が 必要となることなども課題の一つとなる.そこで,血圧 降下ペプチドVPPとIPPの効率的な生産方法を検討し た.化学合成法,乳酸菌の酵素遺伝子のクローニングに よる酵素分解法など,さまざまな方法を検討した結果,

化学合成法での生産は比較的安価であるが,化学合成に 伴う,わずかながら混在する新規成分への安全性の実証 など,課題が大きいことが推定された.また,VPPと IPPの加工に必要な数種類の乳酸菌酵素の混合利用は,

技術的には可能であっても経済的には満足の得られるも 図2 のタンパク質分解系遺伝子の アミノ酸による発現制御システムと血圧降下ペプチド生産への 影響の推測(8)

菌体内に取り込まれたペプチドがアミノ酸にまで分解され,分岐 鎖アミノ酸(BCAA)が転写調節因子BCARR(Barnched Chain  Amino acids Responsive Regulator)のACTドメインに結合する と,その複合体がCBSドメインを介してタンパク質分解酵素遺伝 子上流域のプロモーター領域に結合し,タンパク質分解酵素遺伝 子群の転写活性を抑制する.

図1高血圧患者に対する 発酵乳の 血圧降下作用(7)

発酵乳投与群(■: 17名)とプラセボ投与群(□: 13 名)の経時的収縮期血圧と拡張期血圧の変化,矢印はサンプル投 与期間,投与前血圧に対する有意差( -test):* <0.05, ** <0.01,  群間における各時期での血圧の差:# <0.05.

(5)

のではなかった.そこで,低分子のペプチド生産能に優 れ,かつACE阻害活性の強い乳タンパク質分解物を調 製することができる食品用酵素群のなかから最適な酵素 群を選抜することで,課題をクリアすることができた.

その結果,水野ら(10)は, 由来酵素群 のなかから,最適な酵素を選択することで,VPPとIPP の生産効率を飛躍的に高めることに成功した.しかし,

乳タンパク質であるカゼインを基質にして酵素反応を進 めた場合,時間とともに,VPPとIPPの生産性が高ま るが,やがて,両ペプチドの量は減少に転じることがわ かり,このことは,この酵素には,両ペプチドの生産に 有用な酵素とともに,両ペプチドを分解する酵素も混在 することが示唆された.その後,両ペプチドを分解する 酵素を除くことで,両ペプチドの生産性を理論収率にほ ぼ近いレベルにまで,高めることができた(図

3

6. 酵素法素材の開発

酵素法によるVPPとIPPの効率的生産技術を確立し,

関連技術の特許出願の後,スケールアップを行い,安定 的生産技術を確立した.特に,乳原料の安価入手や大規 模の酵素処理,酵素処理液の濃縮,大量粉末化処理など の工程を効率よく連続的に実施するため海外での大量生 産を検討した.工業的レベルでのスケールアップによ り,数十トンレベルでのカゼイン分解物からの安価生産 が可能となり,さまざまな商品への利用の可能性を高め た.たとえば,本原料を活用することで国内においては 発酵乳を用いない果汁ベースの飲料にペプチドを添加し た特定保健用食品の許可を取得し,「アミールS毎朝野 菜」として発売した.また,飲料以外の製品形態の開発 が可能となった.酵素法による粉末素材については,

BtoB事業において大手国内外食品メーカーへの原料販

売が可能となり,欧米各国やアジア諸国における原料販 売事業への展開にまで至っている.また,これらの関連 技術開発により蓄積された機能性成分の物質特許,用途 特許,製造特許など国内外に出願することで,原料供給 および特許ライセンスでの事業基盤構築に結びつけた.

7. 作用メカ二ズムの解析

VPPとIPPは,血圧上昇にかかわるアンジオテンシ ン変換酵素(ACE)を阻害する活性を有するトリペプ チドとして, 発酵乳から精製,同定が行わ れた(2).そのACE阻害活性はIC50値(酵素活性を50%

阻害するペプチド濃度)としてそれぞれ9 

μ

Mと5 

μ

Mで あり,報告されているペプチドのなかでACE阻害活性 は高いものであった(2).したがって,VPPとIPPは生体 内において,ACE阻害作用を示すことで,血圧を下げ るものと推測されていた.しかしながら,ACE阻害ペ プチドとして開発された血圧降下ペプチドにおいて,生 体内での作用メカニズムを明解に説明しているものはほ とんどないのが現状であった.

一方,VPPとIPPを含む酵素法素材(カゼインの酵 素分解物)が開発されて,素材としてのBtoBビジネス を展開する際には,ユーザーからのさまざまなメカニズ ムに関する質問が多発する.特に,海外の専門医から は,医薬品であるACE剤との作用の違いに関する質問 が多く,返答に窮することがあった.たとえば,ACE 阻害作用であれば短時間で血圧降下作用があるはずであ るが,どうしてACE阻害ペプチドは,単回投与で効果 がでないのか? 同時に,継続的摂取でのみ効果が得ら れることの理由は何か? そもそも,体内動態からの説 明性はどうなっているのか? 生体内のACE阻害作用 を説明できる根拠は何か? など,国内では,特定保健 用食品であってもあまり受けないようなより専門的な質 問を受けることになった.

そこで,これらのユーザーや専門家に対しての説明を するために,まずは体内動態の解析から検討を行った.

しかし,経口摂取されたペプチドは通常アミノ酸の供給 源として考えられているためか,その定量的分析が困難 であるためか,特定のペプチドの体内動態を評価してい る報告例はほとんどなかった.そこで,ラジオアイソ トープ標識したVPPとIPPを用いての動態解析を行っ たが,未分解ペプチドと分解物の識別が容易ではなく,

ペプチド動態解析にRI標識ペプチドの利用は不向きであ ることがわかった.また,高感度LC-MS/MSでの定量 分析を検討したが,当初,低濃度であったため,血中や 組織中に投与ペプチドを検出することができなかった.

図3麹菌酵素によるカゼイン分解物中のVPPIPP濃度の経 時変化

麹菌からのタンパク質分解酵素によりカゼイン分解をした場合の,

VPPとIPPの経時的生産量(対理論収率),●:改良前の麹菌酵素 での反応,○:VPPとIPPの分解酵素活性を除いた改良酵素での 反応.

(6)

一方,組織のホモゲナイズ液にVPPやIPPを添加し た場合に,短時間でペプチドが分解されることから,組 織内のペプチドを抽出する際に,即座にプロテアーゼの 分解を受けペプチドの検出ができなくなっているのでは ないか? との仮説を立て,川口ら(10)は,タンパク質 変性剤を用いて抽出条件を探索したことで,組織からの ペプチドの回収,定量に成功した.その結果,肺および 動脈にその酵素活性阻害に十分な濃度のVPP, IPPが蓄 積されることを示した(図

4

.さらに,蛍光標識した 両ペプチドを用いた組織染色により,VPPとIPPが動 脈中の血圧調節に重要な役割を果たす血管内皮細胞内 に,より高い濃度で濃縮されていることが明らかになっ た(11)(図

5

.さらにまた,動脈内の遺伝子変動の解析 から医薬品ACE阻害剤に報告されているように,VPP とIPPの経口投与により,ACE阻害作用が動脈細胞内 で起こっていること示す結果を得た(12).これらのこと

から,VPPとIPPは,経口投与により少量ながらも消 化管から吸収されて血中に移行し血管内皮細胞に蓄積す ることから,継続的な摂取によりその濃度が高まり,組 織のACE阻害作用を示すことで,マイルドな血圧降下 作用を示すことが推測された.このことは,医薬品との 大きな違いであり,VPPとIPPが食品ならではの穏や かな血圧降下作用を示している可能性があることが示さ れた.

また,組織抽出液にさまざまなペプチドを添加した場 合,VPPやIPPのように,Pro-Pro配列をもたないペプ チドでは,極めて短時間に分解が進むことが示され,

XPP配列のペプチドのペプチダーゼ分解抵抗性の重要 性が示された.

今後の課題と可能性

本検討で,血圧降下ペプチドに関する作用メカニズム 解析から,生体内で生理的効果を示すことの可能性の一 端を明らかにすることができた.特に,Pro配列が連続 するペプチドは,生体内での分解抵抗性が高く,VPP やIPP以外にもさまざまな生理効果が期待できる可能性 がある.

一方,いったん蓄積したペプチドのその後の消長や,

ほかの食事成分の影響解析などは今後の課題である.ま た,VPPとIPPの血管内皮細胞への取り込みに関連す る因子や,細胞における存在様式やその後の機能発現に 至るプロセス解析なども今後の課題である.

このように,未解明な点もいまだ多くあるものの,こ れらの開発を通して,機能性成分の乳酸菌発酵乳からの 発見から,生産性向上への乳酸菌代謝解析,食品由来酵 素での製法開発,それらの素材を用いての臨床例蓄積,

図5自然発症高血圧ラットの動脈血管へ のCy3標識VPPIPPの取り込み(10) それぞれCy3標識したVPPとIPPを自然発 症高血圧ラットから摘出した腹部大動脈への 取り込みを行い,切片化して顕微鏡下で観察

(AとD),同じ切片を血管内皮細胞をvWF 染色したもの(BとE),また,Cy3由来の蛍 光を蛍光顕微鏡下で検出した結果(CとF)一方,D, E, Fは100倍濃度の非標識ペプチド を共存させて取り込みを行ったもの(点線内 結果)

図4VPPIPPを経口投与したラットの各種組織中の両ペプ チドの濃度(10)

VPPとIPPを自然発症高血圧ラットに各100 mg/kg投与し,1時 間後の各組織中のVPP濃度(□)とIPP濃度(■)を測定して,

示した.各組織中の定量値と血清中の定量値をWilcoxon解析によ り比較し,* <0.05, # <0.01として示した.図中の矢印は,IC50

値に相当する濃度を示す.

(7)

専門家への納得性の高いメカニズム説明へと,一連の基 盤技術を強化・拡大することができた.

一方,多くの症例研究により実証されたVPPとIPP の血圧降下作用に加えて,同ペプチドの血管内皮機能改 善効果(13),血管柔軟性の改善効果(14)など,血管機能の 改善に対するさまざまな有用性が最近実証されつつあ り,将来的な動脈硬化や循環器障害などの予防に向けて の食品成分としての期待がもてる.

文献

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プロフィル

山本 直之(Naoyuki YAMAMOTO)

<略歴>1984年東京工業大学大学院修士 課程修了/1986年カルピス株式会社入社,

研究所にて主に乳酸菌・発酵乳の開発を担 当/2002年東京工業大学理学博士取得/

2011年カルピス株式会社発酵応用研究所 所 長/2012年 同 社 研 究 戦 略 部 長,理 事

<研究テーマと抱負>乳酸菌や微生物を活 かした,独自の技術や製品を開発すること

<趣味>読書,スポーツ(最近はジョギン グ),絵,料理など

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.53.619

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