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死別への意味づけとその関連要因について

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平成

19

年度 学 位 論 文

死別への意味づけとその関連要因について

弘前大学大学院教育学研究科 学校教育専攻 臨床心理学分野 06GP112 山口 洋平

(2)

目 次

第 1 章 問題と目的

1.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 2.死別に関する一連の研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 3.問題と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 第 2 章 死別経験に影響を与えている要因の検討―質問紙調査を用いて―

1.目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 2.方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 3.結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 4.考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 第 3 章 死別経験の意味づけについての語りの分析―質問紙の結果を手がかりとした探索

的面接―

1.目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30 2.方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31 3.結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32 第 4 章 死別経験の意味づけについての語りの分析―個別事例の解釈―

1.目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 2.方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44 3.結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 第 5 章 死別経験への意味づけについての語りの分析―グラウンデット・セオリー・アプ

ローチを用いて―

1.目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・117 2.方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・118 3.結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・120 4.考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・125 第 6 章 全体的考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 133 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 137

この論文には,その公開範囲に関して研究協力者の承諾をえて行った事例研究が含まれ ており,承諾された範囲外に対しては守秘義務が生じますので,広く公開される「弘前大 学学術情報リポジトリ」への登載に当たって,事例の個人情報,およびそれに基づく分析 の部分(第4章)を削除してあります。そのため,「目次」に示したページとWeb上のペ ージは一致しません。削除された部分の閲覧を希望される場合は,下記にご連絡下さい。

〈連絡先〉

036-8560 弘前市文京町 1

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第1章 問題と目的

1.はじめに

生きていく上で,人は死を避けることはできない。自己の死を迎えるまで,人は数多く の人との死別を経験することになるであろう。山本(1988)は,自己の死を認識するには 死を学習すること,つまり他者の死を通しての学習であり,初歩の学習は例えば,小児が 昆虫,動物,ペットの死を身近に観察することであると述べている。また山本は,初歩の 学習では死の本質を理解したとはいえず,自分との関わりの深い他者の死(例えば祖父母 の死)を体験することで死の意味をより理解し始め,その後親しい人が生から死に向かう 過程を観察し,繰り返し親しい人の死を体験し,死に対する悲嘆経験を積み重ねることで 死の理解の程度は高まっていくとも述べている。

人は多くの死を経験して死への理解を深めていくことになると考えられるが,同じ人物 の死であっても,その死の持つ意味は人によって大きく異なるであろう。故人と親しかっ た人にとっては,その死別経験は衝撃的なものであり,自分の一部を失ったかのように感 じることがあるかもしれない。ニーメヤー(2006)は,トーマス・アティグの表現を用いて,

グリーフとは喪失によって崩壊した世界を学び直すプロセス,さらには自己について学び 直すプロセスであると述べている。死別経験は危機的な状況であるが,それを機に様々な ことを学習し,獲得する場ともなり得ると考えられる。ただその危機的な状況を乗り越え るのは困難である。故人が生きていた世界と故人が亡くなった世界は全く異なり,死別を 経験する前後ではその人自身のアイデンティティにも変化が生じるであろうと推測される。

その変化,差異を埋めるためには,そこに意味づけを行う必要があると考えられる。意味 づけに影響を与える要因は様々で,死生観,宗教観,家族機能,故人の年齢,死因,生前 の関係などが予想される。

本研究においては,それぞれの要因がどのように関わりあっていているのか,またその 関わりを基に死別経験がいかに意味づけられていくのか検討することを目的とする。その 際,量的・質的研究の両方の手法を相補的に用いることで,死別経験への意味づけに対し てアプローチしていく。

2.死別に関する一連の研究

①死生観の測定に関する研究

死への不安や死に対する態度を数量的に測定するために多くの尺度が作成されている。

代表的なのが

Templer(1970)の Death Anxiety Scale

であろう。この尺度は,死につい ての不安を測定するために開発されたもので,現在でも多く活用されている。小川(1996) は,Death Anxiety Scaleを用いて,家族構成・宗教の有無・対人関係・個人のライフスタ

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イルといった様々な側面から死への不安にアプローチし,どのような違いが死への不安に 個人差を生じさせているのか調査を行った。その結果,死への不安において男女間で有意 差は見られず,また大病・大怪我の有無,近親者や知人の死の有無についても同様に有意 差は見られなかった。また金児(1994)は,大学生とその両親を対象に,

Death Anxiety Scale

を用いて宗教行動と死の不安との関連性を検討している。死の不安については男性よりも 女性が死の不安が強く,親よりも子どものほうが死の不安が強いという結果となった。し かし金児(1994)は,死に対する不安は死を取り巻く信念体系の一部に過ぎず,それだけでは 全体的な死の態度構造は把握できないであろうと述べている。また小川(1996)は,Death

Anxiety Scale

は死への不安を一次元としてしか捉えていないということを指摘している。

死への恐怖あるいは不安は,死に対する態度の一側面しか表してないと考えられ,死に 対する態度を多面的に捉える尺度が作成されている。丹下(1999)は,青年期において死を扱 うことはその後の人生に対する基盤を形成することになるとして,青年期における死に対 する態度尺度を作成した。その際,恐怖に主眼を置いた感情的側面だけでなく,“生”や“死 ぬ過程”といった死と切り離して考えることのできない部分も含めて多面的に死を捉える ことを目的としている。その結果,①死に対する恐怖尺度,②生を全うさせうる意志尺度,

③人生に対して死が持つ意味尺度,④死の軽視尺度,⑤死後の生活の存在への信念尺度,

⑥身体と精神の死尺度,といった6因子からなる尺度が作成された。

一方,平井・森川・柏木・坂口・安部(2003)は,死生観には文化的要因が大きく関係して いると考え,日本独自の死生観尺度の作成,簡便な尺度の作成の2つを目的に死生観尺度 を作成した。その結果,①死後の世界観,②死への恐怖・不安,③解放としての死,④死 からの回避,⑤人生における目的意識,⑥死への関心,⑦寿命観,といった7因子からな る尺度が作成された。平井・森川・柏木・坂口・安部(2003)は,丹下(1999)の死に対する態 度尺度と比較して,死に対する恐怖尺度は死への恐怖・不安因子,死の軽視尺度は解放と しての死因子,死後の生活の存在への信念尺度は死後の世界観因子と対応しているし,こ の3つが日本人の死生観の主要構成要素であると推察している。

丹下(1995)は,親しい人物との死別経験が死生観に与える影響は少なく,むしろ命に 関わる事故・病気の経験が死生観に大きな影響を与えるということを述べている。卒業研 究において,親しい人物との死別経験が死生観に与える影響は少なく,むしろ命に関わる 事故・病気の経験が死生観に大きな影響を与えるのではないかと考え,検討したところ,

親しい人物の死別経験の有無が死生観に与える影響は小さかった。しかし命に関わる事 故・病気の経験の有無が死生観に与える影響もまた小さいという結果となった。死生観に ついては,先行研究と必ずしも一致した結果は得られなかった。

死に対する態度の研究において,当初は死の恐怖や不安といった死に対する一面的な側 面について検討していると考えられる。その後,恐怖や不安といったネガティブな面だけ ではなく,死や死別から得られる意味やその後の生に対する影響といったポジティブな面 にも目が向けられており,より多面的な視点から死に対する態度をとらえるようになって

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きている。次に死別経験のよりポジティブな影響について目を向けた研究についてふれて いく。

②死別経験のおける有益性発見に関する研究

東村・坂口・柏木・恒藤(2001)は,死別経験による遺族の人間的成長の内容にはどの ようなものがあるか,その実態を調査することを目的に,自由記述の質問紙調査を行った。

その死別経験による遺族の人間的成長についての研究によれば,ホスピスにて近親者を亡 くした285名(平均年齢

49.7

歳:SD=15.3)を被験者として死別経験から学んだこと,

気付いたことを自由記述で質問紙調査を行ったところ,成長に結びつくポジティブな変化 として①ライフスタイルの変化,②死への態度,③人間関係の再認識,④生への感謝,⑤ 自己の成長,⑥人生哲学の獲得,⑦宗教観の変化が挙げられた。東村・坂口・柏木・恒藤

(2001)は,ポジティブな変化についての記述をした群はそうでない群に比べて女性が多 く,年齢が若く,故人の年齢も若い傾向にあったということを報告している。東村・坂口・

柏木・恒藤(2001)の結果から,筆者は以下のような考察を行った。

年齢が若い被験者は死に対する考え方が柔軟であり,自分自身が死に切迫していないこ とから記述するものが多かったのではないかと考えられる。また一般的に女性は男性より も死をスムーズに受容する傾向にあるため,この研究においても死を受け止めることが困 難な男性被験者よりもポジティブな変化に気づくことができ,記述することにも抵抗が少 なかったという可能性も考えられる。故人の年齢が若い場合にポジティブな記述が多く見 られたという結果は,被験者の死に対する防衛があらわれており,故人の年齢が若ければ,

その故人の死が周囲の人に与える衝撃も大きくなり,その事実をそのまま受容するのは困 難になるということを示唆している。そこで故人の死にポジティブな意味づけを行い,衝 撃を和らげる防衛を行った結果,ポジティブな変化に関する記述も増加したのではないか と考えられる。

坂口(2002)は死別後の心理的プロセスの研究において,有益性発見について調査して いる。坂口(2002)によると,デイビスは有益性発見とは,困難な状況の中でのポジティブな 意味の探求の結果として,個人の人生にとってのポジティブな含みや有益性を見出すこと であり,それによりネガティブな含みが最小にされたり緩和されたりすると述べている。

坂口は,東村・坂口・柏木・恒藤(2001)の自由記述から得られた

131

項目をもとに有益 性発見尺度を作成した。有益性発見尺度は,①命の再認識,②自己の成長,③人間関係の 再認識の3つの因子から構成される。

東村・坂口・柏木・恒藤(2001),坂口(2002)の研究にはそれぞれ検討すべき点がある。

まず調査対象者がホスピスで死別を経験しているという点である。一般的に多くの人は一 般病棟で死別を経験している。一般病棟に比べるとホスピスでは遺族や患者への配慮が十 分に行き届いていると考えられ,死別経験直後の遺族に対するかかわり・配慮の違いはそ の死別の意味に変化を与え,死別経験の持つ意味,それによる人間的成長はホスピスで死

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を迎えた遺族と一般病棟で迎えた遺族では異なる可能性が考えられる。

次に調査方法についてである。方法として自由記述を用いており,記述された項目から 尺度を構成している。尺度を構成する上では自由記述でよいのであるが,自由記述ではポ ジティブな変化には気づいているが記入しなかった,あるいは漠然とした変化に対する気 づきはあったがそれを言語化することができなかった,などの潜在的に成長を遂げた可能 性のある被験者を全て把握することが困難である。そこで記述式ではなく,選択式の質問 紙調査を行うことで先行研究では抽出することができなかった部分を明らかにする必要が あると考えられる。加えて先行研究では被験者の平均年齢が高く,年齢にもばらつきがあ る。

そこで著者は卒業研究において,平均年齢が低くばらつきが少ない大学生を対象にして 死別経験後の有益性発見に関する選択式の質問紙調査(5件法)を行った。ホスピスで死を迎 えた遺族を対象にしてつくられた有益性尺度が一般病棟で死を迎えた遺族を対象にしても 同様の因子構成となるか検討するために因子分析(主成分解,Varimax 回転)を行った。

因子数の決定には固有値の大きさの変化や各因子に含まれる項目数および因子としての解 釈可能性を考慮した。その結果,3因子解を最適解として採用した。各因子の項目内容は 先行研究が示すものとほぼ同じであったことから,ホスピスでの死別経験,一般病棟での 死別経験の背後にある因子は共通していると考えられる。つまり一般病棟とホスピスとい う違いは人間的成長に影響を与えないということが明らかになった。

5

件法においても男性より女性の方がポジティブな変化に対する気づきが多いのかどう か検討するために有益性尺度の3つの下位尺度について男女の比較をt検定を用いて行っ た。ここでは「命の再認識」「人間関係の再認識」因子の2つで女性の得点が有意に高いこ とが認められた。「自己の成長」因子では有意差は出なかったものの,女性の方が得点が高 く,成長という点では調査方法に限らず女性のほうが成長に関する気づきが多いというこ とが明らかになった。先行研究の自由記述と同様に,男性より女性の方が有益性を獲得し ているといえるであろう。

先行研究における自由記述式,選択式といった質問紙法では,個人が持っている言葉に 表わすことが難しい複雑な感情,アンビバレントな感情についてまで扱うことはできない。

次に個人の生の語りから死別経験をとらえた研究についてふれていく。

③死別経験についての意味づけ・物語の研究

やまだは,死別経験についての語りについて一連の研究を行っている。

やまだ(2000)は,死,失恋,失職,離婚,転居,病気など,その人の人生にとって決定的 に大きな喪失に直面した時,過去の人生の意味を問い返し,人生を再編し,新たに生きだ さなければならず,喪失は人生の物語が生み出される最も典型的な場所であると述べてい る。本人にとってさほど重要ではない喪失体験の場合,物語を新たに生みだす必要はない であろう。しかし,大切な人物,親しい人物との永遠の別れであれば,やまだ(2000)の述べ

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るように新たな物語が必要となってくると考えられる。今まで共に過ごしてきた人が亡く なり,話すことも触れることもその姿を見ることも叶わなくなる。自分の人生における物 語におけるその大切な人物の存在は大きく変化し,それとともに意味も変化するであろう。

その人が亡くなる前後では,物語や主観的世界は大きく異なるかもしれない。やまだ(2000) は自己と他者の亀裂や,前の出来事と後の出来事との間の亀裂が大きくなったとき,それ らをつなぎ,意味づけ,納得する心の仕組みが必要な時に,人生が物語られるとも述べて いる。

やまだ・河原・藤野・小原・田垣・藤田・堀川(1999)は,二人称的死は劇的な喪失体験で あり人生に危機をもたらす出来事である一方で,生の意味を意味が問われ,生活が再構造 化させ,人生を変容させる発達の契機となるものであり,その変化のプロセス,再構造化 のプロセスこそが重要であると述べ,①二人称的関係性の中での友人の死,②生涯発達に おける喪失の意義,③経験を人生物語へ組み込む変化プロセスの重視,④長期の時間軸の 設定,⑤方法論としての語りと事例の重視,といった観点から阪神大震災において友人を 亡くした

3

名の語りを分析している。3名の語りを分析しまとめた結果,1事例では「実感 なし→記念の作業→喪の記念作業の定例化」という過程をたどり,他

2

事例では「実感な し→悲痛と動揺→死の実感と喪失感→物語化<可能世界の構成>→喪の記念作業の定例 化」という経過をたどっていたと述べている。また「喪の作業の定例化」の後に「価値観 の変化」という経過も見られていた。1事例と他

2

事例が異なる経過をたどったのは,1 例は生前の関係性が「同じ学科の同級生」であったのに対し,他

2

事例は「親友」「憧れの 異性の先輩」であったために,悲哀の度合いが相違したためであるといわれている。

また,やまだ・田垣・保坂・近藤(2000)は,やまだ・河原・藤野・小原・田垣・藤田・堀 川(1999)の続報として,前回の面接から

1

年後,震災から

4

年半後に語られた友人の喪失 を,長期的な時間軸からみた語りと語り直しによる物語の再構成と意味づけの変化に焦点 を当てて分析を行っている。結果,

3

事例とも

1

年前と同様のテーマで同じ内容のことが語 られたが,そこに新たな物語の再構成と語り直しが行われていることが明らかになってい る。友人を失ったことによって,その友人が自らの人生についての語りの中で占めていた 場所が,物理的に空虚なものとなり,そのような事実に抗して,それぞれが自らの人生と のかかわりにおいて意味づけようと様々な語りがつむぎだされており,その意味づけは,

自らの人生と深くかかわりあいながら,人生の物語と共に変化していたとのことであった。

各事例にはそれぞれ大きなテーマがあり,そのテーマをめぐって,繰り返し同じ内容が語 られ,少しずつ異なる意味づけの語り直しがなされている。それぞれの現在の状況的文脈 から大きく影響を受け,その文脈に応じて一貫性を持ち,適切とされるような語りへと構 成され,再構成されていくのであり,常に具体的現実とのかかわりにおいて,生成的に変 化しながら語り直されているとのことであった。

やまだ・河原・藤野・小原・田垣・藤田・堀川(1999) ,やまだ・田垣・保坂・近藤(2000) の研究から,語りがどのような経過をたどり,死別経験を自分の生活に配置し,意味づけ,

(8)

時間をかけて再構造化するかを示している。阪神大震災で友人を亡くしたという被験者の 語りを対象に分析が行われているわけだが,異なる状況や友人以外の人物との死別,死別 経験の回数や死別からの年数によって喪失の意味は変化すると考えられ,より多くの研究 データを蓄積する必要があると考えられる。

ここまで,人が死別経験をどのようにとらえているのかを検討した先行研究について概 観してきた。次に,その死別経験をした人に対してどのようなサポートが可能で,どのよ うなサポートが効果的なのかを検討した研究について触れていく。

④死別経験へのソーシャルサポートについての研究

従来は,家制度を中心とした拡大家族が多く,死別を経験した人は,家族や各地方の慣 習に従い癒しあい,互いに支えあって生活していたと考えられる。現在,核家族化・少子 化,地域社会における人間関係の希薄さといった家族構成や地域社会の変化によって,死 別に対するサポート体制・機能が弱まってきている。加えて医療技術の進歩,移植や脳死 といった死という概念の複雑化,平均寿命が延びたことにより死への恐怖と対峙する時間 が長期化したこと,といったように我々を取り巻く環境や死別形態にも大きな変化が生じ ているように考えられる。そのため専門的な援助の必要性が高まってきている。

小島ひで子(2004)は,子どもの死別体験時の悲嘆過程の問題を明らかにするために,

子供時代に親と死別した大学生を対象に面接調査を行っている。その結果,死別後「親の 死の衝撃による混乱・葛藤」「生きる力を見出すための模索」「死の衝撃を乗り越え心の亡き 親と共に生きる力を見出す機会」の過程をたどっていることが明らかになった。その過程 上の問題として「子どもへの死の告知」「情緒的サポートの少なさ」「学童期・突然死・残さ れた親の悲嘆が強い場合」が明確になり,子どもは「表現しているメッセージに気づき,

受けとめてほしい」と思っているにもかかわらずニーズに即したサポートを受けていなか ったことが示された。つまり,どのようなサポートが求められているのか,そのニーズを 探る必要があると思われる。

河合・佐々木・本間(2005)は,死別におけるサポートの受領とその有益性についての 研究を行っている。通常は死別といった困難を乗り越えるのにサポートが有益であると考 えられ,必要に応じて様々なサポートが行われてきたが,サポートの受け手がそれを有益 であると感じているとは限らず,支援しようという意図で行われたサポートでも過保護や 過度の心配などと受け取られると有益性の面で問題があると述べている。つまりサポート を行ったからといって,それが受け手にとって有益であるかどうかはわからないのである。

卒業研究において,木下(2003)の修正版グラウンデット・セオリー・アプローチを用い て面接協力者

8

名の面接データを分析したところ,死別経験には「故人との別れ方」「死別 後の感情」「死との距離感」「周囲との関わり」「死別後に見える故人の新しい側面」「死別 後の人間関係」といった段階が存在するのではないかと推測された。この中で「一人でい たい」「励ましなんかいらない」「死について話したくない,話せない」といった「コミュ

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ニケーションの拒否」というカテゴリーが明らかになった。小島が述べているように死別 を経験した人が必ずしもメッセージを受け止めて欲しいと考えているとも限らないと考え られる。この研究において,死別経験後に周囲の人と行われるコミュニケーションは,カ テゴリー「死別後に見える故人の新しい側面」「死別後の人間関係」といったその後の人間 関係に大きく影響を与えると考えられ,これらのことからサポートの受け手のニーズにつ いて検討し,そのニーズに即した効果的なサポートを行う必要があると考えられる。

峰島(2005)は児童期・青年期に死別経験をした青年を対象に半構造化面接を行ってい る。「悲しみと向き合っていく中で助けとなった他者からの行動や言葉は何ですか?」とい う質問に対して「同性の家族からのサポート」という項目が明らかになった。これは被験 者が全員女性であったことが関係しており,遺児の男子は傾聴・内省,女子は共感できる 仲間との関係性を評価する傾向があるためで,そのため男女によって望むサポートは異な ると述べている。峰島の研究では,被験者が全員女性であったことから,実際に男女でど ういったサポートのニーズの違いがあるか明らかになっていない。坂口(2002)は有益性 発見尺度を用いて①命の再認識,②自己の成長,③人間関係の再認識の3つの下位尺度を 抽出した。そのうち「人間関係の再認識尺度」とソーシャルサポートとの関連を明らかに し,死別者を取り巻く人的環境が強く反映されると述べている。卒業論文において「人間 関係の再認識尺度」の得点が男女で有意に異なったことから,ソーシャルサポートのニー ズも男女で異なると考えられる。

3.問題と目的

①死別への意味づけに影響を与えている要因について

やまだ(2002)は,喪失から生成へと進むための物語りの重要性を述べており,語りの中で,

様々な要素と関係づけながら意味を付与していく,能動的な過程に焦点を当てている。こ の過程において,人は語りの中で,他者の語りを取り込み,自分自身の言葉と関係づけて 語り直し,自分の物語を生成していくのである。ではそのような意味づけの過程,特に喪 失・死別における意味づけの過程に影響を与えている要因とは一体どのようなものであろ うか。本研究においては,死生観,宗教観,有益性,家族機能,死別経験の有無,命に関 わるような病気や事故の経験の有無,故人の年齢,死因,生前の関係といった要因がそれ ぞれどのように影響しあっているのかを検討していきたい。

まず死生観という要因について考えていきたい。どのような要因が死生観や死観といっ た死・生に対する態度に影響を与えているのかを明らかにしようとする研究は多く見られ る。丹下(1995)は死生観の展開の研究において “家族や親しい友人の死”は死生観に及 ぼす影響が小さく,むしろ“命に関わるような病気や事故”の及ぼす影響が大きく,家族 や親しい者の死は,死そのものより故人のこと,故人との関係性に意識が向けられる可能 性が高いため影響が小さく,青年期といえども自己の死がすぐにも起こりうるという実感 を与えるため命に関わる病気や事故は死生観に及ぼす影響が大きいと述べている。しかし,

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筆者の卒業研究においては,死別経験の有無だけでなく,命に関わる事故・病気の経験の 有無もまた死生観に与える影響は小さいといったことが明らかになっている。Death

Anxiety Scale

を用いた研究では,小川(1996)は,死への不安において男女間で有意差は見 られず,また大病・大怪我の有無,近親者や知人の死の有無についても同様に有意差は見 られていないとされている。しかし,金児(1994)の大学生とその両親を対象にした宗教行動 と死の不安との関連性についての研究では,死の不安については男性よりも女性が死の不 安が強いといった性差の影響が見られている。

このように死に対する態度の研究は多くなされているが,死観,死生観,死への不安と いった死に対する態度の定義も数多く見られる。そのため研究結果も上記のように必ずし も一致していない。その可能性として,①用いられている尺度の違い,②被験者の年齢の 違い,が考えられる。今後,同一の尺度を用いて,年齢差の少ない被験者を対象に研究の 知見を積み重ねていく必要があると考えられる。

次に家族機能という要因について考えていきたい。最もかかわりの多くさまざまな面で 大きく影響を与え合っていると予想される集団は家族であると推測される。にもかかわら ず,家族の機能という観点から,死別というテーマを扱っている研究は少なく,家族機能 という概念を死別研究に持ち込む意義はあると考えられる。草田・岡堂(1993)の家族機能測 定尺度は,家族の凝集性,適応性の

2

つの尺度で構成されている。草田(1995)によると,凝 集性は家族のメンバーが互いに持つ情緒的なつながり,適応性は家族の状況的危機や発達 的危機があった場合に家族システムの勢力構造や役割関係などを変化させる能力とされ,

凝集性・適応性ともに非常に高い,あるいは低いレベルでは家族機能がうまく働かず,中 間のレベルでは家族機能がよく働くとされている。死別という危機的な状況に焦点をあて た場合,家族機能に関しては

2

つの可能性が考えられる。一つは家族構成員が亡くなった 場合である。この場合,その家族構成員が亡くなったことで生じる家族の関係・構造の変 化に対してその家族がどのように機能していくのかを考える必要があると考えられる。も う一つは,家族構成員以外の死別を経験した場合である。この場合,死別を経験したその 家族構成員に対してその家族がどのようにかかわり,機能していくのかを考える必要があ ると考えられる。死別という危機的な状況での家族の機能が死別への意味づけにどのよう な影響を与えているのか検討していきたい。

各要因の先行研究における問題点や今後の課題について触れてきたわけだが,上述した 多くの研究は,一つの要因が他の要因に与える影響といったような一方向的な関係につい て検討している。川島(2004)は,死の意味づけに関する多様な要因が報告されているが,そ れらのいかなる相互作用のダイナミクスのうちに故人の死の意味づけが構築されているか に焦点があてられていないと指摘している。実際にそのような多様な要因の相互作用につ いての先行研究は数少ない。金児・渡部(2003)は,個人内変数の性別,他者志向性,環境変 数の生育環境の都鄙性,仏壇・神棚・墓の有無,宗教行動の現世利益行動,慰霊行動,修 養行動,宗教観の向宗教性,加護観念,応報観念といった要因から,自己と他者の死観を

(11)

規定する因果関係を明らかにすることを目的とした研究を行っている。金児・渡部(2003) の研究における要因の多くは宗教観に関連するものであり,これは金児・渡部(2003)が宗教 行動といった様々な要因が影響して宗教観が形成され,その後に死観が形成されるといっ た仮説に起因している。宗教観に関連する諸要因はそれぞれ大きな影響力をもっているか もしれないが,宗教観に偏重するだけでなく,より多くの要因に目を向ける必要があると 考えられる。本研究においては,死別経験をする上で,その多様な要因がどのような相互 作用のもとに意味づけを構築しているのか検討していきたい。

死別に対する意味づけについて,浅若(2004)は親をがんで亡くした

3

名を対象として面接 調査を行っており,親の死を子どもがどのように意味づけるかについての研究を行ってい る。これは個人の主観的経験に的を絞り,当事者の視点から死別の意味を明らかにすると いったように個別性に重点をおいた研究であり,対象者の死別の状況もガン患者のホスピ ス緩和ケア,ホスピス病棟という特殊な状況における死別経験であること,事例の少なさ といった課題がある。ホスピス緩和ケア,ホスピス病棟という特殊な状況以外での事例の 知見を積み重ねていきたい。死別経験は個別的な経験であると考えられるが,個人は属す る社会や文化の影響を受けており,死別経験に対する意味づけもまた社会・文化の影響を受 けていると推測される。

質問紙調査を行う様々な目的について上述したが,質問紙を用いた量的研究の手法には 限界があると考えられる。本研究では,質問紙調査のほかに面接調査の実施を予定してい る。そこで面接調査を行う足がかりとして,面接協力者が所属していると考えられる集団 の特徴を把握し,面接協力者の特徴と所属している集団の特徴とを比較するなどして面接 調査の各事例の解釈を行う上での指標として用いたいと考えている。フリック(2002)は,量 的研究の特徴として,量的データの裏付けと仮説の検証,データの圧縮,簡略化をあげて いる。量的データによる一般化は,死別経験といった個人的な経験であり,様々な要因が 複雑に作用し合っている事象を対象にして行うには非常に困難であり,死別経験の本質と も言える個別的な経験を扱いきれない。そこで量的研究だけでなく,質的研究の手法を用 いて,相補的に死別経験の意味づけについてアプローチしていく。フリック(2002)は,質的 研究の特徴として,個人の主観的経験,新しい洞察や理論の展開をあげている。量的デー タだけでは扱いきれない個別的な経験を質的なデータとして用いることで,分析の対象と するのである。個別的な経験や各事例として,死別経験の語りを分析していく際,量的デ ータを圧縮・簡略して一般化することで,各事例の独自性・個別性を探る基準として用い ることとする。

②死別への意味づけに影響を与える各要因の相互作用と意味づけの過程について 鷹田(2005)は,従来の死別研究において悲嘆モデルは,医学モデル,段階モデル,課題モ デルといった3つに区分されると述べている。以下に鷹田(2005)の述べた

3

つのモデルにつ いて記す。

(12)

1)

医学モデルについて

鷹田

(2005)

によると,医学モデルは悲嘆を病気と多くの類似点を有する状態,あるいは精 神医学的サポートを必要とする危機として想定するものである。医学モデルの顕著な例は リンデマン

(1984)

の悲嘆の症候であるといえるであろう。

リンデマンは,正常な悲嘆の症候と病的な悲嘆の症候について述べている。正常な悲嘆 における症候は,一定の方式に従っているとされ,二十分~一時間続く身体的苦痛,のど のはり,呼吸の苦しさ,ため息,絶え間ない空腹,筋肉への力が入らなくなる,緊張,精 神的苦痛などである。病的な悲嘆の症候は,反応の遅延・延期,歪曲した反応であるとさ れている。歪曲した反応は,①喪失感のない活発な状態,②故人の最後の病状の取り込み,

③心身症,④友人や親族に対するかかわり方の変化,⑤特定の人物に対する激しい敵愾心,

⑥感情の抑制,⑦社会的な関わりの永続的な喪失,⑧社会的・経済的生活への支障,⑨抑 うつの9つに区分されている。

喪失による悲嘆は心理的・身体的症候であり,病的な悲嘆は適切な方法によって正常な 悲嘆反応へと変化させることが可能であり,悲嘆を解決することができるといった特徴を もっている。

2)段階モデルについて

鷹田(2005)によると,段階モデルは悲嘆が最終的に解決に向けて進んで行き,死別経験者 の悲嘆のプロセスをいくつかの段階に区分して記述したものである。悲嘆プロセスについ てではないが,キュブラー・ロス(1971)が臨死患者に対するインタビュー調査を行い明らか にした①否認,②怒り,③取り引き,④抑鬱,⑤受容といった5段階の死の受容に至るま でのプロセスなどが例に挙げられる。

ボウルビィ(1981)は,近親者を失ったときの反応を,それぞれの段階ははっきりしたもの ではないが全般的な順序として,

4

つの段階に分けている。それは①無感覚,②思慕と探求,

③混乱と絶望,④再建である。無感覚は,呆然として死の知らせを受け入れられないもの として感じる段階である。思慕と探求では,失われた人を見つけて取り戻したいという強 い衝動から,落ち着きのない探求,持続的な希望,繰り返される悲観,嘆き,怒り,非難 や忘恩などが見られる。この段階では,失われた人を取り戻したいと強い衝動を持ちつつ も,死者との再会は到底起こりそうもないことを認めた深い悲しみが同時に存在している。

この矛盾する衝動を調和させる方法を見つけることが

3,4

段階の中心的課題となる。

デーケン(1986)は,さらに詳細に悲嘆のプロセスを,①精神的打撃と麻痺状態,②否認,

③パニック,④怒りと不当感,⑤敵意とルサンチマン(恨み),⑥罪意識,⑦空想形成と幻 想,⑧孤独感と抑鬱,⑨精神的混乱とアパシー(無関心),⑩あきらめ―受容,⑪新しい希 望―ユーモアと笑いの再発見,⑫立ち直りの段階―新しいアイデンティティ」の誕生,と いった

12

段階に区分して定義している。

(13)

著者も卒業研究において

8

名との半構造化面接の結果を木下(2003)のグラウンデット・

セオリー・アプローチを用いて分析したところ,死別経験には「故人との別れ方:死をと もに迎える,ある日突然いなくなる」「死別後の感情:死別がもたらす悲しみ,遺品がもた らす辛い思い,死別によってなくなる介護の負担,死別に対して無感情」「死との距離感:

日常的な死,死に与えられる実感,死別に関する奇妙な連続性」「周囲との関わり:積極的 コミュニケーション,コミュニケーションの拒否」「死別後に見える故人の新しい側面」「死 別後の人間関係:ポジティブな変化,ネガティブな変化」といった段階が存在しているこ とが考えられ,必ずしもその全過程を経ているわけではなく,死別の過程を故人とともに 過ごし,死別をうまく迎えることができれば「死との距離感」という過程は踏まずに「周 囲との関わり」に移行するものと推察される。

ボウルビィ(1981)の述べている段階モデルには,失われた人を取り戻したいと強い衝動と 死者との再会は到底起こりそうもないことを認めた深い悲しみという矛盾する衝動を調和 させる方法を見つけるといった課題についてもふれられており,死別経験者の主体性・能 動性を想定する課題モデルに近い点が見受けられる。また著者の卒業研究においては,必 ずしも一方向的に段階を経ていくのではなく,死別の過程での故人との関わり方によって,

その後に移行する段階が変化するという特徴が見られた。

3)課題モデルについて

鷹田(2005)によると,課題モデルは死別体験者を悲嘆の解決に向けて取り組むべき仕事や 課題を有した能動的な主体として想定しているとされ,課題に取り組むこの課題モデルの 起源はフロイトにまで遡ることができると述べている。

フロイト(1975)は,悲哀と悲哀の作業について以下のように述べている。

悲哀とは愛する者を失ったための反応あるいは祖国,自由,理想などのような愛するも ののかわりになった抽象物の喪失に対する反応である。現実検討によって愛する対象がも はや存在しないことがわかり,すべてのリビドーはその対象との結びつきから離れること を余儀なくされるが,実際にはその結びつきからすぐには離れることはできず,対象に固 執することとなる。その対象との結びつきから離れるには時間と相当のエネルギーを消費 しながら,一つ一つ遂行してゆく(結びつきから離れていく)のであって,その間,失われた 対象は心の中に存在しつづける。リビドーが結びついている個々の対象の追想と期待に心 奪われ,過度に充当され,リビドーの解放は実現される。このような悲哀の作業が完了す ると自我は再び自由となるのである。

ウォーデン(1993)は,悲哀のプロセスを完了するには

4

つの基本的課題があると述べ,未 完の課題があることは,将来の成長や発達を阻害するとされている。基本的課題の

1

つ目 は,その人が死んだという事実,その人が逝ってしまい,戻ってくることはないという事 実に直面するという「喪失の事実の受容」である。喪失は知的のみならず,情緒的にも受 容される必要があり,喪失という事実を受け入れるには時間が必要である。

2

つ目は「悲嘆

(14)

の苦痛を乗り越える」で,肉体的痛みと喪失に伴う情緒的・行動的な痛みを享受し乗り越 えることが必要で,そうしなければ何らかの症状や常軌を逸した行動となって表面化する とされている。3つ目は「死者のいない環境に適応する」という課題で,死者が以前とって いた役割が失くなったことに適応し,さらに遺された人自身の自己意識に適応するという ことである。4つ目は「死者を情緒的に再配置し,生活を続ける」で,遺された人が死者と の関係をあきらめるのではなく,自身がしっかり生きていけるように,生活の中に死者の ための適切な場所を見つけることである。悲哀のプロセスには,課題を遂行するには努力 が必要となるとも述べている。ウォーデンの悲哀の課題の概念は,フロイトの悲嘆の作業 の概念に一致しており,悲哀に対して死別体験者は積極的に関わることができると考えら れる。

上記したそれぞれのモデルに対して,鷹田(2005)は以下のような批判をしている。

“医学モデルは,悲嘆を病気と多くの類似点を有する状態,精神医学的サポートを必要 とする危機と想定するものである。これは死別に伴う正常な悲嘆反応と病的な悲嘆反応を 区分し,後者には精神医学的な介入が行われる。正常な悲嘆反応,病的な悲嘆反応は全て の死別体験者に共通する一定の症候群を基準に区分されるのだが,普遍的な症候群は存在 しない,あるいはそれを同定することは極めて困難であることがさまざまな調査研究によ って明らかにされている。

段階モデルは,悲嘆の解決に向けて進んでいく死別体験者の内面的な変容過程をいくつ かの段階に分けて記述したものである。しかし全ての死別体験者が全ての段階を通過する わけではないこと,各段階を直線的に進むわけではないこと,各段階の境界がそれほど明 確ではないこと,悲嘆の解決の明確な終点を同定することは困難であること,といった問 題が提起されている。(鷹田,2005)”

また上述した筆者の卒業研究の結果からも,鷹田の指摘どおり,従来の段階モデルには 全ての死別体験者が全ての段階を通過するわけではないこと,各段階を直線的に進むわけ ではないこと,各段階の境界がそれほど明確ではないことといった課題が明らかとなって いる。

段階モデルが,死別体験者を悲嘆に対して受動的な存在とした一方で,課題モデルは,

死別体験者を悲嘆の解決に向けて取り組むべき課題や仕事を有した能動的な主体として想 定している。課題モデルにおいて最も頻繁に言及されるのが上述したウォーデン(1993)の

4

つの悲哀の課題である。この

4

つの課題が達成されたとき,悲嘆作業は終了するとされて いる。しかし,課題モデルについては,故人との絆も断絶を強調しているといった批判が なされている。ロレイン・ヘッキ,ジョン・ウインスレイド(2005)は,死別には,故人との 関係を否定することではなく,故人を新しい形で関係の中に組み入れ直すことが求められ ているとし,死別後も故人と家族との結びつきが絶たれることがないように関係性を維持 し,発展させるリメンバリングというかかわりについて述べている。ある人は,死を故人

(15)

との最期の別れと捉えて悲しみに暮れるかもしれない。またある人は,故人は死んでも自 分のことを見守ってくれていると考えるかもしれない。死別という出来事にどのような意 味づけを行うかによって,故人との関係や死別の持つ意味は大きく変化し,必ずしも故人 との絆を断ち切る必要はなく,故人との関係のあり方は様々であると考えられる。

ニーメヤー(2006)は,従来の悲嘆理論に対する批判から,新たな理論の前提として,以 下の 6 つを挙げている。

① 死別を体験するとき,自分の描く死についての構成(死生観)にその死がうまくあては まる場合とあてはまらない場合があり,後者の場合については,自己の現実把握,将来 についての予測,生活スタイル等を反省し再構成する必要がある。

② グリーフは個人的なプロセスであり,自己認識から切り離すことはできない。

③ グリーフ行為とは能動的に行うことであり,受動的に生じるものではない。

④ グリーフは,喪失による様々な課題を抱えながら,自分意味体系,つまり意味の世界を 認識し直し,再構成することである。

⑤ 感情には,意味の再構成を行う状況にあるということを知らせる機能がある。

⑥ 喪失のたびに,自己のアイデンティティを他者との折衝で構成,再構成しながら生きて いる。

ニーメヤー(2006)の述べている前提の中心となるのが意味の再構成である。喪失という 日常生活の対応では対処しきれない状況に適応するために,人は今までの自分,世界観を とらえ直し,新たな意味づけを行う。その意味の再構成において重要となるのが,アイデ ンティティであると考えられる。アイデンティティの確立が青年期の発達課題であるとい うことは言うまでもないことである。発達課題と喪失体験,喪の作業の関連については以 前から指摘されている。

小此木(1991)は,mourning(喪の作業)はライフサイクルの各段階と結びついて発達と前 進を伴う適応過程であると述べており,ライフサイクルの年代,発達課題,発達水準,発 達段階と喪失体験の関連の重要性を示唆している。また丹下(2004)は,青年期には自我・

自己といった領域の発達と死に対する態度の発達が相互に影響しあっていて,青年期にお いて死について扱うことは人生に対する基盤を形成すると述べている。小泉(2007)は,死 別による喪失体験において,喪の作業は個人が新たなアイデンティティを獲得するプロセ スになりうるとして,青年期における死別体験の重要性について述べている。このように 発達,発達課題,ライフサイクルと死別・喪失体験の関連は指摘されているのだが,川島 (2004)の死の意味づけに関する多様な要因がいかなる相互作用のダイナミクスのうちに構 築されているかに焦点が当てられておらず,発達的な観点についても欠如しているという 指摘のとおりそのような研究はほとんどなされていない。そこで本研究では,青年期の死 別経験者を対象として,青年期という発達的観点に加えて,質問紙調査から明らかとなる 死別経験に影響を与える多様な要因の相互関係とあわせて,面接調査を行っていく。

(16)

③先行研究の方法論的問題とグラウンデッド・セオリー・アプローチについて

先行研究によって行われてきた面接調査は,インタビュ―によって話された死別経験者 の個別の経験や故人との関係性といった多くの要因を掬いきれていないと考えられる。ま た,医学モデル,段階モデル,課題モデルといった各モデルは,研究者が経験的に多くの インタビューの共通性を恣意的に抽出し,モデル化したに過ぎないだろう。木下(1999)は,

質的研究の方法論の曖昧さを指摘しており,従来の質的研究の方法論では,研究者の特定 個人の特別な能力によって研究が行われており,いかなる方法で研究が行われているかそ の方法論に関して言及されないことが多いと述べている。またフリック(2002)は,質的研究 において,研究者が自分の理論的仮定や構造に捕らわれて事象の特定の側面にのみ注意を 向けて,研究対象の持つ構造や新たな知見を発見することが困難になる危険性を指摘して いる。

上述した問題を解決するには,明確化された方法を用いて死別の個別的な経験に目を向 ける必要があるのではないかと考えられる。やまだ・河原・藤野・小原・田垣・藤田・堀 川(1999),やまだ・田垣・保坂・近藤(2000)は,死別経験者の語りに関する研究において,

少数事例の個別性,独自性を重要視し,それぞれの事例の語りという質的データに沿って 理論を構成している。各事例の語りデータを恣意的に扱うのではなく,徹底して語りデー タに基づいて分析しているという点において,上述した先行研究とは一線を画すと言える だろう。しかし,それぞれの事例の個別性・独自性を活かして,そこから得られた知見を 統合した理論を構成するには到っていないという印象を受ける。そこで,死と死に逝く過 程についての研究法として,①結果というよりその過程の調査が可能,②データの選抜と 相互作用を持ち,分析が同時に行われる,③研究の分野やそれに対する価値,認知が多岐 にわたる場合に,複数の展望を組み入れることが出来る,といった有用性を持つグラウン デッド・セオリー・アプローチ(Owens&Payre,1999)を用いて研究を行った。グラウン デッド・セオリー・アプローチでは,データの解釈は作業的枠組みの中で行われ,分析結 果を理論の形でまとめあげるため,実践的活用を通してその理論の検証が可能である(木下,

1999)。明確化された方法論のもとで個人の経験に沿った知見を積み重ねていくことで,死

別経験者がどのような段階をいかにして通過していくのかといった問題に対して実証的・

機能的アプローチが可能になっていくと推察される。故人との関係性やかかわり,死別経 験者のより具体的な経験に着目し,そういった語りから得られる逐語データを明確な枠組 みの中で分析し,個人のデータに沿った死別経験の過程を明らかにしていく。

面接調査は,半構造化面接を行い,面接から得られた語りのデータを基にして木下(2003)

のグラウンデット・セオリー・アプローチを用いて死別経験の語りの分析を行うことで,

死別経験への意味づけの過程を明らかにし,その意味がいかにして再構築されていくのか,

再構築を促進するためにはどのような点から関わることが重要なのか,その仮説・理論生 成を目的としている。グラウンデッド・セオリー・アプローチを行う上で問題とされるの

(17)

が,生成された仮説がどの程度一般化されるのか,どの程度の普遍性を持つのかという点 である。これは限られた事例や語りのデータを基にして分析を行うことから生じる問題で あり,質的研究を行う上で避けることのできない問題であるといえるだろう。この問題に 対して,木下(1999)は,グラウンデッド・セオリー・アプローチにおける理論生成につ いて,以下のように言及することで,回答している。

“グラウンデッド・セオリー・アプローチは,普遍的な知識を目指すのではなく,社会的 相互作用に関係し,人間関係の予測と説明に関わり,研究者によってその意義が明確に確 認されている研究テーマによって限定された範囲内における説明力が持ち味であり,限定 的に設定された範囲内に関する限りどのアプローチによる研究よりも説明力が優れている。

従来の自然科学では,発見の対象は法則であり,それを表現したのが理論であった。しか し,グラウンデッド・セオリー・アプローチでは,データに密着した分析から独自の概念 を創りそれによって統合的に説明されたものを理論として扱う(木下:1999)。”

つまり,グラウンデッド・セオリー・アプローチは,自然科学が目指す普遍性・一般性を 追求するのではなく,限定された範囲の中での説明力を持ち味にしているのであり,限定 性をより積極的に捉えたアプローチであるといえるであろう。この限定性を,木下(1999)

によると方法論的限定性と述べており,①研究テーマの理解(研究テーマによる限定性),

②コア・カテゴリーを中心とした論理的に関連づけられた概念関係図(コア・カテゴリー を中心として論理的に高密度に関連づけられたことによる限定性),③データとの密着性

(基になったデータからの抽象化の歯止め)の3つがその前提となる。グラウンデッド・

セオリー・アプローチの特性は,この限定性の中で発揮されるものであり,研究者によっ てその意義が明確に確認されている研究テーマの中での説明力であるといえるだろう。ま た概念関係図によって,論理的統合性を持つ分析結果の全体像を理解することも可能であ る(木下:1999)。

ただグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いるだけでは,研究テーマによる限定 性を明らかにすることは難しい。そこで本研究では,グラウンデッド・セオリー・アプロ ーチの基となったデータを個別に分析し,解釈していくこととした。死別経験についての 語りは,面接者と面接協力者との関係の中で語られる。面接者が,自分自身の価値観を面 接協力者に反映させない完璧な客観性を持った中立の存在として面接を行うことは不可能 である。むしろ面接者がどのような価値観・考えを持ち,面接協力者がどのような経験を してきてそれをどのように捉えているのか,面接者と面接協力者が相互作用し合いながら 面接は行われる。このような相互作用の中で面接が行われるからこそ,面接協力者がどの ような人物であり,どのような関係の中で面接が行われたのかを明らかにしておく必要が あるだろう。質問紙調査の結果を用いて,面接協力者の特徴を明らかにする。質問紙調査 の結果,死別経験についての語りから,面接協力者の特徴を明らかにすることで,本研究 における面接協力者の特殊性・個別性を把握することが出来ると考えられる。面接協力者 の特殊性・個別性を明らかにすることで,グラウンデッド・セオリー・アプローチの説明

(18)

できる範囲がより明確になるであろう。また西條(2007)は,グラウンデッド・セオリー・

アプローチでは面接中の変化,考えの深まりといったその場で生じている変化を取りあげ ることは難しいと述べている。この西條の指摘を考慮に入れて,グラウンデッド・セオリ ー・アプローチでは捉えることが難しいその場で生じる個人の変化を事例解釈を用いて扱 っていく。その場での変化を事例から扱うことに加えて,面接前後での質問紙の結果の違 いを手がかりとして,面接協力者の生じていると予想される変化を取りあげていきたい。

(19)

第2章 死別経験に影響を与えている要因の検 討-質問紙調査を用いて-

1.目的

死別経験の有無,家族との死別経験の有無,家族以外の人との死別経験の有無,故人と の関係,故人の死因,命に関わるような病気や事故の経験の有無,突然死経験の有無,と いったような要因が死生観,宗教観,有益性,家族機能にどのように影響しているのかを 検討を行う。また死生観,家族機能についての先行研究における問題点についても検討し ていく。

まず死生観である。死に対する態度の研究は多くなされているが,死観,死生観,死へ の不安といった死に対する態度の定義も数多く見られる。そのため研究結果も上記のよう に必ずしも一致していない。その可能性として,①用いられている尺度の違い,②被験者 の年齢の違い,が考えられる。ここでは,卒業研究と同一の尺度を用いて,年齢差の少な い被験者を対象に研究の知見を積み重ねていく。

次に,家族機能である。最もかかわりの多くさまざまな面で大きく影響を与え合ってい ると予想される集団は家族であると推測される。にもかかわらず,家族の機能という観点 から,死別というテ-マを扱っている研究は少なく,家族機能という概念を死別研究に持 ち込む意義はあると考えられる。死別という危機的な状況での家族の機能が死別への意味 づけにどのような影響を与えているのか検討していきたい。

また面接調査を行う足がかりとして,面接協力者が所属していると考えられる集団の特 徴を把握し,面接協力者の特徴を捉える手がかりとすることを目的とする。フリック(2002) は,量的研究の特徴として,量的デ-タの裏付けと仮説の検証,デ-タの圧縮,簡略化を あげている。量的デ-タによる一般化は,死別経験といった個人的な経験であり,様々な 要因が複雑に作用し合っている事象を対象にして行うには非常に困難であり,死別経験の 本質とも言える個別的な経験を扱いきれない。そこで量的研究だけでなく,質的研究の手 法を用いて,相補的に死別経験の意味づけについてアプロ-チしていく。フリック(2002) は,質的研究の特徴として,個人の主観的経験,新しい洞察や理論の展開をあげている。

量的デ-タだけでは扱いきれない個別的な経験を質的なデ-タとして用いることで,分析 の対象とするのである。個別的な経験や各事例として,死別経験の語りを分析していく際,

量的デ-タを圧縮・簡略して一般化することで,各事例の独自性・個別性を探る基準とし て用いることとする。

2.方法

【手続き】 H大学学生

183

名(男性

84

名,女性

99

名)に質問紙による調査を行った。

表 12.各概念の出現頻度  概  念  名  A B C D E F  1.故人と関わりが多い  ○  ○  ○  2.故人と関わりが少ない  ○  ○  ○  ○  ○  3.死の予期が出来る死  ○  ○  ○  ○  4.死の予期が出来ない死  ○  ○  ○  ○  5.死の予期・覚悟  ○  ○  ○  6.死を自然なこととして受け入れる  ○  ○  ○  ○  ○  ○  7.死の実感のなさ  ○  ○  ○  ○  ○  8.遺体から得られる死の実感  ○  ○  ○  9.死に対する衝撃

参照

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