1.全体的考察
第2章の結果から,女性よりも男性の方が死に対する態度尺度「死が持つ意味」「死の軽 視」因子の得点が高く,男性よりも女性の方が死に対する態度尺度「死への恐怖」「死後の 生活の存在への信念」因子,宗教観尺度「加護観念」「応報観念」因子の得点が高い。男性 と女性では,死への態度,宗教観について違いが見られ,この性差は,各人が持っている 死生観・宗教観を含めた価値観を表すものであり,これによって死の捉え方,受け止め方 は異なると考えられる。しかし,先行研究の結果と照らし合わせてみると,一貫した性差 による違いは「死後の生活の存在への信念」因子にしか見られておらず,統制された条件 の下より多くの知見を積み重ねていくことが求められる。ただ,この価値観は第 5 章の概 念関係図の全カテゴリーに作用していると予想され,各カテゴリーが図,価値観は地にあ たると言えるだろう。
また第 2 章の結果から,突然死未経験者よりも突然死経験者の方が死に対する態度尺度
「死への恐怖」「死が持つ意味」因子,有益性尺度「命の再認識」「人間関係の再認識」因 子,宗教観尺度「向宗教性」「加護観念」因子の得点が高かった。この結果は,「その人の 人生にとって決定的に大きな喪失に直面した時,過去の人生の意味を問い返し,人生を再 編し,新たに生きださなければならず,喪失は人生の物語が生み出される最も典型的な場 所である」(やまだ:2000),「死別を体験するとき,自分の描く死についての構成(死生観)
にその死がうまくあてはまる場合とあてはまらない場合があり,後者の場合については,
自己の現実把握,将来についての予測,生活スタイル等を反省し再構成する必要がある」(ニ ーメヤー:2006),ということを表していると考えられる。突然死は,死別経験者に強い衝 撃を与え,その経験を自分自身の中に収めるためには新たな意味づけが必要となると推測 される。第5章の結果と照らし合わせてみると,突然死はカテゴリー「死別の仕方」で「死 の予期が出来ない死別」として経験され,カテゴリー「死別直後の反応」では「死に対す る衝撃」が強く,「故人への思い」「死を確認することの恐怖」「死の実感のなさ」といった 様々な反応が見られたのではないかと推測される。そして,突然死という経験を自分の中 に収める過程としてカテゴリー「死別経験後の変化」における「自分自身の変化」「関係の 変化」を起こしていったと考えられる。
第4章の結果から,面接前後で有益性尺度「自己の成長」「命の再認識」因子の得点に変 化が見られ,この面接協力者の変化は,第 5 章のカテゴリー「死別経験後の変化」に相当 するのではないかと推測される。これは,面接調査の中で,面接者が面接協力者の死につ いての語り,死別経験からの変化についての語りに焦点を当てるという介入をしていくこ とで,死別経験についての気づきの語りが形成され,「死別経験後の変化」についての語り が生成されていったためではないかと考えられる。そこから面接協力者の成長につながっ
ていったのではないかと推測される。また,面接者と面接協力者が共に死についての語り を形成していく中で,面接者が面接協力者の変化や成長への語りに対してフィードバック を行う,あるいは行うことを意識していたことで,面接協力者の成長の語りがより方向付 けられていったという可能性についても考えられる。
面接協力者が死別について想起し,語りを行う時,面接協力者に与える衝撃の強さから,
故人との死別そのもの,その際にどういった体験をして,何を感じたのか,といった「死 別直後の反応」についての語りがなされていくだろう。「死別直後の反応」についての語り を行うことで,自分自身の体験を整理して,故人の死を受け入れる準備をすることは可能 と考えられる。そこからさらに面接者が死別経験前後の変化に焦点を当てることで,面接 協力者は死別がもたらした影響や自分自身・他者の変化についての語りの生成を行う。そ れによって「死別経験後の変化」の中の「他者とのかかわり」「関係の変化」「自分自身の 変化」が相互作用を起こし,故人の死やそれに関連した出来事に新たな意味づけがなされ ていき,面接協力者の中に再統合されていくのではないかと考えられる。
2.先行研究のモデルとの比較
先行研究で示された死別経験についての各モデルと本研究で作成された概念関係図を比 較してみる。リンデマン(1984)に代表される医学モデルとは,まず悲嘆を正常・病的と区別 しないという点で異なる。正常か異常かで悲嘆を区別し,身体・精神症状を診断し,治療 を行うのである。悲嘆の普遍的症状は特定されておらず,正常か異常かの判断は,死の持 つ背景によって大きく左右されるであろう。本研究では,正常か異常かの判断よりもむし ろそれぞれの死が持つ背景に焦点を当てており,悲嘆だけでなく死別経験をいかにして捉 え直していくか,死別経験がその後の死別経験時のかかわりにどのように影響していくの かといったより広い範囲を扱っていると言えるだろう。
ボウルビィ(1981)やデーケン(1986)に代表される段階モデルと比較すると,本研究でも
「生前の故人との関係」「死別の仕方」「死別直後の反応」はある程度の段階を経ており,
時系列的に死別経験を捉えている。段階モデルは死別経験者の内面のみに焦点を当て,そ れ以外の多用な要因の影響にあまり言及していない。「故人との関係」や「死別の仕方」と いった死別の背景を組み込んでおり,全ての人が一様に段階を経るわけではないという点 で本研究は,段階モデルと異なると言えるだろう。
ウォーデン(1993)に代表される課題モデルと比較すると死別経験者を主体的,能動的存在 であると捉えている点では一致している。ただ本研究では,悲嘆の解決に向けて課題を遂 行するというよりも,むしろ死別経験後の自分自身・周囲の変化に目を向けることで,変 化の語りを生成していき,様々な相互作用を起こすこと考えている。悲嘆の解決という最 終目標を設定しておらず,終わりがなく変化し続けていく過程として捉えているという点 も課題モデルと異なるといえるだろう。
先行研究のモデルとの比較を行ってきたわけだが,本研究で作成された概念関係図の最
も大きな特徴は,概念関係図の中に面接者と面接協力者の相互作用を前提として組み込ん でいるという点であると考えられる。日常生活において死についての語りが行われる機会 は少ないと言える。その中で意識化が可能で,語られる機会が多いのが「死別直後の反応」
「生前の故人との関係」であると推測される。故人との関係性,死別経験の中で印象に残 っている出来事や感情の起伏などについての語りが生成されることが多いであろう。逆に,
「死別経験後の変化」は,死別経験自体よりも衝撃は小さく,見過ごされやすいと考えら れる。死別経験者は,「死別経験後の変化」に相当する経験をしてきてはいるが,それを語 りとして表出することはほとんど無かったのではないかと推測される。また「死別経験後 の変化」は,その変化自体をどう捉えるか,その変化をどのように語るのか,どのような 価値観を持った人物と語りを生成していくのか,様々な要因の影響を受けるため,変化し やすいと予想される。
本研究においては,面接調査で用いる質問項目の選定を行い,死の意味,死別による変 化について焦点かがなされていくように意図して面接が構造化されている。加えて,面接 者自身,死別経験の衝撃の大きさや困難さを認めつつ,その後の変化・成長を信じており,
そのことを意識しながら面接を行っている。面接者が積極的に死別経験者に介入していき,
「死別直後の反応」の語りから一歩進んで,死別経験後の自分,死別経験後の変化に目を 向けることで,意識化あるいは語りとして生成することが困難であった「死別経験後の変 化」についての語りを生成することが出来たのではないかと考えられる。やまだ(2002)は,
人は語りの中で,他者の語りを取り込み,自分自身の言葉と関係づけて語り直し,自分の 物語を生成していくと述べている。本研究において作成された関係概念図は,死別経験者 の内面,状況,能動性だけでなく,面接者と面接協力者が共に死についての語りを生成し,
生成された様々な語りがどのように影響し合っているかといった面接者と面接協力者の語 りの相互作用について統合的に示していると言えるだろう。
3.臨床的活用について
喪失の意味再構成を目的とした質問や介入法は数多く存在する。しかし,それらはセラ ピストが経験的に有用であると判断しただけで,それぞれがどのように作用しているのか 明らかにされていない。本研究では,死別経験の語り直し・意味の再構築についての関係 図を作成している。死別経験者の語りがそれぞれどのように影響しているのかを図示して おり,これは死別・喪失を経験したクライエントとの面接が停滞した時に有用であると考 えられる。クライエントの語りがどのようになされ,どこで停滞しているのか,その停滞 に介入するには,何に焦点を当てていく必要があるのか,図 1 の関係概念図と選定されパ ッケージ化された質問項目を手がかりにして,セラピストはクライエントと共に語りを生 成していくことは可能かもしれない。
しかし,第 4 章の結果から明らかなように「人間関係の再確認」への影響は小さいとい う特徴も見られる。坂口(2002)は,「人間関係の再認識」因子は死別者を取り巻く実際の人