アプローチを用いて―
1.目的
死別経験に関する研究において,質問紙法では,個人が持っている言葉に表わすことが 難しい複雑な感情について扱うことは困難であると推察される。川島(2004)は,質問紙 偏重の現状においては,個人内でのアンビバレントな感情や意味を掬いえてないという問 題を指摘している。また死別経験者のインタビューをもとに作成された段階モデルには,
全ての死別体験者が全ての段階を通過するわけではないこと,各段階を直線的に進むわけ ではないこと,各段階の境界がそれほど明確ではないこと,悲嘆の解決の明確な終点を同 定することは困難であること,といった問題があり,課題モデルには,故人との絆も断絶 を強調しているといった問題があることが指摘されている(鷹田,2005)。加えて,これらの モデルはインタビュ―によって話された死別経験者の個別の経験や故人との関係性といっ た多くの要因を掬いきれておらず,研究者が経験的に多くのインタビューの共通性を抽出 し,モデル化したに過ぎないと考えられる。木下(1999)は,質的研究の方法論の曖昧さを指 摘しており,従来の質的研究の方法論では,研究者の特定個人の特別な能力によって研究 が行われており,いかなる方法で研究が行われているかその方法論に関して言及されない ことが多いと述べている。またフリック(2002)は,質的研究において,研究者が自分の理論 的仮定や構造に捕らわれて事象の特定の側面にのみ注意を向けて,研究対象の持つ構造や 新たな知見を発見することが困難になる危険性を指摘している。
上述した問題を解決するには,明確化された方法を用いて死別の個別的な経験に目を向 ける必要があるのではないかと考えられる。そこで,死と死に逝く過程についての研究法 として,①結果というよりその過程の調査が可能,②データの選抜と相互作用を持ち,分 析が同時に行われる,③研究の分野やそれに対する価値,認知が多岐にわたる場合に,複 数の展望を組み入れることが出来る,といった有用性を持つグラウンテッド・セオリー・
アプローチ(Owens&Payre,1999)を用いて研究を行った。グラウンテッド・セオリー・
アプローチでは,データの解釈は作業的枠組みの中で行われ,分析結果を理論の形でまと めあげるため,実践的活用を通してその理論の検証が可能である(木下,1999)。明確化され た方法論のもとで個人の経験に沿った知見を積み重ねていくことで,死別経験者がどのよ うな経験をし,それをいかに語り直していくのか,といった問題に対して実証的・機能的 アプローチが可能になっていくと推察される。故人との関係性やかかわり,死別経験者の より具体的な経験に着目し,そういった語りから得られる逐語データを明確な枠組みの中 で分析し,個人のデータに沿った死別経験の過程を明らかにしていうことを本研究の目的
とした。
2.方法 1)面接協力者
2007年7月にH大学にて集団実施した質問紙において面接調査の協力者を募り,協力希 望者には質問紙に連絡先を記入してもらい,後日改めて面接調査協力の確認を行った。そ の結果,質問紙に連絡先を記入してくれた人が18人,その後改めて連絡を取り調査に協力 してくれた人が7人となった。調査時期は2007年10~11月であった。教示は以下の通り である。「面接におけるテーマが「死」「死別」となっているため,非常に答えにくいもの,
回答を避けたいものがあるかもしれません。困難な場合は無理にお話していただかなくて も結構です。面接に要する時間は約1時間を予定しています。面接中にお話いただいたこ とをICレコーダーにて録音する予定です。録音された内容は卒業研究に活用するもので あり,外部に公表されることは一切ありません。また録音された内容は調査終了後,私が 責任を持って処分いたしますのでプライバシーが侵害されることもありません。」
2)面接調査の実施
①人生線の記入:面接協力者に影響を与えていると推測される過去・未来のライフイベン トを把握すること,人生のどの時点で死別を経験したのか・その死別経験がライフイベン トに与えている影響を把握すること,を目的として生まれてから将来までの自分自身の人 生を一本の線で表してもらった。
②人生線をもとにしての語りの生成:人生線をもとにして,面接協力者に自由に語りをし てもらう。時間制限は特に定めない。ラインが上下に変化したところ,変化しなかったと ころについて面接者が適宜,質問を行った。
③死別経験についての語りの生成:より詳しく死別経験についての語りをしてもらう。面 接者が行った質問は以下の通りである。
(a)今までの死別経験について(死別経験の回数,故人との関係・年齢・死因・死別に至 るプロセス,死別を経験した時の反応・周囲の人の反応,周囲の人のあなたへの対応・
関わり,死別を経験しての自分自身の変化,家族の変化,ものの見方・考え方の変化,
死別に対する意味づけ)
(b)過去の死別経験をふり返ってみての変化,時間が経過したことによる変化 (c)死別経験をしていなかったらどうなっているか
(d)あなたにとっての死とはどんなものであるか (e)死別経験時にして欲しいサポート
(f)死別経験者に対してあなたが行うサポート
④終了の判断:最後に,語り尽くしたかどうか,他に話したいことはあるのか確認して,
特にないという反応が生じた場合,そこで面接を終了とした。本調査での面接時間は,
60~180分であり,平均時間は100分であった。
3)分析方法
逐語記録をデータとして木下(2003)の修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ を用いて分析を行った。修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを行う際に,木下
(2003)が記す手順に従って分析を行った。以下にその手順を引用する。
①分析テーマと分析焦点者に照らして,データの関連箇所に着目し,それを 1 つの具体 例とし,かつ,他の類似具体例をも説明できると考えられる,説明概念を生成する。
②概念を創る際に,分析ワークシートを作成し,概念名,定義,最初の具体例などを記 入する。
③データ分析を進める中で,新たな概念を生成し,分析ワークシートは個々の概念ごと に作成する。
④同時並行で,他の具体例をデータから探し,ワークシートのヴァリエーション欄に追 加記入していく。具体例が豊富に出てこなければ,その概念は有効でないと判断する。
⑤生成した概念の完成度は類似例の確認だけでなく,対極例についての比較の観点から データを見ていくことにより,解釈が恣意的に偏る危険を防ぐ。その結果をワークシ ートの理論的メモに記入していく。
⑥次に,生成した概念と他の概念との関係を個々の概念ごとに検討し,関係図にしてい く。
⑦複数の概念の関係からなるカテゴリーを生成し,カテゴリー相互の関係から分析結果 をまとめ,その概要を簡潔に文章化し,さらに結果図を作成する。
4)分析終了の判断について
グラウンデッド・セオリー・アプローチの考案者であるストラウスとコービン(1999)
は,①あるカテゴリーに関して新たな,あるいは重要なデータがもう現れてこない,②カ テゴリーがバリエーションを示す特性という次元で十分に発展している,③カテゴリー間 の関係が十分に精緻化され妥当性が確認された,という3つの点が満たされた状態を理論 的飽和化とし,理論的飽和化を分析終了の基準とした。しかし,実際に理論的飽和化に到 るまで研究を行うことは非常に困難であり,どの時点で理論的飽和化に到ったか適切に判 断することも難しい。木下(1999)は,分析が出来たと思える点に研究目的を設定し直し,
その時点まで理論的飽和化に到ったとする方が現実的であるとしている。ただ本研究では,
研究目的と結果を照らし合わせたところ,木下の述べている研究目的の再設定を行うこと が困難であった。本研究では,西條(2007)が「概念ごとに分析ワークシートをきちんと 完成させることによって作られたモデルが研究目的と照らしてそれを達成出来ている状 態」と再定義した理論的飽和化を分析終了の基準とした。
3.結果
1)生成された概念およびカテゴリー
分析を繰り返した結果,8のカテゴリーが得られた。表11は生成された概念と定義,お よびそれらを含むカテゴリーについて示したものである。生成されたカテゴリーを以下に 示す。
①生前の故人との関係:このカテゴリーは,生前の故人との関係について示しており,故 人との心的な距離や普段の関わりによって,「故人と関わりが多い」「故人と関わりが少 ない」の2つの概念に区別される。「生前の故人との関係」は,次のカテゴリー「死別の 仕方」に影響を与えると予想される。
②死別の仕方:このカテゴリーは,故人の死を予期できるかどうかによって,「死の予期 が出来る死別」「死の予期が出来ない死別」の2つに区別している。「生前の故人との関 係」において,日常的に故人と関わりを持っていれば,故人の死を予期する機会は増す と予想される。「生前の故人との関係」「死別の仕方」によって,故人の死の受け止め方 は変化し,次のカテゴリー「死別直後の反応」に影響を与えると考えられる。
③死別直後の反応:このカテゴリーは,故人の死をどのように受けとめるか,受けとめる ことによって生じる感情の変化の過程を示しており,7つのサブ・カテゴリー「死の予期・
覚悟」「死を自然なこととして受け入れる」「死に対する衝撃」「死の実感のなさ」「死を 確認することの恐怖」「故人への思い」「遺体から得られる死の実感」からなる。またサ ブ・カテゴリー「故人への思い」は,4 概念「悲しい・会いたい」「故人に対するネガテ ィブな感情」「なぜ自殺を選ぶのか?わからなさと怒り」「故人に対してこうすれば良か ったという後悔」からなる。この「死別直後の反応」は,カテゴリー「死別経験後の変 化」「死の想起」と相互作用しており,カテゴリー「死別経験時の関わり」に影響を与え ていると考えられる。
④死別経験後の変化:このカテゴリーは,死別経験をきっかけにして生じた変化について であり,3つのサブ・カテゴリー「他者とのかかわり」「関係の変化」「自分自身の変化」
からなる。「死別経験後の変化」は,「死別直後の反応」「死について話すことの意味」と 相互作用している。この「死別経験後の変化」に語りの焦点を当てていくことで,死別 経験に対する認識の変化が生じ,新しい意味づけがなされていくと予想される。
⑤死の想起:このカテゴリーは,自分自身あるいは他者の死を現実的な出来事として想起 し,死が起こりうる可能性についての気づきに関するものであり,2つの概念「恐怖を 含まない自己・他者の死の想起」「自分や誰かが死ぬかもしれないことへの恐れ」からな る。恐怖の感情を含むかどうかによって,2つの概念に分けられている。概念「恐怖を