• 検索結果がありません。

経営者の利益制御行動 と繰延税金資産の調整

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "経営者の利益制御行動 と繰延税金資産の調整"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

経営者の利益制御行動 と繰延税金資産の調整

小樽商科大学 商学部 大 沼 宏

最 近 の 欧 米 の 会 計 ジ ャ ー ナ ル を 読 ん で い る と,ThomasandZhang[2000], VanCaneghem[2002],DuCharme,eta1,[2004]な どの,「 利 益 制 御 」(earnings management)を 題 材 と して 取 り上 げ る研 究 が 非 常 に増 えて きて い る こ と に気 づ く。 日本 に お い て も,利 益 制 御 に 関係 す る研 究 は増 加 して い る。 こ う した 傾 向 の根 底 に あ るの は,企 業 の財 務 報 告 全 般,特 に財 務 諸 表 に対 す る一 種 の 不 信 感 が 顕 在 化 して き て い る の だ と考 え られ る 。 証 券 ア ナ リス トや 機 関 投 資 家 の み な らず研 究 者 の 問 に お い て も,こ う した 認 識 が 広 が りつ つ あ る の は非 常 に興 味 深 い 。

本 稿 は経 営 者 の 利 益 制 御 行 動 に つ い て 説 明 す る と と も に,そ の 道 具 と し て, 最 近 浮 上 した 税 効 果 会 計 を適 用 す る こ とで 計 上 さ れ る繰 延 税 金 資 産 を通 じた 利 益 制 御 の可 能 性 を検 討 す る。 そ の 上 で,近 年 ジ ャー ナ ル に掲 載 され た,評 価 性 引 当 額 の 設 定 を通 じた 利 益 制 御 の 可 能 性 に 関 す る研 究 を い くつ か 取 り上 げ る。

文 献 調 査 を通 じて 得 られ た イ ンプ リ ケ ー シ ョ ンか ら,今 後 の研 究 の 可 能性 を探 る。

利益制御行動と発生主義会計

HealyandWahlen[1999]は,利 益 制 御 を次 の よ う に 定 義 す る。

企 業 の 経 済 的 業 績 に つ い て,株 主 か らの 評 価 の 誘 導(mislead)を 試 み た り,あ る い は報 告 され る会 計 数 値 に依 存 した契 約 結 果 に影 響 を与 え る こ と を 目的 と して,財 務 報 告 内 容 を変 え る た め に,経 営 者 が な ん ら かの 判 断 を

〔165〕

(2)

166

商 学 討 究 第54巻 第4号

行 った り,あ る い は何 らか の 取 引 を遂 行 す る と き に,利 益 制 御 が な さ れ た と考 え られ る 。

と して い る 。 つ ま り利 益 制 御 と は,経 営 者 が 一 定 の 目的 を達 成 す る た め に,会 計 数 値 を 戦 略 的 に制 御 す る,い わ ゆ る ミ ク ロ会 計 政 策 を指 す もの と理 解 され る

(中條[2001])。 利 益 制 御 の 特 徴 は,決 して法 に 抵 触 す る類 の もの で は な い と い う 点 に あ る。 とい う の も,利 益 制 御 の 道 具 は,GAAPと 呼 ば れ る一 般 に認 め られ た会 計 手 法 の 範 囲 内 に お い て 選 択 され る か らで あ る。 この た め,利 益 制 御 を実 施 した か ど うか を検 証 す る の は,非 常 に厄 介 な問 題 で あ る。

Brown[1999]に よ る と,経 営 者 に よ る 利 益 制 御 は,し ば しば 次 の3つ の ア プ ロー チ の 一 つ か あ る い は そ れ 以 上 を利 用 す る こ とで 達 成 さ れ る と指 摘 す る。

第 一 に,数 多 くの財 務 報 告 上 の 選 択 肢 の 中 か らひ とつ の方 法 を選 択 す る こ とに よっ て な さ れ る場 合 で あ る。 例 え ば,リ ー ス も企 業 買 収 も どの よ う な ス キ ー ム を選 択 した か に よ っ て,そ の財 務 報 告 内容 は大 き く異 な る。 リー ス に つ い て い え ば,フ ァイ ナ ンス リー ス を 選 択 した か,オ ペ レー テ ィ ング リー ス を 選 択 した か で,財 務 報 告 内 容 は ま っ た く異 な る。 フ ァ イ ナ ンス リ ー ス を 選 択 す る と,一 部 の例 外 を 除 い て,リ ー ス した 資 産 は貸 借 対 照 表 に 記 載 さ れ る(オ ンバ ラ ンス

と呼 ぶ)。 結 果 と して 貸 借 対 照 表 上 に リー ス 資 産 が 計 上 さ れ る こ と に な り,購 入 した の と財 務 報 告 上 は 変 わ らな い こ とに な る。 これ に対 して オ ペ レー テ ィ ン

グ リー ス を選 択 す る と,リ ー ス した 資 産 は 一 切 貸 借 対 照 表 に記 載 さ れ な くな る (対 照 的 に オ フ バ ラ ンス と呼 ぶ)。 結 果 と し て,オ ペ レー テ ィ ン グ リー ス を選 択 した ほ う が,貸 借 対 照 表 を膨 ら ませ る こ と な く財 務 報 告 が 行 え る の で,財 務 上 の 効 率 性 を 向 上 で きる 。

第 二 に,資 産 の 購 入 お よ び処 分 に よ っ て 利 益 制 御 が な され る 場 合 で あ る。 固

定 資 産 を売 却 す る と,通 常 は 固 定 資 産 売 却 損 益 が 計 上 され る。 そ れ 自体 は 利 益

制 御 の 道 具 とは な らな い 。 しか し,売 却 先 が 関 連 企 業 で あ っ た り,取 引 先 だ っ

た場 合 は ど うで あ ろ う。 も と も とそ の 固 定 資 産 が 不 要 で あ っ た と して も,売 却

の結 果 多 額 の損 失 を計 上 す る こ とが 予 想 され る場 合,す ぐに売 却 せ ず に次 期 ま

で置 くか も しれ ない 。 あ る い は利 益 額 を減 ら し て配 当 を減 らす た め に,逆 に前

(3)

経営 者 の利益 制御 行動 と繰 延税 金 資産 の調 整

167

倒 しで 売 却 を急 ぐか も知 れ な い 。 い ず れ に し て もそ の 選 択 肢 は 経 営 者 の 下 にあ

る 。

第 三 に,経 営 者 の 主 観 的 な見 通 しや 判 断 に よ っ て,財 務 数 値 が 変 動 す る 場 合 で あ る。 例 え ば,貸 付 債 権 につ い て の貸 倒 見 積 高 を 意 味 す る貸 倒 引 当金 は,経 営 者 の 主 観 的 判 断 に よっ て 金 額 の 最 も変 動 しや す い もの の 典 型 で あ る。 平 成11 年 公 表 の 「 金 融 商 晶 に係 る会 計 基 準 」 に よる と,こ の 貸 倒 見 積 高 を計 上 す る た め に は,ま ず 貸 付 債 権 の 分 類 か ら始 め る よ う求 め る。 次 い で 当該 会 計 基 準 に よ る と,債 務 者 の 財 政 状 態 お よ び経 営 成 績 等 に 応 じて貸 付 債 権 は3区 分 さ れ る 。 第 一 に,重 大 な 問 題 が 生 じて い な い 債 務 者 に 対 す る債 権 と して 一 般 債 権,第 二 に,経 営 破 綻 の状 態 に は 至 っ て い な い が,債 務 の 弁 済 に 重 大 な 問 題 が 生 じて い る か ま た は 生 じる 可 能 性 の 高 い 債 務 者 に対 す る 債 権 と い う こ と で 貸 倒 懸 念 債 権,第 三 に,経 営破 綻 ま た は実 質 的 に は経 営 破 綻 に 陥 っ て い る債 務 者 に対 す る 破 産 更 正 債 権 等 で あ る。 以 上 の よ う に三 分 類 した 上 で,そ れ ぞ れ の 債 権 状 況 に 適 した 貸 倒 引 当 金 を 計 上 す る こ とを,当 該 会 計 基 準 は 求 め る1)。 問 題 な の は, 貸 倒 懸 念 債 権 に つ い て貸 倒 引 当金 を計 上 す る と き で あ る 。

貸 倒 懸 念 債 権 に 貸 倒 引 当 金 を設 定 す る場 合,二 通 りの 方 法 を 当 該 会 計 基 準 は 認 め る 。 一 つ は担 保 処 分 見 込 額 を控 除 した残 額 に対 して 貸 倒 引 当金 を設 定 す る 方 法,い ま一 つ が 貸 付 債 権 の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 回 収 見 込 額 を見 積 も る こ とが で き る場 合,債 権 の 割 引 現 在 価 値(discountedcashflow)と 帳 簿価 額 との 差 額 に対 して 設 定 す る 方 法 で あ る。 い ず れ の 方 法 も,経 営 者 の 主 観 に よ っ て大 き く 変 化 す る 可 能 性 を持 つ 。 担 保 処 分 見 込 額 は市 場 の 動 向 に左 右 さ れ る た め,処 分 の タ イ ミ ン グ に よ っ て金 額 は 変 化 し う る だ ろ う。 割 引 現 在 価 値 に つ い て も,利 子 率 を何 にす る か,回 収 期 間 を どの程 度 にす る か に よ っ て も,回 収 見 込 額 は 変 化 し うる 。 も ち ろ ん 経 営 者 の 主 観 的 な 判 断 に つ い て も,監 査 に よ っ て 客 観 性 が 付 与 さ れ る との 意見 も あ りえ る もの の,限 界 は あ る。 本 稿 の 主 題 で あ る繰 延 税 金 資 産 の 回 収 可 能 性 の判 断 は,こ の カ テ ゴ リー に属 す る 。

1)内 容 につ い て 「金 融 商 品 に か か る 会 計 基 準 」 第4を 参 照 。

(4)

ヱ68

商 学 討 究 第54巻 第4号

で は な ぜ,利 益 の み な らず あ らゆ る会 計 数 値 は,経 営 者 に よ る 制 御 が 可 能 な の か 。 この 点 に つ い て,す で に伊 藤[1996]を 含 む 数 多 くの 研 究 に よ り,経 営 者 が 会 計 数 値 を戦 略 的 に 制 御 す る理 由 とそ の 方 法 は指 摘 され て きた 。 経 営 者 に よ っ て利 益 数 値 の 制 御 が 可 能 と な る最 大 の 理 由 は,企 業 会 計 が 発 生 主 義 を フ レ ー ム ワー ク と して い る か らで あ る。

発 生 主 義 会 計 とは,キ ャ ッ シ ュ フ ロー 計 算 に 経 営 者 の見 積 も りや 推 量 に基 づ い て 算 定 され る発 生 処 理 額(accrual)の 調 整 を加 え る こ と に よ っ て 利 益 計 算 を行 う もの で あ る 。 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー は,現 金 収 支 とい う,企 業 に つ い て もっ と も客 観 的 な情 報 を提 供 す る 。 これ に対 し,キ ャ ッ シ ュ フ ロー 情 報 だ けで は不 十 分 で あ る と の 主 張 が か な り以 前 か ら な さ れ て きた 。PatonandLittleton [1940]は,発 生 主 義 会 計 に と っ て 最 も 重 要 な 概 念 と し て 「 対 応 概 念 」

(matchingconcept),い わ ゆ る 費 用 収 益 対 応 の 原 則 を指 摘 す る 。 収 益 と費 用 とは,企 業 が 獲 得 した 成 果 とそ れ に 関 わ って 生 じた 犠 牲 分 を損 益 計 算 書 上 に表 した も の で あ る。 収 益 と費 用 の 差 額 で あ る利 益 は,単 に キ ャ ッ シ ュ フ ロー か ら 計 算 さ れ るの で は な く,繰 延 項 目(deferrals),費 用 配 分 要 素(allocations), 評価 勘 定(valuations)な ど の発 生 処 理 額 を加 算 減 算 す る こ と に よ っ て 計 算 さ れ る(Sloan[1996])。 こ れ ら発 生 処 理 額 に は経 営 者 の意 思 や 主 観 が 強 く反 映 さ れ,そ れ 故 発 生 処 理 額 に は企 業 の 将 来 に 向 け た方 向性 や 可 能 性 が 反 映 され る。

こ う した 点 か ら,PatonandLittleton[1940]は,収 益 と費 用 を損 益 計 算 書 上 に 適 正 に対 応 させ る た め に は,キ ャ ッシ ュ フ ロ ー に係 る情 報 だ けで は不 十 分 で あ り,発 生 主 義 会 計 が 必 要 で あ る と論 じる 。

そ の 一 方 で,対 応 概 念 は きわ め て 抽 象 的 で あ り,結 果 と して 計 算 さ れ る 利 益 数 値 は恣 意 的 に操 作 で きる と い う,脆 弱 性 を抱 え て い る2)。 つ ま り,企 業 会 計 が発 生 主 義 を採 用 して い る 限 り,経 営 者 の 利 益 制 御 行 動 は 必 然 的 に起 こ り うる 。

2)発 生 主 義 会 計 は,経 営 者 の 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー へ の 予 測 要 素 を反 映 す る とい う

きわ め て 有 効 な シ ス テ ム で あ る(Beaver[1989】)こ とか ら,当 該 企 業 の 将 来 像 も浮 き彫 り に で き る 。 利 益 制 御 が 可 能 とい う致 命 的 な 欠 陥 が あ る こ と で,逆 に 企 業 の 将 来 に つ い て の 情 報 を含 め る こ とが で きる の が 発 生 主 義 会 計 の特 徴 で あ る。

詳 細 は 大 沼[2000]参 照 。

(5)

経営 者 の利益 制御 行動 と繰 延税 金 資産 の調 整

169

1980年 代 の 中 頃 か ら,発 生 処 理 額 の 測 定 を 通 じて会 計 政 策 行 使 の 実 態 を解 き明 か そ う とす る 試 み が ム ー ブ メ ン トと な りつ つ あ る の は,発 生 主 義 会 計 の本 質 に 起 因 す る試 み で あ る とい え よ う3)。

響 驚諜 ⇒ 饒繍 譲 聲

余地 を与 える す る ことで利益 計算 が

な され る発 生 主義 会計

約 諜灘'

像 を浮 き彫 りにす る

図1発 生 主義 会計 と利 益制 御 の関係

税効果会計と経営者の裁量 との関連性

経営者 の利益 制御行動 が発 生主義 会計 に根付 いた ものであ る以 上,発 生 主義 会 計 に則 した 会 計 処 理 に は全 て 利 益 制 御 の可 能 性 が あ る とい う こ と に な る 。 以 下 で は税 効 果 会 計 に よ っ て 計 上 さ れ る 繰 延 税 金 資 産 に つ い て 議 論 を 進 め よ う。

税効 果会計 とは,法 人税 ・住民税及 び事業税(以 下法 人税等)の 処理 に発 生

主 義 を 適 用 す る こ と で な さ れ る 期 間 配 分 処 理(interperiodallocation)の こ と

3)発 生 処 理 額 の 測 定 を 通 じた リサ ー チ デ ザ イ ン は,McNichols[2000]に よ る と三 分 類 さ れ る 。 第 一 の デ ザ イ ン は発 生 処 理 額 合 計 額 を 分 析 す る も の で あ る。 中 條 [2001]は これ に 該 当 す る 。 第 二 の デ ザ イ ン は 特 定 の 発 生 処 理 額 につ い て 分 析 し た も の で あ る 。 これ に該 当 す る の は 野 間[2001],第 三 の デ ザ イ ン は 制 御 後 の 報 告 利 益 を そ の 分 布(distribution)か ら分 析 す る も の で あ り,こ れ に 該 当 す る も の に 須 田 ・首 藤[2001]が あ る 。

(6)

170

商 学 討 究 第54巻 第4号

で あ る。 税 効 果 会 計 適 用 上 の 最 大 の 問題 点 は,繰 延 税 金 資 産 の 回 収 可 能 性 を ど う評 価 す る か と い う もの で あ っ た 。 繰 延 税 金 資 産 は,財 務 会 計 と税 務 会 計 の そ れ ぞ れ に基 づ く貸 借 対 照 表 価 額 の 差 異 の う ち,納 税 申告 上 将 来 の 課 税 所 得 を減 額 させ る効 果 を持 つ 将 来 減 算 一 時 差 異 に 回 収 ま た は 支 払 の 見 込 まれ る期 の 実 効 税 率 を乗 じて 認 識 す る4)。 しか し将 来 減 算 一 時 差 異 が,実 際 に 将 来 の課 税 所 得 を 減 額 す るか ど うか は,極 め て判 断 の 難 しい 問 題 で あ る 。Visvanathan【1998】

に よ る と,繰 延 税 金 資 産 を認 識 す る た め に 必 要 な もの と して,将 来 加 算 一 時 差 異 と還 付 金 及 び 将 来 の 課 税 所 得,そ して税 務 計 画 を挙 げ る。 将 来 加 算 一 時 差 異 と還 付 金 につ い て は,あ る程 度 保 証 さ れ て い る と して,そ の客 観 性 と検 証 可 能 性 は 認 め る。 そ の 一 方 で,彼 は将 来 の 課 税 所 得 と税 務 計 画 に つ い て あ ま りに主 観 的 と指 摘 す る。 税 効 果 会 計 に 関 す る 米 国 財 務 会 計 基 準109号(SFAS109号) は,繰 延 税 金 資 産 の 一 部 また は全 部 が 回収 され な い(課 税 所 得 を減 額 し ない) 可 能 性 が 高 い場 合,繰 延 税 金 資 産 を取 り崩 す 評 価 性 引 当 額 の設 定 を指 示 す る。

こ の 可 能 性 は50%超 の 確 率 と一 般 に は理 解 され て い るが,MillerandSkinner [1998]は 評 価 性 引 当 額 の 設 定 に つ い て の判 断 は,経 営 者 の 裁 量 に ほ ぼ 任 され て い る と説 明 す る。

つ ま り将 来 減 算 一 時 差 異 を基 に した 繰 延 税 金 資 産 の計 上 自体 経 営 者 の裁 量 に か な り依 存 して い る と と も に,回 収 可 能 性 の 判 断 に基 づ く評 価 性 引 当額 の 設 定 につ い て も同 様 の状 況 に あ る。 結 果 的 に評 価 性 引 当額 の 設 定 を 通 じて 法 人税 等 及 び税 引 後 当 期 純 利 益 は 制 御 可 能 と な る(図2参 照)。

こ う した 実 態 を 背 景 に,繰 延 税 金 資 産 に つ い て 設 定 され る評 価 性 引 当額 の 変 動 を説 明 す る要 素 と背 後 に あ る経 済 的 な動 機 に つ い て注 目が 集 まっ て い る 。 こ れ に 関 して,米 国 に お け る評 価 性 引 当額 と利 益 制 御 行 動 に係 る研 究 を見 て い く。

4)税 効 果 会計 及 び繰延税 金 資産 の認 識 と測 定 につい ての 詳細 は,大 沼[2000]を 参

照 され た い。

(7)

経営 者 の利益 制 御行 動 と繰延税 金 資産 の調 整

171

将 来減算 一時 差異

繰 延税 金 資産 の計

評価性 引 当額 の設 定

図2経 営者 の裁 量 がそ れぞ れに与 える影響

評 価 性 引 当額 と利 益 制 御行 動 の リン ケ ー ジ

Visvanathan[1998]

この研 究 は,評 価 性 引 当 額 の 変 動 は利 益 制 御 と 関係 が あ る か を 検 証 した もの で あ る。 具 体 的 に い え ば,評 価 性 引 当 額 の変 動 と 当期 純 利 益 の変 動 の 関係 に つ い て実 証 的 に検 証 し た。 これ と と も に,財 務 上 の 特 約(debtcovenant)に よ っ て確 約 され た レバ レ ッ ジ5)制 約 及 び ボ ー ナ ス 制 度 な どの イ ンセ ンテ ィ ブ及 び 利 益 平 準 化 イ ンセ ンテ ィ ブ が 利 益 制 御 行 動 と関係 す る か に つ い て も検 証 した 。 調 査 の結 果 か ら,収 益 性 は 高 い が レバ レ ッ ジ が 高 く財 務 的 に は逼 迫 して い る企 業 は,評 価 性 引 当 額 を変 化 させ て 当期 純 利 益 を 変 動 させ て い る可 能性 が 高 い と指 摘 さ れ た 。 とは い え,評 価 性 引 当額 を用 い た利 益 平 準 化 の 可 能 性 は低 く,評 価 性 引 当 額 の 変 動 と レバ レ ッ ジ制 約 及 び ボ ー ナ ス 制 度 との 問 に は直 接 的 な 関係 性 は見 られ な か っ た 。

5)レ バ レ ッ ジ と は 負 債/資 本 比 率 を 意 味 す る 。

(8)

ヱ72

商 学 討 究 第54巻 第4号 Behn,etal.【1998】

こ の 研 究 の 目 的 は,繰 延 税 金 資 産 に 対 し て 設 定 さ れ る 評 価 性 引 当 額 と SFAS109号 を 適 用 す る こ とで 認 識 さ れ た さ ま ざ ま な 変 数 と の 関 係 を実 証 的 に 明 らか に し よ う とい う もの で あ っ た。 単 変 量 解 析 と多 変 量 解 析 に よっ て 得 られ た 結 果 か ら,以 下 の 点 が 明 らか に な っ た 。 過 年 度 課 税 所 得,将 来 加 算 一 時 差 異 の 解 消,一 時 差 異 の 源 泉,OPEB(年 金 以 外 の 退 職 後 給 付)に よ る 一 時 差 異, 将 来 課 税 所 得 が 得 られ る可 能性,及 び税 務 計 画 な どが,評 価 性 引 当額 の 金 額 を 決 定 す る要 素 で あ る こ とが わ か っ た。 加 えて,評 価 性 引 当 額 の 金 額 水 準 につ い て も,こ れ らの 変 数 は 強 い影 響 を与 え て い る こ とが 明 らか に な っ た 。

MillerandSkinner[1998】

彼 らは,利 益 制 御 に 関 係 す る よ く知 られ た 仮 説 と し て,レ バ レ ッジ仮 説 「レ バ レ ッジ の 高 い 企 業 の 経 営 者 は 評 価 性 引 当 額 を小 さ くす る傾 向 に あ る」 と,利 益 平 準 化 仮 説 「 経 営 者 は 自 らの裁 量 に よ り税 引 後 当期 純 利 益 の 変 動 を 出 来 る 限

り削 減 し よ う とす る」 の 両 仮 説 を検 証 した 。 検 証 の 結 果,評 価 性 引 当 額 の 変 動 を 説 明 す る変 数 と して は,繰 越 欠 損 金 が も っ と も有 力 な変 数 で あ る こ とが 明 ら か に な っ た 。 そ の 一 方 でBehn,etal.[19981の 結 果 と は 異 な り,検 証 結 果 か ら は利 益 制 御 を 強力 に支 持 す る変 数 は 発 見 で き なか っ た 。

Bauman,etal【2001】

彼 らが 設 定 した 仮 説 と して は,以 下 の4仮 説 で あ っ た 。 経 営 者 が 評 価 性 引 当 額 を通 じて 利 益 制 御 を行 うの は,① 当 期 純 損 失 を 回避 す る た め② 当 期 純 利 益 減 少 を 避 け る た め ③ 「ビ ッグ バ ス 」6)を生 み 出 す た め ④ 投 資 ア ナ リス トの 予 想 に 合 わせ るた め とい う もの だ っ た。 検 証 結 果 か らい え ば,ポ ジ テ ィ ブ な反 応 が 見 られ た の は,③ と④ の仮 説 だ っ た 。 しか しポ ジテ ィブ な 反 応 を見 せ た サ ン プ ル は,③ に つ い て は 全 体 の わ ず か1%,④ に つ い て は14%足 らず の 結 果 だ っ た 。 つ ま り,企 業 に よ っ て は仮 説 に沿 っ た 結 果 を 示 した もの の あ っ た が,全 体 と し

6)業 績 の 悪 い決算 期 にお いて,リ ス トラ費 用等 を大 幅 に計 上 して 当期 の業績 を さ ら

に悪化 させ て次 期以 降 の業績 を向上 させ よう とす る(い わゆ るV字 回復)会 計処

理 を一 般 に 「ビ ッグバ ス」 と呼 ぶ。

(9)

経営 者 の利益 制 御行 動 と繰延税 金 資産 の調 整

173

て は有 意 な 結 果 は 得 られ な か っ た 。 結 論 と して,平 均 的 にSFAS109号 の 規 定

に沿 っ た行 動 を企 業 は 行 っ て い た が,そ れ を利 益 制 御 行 動 とは 判 断 で き ない と い う も の だ っ た 。

諸 研 究 に よ って示 され た知 見 と今 後 の課 題

以 上4研 究 を 踏 ま え て い え る の は,何 で あ ろ う か 。Behn,eta1.[1998]を 除 け ば,い ず れ の 研 究 か ら も評 価 性 引 当額 の 設 定 を通 じた 利 益 制御 行 動 は そ れ ほ

ど顕 著 に な っ て い な い 点 が 示 唆 さ れ る。 特 に,Mills[2001]に よれ ば,Bau‑

man,etal[2001]の 検 証 結 果 か ら は,ク ロス セ ク シ ョナ ル分 析 で は 有 力 な結 果 は得 られ な い 可 能 性 が 高 く,何 社 か 取 り上 げ た ケ ー ス 分 析 の ほ うが 適 当 と指 摘 す る 。 多 数 の サ ン プ ル か ら結 果 を得 る ま で に は,評 価 性 引 当額 を通 じた利 益 制 御 は 一 般 的 で は な い とい う見 解 を読 み 取 る こ とが で き る。 以 上 か ら今 後 の 方 向 性 と し て,次 の 二 つ が 指 摘 で きる 。

第 一 に,評 価 性 引 当 額 を通 じた 利 益 制 御 自体 が,実 務 で は まだ 定 着 し き っ て

い な い の で は な い か とい う点 で あ る。 本 稿 で 参 照 した 諸 研 究 は 米 国 企 業 を対 象

と し て い る が,Visvanathan[1998】 に よ れ ば,評 価 性 引 当 額 は 利 益 制 御 の 道

具 と し て は まだ 定 着 し き っ て い な い と され る。 しか し こ の研 究 が 発 表 され て か

ら,す で に5年 以 上 が 経 過 して い る。 い まだ に評 価 性 引 当額 を 用 い た利 益 制 御

は行 わ れ て い な い とは,到 底 い え な い と考 え られ る 。 金 融 機 関 をめ ぐる,税 効

果 資 本 議 論 は 記 憶 に新 しい 。 十 分 に検 証 可 能 な問 題 で あ ろ う。 第 二 に,サ ーベ

イ した 各 研 究 は い ず れ も米 国 企 業 を対 象 と した もの とい う こ とで あ る。 日本 企

業 に つ い て も同 じ結 果 とな るか ど うか は筆 者 の 今 後 の研 究 課 題 と した い 。

(10)

174

商 学 討 究 第54巻 第4号 参 考 文 献

Bauman,C.C.,Bauman,M.P.,andR.F.Halsey【2001】"DoFirmsUsetheDeferred TaxAssetValuationtoManageEarnings?".10ur〃alofAmericanTaxation.4sso‑

ciation,VoL23,Supplement,pp.27‑48

Beaver,W.H,[1989]FinancialReporti〃g'AnAccounting1〜evolution,2ndedition (Prentice‑Hal1)

Behn,B.K,,Eaton,T.V.andJ.R.Williams【1998】"TheDeterminantsoftheDeferred Tax.AllowanceAccountunderSFASNo.109",.4ccountingHorizons,VoL12,Noユ (March),pp.63‑78

Brown,P.R.[1999]"EarningsManagemeht:ASubtle(andTroublesome)Twistto

EarningsQuality",ノ ∂urn'alofFinancialStatement、4nalysis,VoL4(winter),PP.61‑

63

DuCharme,L.L,Malatesta,P.H.andS.E.Se負k[2004]"EarningsManage士nent,Stock Issues,andShareholderlawsuits",ノburnalのfFi〃ancialEconomics,Vol.71,No.1, pp.27‑49

Healy,P.M.andJM.Wahlen[1999】"AReviewoftheEarningsManagementLitera‑

tureariditsImplicationsforStandardSetting",ノlccountingHorizons,Vol.13,No.4, pp365‑383

McNichols,M.F.[2000】"ResearchDesignIssuesinEarningsManagementStudies", ノburnalcゾ ノ1ccountingandPublic1)olicy,VoL19,No.4‑5,pp.313‑345 Miller,G.S.andD.J,Skinner【1998】"DeterminantsoftheValuationAllowancefor』

DeferredTaxAssetsunderSFASNo.109",TheAccounting1〜eview,VoL73,No.2, pp213‑233

Mills,L.E[2001】"Discussionof"DoFirmsUsetheDeferredTaxAssetValuationto ManageEarnings?"",Jour〃alofAmerican7「axation.4∬ociation,Vol,23,Sup‑

plemeht,pp.49‑51

Sloah,R.G.[1996】"DoStockPricesFullyReflectInformationinAccrualsandCash FlowsAboutFutureEarnings?",TheAccounting1〜eview,Vol.71,No.3(July), pp.289‑315

Thomas,J.andX.Zang.「[2000],"ldelltifyingUnexpectedAccruals:acomparisonof CurrentApProaches",ノburnαlcゾAccountingandPub〃cPolic.y,VoL19,PP.347‑

376

VanCaneghem,T.[2002】"EarningsManagementInducedbyCognitiveReference Points",BritishAccounting1〜eview,VoL34,ppユ67‑178

Visvanathan,G.【1998】"DeferredTaxValuationAllowancesandEarningsMan‑

agement",Theノ ∂urnalofFinancialStatement.4nalysis,Vol.3,(summer),pp.6‑15

(11)

経 営 者 の 利 益 制 御 行 動 と繰 延 税 金 資 産 の 調 整175

伊 藤 邦 雄[1996]『 会 計 制 度 の ダ イ ナ ミズ ミ』(岩 波 書 店)

大 沼 宏[2000]「 税 効 果 会 計 全 面 導 入 の 根 底 に あ る 論 理 」 『商 学 討 究 』 第50巻 第2・

3合 併 号(3月),193‑212頁 。

須 田 一・‑iL幸・首 藤 昭 信[2001]「 経 営 者 の 利 益 予 測 と裁 量 的 会 計 行 動 」 『産 業 経 理 』 第61 巻,第2号,46‑56頁 。

中 條 祐 介[2001]「 会 計 ビ ッ グ バ ン と ミ ク ロ 会 計 政 策 」『会 計 』第160巻,第5号,741‑752 頁 。

野 間 幹 晴[2001]「 貸 倒 引 当 金 を 巡 る 経 営 者 の 裁 量 的 行 動 と証 券 市 場 」 『一 橋 論 叢 』 第 126巻,第5号,584‑600頁 。

(この 研 究 は 科 学 研 究 補 助 金 の助 成 に よ る研 究 成 果 の 一 部 で あ る。)

参照

関連したドキュメント

資本準備金 28,691,236円のうち、28,691,236円 (全額) 利益準備金 63,489,782円のうち、63,489,782円

繰延税金資産は、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26

The dynamic nature of our drawing algorithm relies on the fact that at any time, a free port on any vertex may safely be connected to a free port of any other vertex without

Tuan, Regularization and error estimate for the nonlinear backward heat problem using a method of integral equation., Nonlinear Anal., Volume 71, Issue 9, 2009, pp.. Trong

[r]

個別財務諸表において計上した繰延税金資産又は繰延

  憔業者意識 ・経営の低迷 ・経営改善対策.

今日二於テ私有権ハ政府ノ随意二左右シ得ルモノニアラズ唯土地所有権ハ無限ノ櫂利ニアラスシテ若シ公益ノ為