1 はじめに
境界確定訴訟は、戦前の旧裁判所構成法の時代には、「不動産ノ経界ノ ミニ関スル訴訟」を専属管轄として持つ区裁判所(同法14条2号(ロ)) が活躍する場であったが、戦後の司法改革で、区裁判所は廃止された。そ の後は、制度は全く異なるが、区裁判所の精神的後継者となることをめざ した簡易裁判所(簡裁)が、訴額(係争地域の物の価格(係争部分の固定 資産評価額の2分の1)とされている(最高裁民事局長通知(昭和31年12 月12日民事甲第412号)。)の関係もあって、事実上、主にこれに当たって きた(ハ号事件)。当時は、地方裁判所(地裁)も、それなりに、境界確 定の事件(単独、ワ号事件)が係属するほか、控訴審としても事件(合 議、レ号事件)があり、裁判官(長)も、豊富な経験を持ち、裁判所がし かるべき役割を果たしてきた。ところが、その後、不動産関係事件を簡裁 で処理しない方針が取られ(①)、簡裁で境界確定事件を担当する例は減 少し、地裁に事件が来るようになり(②)、同じく訴額の関係で、単独事 件に配てんされることになったものの、担当する裁判官の力量に差がある ため、判決のレベルも差があって(③)、結果的に登記所に迷惑をかける 例があったのではないかと心配している。その登記所は、戦後の司法改革 で、裁判所から独立した後、税制改正により、地祖法が廃止されたことも あって、昭和25年には、従来、税務署が保管していた土地台帳及び土地台 帳附属地図等が、登記所に移管され、昭和35年には、登記制度の一元化の
境界確定訴訟における
境界線 (筆界) の確定方法について
有 吉 一 郎
ため、土地台帳法等の廃止と不動産登記法の改正が行われ、表示の登記が できたことなどから、否応なく、境界の問題に関与することになり、内部 体制(表示登記部門の創設)を充実させ、大きな役割を担うようになっ た。現在は、平成17年3月に施行され、翌年1月から実施された筆界特定 制度(不動産登記法123条以下)が、紛争解決に大きな役割を果たしてお り(ただし、筆界特定は、行政処分ではないため、公定力などの効力がな く、これと異なった主張をすることは自由で、別途境界確定訴訟(筆界の 確定を求める訴え)で争うことも可能であり、その確定判決と筆界特定が 抵触すれば、筆界特定は、その限度で効力を失う(同法148条)。)、裁判所 に訴えられる事件の数は、感覚として少なくなっている。そのような状態 にあるが、境界に争いがある以上、それを公権的に解決できるのは、裁判 所しかない。筆者は、裁判所が、境界確定にしかるべき役割を果たした時 代に、裁判官(ただし、昭和54年から3年間は、広島法務局で訟務部付き 検事)として、同事件を処理した経験があり、自らの判決(ただし、手元 に残っている分は一部で、他は記憶による(④))を整理してみることで、
その実際を紹介したいと思い、この論稿をまとめた。
注① 昭和57年に、裁判所法24条1号、33条1項1号が改正され(同年法律第82 号)、不動産に関する事件が、簡裁と地裁の共同管轄となるとともに、簡裁 に、地裁への移送申立てがあれば、必ず移送することになった(旧民訴法31 条ノ3第2項)。
② 司法統計年報によれば、筆者が任官した昭和48年の全国での同事件の数
(「土地を目的とする訴訟」の内「土地境界」)は、簡裁450件、地裁265件(他 にレ号98件)で、上記改正後である昭和60年のそれは、簡裁276件、地裁549 件(他にレ号77件)、統計上、「土地境界」という細目がなくなる直前の平成
10年のそれは、簡裁92件、地裁761件(他にレ号事件32件)である。その後
は、司法統計年報に「土地境界」の細目がなくなったので、件数は不明であ る。これに対して、筆界特定の申請件数は、制度の開始(平成18年1月)か ら筆者が退官する直前の平成24年末までで、約1万8,199件(平成24年度の 民事法務行政の歩み(法曹時報65巻8号75頁))である。③ 別紙13事件では、原審は、土地台帳の地積(町反歩(坪)で表記)と土地
登記簿の地積(昭和41年4月の旧計量法の改正により、昭和42年から昭和47 年ころまでに、平方メートルの表記に書き換えられている。)の、単位が異 なるのを看過して、同一として面積比を論じ、独自の結論を出していた。
④ 裁判所では、判決は、もとは、手書き原稿をタイピストが浄書し、裁判官 が署名押印して完成させていたため、余部の作成が可能で、特に合議事件で は、各裁判官に写しを交付する慣行(単独事件は、数が多いので、事前の希 望を聞いて)があり、手元に写しが残ることになるが、裁判官が判決を自ら ワープロ(後にはパソコン)で作成するようになると、その扱いは、原則と してなくなり(合議事件では、写しが交付される例はあった。)、単独事件の 判決を保存したフロッピーも全ては保管していないし(保存したものも、
パソコンに移行してからは、フォーマットが違うので、読み出せなくなっ た。)、パソコンに移行してからは、情報流失防止のためフロッピーや
USB
メモリーでの保存を避けるようになったため、そのような現象が生じる。ま た、筆者自身、2度目の福岡高裁在勤中は、起案した判決をパソコンのハー ドディスクだけに保存しており、転出に際して、全て消去したので、公刊物 に掲載された分しかない。もちろん、各裁判所に出向いて、判決原本を閲覧 すれば、全てを特定することは可能であるが、膨大な手間がかかるので、不 可能である。また、控訴審判決では、原判決の引用ができるため、写しが残 っていても、原判決と対照しなければ、理解が困難な判決があり、そのよう な判決は除外せざるを得なかった。2 境界線(筆界)の確定方法
1 ある土地とある土地の境界線である、いわゆる筆界は、無限に続く土 地を、人為的に区画し、地番を付してそれを特定することにより生じ た、個々の土地相互間の境界(以下「筆界」という。)であり、地番で 特定された土地ごとに、1個の所有権の対象とされている。我が国で、
近代的な土地所有権が成立したのは、明治初年の地祖改正によるとされ ており、その際、土地所有者とその土地の筆界(範囲)が確定したこと になる。この筆界に争いがある場合、それを公権的に解決するのが、境 界確定訴訟であり、それは、公法上の土地と土地の筆界を確定するため の形式的形成訴訟と理解され、裁判所には、筆界を確定する義務があ
り、当事者の申立てに拘束されないし、請求棄却はできず、その判決に は、対世効があることになっている。ただ、地祖改正の際に、筆界を公 に確定するために当時行われた一筆調査や、それを集めて字や町村単位 で作製された図面(字限り図などで、これがその後、土地台帳附属地図 となり、税務官署に保管された後、登記所に移管され、法改正(廃止)
で法的根拠を失った後も、地図に準ずる図面(不動産登記法14条4項、
旧土地台帳附属地図)として登記所に備え置かれ、いわゆる「公図」と して、広く利用されていることは公知の事実である。以下「公図」とい う。)は、徴税目的のための資料であり、十分な費用と時間をかけた訳 でもなく、丈量の際の測量技術が劣るものもあるなど、その作製過程に 問題があって、必ずしも正確なものではなかったため、筆界に争いが生 じた場合の解決を困難にしている(⑤)。別紙事件の事件番号(訴え提 起の際に付番される)と判決言渡し時との間に永年月が経過している事 件(ちなみに、地裁では係属5年以上、簡裁では同3年以上を、「長期 未済事件」と言い、最高裁への報告事件とされている。)があるのも、
その影響である。
注⑤ 境界確定訴訟に関する資料としては、最高裁事務総局編「境界確定訴訟に 関する執務資料」(民事裁判資料125号)が、判例・裁判例のほか、昭和36年
~昭和54年に発表された著書・論説などを網羅しており、その後では、吉野 衛「土地の境界」(新不動産登記講座2,315頁、日本評論社、1998年)などが ある。公図に関しては、法務局関係の広島法務局「地図訂正の手引」(昭和
56年)
、新井克美「登記手続における公図の沿革と境界」(テイハン、昭和59 年)、同「公図と境界」(テイハン、平成17年)、藤原勇喜「公図の研究」(大 蔵省印刷局、昭和61年)、などがある。2 上記1の訴訟の性質からも明らかなように、争いがある筆界の確定 は、まず、真の筆界を探求することに始まる。次いで、それが認定で きない場合には、裁判所が、占有状態から合理的な自然的境界を定め る。それが困難であれば、係争地を等分に分割することになり、その結
果定めた境界が、土地の確定面積と一致しない場合は、公平になるよう 境界線を定める(ドイツ民法920条(上記民事裁判資料545頁以下に訳 文が掲載されている。)に規定された方法であり、大判昭和11.3.10民集
15.9.695は、これを敷衍する。)、とされているところである。
3 そこで、真の筆界をどう確定するかが問題となる。この場合に、注意 すべきは、①筆界創設当初からの土地の本番同士の筆界が争われた場合 と、②分筆や土地区画整理等によって新たに生じた筆界が争われた場合 とでは、その方法が異なることである。すなわち、前者では、地租改正 の当時の筆界の線がどこかを探求しなければならないのに対して、後者 は、登記官の分筆等によって生じた筆界の線がどこかを確定すれば足り るのである。
本番同士の筆界が争われた場合の判断方法については、一般的に、文 献(上記注⑤)で指摘されているように、上記のとおりその作製時の現 況(既にあった筆界)に基づいて公図が調製されているのであるから、
当時の現況が優先されることになる(仮に誤った作図がなされても、そ れで筆界が移動するはずはない。これに対して分筆等、区画設計に基づ いて現地区画が行われた場合には、図面が優先される。)。換言すれば、
この場合の判断は、既にあった筆界を復元することであり、①公図その 他の地図、②公簿面積との比較、③占有関係、④境界標識、⑤自然地 形、⑥林相、樹齢、⑦検証、⑧鑑定、⑨人証などを、総合してすること になる(上記藤原(改訂版)48頁)。その際、重視されるのは公図で、
これは、本来当時の現況を図化したものと考えられることから、それと 現在の現況(道路、水路、地番並び、地形など)とを比較して、仮に、
それがほぼ一致するのであれば、その公図の信用性(正確性)は高いと 考えられるので(ただ、公図の正確性は、上記測量技術の問題があっ て、その距離や方角、面積など定量的な問題はあまり参考にならず、地 形や地番並びなど定性的な問題は大いに参考になることが指摘されてい る(村松俊夫「境界確定の訴」20頁以下、昭和47年、有斐閣、賀集唱「公
図の効力」400頁(不動産登記講座Ⅱ、1977年、日本評論社)ことに留 意する必要がある。)、それを基準に、現地の状況を見定めて、具体的な 筆界を定めることになる。
3 具体的事件での筆界の確定手法
1 筆者の関与した判決をもとにして、その具体例を紹介したい。手元で 確認できた判決の内、本番同士の筆界が判断されたのが11件で、そのう ち6件が、上記真の筆界を確定した事件(全体の約半数で、この方法を 採れる事例も意外に多いことを物語っている。)で、5件が、その確定 を断念して、適宜の方法によった事件である。これに対して、分筆など で生じた筆界を確定した事件は、5件である。なお、境界確定に際し て、実務的には、当事者双方が争っている係争地の範囲(最悪でも当事 者の所有地内)に確定すべき筆界を納めることになっている(⑥)。こ れは、その判決に対世効があり、第三者の権利関係に影響すると困った 結果になりかねないので(訴訟に関与しないのに、不利益を被るおそれ がある。)、それを避ける工夫と考えられる(ただし、判決に、当事者の 申立て事項による制限を求める学説(中野ほか新民事訴訟法講義(第2 版補訂2版)429頁、2008年、有斐閣)などからは当然の取扱いとなる。)。
注⑥ 係争地を越えて境界線を定めた事例としては、最判昭和38.10.15(民集
17.9.1220。境界確定訴訟には、不利益変更禁止の原則(民訴法296条1項、
313条)は適用されないことを判示したもの)があるが、これも当事者の土
地の範囲内である。2 まず、本番を異にする土地同士で、真の筆界を確定した事件を紹介す る。別紙14事件は、一辺で隣接する長方形の土地(宅地、約1,300平方 メートルと1,400平方メートル)同士の筆界が争われた事件である。土 地の筆界を示す証拠として、改正検図帳(明治8年作成、地祖改正条
例(明治6年7月)よると考えられる。)、公図(明治20年の地図更正ノ 件による再測量によると考えられる。)、国土調査の地籍図を備え付けた 現在の地図(昭和41年、境界杭の打設なし)が、提出された事例である が、精度の点で最も高い現在の地図でも、当該筆界を定めるについて被 控訴人の同意があったかが争われたので、それを現地に復元することで 筆界を確定することができず(地籍図は、登記所に備え付けられ不動産 登記法14条の地図になるはずであり、地籍調査の際に隣地所有者間の 同意(承諾)(地籍調査作業規定準則(昭和32年10月24日総理府令第71 号)30条)がある場合には、筆界を定める私法上の効果はあろう。)、係 争地以外は筆界に争いがないことから、その部分の占有状況(建物、
ブロック塀、井戸や排水溝の位置等)、隣地との接続状況をもとに検討 し、被控訴人の主張線を、筆界とした原判決を維持し、控訴を棄却し た。別紙16事件は、道路に面して並立する古い建物同士の敷地(控訴人 土地約204平方メートル、被控訴人土地約260平方メートル)の筆界の争 いで、被控訴人(原告)が、他方の土地建物を前所有者から譲り受けた 控訴人(被告)は、越境して建物を増築するとともに被控訴人に建物の 減築を求め、筆界を侵害しているとして、控訴人との間で境界確定等を 求めた事例である。控訴人は、被控訴人の建物の外壁に沿った凹凸のあ る線を、被控訴人は、ほぼ直線(中間に屈折点がある)を、筆界と主張 した。双方の建物の増減築による変遷や工作物の位置、公図上の筆界が 直線であること、公簿面積との比較、控訴人の土地建物取得直後になさ れた前面道路(県道)の拡張工事の際に作成された丈量図にある当時の 両土地の間口と現地との比較などから、被控訴人の主張する筆界が合理 的であるとして、これと結論を同じくする原審の判断を維持した。その 判断に際して、もとは筆界に争いがなかった以上、控訴人の要求で切り 落とした被控訴人の建物の飾り庇とその先に出ている雨どいや屋根瓦の 線を地表に下ろした線までは、被控訴人の土地のはずであると判示し た。別紙19事件は、熊本市中を流れる旧坪井川の旧河川敷を払い下げた
土地とそれと接岸する土地の筆界が争われた事例で、地面を掘ったとこ ろ、もとの護岸の石積みが発見されたことと、その線を筆界とした場合 の地積と公簿面積とに不一致はあるが、払下げ地がもと無祖地(国有 地)で丈量が不正確であった可能性があることと、その土地は分筆が繰 り返された残地で、分筆の影響で誤差が拡大した可能性があることを指 摘して、当事者の一方(参加人、原告から土地を譲り受けた者、原告は 脱退)の主張する石積みの位置を基にした線を筆界と定めた。別紙20事 件は、隣り合う土地(約460平方メートルと約360平方メートルの宅地 で、一辺で直線に接している。)を近年取得した者同士が、地形上何ら 特徴のない土地の筆界を争った事例(うち1地点は争いがなく、他方の 地点の位置が争われた)で、その根拠として、原告は、公簿面積との比 較と隣接する土地との四方界(4筆の土地の接点)であることを、被告 は、現存するプレハブ小屋の位置を、主張した。これについては、公図 上の四方界との関係や公簿面積との比較(両土地とも縄縮み(公簿面積 より、実測面積が少ないこと、逆は縄延び)になるが、原告の主張線で あれば、その少ない割合が同じ程度になる)から原告の主張が合理的で あり、被告の主張するプレハブ小屋はその建築の経緯が不明で、筆界と の関係も分からないことを根拠に、原告の主張線を真の筆界と定めた。
この事件は、事件番号と判決言渡しが同じ年であることから明らかなよ うに、1年以内に終局できた。また、別紙2事件は、境界確定を直接求 めたのではないが、原告が代々占有していた現在の県道沿いの土地(地 目は、宅地、原野、山林で、3筆に分かれている)は自分の土地である として 、 その土地の周囲にブロック塀を築造して占有を開始した被告に 対し、原告が、その土地の所有権確認と築造したブロック塀の収去など を求めて、所有権確認訴訟等を提起した事例である。この事例では、現 地が道路工事などで大幅に変容しており、直ちに結論を出せる状況には なかったが、双方が所有権を主張する両土地が字を異にしており、公図 上その間に里道があることに着目し、既にその位置が分からなくなって
いるので、その里道が現地のどこにあるかを復元して、その当否を判断 することにした。その方法としては、双方の字の公図が一致しないので
(境となった里道の形状が異なる。これは、上記2の1のように公図が 字毎に作製されたことによる。)、現地の地形を考慮して(原告の土地は ほぼ山林で、里道は、その裾野に沿って湾曲して存在していたと考えら れた。)、原告の土地の字の公図が現地に合致すること、里道がその後直 線状に付け替えられ、拡幅されて現在の県道になっているという変遷、
また、原告の祖先が原告の土地を明治25年に取得しているという来歴、
原告の土地に隣接する土地との筆界が現地でどう認識されているか、を 総合して、原告主張の位置に、原告の土地が存在することを認定し、原 告の所有権を確認するなどした。なお、この事件の被告は、所在の分か らない土地を、前所有者を探し出して取得したという事情もあった。同 じく、別紙13事件も、所有権確認訴訟であるが、公図と国土調査の結果 で新たに調製された地図(新公図)とが大きく異なる事例で、係争地 が、一審原告の土地(宅地、約400平方メートル)か一審被告の土地(山 林、約5700平方メートル)かをめぐる親族間の争いである。筆界は、既 に存在し、それは公図や国土調査の結果による地図(新公図)がどう表 記するかでは動かないことを踏まえて、公図と、付近の道路や水路、各 土地の形や地番並びがほぼ一致していることから、国土調査の結果によ る地図(新公図)には、付近に数筆の一団の土地を所有していた一審原 告の亡父の作為が加わっている可能性があると考え、公図をもとにし て、一審被告の土地は、同被告の亡父が、一審原告の亡父から一審原告 の土地(山林)の一部を分筆贈与され、その後地目を宅地にしたという 経過、係争地付近の実測面積と公簿面積との比較、係争地付近の地形
(山すそが造成されて平地となり、そこに一審被告の土地建物がある。
係争地はその周りの斜面や平地より高い段差のある土地である。)や従 来の使用占有状況から、係争地は、一審原告の土地の一部であると判断 した。以上の事例では、双方の主張線のうち、どちらかを真の筆界と定
めている(その主張線内に土地が存在すると確認した分を含む)。判断 の方法として一番分かり易くはあるが、判決は手元にないものの、その ような事例ばかりではなく、いわば中間線を筆界と確定した事例もあっ たと記憶している。ただ、その場合は、当事者双方の主張線に合理性が ないことから、早々に筆界は不明であると判断して、裁判所が適宜の方 法で筆界を確定する方法を採用する方が手っ取り早いので、数が多くな いとすれば、そのことが影響しているのかも知れない。なお、記憶して いる事件では、次のような事例があった。段差がある上下の土地の境界 が争われた例では、いわゆるのり面は、一般に、上の土地を支えるもの として、上の土地の一部と考えられる(上の土地の範囲)ことに関し て、2度目の福岡高裁在勤中、原審(長崎地裁)が、のり面に高い石垣 が築かれていた事例で、石垣と下の土地が接する線を筆界としたのを、
石垣の根石(石垣の基礎石で、下の土地の地下に張り出している)の先 端の線であると改めたことがある。他人の土地に無断で工作物を設置す ることができないことは当然と考えられ、原審のような判断をするの は、問題があろう。また、同じく、境界標が埋設されていた事例で、そ のどこが境界かについて、その表記の意味(標の頭部の中心に「+」が あれば、中心が境界点であるが、「→」があれば、その→の指す境界標 の面が境界である。何もない場合で、その理解に対立がある場合には、
誰が立ち会い、誰が設置したかを確定して、合理的に判断することにな る。上記新井「公図と境界」318頁参照)を知らずに、「→」があるの に、安易に境界標の中心を境界と誤解した例があった。これらは、筆界 が一般的にどう定められているかの経験則が不足している事例である。
どこが筆界かについては、土地家屋調査士の調査測量実施要領17条の別 紙(六)「各種境界の参考基準(立ち会いの上で確認すること)」(上記 藤原(改定版)52頁以下)が、具体例を示して、一般的な場合の考え方 を説明しているので、必要な事例では、これを参考として活用すべきは 当然である。
3 次に、それを断念して、適宜の方法によった事件を紹介する。別紙1 事件は、相隣接する大きな土地(宅地、約1,400平方メートル)と小さ な土地(宅地、約270平方メートル)との筆界が争われた事例である。
両土地間の係争部分には、大きな土地側から小さな土地側にかけて階 段状に地面が下がり、40~50センチメートルの明確な段差と、15セン チメートルの段差が並行して存在して、原告は15センチメートルの段差 の線を、被告は40~50センチメートルの段差の線を筆界と主張した。
この件では、大きな土地の所有者(原告)側から、公図作製のもとにな ったと考えられる野取図が提出され、これがほぼ公図と一致し、また、
係争部分(段差の中間部分)を原告側が永年事実上支配していたという 事実があるが、実測してみると、原告主張線によれば原告の土地に54平 方メートルの縄延びがある半面、被告の土地に100平方メートルの縄縮 みがあった。そこで、原告の祖父が土地を取得した大正11年には、公図 の作製された明治22年当時と比較して、事実上筆界が動いていた可能性 があるとして、原告の主張線を筆界とは考えなかった。そこで、次善の 策をとることにし、一帯の土地は同じく丈量されて公図が作製されたは ずであり、両土地に上記縄の延び縮みの差が出ることは異常であるこ と(なお、両土地と被告土地に隣接する土地の3筆が、公道と水路の囲 まれた一団の土地になっており、その3筆の合計実測面積は、公簿面 積の合計にほぼ一致する事情がある。)、野取図の原告の土地の公道側 の間口が実測した現地の幅より狭いこと、原告の土地と被告の土地と の間に、上記の40~50センチメートルの明確な段差があることから、
むしろ、被告の主張する段差の位置が筆界であると確定した。現地の 占有状況を考えれば、若干乱暴ではあるが、結論としてはこれしかな いと考えたもので、控訴審でも維持された。別紙4事件は、被告のう ちの一人の亡父が所有していた土地(北側の鉄道用地と南側の道路に 挟まれた、もと2筆の宅地で、北側の土地は鉄道用地に、南側の土地 は道路に接して、南側の土地が少し東側にずれた形で、北側の土地に
鉤型に半分食い込んで、ほぼ南北に位置しており、南側の土地の北側 の土地に食い込んでいない南側半分には西側の隣接地にまたがって道 路に沿って古い大きな建物が存在する。また、南側の土地は、北東側 の一辺でさらに他の1筆の土地(これは北側の土地とも東側で接して おり、三方界が形成されている)と、南側半分の東側で他の1筆の土 地に接している。この両土地が、それぞれ分筆(北側の土地は、鉄道 用地を分筆したいわば残地で、さらに南北方向に2筆に、南側の土地 は、建物のある南側半分(北側の土地とは北西側の1点でしか接して いない)と建物のない北側半分(北側の土地と北側と西側で接してい る)に、さらに南側半分が、その上の建物の分割を伴いながら、南北方 向に3筆に分割)されて売却され、北側の土地の、南側の土地の北側 半分と接する部分と、南側の土地の南側半分の一部(3筆の中央の部 分)をそれぞれ買い受けた原告2名と、もとの所有者の相続人で南側 の土地の一部(2筆で、1筆は、北側の土地に接する北側半分の部分 で、原告らの土地と北西側と南側の2方向で接し、他の1筆は、南側半 分のうち東側の土地で、原告の一方の土地と西側で接している)を所 有している被告ら(被告も2名で、他の被告は、同氏で、配偶者であ ったと記憶するが、判決からは不明)とが筆界をめぐって争った事例 である。原告らは、公図を現地に復元したとして、それぞれの筆界を 主張し、被告らのうち北側の土地に接する南側の土地の北側半分を所 有する、相続人である被告は、もと亡父が同地上に建築した焼酎工場 跡(同部分の土地上にあったと主張)を示す段差の位置を、他の被告 は、分割されて、同被告名義で残っている建物の位置を根拠として、
それぞれ筆界を主張した。なお、付近の土地は、ほぼ公簿面積と実測 面積に差がなかった(原被告らの土地と西側の土地5筆の一団の土地 の公簿面積合計約1,880平方メートルに対し、同実測面積2,126平方メー トル)。北側の土地の一部と南側の土地の一部とは、本番同士が異なる 場合に、南側の土地の一部同士は、分筆による場合に当たり、同じ事件
で二つが問題にされた。まず、本番同士が争われた部分は、原告らが主 張の根拠とした公図の正確性には疑問があることはもとより、原被告ら の土地はいずれも分筆後の土地であるのに、原告らの主張によれば、原 告の一方の北側の土地の、南側の土地の北側半分と接する部分の実測面 積(約585平方メートル)が公簿面積(約268平方メートル)の2倍以上 になるのに対し、南側の土地の南側半分のうち東側を所有する他の被告 のそれは6割程度しかないことになる(公簿面積約178平方メートル、
実測面積約110平方メートル)ことから、問題があった。また、北側の 土地に接する南側の土地の北側半分を所有する相続人である被告の主張 は、確かに付近に段差はあるものの、分筆前の2筆の土地が、もと亡父 の所有であるので、工場を建築する際、土地の形状を変更した可能性が あるし、その主張する位置を筆界とすると、他の土地に極端な縄縮みが 出ることや、双方に接する東側の他人の土地を含めた上記の三方界の位 置が不自然であることから、これも採用できなかった。また、分筆によ る場合は、本来なら分筆の際の地積測量図など分筆の経緯を検討して結 論を出すべきところ、公図しか証拠がなく(南側の土地の分筆は、昭和 26年~27年にかけて3回行われた。北側の土地の残地については、時 期の説示はないが、同じころ、同様に行われたと思われる。土地台帳法 のころで、地積測量図を含む申請書類の保存期間は10年であり、廃棄さ れたと考えられる。登記の一元化後は、地積測量図は、永久保存される ことになった。)、それを利用するほかないが、その正確性は上記のとお りであるし、南側の土地の南側半分で原告の一方の土地と接する他の被 告の主張も、土地の分筆と建物の分割を一致させることは一般的には考 えられるが、その線では同被告の土地に縄延びが出ることや、南側の土 地の北側半分の土地や東側の他の1筆の土地との三方界の位置が不自然 であることから、いずれも採用できなかった。そこで、いずれも真の筆 界の確定はできないとして、独自に判断することにした。その方法は、
公図上、分筆前の本番の土地と隣接する他の土地との、争いのない三方
界(上記の南側の土地の北東側と、北側の土地の東側と、に接している 他の1筆の土地との筆界点)の位置などをもとに、その筆界の一端を確 定し、その後、公図に記載された分筆した土地の形状に合わせて公簿面 積に近い面積が確保できる線を引き、筆界を確定した。別紙6事件は、
祠のある山を隣地所有者が一部切り崩して造成したことで、筆界が不明 になったことから、その祠の土地を所有、管理していた地区の地縁団 体(自治区会)らが原告となって、造成した隣地所有者を被告として、
境界確定等を求めた事例である。双方が公図を現地に復元したという筆 界を主張した。また、被告は、一部の主張線については、当事者間で合 意した境界であるとも主張した。この事件では、現地の大半が造成され て原形を留めていないことから、真の筆界の復元は困難であるので、次 善の策として公図を合理的に現地に落として筆界を確定する方法を取る ことにして、造成されずに残っていた両端の場所の地形から、可能な範 囲で筆界となる地点を確定し、その間の造成によって地形が変わった部 分は公図の筆界の形状に合わせて筆界を定める方法を取り、原告ら主張 線が合理的であると判断した。また、当事者間に合意があったとの主張 は、合意の存在に争いがあったし、当事者の合意で筆界が変動するもの ではないとして採用しなかった。別紙17事件は、傾斜地(地目山林)を 所有する原告が、平坦地(地目山林)の一部を分筆して取得した市(被 告)との間で、境界確定等を求めた事例である。市は、市道の整備のた め、道路沿いの民有地を買収し、そこに排水路を新設している。この件 では、争いのある一方の筆界が三方界になっており、その地点について は、原告と他の当事者との間に確定判決があった(ただし、その訴訟に ついて、被告は全く関与していない。)。そのため、1地点は、それを尊 重するほかなかった。また、両土地付近は、被告の排水路新設工事で地 形が変わっていて、真の筆界を確定することは困難であった。そこで、
原告の主張線によれば、公簿面積(115平方メートル)に対し、実測面 積が約403平方メートルもある一方、被告が取得した土地は分筆して取
得したのに公簿面積より狭くなること、両土地付近は、被告の排水路新 設工事で地形が変わってはいるが、元のまま平坦地の状態を残している ところもあり、被告の土地と考えられること、公図の土地の形状や地番 並びが原告の主張線とは合致しないこと、からは、むしろ被告主張線 が、真の筆界に近いと判断できたので、他の1地点は、被告の主張する 地点として、それを結んだ線に筆界を確定した。別紙18事件は、2筆の 被告の土地に挟まれたいわゆる旗竿土地の通路部分の争いで、通路部分 を持つ原告が、沿道の両側の土地が通路を侵害しているとして、その所 有者の被告に対して、境界確定を求めた事例である。付近は、昔からの 宅地で、里道(現市道)や土地の配置状況は、公図とほぼ一致していた が、明確な地形上の特徴はない場所であり、双方は、筆界として異なる 幅員の線を主張し、被告は、現在の生垣や通路わきに並べた石に基づく 現況の線を筆界と主張した。この場合、精度に問題のある公図をもとに 現地に筆界を復元することは非現実的であるので、次善の策として、ま ず、通路部分と里道(現市道)との幅員が公図上同じであることに着 目し、その幅員(2.3~2.6メートル)から、控えめに2.3メートルを通 路の幅員と認定し(通路部分の現況はこれより狭い)、通路部分の片側 は、筆界に争いが少なく、その筆界の一端はザクロの木であることに争 いがなかったので、その中心を筆界と定め(そうしないと木の成長によ って筆界がどこか分からなくなる)、その延長に当たっては、上記幅員 を確保すると被告への影響が大きいので、なるだけ影響の少ない原告の 主張線を採用し、それから、2.3メートル幅で反対側の筆界を確定した。
この事件は控訴されたが、控訴審でほぼ原判決にそう和解ができた。以 上の事例では、筆界が不明で、公簿面積と実測面積とが食い違う場合に は、隣接地である以上、同じように縄の延び縮みがあるはずであること を前提に、当事者間にバランスがとれるようにするとともに、現況の変 更の当事者に与える影響が少ないように考えて、それに合わせて筆界を 定める方法を採用している。なお。裁判官としては、一番簡単な境界確
定の方法として、まず、真の筆界が不明であると認め、裁判所が、新た な筆界を形成すべく、合理的な適宜の筆界を設定することを採用する方 に傾きやすいが、安易な判断にならないように自戒すべきである。ま た、福岡地裁在勤中の山林境界確定控訴事件で、筆界が不明な場合の境 界線の確定方法として、当時の当事者がどう考えて筆界を定めたか(動 かない、分かり易い筆界を指向したはずである)を忖度して、その合理 的な確定をする、という判断手法を採用した原審の判決があって、瞳目 した記憶がある。
4 分筆などで生じた筆界を確定した事件を紹介する。まず、この場合 に、何を基準に判断するかについて、別紙24事件がある。これは、原 告が、被告(町)が道路拡張のため買収して分筆した原告の土地(一 部)について、その部分を分筆したことは争わないが、もともとの道路 の位置が10センチメートルずれていたので、分筆した土地の筆界は、10 センチメートルだけ間違っていると主張した事例である。分筆による筆 界は、申請を受けた登記官がする分筆によって生じるのであるから、確 定すべき筆界は、登記官がどこを分筆したかであって、その分筆が誤っ ているということは境界確定で争うべき事柄ではない(⑥)。この判断 は、控訴審でも維持された。分筆したことによって生じた筆界の具体的 事例として、別紙5事件は、昭和30年の土地区画整理事業による換地処 分で創設された土地を、その後分筆してできた土地同士の筆界の争いの 事例である。原告が建物を増築する際、公簿面積が134.40平方メートル であるのに、実測は122.85平方メートルしかないことに気付いたことか ら、隣地所有者を被告として、境界確定を求めた。この場合は、登記官 のした分筆による土地の分割線を探求ことが解決方法となるが、現実に は、登記所に分筆申請の際の地積測量図が存在しなかったために、他の 方法で推認するほかなかった。各土地の占有状況では、ブロック塀や境 界標はあるものの、上記の面積の差を合理的に説明できないことから、
本件係争地が、換地処分でできた土地で、分筆前の本番の土地の公簿面
積(599.78平方メートル)と実測面積(596.34平方メートル)とがほぼ 一致すること、原告の土地だけが狭いのは異常であること、現地が土地 区画整理地と区域外の土地の接する土地で、公図に、作図上歪みがでて いる可能性があることなどから、むしろ、地積を基準にこれを定めるべ きであるとして、ほぼ公簿面積が確保できる線を筆界とした。別紙9事 件は、旧日本国有鉄道(国鉄)の駅付近の土地の分筆による払下げの際 の筆界が争われた事例である。国鉄が、昭和42年に、駅付近の土地を不 法占拠している住民にその土地を払い下げることにし、駅構内と区画す るために設置していた枕木の柵までを、一審原告らに払い下げた。その 分筆手続が遅れている間に、住民の希望を受けて、国鉄が、昭和46年 に、柵の駅側の土地(もと貯炭場)を分筆して町に譲渡し、町が、昭和 48年にその土地をさらに分筆(3分割、一審被告の取得した土地は分筆 の本番で、測量なし)して、入札で一審被告ほかに譲渡した。その後、
一審原告らへの分筆手続も昭和50年に完了した。一審被告は、昭和52年 に、その土地に有料駐車場を造成する際、筆界は、柵の外側(一審原告 らの土地側)にある石垣の線であると主張して、そこにフェンスを築造 したので、一審原告らと争いになった。この件では、本来最も役に立つ はずの分筆申請の際の地積測量図の精度が悪くて判断に使えず、分筆 が、枕木柵の線でなされたと判断して、その位置を認定した上、原判決 を変更し、一審原告ら勝訴の判決をした。この判決は、上告されたが、
上告審で確定した。後日談として、現地付近は、国鉄の分割民営化に伴 う影響などで大きく変化し、当時の基点が失われたので、紛争が再燃し たようである。判決の添付図面が現地復元性のある測量図でなかったこ とに原因があるが、今後に反省を残した。別紙8事件は、換地処分でで きた土地同士の筆界の争いである。控訴人は、現実の占有関係を基準に すべきである(控訴人の建物は、1階部分より、2階部分以上が被控訴 人の土地側にせり出すように改築されていた。)と主張したが、換地の 際の図面によるのは当然として、控訴人の控訴を棄却した。別紙12事件
は、旧耕地整理法による土地の交換分合が行われた土地の筆界の争いの 事例である。被控訴人(原告)は、もとからの地主の相続人で、新たに 隣地を買い受けた控訴人(被告)との間で、両土地の境目にあって、道 路に面しない後背地に住む他人が通路として利用している土地の所有権 確認(予備的に境界確定)が求められた。係争地は、被控訴人の土地を 借り受けた石炭採掘会社が、自己所有地であった控訴人所有地と一体と して土地を利用したため、土地を返還した際は、筆界が全く分からなく なっていた。本来耕地整理が行われれば、整理確定図が作成されて、そ れが登記所に備え付けられるはずであるが、被控訴人の土地(桑畑)以 外の付近の土地は山林原野(地目は雑種地)であったため、その部分の 図面の精度が落ちた上(全体的に縄縮みもある)、鉱害復旧事業で付近 一帯の土地の形状が変更されたりもしていたため、公図をもとに筆界を 確定することはできなかった。そこで、係争部分の土地を、双方の公簿 面積に合うように分割することを念頭に、任意の1地点を定めるととも に、他方の地点は、他の土地との三方界になっていたので、それについ ての当事者の認識を尊重して、それを結ぶ線を筆界と定める方法を取 り、被控訴人の所有権確認を認容していた原判決を取り消し、主位的請 求を棄却するとともに、予備的請求である境界確定をした。これらの事 例でも、本来拠りどころとなる分筆申請の際の地積測量図などがなかっ たり、精度が十分ではないことから、結果的に、筆界が確定できず、裁 判所が新たに筆界を定めるに近い事例が目につくが、判断に当たって は、分筆等で新たにできた土地であるから、公簿面積が実測面積と相応 することが重視されるべきである(上記藤原(改訂版)162頁)。
注⑥ 地図を訂正する方法としては、地図の訂正(不動産登記規則16条)がある が、本件のような場合は対象とならない。登記官の処分に対する審査請求
(不動産登記法156条)や行政訴訟が考えられようが、分筆に処分性がある か、公図の訂正が対象になるかは問題がある(小磯武男「地図(公図)の訂 正についての職権発動の請求、訂正請求の抗告訴訟と隣地所有者等利害関係
人に対する承諾請求」民事弁護と裁判実務1不動産登記607頁、1996年、ぎ ょうせい、拙著「登記の過誤・地図の過誤についての抗告訴訟と国家賠償」
同書669頁)。そうなると、町との間で土地所有権確認訴訟をするしかなくな る。
5 なお、その他として、別紙11事件は、当事者適格が問題になった事例 である。控訴人の数筆の土地と被控訴人の2筆の土地との筆界が争わ れ、控訴人の一団の土地と被控訴人の土地とが隣接していることは争い がないことになっていたが、その自白には拘束力がないとして、証拠に よれば、控訴人の土地のうち1筆は、被控訴人の土地と隣接していない ことから、その部分の原判決を取り消し、訴えを却下した(⑦)。境界 確定訴訟では、両当事者が相隣地の所有者であることは訴訟要件である 当事者適格を基礎付ける事実である以上、当然であるが、上記のような 事例では、つい見落とすことがあるので、注意を要する。別紙3事件 は、被告の所有建物が、原告の土地上にあるとして、建物収去土地明渡 等のほか境界確定が求められた事例で、被告は訴えられた後、新たに被 告の土地を取得して、建物は被告の土地の上にあると争った。係争地付 近は内陸であるが、被告の取得した土地は、公有水面(海)の無願埋立 てによると考えられる新開地で、前所有者は存在すら知らなかった土地 であるのに、公図上、それが内陸の原告の土地に隣接して存在するよう な記載がなされている一方、現在登記所に備え付けられている公図はさ らに訂正がなされているが、その理由が不明である(登記所の回答)な ど、不可解な事実があり、公図の記載に混乱があった。そこで、土地の 沿革、付近の土地の地形や利用状況、建築された建物の来歴などから、
被告の建物の建っている土地は、原告の土地と認めたが、原告の土地と 被告の土地とが隣接していると認めるに足りないとして、境界確定の訴 えは却下した。別紙21事件は、隣接する土地の範囲(筆界)について、
当事者間に、昭和31年に成立した土地所有権を確認する調停調書がある ものの、その原本がなく、また、一方がその添付図面であると主張する
図面で、その合意内容が現地で特定できるか、などが争われた事例であ る。調停調書の保存期間は、30年であるので、このようなことが起き る。被控訴人(原告)が保管していたその写しが、調停調書の添付図面 の写しであることを認定し、それを、その内容に従って現地に当ては め、その所有地の範囲が特定できたので、結論を同じくする原審を維持 し、控訴を棄却した。別紙7事件は、もと、土地とその土地上に3棟の 建物を所有していた者が、土地建物を分割して売り渡したところ、その うちの建物1棟を転買いした者(控訴人(原告))が、その敷地も取得 したはずだとして、自分の取得した建物の登記簿に所在地番として記載 されている土地を含む土地建物を転買いした者(被控訴人(被告))に 対し、当該土地の所有権移転登記を求めた事例である。その敷地が、何 番の土地に属するか(建物の所在地番か)などが、争われた。控訴人の 建物のある土地と被控訴人の占有使用している土地とは別の土地で、控 訴人は隣地の所有者に地代を支払っていたことから、控訴人の建物は、
被控訴人の所有する建物の所在地番の土地とは別の土地に建築されてい るとして、同旨の原審を維持し、控訴を棄却した。別紙10事件は、戦時 中、旧海軍が軍需工場の工員住宅を建築するために付近一帯の土地を賃 借して、建物を建築し、戦後、その建物は地主に優先的に払い下げられ たが、払下げを受けた建物が何番の土地に建っているかをめぐって土地 所有権確認等として争われた事例である。一帯は建物建築のために造成 され、地形上の高低差はなくなったものの、公図上の水路がまだ残って いたことから、その位置をもとに係争地の所在地番を推認し、被控訴人 の請求を認容していた原判決を取り消し、請求を棄却した。別紙15事件 は、所有権の範囲をめぐる訴訟で、どこまでが控訴人(原告)の土地か が争われた事例である。控訴人は、石垣の上に建築されたブロック塀の 外側が筆界であると主張するだけで、なぜそこが筆界か合理的な説明を しないし、控訴人と他の隣地との筆界が争われた際、その相手方と合意 した筆界の一端が、被控訴人(被告)との三方界に当たるところ、それ
とも合致しないという状態で、係争地は控訴人の土地とは到底認定でき なかったので、同旨の原判決を維持し、控訴を棄却した。別紙22事件 は、直接には、土地売買契約において対象となる土地の特定方法に関す る事例であるが、その原因は、山林を造成して宅地分譲した開発業者に よる分筆申請に過誤があり、いわば土地が二重に分筆されたことにあ る。控訴人(原告)が、現地で場所を特定して取得した土地は、売買契 約で対象とされた地番の土地ではなかったことから、前訴で、その土地 は、他の所有者の土地とされた。控訴人は、前訴の係属中に、それなら ば自分の土地は、被控訴人(被告)の土地の位置にあるとして、その土 地の所有権確認を求めた。原審は、その主張する土地の一部(前訴の対 象とされ、敗訴判決後、控訴人が前訴の原告から和解で取得した土地)
は、控訴人の土地であるが、その土地は、被控訴人が、時効取得し、控 訴人は背信的悪意者に当たるので、被控訴人に対抗できないと判断した のを、控訴人は、時効完成後に、その土地を和解で取得しており、控訴 人も被害者で、背信的悪意者には当たらないと判断して、原判決を一部 変更し、控訴人の請求を一部認容した。なお、控訴人は、別訴で、登記 官の分筆手続に過誤があるとして、国に対して国家賠償を請求したが、
棄却され、確定している。別紙23事件は、山林の土地について、その土 地の所有権をめぐって確認訴訟が提起され、原審は、原告の立証が足り ないとして請求を棄却したが、被告の主張にそう証拠もほとんどない事 例である。このような実質的に土地の境界争いが所有権確認訴訟の形を 取って争われた場合には、双方の主張のどちらが、証拠の全体に、より 合致し、合理的で説得力があるかという観点から結論を出すべきである として、むしろ、原告(控訴人)の主張を採用して、原判決を変更した。
注⑦ 相隣しない土地には筆界がないので、その確定ができないのは当然であ る。相隣関係について自白を認める最判昭和31.2.7(民集10.2.38)があるが、
これは、当事者の一方である土地の所有者が、訴訟中にその土地を他に譲渡
していたものの、原審口頭弁論終結まで、当事者はその事実を主張せず、相 隣関係に争いがなかったという事例で、原判決の有効性が争われたことに対 してした判断であって、訴訟要件を構成する事項にも公益的意義に軽重があ り、このような場合には取り消すまではないというに過ぎない。ただ、その 判決には本来の効力はないであろう。(大場茂行・同事件最高裁判例解説6 頁、昭和36年、法曹会)
4 審理上の注意点と筆界確定の方法、証明の程度
1 審理に当たっては、当事者に双方の主張線を1枚の実測図(現地復元 可能な)上に記載した図面を作成させる必要があることは、実務の常識 である。別紙4事件では、筆者が担当する前に、それぞれが別の実測図 を提出し、同一地点でありながら、測量誤差によりその位置(距離)が 微妙に異なったので、判決する際に、それを確定するため検証(測量、
もちろん土地家屋調査士の補助を得た。)をする必要があったが、この ような無駄を防止できるし、当事者の争点の理解にも役立つ。また、そ の筆界が、他の土地との三方界、四方界になっている場合は、その土 地の所有者に訴訟がなされていることを知らせて(必要ならば訴訟告 知)、その関与を求めることが、実体的真実を極めるためにも有用であ る(⑧)。別紙17事件では、それをしなかったことで、利害関係人の関 与なく、別件訴訟で、隣接地についての境界確定訴訟で裁判所が定めた 境界線(三方界)が確定していたため、その判決の対世効が後訴裁判所 の判断を拘束すると考えたことから、不自然な位置に土地の筆界を定め ざるを得なかった(そうしないと、登記所も地図の訂正ができないであ ろう。)。さらに、真の筆界の確定に最も役立つ公図の信用性(現地との 整合性)の判断のためには、公図と大縮尺の地図や航空写真(極東米軍 のころから現在まで撮影されているので、歴年の変化も分かる)との対 比が有用である。別紙13事件や同2事件では、これが特に役立った。な お、公図は、昔は和紙に墨で細線を入れて作製されていたが、劣化する
ため、マイラー(ポリエステル・フィルム)化されているものの、もと の公図とマイラーとは完全には一致しない(合理的に修正されている)
ので、疑問があれば、閉鎖されたもとの和紙で作製された公図を参照す る必要がある。地図となった国土調査の地籍図、土地改良や土地区画整 理による所在図などについても、本来の筆界を正確に表しているか疑問 がある場合があり(別紙13事件は作為が、同14事件では当事者の同意
(承諾)の有無が、疑われた。)、盲信はできない。審理に当たっては、
公図の成り立ちやその後の制度の変遷についての基礎知識が必要であ り、それを踏まえて、どのような資料(例えば、本番同士の筆界では、
公図のほか、マイラー化される前の公図、航空写真、野取図、山林につ いては、民有林森林計画基本図、森林調査簿など。分筆による筆界で は、申請の際の地積測量図)があるはずであるとか、どのような立証が 有用かを示唆して、当事者にそれにそう立証活動を促し、証拠を集める ことが肝要である。
注⑧ 地積の更正をする場合の隣地所有者の承諾に当たっては、1点で接する土 地の所有者も対象になると解釈されている(上記藤原(改訂版)211頁)。公 図の整合性と正確性を担保するためには当然のことと考える。これに対し、
訴訟になっていない1点で接する三方界のもう一人の所有者について、その 所有者との境界線を定めるものではないので、被告としなければならない 必要的共同訴訟ではないとする判例がある(大判大正3.12.24・民録20.号外
1173。なお、上記村松「境界確定の訴」78頁以下は、改説の上これを支持
する。)。確かに、三方界の争いでは、自分の土地と関係がない場合がある が(他の2筆の土地が、自分の土地の筆界のどこで接しているかが争われる 例)、その1点の位置によっては、自分の考えている筆界より、自己に不利 な位置に三方界がある結果になることもあり得るし、公図の整合性、正確性 を担保するためにも、疑問なしとしない。なお、筆者は、福岡地裁小倉支部 在勤中に、公図上、当事者双方の土地の中に別の土地(水道用地、市有地)がある土地同士の境界確定事件を担当したが、その土地が存在しないことは 当事者間で争いがなかった(原告代理人は北九州市に確認したとも説明して いた。)ものの、北九州市に訴訟告知をしてもらった経験がある。もちろん
北九州市は参加しなかった。
2 筆界の確定の一般的方法としては、文献(上記注⑤)にもあるとお り、まず、判断の基本となる公図の正確性の吟味が必要である。これ が正確であれば、それを具体的に現地にどう当てはめるかを考えれば よい。仮に、正確でないのであれば、その原因を推理して、公図の利用 できる範囲(地番並び、里道・水路など)を踏まえて、解決のための別 の方法を考えることになるが、この場合には、真の筆界を確定すること は不可能であろうから、適宜の方法を採用することになる。次に、その 公図が正確と判断される場合でも、その沿革上、それで筆界が直ちに確 定できるような現地復元性はないので、公図を解釈して、現地に当ては めて、実際の筆界を確定することになる。この際は、公簿面積との比較
(ただし、宅地や農地など、正確に丈量されたであろう土地が対象であ る。この場合、付近は、同じ方法で測量されていると考えられるので、
当事者の一方に極端な縄延びがあり、他方に極端な縄縮みがあることは 異常である。山林などは、もともとの丈量に問題があるので、その方法 は利用できない場合が多い。また、分筆してできた土地は、地積測量を して分筆するので、大きな縄の延び縮みがあるのは異常である。なお、
分筆申請の方法も、かつては、分筆する土地だけを測量すればよかった から、残地にそのしわ寄せが来る可能性が高かったので、いつの分筆か にも注意する必要がある。)や、地形上の特徴(尾根、沢、段差など、
容易には変化しないもの)、境界石(標)や境界木、石垣など筆界を示 す物証の存在、これまでの土地の占有使用状況の把握などを通じて、筆 界が成立したころはどうだったかを推認して、合理的に筆界を確定する ことになる。その際、隣地との関係(地番並び、特に多方界との関係)
も重要な検討要素である。その事件への当てはめと解決方法について は、上記3の2から4までのとおりで、事件ごとに、下記3のような、
その事件の決め手となる事実をもとに、色々な手法を採用して、係争地