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ウェルビーイングの向上、社会科学統合の可能性

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Academic year: 2021

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ウェルビーイングの向上、社会科学統合の可能性

著者 岡部 光明

URL http://hdl.handle.net/10723/00003641

(2)

。巻申し,計

ウェルビーイングの向上,社会科学統合の可能性

岡部 光明

(慶應義塾大学名誉教授)

サービスを研究する場合,二つの行き方がある.一つは,サービスの無形性,対人性,貯蔵不可能性などに着目し, サービスを財と対比しつつその異同を経済学ないし産業論の視点から理解を深める研究だ もう一つは,人間社会に おけるサービス現象の普遍性に着目するとともに,サービスはその作り手と受け手による価値共創(co‑creation)のプ ロセスだと捉える研究である.そこでは「財はサービス提供のための媒介物」とされ,従来の財とサービスの位置づ

けを逆転させる発想(service‑dominant logic)が基礎に置かれている.

後者の視点に立つ研究は,国内外で最近10年余急速に活発化し,サービスや交換取引に新しい解釈を与えるととも に,サービスの改革や生産性上昇に結実している事例も少なくない.例えば,患者に医療サービスを提供している医 師は,患者との間でサービスの売買をしていると理角神 るよりも,患者と対話する中で両者がより良い価値を共創し ていると捉える方が現実的かつ生産的である.こうした事例を多領域に拡げ そして蓄積することが可能かつ適切な

方向だ特に,運営面での対応可能性を重視する社会改革指向的サービス研究(trmsformadveserviceresearch)は,こ の流れの中で規範性を重視する一つの注目すべきサブ領域だと思う.

上記のサービスを価値共創プロセスと捉える研究については二つ留意しておくべき点があるのではないか.第一に, 研究目的は,通常,サービスのイノベーションや生産性ないし価値の向上とされていることだ これらの重要性は否 定できないが,人間のウェルビーイング(善き生,アリストテレス流にいえばェウダイモニア) *1こそ究極の目的と 考えるならばそれらをウェルビーイングと等値することはできず,あくまで中間目標の一つにとどまる.この点, 本号でウェルビーイングとの関連を直接取り上げるのは,たい‑ん時宜を得ている.留意すべき第二の点は,価値「共 創」において,両サイドによる協力が無条件に前提(公理扱い)とされていることである.なぜ必ず共創に至るのか, それ以外の事態はなぜ生じないのかなどの議論は封印されている.またこのサービス学の視点は,社会の根幹をなす 市場機能とどのように共存しうるのか,ほとんど言及がない.

これら二つの点(目的としてのイノベーション,公理としての共創)がこのアプローチの特徴となっているのは, このサービス学が経営学および工学の発想を基礎として生まれたことによる.換計れば,ここでは,善き生という 根本的な目標を扱う本来的な公共政策論の発想や,人間の行動動機を重視する経済学的論理がともに欠落している.

それらをどう組み入れるか.これが大きな課題だと筆者は考える.

その対応は容易でないが,例えば 社会経済システムを理解する枠組みとして,従来の二部門(市場・功荷)モデ ルによるのではなく,サービス学が親和性を持つ利他性や相互性を重視する第三の部門(コミュニティ, NPO,ソ ーシャルビジネス等)を新たに導入し,社会を三部門(市場・政府・コミュニティ)モデルで理解するのが一つの方 向ではなかろうめ,*1.社会システムをこのように理解すれば,社会の課題をより巧妙に解決でき,社会厚生を高めう ることが理論的に示せる*2.新しいサービス学は,このように既存の社会科学統合の礎石を提供できる可能性がある.

ただ,それを進めるには,このサービス学に基づく研究を経済学会のほか,心理学,文化人類学などの関連学会にお いて当学会会員が積極的に発表するという他流試合に挑戦してゆく必要があろう.

*1岡部光明¢017a).人間性と経済学一社会科学の新しいパラダイムをめざして.日本評論社, 4章3節, 6章

〜8章, lo葺.また,最近刊行されたRRajan (2019) TheThindPillar,PenguinPressも参照.

*2 岡部光明(2017b).主流派経済学の「失敗」とその対応.明治学院大学,国際学研究,第51号, 35‑37, http:/mdl.handle.nedlO723/3244, last accessed on Feb 19.

VoL6 NO工 2019/4

参照

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